インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~   作:filidh

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第八十五話 誰かの気持ち

昼ごろになり一夏が柳韻さんとの訓練を終えた後、一夏はそのままアリーナに向かいISの訓練をするらしい。

一緒にどうか?と誘われたが用事があると遠慮しておいた。

実際は3時からなので問題は無いと思うが…

今はISで強くなるより正確に使いこなせなければいけない。

ただ…正直な話し、やはりISという大きな力は性にあわない。

銃を誰かに撃つのにも必要最低限にしたいのにわざわざ戦うのはごめんだ。

一応ISはスポーツという事になっているが……俺からしてみればどう考えても人殺しの訓練としか思えなかったのである。

やはりここら辺の考えは俺がこの世界の人間じゃないからなのか、それとも俺の頭が固すぎるからか、まぁ気にしても何か変るわけじゃ無いんだ。気にしないでおこう。

適当な理由で逃げたというのに一夏はまったく気を悪くし無かった。

 

「解った。じゃあな」

「ああ、また機会があれば」

 

そう言って一夏と別れ適当に時間を潰すことにした。

ここでふとシャルロットのことを思い出す…今朝シャルロットに一緒に行動しろと言っておいて自分から離れてどうするんだ…

とりあえず連絡を入れてみるか。

携帯でメールを出し現在地を聞いてみる……すぐさまに返信が来た。

 

『今アリーナの整備室にいるんだけど…今すぐ来てもらっても良い?』

 

との事だ……まぁ分かれた後再び一夏と会いかねないが、あいつはそこら辺を気にすることは無いだろう。

俺はそのまま足を整備室の方に向けた。

やはり歩いてるだけでもいろいろと言われるなぁ、ただ悪い噂の方はそれほど多くないようだ。

と言っても10組の内2組くらいはその噂をわざわざ俺を見ながら話している…俺、そんなに悪人面に見えるんだろうか?

その噂を無視しながら俺は整備室に付き、中に入るとシャルロットと簪、そしてのほほんさんが居た。

 

「あ、ソウ。何処行ってたの?」

「ちょっと一夏の訓練見てた。悪いなシャルロット。今朝あんなこと言ってたのに」

「奏さん、大丈夫ですか?」

「なにが?……あ、昼食は食べてないらから大丈夫じゃないかも」

 

簪が不安そうにたずねてくるのに対し、俺はとぼけたように笑いかけて見せる。

言いたい事は解るが一々大丈夫と言っても心配されるだけだろうしここはおどけて見せよう。

だが簪とシャルロットはともかくのほほんさんは少し落ち込んでいる、どうしたんだ一体?

 

「あれ?のほほんさん調子悪い?」

「……ソーごめんね…こんなことになるなんて…」

「え?なんでのほほんさんが謝るの?」

「…下手にいろんな人に教えたせいで…」

 

と言って目に涙を浮かべている。

あわてて俺は慰めるように話しかける。

 

「いや!?別に悪いことをした訳じゃないでしょ!?第一それを悪いって言ったら僕、誰とも付き合えないことになっちゃうんだけど!?」

「……でも広めちゃったのは私たちだし…」

 

私たち…ってことは他の一組メンバーも結構落ち込んでる人が居る可能性もあるのか…

シャルロットと簪の方を見ると二人ともおろおろしてるな。

シャルロットの方は多分俺と同じように気にするなといい続けてたんだろう。

簪は……ただのほほんさんのことを心配してるのかな?

さてどうしよう。

ここで俺が『大丈夫だ』といい続けてものほほんさんたちは気にし続けるだろうなぁ…

じゃあこの際利用する様に言ってみようか。

 

「じゃあさ、この際噂を色々流してもらっても良い?」

「え?」

「例えば俺とシャルロットは前から…それこそ『IS学園に来る前から既に付き合い続けてた』とか『見ていた限り裏で何かたくらんでたようには見えなかった』って言った感じで。まぁ…悪くない噂なら何でも良いよ」

「そんなのでいいのぉ?」

「もちろん。別に僕ら悪いことした記憶は無いよ?だからあんまり悪口は気にしてないのさ。なんと言われようと俺はシャルロットのことが好きだしね」

 

そう言ってニコニコと笑いかける。

のほほんさんはじーっと俺の顔を見ているが…嘘は無いと見抜いてくれたようだ。

涙を拭くとクスッと笑ってくれた。

 

「ソー、前からって…もしかして臨海学校のときから…」

「そ、あの時から付き合い始めてました」

「やっぱり…うそつきソーだったんだ…」

「ふふふ…ばれてしまっては仕方ない」

 

とおどけて見せてみる。

その後話を戻すように微笑みながら話を続ける。

 

「他に気にしてるような人が居たらさ、同じように伝えてくれないかな?頼んでいいかい、のほほんさん」

「うん…わかった。じゃあちょっと行ってくるね?」

 

そう言ってのほほんさんは手を二人にも振って、とことこと歩いて整備室から出て行った。

恐らく谷本と夜竹も同じように気にしてるんじゃないかな?

だとしたらそれについて教えに行ったのだろう。

まぁこれで一組メンバーについては大丈夫だろう。

俺は少しだけ安堵しながらシャルロットたちに話しかけた。

 

「他のみんなは?」

「え?…ああ、皆はアリーナで訓練してる」

「簪ちゃんは…弐式の山嵐か」

「はい…プログラムは完成してるんですが…」

「ですが?」

「弐式が受け入れてくれないんです」

 

と言って簪は弐式のほうを見ながら話を続ける。

見た目は一切変わっていないが倉持技研の方で色々といじっているらしく本来のカタログスペックを再現できているらしい。山嵐を除いてだが。

 

「今までは打ち込めばそのまま受け入れてくれたんですが、このマルチロックオン・システムだけは受け入れてくれないんです…」

「それだけねぇ…おっさんは何か言ってた?」

「えっと…いろいろと調査はしてくれています…ただやっぱりはっきりとは解らないらしくて…」

 

そう言いながら簪は再びプログラムを送り始めた。

シャルロットの前でやっても大丈夫なのか?と思いシャルロットに目を向けたが既にシャルロットは何を打ち込んでいるか解らないような場所に移動していた。

そういう気遣い、すごいよなお前。

しばらくすると画面上にエラーの文字…俺の知識が足りないからかも知れないが、見ていた限り問題は無いように見えた。となると原因はなんだ?

 

「簪ちゃん、弐式に触ってみても良い?」

「良いですよ?」

 

そう言って弐式に触ってみる。

シャルロットは何か思い当たる原因はないか考えているようだし、簪は再びプログラムを弐式に送り込んでいる。

俺は弐式に触れて意識を集中させる。

今俺がおこなっていることは俺の勝手な想像でしかない。

この発想はISコアがプラントに似ていると考えた時に思いついたのだ。

ヴァッシュが意思表示のできないプラントと交信する際お互いに触れ合えばコンタクトが取れていた。

そこで俺は一つの発想を思い浮かべた。

もしかしたらISコアも同じように話しかければ言葉は通じるのではないのだろうかと。

ならば俺が今できるのは直接触れて話しかけるだけだ。

ただここでISに話しかけたらイタイ人でしかないから頭の中で考えるだけだ。

 

(え~っと…久しぶりでいいのかな?話しかけたことは無かったもんな。)

 

と頭の中で考えてみるが何の反応も無い。

当たり前か。

 

(…君が何で簪のプログラムを受け入れてもらえないか教えてもらっても良いかな?)

 

頭の中で疑問を投げかけてみるが……反応があるわけが無い。

第一反応があるようならそれはそれで―――

と考えていると自身のISが反応し、さらにまた体の中で違和感を覚える。

この感覚は…シャルロットの疾風ときとはまた違った感覚だな。

ただ…なんというか悲しい気持ちになる。

意識をさらに集中させよう。

この気持ちはなんだ?

何が悲しい……疑われている?…これは…もしかして?

俺は意識を外に向けてみる。

その意識を簪に向けた瞬間、体の中に悲しみがかなりあふれてくる。

わかった…この感情は、恐らく弐式の感情だ…

そして自身の待機状態のISの方も何か作動しているようだ。何をしているかはわからないがとりあえず今は簪の弐式の方だ。

俺は静かに簪に話しかけてみる。

 

「簪ちゃん…もしかして『初めから失敗する』って思って打ち込んでない?」

「ソウ?どうしたの突然…」

「いや…ちょっと思いついたことがあってさ。簪ちゃんそこのところどう?」

「……確かに少しはそう思ってたかも知れません…でもそれが何の関係が…」

 

と簪は正直に話してくれた。

さて…どう説明したものか…

少し頭をかきながら困ったようにはにかみながら話を続けた。

 

「あ~…俺の勘なんだけどさ…ISって深層には独自の意識があるらしいじゃないか」

「はい…そのとおりですが…」

「簪ちゃんがさ、疑ってるのってさ…多分自分の力だと思うんだけど、それをISコアの方にそれが伝わって、自分が疑われてるって思っちゃったんじゃないかなぁ…って…」

 

俺がこう言うと二人ともきょとんとしている。

まぁ…突然ISの意思が~なんていってもおかしい人にしか見えないな。

しかし俺は確かに弐式から悲しみを感じていた…これもほとんど電波みたいなもんだけどな。

しかしこれは俺しかわからない物だしなぁ………

一応言い訳はしておこう。

頭がおかしい人と思われる前に…手遅れかもしれないがな。

 

「いや、自分でも変なこと言ってるとおもうけどさ――」

「いえ…でも……」

 

そう言って本当に考え始める簪。

何か思い当たるところでもあるのだろうか。そうであって欲しい…

しばらく考えた後簪は俺とシャルロットに向かってポツリと話し始めた。

 

「シャルロットさん、奏さん…少し一人にしてもらっても良いですか?」

「ああ、扉の前で待ってるだけでいい?」

「はい…お願いします」

 

そう言って二人で整備室をでる。

さて…簪が何をするか解らないが…

俺は違和感が残る体のままで整備室の扉の前にシャルロットと二人で立つ。

シャルロットがこちらに不思議そうな顔で話しかけてきた。

 

「ソウは…どうしてそう思ったの?」

「いや…システムにもプログラムにも問題が無いなら後は気持ちかなぁ…って単純に思っただけさ。深い意味は無いよ?」

「……それで何で簪が自分を信じてないって思ったの?」

「あ~…楯無さんと簪が姉妹だって言うのは知ってるよな」

「うん…あんまり仲がよくないのも…」

「その理由が俺は簪が自分が楯無さんから信用されてない…ってことだと思ってるんだ」

「…それで?」

「その根本にあるのは簪の『自分は(楯無)より劣っている』って感情だと思っているんだ」

 

と俺が話を続けているとシャルロットは首をかしげる。

気にせずに俺はシャルロットに話し続ける。

 

「それが弐式のことと関係があるの?」

「直接関係してるわけじゃないけど、楯無さんのISってあの人が自分で開発したものらしいんだ。もちろん簪もそのことを知っている。弐式をもし自分の力で完成させる事ができたら一応ISに関しては簪は姉に追いつける」

 

って言っても正直IS開発に関しては楯無は結構いろいろな協力を得てあのミステリアス・レイディを作り上げたらしいのだが、簪はそこのところを自身の姉一人が完成させたと思い込んでいる。

そこを何とか出来ればなぁ…

と頭の中で考えながら話を続ける。

 

「しかし簪は『姉より劣っている自分は、本当にISを完成させることができるのだろうか?』と不安になっている。まぁ…ここら辺は俺の妄想も入ってるところも多いが簪の性格上多分何かかしら自身に不信を感じてるんじゃないかなぁって思ったわけだ」

「そしてソウはそれが弐式に伝わって疑われるって思ったんじゃないかって考えたってことか…そっか…でもこれで失敗したら…」

「別の方法を探すしかないよなぁ……」

 

そう言ってそのまま扉の前で二人で立っている。

しばらくすると整備室の扉が開き中から簪が出てくる。

表情はなんというか……硬い。

シャルロットが簪に話しかける。

 

「簪、どうだった?」

「はい…一応弐式はプログラムの方は受け入れてくれました…でも…」

「でも?」

「読み込みも成功しているしエラーも無いのにプログラム自体が起動しないんです」

 

そう言って顔を伏せる簪。

俺はシャルロットの方を向き話しかける。

 

「……えっと…そんなことあるの?」

「……私はそういうことは聞いたことはないかな…プログラム自体は?」

 

シャルロットが真面目な顔をして簪に話しかける。

 

「しっかりと弐式が読み込んでくれたんです。でもいざ確認として起動させようとするとISの方から拒否されるんです…」

「……何か弊害になるようなプログラム等は無いんだよね」

「もちろんです。一応倉持技研の方でも試しにプログラムを走らせてみましたがその時には一切問題はありませんでした」

「そうだよね…仮にどこかに引っかかってたらエラーの記述が浮かぶだろうし…だったらハードの接続は?」

「今確認しうるところでは一切問題はありません…」

「となると―――」

 

とシャルロットと簪が本格的に話し合いを始めたのだが……

正直まったくついていけない。

いや、簪はそっち系統に詳しいって事は前から聞いてたから違和感無いんだが…なんでシャルロット。お前までそういう会話が出来るんだ?

伊達に国家代表候補生じゃないってことか?

しかし…弐式が受け入れることはしてくれたんだよな。

そこに疑問を感じ簪に聞いてみる。

 

「ねぇ簪ちゃん。結局弐式はどうやったらプログラムを取り込んでくれたの?」

「えっと……お願いしてみました…」

「どんな?」

「…おねえちゃんに負けたくない…弐式と一緒に戦いたいって…」

「なるほどねぇ…」

 

そう言って簪はまた考えはじめた。

多分打鉄二式のほうは簪の方に心を開きはじめたんだろう。でも簪の感情はそれ程軽いものじゃ無いから多分まだ弐式も信用しきれてないんだろう。

さて…ここから先は更識姉妹の感情がキーになるな。

でもこれは簪、または会長から動かないと意味がない。

問題はどちらも相手に気を使いすぎているってところだろうか…

シャルロットの方を見るとうーん…と唸り声をあげながら

考えている。

しばらく3人で考えているとふと簪が声をあげる。

その顔には決意が込められているように感じた。

 

「…織村くんは……今アリーナにいるんでしたっけ…」

「うん?そのとおりだけど何か思いついたの?」

「………少し聞きたいことが……」

 

しかし、簪が一夏に聞きたいことか…

簪が一夏に相談するって…結構って言うかかなり珍しい。

簪ははじめ打鉄二式についてのとで一夏を敵視していたなごりか、どこか一夏に話しづらそうなのだ。

そんな簪が自分から一夏に話しかけるとは……

俺が理由を聞こうとする前にシャルロットが簪に尋ねる。

 

「簪ちゃん?一夏になにを聞くの?」

「………心構えです………」

 

こころがまえ?

俺が何か聞く前に簪が誰に言うわけでもなく小さな声、しかししっかりとした強い意志が感じられるように静かに覚悟を決めているようだった。

 

 

 

 

 

今を戦えない者に、次とか来年とかを言う資格はない。

           〜ロベルト・バッジョ〜




ということで第八十五話投稿しました。
しばらくこのような感じで月一くらいの投稿になりそうですが必ず完成しますので気長にお待ちしていただければ幸いです。

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