インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
五反田弾。
彼は今、自らの幸せを噛み締めていた。
右を向いても美少女。
左を向いても美少女。
さらに、今自分を案内してくれているのは、金髪の超が付くレベルの美少女だ。
近くに
「ここが……楽園か…」
「いや、学園だから」
「ウルセェ、裏切り者!!せめて頭の中でくらい幸せを感じさせてくれよ!?」
「そ、そんな泣きそうな顔で言うなよ」
妄想を止めてしまったせいか、
先ほどから俺とシャルロットは五反田兄妹の学園案内をしている。一応弾の案内は俺がしているのだが、弾が俺に聞いてくるのは『可愛い娘はいるか?』くらいだ。
まぁ、男の弾からしてみれば女の子がメインと言うか、女の子しかいない学園祭なんてそこくらいしか見るところはないだろう。
女の子たちのノリに入るのは難しいし、ISに関してなんてこいつには全く関係のない話だしな。
一方シャルロットと蘭のペアは本格的にIS学園の学園祭を見周っていた。
「うわぁ!!シャルロットさん、あの宙に浮いてる看板って!?」
「うん、多分だけどIS技術の流用だね。
「へぇ…って事はこれにもISコアが!?」
「ううん、これくらいならコアがなくてもいけるんだ。例えばーーー」
といった風に学園祭を楽しみながらいろいろと聞いて歩いているみたいだ。
ちなみに弾がこの看板を見つけた時の感想は『占いの館って……手相占いか!?』と、宙に浮いてることより、女の子と触れ合えるかどうかの方に注目していた。
そんな風にして五反田兄妹と学園内を歩いていると、再び携帯が鳴る。
相手は……ラウラか。
そういえばラウラを今日は見てないな。
そんなことを考えながら電話にでる。
「もしもし、どうしたラウラ」
『奏兄、今何をしている』
「うん?友人の学園案内をしていたところさ」
『おばあちゃんが、今一年一組に来ている』
「ばあさんもう付いたのか…ちょっと時間がかかるかもしれないがすぐに向かうよ」
『わかった』
そう言って通話を終了する。
さて……弾たちに説明して一緒に来てもらうか、もしくはシャルロットには悪いが案内の方をシャルロットに一任して俺だけ向かうのもありだろう。
携帯をしまった俺に弾が話かける。
「どうした、奏」
「いや、うちのばあさんが学園に到着したらしいんだ」
「え!?アストリットさんもう着いたの?」
そう言ってシャルロットは話に入り込んできた。
「おう、多分ラウラが対応していたんじゃないか?さっきご奉仕喫茶でも見なかったし」
「ご奉仕喫茶だと!?奏、どういう店だ!!」
「単なるメイド喫茶だよ、で今から来るように連絡があってさ、悪いけど蘭ちゃんも一緒に来てもらっていいかい?一夏もいるしね」
「わかりました」
そう言って蘭に許可をもらって一組に向かう。
……弾?あいつならメイド喫茶と聞いてすでに足を一組に向けていた。
数分後教室につくと、何故か喫茶の方は何故か【Close】の張り紙……どう見ても手書きだ。
シャルロットもそれを見て首を傾げている。
「あれ?……どうしたんだろう?」
「売り切れよ、う・り・き・れ」
その言葉が発せられた方を見るとチャイナドレスの鈴が何処か疲れた様な顔をしてそこにいた。
「数分前までやってたんだけど材料切れで、更に一夏との写真撮影が収拾つかなくなってね。一時閉店して準備をするんだって」
「準備も何も……材料切れになったら終わりにするはずじゃ……」
「ああ、一夏との写真撮影のほうよ」
ああ、とその言葉に納得する俺とシャルロット。
たしかにそれなら元手はかからないしな。
多分準備の時間は一夏の休憩時間なのだろう。
ちなみに材料切れで閉店は二組との約束である。
本来のところ材料切れ後、一組を休憩室にする予定だったが、二組に場所を貸してもらった代わりに材料切れになったら閉店し、その後二組の中華喫茶のみの営業になる。
そうすれば少しは売り上げがマシになるという考えらしく、現在二組の教室を見てみると初めと比べそれなりに客が入っている。
「ちなみにさっきから一組の中が騒がしくなってて私が休憩がてら偵察に来たんだけど……って弾に蘭じゃない」
「ようやく気がついたか……」
「お久しぶりですね鈴さん?」
はぁ、とため息をつく弾と笑顔で威嚇をする蘭。
鈴もそれにのり、蘭を挑発する。
「あらら?なんであんたがここにいるのかしら?」
「シャルロットさんからチケットをもらったのよ」
「へー、チケットが無いと一夏に会いに行けないなんて不便ねぇ?」
ここで鈴が自分は何時でも会えるというアピールをする。
だが蘭にとっては予想どおりだった様で余裕がある。
一方弾は中華喫茶の方の女の子を眺めていた。
「いいえ?一夏さんとべ・つ・のクラスの鈴さんに心配してもらわなくても大丈夫ですよ」
「そう?じゃあこれから私、一夏とデートするつもりだけど邪魔しないでね?」
「あらー、そうなんですか。でも一夏さんが一緒に行こうって言ったら別ですよね」
「はぁー!?そうやっておこぼれを狙うのって負けを認めてる様なものよね?」
「単に魅力が足りないんじゃないですか?」
だんだん口喧嘩もヒートアップしていき鈴、蘭共にメンチを切れるほどの距離に顔を近づける。
その頃弾は通りすがりの女子生徒を目で追っていた。
「あんた!?言ってはならんことを……って言うかあんたも大差ないでしょうに!!」
「なっ!?わ、私はまだ時間がありますし!!」
「どーだか?数年前から成長して無いんじゃないの?」
「それはこっちにのセリフよ!!あんたこそ何センチ…いいえ!!何ミリ成長したか言ってみなさいよ!?」
「……………5センチ」
「はい、嘘決定!!」
蘭に見栄を張った嘘はすぐにバレ、鈴は顔を赤くする。
弾はそろそろ一組内に入りたい様だった。
「なっ!?あ、あんたはどうなのよ!?」
「え?………………6センチはーー」
「変な見栄はるなよ…蘭。っておまえら大差ないだろ」
いい加減弾は目の前で行われるドングリの背比べに飽きたのだろう。
呆れた顔をして二人を見る。
しかしその行為は矛先が弾に向くだけだった。
「お兄はうるさい!!」
「そうよ!!あんたは黙ってなさい、これは女の戦いなのよ……」
「わかった、わかったからそんなに噛み付くな。じゃあ俺と奏とデュノアさんは先に教室入るぞ。とりあえず奏なんてこいつのおばあさんがわざわざ来てくれてるんだ、早く合わせてやりたいんだが」
どうどうと落ち着く様に手で二人を抑えながら呆れた顔でそう言う弾。
それを聞いて蘭はハッとし鈴は驚く。
「え!?奏のおばあちゃんが来てるの!?」
「ああ、ばあさんさっき着いたってラウラから連絡あってさ」
「じゃあこんなところでたむろしている場合じゃないわね」
そう言って先ほどまでの怒りが静まる鈴。
一方蘭はやっちゃった…とつぶやくちょっと落ち込んでいるがシャルロットに笑いながら慰められている。
流石、この二人の衝突を静め続けてきた男、五反田弾。
この程度の口喧嘩ならすぐに静められるのね。
弾の近くにより小声で話しかける。
「(お見事。流石慣れてるだけはあるね)」
「(まぁ…無駄に慣れてるからな)」
「(とりあえず虚さんに伝える時に色はつけておくよ)」
「(マジか!?よっしゃ、テンション上がってきた)」
そう言って無駄に元気が良くなった弾を連れ教室内に入る。そこではメイド姿と普段の制服のクラスメイト達が一箇所に集まり何かワイワイ騒ぎながら見ている……
その中心にいるのはメイド姿のラウラと…相変わらず変わら無い微笑みを浮かべているばあさんだった。
「うわ!?この写真の奏ちっちゃ!!これっていつ頃の写真なんだ?ラウラ聞いてもらってもいいか?」
「うん?うわ、これって奏兄か?『おばあちゃん、この写真の奏兄は、いつ頃の写真なんだ?』」
「『その写真は…ああ、奏が家に来てすぐの写真ですよ。お隣の人が撮ってくれたの』」
「『ふーん…そうなのか。どおりで小さいはずだ』これは奏兄がおばあちゃんの家に住み始めてすぐの写真らしい」
「へー、なんか新鮮だな、奏の昔の姿って。じゃあこの写真はーーー」
俺がよく一緒に行動してる奴らと少数のクラスメイトはばあさんの近くでラウラの翻訳を聞きながら写真を見ている。ちなみ他のクラスメイトたちというと……
「見て見て、この風音くん!!」
「どれどれ……うわ!?犬と一緒に寝てる」
「うわぁぁ!!かわいいー」
「どっちが?」
「両方!!」
「あはは、見てこの写真。風音くんちっちゃい子にプロレス技かけられてる!!」
「何それ!?うわっ!?本当だ!?」
「あはは、すっごい必死な顔してる」
「この写真……奏くんカモにされて無い?」
「うん…風音くんがカメラに目を奪われてる間にチェスの駒動かしてる瞬間の写真よね…」
「このおじいちゃんたちひどいね」
「笑いながら言っても説得力ないわよ。っていうか多分カメラマンもグルよね、これって」
……全員俺の写真を見ている。
けっこう恥ずかしいな、この状況。
いや、別に写真を見られるのは構わないのだが『かわいい』と言われると少しくすぐったいと言うか……何か気恥ずかしい気分になってしまうのだ。
そうやってクラスの入り口に立っているとばあさんがこちらに気がついた。
「『ああ、奏。久しぶりね。こっちにいらっしゃい』」
「『久しぶり、ばあさん。ちなみにこの騒ぎは?』」
「『みんなで貴方の写真を見てたのよ?』」
「『わざわざ日本にまで持って来たの……』」
呆れた顔をしてそう呟くとばあさんも呆れた顔をする。
そして俺の周りのクラスメイトたちも数人を残してみんな目を丸くしている。
なんだ?と思ったが気にせずにばあさんとの会話は続く。
「『何を言ってるのですか。元を正せば貴方のせいですよ、奏』」
「『うえっ!?僕が何したって言うんだよ』」
「『この前の里帰り、突然来たせいで、ラウラとシャルロットさんにあまり見せてあげられなかったんですよ?』」
「『……写真…全部見せる気?』」
「『当たり前ですよ』」
そう言ってにっこりと笑うばあさんを目の前にして、俺はがっくりと肩を落としてため息をつく。
しかし…ラウラ、ね。
いい関係は築けているみたいだ。
ちょっと安心した俺は笑顔になってばあさんに声をかける。
「『まぁ…元気そうで安心したよ』」
「『こっちも同じですよ。貴方、全く連絡しないのですから…ラウラに聞くしかないんですよ?』」
「『便りがないのは元気な証拠さ』……って一夏、何鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔してるんだ?」
「いや…そういえばお前ってドイツ出身だったんだなーって思い出してさ……」
その言葉を聞いてガクッとこけそうになる。
おまえ、友人の出身地くらい覚えておけと。
一夏がそう言うと周りのクラスメイト数人も頷く。
「風音くんが外国組だったって事完全に忘れてた」
「すごいペラペラだったもんね、ドイツ語?」
「って言うか、この場合風音くんは日本語が上手いドイツ人か、ドイツ語が上手い日本人かわからないわね」
「君たちもかい!?まあ……僕自身、どこの国の人間かわからないからね。ただ記憶がある内の最初の頃は日本語しか話せなかったから、多分日本人だと思うからドイツ語が上手い日本人でいいと思うよ」
俺が言い終えると再びクラス内が沈黙する。
アレ?俺なんか不味いこと言った?
長い沈黙の後に本音が思い出したかのように声をあげる。
「そういえばソーって記憶喪失だった!!」
「「「「「「「…あ」」」」」」」
今度こそ完全にがっくりとする。
おい、確かにそれっぽい行動はとっちゃいないが、それでも俺の基本情報でしょうに……
俺はがっくりとしたまま突っ込みを入れる。
「えー…そこ?」
「いやー…なんというか……日本に馴染みすぎじゃない?風音君」
「……本当は元々日本人で政治的な理由で外国出身って事にしてるとか?」
「……なんかそっちでも納得できるというか……そっちの方が納得できるような」
「そこから疑っちゃうの!?君たち!?」
突然湧いて出てきた疑惑にさすがの俺もあたふたする。
ちなみに弾は『あー、やっぱり…』とかボソッと言ってるし、蘭は考えこんでいる。
そして、さらに俺への追求は続く。
「……記憶喪失は…なんというか、正直風音君、あまり気にしてないでしょ?」
「……えっと……そんなに不便ではないからね…」
「…なんていうか風音君のキャラクター的に記憶喪失ってのが目立ってないんだよね」
「それよりも目立つ要素が多いもんねぇ」
まさかのダメ出しを食らう俺。
キャラクター的にって……
さらに俺への
「まずはその性格。これが一番外国出身と記憶喪失を食っちゃてるのよね」
「そうそう、さっきも言ったけど日本に馴染みすぎよね」
「なんていうか傍観してるというか落ち着きすぎっていうか」
「多分年齢詐欺なのよ」
「「「「「「ああ〜」」」」」」
ひどい言われようだ。
っていうかシャルロットはどこに行った?
さっきから静かだが…
探してみると既に我関せずといったようにばあさんと笑顔で会話して嫌がる。
どうしてこんな事に…と呆然としたままダメ出しをくらっているとトントンと肩を叩かれる。
「風音君、それは自業自得よ」
「……突然湧いて心読まないでください、楯無さん」
俺がそう言うとクラスメイトたちもビックリする。
驚かすことのできた楯無は満足そうに俺たちにヤッホーと手を振る。
「久しぶりね、織斑君」
「……あ、あの時の先輩」
「うん?一夏、おまえ楯無さんと会ったことあったのか?」
まさか一夏があったことがあるとは……
一夏が驚いた顔で話を続ける。
「ああ、アリーナで訓練をしている時に何回か……って楯無って……もしかして例の簪の姉さん!?」
「おまえ知らなかったのかよ!?」
「いや…何回かアドバイスはしてもらったけど……そういや名前を聞いたことなかった」
一夏がぽりぽりと頬かきながらそう言うと楯無はすんすんと泣き真似をする。
「ひどいわ、織斑君。いろいろと手とり足とり教えてあげたのに……私に全く興味がなかったなんて」
「い、いやぁ…それは……」
「いいの…どうせ私とは遊びだったの…騙された私が悪いのよ……」
そう言ってペタリとその場に膝をついて再び泣き真似を続ける。
俺は白けた顔で楯無を見るが、一夏はそれに気がついていない。
そして気がついていないのは一夏だけではなく周りの箒たちもまた騙されているようだ。
「一夏さん?何をしでかしたんですの?」
「いぃちぃかぁ?あんたまたやったの?」
「えぇぇ!?お、俺何もしてない!?」
「ひ、ひどい!?…あんなにやったっていうのに…いえ、仕方ないことね…でも織斑君?せめてアリーナの中でだけの関係でいいの…これからも側で……」
「いったい何をしたんだ!!一夏!?」
「今白状しなければ…拷問にかける」
ジリジリと四人に追い詰められる一夏。
押されるように後ろに下がるとそこには怒りとは別のもので燃えている一人の
「一夏……」
「その声…弾か!!久しぶり!!突然で悪いが助けてくれ!!」
「一夏貴様ぁ!!」
「なんでおまえがキレてるんだよ!?」
突然泣いている弾に胸ぐらをつかまれ驚く一夏。
そしてもてない男の嫉妬は続く。
「おまえ……こんな可愛い娘に囲まれて……さらにお姉さんに手を出すって……」
「いや!?出してない!!出してないから!!」
「もはや問答無用!!」
「いい加減にして下さい、会長」
パコんと言う音と共に泣き真似をする楯無の頭に丸められた用紙が落ちる。
そこには呆れた顔で楯無を叱る虚さんだった。
「全く……下級生をいじめて遊ぶのはやめなさい」
「いったいーい。突然叩くなんて虚ちゃんひどいわよ」
「ひどいのは貴方の頭です…あら?」
そう言うと虚さんの目線は一夏の胸ぐらを掴む弾にうつった。
弾は弾で一夏の胸ぐらをつかんだままボーっと虚さんの方を見る。
そして一夏はいい加減にして欲しいのか弾に訴えをあげる。
「だーん…いい加減離してくれよ…」
「あ?…ああ悪い」
そう言うとハッとしたように弾は一夏の胸ぐらを放す。
しかし目線は虚さんから離れることはなく、虚さんも弾を見続けている。
……え?何?この雰囲気。
楯無の方を見ると彼女も予想外の展開なのか、え?っといった顔をしている。
弾はそのままの状態で俺に話かける。
「奏…この人のは…」
「あ、ああ…布仏虚さんって言ってうちのクラスメイトのお姉さん。でーーー」
「虚さん、お久しぶりぶりです」
「お、お兄?」
なんか弾が今まで見たことがないほどの清々しい顔で虚さんに話かける。
すごい不安そうに蘭は弾を気づかうように見ているし、クラスメイトたちも突然の展開に戸惑っている。
それもそうだろう。
まだ紹介すらされてない、おそらくクラスの男二人の友人が突然ラブコメのような展開をしているのだ。
「はい、お久しぶりです…五反田弾さん」
「え?いつ俺の名前を?」
「あ、いえ!?先ほど風音さんから教えていただいただけで別段何か深い理由があったわけではないのですがただ学園内にいる男性の名前が気になっただけでーー」
「ストーップ!!お姉ちゃん、止まって!?」
「虚ちゃんが…混乱してる!?」
表情を変えずにノンストップで話す虚さんを本音が止め、楯無はそれを見て唖然としている。
そして互いに見つめ合う二人。
…よし、まずは状況の確認だ。
「楯無さん!!タイム!!一旦タイムを下さい!!」
「っ!!わかったわ!!むしろこちらからも頼むわ!!」
そう言って俺と一夏は弾を、楯無と本音は虚さんを引きずるように動かす。
クラスメイトたちは完全に観戦モードになっているようで、タイムと言った後に好き勝手な事を小声で話し始めた。
教室の端まで弾を引っ張り、そこで弾に小声で話かける。
「おい!!弾!!どうした!?」
「天使だ…天使がいた…」
「て、天使ぃ!?…おい奏。どういう事だ?」
「えっと…簡単に説明すると弾があの虚さんに一目惚れしたんだが…」
「だが?」
「いや、なんか虚さんも意識してるように俺は見えたんだが」
「…………うん?つまり…互いに一目惚れ?」
「多分……」
「じゃあ…どうする?」
「どうするって……」
弾を見るとボーっとしている。
虚さんの方はと後ろを振り向くと本音が虚さんの顔の前で手を振っているが全く目に入っていないようだ。
楯無の方を見ると彼女もお手上げといった風に首を振っている。
「………………よし、放置しつつ臨機応変な対応で行こう、そうしよう」
「それでいいのか!?」
「むしろこの状態の弾をどうするんだよ」
そう言うと一夏は弾の方を見る。
未だにボーっとしている。
というかなんかうっとりとした顔をしている。
「…………美しい…」
「うん、放置しよう」
そう判断した一夏の顔はすごい優しい微笑みを浮かべていた。
再び弾を元の場所へ送り出し、後ろから一夏と共に見守る。
向こうの方も同じ考えなのか虚さんを元の場所へ動かし様子を見ているようだった。
クラスメイトたちも見守る中で再び二人は向き合う。
1分、2分、3分と時間が経過していく。
が、二人に動きはない。
というか二人とも見つめあったままで満足しているようだ。
一夏の方を見るとちょうど、一夏はこのままじゃまずいと思ったのか俺の方に意見を求めてきた。
「どうする、奏…このままじゃ動きはないぞ?」
「いや…もうこのままでいいんじゃない?二人とも幸せそうだし」
「いや、まずいだろ」
「だよなぁ……」
そう考え、再び弾を後ろに引っ張る。
それを見て本音と楯無も虚さんを引きずる。
さて、再び降り出しに戻ったな。
いったいどうしたものか…と考えているとこちらの方に鈴と蘭が来る。
そして弾を見ると互いに顔を見合わせ頷く。
そして次の瞬間には蘭は頭を叩き鈴はボディブローを決めていた。
さすがにきいたのか弾がお花畑から帰還して悶絶している。
「ごぁ……と、突然なんだよ!?」
「なんだよじゃないわよ!!馬鹿お兄!!」
「あんた何してんの!?」
「何って……幸せを感じてた?」
再び二人は動き、同時に弾の頭を叩く。
タイミングのズレもなく同時に頭を叩くその様は見事なものである。
「っつぅ…叩くなよ!?」
「お兄があまりにも間抜けだからでしょ!?」
「このまま見つめ合うつもりなの!?あんたは!?」
「いや………できればお話したいし…アドレスとか聞きたいし…あわよくば学園祭を見て回れたらなぁ……って」
「じゃあ動きなさいよ!!」
「待ってれば状況が良くなるなんてないからね」
ぐうの音も出ない正論である。
まぁ…それができれば苦労しないのだが。
案の定、弾は押されながらも言い訳をする。
ちなみにこの時俺と一夏は二人の勢いに押されて何も言えない状況である。
「で、でも…何を話せば……」
「お兄が知りたい事を聞くとか、自己紹介とか、ちょっとしたイベントの内容を聞くとかあるでしょうに!!」
「何にせよ弾。あんたがこのまま動かなかったらこの出会いはこれでおしまいよ」
そう鈴に言い切られショックを受ける弾。
まぁ…アドレスくらいなら聞いてやろうかと考えていたが発破剤になるなら何も言わないでおこう。
ショックを受けてオロオロしている弾だったがそれすら無視して二人は弾の背中を押す。
「ちょっと待て!?心の準備が!?」
「「いいから行ってこい!!この馬鹿!!」」
そして弾は再び舞台に戻るのだった。
そしてそこには先に元の場所に戻っていた虚さんがいた。
彼女の方も顔は赤いが意識はこの世界に帰ってきているようだった。
しばらく見つめ合ったかと思うと弾のほうが覚悟を決めたようだ。
「あ、あの!!虚さん!!」
「っ、は、はい!!」
「この後時間があるようなら…お、おちゃでも一緒にのみませんか!?」
「は、ははは、ハイ!!」
とりあえず弾は虚さんをお茶に誘えたようだ。
それを見てやれやれとため息をつく二人とホッと胸を撫で下ろす一夏と楯無、そしてワクワクとした目で続きを楽しむ本音とクラスメイトたち。
既に続きはこのクラスで行うらしくクラスメイトたちによって二人のお茶会のセッティングがなされている。
セシリアはお茶の準備をしているしラウラは余っているお菓子を皿に盛っている。
シャルロットはと言うとばあさんに今あった出来事を楽しそうに説明しているようだ。
まあ、とりあえず一安心かな。
俺は深くため息をつくと幸せそうに笑う友人と先輩を眺めるのだった。
一生の間に一人の人間でも幸福にすることが出来れば自分の幸福なのだ。
〜川端 康成〜