インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
ここで書かれている話は基本読まなくてもストーリー上関係ありません。いわば蛇足のようなものです。
その上一話一話が短めとなっておりますがそれでも読んでいただけるのならば幸いです。
ではどうぞ~
奏が病院で眠り続けていた時の話である。
夜、彼の暮す教会の祭壇、その前に跪き祈りを捧げる老婆がいた。
彼女の名前はアストリット・ヘンゲン。この教会の修道女であり持ち主だ。彼女は奏のために祈った。彼が存在しないと思っている神に代わりになるように祈った。
彼が病院に入院していると聞いたときには本当に生きた心地がしなかった。命に別状は無いということだが彼が入院してから既に4日が経つのに彼からの連絡は無い。
(神様どうかあの子をお守りください……)
老婆は自身に救いを与えてくれた彼のためにただただ神に祈るのであった。
彼女が彼、風音 奏に最初に出会ったのは冬に入る寸前の時期であった。
その当時彼女は疲れきっていた。自身の所有する教会はボロボロになり整備をする気力は当時の彼女には無かった。
しかし彼女はこの生き方以外知らなかったのである。ただひたすらに己が身を神に捧げ祈る。そうして今まで生きてきた。
だが近年現れたISという存在は宗教にも影響を与えた。
『人はすべて神の前に平等である』という考えは『女尊男卑』という考え方をする人には到底受け入れられずむしろ『神の前に平等であるなら、なぜ男はISに乗れないのか。』と言い出すものまで現れた。
彼女はどこまでも人は平等であるという考えの下生きてきたのである。いまさら女性の方が上であるという考えは到底受け入れられなかった。
しかし『女尊男卑』を推進する人たちからするとその考えは受け入れられなかったのである。
大きな妨害がされているわけでも無いし直接手を下されたわけでもない、強いて言うなら『小さな嫌がらせ』である。しかしその『小さな嫌がらせ』は確実に彼女の心の負担になっていた。
そして彼女は彼が来るその前日に祈ってしまったのである。今まで自信のためで無く人のため、世界のために祈りを捧げていたのに小さく
(どうか誰か助けてください)
と神に祈ってしまったのである。自身は人のために祈る側であり自身のために祈る人間ではないと思い生きてきた彼女にとってそれは許しがたい事であった。
そして彼女はそれを恥じ入りながらも、その日も自身の住む離れから教会へ祈りに向かうのであった。
自分の所有する教会。その教会の小さなステンドグラスから差し込む光が丁度祭壇の目の前に来る時間に彼女は毎日恵まれない人々へと祈りを捧げていた。
それが彼女の生き方であり、自身の譲れない事だった。
教会は長年の雨風からかボロボロになり正面の扉は老朽化のせいか自身の力では開けられなくなっていた。彼女は裏の勝手口から中へと入り祭壇のある部屋への鍵を開け中を見た。
そこに広がる光景は驚くものであった。今まで誇りまみれで所々ゴミが散乱していた床や長椅子は綺麗にされており、祭壇にいたっては磨かれたのか月明かりに反射して輝くようであった。
唖然としながらその光景を見ていると普段自身が祈りを捧げる場所に誰かが祈りを捧げていた。
ボロボロながらも黒く輝く髪、静かに祈るその顔、月明かりによって描かれた丸い舞台のなかで祈りを捧げるその姿はまるで
(天使さま?……)
と彼女が思い浮かべてしまうほどであった。
その後彼と話をすると住むところが無い、仕事を探しているというので自身の家に住まわせた。
そこから3年間はまるであの時の神に助けを求めた祈りが、通じたかのように変わっていった。
教会の整備や掃除などは彼が進んでやってくれ近所の人々にも話しかけてくれたおかげか、だんだん教会にも人が集まるようになってくれた。嫌がらせも彼が何らかしらの策を効したのかいつの間にか無くなっていた。
何よりも彼は常に自分に笑いかけてくれた。周りに彼のことを自分の孫だといっているときには彼は少し恥ずかしそうにしながらもうれしそうに笑ってくれた。自身に本当の孫が出来た、そんな風に感じさせてくれたのである。
彼も私に色々と自身の事を話してくれた。記憶の事、今までの事、そして日本にいつか行きたい事。私に気を使ってかあまりそういう事は言わなかったがあの子がいつも自身の事について調べている事は知っていた。
自身も何か助けになる事は無いかとも思ったがむしろ自分があの子を縛り付けているとしか思えなかった。
そんな時彼が病院に入院したという知らせをあのブリュンヒルデから受けた。
聞く所によると彼女の弟を命がけで助けたらしい。彼女は言った
「彼に恩返しがしたいのだが、何か自身やりたいことや欲しいものなどを言っていないだろうか。」
「ではひとつだけ。私からのお願いでもありますが……」
このチャンスを逃させてはいけない。
私がしっかりしなければあの子は行くのを躊躇うであろう。
ならばこそ私が後ろを押してあげなければ。なんてことは無い、どんなに離れることになってもあの子は『風音 奏』は私の
愛情には一つの法則しかない。それは愛する人を幸福にすることだ。
~スタンダール~
ということでオリジナルキャラクター、アストリット・ヘンゲンさんの話でした。
おそらく次は亡国機関のエロいお姉さんの話になると思います。
今回も読んでいただき誠にありがとうございます。