インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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シゴト イソガシイ
オレ トウコウ オクレタ

…すいませんでした。二話連続投下させていただきます。



第九十七話 演目【学園執事物語 その1】

クラス内での弾と虚さんのラブロマンスを見せられてから数分後俺は一組を離れて来賓室へと向かっていた。

理由は簡単、俺が招待券を渡した相手が来たのだ。

元を正すと楯無と虚さんが一組に来た理由もそれを俺に伝えるのが目的だったらしい。

シャルロットには一応伝えてあるが……正直、時期早々だったようであからさまに悩ませてしまった。

取り乱すかと思っていたが、近くにいたばあさんが何も言わずにただ手を握って微笑みかけたおかげか取り乱す事はなかった。

本当にばあさんさまさまである。

という事でシャルロットの事はばあさんに任せ、俺は紙袋を片手に来賓室へと向かう。

学園祭中だというのに来賓室の近くでは活気が遠くに感じられ、ドアをノックする音も響くようだった。

ドアを開け中に入るとそこにはシャルロットの父親であるデュノア社長が座っていた。

このとおり俺が持つ招待状を送った相手はデュノア社長だ。

彼は俺のことを見た後に後ろの方にも目線を送っている。

俺は苦笑しながらデュノア社長に挨拶をする。

 

「お久しぶりです。デュノア社長。すいません、シャルロットはついてきませんでした」

「い、いや…それが当たり前だ……久しぶりだな、カザネくん」

 

少し落ち込んだかと思ったが、それを隠すように俺に挨拶を返すデュノア社長。

シャルロットとデュノア社長。この二人の関係はまったく進展はしていない。

おそらくというか、ほぼ確実にシャルロットとデュノア社長共に互いのことを怖がっているのだ。

それに対し、俺はなんとかしてやりたい思うのだが実際のところ、二人の関係は二人にしか解決はできないのだ。

手伝うことはできても解決する事は俺にはできない。

 

「えっと、学園祭はいかがでしょうか?」

「ああ、活気があるし皆楽しそうだ……特にあの子のあんな笑顔初めて見たよ」

「シャルロットに会いに行ったんですか?」

「いや…遠目から見ていただけだ。それでもあの子の笑顔が見れただけ来た価値はあったよ。招待状、感謝するよ」

 

正面の椅子に座り話を始めるとそう言って笑うデュノア社長。

遠目から見るくらいなら話かければいいものを……

まあそれが難しいからこんなことになってるんだろうし、現在デュノア社の立て直しで忙しいところなのにわざわざ日本に来るということはシャルロットととの関係をなんとかしようと考えてはいるんだろう。

 

「いえ、忙しい中来てくださってありがとうございます。この後時間は?」

「十数分後にはここを出なければならない。せっかく招待してくれたというのにすまない」

「そうですか……ではこれを持って行ってください」

 

やはりまだ社内の掌握は完全に終わっていないのだろう。

そう言って申し訳ないようにするデュノア社長に、俺は手に持っていた紙袋を渡す。

社長は受け取るとすぐに封を開け中をのぞいた。

 

「シャルロットが作ったクッキーです。帰り道にでも食べてください」

「……感謝する。…………後、これをあの子に渡してもらえないだろうか?」

 

そう言ってデュノア社長は俺に包みを渡す。

俺は何も聞かずにそれを受け取る。

手触りと重さからおそらく中身は紙の束だろう。

……まさかこれ全部手紙とかじゃないよな?

とりあえず他に何かないか聞いておくか。

 

「何か…あいつに伝える事はありますか?」

「……ただ一言。……すまなかった、とだけ……」

「わかりました。必ず伝えておきます」

 

その後デュノア社長が帰るまで俺はシャルロットの現状をデュノア社長に伝えていた。

たいした内容ではないのに、社長はとても真剣にそして幸せそうに話を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

デュノア社長と別れ俺は一組に帰る。

現状ばあさんと弾の事を放置しているようなものだ。

とりあえず弾はともかくばあさんの方は放置しておけないな。

まあ、弾に関しては虚さんとよろしくやってるだろうしばあさんはラウラとシャルロットがいるから俺がいなくても問題ない気もしないでもないが…

そんなことを考えながら廊下を歩いていると校内放送が鳴り響く。

 

『ぴんぽんぱんぽーん……マイクのテストはいるかな?』

 

ぴんぽんぱんぽーん含めすべて肉声である。

後この気の抜けるような声はのほほんさんこと本音でまちがいない。

いったい何があったというんだろうか?

 

『いらない?りょーかい。えーと、ソーへと告げる。デュッチーは我ら…オリムラ王国が預かった?』

 

いや、こっちに聞かれても……

っていうかオリムラ王国って……いやな予感しかしない。

特にこんなアホくさい事をする人などこの学園内で一人しか俺は知らない。

 

『おりむーどうしたの?……わかった。ええっと、我ら正体不明の騎士団が預かった。返して欲しくば今すぐに第一アリーナに来るよーに』

 

正体不明のオリムラ王国ですね、わかりました。

しかし…これ行かないとダメかな……

ぐったぐたな上に嫌な予感しかしないんだけど……

廊下でげっそりとした顔で考えていると再び放送が鳴り響く。

 

『ちなみに風音君?来ないとすごーく後悔すると思うな、お姉さんとしては』

 

……楯無(犯人)の声が聞こえる。

っていうかはじめからあんたが放送すればいいだろうに…

仕方なく気の進まない足を第一アリーナへと向けできるだけゆっくりと歩くのだった。

途中色々な生徒から笑われたがなんとか数分後、アリーナの近くに到着する事が出来た。

 

「ソー!!コッチコッチ」

 

アリーナの入り口に入ろうとすると横の方から誰かの呼ぶ声が聞こえた。

そう言ってこちらに手を振るのはメイド服を着たままの本音だ。

とりあえずそっちの方へと近づきどういう事か聞く事にした。

 

「のほほんさん、何があったの?」

「ええっとね、お嬢様からの命令でソーにお願いしてーって」

「……あれがお願いなの?」

「お嬢様がどうせなら全力でいきましょうって。あとこの時間稼ぎ演目の原因として、ソーのお友達がお姉ちゃんを連れていっちゃったのが原因でもあるからって言っておいてだって」

 

連れていっちゃったって…弾、おまえ頑張ってるんだな。

時間稼ぎって事は本来ならこの時間に別のものをやる予定が、虚さんが弾とデート中で無理って事か?

馬に蹴られる趣味は楯無も無いという事か……

ここは友人のために一肌脱ぐとしますか。

 

「了解。で、何をやればいいの?」

「劇の主役をやって欲しいんだって」

「僕、劇なんてやったこと無いんだけど……」

「お嬢様いわくそのままのソーでいいって」

「……セリフは?」

「全力アドリブだって」

 

行き当たりバッタリにもほどがある。

もう嫌な予感じゃなく冷や汗というかいやな汗が額からにじみ出てきた。

まあ、やる以外に選択肢はないんだが。

 

「で演目はなんなの?」

「うーんとね……やればわかるというか…」

「なんだい?その歯切れの悪さ」

「……衣装はそのままでいいから頑張ろう!!」

 

そう言って背を押されて無理矢理話しを切られた。

絶対酷い目に合うな……

そう自覚しながら俺は背を押されて運ばれていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後アリーナ内のバトルフィールドへの入り口に俺はいた。

すぐ真上からは人の気配がするということはバトルフィールドで劇をするのか。

まあ、細かいところは楯無がなんとかしてくれるだろう。

俺は場の流れに乗りつつ臨機応変に空気を感じて動く、詰まる所適当にいこう。

俺がそう覚悟を決めると、ちょうど昔ながらの映画館で聞こえるようなブザーがどこからか鳴り放送から楯無の声が響く。

 

『むかしむかしある国に一人の王子さまが住んでいました』

 

オリムラ王国の一夏王子ですね。

あれ?だとしたら主役は一夏じゃないだろうか?

まあ、どっちにしても俺が劇に参加する事は変わら無いか。

 

『その王子はオリムラ王国の一夏王子。そして王子さまにはたくさんの婚約者が名乗り出ていました』

 

うん、いっぱいいるな。

あれ?これむかしむかしって言うか今現在進行形の話?

楯無の読み聞かせは続く。

 

『婚約者のお姫様たちはみな後ろ盾があり、積極的にアプローチを仕掛けていきます。しかしそれでは自分の思い通りにならないと面白くない大臣はある一人の少女に目をつけました』

 

お、急展開だな。

こっから話が始まるのか?

 

『彼女の名前はシャルロット。一夏王子に仕えるメイドの一人、しかし実はデュノア王国から逃げ出して来たお姫様だったのです』

 

オリムラ王国の人事部は雇う人間の背後関係を洗い出さなかったのだろうか……ってそうじゃない。

俺が一人ノリツッコミをしている間も物語は進む。

 

『家出したシャルロット姫のことを知っているのはごく一部の人間のみ。王国の人々はメイドからお姫様への成り上がり物語に盛り上がりました…しかし、それは一夏王子をシャルロット姫をつかって操ろうという大臣の策略だったのです!!』

 

一部烈火のごとく怒り狂うだろうな。

革命がおきてもおかしくないぞ。

ってこれ絶対一組の誰か劇に関わってるだろ。

 

『自由を求めて城から飛び出したシャルロット姫は哀れ再び鳥籠の中。そして大臣はシャルロット姫を使って国を操る計画を進めます。オリムラ王国建国以来最大の危機!!』

 

そういやオリムラ王国って建国してから何分くらいなんだろうなー。

って言うか王族だったら一夫多妻でいいんじゃないか?

……実際に作った方がいいのでは?

 

『だがここに一人、その結婚を認めない男がいる。一夏王子の右腕にして親友、若き筆頭執事、ソウ・カザネ!!』

 

うわぁ……そこで俺を使うの?

出るのもうちょっと後でもいいんじゃない?

事件が解決した後とか。

あと執事が右腕って……人材不足なのだろう。

 

『彼とシャルロット姫は職場でも大変仲がいいと評判でしたが、職場恋愛を認めない国柄のせいで結ばれることはありませんでした』

 

ひどい国柄もあったものだ。

絶対背後に楯無っていう大臣がいるに違いない。

きっと不器用で妹と仲違いしてるのだ。

 

『しかし、彼女の悲しげな顔を見た筆頭執事は立ち上がることを決意したのです!!彼はシャルロット姫を捉えている番人たちを倒し、見事姫を救い出すことができるのか!?』

 

援軍って許可されるかな?

とりあえず箒とかセシリアとか鈴とかラウラとか、あと方向性は違うけど簪とか頼めば助けてくれる気がするんだけど。

特に簪がこちらにいたら楯無は勝手に大打撃受けるだろうし。

 

『一人の男の挑戦が今ここに幕を開ける』

 

おい、OSA。

なんか最後プロレスみたくなってんぞ。

そんなことを考えている合間にアリーナへの入り口が開いていく。

……行くしかないか。

スポットライトが示す場所まで俺は歩く。

暗くなったアリーナ内はセットと思わしきものが多数設置してあり、おそらくなにかかしらのイベントをやっていたんだろう。

もしくはここから行うつもりなのだろうか?

スポットライトの元にたどり着くと俺を中心にあたりが明るくなっていく。

まず目に入ったのは城の内部の様なセット。

続いてメイド服や城の兵隊の様な衣装に身を包んだクラスメイト。

あと知らない人が数人。

おそらく学園の先輩にあたる人だろう。

んで最後に……リアルに巨大な鳥籠の中に囚われているドレスに着替えているシャルロットだ。

よく用意したな、こんなサイズの鳥籠。

あたりを観察しているとシャルロットと目が合う。

シャルロットは顔を真っ赤にしていたがどこか嬉しそうだった。互いに苦い笑いをすると再び放送が鳴り響く。

 

『まず初めの門番はこの子たちよ!!』

 

そう言うとスッと数人の生徒が俺の前に出る。

……会った記憶はないな。

するとそのうちの一人が俺に話しかけてくる。

 

「初めまして、風音さん」

「あ、初めまして」

「私たち第一の門番の料理部一同。風音さん、あなたにお菓子で勝負を挑むわ!!」

「…………はい?」

 

え?お菓子?なんで料理勝負?

そんなことを考えている間にもセットが一組メンバーによって動かされ変形していく。

1分くらい経つとそこはもう試食会場の様になっていた。

そしてその中心に諸悪の根源(楯無)が偉そうな大臣の様な、いかにもといった雰囲気の服に着替えてそこにいた。

 

『ということで1本目の勝負は【風音奏VS料理部】でお題は【カップルのケーキ】!!さあ、筆頭執事は王国の料理番たちに愛を示すことはできるのか!?』

「……楯無さん?」

「うん?どうしたの風音くん?」

「いや………………なに?これ?」

「勝負形式演劇、演目は名付けて【学園執事物語】よ!!」

 

だからそれが何かって聞きたいんだけど!?

ドヤ顔してるんじゃないよ!?

頭を押さえついていけないと思っていると楯無はにやりと笑って俺に話しかけてくる。

 

「ほらほら、しっかりとしてないと後悔するわよ?」

「なにがっすか?」

 

もう既に参加した事を後悔してるんだが……

楯無は俺に向けてなにかを投げてきた。

それを受け取るとどうやらメモリースティックのようだ。

 

「最近ね、うちの学園の生徒が盗撮されて雑誌に載せられそうになっていたの」

 

…………おい、待て。

なぜその話が今出て来るんだ?

はっとした顔で楯無の顔を見るとそこにはにっこりと微笑む楯無がいた。

 

「それでね、一箇所だけほぼ掲載寸前の雑誌があったんだけど、そこは更識の方で雑誌ごと休載させたの」

 

嫌な汗が頬を滴って落ちる。

楯無は楽しそうな顔で話しを続ける。

 

「でもね、雑誌のデータと写真のデータの出来がすっごく良くって消すのがもったいなくって……」

「……た、楯無さん?それは今どこに?」

「…シャルロットちゃんが捕まってる鳥籠の鍵は電子ロックで、決められた4つのデータを送信して削除すると開いていくの……ここまで言えばわかるわよね?」

 

本当に楽しそうに笑う楯無。

クソ、あまりにも弄りすぎたしっぺ返しがここで来たか!?

そんなデータ少しでも漏れてみろ、絶対死ぬほど弄られるぞ!?

 

「安心して?失敗しても更識の名に誓って学園の外には流さないから」

「……全力で頑張ります」

「うん、よろしい」

 

満足した顔で頷く楯無とげっそりと項垂れる俺。

まあ、負けなければ問題はないんだ。

ただ第一の門番が料理って……ハードル高くない?

楯無は再びマイクに向かって声をあげる。

 

『さて、審査員は山田真耶先生、榊原菜月先生、最後にエドワース・フランシィ先生の三人。三人ともカップルのケーキと思えるケーキを選んでくださいね』

 

紹介された先生方は手を振っている。

さて……今からケーキを作るの?

すげぇ時間かかるけど…

そんなことを考えていると一組メンバーがクロッシュが被さった皿を6皿持ってくる。

もしかしてあれか?

俺の方は喫茶で出したケーキを使うのか?

じゃあ……フォンダンショコラかガトーショコラ・タルトあたりかな?

日本では特にチョコレートってバレンタインの関係で恋人ってイメージが強いからな。

先生方の前に皿が並べられクロッシュが開けられる。

片方の皿には小さな木の棒のようなチョコレートのホイップクリームを纏ったロールケーキが置いてある。

【ブッシュドノエル】か……

一説には貧しいカップルがクリスマスの寒い冬にせめて薪の1束でも…と贈った事が由来とも言われているクリスマスケーキ。

確かに恋人のケーキだな。

じゃあ俺の方は……

ビスキュイ生地で囲むように包まれた5センチサイズの丸いオレンジムースケーキ。

構成は薄いスポンジ、オレンジムース、フルーツの三層で、ムースの上のフルーツはオレンジ、グレープフルーツ、蜜柑の果肉が飾られており、その上にまたもやビスキュイ生地で蓋をしてリボンで飾り付けている。

今日のご奉仕喫茶で限定20食で出した【柑橘類のムースケーキ】だ。

……ヤバい。

…………何故こいつがそこにあげる。

シャルロットの方を見るとシャルロットも顔を赤くしている。

どうする……秘密がばれたらこの勝負、勝っても負けてもヤバい。

楯無の方を見ると既にニヤニヤしている。

この人にはこのケーキのある事がばれている……

 

『まずは料理部の【ブッシュドノエル】!!木の棒のように見えるロールケーキに隠された由来、その昔貧しいカップルたちが思い合い、寒い冬を越える為に薪を贈った事が由来とされるクリスマスケーキ!!飾りのフルーツ等は一切無し!!ケーキそのものの味で勝負だ!!』

 

楯無の解説はブッシュドノエルの方からか……

先にそっちの方から食えという事か。

スッとフォークがほとんど抵抗無くロールケーキに刺さり持ち上げられる。

口に入れると三人とも顔をほころばせる。

 

「う〜ん!!おいしい!!」

「ロールケーキなのに重く感じませんね」

「あと…中のチョコクリームに胡桃が入ってるわね。私は好きよ?こういうの」

 

三人の反応は悪くない。

その反応を見て料理部の部長と思わしき女性が話す。

 

「はい、軽いロールケーキの秘密の一つはスポンジがシフォンケーキの生地で出来てるから何です。あともう2つありますが……こっちは料理部の秘密です」

 

そう言ってくすりと笑う彼女。

なるほど、シフォンケーキの生地なら軽い口当たりになるな。

薄く焼くのと火の入れ方が難しそうだが今度俺も試してみよう。

しかし…問題は今目の前にあるケーキの方だ。

いや、別に失敗作だとか勝てないケーキだとかそう言ったことじゃない。

このタイミングでこのケーキがある事が問題なんだ。

先生方がロールケーキを食べ終わり、その事を確実に知ってる楯無の解説が始まる。

 

『さて、続いては筆頭執事のケーキ、【柑橘類のムースケーキ】。見た目は可愛らしく中身は少し酸っぱい初恋の味。そこにお酒の風味もついて可愛らしい大人の雰囲気なこのケーキ。一年一組で開かれていた【ご奉仕喫茶】の限定20食のレア物よ』

 

……秘密はバラさないのか?

だとしたらここはケーキの味で勝負だ。

ムースケーキを食べている先生方は食べながら意見を口にする。

 

「うわぁ……こっちはあれね。お店のケーキみたい」

「限定物ってことだけはあるわね」

「私も食べたかったんですけど試食の時も食べ損なってたんですよ。クラスで選ぶ時も一番人気でしたよ?」

 

美味しそうに食べている先生方。

しかし、少し雲行きが怪しい。

なんだか先生方が俺のケーキを食べた後から唸り始めたのだ。

 

「どっちが美味しいか?って言われたら…迷わずに風音君なんだけどね〜……」

「ああ……確かに。カップルのケーキですものねぇ〜……」

「私は……甲乙つけがたいんだけどねぇ」

 

ヤバい。

やはり恋人のケーキなんてお題じゃこちらが一歩劣るか。

こっちができる事なんて秘密以外じゃ、せいぜいケーキに使った工夫ぐらいだ。

秘密の方もいざとなったら言わなきゃいけないが、足掻くだけ足掻こう。

言い訳をしている気分になりながら俺は自身の作ったケーキの解説を始める。

 

「えっと、そのケーキには細かい工夫がーー」

「お待ちください」

 

だがその解説は思いもよらない相手に止められる。

俺の解説(言い訳)を止めた相手。

それは………………料理部の1人だった。

何か問題でもあったか?

 

「ぶ、部長?どうしました?」

「この勝負……私たちの負けです」

 

!?

会場全体が驚きに包まれる。

今の先生方の反応を見る限り確実に料理部の方が勝っていたはずだ。

そして理由を察した俺の顔は青くなっているかもしれない。

 

「先輩!?どうしてですか!?」

「簡単な話よ……カップル…いえ、恋人のケーキという題材であのケーキを出された時点で私たちの負け。いえ、むしろ認めなければ無様を晒すわ」

 

…………不味い。

この発言、絶対に俺の本当のケーキの名前(・・・・・・・・・)を知っている。

会場に同様が広がり俺には脂汗が身体中に広がる。

シャルロットも俺と同じことを考えているのか顔を赤くしてうつむいている。

楯無は相変わらず楽しそうに解説をしている。

 

『おおっと!?ここでまさかのリタイア!?一体理由はなんなんだ!?』

「理由は簡単。あのケーキは風音さんにとって恋人のケーキとしてこれ以外には無いケーキだからです…ね?デュノアさん」

「…………え?」

『料理部の頭にここまで言わせる理由は一体なんなんだ!?』

「……ええええええええぇぇぇぇぇ!?!?!?」

 

そう言って楯無は手に持ったマイクを向ける…シャルロットの方に。

シャルロットは俺のほうを見て助けてと言いたそうだが俺にはどうすることもできない。

適当に場を濁しても負けるだろうし、それ以前に会場中に注目されてるから逃げようがない。

一通りあたりを見回した後、逃げられないと観念したシャルロットは顔を赤くしたままうつむき、ボソボソと話す。

 

「………ットです」

『?もう一度お願いします』

「シャ……【シャルロット】…です」

『お名前を聞いてるわけではありませよ?』

「……あのケーキの名前はシャルロットです!!」

 

もはやヤケクソになりながら叫ぶように話すシャルロット。

それを聞いた途端会場中で黄色い悲鳴やガヤガヤと囃し立てる声が聞こえる。

そう、あの【柑橘類のムースケーキ】の正式名称は柑橘類のシャルロット、いや【シャルロット・オランジュ】だ。

…正直狙ったところが無かったとは言わない。クラス内での人気投票でもぶっちぎりの一位だったので限定20食で出したのだ。

学園祭が終わった後に数人にばれても、シャルロットをからかって終わらせるつもりだった。

だが……だが、一体誰がこんなタイミングでバレると考えるだろうか?

 

『な、な、な、なんと!!筆頭執事のケーキはデュノア姫の名前のケーキだ!?これは……もはや口にするのも恥ずかしくなるほどのストレート!!』

「ええ、こんなケーキを出されたら認めなければお菓子の本名を見抜けない知識不足、知っててなお負けを認めなければ料理に対する理解不足よ。料理部の看板を背負っている以上それはできないわ」

 

そう言い終わった後の二人の顔を俺は忘れない。

計画通りとも言いたそうに浮かべる笑み。

そして想定通りとも言いたそうな周りの料理部員。

……こいつらはじめからグルだ!?

おそらくここまで完全にシナリオ通りなのだろう。

互いに浮かべる笑みがそれを物語っている。

 

『という事で先生方?この勝負筆頭執事の勝ちで問題はありませんか!?』

「私ははじめから風音君の方を選ぶつもりだったから問題ないわよ?」

「いやぁ……ちょっと憧れますね。自分の名前のケーキって」

「個人的には料理部のケーキの方が好きなんだけどね〜。本人がいいって言ってるからいいでしょう」

 

先生方は顔を赤くしながらも俺の勝利を認めてくれた。

だが、何だろう……このなんとも言えない敗北感は。

肩の力が抜けた様にがっくりと微妙な顔をする。

シャルロットの方を見ると顔から煙が出そうなほど顔を赤くしながら周りのクラスメイトたちにからかわれているようだ。

俺はこの闘いに本当に勝ったのだろうか?

負けたはずなのにもはや喜びを隠そうともしない料理部員たちと首謀者であろう楯無の笑顔を見ながら俺はなんとも言えない気持ちになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

親切と言う名のおせっかい。

そっとしておく思いやり。

〜相田みつを〜

 


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