絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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第55話

主人公視点

 

 うーむ。何かアレだな……これは、アレだ。

 

「……」

 

 いやまあ、言う程でも無いんだけど。でもやっぱこの感じはちょっと、気になっちゃう。

 ……俺が細かすぎるのかな。『こんなん』普通なら言う程気にしないんだろうけど。一度目にしてしまった以上見過ごせないと言うか。俺の心がコイツを捕まえてしまえと叫んでいると言うか。

 

 どうしたもんかねコリャ。

 

「どうしたんじゃヨシ君。何か悩み事かね?」

 

 一点を凝視し、その場に無言で立ち止まっているでいる俺を疑問に思ったのだろう。すぐ後方に居た『爺さん』からはそんな疑問の声が飛んだ……そうだ。俺は悩んでいるのだ。コイツをこれからどうするかについて。

 

 ってことで。

 

「ラスター。これを見てみろ」

 

 ちょっとちょっと、爺さんこれちょっと見てみてよ。凄いんだから。

 

「ほぉ。これはなんと」

「ヤモリだな。しかも小さい奴だ」

 

 そう、俺の目の前の壁にはちっちゃなヤモリが張り付いていたのだ。

 

 いやはや、思い立てばこの世界に来て人間以外の生物を目の当たりにしたことがなかったな。

 AMIDAさんは別としてだけど……とにかく。俺がラインアークに来てから見た昆虫はこれが初めてだ。ハエやゴキブリ、蚊に蜘蛛さんにいたるまで、室内に居そうな虫さんは全くと言って良いほど見かけなかった。やはりこの荒廃した世界では虫さんの繁殖すら厳しいものがあるのだろうか。

 

「うぉい!いつまでそこに突っ立ってんだ!」

 

 ヤンキー先輩に怒られました。この素敵生物をもう少し観察していたかったのだけれど残念。

 と、言う事で見ての通り、本日私はバイト先の清掃活動に勤しんでおります。ちなみに今俺達三人が居る場所はとある物置部屋の一室で、もうすぐここは終了して次の清掃場所に移動しようとしている最中であります。

 

「おっとすまない。あとはここを拭けば終りなんだが、いかんせんヤモリがな」

「ヤモリぃ?そいつは中々レアな生き物じゃねぇか」

「そうなのか?」

「ああ。俺もガキの頃はコロニーで沢山見たもんだが、特にここに来てからはあまり……ま、ラインアークは海上に位置してるしな。そもそも外部から虫が入って来づらいんじゃねぇか」

 

 その説はあるな。となると、輸送物と一緒にそういったものが入り込んでくるケースが大半か?

 俺が元居た世界だとそういう外来種云々で生態系が崩れたりしたとか言う話は良く聞いたけど……言うてこっちの世界って、そもそも自然環境とかどうなってんだろ本当。動物園とかあるんですか。

 

「……うーし、終わったなら次行くぞ。目的地まで結構歩くからなァ」

 

 俺が壁を拭き終えたのを見届けたヤンキー先輩は、清掃道具を手に持つと物置部屋から出ていく。当然俺と爺さんもそれに倣い部屋を後にするわけだが……

 

 そこで、俺は爺さんに質問を飛ばした。

 

「なぁラスター。動物園って知ってるか」

「なんじゃ藪から棒に。まぁ、知っとると言えば知っとるが……今のご時世、綺麗に見れるのは空の上。クレイドルでしかあり得んじゃろうな」

「地上には無いのか?」

「儂が知っているのはネクスト機が台頭する前までの時代。今は、どうかの」

 

 ……あるにしてもこの地上じゃなぁ。やっぱきれいな空気とか無いと動物たちも厳しいかね。

 爺さんの話を聞くに、クレイドルはある意味で方舟的な機能も果たしているのかもしれないな。こういうのが後の時代に神話になったりするのかなぁ……感覚麻痺してきてるけど、俺ってとんでもない場所に居るもんだよ本当。

 

「一度『閉じ』、もはや新しく始めるしかなかろうて。緑も、空気も、動物も……人も」

 

 長い廊下を歩く最中、爺さんは小さく呟いた。その瞳は帽子に隠れ、表情は伺いきれないが……新しく始める、かぁ。俺もこの世界に来て地上が汚れきっているのを幾分目の当たりにしてきているからさ。ORCA旅団や一部の人間がそう考えるのも無理はないと思えると言うか。

 

 ただ、仮にそうだとして。新しく始まる世界では果たして……

 

「後ろ向き、かのぉ? 儂は」

「まぁ、救われんこともないんじゃないか」

「ほっ。嬉しいことを言っとくれる」

 

 今はまだ……生き抜いた先に何があるのか、俺にも分からないからね。爺さんの考えが色んな意味で後ろ向きだったとしても、その結果が現れるまでは俺には何とも言えないよ。

 俺は自分の事に関しては結構「絶対負けない」とかなんとか抜かしちゃってるけど……実際ねぇ。本当の意味で断言なんか出来ないって。何時もどうなるかハラハラドキドキしてっから。

 

 ハァ……俺の信じる『Chapter終了時の首輪付き陣営絶対勝つ説』。これも実際はどうなのか。

 

「ふむ。しかし時にヨシ君」

「何だ」

「お主の『進捗具合』。どうなっとるんじゃ?」

「……俺が聞きたいところなんだがな、それは」

 

 爺さんの言う進捗とは、恐らくラインアークやORCA旅団関係をひっくるめた意味なのだろう。

 いや、本当ね。先ほどの俺の言葉通り、今どうなっているのかは俺自身が聞きたいところですよ。何せラインアーク上層部が独自に話を進めているのか、俺には殆ど情報が入ってこないんだ。

 

 ここ最近で俺に伝えられた情報と言えば……

 

「お主、ここ二週間ほぼ毎日儂らと共におるが……さては」

「まぁ、そういう事だ。依頼が来ていない」

 

 らしい。

 

 俺が先日受けた輸送部隊のレッドバレー突破阻止(失敗)の依頼を最後に、ネームレスへのミッション依頼は全くと言って良いほど届いていないとのことだ。俺がラインアークに来たばっかりの頃、警戒されてどこも依頼出してくれなかったのはあったんだけど……今の状況でこれはね。

 あまりに暇すぎるので、バイト時間メッチャ増やしているって訳。つーか体動かしていないと押し寄せてくる不安がヤヴぁい。エドガーさんはちょっと忙しそうで最近会えてないし。AMIDAさんもアイラちゃんのお部屋で女子会してるし。

 

 寂しいっすハイ。

 

「となると、ラインアークはもう守りに入っとる可能性が大きいのぉ」

「仮にその通りだったとすれば、ラインアークが俺を出撃させないために虚偽の報告をしている可能性も存在するが……まぁ、どちらにせよ」

「良くない流れが来とることには間違いなさそうじゃ」

 

 ①企業が俺に依頼を出してない=ただ今絶賛襲撃準備中。

 

 ②ラインアークが俺を出さない=もはや身の回りを固めないといけない状況になりつつある。

 

 ……ってことですね分かります。おぉ~いよいよもってして激ヤバ状態に加速してきてますねぇ。これもはや企業がいつ襲撃してきてもおかしくないのでは?

 いや、まぁ、オーメル側にはオッツダルヴァ……テルミードルさんが居るし、襲撃時期は絶対に調整しているはずだ。少なくとも、プロトタイプネクストがラインアークに搬入されるまではGOサイン出さないはず……出しませんよね団長!信じていますよ!

 

「ここ最近、市民も何やらざわついとることだしの。ある噂を巡って」

「噂?」

「『企業連中がここに何かを仕掛けてくる』、とな。どうやら自分たちの置かれている状況に気付きかかっとるらしい。如何せん今回のは何時ものちょっかいとは度合いが違うからのぉ……噂も広がろうて。ラインアークの様な場所では尚更にの」

 

 そうか……ラインアーク。ここは『来る者拒まず政策』でいろんな人が住んでいるらしいからな。それこそ企業・反企業勢力所属の人間、敵味方関係なく入り乱れてそうだし、情報なんかどっからでも流れ込んでくるか。今回のはその中でも特にビッグニュースが表に出かかっていると。

 

 ラインアーク上層部は重要な情報の隠蔽工作とかめっちゃ苦労してそう。ってか、さ。

 

「情報漏洩甚だしいのは良く理解できた。それはつまり、俺が旅団に注文したブツの情報も」

「どこからか漏れ出ているやもしれん。それこそミラージュの耳にも、の」

「それは良くないな」

「儂らの関係性を知られると言う意味ではそうかも知れんのぉ。しかし、単にプロトタイプネクストの存在が知られたと言う意味では……儂にはそこまで問題があるようには思えん。そう簡単に対策なんぞ出来んだろう。特に、お主が乗っているアレには」

 

 だと良いんだけど……ま、そもそもまだプロトタイプネクスト届いてないんですがね。

 メルツェルさんとの交渉から結構な日時過ぎてるし、そろそろ連絡の一つ位あっても良いと思うんだけど……そこんところどうなんだろう。ミラージュ対策の要ですよアレは。

 

「ラスターの爺さん。ブツ到着の目途はついてるのか?」

「もう既に搬入されとる」

 

 へー。じゃあまずは一安心じゃん。ラッキー……

 …………

 ……

 

 ……はいぃ??

 

「おいおい」

「何じゃ。お主、本当に何の情報も得ておらんのか」

「だから言っただろう。ラインアークはおろか、旅団直通の端末からも何も情報は入っていない」

「ほぉ。サプライズじゃの」

 

 サプライズって、いきなりすぎぃ!さすがにもう到着してたとか心の準備が……ていうか。

 

「頼んでおいて何だが……ここに来るまでに何事もなかったのか?」

「さて、のぉ。ただ、まぁ……輸送ルートは、空でも、陸でも、海上でもなかった様子じゃ」

 

 すると爺さんはニヤリと笑い、人差し指を地面へ向けて指した……おいおい、まさか。

 

「……海中か」

「正解じゃ。さすが副団長様じゃのぉ。ラインアークの立地条件を利用するとは」

「確かに、海中から搬入するとは予想外だな。それも、あんな巨大な物を」

「輸送にあたり幾つかのデコイも用意したらしいがの。さっき言った3つのルートに」

 

 はっはっは。なるほど、とんでもない人だな。輸送を徹底的にバレなくするんじゃなく、バレていることを前提にいくつもの囮を用意したのか。そして尚且つ本命は気づきにく、攻めづらい海中のルートを使用したと。

 

 海に没している都市群、ラインアークあってこその輸送手段とも言える。

 

「さすがに切れ者だな。敵には回したくないものだ」

「お主がそれを言うか?」

「知恵比べは苦手でな」

「かっかっか。冗談は得意な様じゃ」

 

 いやこれ凄いわ。こんな大がかりな作戦を考えて遂行するなんて。

 ……逆に言えば、プロトタイプネクスト輸送にはここまで面倒をかけないといけなかったってことだ。じゃないとレッドバレーの時のミラージュ陣営みたいに、何者かの襲撃を受けて搬入に失敗していた可能性がある。

 

「大きな借りが出来たな」

「ま、なにはともあれ良かったのぉ。これで第一段階は完了。あとはお主次第じゃ」

 

 ま、まぁね、俺がやることって言ったってただプロトタイプネクストに乗るだけのお仕事だから。言う程リンクス自身にその情報を知らせる必要はないんだろうけど。でも爺さんは俺と二週間くらい一緒に居たんだから、もう少し前にその話してくれても良かったのではなかろうか。

 

「ふむ、しかし意外や意外。お主ならどこからでも情報を得られるものだとばかり思っておった」

「買いかぶり過ぎだ」

 

 うぐぅ~勘違いの弊害がここに現れてますよ。そうか。今の俺は世間的に謎の組織から来たヤベー奴と認識されているんだった。当然それはORCA旅団とて同じように思っていたと……

 いやぁ違うんだよなぁ!皆の手助けなしには生きていけない言う程ヤバくもない奴なんだよなぁ!何度も言うけど、情報なんかゲーム内のミッションの知識しかないからね。

 

 困ったね。

 

「まぁ、だが良い。プロトタイプネクスト……『00-ARETHA』(アレサ)が到着しているのなら、後は俺が実際に乗り込みテストをするだけの話」

「あの化け物を制御できる自信は?」

「ある……とは言えん。稀代の天才リンクス、ジョシュア・オブライエンですら死に至らしめた代物だ。俺が如何に強化された身体を有していようとも、『もしもの可能性』は付いて回るだろう。いや、そもそもの話、俺は……」

「……。どうやら、思うところがありそうじゃな」

 

 俺が黙り込んだところを見て、何かを察したのだろう。爺さんは怪訝な表情で言葉を返した。

 そう。ラスター爺さんの言うとおり、俺はプロトタイプネクストに関してある不安を抱えている。起動テストにはほぼ確実に問題が発生するであろうが、特に『その不安』が的中した場合の損失に関しては……あまり想像したくないのが本音だ。

 

 とはいえ、一応。

 

「策は用意してある」

「じゃろうて。お主は、ただやられることを良しとしないタイプの典型のようだしの」

「そう見えるか?」

「でなければ、とっくに死んどる。如何にお主程の力を持っていようと、の。違うか、ヨシ君?」

 

 そう言って、かっかっかと笑う爺さん……ふふ。面白いこと言ってくれる人だよ本当。

 

 色々と勘違いはしているだろうけど、俺のインチキパワーを過大評価しないのは嬉しいな。結構色んな人が、超絶無敵のネームレスって感じでイメージしてるみたいだし。こういう人は珍しい。

 ま、オペレーターであるエドガーさんは知ってるだろうけどさ。俺あの人の前ではだいたいピンチな姿晒してるから……つっても情けない姿を一番知られたくないのがエドガーさんなんだよなぁ。

 

 特に最近やたらピンチ多かったし。悲しいでござるよ。

 

「爺さん」

「何じゃ」

「俺は爺さん達二人がラインアークのどこに住んでいるのか分からん」

「そりゃ、教えてないからのぉ。それがどうしたのじゃ」

 

 いきなりの質問でごめんね。ただ、爺さんとヤンキー先輩の居住区分からないとさぁ。

 

「流れ弾に当たるぞ」

「なるほど。戦闘時における儂らの身の心配をしておる訳じゃな」

 

 そういう事。出会って間もないけど、この人達は怪我だったりは絶対してほしくない。

 俺は俺に直接関わっていない人の命に極限まで気を使えるほどの聖人君子じゃないから。だから関わった人の、特に、俺が助けてもらった人達だけでも、苦しい思いをしないで欲しいと思うよ。

 

 我ながらなんとスケールの小さい男だ。こんなんじゃ世界を救う勇者には絶対選ばれないな!

 

「お主が心配する必要は何もないぞ」

「どういうことだ」

「各ビルの地中……海面下とでも言おうか。そこには避難用のシェルターが存在しておる。有事の際には、市民は皆そこに避難し、身の安全を守るんじゃ。特に、この中央ビルのシェルターに関しては堅牢に作られとるらしいが……その辺りは儂にも良くわからん」

「……初耳だ」

 

 し、知らなかったー!いやでも俺の普段住んでいるフロアも相当な下層にあるからな。俺の住処も実はその地下シェルターに分類されるところに存在している説もありますね……なるほどなぁ。

 道理で原作ではビル群に関係なくネクストが弾丸撃ちまくっていた訳だ。謎は全て解けたぜ。

 

「ちなみにじゃが、海中にも道路は存在しとるぞ」

「俺はこの中央ビルからはヘリポートを経由してしか移動したことが無いが」

「VIP待遇じゃの。一般市民は余程急ぎの用が無い限りその海面下の道路を利用して移動することになっとる」

「ほぉ……興味深いな、それは」

 

 海面下の道路か。気にしたことなかったけど、やっぱり市民の移動手段は道路中心なんだね。

 俺がそこを使う機会があるのかどうかはさておいて、知っておいて損はないだろう。もしかしたら逆に、ヘリポート経由で移動できないなんて事態に見舞われるかもしれないし。

 ……俺ラインアーク来てもう何か月か経つけど、知らない事いっぱいだな。ま、知り過ぎていたらここから離れる時に悲しい気持ちが強くなるから、それはそれで良いのかね。

 

「ふむ……丁度良いタイミングじゃ。ヨシ君、儂からも一つ忠告しておくが。お主の方こそ、身の回りには気を付けい。企業連中、何やら良くない事を考えている様子だからのぉ…」

「良くない事か」

「……とは言え今は逆に安全じゃろうがな。企業にとって、お主をネクスト戦で排除することが重要な『今だけ』はのぉ」

「……問題は、これからのラインアーク戦の後、か」

 

 ……いやぁ。俺がアホみたいにアルバイト出来てるのは、逆に言えば『お前はラインアーク襲撃で絶対に殺す』という企業側の意思表示と言う事なんだろうね。だから暗殺みたいな事は今はお預けだし、ラインアーク側もある程度俺に自由に動かせていると。

 しかし『良くない事』の具体的な事を話さない事から、爺さんもそれについての詳しい情報は把握出来ていないのかな……つまり俺なんかが他人の事を心配している場合じゃないっつーことかい。

 

確かに自分のことすら守れないようじゃ……おお、怖い怖い。

 

「では、精々気を付けて清掃活動に勤しむとしようか」

「それが良い。どうやら『彼奴』も怒こっとるらしいしの」

 

 くっちゃべりながらノロノロ歩く俺らの前方には、彼奴……ヤンキー先輩が額にビキビキッっと青筋を立てながら腕を組み、立ち尽くしていた。それはさながら伝説の不良漫画〝特○の拓〟に出てくる登場人物のようで……

 

「急げ……? つっってんだよ? オウ……?」

 

 !?

 

 はぁい今いきまぁす!

 


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