インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第九十三話 プラネタリウム

会場の入り口を抜け、プラネタリウム会場に入る。

中は薄暗く、映画館の椅子の様な椅子が円状に並べられており、中心部にはおそらくプラネタリウムの機械と思わしき物が置いてある。

シャルロットと共に適当な椅子に腰掛け開始時間を待つ……が、椅子に座ってから数分。

俺はすでにそわそわと落ち着きが無くなっていた。

べつにシャルロットが隣に居るから……という理由ではない。

いや、全くないかと言われれば『実は今日の朝から落ち着いてませんでした』としか言えないんだけど。

それに輪をかけて落ち着かないのだ。

理由は簡単だ。

俺がプラネタリウムをかなり楽しみにしているというだけである。

自分自身ここまで楽しみにしていると思っていなかった。

これではまるで子供である。

現在俺は、早く始まらないかとはやる気持ちを顔に出さないように必死に抑えこんでいる。

なんというか、結構俺も楽しみにしてたんだと思うと同時に自分はここまで幼いところがあったのかと自覚した。

もしかして忘れてしまっただけで俺は向こうの世界では星が好きだったのだろうか?

そんな事を考えていると隣のシャルロットがクスクスと笑っていることに気がつく。

 

「シャルロット、どうした?」

「ソウ、さっきからすごいそわそわしすぎだよ」

 

……バレバレだった。

顔が赤くなっている自覚を持ちながら、シャルロットに話しかける。

結構ツボにはいったのか未だにクスクスと笑っている。

 

「そんなそわそわしてた?」

「うん、隠そうと真面目な顔にしようとしているのも含めてね。そんなに楽しみにしてたの?」

 

そんなにバレバレな態度だったのか……

まぁ、ばれてしまったのだ。

これ以上隠す意味は無いだろう。

 

「自分でも驚くほどそわそわしちゃってさ。宇宙に少しは興味があったけどここまでとは……自分自身驚いたよ」

「ふーん、そうだったんだ。でも以外だったなー、ソウがここまで自分を抑えられないなんて」

「いや、今までも抑える必要が無い時は抑えこんで無いぞ?」

 

そう言ってみたものの基本、IS学園は我が強い奴が多いためけっきょく抑えてしまう事が多い。

(アイツ)とかセシリア(アイツ)とか(アイツ)とかラウラ(アイツ)とか!!

しかもクラスメイトも全力でのってくるし、山田先生は天然だし、OSAにいたっては騒ぎを大きくする。

確信犯と可燃物は大量にある。

いわば爆発物と同じだ。

そして最近は落ち着いて来てるけど、一夏(ヒダネ)は未だに、自身が火種だと自覚無く動いている。

何時大爆発してもおかしくないのだ。

……しかも爆発して他のクラス(まわり)に火が回り、混乱が起きようものなら、やってくる火消しは世界最恐の女(ちふゆさん)である。

鎮火方法も一夏(ヒダネ)周りの人(ばくはつぶつ)も全て粉砕するという画期的な江戸時代スタイルである。

そうなると俺が少し折れたり、抑えるだけで被害は格段に少なくなるのだ。………俺も一緒になって騒ぎを大きくすることもないわけではないが。

と、誰に言うわけでもない言い訳を思い浮かべている間もシャルロットは笑うのをやめない。

そんなに面白かったのだろうか?俺の顔。

 

「そんな笑わなくてもいいじゃないか?」

「だって、まるで遠足の前日の小学生みたいにそわそわして落ち着かないで周りをキョロキョロして見てるのに、顔だけはなんとか抑えようとして無表情。でも抑えられなくて時々顔がヒクヒクしてるもん」

「……そりゃ笑うな。むしろ話しを聞くだけじゃ気持ち悪い部類だな」

「うーん……どちらかと言ったら微笑ましい部類だと思うよ?ソウってけっこう大人びてるところがあるのに……今のソウはイメージと全く違うんだもん。それじゃあ笑っちゃうよ」

 

そりゃ、向こうの世界とこっちの世界の年齢を単純に足せば40代後半よ?こっちは。

記憶があったところだけでも30代後半である。

いくら体に精神年齢が引っ張られてたとしても、他のみんなと比べいくらか大人びてるだろう。

しかし、それなら尚更のことそわそわしているのがおかしくのか……

とりあえずこの事は黙っていてもらおう。

シャルロットが何故かここまで笑うのだ。

他の奴ら、特に楯無とかは絶対大爆笑するだろう。

 

「まぁ……男はいつまで経っても心は少年ということで……どうか秘密にしていただけないでしょうか?」

「うーん…どうしよーかなー?この後の態度次第にしようかな?」

 

そう言って笑うシャルロット。

普段どおりの笑みなのに悪意を感じる。

クソ、日頃優位に立つことが少ないからここぞとばかりにやってくるな。

……ちょっとからかってみるか。

俺は何処ぞの映画の下っ端みたいに手を揉みながらシャルロットに話しかける。

 

「ゲッヘッヘ、シャルロットさん、肩こってやいませんか?いや、それとも靴でも磨きやしょうか?」

「ええっと、楯無さんの電話番号は……」

「すいませんでした、シャルロットさん!!それだけはご勘弁を!!」

 

高速で掌を返し、出来る限り誠意を持って俺は謝る。

ここでOSAを使うのはある意味反則みたいなものだが残念なことに、ここにはレフェリーはいなかった。

この勝負、俺の完敗である。

シャルロットは少し満足そうにした後またもやおかしそうに笑いだした。

それを見て俺はシャルロットに優しく微笑む。

こいつ、ようやく普通に笑える様になったな。

シャルルからシャルロットとして入学できた後も、しばらくは作り笑いみたいな所を何処か感じてたが、今はクラスメイトとも普通に笑い会えてる。

始めの頃は俺相手でも安心させてからじゃないと自然に笑えなかったのにな。

そんなことを考えてるとシャルロットがこちらをボーっとした様に見ている。

 

「どうした、シャルロット?」

「……え?」

「いや、何かあったか?突然ボーっとして」

「う、ううん!?なんでも無いよ!?」

「はぁ……俺としてはさっきの事を秘密にしてくれるかどうか答えて欲しいんだが」

「え?……あ!うん、いいよ。誰にも言わない」

 

………なんだこいつ。

一瞬忘れてたよな、さっきの事。

今『え?なんのこと?』みたいな顔してたし。

っていうことは今の一瞬で何かこいつがそれを上回る衝撃をうけたって事か?

………なんか別の事でも思い出してたか?

っていうかそれ以外に考えてられんのだが。

いや待て、ここでそうだと断定するのはいけない。

もしかしたら何か別の要因で衝撃をうけたのかもしれない。

……………!!もしかしてOSAの追っ手か!?

いや、だとしたらシャルロットが黙っている理由が無い。

他に考えられる要因は……

クラスメイトか!?いや、現在この会場には俺たち以外居ない。

つまりOSAの追っ手も居ないということだ。

では、亡国機業か!?

……自分で思い付いておいてなんだがそれは無いな。

いや、確かにスコール(ストーカー)は来てもおかしくは無いが、アイツの事だ。

既に『いつの間にか隣に!?』というのはやった後だ。

来るとしたらもっとインパクトがあるに違いない。

では一体シャルロットは何に衝撃をうけたんだ?

…………………………全くわからない。

俺が勝手に混乱しているとシャルロットが話しかけてきた。

少し顔が赤い様な気もするが……何か恥ずかしがる様な要因あったか?

 

「そ、ソウ?何かあった?」

「……いや、何も?」

「そっか!!よかった…」

 

最後に何故よかったと言ったか気になるが、これ以上話しを振り返して墓穴を掘るのはごめんだ。

いいタイミングだし話しをそらそう。

 

「そういやあまり人が来ないな」

「う、うん。初日ってわけでもないし、興味があった人は粗方見に来た後なんじゃないかな?」

「あー…なるほど。それはあり得るな」

 

チケットの日付けを見る限り、今週で最後だもんな。

しかし最終日って言ったらそれなりに人が集まりそうな気もするが……

運が良かっただけだろう。

 

「まぁ、人が少ないって言うか誰もいない……貸し切り状態ってのは嬉しいけどな」

「確かにそうだね。運が良かったのかな?」

 

まぁそう考えたほうがいいな、精神的に。

別に『OSAの策略では!?』なんて考えている訳ではない。

仮にOSAがやったとしてなんの得になるというのか。

……損得で動かない時もあるから面倒なんだよな、あの人。

そんな事を考えていると会場内がゆっくりと暗くなっていく。おそらくそろそろ始まるんだろう、シャルロットの方をちらっと見ると既に上のスクリーンをジーっと眺めている。

なんだ、俺に負けず劣らずこいつも楽しみにしてるじゃないか。

少しだけクスりと笑った後に俺もゆっくりと椅子を倒し上を向くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナレーションもなくゆっくりと中央の機械が音もなく動いている。

周りに人がいないためシャルロットと話しをしても何も問題はないのだろうが、会場の雰囲気のせいか暗くなってから互いに一言も発さずただ黙って上を眺めている。

うーん……ここで雰囲気に流されて黙ったままと言うのはデートとしてはいかがなものか。

だがマナーとしては……いや?映画って訳でもないんだ。

周りには人もいないし、少しくらい話しても問題はないのでは?

そんなことを考えていると目の前が突然明るくなり……言葉を失った。

目の前に広がったのは満天の星々だった。

それも普段夜空を見上げて見えるような空でもなく、ホームレス時代に雪山で見た空でもない。

本当にスクリーンに映し出された空の全てが星で埋め尽くされているのではないかと思う程の星空である。

星々はただ写し出されているだけではなく、しっかりと瞬いており、本物の星空を見ているのかと言う錯覚を受けた。

しばらくの間、何も考えることもできずにただ黙って星空を眺めていたが、突然会場内にナレーションの声が響く。

 

『現在ご覧になられている星空は、本来肉眼ではとらえることができない星々の光も映し出しています』

 

へー。

だから今までみたどの星空よりも星が多く感じたのか。

肉眼では捉えられない星かぁ……

宇宙に出て地球から離れれば見ることができるのだろうか?

って、そんな単純なもんじゃないか。

自分の考えに苦笑し、ふと隣のシャルロットをみて………目を奪われた。

場の雰囲気だろうか、それとも普段の服と違うからだろうか。普段の柔らかい微笑みだけではなく、その顔は何処か大人びた雰囲気を醸し出して、それでいて少女のように目を輝かせ星空を眺めている。

ぶっちゃけて、簡単にいえば、普段のシャルロットは可愛いと言った感じだが今のシャルロットはそれにプラスして美人って言うか美しいといった雰囲気だった。

そして俺はそのシャルロットをみてしまえば、否が応でも隣にいるこいつの事を意識してしまう。

よく『綺麗…』『君の方が綺麗だよ』といった台詞があるがあれはこういう時に使われるものだろうか。

今までは陳腐な台詞だ、と思う時もあったが本当にそうとしか思えない時があるんだな……

そんな時にナレーションの声が再び響く。

その声に我を取り戻し、シャルロットに勘付かれる前に上を向く。

……顔が赤いのがばれなければいいが……

 

『皆様、星空を眺めるのには満足していただけましたか?では皆様席を立たれても構いません。宇宙空間へとむかいましょう』

 

……………はい?

次の瞬間俺の目の前に星々が浮かび上がった。

驚いて身体を起こすとまるで蛍のように、空中に星が浮かんでいる。

先程の星空ほどの数ではないが、完全な3Dの星空の中に俺とシャルロットはいた。

その光景は先程の満天の星々とはまた違う感動を俺に与えてくれた。

二人で呆然としながら周りを眺めているとナレーションの声が聞こえてきた。

 

『現在ご覧いただいている最新式プラネタリウム《てんたいくんMK.Ⅳ》は、なんとあのISを作り上げた、日本が誇る天才科学、篠ノ之束博士が製作された世界でここだけにしかない空間展開式プラネタリウムなのです』

 

!?し、篠ノ之束!?

突然、予想もしていなかった名前を聞き動揺する。

隣にいるシャルロットも同じくような反応をしてるって事は聞き間違いじゃないよな……

互いに顔を見合わせた状態でナレーションの声は続く。

 

『このプラネタリウム、実は心臓部にISコアが使われており、それによって従来のプラネタリウムとは一線を画したものになっております』

 

………えっと……ISコア?

って事は……理事長(あのたぬき)!!篠ノ之束からISコアもらったのかよ!?

え!?聞いてないぞ!?そんな事は!!

っていうかOSAも言えよ!!

向こうからの接触だろうが!!

…………と思いながらも何処か『この装置だったら仕方ない』とも思ってしまう。

なんというか……争いに巻き込んじゃいけないって言うか、それとは話は別って言うか……

許してしまうだけの美しさがこの装置にはあると思ってしまった。

同時に俺の頭の中の篠ノ之束が作り上げたものとは思えなかった。

むしろどちらかといえば篠ノ之束を知らなかった頃の『俺のイメージしていた篠ノ之束』が作ったような気がした。

………こんなこと、今考えても仕方ないか。

ぶっちゃけ何を言ってももうすんだ事だし。

俺は隣のシャルロットの手を握る。

突然の事に焦るシャルロット。

別に周りに人はいないため声を小さくする必要はないが、一応声を小さくして話す。

 

「(宇宙空間の散歩に付き合っていただけませんか?マドモアゼル)」

「(そ、ソウ!?それより今の……)」

「(今考えても結果はまとまらないよ。それは明日にでもOSAとか、たぬ…理事長を交えて話した方がいい)」

「(でも……)」

「(今は何も考えないで楽しもうぜ、な)」

「(……うん、わかった)」

 

シャルロットを納得させ、会場内(星の海)を共に歩く。

始めは篠ノ之の名前のせいでのめり込めなかったが数分も経てば二人で声を出しながら共に笑って星々を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋の力は、身をもって恋を経験する時でなければわからない。

〜アベ・プレヴォ〜


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