インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第八十八話 Wake Me Up

アリーナの控え室では()と織斑君の二人だけで話していた。

織斑君に聞いた『嫉妬を抑え込む』方法。

これがわかれば私もお姉ちゃんと正直に向き合える。

そんな私に対し織斑君は考えるような姿勢のまま話し始めた。

 

「うーん…抑え込むって言うか…これは俺の考えなんだけどさ、嫉妬っていけないことなのか?」

「……どういう意味ですか?」

「いや、自分以外の誰かに被害が出るようなのはそりゃダメだろうけどさ、嫉妬にも自分を奮い立てるようなものがあるじゃないか」

 

そう言われても私にはしっくりこない。

織斑君はうーんと唸って考えている。

そして考えがまとまったのか話し始めた。

 

「例えば…俺はあの時の奏に嫉妬したけどさ、それって俺が奏みたいになりたいって感じたことだろ。だったらそういう風になるように頑張ればいいんじゃないか」

「でも………同じになれなかったらどうするんですか?」

 

どんなにがんばってもできないことはできないのだ。

自分も姉に近づきたいと思い今も挑戦している。

だがなに一つとして姉には勝つことができていない。

このままでは、いつまでたっても私はお姉ちゃんの隣に立つことが………

そんな事を考えていると織斑君はキョトンとして話し始めた。

 

「いや…初めから同じにはなれないだろ?」

「え?」

「どんなにがんばったって俺は俺なんだ。千冬姉に勝ちたいから千冬姉と同じになっても意味ないし、奏にしたって、俺は奏になれないし奏と同じことをしたってまったく同じにはなれないだろ?………あれ?俺おかしいこと言ってる?」

 

そう言われはっとした私を見て織斑君はなにか間違ったことを言ったのではないかと考えている。

すぐさまそういうことではないと言いたかったがそれどころではなかった。

そういう風に言われたのは初めてだった。

今まで必死に姉の背中を追いかけていた。

周りから姉と比べられ、失望され、でも私は足掻き続けた。

周りの声は聞こえないふりをしていたがそれでも陰口は嫌でも聞こえた。

『姉の劣化品』や『専用機を手に入れられたのも姉の七光り』。

『ムダな足掻きが好きな子』『頑張ってるふりをしているだけ』なんて嫌味もかなりいわれた。

そんな私でも初めから『同じにはなれない』と真っ直ぐ悪意もなく言われたのは初めてだった。

 

「……織斑君…」

「え?ごめん俺なにか変なこと言った?」

「………もし織斑君の目の前に私よりもっとすごくて…強くて…綺麗な女の人がいたら……私とどちらを選びますか?」

「え?簪の方」

「………何故?」

「だってそんなこと言われたってその………そのすごい人のことしらないし」

「じゃあ……知ってる人でいいです。私よりすごい人とどちらをーーー」

「いや、誰がいようとそいつはそいつ、簪は簪だろ?選ぶもなにもないさ」

 

そういうことではないのだ。

だが自分のなかでもうまく考えがまとまらい。

何かずれた答えを言っているのかと織斑君は首を傾げている。

ということは、織斑君は本気でこう思っているということなのだろう。

信じることができない私の口から否定の言葉が溢れる。

 

「嘘…私が………なんの取り柄もない私よりーーー」

「?いや、簪に取り柄がないってそれこそ嘘だろ?」

「私は……なに一つお姉ちゃんに優ってないのに………」

「えーっと…俺簪のお姉さんにあったことないけど俺にしてみれば簪はすごいやつなんだけどな」

 

私が……すごい?

そう織斑君はさも当然のことのように話し始めた。

 

「一人でIS作ろうって頑張ってるし」

「でも…完成させれないですし……結局一人で作ってません」

「いや、普通そうなんじゃない?寧ろ授業で聞く限り一つの会社であらゆる協力を得てつくるもんなんだろ?それに比べたらかなり少人数で作ってるし。何より俺の白式なんて作ってもらったのをもらっただけだからなぁ…整備や本当に細かい設定はいまだに一人で満足に行えてないし」

「それでも………私はお姉ちゃんに負けたくないんです」

 

そうだ。

私はなにか一つでもお姉ちゃんに勝たないといけないのだ。

そうしないと私はお姉ちゃんの隣にいられない。

そう考えると自身のスカートを強く握りしめてしまう。

そして心が何かに縛られて重くなっていく。

織斑君は少し考えた後ボソボソと話し始める。

 

「なぁ…簪」

「…はい」

「話を聴く限りお前が負けたくない相手ってお前の姉さんでいいんだよな」

「……はい、その通りです。」

「じゃあ挑んで見たらどうだ?勝負」

「へ?」

 

突然の言葉に私は変な声を上げる。

一方、織斑君は名案を言ったようにして声をだしている。

 

「だってあれだろ?生徒会長って学園最強なんだろ?で誰からの挑戦も受けるんだろ。奏もそんなことを言ってたし」

「で、でも……」

「一回挑んでみればどれくらい離れてるかもわかるし何より明確な目標ができるじゃないか」

「じゃ、じゃあ織斑君はどうなんですか!?織斑君も自分のお姉さんの織斑先生より強くなりたいんですよね!?」

 

負けずに言い返した後にハッとする。

これではまるで自分がお姉ちゃんから逃げているようではないか。

それに織斑君のことは今は関係ない事だ。

わざわざ話しを聞いてもらっているのにこんな言い方では駄目だ。

しかし織斑君はそんなことは関係なしに話し続ける。

 

「俺の場合は千冬姉と戦うためにはまずモンド・グロッソで優勝しなきゃダメなんだよ。」

「………へ?」

「いや、一度千冬姉と戦いたいって言ったら『せめて私以外のものを全て倒した後にしろ。そしたら勝負してやろう』って言われたんだ」

 

この人は何を言っているのだろうか?

いや、言っていることはわかるのだが、まさかすでに戦いを挑んでいるとは思わなかった私は唖然とする。

まだISに乗って半年ほどの新人が元とはいえ世界最強に挑むとは………もはや勇敢を超えて無鉄砲、もしくは考え無しなのではないだろうか?

しかし私の考えていることに気がつかず織斑君はさらに話し始める。

 

「だから俺は考えたんだ。だったら自分より強い奴を一人一人倒して行けばいつか千冬姉とも戦えるんじゃないかって。そのために今は目の前の目標に挑み続けてるんだ。まずは学園で最強になることだな」

「………私のお姉ちゃんを倒すことですか?」

「いや、俺簪のお姉ちゃんしらないから………多分そのお姉ちゃんに負けず劣らずに強いだろう…『風音奏を在学中に倒す』これが今の俺の目標かな。あ、ちなみ奏には秘密な」

 

確かに………今まで考えたことはなかったが自身の姉と奏さん………

戦ったらどちらが勝つのだろうか?

恐らくお姉ちゃんのほうが勝つという人が多いだろうが、奏さんの銀の福音の時に見せたあの動き…

正直どちらが勝つかわからないというのが本音だ。

しかし…一応織斑君には明確な目標があるのだ。

そう言われてふと自分のことを見直してみた。

確かに私はお姉ちゃんに一つだけでもいいから勝ちたい。

しかし一度でも正面から挑んだことがあっただろうか?

ISの開発だってお姉ちゃんにしっかりと挑んだわけではない。

………そうか、私は今まで自分のなかで煮詰まっていただけでお姉ちゃんに挑んでなかったんだろう。

考えがまとまった時にちょうど織斑君がこちらに話しかけてくる。

 

「どうだ簪?考えはまとまったか?」

「はい…私も一度、お姉ちゃんに挑んでみます」

「よっしゃ!!頑張れよ簪!!応援してるからな」

 

私が姉に戦いを申し込むことを決めたら、織斑君が何故かまるで自分の事のように喜んだ。

それを見て私が不思議に思っているのが顔に出ていたのか織斑君は少し照れながら理由を説明してくれた。

 

「いや、俺勝手に簪の事を俺と同じ、姉に挑戦している仲間だって感じててさ。なんか他人事の気がしないだ」

「………私、織斑君の事嫌ってるって言いましたよね」

「あれ?………それ今も続いてた?」

 

そう言って織斑君は顔を青くする。

多分かなり馴れ馴れしくはなしたことを怒っていると思ったのだろうか。

私は笑いながら訂正する。

 

「違います……しっかりと謝ろうと思っただけですよ。織斑君勝手に色々と悪く考えてしまってごめんなさい」

「いや、それは初めから気にしてないよ。そっか、よかったぁ。奏から『お前は女性に馴れ馴れしいところがあるから気をつけろ、無理だったとしても頼むから僕を巻き込まないでくれ』って言われてたんだよ。なぁ簪、これどういう意味だと思う?」

「あ、あはは……」

 

笑ってごまかすことにした。

織斑君はそれに気がついていないのかキョトンとしている。

しかし話してみると少しは心が軽くなった。

………お姉ちゃんとも正面から話してみれば少しは心が軽くなるだろうか?

そんなことを考えながら私は織斑君との会話を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーーーと言うことで簪は生徒会長の………楯無さん?に挑むことになったから』

「お、おう………」

 

一夏からの電話を受け少し焦りながら対応する。

電話を受けた時、丁度俺は楯無との約束の時間になり、シャルロットと共に丁度生徒会室に入った瞬間だった。

しかもこいつ、何処か興奮していて声がでかい。

一応部屋の隅で楯無に背を向けて話してるがぶっちゃけコレ楯無にも聞こえてそう………

恐る恐る後ろを向くと………

笑顔のまま固まったOSA.楯無がいた。

いや、気持ちはわかるが動揺しすぎじゃね?

しかし現在部屋の空気は最悪である。

それを知ってか知らずか、まぁ知らないんだろうけど最悪のタイミングで一夏は明るく大きな声で話し続ける。

 

『簪とも仲直りできた…いや、ようやく仲良くなったのか。それに簪も吹っ切れたみたいでかなり元気良くなったし、更に楯無さんを倒すって凄い意気込んでるぜ!』

「あ、ああ。そうか…」

『おう!!本当にいい事づくめだな!!』

 

こっちはいい事づくめどころか葬式会場状態だよ!!

OSAのやつなんてだんだん顔色悪くなってきてるぞ!?

このままじゃヤバイ、とりあえずことの経緯を詳しく聞かなければ………

 

「お、おい一夏」

『ああ、詳しくは部屋に戻ってからだろ?お前3時から予定あるって言ってたしな。でも簪のことお前かなり気使ってたから早いとこ伝えておこうと思ったんだ』

「そ、それはありがたいんだが………」

『まぁ要件はそれだけだ。じゃあ俺もこれから訓練だから、またな‼︎』

「ま、待て!!きる………あいつ本当にきりやがった」

 

糞!こんな時ばっかり気使ってるんじゃねぇよ!?

あいつ最近は訓練中は携帯の電源きってるから今折り返しても連絡つかないし………

またもや後ろを向くとあっちゃ〜と言ったように頭を抱える虚さんに苦笑いの本音とシャルロット。

OSAの方はうつむいている………

ど、どうするこの空気………

言葉を発することなく1分たったあたりで楯無から声が聞こえ始める。

 

「……ふ………」

「………えっと…た、楯無さん?」

「ふ………ふふふ…………うふふ……生徒会長は…だれからの……挑戦も受けるわよ」

 

笑い声のように声を発そうとしているが、笑い切れておらず正直怖い。

周りのみんなそうらしくみんなジリジリと引いている。

そんな中ゆっくりと顔を上げたOSAの顔を見ると………………泣きそうだ。

しかも両目いっぱいに涙を浮かべ、今にもこぼれ落ちそうだ。

やべえ。ガチ泣きだ…

これには布仏姉妹も驚きらしく目を丸くしている。

そんなことを気にせずに楯無は話し続ける。

 

「あ、あの子がいつか、こ、こういう風に、するのは、そ、そう…ぞうしてたし…」

 

ヒクッヒクッと嗚咽を上げながら話すOSA。

これヤバイんじゃねぇの!?

付き合い長そうなあの虚さんもオロオロしてるし!?

シャルロットと本音に至っては俺をすがるような目で見てるし!?

いや、流石に無理よ?

泣いてる女の子の相手とか?

しかしそんなことを言っている場合ではないことも確かだ。

………やるしか無いか。

息を飲んで、覚悟を決め話しかける。

 

「あの〜………楯無さん?」

「………なによ」

「大丈夫?」

「………………風音君?」

「ハイ、なんでしょう」

「…………」

 

息を飲んで次に発せられる言葉に生徒会室の全員で身構える。

そこには確かに、さながらなにも言わなくても目配り一つで分かり合える戦友のような連帯感があった。

 

「ねぇ、風音君?………」

「会長、まず落ち着きましょう」

 

まず落ち着く様に言い聞かせる。

呼び方もあえての『会長』で自身の立場を再認識させる。

頭のいいこの人だ。

これである程度は察してくれるはず。

それを聞いた楯無は一度深呼吸をした後俺と向き合う。

成功したか?

 

「……………………どうしよう。かんちゃんに本当に嫌われて見捨てられちゃった………」

 

そういうのと同時に楯無の瞳から涙が溢れる。

ダメだったぁぁああ!!??

もう涙がポロポロとこぼれ見ていて痛々しい。

ヤバイ!!この状況本気でヤバイ!!

って言うか完全にトドメさしたの俺じゃね!?

周りの目線が痛い!!

なんとかしてここから持ち直さねば!!

 

「イヤイヤ!!なんでそうなるの!?」

「だって………か、かんちゃんが……私と……戦…うって………それも凄い意気込んでて……………元気も出たって………」

「違うから!!それ、ちゃんと簪なりに考えての行動だから!!」

「……………本当に?」

「…………多分」

 

自信が持てずそう言ってしまうと今度は本気で声を上げて泣き出しそうだ。

ヤバイ。周りの全員の顔が青くなる。

シャルロットも焦り始め先ほどの発言を咎めた。

 

「ちょっと、ソウ!?」

「ご、ごめん!?でも僕もその場にいたわけじゃ無いし…でも高確率で簪は楯無さんのこと嫌ってないから!!」

「………なんでそう思うの?」

 

楯無に恨めしそうに睨まれながら聞かれる。

落ち着け、俺。

落ち着いて楯無を説得するのだ。

最早自分で気づいてもらうなど言っている場合ではない。

 

「まず……楯無さん。根本的になんでこんな状況になったか、どう考えてますか?」

「それは、私が、かんちゃんのことを………怒らせちゃったから」

「はい!!そこがまず違う!!簪は一切楯無さんを怒っていません!!」

「「「え?」」」

「………本当に?」

「これは自信を持って本当と言えます」

 

実際のところそこの認識からして違うのだ。

簪は喧嘩をしているつもりはなく、ただ『楯無に無能と思われている』と考えて、その現状を変えたいと思っているのだ。

一方楯無は『簪のことを怒らせて嫌われた』と思っている。

だからこそ簪に好かれようと何かと楯無が簪を手伝う。

しかし簪からしてみれば自分がなにもできない無能だと思われてると感じますます楯無に劣等感を感じ暗くなり距離を置く。

それを見て楯無は『余計なお世話をするな』と思われていると思い、手を出さなくなる。

そして楯無の介入が、自分が楯無に劣等感を感じてすぐ突然なくなり『私は何もしないでいろ』と言われてると感じ、それでも楯無と共に居たいと思いあがく…がそんな精神状態では上手くいくものもいかなくなる。

二人とある程度会話や触れ合ってわかった事だ。

恐らくあっているはずだ。

そのことを楯無にあまり刺激しないように優しく説明する。

 

「ーーーと言った感じで喧嘩自体起きてないんですよ。ただ悲しいすれ違いがあっただけで」

「………でもソー?」

「何、のほほんさん?」

「もしそのとおりだったとして、なんでかんちゃんは今になっておじょーさまに戦いを挑んだの?まだ弐式は完成しきってないんでしょ?普通、タイミング的に完成してから挑むと思うんだけど」

 

ああ、確かに普通ならそうだろう。

タイミングを考えるなら、弐式が完成し、全力で戦えるようになってからだろう。

だが今回はあの織斑一夏(無鉄砲なお人好し)が間にいる。

 

「そこは我らがクラス代表がなんとかしてくれたのさ」

「おりむーが?」

 

そう言って考え込むというか疑っている本音。

普段の一夏だけを見ていればまぁ、想像つかないだろう。

しょうがないかと感じながら、はにかむように笑いながらはなしをつづける。

 

「こういう時の一夏はかなり信用がおけるよ。現に簪ちゃんのこと説得しただろ?」

「そうなんだ。でもなんでソーがかんちゃんのこと、説得しなかったの?」

「一夏と簪ちゃんは結構似てるからかな?僕が言うより同じような姉がいる一夏の方がうまくいくとおもったんだ」

「ふーん…」

 

そう言って再び考え込む本音。

さて、そろそろ生徒会室に来た目的。OSAとの話をせねば。

そう考え楯無に目を向けるが、未だにうつむいたまま復活していない。

あれ?この人こんなにメンタル豆腐だったけ?

むしろここらへんぐらいで立ち直って俺かシャルロット辺りをいじってくると思ったんだが?

拍子抜けしながらもとりあえず立ち直ってもらわねばと動く。

 

「そういうわけで会長。とりあえず簪ちゃんに嫌われたわけじゃないってことはわかった?」

「……うん」

「で、何が未だに不安なんですか?」

「………私、あの子にどう対応すればいいの?」

「いや、本気で戦ってあげればいいんじゃないんですか?」

「…嫌われない?」

「むしろ手を抜いたほうが嫌われると思いますよ?簪ちゃんは楯無さんと対等になりたいんだと思いますし、何より自分と楯無さんとの実力差を知りたいってのもあるでしょうしね。今回は実力差を知りたいってのがメインで初めから勝てるとは思ってませんよ。ただ負けたくないだけでね」

 

俺がそう言うと周りの全員が首をひねる。

勝てないけど負けないというのがわからないのだろう。

そのまま不思議そうな顔でシャルロットが訪ねてくる。

 

「勝てないけど負けないってどういうこと?」

「ああ、簪ちゃんにとって勝ちは『姉と対等だと自分の実力で示すこと』で、 負けは『諦める』ことだろうからね。別に試合で負けることなんて関係ないだろうよ」

「かんちゃんがそう考えてるの?」

 

俺がそう言った後に本音が訪ねてくる。

ちょっとしつこいくらいだがそれだけ心配なんだろう。

ここは正確に説明したほうがいいかな?いや、あえてしないほうが良いな。

 

「いや?多分一夏がこういう風に持ってってくれるはずさ」

「おりむーが?……そーの事を疑ってるわけじゃないけどほんとー?」

 

そう言ってまたもや怪訝な顔をしている。

あれ?なんでそんな顔に?

そう考えていると虚さんから質問をされる。

 

「あの…風音君。織斑君について聞いてもいいでしょうか?」

「はい、僕が知ることなら」

「織斑君はこのようなことの対応が得意なんですか?」

「いえ。むしろほとんどの場合火に油を注ぎますね」

「え?」

 

そう言うと虚さんは頬を引つらせる。

女性関係の問題ではあいつは持ち前のデリカシーのなさと空気の読めなさで、俺の頭を痛めつけてくれる。

だが今回は女性問題ではないのだ。

言うなれば虚さんに対してこう言う必要は無い。

だが俺の今までの一夏に苦しめられた経験があいつはこういうことが得意だと言うのを拒んだのである。こればかりは仕方ない。

と言っても勘違いされても困るので、下手に勘違いされる前に話を進める。

 

「でも今回は一夏はおそらくこの学園内で一番簪ちゃんを説得していい方に持っていけると思いますよ、自分のことみたいに考えてますから、あいつ」

「なんでですか?」

「詳しいことは言えませんが、あいつはここぞというところでは間違いませんから。そこだけは信用してやってください」

 

そう言って周りに笑いかける。

一応納得させられたかな?

周りを見渡してみると虚さんと本音はある程度納得してくれているみたいだ。

シャルロットは……まぁ、初めから信じてますよってな感じなこと考えてるな。

さて楯無の方は……未だに顔を上げない。

あれ?これ結構ヤバイ感じ?

ちょっと楯無の気持ちを考えなさすぎたか?

本編と比べ、簪の方に余裕を持たせてやろうと思って動いていたが楯無のほうは余り気にしてなかったな……

いや、だってさ本編だと楯無のほうは結構余裕そうだったじゃないか。

あれって結構いっぱいいっぱいだったの?

今になって本気で焦り始める俺。

あたふたしながら楯無を説得する。

 

「あの〜……楯無さん?確かに楯無さんが望んでいた仲直りとは違っていたかもしれません」

「……」

「ですが言うなればこれは仲直りのための儀式みたいなもんです。今は苦しいかもしれないですが、これを乗り越えれば必ず仲直りできるはず」

「……」

 

そう言ってみたものの正直なところどうなるかはわからない。

多分俺の考え通りならば、一夏から戦う事が目的では無く手段だと感じとってくれるはず。

そして戦いの後にでも面を向けて話し合えば結果は関係無しに仲直りできるはず。

後は楯無の戦いに向けたコンディションだが……

現在控え目に言って最悪である。

大半は俺のせいなのでかなり気が引けるが、すぐにでも立ち直ってもらわねば。

 

「だから楯無さんも元気出してくださいよ、ね?」

「………」

 

反応は無い。

参ったなぁ、どうしようか。

周りを見てもみんなそっぽを向いて助けてくれない。

俺がどうしようかとオロオロしている、そんな時楯無がぼっそと声を出した。

 

「…ぁ…ぃ…」

「なんですか、楯無さん」

「………やっぱりいい……」

「いえいえ、遠慮しないでなんでも言ってください。僕ができることなら頑張ってみますから」

「……甘いものがいっぱい食べたい」

「……はぁ…僕の部屋にある手作りのやつでよければ持ってきますが」

 

そう言うと楯無が顔を上げる。

満面の笑みでだ。

…………え?なんで?

泣いてたんじゃないの?

 

「いやぁ。やってみるものね、泣き真似。あなたがオロオロと戸惑う姿も見れたし、ようやくあなたから一本取れたわね」

 

そう言って笑いながら扇を広げパタパタと扇ぐ。

そこには「大成功」の文字が書かれてあった。

……はめられた。

驚きながらげっそりとし、周りを見ると布仏姉妹は途中から気がついていたようだ。

虚さんはため息をつき、本音に至っては『大成功‼︎大成功‼︎』と繰り返しながら笑っている。

シャルロットは……あはは、と笑って誤魔化そうとしてやがる。こいつも気がついてたな。

畜生、要は騙されてたのは俺だけってことか……

楯無が笑いながら言葉を続ける。

 

「いやぁ……今思い返すと長かったわね」

「……なにがっすか…」

「あなたから一本取るのよ。あなたってばなんだかんだで最終的に私をいじって話を終わらせるじゃない。そこが少ぉぉぉぉしだけ悔しくてね」

「……そっすか…」

 

もうこっちとしてはかなり気が抜けた。

いや、勘弁して下さい。

っていうか絶対少しじゃないよな。

実は結構悔しがってただろ、あんた。

楽しそうに笑いながら楯無は話を進める。

 

「それに噂のお料理上手な風音君のお手製お菓子を食べてみたかったのよねぇ。今の所一年の専用機持ちしか食べてないっていう噂の絶品」

「……さいですか…」

「けっこうレアものなのよ?それこそ食べたっていうだけである種のステータスになって妬まれかねないぐらいに。まったく、こんなことで問題が起きたらどうするつもり?」

「………」

 

しらんがな、そんなこと。

いや、単なる趣味のレベルのお菓子よ?

この学園のお嬢様がたならもっといいの食べてるでしょ?

これもからかわれているのだろうか。

そんな風に疑心暗鬼になっている俺を見て、楯無は満足したのか扇を閉じ話し始める。

 

「じゃあ、私と簪ちゃんの話しは終わりにして本来の予定通りの話しをしましょうか。虚ちゃん、紅茶お願いしてもいい?」

「かしこまりました。あと風音君」

「……はい…」

「…ご愁傷さまです」

「……はぁぁぁぁぁ……」

 

哀れむような表情と共に肩に手を置かれる。

虚さんにとどめを刺され盛大にため息をつき肩を落とす。

畜生、今回は完全敗北だ。

その後、楯無と本音に急かされ俺は自室にお菓子を取りに行くことになる。

その時虚さんがボソッと『クリームあるのかなぁ……』と言っているのが聞こえた。

期待しているのか、それとも苦手なのだろうか。

まぁ両方持って来ればいいか。

てか虚さん、けっこう見た目によらず甘いもの好き?

まぁ今は関係ないのか。

そのまま俺は部屋を出て自室にお菓子を取りに戻るのであった。

 

 

 

 

 

弱さの勝利。この武器を扱うのは女性が達者だ。

〜ロマン・ロラン〜

 




お久しぶりです。
書き始めたら止まらず、気がついたら約一万文字。
……久しぶりということでどうか一つm(_ _)m

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