インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
とりあえずどうぞ。
亡国起業の襲撃から二週間後。
ようやく学園の空気も落ち着き始めた。
襲撃が起きた当初はかなりの混乱があったが、ものの三十分程で事態が解決されたため数日もすれば学園内は落ち着いていた。
問題となったのは学園の外だ。
特に日本のマスメディアはこぞってこの事件のことを報道する事………にはならなかった。
それよりも問題になったのは学園の外で起きた町での暴動未遂事件と、所属不明のISが二機日本上空を飛び立った事の方だ。
だがその2つの事件もIS学園への襲撃事件も二週間でほとんど報道されなくなり、今ではそろそろ紅葉のシーズンだというニュースが世間を賑わせていた。
……いくらなんでもこれは何かかしらの圧力がかかったんじゃ無いか?
まぁ、どこの誰が圧力をかけたかはわからないし本当にかかったのかは定かでは無い。
でもIS学園への問題責任みたいな世論が起こらなかった事は正直助かっている。
IS学園が受けた被害は実はそれほど大きくは無い。
建物は何箇所か破壊されたが、後数日もすれば元どおりだろう。
けが人の方も一番ひどいのはオータムに嬲られた先生だがそれもほとんど回復しているらしい。
ちなみに一夏、箒、鈴は事件から一週間後には退院、しかもほとんど検査入院みたいなものだったらしい。
精神的に追い詰められていたセシリアも怪我は無いため自室休養しているがシャルロット曰く見た感じでは元どおりとまではいかないものの立ち直ってはいるらしい。
最後に俺についてだが……現在生徒会室で生徒会メンバープラス千冬さんと情報の共有中である。
と言っても俺に出せる情報などたかが知れているのだが。
精々篠ノ之束の新型?ステルス機と俺への態度の軟化。
後はあんちゃんだかといった篠ノ之束の部下と思われる子ぐらいだ。
一方我らが長、楯無からは今回の事件に対しての各国の反応についてだ。
結論から言うと、ほぼ反応無しである。
……いくらなんでもそれは無いと思うが、実際そうなっているらしい。
一応亡国起業に対しての批難の声は高まっているらしいが声をぶつける相手の姿が見えないのだ。
反応がない相手に対して常に声を上げ続けるのは難しく、かの組織は何処の国でも常に警戒されている。
まあ、要は何処の国も『また彼奴らか』と言った感じらしい。
IS学園への反応も悪くない、むしろ工作員を何名か確保しているので良いぐらいと言っているぐらいで、後は精々オータムを学園内に入れた事はいくらか問題になっているくらいだろう。
どうやって警備の目を潜り抜けてIS学園に侵入したかの経路がわかっていないため、現在全ての出入り口での警備が凄まじく強化されている。
一通り情報を出し合った後、楯無は考えをまとめたのか話し始めた。
「……見えないISにわからない侵入経路……繋がってたりしないかしら」
「そのISのステルス性能がどれ程のものかは、わからないですが篠ノ之束が亡国起業と繋がってると考えれば、無い話じゃないですね」
「……うーん、ちょっとしっくりこないですね」
そう虚も同意する。
確かにそう考える事も出来るが近くで戦ったことが唯一ある俺は違和感を口にした。
「確かに姿形は見えないですが気配ははっきりわかりましたよ?」
「ソー……普通の人は気配だけで察知したりできないと思うよ?仮に気配がわかったとしても何かしてこなければ気のせいで済ませる人の方が多いだろーし」
「そうか?……でも、なーんかしっくりこないんだよなぁ」
本音の言葉を聞いて一応は納得するがやはりしっくりこない。
筋も通っているしできない事じゃ無いとも思う。
だがそれでも尚しっくりこないのだ。
俺と同じなのか千冬さんも何処か納得がいかないらしく難しい顔で目を閉じている。
そんな千冬さんに楯無も気がついたらしく話をふった。
「織斑先生はどの様にお考えですか?」
「更識の意見に反論はないし筋も通っている……が、感覚でいえば私も奏と同じく腑に落ちないところがある」
そう言いながら千冬さんはゆっくりと目を開け言葉を続けた。
「彼奴は自分を中心にして周りを気にせずに物事を進める。ゆえに彼奴が何故、亡国起業の手伝いなどしたのかがわからん」
「協力関係だから手伝った可能性は?」
「ほぼ無いに等しい。彼奴がタダで他人の手伝いをするなどあり得ん話だ」
「……何か目的があったと?」
楯無の言葉にゆっくりと千冬さんは頷く。
しかし目的かぁ……
あの天災を動かす理由なんて織斑姉弟か箒くらいしか思い浮かばないぞ?
俺以外の人も思い浮かばないらしく全員考え込んでいる。
「おじょーさまぁ。学園内で何か盗られた物って無いんですかぁ」
「何もないわね。データならわから無いけど物が無くなったっていうのは確認して無いわ」
「データだったとしても篠ノ之博士なら侵入しなくとも奪い盗ることも可能でしょうし……何かの資材、もしくは武器との交換は?」
「彼奴なら大半の物なら自分で作った方が早いからそれも無いだろう」
そう言いながら全員で考え込む。
篠ノ之束の欲しいモノ。
それも自分ではどうやっても手に入らないモノか……ひとつだけ思い浮かぶが。
「ソーはどう思う?」
それを察されたか、それともただタイミングが良かったかはわからないが本音がこちらに声をかけてきた。
言っても良いものだろうか……
「……思い浮かぶものが無いわけじゃないんですけど」
「何?それ」
「現に彼女はそれを欲していました……」
「歯切れが悪いですね?どうしました?」
「いや、でもこれはないだろうって……」
「いいから言え。判断はこちらでする」
これはどんな時でも彼女が求めているものっていうのも間違いない。
だが同時にこれは無いっていうのも間違いないのだ。
周りを見渡す。
全員俺の言葉を待っているな……そんなに期待しないでください……
ため息をつき観念して答える言葉を吐き出す。
「……学園祭での箒の写真」
「……」
「……」
「……えっ〜と…」
「……確かにステルス機ならばれずに撮影できますね」
全員の反応が痛い。
ジト目の楯無、凍ってしまいそうな目でこちらを見る千冬さん、言葉に詰まって引きつった笑いの本音。
特になんとか同意してくれた虚の対応が嬉しくもすごく効く。
「そんな目で見ないでくださいよ!?現に篠ノ之博士は喜んでたんですよ!?」
「……もう既に渡してたのか」
「……勝手に写真渡したら怒られない?」
さらに千冬さんの瞳から光が消える。
本音にも本気で心配されてる。
これはマズイ。
誰か……誰か味方を!!
「楯無さん!!同じく妹に嫌わ……いやなんでも無いっす」
「ちょっと!?風音君!?私たちは別に嫌い合ってる訳じゃないのよ!?ただすれ違っているだけで!!」
味方にする相手は選ばねば。
別に『この間はよくも嘘泣きで騙してくれたな』とか『あ、この人にこの話題は面倒くさくなりそうだな』とか『とりあえず楯無をオチにしておこう』とかは一切思っちゃいない。うん、多分、きっと。
「まあ、お嬢様の事はさておき」
「置いとかないでよ!!」
「篠ノ之博士の狙いが博士のご家族の情報というのはあり得ない話ではないかと」
虚が無理矢理進行してくれたおかげで話が進む。
楯無は納得はいっていないようだがとりあえず話を進めるつもりらしい。
ただ俺はすごい睨まれてるが。
虚さんの言い分ももっともだ。
現在篠ノ之束の家族のうち所在がしっかりと判明しているのは箒だけだ。
束と箒のとっての父親である柳韻さんとまだ会ったことのない母親。
両名ともにどこにいるのかははっきりとはわからないのだ。
「千冬さん。箒のご両親の居場所ってどうなってるんですか?」
「……お二人の扱いは日本政府の領分だ。IS学園の教師程度ではわからん」
「更識の方でも完全には掴みきれてないのよね。国内にいるっていうのは確認してるわ」
逆にいえば裏の組織の楯無ですら完全には把握できていないと……
家族がどこにいるか誰もわからず更に簡単に連絡も取れない。
そりゃ箒も心配するわな。
日本政府もあの篠ノ之束相手に隠しきっているって事は多分電子機器がほとんどないとこなんだろうなぁ……
どっかの田舎かな?
話が逸れたが要は篠ノ之束には亡国起業と手を組む理由があると。
「それでも篠ノ之博士は全力で亡国起業を支援している訳じゃないわね」
「……そうだな。むしろ彼奴が誰かに手を貸すということすら通常考えられんな」
そう言って楯無と千冬さんは結論付けた。
しかし亡国起業と篠ノ之束の関係かぁ……
本人に聞くのが一番早いんだろうけどそれはできないからなぁ。
話題も出切った感じなので今日はこれでお開きかと思ったらふと楯無が思い出したような顔をした後、ニヤリと俺を見た。
うわぁ…………スゲェ嫌な予感がする。
「そう言えば風音君」
「……なんですか、楯無さん」
「あなたに伝言があったの伝え忘れてたわ」
普通なら聞いた方が良いに決まっている。
大切な用事かもしれないし……
俺の第六感が聞けば確実に面倒な事になると告げている。
…………よし、決めた。
「すいません、その伝言キャンセルで」
「『愛しの風音へ、次は直接会いましょう。キマグレな雨より』ですって」
「なんで言ったんですか!?」
「伝言ですもの、伝えなきゃ」
満面の笑みで俺を見る楯無。
くっそ……良い笑顔しやがって。
それを聞いた虚さんは首をかしげる。
「気まぐれな雨って……」
「十中八九っていうか確実に亡国起業のスコールのことでしょうね」
そう言って楯無は俺のことを見て面白そうに笑う。
一方の俺は心底嫌そうな顔をしているだろう。
本音が俺の顔と楯無の顔を見比べた後に首をかしげ俺に話しかけてきた。
「……なんでそんな人にソーは好かれてるの?」
「それはどうしてストーカーは無くならないかの答えと同じだと思う……」
「ストーカーって……」
「最初に目をつけられた後電話番号も知られ、突然目の前に現れたあと
俺がそう言うと本音はうわぁ…と若干引いたような声をあげた後に俺を哀れむような目線をむけた。
いや、本当当事者ながら絶対これただの嫌がらせだよね?
好きとか欲しいとか言いながら実際の狙いは自分に勝った俺に対して精神攻撃を仕掛けるのが目的なんじゃないだろうか?
だとしたらそれは間違いなく成功している。
楯無という協力者がいることが原因でもあるが。
その
「熱烈な告白なんじゃ無いの」
「それ、ストーカー被害者の前で言ったら殺されますよ?」
「大丈夫よ、風音君限定だから。むしろ私いま恋のキューピッドになってるんじゃない?」
「いや、僕彼女いますし。どちらかといったら僕を責める悪魔にしかみえません」
「ひどいわ!?こんなに可愛い女の子を捕まえて悪魔だなんて!?慰謝料として3日以内に何かお菓子を作ってきなさい!!そういえば私あのケーキ食べてないのよねぇ…なんだったかしら?確か貴方の大事な人と同じ名前だったような…」
「最早これは立派な上級生からのいじめなんじゃ無いだろうか」
「あなたの方が私のこといじめてるでしょうに」
「記憶にございません」
「いったなぁ!?……よし、もし私がスコールに会ったらあなたの個人情報渡しちゃうからね」
「それをやったら戦争でしょうに……っ」
おい、それはマジでやめろ!?
それをやったら絶対あの女のことだ。
俺が考えつかないような手段で俺のことを責め上げるに決まっている。
クソ!!こうなったら
だがそれを使ったら最後、本当に楯無を泣かせてしまうかもしれない…
ちょっとそこらへんはデリケートすぎてあんまりいじりきれないんだよなぁ。
その後もぎゃあぎゃあと楯無と騒いでいると俺の頭に凄まじい衝撃が走る。
頭を押さえながら後ろを振り返ると呆れた顔で千冬さんが拳を振り上げていた。
……あ、死ぬなこれ。
そう思った瞬間に俺の頭に2度めの衝撃が響く。
先ほどの不意打ちよりも威力があった上に別の場所に当たったそれは本気で痛かった。
頭を押さえながらしゃがみこむ俺を見下しながら千冬さんがため息をつきながら叱る。
「戯れるな馬鹿者。まだ話し合いは終わってない」
「ぐふぉ……千冬さん、二発めは絶対本気入ってましたよね?」
「だからやってるのだ、この戯けめ」
そう言って再びため息を吐く千冬さん。
確かに話し合いの最中に遊んだのは俺が悪いけどこういうのは喧嘩両成敗なんじゃないの?
あっちの
だがそんなことを千冬さんに言うようなものなら3発目の拳が容赦なく俺の頭に振り下ろされるだろう。
横目で楯無の方を見ると勝ち誇った顔でこちらを見ていた。
その近くに修羅がいる事に気がつかずに。
「ふ、勝利の味が心地良いわ」
「おじょーさま」
「どうしたの本音ちゃん?」
本音に指さされ後ろを向くと修羅……訂正、静かに怒りをにじませる虚さんがいた。
その怒気は凄まじく最早なんだかのエネルギーを持っているのではないかと錯覚するほどのものだ。
それでいてその表情は菩薩のごとく笑顔を浮かべている。
流石の楯無もやばいと思ったのか顔が引きつる。
「う、虚ちゃん?」
「お嬢様?元気が大変よろしいですね」
そう話す言葉は普段と全然変わらない声色だ。
だがその言葉からは確かに怒りを感じることができた。
「この分なら私が受け持った書類もしっかりと処理出来るでしょう。もちろんお一人で」
「ちょ、待って!?あれ二人でやってようやく期限ギリギリの書類よ!?どうやって間に合わせるのよ!?」
「本来全てお嬢様がやらなければならないもの。それを戦闘後でお疲れかと仏心を見せればいらなかったようで……期限に関してはご安心を」
そう言って初めて虚さんは顔に笑顔を浮かべた。
その笑顔につられるようにして楯無も引きつった笑顔を浮かべる。
だが虚さんの口から出た言葉には一切の慈悲は存在していなかった。
「必死で頑張れば1日2時間の睡眠は取れます」
「鬼!!悪魔!!」
「残り期限は7日間と12時間、時間に直せば丁度180時間。このようなことをして間に合うとお思いですか?」
虚さんはそう言って容赦なく楯無を切り捨てた。
すげえ……あの楯無が本気で落ち込んでる。
しかも一切逃げる方法が無いのだ。
書類は絶対に遅れさせるはわけにはいかない。
手伝ってもらう人材もいない上にそんなこと絶対に虚さんが許すわけが無い。
楯無は会議中にもかかわらず涙目になりながら机に向かって仕事を始めた。
おそらくそうでもしないと本気で間に合わないのだろう。
流石にかわいそうになりなんとかとりなせないかと虚さんに話しかける。
「あ、あの……虚…先輩?」
「ああ、風音さん。気になさらなくて大丈夫ですよ。コレのこの有様は自業自得ですから」
「虚ちゃん、今私の事コレとかっていってなかった?」
「言ってません。さっさとやりなさい」
そう言って虚は俺に笑顔を向ける。
その表情は一切の反論を許していなかった。
助けを求めるように本音の方を見るが苦笑いをしながら首を振る。
多分こうなってしまった虚は絶対に意見を変えないのだろう。
俺は心の中で楯無に合掌をした。
そして横を見ると千冬さんが関心したようにその光景を見ていた。
「ふむ……奏、貴様もこれが良いかもしれないな」
「え、ちょっと」
「いくら言っても貴様には通じないようだしな」
そう言って千冬さんは笑みを浮かべながら俺の方を見る。
うん、恐怖しか感じない。
とりあえずまだかすかに痛みが残る頭から手をはなし立ち上がる。
あれ?俺なんか千冬さんを怒らせるようなことやったっけ?
いろいろ考えてみるがとりあえず激怒させるようなことは無い。
更に言えば千冬さんは怒るときはすぐ怒るがその後はすぐ切り替えるタイプなのだ。
ただ顔が常に不機嫌なように見えるから怒りが尾を引いてるように見えるだけで。
「例えば、だが。貴様はIS開発の方へ進みたい、と言っているらしいな」
「えっと……はい」
「しかし……今のままでは成績的にも貴様を取り囲む状況的にも厳しいだろう」
「あ、それでも僕、卒業後はばあさんの後を……」
「何を言っている。例えば、と言っているだろう」
そう言って千冬さんは俺の横に歩きながら話を続ける。
「話は変わるが、例えば私が受け持ったクラスの生徒が『自分の力不足で望んだモノを学べない』……なあ、どうすれば良いと思う?」
「ほ、本人の頑張り次第では?」
「だがその生徒はさぼり癖が強くてな、恋人からも勉強について相談を受ける程なのだよ」
「うわー、そんな生徒いるんですかー?」
えーそんな生徒本当にいるのかなぁ?
…………はい。
考えるまでもなく俺のことです。
千冬さんが俺の後ろに回り込むと俺の肩をつかむ。
別に強く握られているわけでは無いのにまるで死神に捕まったのかのような錯覚を覚えてしまった。
「残念ながらな」
「ち、千冬さん?例えばですよね?」
「ああ、もちろんだとも。だがそんな生徒に勉強をさせるにはこのようなやり方も有りかと思ってな。なあ、奏」
そう言って俺を楯無の方を見せるように固定する。
書類は先ほどやっていたものよりも増えていた。
やればやるほど増えていく書類。
おそらく俺の場合それが課題になるんだろう。
課題の山に囲まれた自分を想像して顔が青くなった気がした。
うん、素直に謝ろう。
実際、最近あんまり勉強に力を入れてないような気もするし。
「すいませんでした」
「ふん、始めから素直になればいいものを……お前のお婆様からも重ねて頼まれているからな。前回のテストは多目に見たが次は無いぞ」
「うっす」
その言葉を聞いて俺は次のテストこそしっかりと点数を取ることを心に決めるのだった。
千冬さんはボソッと馬鹿者めと言って俺から離れた。
その声からは少し楽しさが感じられたのでおそらく千冬さんに少しからかわれたのだろう。
だが千冬さんは有言実行の人だ。
次のテストは絶対に結果を残さねば。
そう心に決め、今一度俺が行くかもしれない修羅場に落ちた
そうすれば勉強で心が折れそうな時に持ち直すことができるような気がした。
だがその楯無はポカーンとこちらを見て手を止めていた。
それは虚さんと本音も同じようで驚いたようにこっちを見ていた。
「楯無さん、手止まってますよ。時間無いんじゃないですか?」
「誰のせいよ、じゃなくて……」
そう言って楯無は俺と千冬さんを見る。
何かあったのか?
そう考える前に本音が俺に話しかける。
「織斑先生とソーってけっこうっていうか、すごーく仲良いよね」
「そう?普通、普通」
そう言って何があったのか聞こうとするがそれよりも先に虚さんが反応する。
「いえ、普通なら、その、織斑先生の称号と気迫に押されてしまうモノですよ?」
称号と気迫?
……ああ、あのブリュンヒルデとか言うのね。
確かに有名人だったもんね、千冬さん。
って言われても千冬さんは俺にとってはどこまでも親友の姉でしかないのだ。
確かに世界最強で目標でもあるがそこに千冬さんの人格は関係ない。
俺は笑いながら自分の考えを話す事にした。
「あー……って言っても、僕にとっちゃ千冬さんは友人の姉さんで 、自分にとっても頼れる姉貴分って感じですからね。敬意や畏怖が無いわけじゃないですけど、それより親しみやすさの方が前に出ますね」
俺が畏怖と言うと千冬さんはギロリと俺を睨んだ。
まあまあとなだめるように千冬さんに手を向けるとふんと鼻をならしてそのまま壁際に行き、腕を組んで壁にもたれかかった。
ちなみにこんな状態の千冬さんは基本的に照れている。
千冬さんは自分の容姿や実力などのことをほめられるよりも内面的なところ、もしくは一夏がほめられた方が嬉しいのだ。
まあ、容姿に関して注意しようものなら全力で殴り飛ばされるがな。
「ふぅん。怖いものしらずかと思ったら単純に慣れの問題なの?」
「はい、千冬さんこれでも面倒見はすごくいいんで結構親身になって相談に乗ってくれますよ?例えばシャルロットから聞いた話ですが」
「風音?」
「はい、織斑先生。自分は何も知らないし聞いてないです」
そう言って俺は話を打ち切った。
ちなみに今話そうと思っていたシャルロットの話だがあいつの正体がクラスメイトにバレた後に結構あいつのことを気にかけて時たま話しかけてきていたらしいのだ。
名目上はラウラの元上官として同室のシャルロットに迷惑をかけていないか、といったものなのだが、シャルロット曰くどう考えてもシャルロットに害を加える人物がいるかどうか気にかけてくれていた、ということだった。
その後も度々人前でシャルロットに話しかけて同じような質問をしているらしい。
恐らく俺の彼女になるという男性ISパイロットに一番近くにいいるシャルロットに何かかしらのきがいを加えようものなら直ぐにバレるぞ?ということを周りに警告する意味合いもあるのだろう。
そうやって多分陰ながらいろいろと周りに気を使うタイプの人なのだろう。
ただその威圧行為は勘弁してくれませんか?
そういうところが畏怖される原因なんですよ。
まあそれを含めて千冬さんらしいといっちゃらしいのだが。
「まあ、千冬さんって結構話してみると普通ですよ?しかもすごい面倒見がいい人です」
「そう言う風に本人の前で言えるのも貴方くらいよ、風音くん」
書類に埋もれながら楯無は千冬さんの方を見ていた。
俺もチラリとそちらを見ると目をつぶってなんでもないような顔をしているがわずかに頬が赤く染まっていたのだった。
近くに寄るほど、偉人も普通の人だとわかる。従者から偉人が立派に見えるのは稀だ。
〜ラ・ブリュイエール〜