インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
一夏と簪が話をするために一度別の場所に移動するらしいので俺と他の五人も解散しアリーナを後にした。
そのあとは適当に三時くらいまで自室で時間を潰す気だったのだが………押しかけてきた箒たちに囲まれていた。
っていうか正直箒、セシリア、鈴、ラウラは予想していたがシャルロットも付いてきたのは正直予想外だった。
しかも少し雰囲気が重い……まぁ、だいたい理由はわかるけどな。
部屋の中に入れた後に適当に椅子に座らせる。
俺は自身のベットに腰掛けると、少し遠慮しがちにだが隣にちょこんとシャルロットも座ってきた。チラチラとこちらを気にかけながらも俺の隣に座っている。
俺としては『隣に座るくらい気にするなよ』っといった感じなのだが。
軽くどうぞ、と口に出さずに手で示してやるとほっとしたようににっこりと笑う。
それを見て俺は苦笑いしながら、話を始める。
「えっと、なんか僕に用でもある?」
「さっきの一夏と簪との話ってなによ、あんた私たちに隠れて色々やってたんじゃ無いでしょうね?」
「色々って………例えば何を?」
「簪さんが一夏さんに謝ってたことですわ」
「えーっと、詳しくは言えないかな?簪の個人的な話になるし。これは本人から聞いて頂戴」
俺がこう言うと二人とも渋々ながらも納得してくれたらしい、話が終わる。
しかし、あまり食らいついてこないってことは本題はこの後なんだろう。
そんなことを思い浮かべたのとほぼ同時にラウラが俺に話しかける。
「では、嫁の言っていたあの言葉はなんだ?私にとってはそっちの方が重要だ」
「あの言葉って?」
「嫁が教官を嫌っていたと言う話だ」
ラウラがこう発言するや否や、他の3人も真剣な顔で俺を見る。
シャルロットの方を見るとこいつも聞きたそうな顔をしている。
「全員これを聞きに来た感じ?」
「………ああ、そのとおりだ。だが本当なのか?あの一夏が千冬さんを嫌っていたなんて」
「まぁ………嫌っていたっていうか、すれ違いがあったってだけなんだけどね」
「……ソウ、詳しく聞いて大丈夫?」
「…ちょっとかんがえさせて」
シャルロットが上目つかいでこちらにたずねてくる。
畜生、微妙にだが動揺してしまった自分が恨めしい。
っていうかこれで話さなかったら俺悪役じゃね?この流れ。
まず何よりもそんな目で俺をみないでください。
とりあえずあまり気にせずに現在考えるべきことを本当に考えてみよう。
まずこの話についてはおそらく一夏はこの話を簪にも言うだろうし、こいつらに説明しても怒りはしないだろう。
多分、きっと、めいびー。
簪からしてみても、取り敢えずあいつ自身のことを表に出さない限り特に気にしないだろう………OSAはともかく。
頭のなかで考えをまとめると俺はすっと立ち上がる。
突然立ち上がった俺に対し、シャルロットだけがすぐに反応した。
「ソウどうしたの?」
「いや、話はするけど長くなりそうだからさ。お茶とお菓子でもだそうかなって。シャルロット、手伝ってもらってもいいかい?」
「うん、わかった」
「わたくしたちには何か手伝うことは?」
そう言ってすっと立ち上がるセシリア。
そういやセシリア紅茶いれるのうまいんだよな。
だが料理はまずい………なぜ!?
恐らく独自のアレンジさえなければまともな料理になるのでは無いだろうか?
そんなことを考えながらセシリアに言葉を返す。
「じゃあシャルロットと一緒に紅茶でもいれてくれない?僕はその間にお菓子の方を準備するから。他の三人は座ってていいよ。そんなにキッチン広くないし」
そう言って俺は動き始める。
紅茶やティーポットの位置はシャルロットが知ってるだろうし俺は菓子でも完成させよう。
簡単で、今すぐ出せるやつっていったら………そういやこの間作ったカンノーロの生地少し余ってたな。
カンノーロの生地自体は湿気てないし冷蔵庫にはリコッタチーズも余ってる。
適当にドライフルーツとナッツとで混ぜてつめてみるか。
動き始めるとキッチンの方をひょこっと鈴が覗いている。
茶菓子で、できあいの物を出さないで作りはじめたのが気になっているのだろう。
鈴自身、料理は得意な方だがお菓子などはあまり作らないといっていた。
と言っても向上心はあるらしく結構レシピとかは俺に聞きに来るけどな、特に一夏が美味いって言ってたやつを。しかしそれを一夏に食べさせたという話は聞かない。
ということはまだ納得の行く物はできてないんだろう。
まぁ行き詰まってるって言うなら聞きに来たらコツでもおしえてやるか。
そんな感じのことを考えていると鈴が近寄って話しかけてくる。
「奏、ちなみにお菓子はなに?」
「うん?あれだよ…うまいやつ」
「うまいやつって、ちゃんと説明しなさいよ」
説明するのを面倒くさがり適当に答える俺に呆れたように反応する鈴。
ちょっとからかってやるか。
俺は一旦『うーん…』と悩んだフリをした後、一旦手を止め鈴の方を向く。
鈴が反応する前にさっと左手を前にして腹部に当て、右手は後ろに回し執事のように会釈をしてみせる。
突然のお辞儀に『へっ?』と声をもらして驚く鈴。
「イタリアの伝統的なお菓子、カンノーロでございます。サイズも一口大と大きくないのでお嬢様にも食べやすく、紅茶にもあうかと」
「お、おじょうさま………」
お嬢様という言葉に照れているな。
笑いだしそうになるのを堪えながら次なるからかう言葉を考え、笑顔で再びからかうようにしてはなしかける。
「お嬢様、もしかしてですが他のお菓子の方が良いでしょうか?でしたら少し時間をいただければお作りいたしますが……」
「うぇ!?い、いや。それでいいわよ!!」
「かしこまりました、では少々おまちください…なんてね。なにてれてるんだよ鈴」
堪えきれずクスクスと笑い出してしまった。
鈴のほうはからかわれていることに気が付き、顔を真っ赤にしている。
ああ、おもしれぇ。
「そ、奏!!あんたねぇ!?」
「ははは、からかわれる方が悪い。取り敢えず座ってて待ってな、すぐにできるやつだからな」
「ちょっと!!」
そう言って未だに照れながら顔を真っ赤にして文句を言っている鈴を笑いながら俺は再び手を動かし始める。
さてこっちはどういう風に話そうか、そんなことを考えながら一夏たちの方がうまくまとまってくれているのを願っていた。
「っと、取り敢えず簪はジュースでよかったか?」
「え?あ、ハイ…」
そう言って織斑君は私に缶のぶどうジュースを差し出す。
現在
織斑君曰く、『アリーナは二人で話をするのには広すぎる』ということらしい。
私としても余り人に聞かれたい話でもないので正直言って助かった。
控え室に到着すると私は椅子に腰掛けながら話のはじめ方を考えはじめた。
一方織斑君は自身のスポーツドリンクを飲んで一息ついていた後、私の向かいに座る。
「えーっと…簪」
「は、ハイ!!」
「正直言って俺話がまとまってないから言いたいこと全部言っていいか?」
「え?どういう意味ですか」
私が疑問を口にすると織斑君は頬を人差し指でかき、恥ずかしげに話し始めた。
「いや、ここに来るまでに色々どう説明したらいいか考えたんだけど…」
「だけど?」
「うまくまとまらないから一から説明させてもらっていいか?このとおり!お願いします!!」
「や、やめてください!?」
そういって織斑君は私に手を合わせ、あははと笑いながら頭を下げてくる。
織斑君の過去を関係のない私が聴くのだ。
寧ろ私が頭を下げて頼むのが道理のはずだ。
「まぁ、取り敢えず言いたいのは……俺は簪の気持ちは結構わかるって言っても部分的なところだけどね」
「部分的………ですか?」
「そ、部分的に」
気持ちはわかるとは一体どういう意味だろうか?
単純に考えると、織斑君は私の中にあるこの嫉妬のような感情を自身の姉に抱いていたとでもいうのだろうか。
そのように考えていると織斑君は少しだけ苦い表情をしたまま話し始めた。
「あ〜…まず俺が簪と似たような状況になった経緯から話させてもらう」
「…はい」
「まず…大体もう二年位前の話になるのかな?俺が奏に会って一緒に日本に来た頃の話なんだ」
苦い表情を崩さずに織斑君は思い出すように話し続けた。
「あの頃は…ほら、ちょうど千冬姉がモンド・グロッソを決勝戦で辞退したじゃないか」
「はい………すごい騒ぎになったのを覚えてます………」
確かにあの時期はすごい騒ぎになったのを私も覚えていた。
世論も織斑先生を擁護する側と非難する側に割れ、場所によっては暴動まがいのことまで起きかけた。
さらにその後先生は選手として引退、そのままドイツの方に教官として突然いなくなってしまった。
その行動がさらに疑惑を産み織斑先生が帰国するまで『ブリュンヒルデがドイツに取られた』なんて話まででていたはずだ。
しかしそのことが織斑君のことと何が関係あるのだろうか?
織斑君はこちらを見ずに話し始めた。
「千冬姉が決勝戦で辞退した原因は………俺のせいなんだ………」
「!?………どういう意味ですか」
「………俺がドイツに千冬姉の応援に行ったときに、俺が誘拐されてさ…それが原因で千冬姉は決勝戦を辞退したんだ…」
「ゆ、誘拐…」
これには流石に驚いた。
いくら国際的に優位に立つことができるほどの意味があるモンド・グロッソの決勝とはいえ、そこまでするのかという驚きと自分にそんなことまで話してくれることについてだ。
それを察したのか織斑君は慌てて話し始める。
「あ!一応これは秘密で頼むな!?言いふらすとは思ってないけど、これ本当は言っちゃダメなことだから」
「は、はぁ……」
「って感じで俺もその時期は千冬姉に申し訳ないわ、自分が情けないわで結構参っててさ…しかも千冬姉がいなくなって帰国するまでの間、俺の家に色々非難の手紙や電話………あと夜中に石を投げ入れられたり、他にも壁にも色々と落書きされたりもしてさ…」
「な!?…」
「本当はすぐにでも千冬姉に言って政府に頼るべきだったと今なら思うけど…その時は『どうして俺がこんな目にあわなきゃいけないんだ』って感じで逆に千冬姉を逆恨みしちゃってさ。もともとの原因は俺が誘拐されたせい…」
「それは織斑君のせいでもないじゃないですか!!」
「簪?」
「織斑君はただ巻き込まれただけでーーーっすいません突然声をあげてしまって…その…」
「いや、別にいいよ。寧ろありがとう、簪」
その言葉に私は納得できずについ口をはさんでしまった。
しかし織斑君は私に笑いかけながら許してくれた。
「でもさ、簪。これは俺のせいじゃなかったとしても千冬姉のせいでもないことだったんだ。誰が悪いとかじゃなくてね」
「………」
「でも俺はその時は完全に千冬姉のせいだって思い込んでてさ、千冬姉に一切連絡も取らずに学校に行く以外は家に閉じこもってやり過ごしてた。学校では空元気みたいにして見せてさ、バレたら友人に心配されるとおもってさ」
「………どうやって解決したんですか?」
「あ〜…ここからが俺が簪と同じになった話なんだ。あと、ごめん俺一つだけ嘘ついてた」
「?嘘って………」
「俺が簪と同じ感情を抱いたのは千冬姉じゃなくて…奏なんだ」
「さて、ここまでで質問は?」
箒たち5人に事の経緯を途中まで話し終えた後一息つくように俺は紅茶をすする。
うん、俺が入れるより全然うまい。
箒たちの方を見ると箒とセシリア、シャルロットはしんみりとしたようにうつむいている。
逆に鈴とラウラは怒ってらっしゃる。
特に鈴はその時期の一夏の近くにいたのだ。
恐らくだが気がつかなかった自身にも怒りを覚えているのではないのだろうか。
そんなことを考えていると鈴の怒りが爆発した。
「っ……あ・の・大・馬・鹿・は!!!」
「ちょ、ちょっと鈴!?落ち着いて!?」
「落ち着けるわけないでしょうが!?あの頃はどうもおかしいと思って色々と聞いてたのに!!!」
「わかった、わかったから!?少しだけでいいから落ち着いてください!?続きが話せないから!?」
ドウドウとなだめるようにして鈴を一旦抑えさせる。
多分この怒りは後で一夏に向かうんだろうな………南無。
心の中で一夏に違う宗教の祈りを捧げた後に続きを話し始める。
「そんな時期かな?僕が日本に住むための手続きが終わって一夏と同じ中学に入学したのは。いや、あいつ本当にうまく隠してたよ。知らない人だったら千冬さんが外国でうまくやってるか心配で顔色が悪い。俺みたいに事の経緯を知ってる奴や国の役人さんには自分のせいで千冬さんが外国に行ったのを気にしてる風にしてさ、顔色は悪かったけどなんとか隠してた」
「ソウはどうやって気がついたの?」
「………気がついたのは本当に偶然…いや、必然て言えば必然なんだけどさ一夏が追い詰められすぎて倒れたんだ。これ千冬さんには秘密ね」
「た、倒れたって!!一夏は大丈夫だったのか!?」
「落ち着いて箒。大事にはいたらなかったから。学校で倒れて、僕と弾……ああ、弾っていうのは僕と一夏の共通の友人でね」
「そんなことはどうでもいい。奏兄、話の続きを」
そんなこと扱いのうえどうでもいいらしいぞ、弾。
まぁ確かに話の本筋としては関係ないか。
俺は苦笑いしながら話を続ける。
「一夏の家に一度荷物を置きに行ったんだけど唖然としたね。一夏の家はわかるだろ?あの家の中にとんでもない量の……それこそ足の踏み場もないような郵便物と壁に投げつけられたようにして落ちてる電話機。僕と弾の二人で家に入った瞬間固まったよ」
「っ……国の役人は何をしてたんだ!!」
「一応先に言っておくけど仕事をしてなお、その量だったんだよ」
「なっ!?」
「後からわかったことだけど日本政府の方でもあらかじめどう見ても悪意のある手紙や荷物は検査してたんだけど……直接家の郵便受けに入れられたりファンレターみたいな綺麗な便箋で中身がとんでもない内容とかね。まぁよく思いつくなっていうやり方だったものはどうしても全部防ぐことはできなかったんだ」
これは後になってからわかったんだが政府の方でも荷物検査や不審者の検挙など警備を行っていたのだが被害を受けていると一夏が言わなかったため発見が遅れたのだ。
「話は一夏のことに戻るけどその後にすぐさま一夏の元に言って事の経緯を聞きただしたよ。あの時はじめてだったね。弾と数馬が本気でブチ切れてたのを見たのは。おかげで僕が怒るタイミングがなくなった位」
「…そんなにすごかったの?あの二人の怒りよう」
「うん?ああ、そっか。鈴は二人とも知ってるのか。本当に凄かったぞ、数馬は役人相手に殴りかかるんじゃないかって感じた位だし、弾は弾で正面から厳さん食って掛かっていった位だしな」
「弾が厳さんに!?」
「すいません、鈴さん奏さん。話の続きを聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「ご、ごめんセシリア。本当に考えられないことでさ」
「あ、悪い。鈴以外にはわからないはなしだったな」
「いえ、わたくしのほうこそ、お2人の話に入りこんですいませんでした」
セシリアが申し訳ないようにしているが、まぁこいつらの中で今イメージしている一夏は倒れたまんまだしな。
焦るようにして先が聞きたいのもわからないでもない。
紅茶を一度口に含んだ後に話を続ける。
「まぁそんなこんなで一夏の状況がわかって改善させていったんだけど…俺たちの間でひとつだけ気になることができてさ」
「なんなんだ?その気になることとは」
「あいつ千冬さんに一度も連絡取らなかったんだ、その時期。はじめは心配をかけないようにしてたんだろうって考えたんだけど落ち着いた後もそのままでさ。心配になって問いただしたんだよ……弾が」
「あんたじゃないのね……」
「いや、だってその時期は一夏とあってまだ3ヶ月も経ってない頃だよ?流石に弾の方が適任だったんだよ」
申し訳なさそうに俺は頭をかく。
一応言い訳をさせてもらうと一夏がおかしいと気がついたのは俺が一番初めだったし問いただすように頼んだのも俺だ。
だが実際に動いたのは弾なのでこれは話す必要はないだろう。
「で聞いてみると自分の中で感情がごちゃごちゃになってたんだろうな。えっと…『今千冬姉に電話したら言わなくていいようなことまで言ってしまいそう』だったかな?そんな風にしてさ連絡とってなかったんだ」
「………」
「そんな風に言い訳して俺は千冬姉から逃げてたんだ。どうせ千冬姉には俺の気持ちなんてわからないって」
俺の話を何も言わずに簪は聴き続けていた。
さて、そろそろここからが本題だ。
この話は誰にもしたことがない。
俺が今まで胸の内側に秘めていた感情だ。
「まぁその後は弾、数馬、奏と話し合って色々と自分の中に溜まって他ものをぶちまけてさ。なんとか自分の感情を落ち着かせたんだ」
「………その時の話し合いで?」
「ああ、俺は奏に嫉妬?みたいな感情を持ったんだ。あいつって凄い強いし優しいじゃないか。」
「はい、まるでヒーローみたいです」
「ヒーローか…確かに。俺の感情を否定しないし…あいつ俺が千冬姉を逆恨みしてるっていった時なんていったと思う?」
そう言って織斑君は私に質問してくる。
私は何も思い浮かばず首を振った。
「『一夏って……本当にシスコンだな』だってよ。なんでも本当に逆恨みしてるなら現状を千冬姉に言うのが一番の嫌がらせになるのに、それを思いつきもしないっていうのはよっぽど相手を大事に思ってないと無理なんだと」
「……奏さんらしいものの見方ですね…」
「なんていうかそんな風に相手を優しく受け入れられるあいつが羨ましくって、でも気に食わなくて、そんな感情を恩人で友人、その上俺のことを心配してくれている相手にそんな感情を持ってる自分が情けなくて………簪はわかるか?」
「…はい…私も織斑君と同じです…そんな感情を持ちたくないのにどうしても抑えられなくて…そんな感情認めたくないのに否定することもできなくて……」
「どうしようもない感情なんだよなぁ………あれ………しんどいわ情けないわ、その上俺なんか恩人相手にそう考えてたんだぜ?どうしようもないよなぁ…」
そう言って織斑君はため息を付く。
本当にこの感情は苦しいのだ。
しかし織斑君はどうやってこの感情を押さえ込んだんだろうか?
聞きたい。
聞いてどうすれば私のこの感情を抑えられるのか示して欲しい。
意を決して織斑君に聞いてみる。
「織斑君………あの、織斑君はどうやってその感情を押さえ込んだんですか!?」
「ーーーってな感じで一夏の愚痴を聴き続けてようやく元通りとはいかなくても持ち直す位までは戻れたんだ。そのあとは私生活で持ち直すまで弾たちと連携とってさ、なんとか千冬さんの帰国までには元通りになったってかんじだね」
よし、一通り話し終えたぞ。
後はこいつらの疑問に答えてやるだけだ。
しかし、今考えてみるとこの事件に束は関わって無いような気がしてならない。
原作だとどうだったかな?ここんところますます靄が掛かって来て仕方ない。
そんなことを考えていると紅茶を飲んで一息入れて入れた後にシャルロットが俺に聞いてくる。
「それがソウの思う一夏が織斑先生にもってた感情なの?」
「あ〜…あと、これは僕の勝手な考えだけど多分あいつ僕にもいい感情持って無かったと思うんだ。だから簪の一夏への気持ち云々は多分僕に向けての感情だろうって考えてるんだ」
「へ?なんで一夏がソウを嫌いになるの?」
「いや、まぁこれはその場にいた俺たちしかわからないと思う。けど他の二人とも同じように感じてたから多分間違いない」
そう言って適当に答えるが大体はわかる。
自身を責めている時に何もかもわかったようにして自身を受け入れられ続けるのは結構きついのだ。
だがあの時の一夏は完全に自身で自分が悪い、もしくは千冬さんが悪いの2択しか頭になく、そのまま思考が停止していたため持ち直すまであいつの考えをいい方に肯定し続けた。
その後持ち直したら今度はあいつの考えの方を優先したけどな。
「だから多分一夏の頭のなかでは簪が自分、千冬さんは生徒会長、で一夏のポジションに僕なんだと考えてるんじゃないかな?なるほどだからあいつ簪の気持ちに自分から気がつけたのか。」
そう言って俺は一人で勝手に納得していた。
あいつ自分がそうなったことがあってそんな感情を誰かに抱かせたくないって考えたんだろう。
そしてそこには一片の恋愛感情は混ざらない。
ならば一夏ならうまくやるだろう。
俺としては納得したのだが周りは納得はいかないようだ。
箒は少し考えた後俺に話しかけてくる。
「ちょっとすまない。奏、話を整理させてもらえないか?」
「ああ、いいよ。まず始まりは一夏が千冬さんに抱いた感情」
「はい、それは織斑先生に申し訳ないといった感情でしたわ」
セシリアはそう言って話を引き継いでいった。
ラウラも続くようにして話し始める。
「その後に嫁の元に大量の悪意ある電話や郵便が来た」
「私がいなくなったのはその辺りね」
「そうだね。んで鈴がいなくなった後に僕が入れ替わるように入学、その後一夏が手紙に参って倒れちゃう」
「そこでようやく一夏の状況が改善していった、が一夏の感情の整理はついてなかった」
「そこで奏兄含め三人で問いただしなんとか持ち直したという話だな」
たぶんそこで話は終わりのはずだ。
しかし周りは納得していないように見える。
なにが納得いかないんだ?シャルロットが俺に首を傾げながら聞いてくる。
「ねぇソウ。そのことを織斑先生は知ってるの?」
「ここまで大事になったことは知らないはず」
「一夏が立ち直った理由は?」
「それは一夏に聞いてくれ。流石にわからないよ。」
そう言って俺はわからないと言った風に首を振る。
実際俺も何が原因で立ち直ったかわからないし。
しかし彼女たちはもしかしたらこうではないかと言った風にしてお茶会を続けていくのだった。
人は悲しみを分かち合ってくれる友達さえいれば、悲しみを和らげられる。
〜ウィリアム・シェイクスピア〜