インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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姉ちゃん!!
『早く』って『今』さっ!!
すいません投下します。m(_ _)m


第九十五話 スクール・フェスティバル

数日後IS学園の学園祭が開幕する。

今頃体育館で開会式でも行われているだろうが俺とシャルロットと一夏、後は数名のホールスタッフたちは開会式に参加せずに開店準備をしていた。

と言っても前日までに殆どやる事は終わらせてる。

今やっているのは確認作業と店内の清掃、後は着替えくらいだ。

俺は厨房と言う名の裏方担当なのだが何故か服装は執事服だ。

拒否したのだが無理やり押し付けられ現在、別室で着替えている。

と言ってもこのままだと借り物を無駄に汚してしまいそうなので、俺の現在の服装はシャツにスラックス、更にタイはつけずに首元は開け、腰には黒い前掛けをつけ、髪型もポマードでオールバックにしている。

この格好はドイツでのバイト時代の服装だ。

って言ってもスラックスはジーンズだったり、髪型をきめるのが面倒でバンダナで済ますこともざらだったが…

まぁ、とりあえず服装はこれでいいだろ。

着替えを終えジャケットとウェストコートを手に持って一組に戻る。

中に入ると結構おしゃれ雰囲気のする店内になっている。

俺が来たことに気がついたシャルロットがこちらによってくる。

頭にカチューシャを付けたクラシックだかクラシカルとか言ったロングスカートのメイド服を着ている。

俺の目の前に来るとクルッと一回りして楽しそうに俺に話しかけてくる。

 

「ねぇねぇ、ソウ!!似合ってる!?」

「おう、いいんじゃない。様になってるよ」

「えへへ〜、よかった。ソウもすごい似合ってるよ」

「ありがとさん」

 

そう言って笑うシャルロット。

こいつ前にメイド喫茶で助っ人した時は執事服だったんだっけ?

よっぽど着てみたかったんだろうな、メイド服。

楽しそうに笑っているシャルロットの次は執事服に身を包んだ一夏がこちらに来た。

首元が苦しいのかしきりにいじっているが結構似合ってるな…

これは集客が望めそうだ。

 

「お、奏。ようやく来たか。っていうかお前は執事服着ないのか?」

「しっかり着てるよ。ジャケットを着てないのは厨房で汚さない為さ。僕、ホール出ないし。客寄せパンダは一夏に任せた」

「うわぁ…ずりぃ」

「じゃあ厨房やるかい?」

「少しならできるけど、担当は奏だからなぁ……二人でやらない?」

「ダメよ、織斑くん。せっかくのこの店の売りが一つ減っちゃうじゃない」

 

そう言ってこちらに来たのはメイド服に着替えた谷本だ。

他にも数名俺たちに近寄って口々に感想を言っている。

 

「うわぁ…風音くん印象変わるね…」

「なんていうか、織斑くんは正統派執事って感じで、風音くんは……ワイルド系コック?」

「着崩してるけどそれが様になってるっていうか……着慣れてるって感じ」

「元々こんな格好でバイトしていた時があったからね」

 

むしろ俺はしっかりとした格好だと着せられている感がすごいのだ。

ばあさんにも大笑いされた記憶もある。

そんな会話していると相川がこちらに手を振って一夏を呼んでいる。

 

「織斑く〜ん。このカメラどうすればいいの?」

「ああ、今行くからちょっと待ってて」

 

そう言って一夏は相川の方へ向かおうとする。

しかしカメラか……何か使う予定はあっただろうか?

カメラで何をする気か一夏に聞いてみる。

 

「うん?カメラって?」

「ああ、枚数限定でメイド服を着て写真撮影ってイベントやることにしたんだ」

「突然だなぁ……織斑先生には?」

「昨日のうちに伝えてあるよ」

「現像は?」

「俺のインスタントカメラ使うから問題無し。とりあえず200枚は取れるから、多分大丈夫だろ」

 

そう言って手をひらひら振りながら一夏は相川の方へ歩いていく。

200枚か……おそらく足りなくなるな。

補充は出来ないけど限定をうたってるし、いざとなったら写メるだろう。

 

「これってどういう風に使うの?」

「えっと、これはだなーー」

 

相川含め数人のスタッフが一夏からカメラの説明を受けている。

なんか学園祭ぽいな〜と感じているとシャルロットが話しかけてくる。

 

「そういえばソウはチケット誰に渡したの?」

「そう言うシャルロットは?」

「うん?私は蘭にあげたよ」

 

なんだかんだで仲良くなっているな、こいつと蘭。

この間アドレス教えたら色々と連絡しているみたいだし。

シャルロットからしたら可愛い後輩みたいなもんだし、蘭からしたら色々と教えてくれる先輩だしな。結構勉強を教えてもらってるらしい。

あーと納得しながら俺は話しを続ける。

 

「ああ、蘭ちゃんにか。俺の方は秘密」

「ええ!?ずるい」

「何がだよ、まぁ当ててみな」

「その言い方って事はアストリットさんじゃないんでしょ?」

「婆さんの方は先にラウラが送ってたわ」

「じゃあ…中学生時代の友達?」

「弾は一夏がやったし、一馬は外せない用事があるらしい」

 

送った相手はお前(シャルロット)関係だがな。

まぁ、来たとしても会いには来ないだろう。

シャルロットがうーんと唸りながら考えているとこちらの方にカメラを持ってみんなが近寄ってくる。

 

「どうした、一夏」

「いや、試しに数枚撮って飾りつけようって話しになってさ」

「僕が撮ればいいの?」

「ううん、シャルロットちゃんとツーショットで撮らない?」

「うん、撮る」

 

俺が何か言う前にシャルロットが即答する。

さっきまで考えこんでたのに話しはしっかり聞いてたのな。

シャルロットは急かすように俺にせがむ。

 

「ソウ、しっかりとした格好して」

「いや、これでいいんじゃない?」

 

着替えてももう一回脱ぐし。

相川の方を見ると顎に手を当てて考えると答えを返してくれた。

 

「うーん…ご奉仕喫茶だから、できればコックみたいな格好より執事っぽい格好の方がいいかな」

「りょーかい」

 

そう言って腰の前掛けを取り、ループタイを付ける。

そしてウェストコートとジャケットを身に付け軽く身なりを整える。

 

「風音くん、ジャケット着たらできる執事みたいになったね」

「お褒め頂きありがとうございます、レディ」

 

そう言ってしっかりとしたお辞儀をして見せる。

おふざけでやったのだがそれがまた話しのネタになる。

 

「うーん…風音くんをホールに出さないのがもったいない気がしてきた」

「似合ってるわよねぇー」

「若き筆頭執事みたいな?」

「じゃあデュノアさんは?」

「同僚の同期とか、もしくは新入りの見習いで……筆頭執事に憧れてるのよね」

「そこから燃え上がる職場恋愛!!」

「話しが一つ書けるわね」

 

きゃーきゃー言いながら盛り上がる彼女たち。

そろそろ俺も準備をしなきゃ間に合わないので急かすことにする。

 

「からかわない、からかわない。時間もせまってきてるし早く撮ろう」

「 それもそうね、じゃあ…1+1は?」

「「2」」

 

カシャという音と共にフラッシュが光る。

印刷された写真にはメイド姿のシャルロットと執事の格好をした俺が笑いながら映っていた。

その後数枚撮って、コルクボードに飾り付けるのは一夏に任せ、俺は厨房に入っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

学園祭開催から10分後。

 

「風音くん!!追加の注文でドーナツ3つにイチゴのクレープ、後紅茶が二つ!!」

「了解。シャルロット紅茶いけるか!?」

「うん、大丈夫!!」

「新規4名来たよー」

 

すでに一組は人で溢れかえっていた。

当初の予定よりも早いが元々店内は狭いのだ。

開始数分で満席になったため、鈴の協力の元、2組の教室でも食べることができるようにしてもらった。

2組の方は中華喫茶と言うのをやっているらしいがこちらに客を取られ閑古鳥が鳴いていたらしく、少しでも売り上げをあげたいのか、とりあえず客で店内をいっぱいにしたいらしい。

まぁ、それでも注文は来ないらしいが。

人の店を心配しても仕方ないので、今来ている注文を必死にこなす。

 

「風音くん!!また追加ね!!」

「ごめん!!冷たいクレープ類一旦ストップ!!」

「どれくらいで再開できそう?」

「30分……いや20分で再開させる!!」

「わかった!!」

 

ホールの方も一気にお客がきたせいでパンク状態だ。

先ほどから注文が止まらず一度も手を休めてないくらいだ。

数分後、一夏が汗だくで厨房に入ってくる。

 

「奏!!シフォンケーキまだか!?」

「今仕上げる!!悪いが数分もたせろ!!」

「も、もたせるって!?」

「別の注文あったろ!?それを持っててる間に仕上げる」

「わかった!!」

 

おそらくお客から催促が来たんだろう。

一夏にミルクレープとパウンドケーキを持たせシフォンケーキの仕上に入る。

長方形の皿の右上の辺りにケーキを置き手前にホイップクリームを絞る。

カットした、バナナ、リンゴ、オレンジなどの果物を少しずつ飾り付け、上からベリー類で作ったフルーツソースと粉糖をかける。

これでシフォンケーキは完成だ。

開始前にホイップクリームを大量に泡立てておいて助かった。

だがドリンク類が少し詰まってるな。ヘルプに入りたいが……

そんなことを考えていると厨房にセシリアが入ってくる。

 

「奏さん!!飲み物の方に手伝いに入りますわ」

「助かる!!シャルロット、コッチのアップルパイを仕上げてくれ」

「一回タルトをお客様に持っててからでいい!?」

「ええ!?ホールの方は!?」

「一気にお客様がきたせいでパンクしてる!!」

お客に出ていないお菓子を確認するとパッと見ただけで10皿はある。

このままじゃホールの方が参ってしまうな。

 

「あー……一回厨房のお菓子スタッフもホールに回って」

「今来てる注文は!?」

「とりあえず僕が仕上げるからまず溜まってるお菓子をお客さんに届けて」

 

そう言うと俺以外の厨房のみんながお菓子を持ってホールに出て行く。

やはり想定どおりにはいかないものだな。

そんなことを考えながらアップルパイを仕上げる。

アングレーズソースをさっと丸い皿に広げ、その上ベリーソースで簡単な模様を描く。

最後に書き上げた模様の上にパイを置いてミントを散らせば完成だ。

俺がアップルパイを仕上げるのと同時に岸原がお菓子を取りに来た。

 

「風音くん!!アップルパイは!?」

「岸原さん、ナイスタイミング。今ちょうど仕上がった。後クッキーの盛り上わせも一緒に持ってて」

「わかったわ」

 

岸原がアップルパイとクッキーを持って出て行くのを確認し注文票を確認する。

軽く30種類ほど仕上げなきゃいけないな。

ここからが俺の戦場だ。

そうやって俺は、目についた注文をかたっぱしから仕上げていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、客足は落ち着きを見せていた。

途中一夏が関係するアクシデントが何回かあったがなんとか無事に乗り越えことができた。

俺は厨房にある椅子に腰掛け深くため息をつく。

この数時間、一度も手を休めずにお菓子を仕上げ、追加で作り、そしてお客に持っていった。

正直ホールに出るのが一番疲れた。

一回出た時に一夏が誘拐されそうになっていたが…おそらく気のせいだろう。

 

「ソウ、お疲れ様」

 

そう言われた方を見るとシャルロットがオレンジジュースを二つ持って来てくれていた。

お礼を言って受け取り一気に飲み干した。

 

「かーっ!!生き返る」

「本当にノンストップだったもんね」

「途中何度か逃げたくなった」

「もう、そんなこと言って……実は私も思った」

 

そう言って二人で笑い会うと鷹月がこちらにくる。

何か追加の注文でもきたのだろうか?

 

「鷹月さん、追加?」

「ううん。風音くんとデュノアさん、休憩まだでしょ?交代しに来たの」

「今休んで大丈夫?」

「うん、注文落ち着いてるし、みんなだいぶ慣れて来たし。むしろ今しか休めないかも」

「了解、混みだしたら携帯に連絡して。すぐ来るから」

「りょーかい。風音くん、デュノアさん、楽しんで来てね」

 

鷹月の好意に甘え、俺とシャルロットは休憩に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

シャルロットと二人で学園内を歩く……メイド服と執事服で。

着替えをする時間ももったいなく感じ、俺とシャルロットはそのままの格好で休憩に入ったのだ。

 

「とりあえずどこに行く?」

「うーん……簪のところにいかない?」

「簪ちゃんって事は…4組か。何やってるの?」

「確か『お化け屋敷』だって」

 

そりゃまたポピュラーな。

しかしISの技術者が多くいるIS学園でのお化け屋敷か……

期待はできそうだな。

そうして俺たちは四組の方へと進んで行く。

四組の方へと行くにつれて廊下が暗くなっていく。

教室の前に来ると最早真っ暗で道の所々に置かれたロウソクのような明かりしかない。

お化け屋敷事態はそれなりに混んでいるし、時々中から悲鳴が聞こえる。

暗くなっている空間を見渡すとお岩さんの格好をした簪が受付をしていた。

簪は俺たちに気がつくと別の生徒に受け付けを任せこちらにくる。

どういう原理かはわからないけれど淡く光っている簪。

まるで本物のお岩さんのようだ。

 

「奏さん、シャルロットさん、いらっしゃい」

「やっ、簪ちゃん。結構混んでるみたいだけど?」

「はい。って言っても一組には負けます」

「客寄せパンダが頑張ってるからね」

 

そう言うと簪はクスリと笑う。

 

「それもあると思いますけど、奏さんのお菓子のせいというのもあると思いますよ?うちのクラスでも代わる代わるお菓子目当てで何回も行ってる娘も居ますし」

 

あの行列の理由は何回も並んでいるからか……

まぁ美味しいって言ってくれてるならいいけどさ。そんなことを考えていると再び四組内から悲鳴が上がる。

一体中で何が起きているのか……

シャルロットも同じことを考えていたらしく簪に尋ねる。

 

「簪?このお化け屋敷ってどんなものなの?」

「はい、初めは普通に仮装しておどろかすはずだったのですが…」

「ですが?」

「もっとIS学園らしくしようということでIS技術由来のバーチャル関連の技術やグラフィック技術を駆使して3Dの本物の浮かぶ幽霊や、突然隣にいた人がミイラになったりします」

「……言っていいの?それ」

「はい、中ではもっとエグいのがいっぱいいますから」

 

簪がそう言うと再び中から悲鳴が上がる。

……なんというか、本物が混じってもわからないレベルのお化け屋敷らしい。

シャルロットの方を見ると口を引きつらせている。

 

「奏さんにシャルロットさんも入りませんか?今ならサービスしますよ?」

「サ、サービスって?」

「あまりにもエグくて使用が禁止されたものも使います」

 

そう簪が言うと中から人が出てくる。

げっそりとした表情で少しやつれている。

それを見て簪がそっと出て来た人の後ろに音も無く、すーっと回りボソッと話す。

 

「……またのお越しをお待ちしてます……」

「!?!?!き、きゃぁぁああああ!!」

 

驚き後ろを振り返るとそこに居たのはお岩さん。

さらに驚かされた彼女は悲鳴をあげながら走り去っていった。

満足した感じに頷く四組メンバー。

そして全員がこちらを期待した目で見てくる。

……今の彼女が走って逃げるほどの恐怖体験よりさらにエグい恐怖体験……

 

「い、いやぁ……今回は遠慮しておくよ」

「……そうですか」

 

簪が残念そうな顔でそう言うと四組のみんなが舌を鳴らす。

そんなに使いたいの!?その禁止映像!?

再び四組内から悲鳴すると俺の携帯が鳴る。

画面を見ると一夏からだった。

 

「どうした一夏」

『悪い、奏。校門前に弾と蘭を迎えに行ってくれないか?』

「おまえはいけないのか?」

『ちょっと今はきつい』

 

電話の向こうからは楽しそうな声が聞こえてくる。

おそらく一組だろうが手を離せないほど混んでいるのか?

 

『織斑くーん、早くー。写真撮っちゃうよー』

『今行く!!って事で頼んだ』

 

そう言って一夏は電話をきる。

なるほど、一夏とツーショットを撮っているから手を離せないのか。

まあ、ある意味うちの店の看板だからな。

離れるわけにはいかないか。

電話をきるとシャルロットが俺に尋ねてくる。

 

「ソウ、お店の方は忙しいの?」

「一夏だけ忙しい感じ」

「一夏だけ?……ああ、写真か」

「そう、それ。あとこの後校門前に弾と蘭ちゃんを迎えに行くことになった」

「うん、わかった」

 

シャルロットに説明をして簪の方を見る。

再び出て来たお客の後ろで驚かしている。

今度のお客は声も上げずに固まったままゆっくりと歩いて去って行った。

 

「あー…簪ちゃん?僕友達を迎えに行くからまたね」

「そうですか……では、また会いましょう」

 

そう言うと目の前の簪がかすれて消えた。

…………ふぁ!?

俺とシャルロットが驚いていると後ろから声が聞こえる。

 

「……次は是非入ってくださいね?」

 

恐る恐る後ろを振り返るとそこにはお岩さんの格好の簪がいた。

簪がかすれて消えたところをもう一度見るとそこには小さな機械が落ちていた。

おそらくこれがあの消えるお岩さんの正体なのだろう。

簪と四組メンバーは上手くいったといったようにニヤニヤと笑っている。

技術の無駄…いや、平和利用だな……心臓に悪いが。

驚かされた俺とシャルロットはゆっくりと歩いて、だが逃げるように四組を去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

四組から逃げた俺たちはそのまま校門前に向かう。

途中俺とシャルロットと一緒に写真を撮りたがる娘もいたが急いでいるからと丁重に断った。

しかし度々止められたため校門前に着くのが少し遅れてしまった。

十数分後俺たちは校門前にたどり着く。

辺りを見回すが肝心の弾たちが見当たらない。

電話してみるかと思い携帯を取り出すと声をかけられた。

 

「風音くんとデュノアさん?」

「?ああ、虚さん。こんなところで何をしてるんですか?」

 

俺たちに声をかけたのは布仏本音(のほほんさん)の姉、布仏虚だった。

何をしてるか聞いてしまったが十中八九生徒会の仕事以外ないだろう。手にはなんかファイル持ってるし。

おそらく不審者が入らないかのチェックだろう。

 

「私は生徒会の仕事で…もしかして織斑くんのお友達を迎えに?」

「はい。何処にいるかわかりますか?」

「ええ、校門を出てすぐ右側に居ます……あの」

 

そう言って虚は何処か考えこむように口元に手を当てて俺を呼び止める。

 

「どうしました?」

「いえ…お友達のお名前を聴いてもいいですか?」

「五反田弾ですけど……あいつなんか仕出かしましたか?」

「いえ、そう言うわけではありません」

 

そう言って虚さんはブツブツと何かをつぶやきながら去って行った。

一体何だったんだ?

ぽかーんとする俺がシャルロットの方を見るとブツブツと何かつぶやきながら考えこんでいる。

何かわかったのだろうか?

 

「……なんだったの?あれは」

「うーん……その五反田弾って人のところに行けばわかるかも」

 

シャルロットがそういうので弾のところまで歩いていく。

校門の横を見るとそこには……凹んでしゃがみこむ弾と呆れている蘭がいた。

 

「まったく……お兄はさ、女心とかかっこいい男とかそれ以前の問題なんだよ」

「…………」

「女子に対しての話題が天気!?挙げ句の果てに話題はそれだけ!?小学生でももう少しましなコミュニケーションとるわ」

「…………………」

 

最早屍体蹴りである。

もう大体わかったわ。

弾が虚さんに話しかけるも挙動不振になって挙げ句の果てに不審者扱いされたんだろう。

後で調書にでも記すんだろう。

そりゃ危険人物の情報は少しはほしいわな。

とまあ冗談はここまでにして、蘭の反応を見る限り話しがすべっただけだろう。

独りで勝手に納得すると弾が俺に気がつき駆け寄ってくる……半泣きで。

 

「そぉぉぉぉおおおおう!!!!」

「弾、やめろ。抱きつこうとするな!!」

「俺、自分のセンスのなさが……憎い!!」

「わかった!!わかったから落ち着いて!!下手したら追い出される!!」

「お兄!!いい加減にしろ!!」

 

追いかけてきた蘭に頭を思いっきり叩かれる。

そのまま沈むように撃沈する弾…大丈夫か?

そんな弾を無視して何事もなかったかのように蘭は俺たちに笑顔で挨拶をする。

 

「奏さん、シャルロットさん、お久しぶりです」

「あ、ああ……久しぶり、蘭ちゃん。元気だった?あと勉強の方はどんな感じ?」

「はい!!元気ですし最近は勉強の方もうまくいってますし、色々とシャルロットさんに教えてもらってます」

 

そういうと蘭はシャルロットに笑いかける。

シャルロットは少し恥ずかしそうにしているがちょっとだけ自慢げだ。

 

「ふーん、シャルロット色々と教えてるんだ」

「うん。って言っても蘭はすごく優秀だからあまり教える事はないんだけどね」

「そんなことないですよ!!……そういえば今更ですけど奏さんの格好って…」

「ああ、うちのクラスの出し物の制服さ。どう?似合ってる?」

「はい!!シャルロットさんはすごくかわいいですし、奏さんは印象変わりますね……似合ってないわけじゃないですよ?っていうかお兄はいつまで寝てるのさ!!」

「イデッ!?」

 

蘭に蹴られ悲鳴をあげる弾。

ちょっと理不尽だが寝たままの弾も悪いな。

弾は死んだ目のままむくりと立ち上がる。

 

「だ、弾?久しぶり」

「……おう」

「……何があったかは聞かないよ」

「……おう」

「でも一言だけ。さっきの女性はいい人だから悪い印象は持たれてないと思うよ?」

 

俺がそういうと弾は生き返ったようにカッと目を開き、俺の肩を掴む。

 

「本当か!?」

「あ、ああ。よっぽど変な事をしなければね。あと一応顔見知りだから口は聞いといてやるよ」

「そうか……よし!!まだ終わってない!!ありがとう、奏。俺、お前の友達で本当に良かった!!」

「うわー…なんか素直に喜べない」

 

立ち直った弾は、俺と肩を組みバシバシと背中を叩いてくる。

それを見た蘭は『まったく…』と言いながら呆れ、シャルロットは『あはは』と乾いた笑いをあげている。

そしてここでようやく弾はシャルロットに気がついた。

 

「うわ!?メイドだ!?え?IS学園に入学すると1人に1人ずつメイドが付くの!?」

「んなわけあるか!?馬鹿兄貴!!」

 

何処の貴族様の学校だよ、それ。

弾の混乱によって蘭の我慢の限界がふりきれたらしく、再び弾の頭部がスパーンをいい音を立てて叩かれる。

 

「この人はシャルロット・デュノアさん。フランスの国家代表候補生で私の相談にも乗ってくれている人!!前に一回話したでしょ!?」

「…ああ。お前の言ってた人か」

 

頭部を押さえながら弾は蘭の話しを聞いていたが、シャルロットの紹介を受けた後に真面目な顔になりシャルロットと向き合う。

 

「あの、はじめまして。自分は五反田弾っていいます」

「はじめまして、シャルロット・デュノアです」

「えーと…うちの愚昧がお世話になってるみたいで」

「誰が愚昧だ、愚兄」

「イデッ!?あー…こんな感じで生意気で、多分さほど頭も良くないんですけど、本気でここに入学したいと頑張ってるんです。この先もなんか迷惑かけるかもしれませんが、どうか見捨てないでやってください」

 

そう言って弾はシャルロットにぺこりと頭を下げた。

それを見た蘭は少し恥ずかしそうにし、シャルロットにとっては予想外の展開らしく慌てたように手を振る。

 

「え!?えーと!?あ、頭をあげてください!?」

「いえ、俺の頭程度なら別に安いんです。五反田家一同本当に感謝してます」

「も、もう!!お兄!!シャルロットさんが困ってるじゃん」

「バカ、こういうのはしっかりやらないといけないし、俺は爺さんからもしっかりと頼まれてるんだよ。あとお前自分がどれだけ幸運かわかってるのか?」

「それは…そうだろうけど…」

 

そう言って弾は頭を下げている。

シャルロットはオロオロしながら俺を見て助けを求めている。

 

「シャルロット、とりあえずお礼は受け取っておけ。受け取ってもらえないと、弾がこいつのじいさんに殺されちまう」

「こ、殺されちゃうの!?」

「はい、なので俺を助けると思って受け取ってください」

 

真面目な表情で殺されるという弾。

実際殺されはしないと思うが、あの厳さんのことだ。

筋の通らない事は許さないだろう。

多分今回のお礼も弾にしっかりと言うように言いつけてあるんだろう。

しばらくシャルロットは考えると一度頷き弾に笑顔を見せる。

 

「ええっと…どういたしまして?でも私としても、蘭と話して色々と楽しませてもらってますので、そういったことは気にしないでください」

「そう言われても……」

 

今度は弾が困ってしまう。

人間、自分が気にしてることを気にするなと言われても、気になるものは気になってしまう。

とりあえず適当なところで落としておこう。

そう考え俺は2人の間に立つ。

 

「じゃあさ、今度お前の家に飯食いに行くからさ、その時はおごりで頼む」

「……わかった。だが奏、お前はちゃんと払えよ」

「なんでさ!?」

「当たり前だろ!?俺が感謝してるのはデュノアさんでお前は関係ないだろうが!?」

「お兄!!シャルロットさんに会えたのは奏さんのおかげってのもあるんだよ!?それにシャルロットさんに私の勉強見てもらえたのも奏さんの彼女だからだし」

「いや!!…………………………………え?ごめんもう一回言って?」

 

しばらくの間固まった弾はギギギと音を立てるようにして蘭の方を見る。

心なしか目から光が消えている。

蘭はそれに気がつかず、再び怒ったように話す。

 

「だから私がシャルロットさんに勉強見てもらえるのは奏さんのおかげ」

「いやそっちじゃなくて。……え?ごめん。ちょっと奏借りる」

「ちょっ、ちょっと!?お兄!?」

 

弾に引っ張られ俺はシャルロット達から離れる。

え?こいつ蘭から話し聞いてないの?

俺と弾はシャルロット達に背を向けるようにして肩を組み小声で話す。

 

「えっと……奏くん?」

「なんだい?弾くん」

「あそこにいる金髪で可愛くてどこか柔らかい雰囲気のするデュノアさんが……君の…なんだって?」

「彼女」

「え?ごめん、もう一回言って?」

「いや、俺とシャルロットは付き合っているって言ってるんだよ」

 

十数秒間弾は笑顔のまま固まる。

そして次の瞬間、目をカッと開き声をあげた。

 

「はぁぁぁぁぁああああああああああっっ!?!?!?」

「うわっ!?うるさいぞ、弾!!」

 

あまりの大声で俺は耳を押さえるがキーンと耳なりを起こしてしまった。

後ろの2人もびっくりしてビクっと体が固まったままこちらを見ている。

一方の弾は目を回しながら混乱しているようで言葉がうまくしゃべれていない。

 

「それどころじゃねぇんだよ!?え!?何時から?何時から俺の事を騙してたの!?」

「騙してたってなんだよ!?えーと…付き合いはじめたのは今年の7月くらいからだな」

「なんで?なんでさ!?」

「なんでってどういう意味だよ?きっかけは…まあ昔数日間だけだけど一緒に生活した事があってその縁のおかげかな?」

 

ここで俺とシャルロットの関係を説明する必要はないだろうし、根本的なきっかけはこれだし問題ないだろ。

弾は『幼なじみ……金髪で美人の……』と言って震えながら数歩後ろに下がる。

なんかもう面倒臭くなってきた。

 

「お前…俺が告白して振られたときも!!ナンパに失敗して落ち込んだ時も!!ラブレターもらって喜んで、実際は一夏宛だった時も!!影で俺を笑ってたのか!?」

「んなわけねーだろ」

「俺たち恋人ができないねーって笑いあってた時も心の中で『俺には金髪の幼なじみがいる。はじめから貴様のような童貞とは違う』ってあざ笑ってたんだろ!?」

「もはや何言ってるかわからねーよ」

「そう言って裏切ってたんだ!!俺の気持ちを踏みにじって裏切ってたんだ!!」

 

そう悲痛な声で涙を流し頭を抱えている弾。

何処の汎用人型決戦兵器のパイロットだよ。

こういう時は……よし一発殴ろう。

 

「とりゃ」

「ぐはっ!?」

 

抱え混んでいた頭をパコんと殴る。

軽めにいったが綺麗にはいったらしくそのままうずくまる。俺はため息をついた後にしゃがみ込み弾に話しかける。

 

「落ち着いた?」

「……おう」

「そいつは良かった。もう一発行かなきゃいけないかとおもったよ」

 

そう言うと弾はすっと立ち上がって上を向いてため息をついた後に声をあげる。

なにがこいつをここまで狂わせているんだ?

 

「あああああーーーーー!!!!……カップルの男の方だけ爆発させる力が欲しい」

「すごい使いどころが限定される能力だな」

「とりあえず、おめでとう」

「ありがとう。まずうちのクラスの出し物にこいよ。ケーキの一つくらいなら奢ってやる」

 

復活した弾を連れて俺はシャルロットたちの方へと歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

こんな事をしたら嫌わられるのではないかと、何もしない男が一番嫌わられる。

〜中谷彰宏〜




ストックが切れたんで次はもう少しかかります。
ではまた。

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