インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第九十八話 演目【学園執事物語 その2】

がっくりとしている俺を置いていく様にクラスメイトたちは会場を作り変えていく。

近くにシャルロットの鳥籠があったので近づいて話しかけよう……別にこのなんとも言えない気持ちを共有したい訳じゃ無い。

シャルロットの鳥籠に近き彼女の姿を改めて見る。

肩が出ている、まるで結婚式で使うような純白のドレスを身に纏い鳥籠の中の椅子に腰掛けるシャルロット。

靴は透明でシンデレラを彷彿させる。

髪型は普段まとめている髪を解き、ストレートにしておりそれがなんとも言えない感じを俺に抱かせる。

……正直に言うと見惚れていた。

ぼーっとシャルロットの前に立っていると首を傾げたシャルロットが声をかけてくる。

 

「どうしたの、ソウ?ぼーっとして」

「……あ、いや。…ちょっとなんとも言えない気持ちになってるだけさ。後、ドレスがよくお似合ですよ、シャルロット姫」

「もう、からかわないでよ。手伝ってって楯無さんに言われて数分でこの状態なんだよ、こっちは」

「そいつはお疲れ様」

「本当さ!!……ケーキの事ばれちゃったね」

 

そう言って苦笑いをするシャルロット。

そういえばこいつ、あのケーキの本名を知っていたはずなのになんのリアクションも無かったな…

いや、気が付いてはいただろう。

このケーキに気が付いた時、アッ…って感じの顔をしてただけだったし。

知っていて何も言わなかったのはなぜだろうか?ちょっと聞いてみるか。

 

「そういやシャルロット。どうしてあのケーキを店で出すの反対しなかったんだ?」

「うん?えーっとね…恥ずかしい気持ちもあったけど、それ以上にあのケーキってすごい美味しかったからかな?」

「ああ、売り上げのためか」

 

納得して頷く俺を見てシャルロットは唸りながら少し考えた後に話しを続ける。

 

「……ソウって自分のつくったケーキを美味しいって言ってもらうとすごい嬉しそうにするから、あのケーキだったらソウが喜ぶのが増えるかなって……ううん、違うな」

「違うって…何が?」

「私の名前と同じケーキを自信げにみんなに食べさせたのが…嬉しかったからかな」

 

はにかむように恥ずかしげに笑うシャルロットを見て息を呑む。

別にシャルロットに指摘された事のせいではない。

ただ単にはにかむように笑うシャルロットが普段見せないような困ったようでありながらも、嬉しそうに笑う笑顔に見惚れていただけである……少なくとも胸を張っていうことではないか。

俺が返答に困ったように息を呑んだせいか、シャルロットは再び首を傾げている。

心配させないように俺が何か言おう吐するがうまく言葉が出てこない。

そんなこんなしてるうちにシャルロットを閉じ込めている鳥籠がクラスメイトたちに運ばれていく。

……とりあえず今はシャルロットを救うというこの役を本気で演じるとしよう。

俺は今までのやらされているという気持ちを完全に排除しよう。

いまは一旦深く深呼吸をし、目の前にある障害に挑む覚悟を決めた。

 

『では第二の門番は王国兵。2年2組の鈴城 恵ちゃんと2年4組のエリザ・アーウィンちゃん。お題は的当てよ!!』

 

そう楯無にいわれて現れたのは上級生の二人。

一人は日本人で短髪に格好は学校の制服。

もう一人もおそらく欧州の出の生徒だろう。

日本人の先輩と同じく制服を着たままだ。

もしかして単に衣装が足りなかったのかと思った…いや、思いたかったのだが、彼女たちはあからさまに俺のことをにらんでいる。

確実にこのイベントに参加する気はないように見える。

………さっき決意したばかりだけどこれって俺が演じても仕方ないのでは、ないだろうか?

ため息をつきたいのを我慢して俺は楯無の言葉を待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう箒。終わりそう?」

「いや…今丁度第二課題が始まるようだ」

 

アリーナの控え室で篠ノ之 箒(わたし)たちは白いドレスを身につけたまま現在のアリーナをモニターで確認していた。

白いドレスについては次のイベントの為の準備だ。

楯無生徒会長からの要請で仕方なく着ているだけである……仕方なくだ。

別に相手が一夏だから……というわけではない。

決してない。

まぁ、今問題なのは奏の方だ。

アイツがこのような誰かと競うイベントに参加しているに少し驚いた。

一体楯無生徒会長はどのようにして奏を引っ張りだしたのだろうか?

とりあえず先ほどの料理勝負では……奏とつぎに会った時が楽しみとだけ言っておこう。

おそらくそれはここにいる全員の共通意識だろう。

少なくともわたしはシャルをからかうつもりだし鈴は悪い笑顔を浮かべていた。

セシリアも一緒になって笑みを浮かべていたが対戦相手の顔を見ると顔色を変えた。

 

「……箒さん…次のお題はなんですの?」

「えっと……会場を見るに射的か?」

 

会場に浮かんだスクリーンには銃と的らしきイラストが浮かんでいる。

それを聞いてセシリアはさらに表情を強張め、そして鈴は呆れた顔をし、ラウラは怪訝な顔で首を傾げた。

 

「奏相手に?」

「見た限り……そうだ」

「……はじめから勝つつもりがないのか?」

 

ラウラはやらせを疑っているようだ。

確かにさっきのシャルロットについてはおそらくやらせだろう。

いや、捕らえられているシャルロットの方ではなく、ケーキの方の話だ。

だがこれからの勝負は本気だろう。

少なくとも対戦相手の先輩は一切奏に勝ちを譲るつもりはないだろう。顔から覇気のようなものが感じられる。

一方奏はなんとも気の抜けた顔だが。

それを認めるようにセシリアは対戦相手の先輩のことを知っているらしくラウラの発言を否定する様に首を振りながら対戦相手の情報を伝える。

 

「いえ、あそこにいらっしゃるエリザ先輩については、確かクレー射撃の記録を持っていたはずですから、はじめから負けるつもりと言うのはないでしょう」

 

その言葉を聞いて私は……素朴な疑問を覚えた。

いや、相手がすごい人間だということはわかったが、アイツは風音 奏(デタラメの怪物)だ。

まず、戦いになるのだろう(・・・・・・・・・)か?

 

「だが……言ってはなんだが、誰か奏相手に射撃で勝負して勝てる相手を思い浮かべれるか?」

 

口から溢れた言葉を聞いたみんなの反応は……沈黙だった。

しばらくして首を振りながら鈴がため息を吐きながら言葉をこぼす。

 

「……私は思い浮かばないわ。多分中国にはいないわよ、そんな人」

「わたくしも同じくですわ。わたくし自身射撃を得意とする身ですが、はっきり言ってわたくしでは勝負になりませんわ」

 

鈴は最早呆れ気味に言葉を吐き、セシリアは自身を自笑するかのように暗く笑いながら言葉を吐きだす。

私個人としても正直なところで奏以上の射撃の腕というのをイメージできない。

ラウラは顎に手を当て唸りながら何か考えているようだ。

 

「やるとしたらしっかりと準備をしてこちらが有利なフィールドで相手にハンデがある状況でようやくだな」

 

ラウラが苦い顔をしなが答える。

まあその状況に持ち組むのが難しい事は言わずもがなだが。

それに奏がそんな状況に陥ったら逃げるに違いないだろう。いや、まず逃げるあいつを捕まえるのが至難の技だろう。

 

「まあ、なんにせよここで奏が負けるとは誰も思ってはいないか」

「……いや、どうやら雲行きがあやしいわ」

「どういうことだ?」

 

鈴の言葉を聞いて私たちは再びアリーナの映し出される放送を凝視した。

モニターに映し出される奏の顔は唖然としており、とりあえず何か面倒なことを言われていることが私にも用意に想像できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しかーしただの射撃ではつまらない。ということで筆頭執事にハンデをつけます(・・・・・・・・・・・・・)

 

ハンデか…えっと、筆頭執事って言うと………おい…おい、ちょっと待て。

俺は突然の楯無の言葉に衝撃を受け固まる。

えっと…現状の空気理解してる?

それとも俺の読み間違い?

横目で先輩の事を見ると…あからさまに不満そうな顔でOSAをにらんでいる。

うん、俺が空気を読めてないんじゃなくて、OSAが読んでないだけか………勘弁してくれ。

そんな俺の思いは通じず楯無はいい笑顔で話を続けた。

 

『まずクレー射撃の方は使用する銃は散弾銃ではなくリボルバー。的当てはそうね…120m地点からでいいかしら?』

 

ねぇ?そこでなんで俺に尋ねるの?

それじゃ俺に『この程度の相手ならこれくらい余裕?』って聞かれてるみたいじゃん。

乾いた笑いで場を濁そうかと思ったがその前に先輩方が反応した。

 

「ちょっと待ちなさい。生徒会長?貴女あたしのこと舐めてる?」

「わたくしたちが望んでいるのは対等な勝負でしてよ?」

 

よく言った。

そう、相手をなめるのは良くない。

どんなときでも全力で戦わねば。もしくは逃げないと。

 

『ああ、ごめんなさい。訂正するわ』

 

楯無はそういって少し考える。

そして笑顔で俺を見る。

…あ、やばい。

俺が危機感を感じたときにはすでに遅かった。

楯無はそのままの笑顔で次の言葉をマイク(・・・)で吐き出した。

 

『先ほどのハンデにプラスでクレー射撃の方は的を全て同時にクレー15個発射します。的当てはそうね…150mで10秒以内という時間制限をつけます』

 

ピシッという音が聞こえた気がした。

いや、確かに聞こえた。

もう敵意を隠そうともせず二人はその敵意を俺と楯無に向けてくる。

……俺何もやってないんだけどなぁ…

 

『これでようやく対等ね』

 

さらに煽るように楯無は先輩に笑顔でこう告げた。

先輩方もそれに応じるように敵意と気迫をどんどん強くしている。

一方俺はこの場から逃げることができたらどれだけいいかと考えていた。

 

「会長、恥をかくのはこの男ですよ」

 

短髪の先輩が顔に怒りを浮かべて言葉を漏らす。

そのとおり。だからやめません?

と言える空気ではないな。

というか結構できる人なのかな?

それなりに自信があるみたいだけど。

 

「あら?もっとハンデが欲しいの?」

 

マイクをはずして楯無がさらに煽る。

マイクをはずしても煽るって事はあれか、パフォーマンスってわけではないのね。

 

「……まさか本気でこれで対等なんて思っているわけではありませんわよね?」

 

欧州出身の先輩のほうは…額に青筋が浮かんでらっしゃりますね。

敵意は…俺に向かってるほうが多いのは気のせいかな?

そうだとうれしいな……

 

「うーん…正直風音君の使用する銃を粗悪品にしてようやく同じ舞台に立てると私は思っているのよね〜」

 

あ、またピシって聞こえた。

二人ともあからさまに俺と楯無に敵意を強めてる。

今わかった。たぶんこれはOSAのことをいじめすぎた復讐を俺は受けているんだ。

発言しにくいこの空気の中、意を決して俺は楯無に話しかけた。

 

「た、楯無さん?」

「あら?どうしたの、風音君?」

「えっと……僕なんか会長に恨まれてたりします?」

 

一秒、二秒、三秒、そこでようやく楯無は『あ、』と言った顔をした。

その後俺を手招きして近くに連れてこようとする。

そっちのほうに向かおうとすると二人にかなり睨まれた。

発言と行動の自由くらい許してもらえないでしょうか?

俺はびくびくしながら楯無の近くに行く。

楯無の近くに来たがさらに楯無は手招きをしている。

あまりこの二人に聞かせたくない話か?

俺は二人に背を向けるように楯無にさらに近づく。

楯無は俺に顔を寄せ耳元で言葉を発する。

ちょっとくすぐったく、嗅ぎなれない匂いが鼻につきなんとも言えない気持ちになったが、ここは我慢しよう。

楯無はそのまま申し訳ないような顔で話した。

 

「そういうわけじゃないのよ?」

「そいつは良かった」

 

そういってほっとする。

まあ、可能性としては低かったがありえない訳ではないからな。

今度からはもう少し楯無に優しくしようと心に決めた。

 

「あの二人例の資料の製作者グループでね、正直なところかなーーーーりっ!!気に食わないのよね」

「はぁ……」

「何がたかが男よ、何が運が良かっただけよ。まずは自分の実力と相手の実力がわかってから文句を言いなさいよ!!」

 

あの先輩方が例の俺からISを取り上げようとした資料を作成した方々なのか。

接点はないけどあれほど言われたって事はよほど俺のことが気に食わないんだろうなぁ…

それは仕方ないけど、それを楯無にいい続けるのもどうかと思う。

楯無もよっぽど溜まっていた(・・・・・・)らしく次第に声が大きくなる。

そして俺と肩を組み、俺の肩を握り締める。

 

「いい!!風音君!!」

「はぁ……」

「あの二人の天狗の鼻をへし折ってやりなさい!!」

「へい……」

「会長命令よ!?」

「わかりましたって!!」

 

悲鳴を上げるように了承すると楯無は満足げに鼻を鳴らし、再びマイクを握った。

 

『よろしい!!では初めはどちらからいく?』

「ではわたくしの方から行かせていただきますわ」

 

最初に名乗りをあげたのはアーウィン先輩だ。

獲物が散弾銃と言うことは競技はクレーン射撃だろう。

クレーン射撃のルールはそこまで詳しく無いが確か打ち出された的を空中で当てれば良いんだっけ?

俺がそんなことを考えてるとアーウィン先輩がこちらを哀れんだ目で見てきた。

 

「風音奏。貴方もかわいそうな人ですわ」

 

………くそぅ、あながち否定できない。

OSAにだまされ劇をさせられ、弱みを握られ本気をださなければいけなくなり、さらに一回戦は出来レースでさらし者だ。

あながちどころか今のところ否定する材料が浮かんでこない。

まあ、シャルロットのドレス姿が見れただけ元が取れたと考えよう。うん。

別に悔しくて意地を張ってるわけでは無い。無いったら無いのだ。

 

「ただ運良くISが動かせたというだけでこのような場所で恥をかくことになるなんて」

 

あ、そっちですか。

アーウィン先輩自信満々ですね。

まあ、銃を構える姿も堂々としてるし姿勢もいい。

たぶんだがかなり修練は積んでいるのだろう。

 

「ですが、わたくしは一切手を抜きませんわよ!!」

 

ブーというブザー音ともに一つ目の的が右の方から飛び出た。

結構な速さで飛び出るんだな。

それに反応してアーウィン先輩は散弾を打ち出す。

一発、二発、三発…と左右から飛び出る的をどんどん撃ち当てていく。

そして最後の十五発目。

弾込めのタイミングのずれから的から狙いがそれて当たらなかった。

と言っても散弾なのであのタイミングであの狙いなら撃っていたら当たっていてもおかしくは無いな。

しかしアーウィン先輩としては面白くなかったらしく舌を鳴らした。

 

「……まぁ、こんなものですわ」

 

お、切り替えが早いな。

この先輩競技者としては本当に優秀なんだな。

先ほどの自信も自信の実力が裏付けになっているのか。

 

「風音奏、いまなら逃げ出してもかなわなくてよ?そのかわり―――」

『はーい、ただいまの記録。15枚中14枚ですね。では続いて筆頭執事、どうぞ』

 

楯無のマイクによって最後まで言わせてもらえないアーウィン先輩だった。

俺が楯無から渡されたのは俺の銃とスピードローラー、後は足に巻きつけるようなホルダーである。後は20発の弾だった。

まぁ、すでに準備されてることには驚かない。

足にホルダーをつけながら楯無に疑問を口にする。

 

「あ、その前に。これって僕の時も横に飛んでくるの?同時に?」

『ええ、左右からね』

「あ、だったらいけるか」

 

うん、弾は20発もいらない(・・・・・・・・)な。

疑問も解消されスピードローラーに弾をこめる。

腰のベルトにつけるようにして準備を終え、抜き打ちの姿勢をとった。

それを見て先輩方はクスリと笑い俺に声をかけた。

 

「ちょっと良いかしら?」

「はい、なんでしょうか?」

「強がりはやめたほうがいいわよ?貴方の持ってるリボルバーの最大装弾数は6発。さらに弾は散弾じゃない上に途中のリロードにかかる時間も考えると不可能よ」

 

不可能…ね。

この程度の遊び(・・・・・・・)で不可能っていったら、少なくとも俺の目指す英雄(ヴァッシュ・ザ・スタンピード)の背中すら見えない。

俺は笑みを浮かべ先輩のほうを向く。

先輩は俺が笑っているのが諦めからのものだと思っているのか笑みを強めた。

 

「うーん…ものは試しということで」

 

はぐらかすようにして俺がそういうとアーウィン先輩はどうぞと言った風に手で俺を促し、鈴城先輩は肩をすくめていた。

まあ、とりあえず今から不可能を成功して見せて度肝を抜いてやろう。

そして何よりも恥ずかしい記事と写真を広めないために全力でいかせてもらう!!

 

 

 

 

 

 

 

奏の準備が終わったらしく、奏は的が飛び出すほうを向き、腰を低く落とした。

おそらくいつもの抜き打ちだろう。

だったらシャルロット(わたし)も安心してみていられそうだ。

そんなことを考えていると近くで兵士の格好をしているのほほんさんが不安そうな声で話かけてきた。

 

「でゅっちー……ソーは大丈夫かな」

「……さっきの話…間違ってないわよね……」

 

ほかのみんなも不安そうな顔をしている。

一体なぜだろうかと、一瞬不思議に思ったが奏は今まで徹底して逃げ回ってきてたのだ。

おそらくまともに銃を持っているところを見るのもクラスのみんなは初めてなのだろう。

 

「あ、大丈夫だとおもうよ」

 

笑顔でそう口にするがみんなの顔色は良くならない。

まあ、実際クレーン射撃をリボルバーで。

しかも一斉に的が飛び出てくるなどはじめから勝たせるつもりが無いのか?と思われても仕方が無いだろう。

たぶんこの会場内の空気を感じると、みんな奏がある程度当てる事は考えていても奏が勝つとは思っていないようだ。

楯無さんが今回は先輩方に花を持たせて、奏は無茶をやらせて言い訳を作らせた、そんな風に考えているようだ。

だが…風音 奏(私のヒーロー)はそんな弱くはない。

わたしは笑顔でさらに言葉を続ける。

 

「大丈夫」

「でも……」

「ソウにしてみればさっきの料理勝負の方が緊張しただろうし」

「「「「「「……え?」」」」」」

 

笑いながらわたしがそういうとみんな目を丸くしていた。

実際奏の顔を見ればわかる。

最初の料理勝負ではかなり追い込まれた顔をしていたが、今の顔は楽しむ余裕すらあるようだ。

みんなそこに気がついてないのか首をかしげている。

 

「まぁ…見てればわかるよ」

『では……はじめ!!』

 

楯無さんの声とともにブザーが鳴り響き、一斉に的が発射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クレーン射撃の的が飛ぶ。

一定の速度かと思ったがある程度速度のずれがあるらしい。まぁ、あまり関係ないが。

俺はまず即座に銃を抜きぬいた勢いを殺さず引鉄を引く。

一発、二発、三発…六発すべて的に当たる射線だな。

スピードローダーを腰から引き抜き、上に引き抜いた銃の勢いで薬莢を排出、そのまま流れるように弾を込めすかさず的を撃ち抜く。

三発撃ち出したところでタイミング(・・・・・)を計る。

……よし、全弾当たるな。

ここで集中を切り、元の時間に戻ってきた。

おそらく周りからは一瞬の出来事で、たぶんタイミングを計ったことに気がついた人はいないだろう。

わかったのは一瞬でひとつの銃声の後に空中の的が全て弾けたということだけだろう。

会場にいる皆、何が起きたか良くわかってない様で一瞬に会場がシーンとなった。

が、静かになったのは一瞬。

次の瞬間にはアリーナは歓声に包まれていた。

たぶん俺がやったことを理解してあげた歓声ではなく、ただ単に自身が理解できない何か(・・)を感じてあげているのだろ。

 

『お見事!!全弾命中!!』

「おお、良かった、良かった」

 

審査が終わり楯無が声をあげた。

いやぁ、本当に審査があってよかった。

もう一度やれと言われるのはごめんだ、出来るか出来ないかはべつとして。

銃から薬莢を落としホルダーにしまいこむ。

後でしっかり整備せねば。

 

「あ、当てた!?」

「それどころか……!!……会長。イカサマはいけませんよ」

 

先輩方も一瞬唖然とし、その後動揺していたが何かに気がつき余裕を取り戻した。

一体何に気がついたっていうんだ?

観客席のほうでもざわめきが起きてるし。

 

『はい?どういうこと?』

「とぼけなくてもいいわよ。彼の足元の薬莢をかぞえてみなさい」

 

ああ、そういうことか。

俺は納得したが楯無は首をかしげたままだ。

 

「全部で12個。打ち出されたクレーは15枚。どう考えても数が合わないわ」

「あ、それ射線を重ねて一発で2枚当てたのがあるからですよ」

「「……はい?」」

『説明して、風音君』

 

その言葉を聞いて会場中がぴたっと止まり、楯無とシャルロット以外は唖然としている。

俺はそれを無視しさらに言葉を続ける。

 

「いや、だから同時に左右からクレーが飛んできたら幾つかは被るじゃないですか。だから重なった瞬間を狙って……こう」

 

バンと指で銃を撃つ真似をする。

要は射線が重なった瞬間を狙って、弾を撃っただけのことだ。

このぐらいならなんのサポートが無くてもできる。

まあ実際の戦いでこちらが動きながら……ってなるとまた話は変わるが。

 

「そ、そんな!?」

「いやぁ……やってみればできるもんですね」

『またやれって言ったら出来る?』

「?はい。あっ、弾の弾数は変わると思いますよ?重なる数も変わると思いますので」

 

笑顔でこう答えると会場は更に盛り上がった。

そして二人の先輩がたは心が折れたようだった。

アーウィン先輩は目の前で起きた事が認めれないような顔をしてるし、鈴城先輩の方はがっくりと全身から力が抜けたようだった。

 

「はい、では次は鈴城ちゃんの番……だけど、正直なところ勝てる?」

「…………いえ、私じゃ無理ですね。恥をかくだけよ」

 

お、思ったより素直。

ここで俺に更に条件を付けて挑んでくるかと思ったんだけど。

もしかして俺の実力を認めて、ISを持っても良いと思ってくれたのだろうか?

そうだったら嬉しんだけど……

そんなことを考えていると、楯無が何かの準備をしているのに気がつく。

一体今度は何をさせるつもりだ?

 

『申し訳ないけれど、ここで次の試練の内容の変更よ。みんなモニターの方を見て』

 

モニターの方には空に浮かぶ半透明な的が写し出されていた。

アリーナ内でよく使うターゲットの様だが、アリーナの中には見当たらないな……

 

『アリーナの正面入り口の方からまっすぐ、海岸に向けてのライン。約1kmの地点の上空に的を設置したわ』

 

そう言われて的がある方向を見てみると確かにそれらしきものがある。

目を凝らして見ていると的からもっと離れた、雲のあたりに何か(・・)が見えた。

撮影に使われている機材ではないだろう。

確実に動きが違ったし、襲撃される危険性があるとわかっているこの実況でレーダーを切る訳もない。

もしかしたら楯無の仕込みかもしれないが……嫌な予感がする。

 

「楯無さん、これが最後の試練?」

「ええ、そうよ」

「他に仕込みは?」

 

俺が真面目な顔で言うと楯無も察してくれたらしく話を進めてくれた。

 

『風音君!!大臣からの試練よ!!アレを何発で撃ち抜け…』

 

悪いがエンターテイメントはここまでだ。

楯無の言葉が言い終わるより前に、俺は銃を抜き素早く一発だけ弾を込め打ち出す。

【ドンッ!!】という音がし、ざわめいていた会場が瞬間、静かになった。

俺は結果を見ずに背後へと振り返りシャルロットの鳥籠の方へと歩む。

一歩、二歩、三歩、ちょうど三歩目の前あたりでモニターに映っていた的のど真ん中が撃ち抜かれた。

 

『1発…か……』

 

楯無がボソッとつぶやくように発した言葉を耳にしつつ俺はシャルロットの鳥籠の前へと進む。

鳥籠の中にはシャルロットがはにかむように笑いながら扉の前に立っていた。

 

「久しぶり、シャルロット」

「うん、お疲れ様」

「そっちもね……」

 

そう言って鳥籠の扉を開けるためのデータとやらを思い出したが……どう見てもこの鍵はアナログだ……

と言うかまさか!?

……鍵を触ってみると直ぐに外れ下に落ちた。

はじめから触れば落ちるようになっていたらしく鍵として成り立っていなかったようだ。

最後の最後まで騙されたと思いながらため息を吐き出す。

がっくりと肩を落としながら扉をあけ、シャルロットを外に連れ出す。

そして周りを見渡すと……会場全体がすごいしーんとしていた。

えっと……普通成功したら会場が湧くもんじゃないの?

 

「なんだ?この雰囲気」

「多分ソウがあまりにでたらめで唖然としてるんだと思うよ?」

「でたらめって……いや、他にも出来る人は居るよ?」

「それでもソウがでたらめなことには変わらないよ?」

「あー……一芝居うつか」

 

シャルロットの返事を聞かずに俺はシャルロットをお姫様抱っこする。

えっ?と言った後に顔を赤くするシャルロットを無視し楯無の方を向き声をあげる。

 

「大臣殿!!」

『……ハッ、き、貴様!!いつの間にシャルロット姫を!?』

 

本当に放心状態だった楯無は俺を見てようやく演目中だということを思い出したようだ。

 

「大変申し訳ないがメイドのシャルロット共々長期の休暇を頂かせていただきます」

『筆頭執事……貴方がいなくなるのは構わないが、シャルロット姫はおいていきなさい』

 

よし、楯無も俺の意図に気付いてくれたのか、兵士の格好をした生徒たちを俺たちを囲むように配置した。

…全員ニヤニヤしているが気にしないでおこう。

シャルロットもいちいち顔を赤くしないでくれ、俺も結構恥ずかしいんだ。

 

「大臣殿、申し訳ありませんが、ここに居るのはデュノア王国のシャルロット姫ではなく、私の部下のシャルロットだ。彼女は貴方の道具では無い!!」

 

そう言って俺はシャルロットを抱えたままサングラスをつける。

そしてISを展開すると、泥の様な物が身を包み瞬時に赤いコートを身に包まれた様になっていた。

 

「ではご機嫌よう、大臣殿」

 

何かを言われる前に俺はシャルロットを更に強く抱えこみ、そのまま空へと飛び立った。

下からはいろいろと囃し立てるような声も聞こえるが今だけはすべて無視して普段とは違って見える空の散歩を楽しませてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

男の幸せは「われ欲す」、女の幸せは「彼欲す」ということである。

~ニーチェ~




ということで九十七、九十八話でした。
ちなみに現実世界でもあるガンマンが行った、1000ヤード(約940メートル)先から二発で的に当てるというスゴ技というか神業があります。
ぜひ調べてみてください。

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