絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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勿論、書いていますよ。
ところで皆さん、デモンエクスマキナってゲームが出るらしいです。
スタッフの方がどこかで見たことあるような人達なので、凄く楽しみですね。



第48話

ドン・カーネル視点

 

 

ラインアークにORCA旅団。現体制を良しとしない二つの反体制勢力。

彼らが誰に知られることなく、一時的な協力関係を築き上げようと画策していた最中……事件は起こった。

 

何と、ミラージュが表舞台(カラード)へと姿を現したのだ。

 

「……」

「……」

 

そのあまりに唐突・衝撃的な展開に、誰もが困惑した。

 

何せミラージュはネームレス以上に危険で、謎多き存在とされていたのだ。彼の行動……複数のAFを瞬殺するなどといったアウトローっぷりから、何らかの反企業勢力に所属していると踏んでいた者も大勢いた。

 

「おはようございます」

「……ああ」

 

故に、今回の「オーメル名義」でのカラード参戦。あまりに不可解な出来事である。

 

そこで『男』は一瞬、考えた。まさか、オーメルがミラージュの存在を秘匿していたのか、と。

 

しかし、如何にオーメルとは言え、ミラージュ程の存在を誰に知られることなく隠すとなると……それは難しい話だ。いや、むしろオーメルだからこそ厳しいとでも言うのか。

 

ここに至るまで、現存企業中最も経済力・発言力のあるオーメルが一番に『怪物達』との関連を疑われていたとの話だ。他企業からの激しい追求があったとして……もしミラージュを秘匿していたのなら、もっと早くにその事実が明らかになっていたとしても、不思議はないのではないか。

 

何より有名どころと言うのは、それだけで『隠し事』が難しくなるのだから。

 

「一つ、よろしいですか?」

「何だ」

 

この件に関してオーメルは何の声明も出しておらず……事件から二日経った今でも何の情報も得られていない。あるのは様々な憶測だけ。一体世界はこれからどうな……

 

「突然ですが、貴方に蹴りを入れます」

「あ?」

「ふっ」

「っが!」

 

太股にはしる衝撃、そしてパァン!と言う小気味よく乾いた音。

考えに没頭していた『男』、ドン・カーネルは突然身に降りかかった暴力に顔をしかめた。

 

「ふむ。身体だけは頑丈な様子で」

「~~~!なんっ、何なんだお前は!?」

「『キャロル』です」

「知っとるわそんなこと!俺はお前にその暴力の理由を聞いとるんだ!」

 

状況を説明しよう。

 

今現在カーネルが居るのは、GA本社における『シミュレーションルーム前』だ。

ネームレスに敗れさってからと言うもの、暇な時間は昼夜を問わずこの部屋に籠りっきりのカーネルであったが……今日は珍しく、彼の携帯端末に相棒(?)であるキャロルからの呼び出しがあったのだ。

 

急がねば碌なことにならん。

 

今までの経験上そのことを良く理解している彼は、急いでルームを出たのであったが。

何と、出た時には既にキャロルが扉の前で待機していた。その姿を見て、嫌な予感がしたカーネルだったのだが……まさか、いきなり蹴りを入れられるとは。

 

何とも恐ろしい女である。

 

「理由が知りたい、と?」

「当たり前だろうが!」

「では、失礼して」

「んなっ……」

 

カーネルタイキック事件の詳細を明らかにすべく、抗議の声を挙げようとしたカーネルの顔に……

 

キャロルの両腕が伸ばされた。

 

男の頬に、女性特有の柔らかで、暖かな感触が伝わる。

……蹴りを入れられた時以上の、想定外の出来事だ。故に、対応が出来ずに固まってしまう。

一方、キャロルの方はと言うと。

 

「ふむ……」

 

両手で掴んだカーネルの顔を、下から覗き込むように何やら観察している。

彼女の視線の先は……カーネルの目元か。どうやら、二人の視線が完全に交錯している訳ではないらしいが……

 

暫くそんな状況が続いた後……キャロルは男の顔から手を離し、口を開いた。

 

「近頃の睡眠時間は?」

「あぁ?何言って」

「睡眠時間は」

「……2時間は寝ている」

 

何故、今この質問をされたのかは分からないが、カーネルは取り繕うように答えた。

 

そう。別に、寝ていないことは無い。

 

ただ、今のカーネルとしては寝る時間が勿体無いと感じているだけだ。睡眠を多く取るよりかは、戦闘訓練に充てた方がまだマシだろう。やればやるほど、結果は現れるはずなのだから……

 

「愚かな。低いAMS適性故、唯でさえストレスを受けやすい身体だと言うのに。これ以上に負担を抱え込んでどうするのです」

 

……そう、思っていたのだが。キャロルから苦言を呈されてしまう。

 

「小言を言いに来たのか?」

「はい。このままでは大事になりそうなので」

 

何を言い出すかと思えば。

 

「お前が俺の心配か?明日は嵐だな」

「反応速度が鈍っています。それこそ、私のか弱い蹴りに何も対応出来ない程度には。このままでは、次回の任務に支障をきたす可能性が大きい」

「チッ。何が『か弱い』だ……ああ分かったよ。ちゃんと休めば良いんだろうが」

「ほう。素直なのは良いことです。仮に拒否したのなら、次はか弱い手刀を見舞うところでしたよ」

 

か弱いと言う言葉がここまで似合わない女も珍しい。そう、カーネルは思う。

 

いやなに、身体的な意味で言うのなら、キャロルは細身ではあるのだが……その精神性、性格とでも言うのだろうか。恐らくだが、その辺の男性軍人よりもはるかに図太い精神の持ち主だろう。

 

その無駄に整った見た目からは想像が出来ない。全くもって可愛げg

 

「今、失礼なことを考えましたか?」

 

……。

 

「いや」

 

別に失礼ではない……はずだ。

 

「ならば良いです。では、行くとしましょう」

 

そこで気がついた。そう言えば、と。

 

キャロルに呼び出されはしたものの、その目的はハッキリとしていなかったのだ。

行きましょう。と、言うことは別室で次の任務の説明でもするのだろうか?

いや、しかし……今日はそう言った雰囲気ではない。何と言うのか、あまりピリついていないとでも言うのか……まぁ、相変わらずの無表情ではあるのだが。

 

「何処に行くんだ?」

「コーヒーでも飲みに」

「……。はぁ?」

「おや。コーヒーをご存知でない、と」

 

この女ぶっ飛ばしてやりたい。カーネルはプルプルと震え出す。

 

「そんなん知っとるわぁ!!」

「では行きましょう。ついてきて下さい」

 

……。駄目だ。これでは何時ものペースだ。いや、むしろ何時もよりも不味い。

今日のキャロルは行動が読めなさ過ぎる。何とかしてこの時間を乗り切らないと……

 

スタスタと軽快に前を歩くキャロルと対照に、カーネルの足取りは妙に重かった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

それから数分程移動しただろうか。

幾つかの扉(セキュリティ)を突破した後、無事目的の場所へと辿り着く二人。

そこは何やら中々の人で溢れかえっており、静かながら、何処か活気を感じさせる場所である。

 

「……」

 

……まぁ、ここがどんな場所なのかは見れはわかるが。

中に入る前に一応、「おい」と、カーネルはキャロルにアイコンタクトを送った。

かくして、返ってきた言葉はと言うと。

 

「カフェテリアです。GA職員専用の」

 

その名も、『スター・パックス』。やたらお洒落な雰囲気を醸し出してるコーヒー専門店である。

 

その店内に居る客達は、スーツや白衣を着こなす、やたら頭の良さそうな連中ばかりだが……恐らく、ここ(この区画から先)に居るのは職員の中でも『それなりの位置』に居る人間だろう。

カーネルはそう予測した。監視カメラの数や、ここまで抜けてきた扉、また番をしていた兵士の数からも大体把握出来る。

 

中々の監視体制だ。

 

まぁ、でなければリンクスであるカーネル自身を、むやみやたらと人前に出すとは思えなかった。

……いや、キャロルならやりかねないか。否定出来ないのが彼女の恐ろしいところである。

 

「注文は」

「知らん。お前が決めろ」

「よろしいので?私も今日が初めてですが」

「……。構わん。だが妙なのにはするなよ」

 

来るの初めてだったのかお前は。

 

彼女の台詞に一抹の不安を覚えるが……釘を刺しておいたので恐らく大丈夫だろう。

第一、コーヒーなんぞ詳しくない上に、この様な場所にはカーネルも縁がない。

自分で選ぶとなると時間もかかりそうだし、何より面倒であった。

 

……それから暫く。

 

注文を受け取った二人は、適当に空いている席を見つけ、向かい合わせになって座る……

座ったのだが。

 

「……目立っていないか?」

 

先程からチラチラとした視線がこちら側に向けられているのには気が付いていた……が、しかし。

何だこれは。どんどんそれが周囲に感染している様な気がしてならない。

 

「貴方の様なくたびれた中年男性が珍しいのでしょう。この空間での貴方の浮きっぷりは、もはや天才的とも言えます。間違い探しなら最序盤に見つけられるオブジェクト並みの違和感……」

「……お前は誰にでもこうなのか?」

「まさか。貴方は特別です」

 

嬉しくない。

 

カーネルはため息を吐く。まぁ、自分にもこの視線の原因はあるのかも知れないが……チラついた視線の大半はキャロルに向けられているだろう。

何せ先の通り、キャロルの外見はそれはもうお人形さんの様に整っているのだ。それこそ、どこぞの服店にマネキンと共に立っていても違和感が無い程度には。

 

だからこそ言いたい。お前ら騙されているぞ、と。

 

この女は大変な毒舌で、人のことを小馬鹿にするのが大好きな困ったちゃんだぞと。

 

「……で。俺と愉快にコーヒーを飲む為だけにこんな場所に来たのか」

「飲めばお分かりになるかと」

「……。なるほど、何も混ざっていない」

「はっは」

 

真顔で笑うキャロル。声に抑揚が無いのがまたシュールである。

全く……いや、まぁ、しかし。今回は本当に何も仕掛けてこない気か。これも彼女なりの気遣いと言うのなら、それを受け入れてやるのもパートナー……リンクスとしての務めなのだろうか?

 

信用と警戒心とで揺らぐカーネル。だがそんな彼をよそに、キャロルはとあるキーワードと共に口を開いた。

 

「ネームレスに、ミラージュ」

「!」

「やはり、気になりますか。貴方の近頃の睡眠不足には、彼らのことも関係していそうですね」

「……ふん。俺だけじゃないだろう」

 

そうだ。彼らが気になるのはカーネルだけじゃ無いはずだ。

それこそ、ここに居る軍事関係者全員があの二機のことを気にかけているだろう。

 

「確かに今や、GA内部はその話題で持ちきりであり……出どころ不明の噂も数多く存在している」

「はっ。『中身は脳みそだけ』説には流石に笑えるがな」

「ふむ。しかし否定は出来ないでしょう。我々は『会話』こそしましたが、その中身……リンクス本人を直接目にした訳ではありませんので」

 

確かに、言われてみればそうだが……しかし。

 

「脳みそだけで会話は出来ん」

「話す役割など誰でも可能です。それこそ、貴方でさえ演じきれる……とは言え、私としてもその噂は信じ難いのが事実」

「まぁ、だろうな」

「『脳すらない』」

 

……。意味不明な言葉に一瞬固まるカーネル。

 

「何だそれは」

「『脳だけ』と言うのは、あまりにも……私が技術者ならば、その様なものは無くします」

「知ってるか?人間を動かしてるのは『脳みそ』なんだ。それを無くしたら、何も出来ん」

「はたして、本当にそうでしょうか」

 

キャロルが何を言いたいのか検討もつかないが。何やら興味深い話に突入しそうである。

 

「こんな言葉をご存知ですか。『機械と、我々の脳の違いは、電気信号の複雑さだけだ』。仮にそうだった場合……我々の技術が進歩して、脳の発する信号パターンを完全に機械にコピー、意識を電子化出来た場合。どうなるのでしょう」

「……」

「今の我々の技術の延長線上に、そのような未来が待ち構えていても何ら不思議では無いのでは?ともすれば、怪物達の『親』が既にその域に到達している可能性もあるでは?そう考えると……中々どうして、面白い」

「……チッ。気味の悪いことを言うな」

 

全く不気味なことを言う。人間が機械と融合……いや、完全に機械自体になるなど。

 

今現在においてネームレスのリンクスやミラージュがそうだとはとても思えないが……そんな研究、進めている・進めようとする者が居たとすれば、その人間は余程のイカれ野郎に違いない。

 

それが成功した世界なら、『人間』で居る意味が薄れる。

 

しかしそうなると……戦場にオリジナルのコピー品が大量に出回ることにもなりかねないのか。

クローン技術のソレよりも危険な……つまり、今以上にロクでもない戦場が展開される可能性は大だ。そもそも、肉体などただの枷である、と考える者も多く出るだろう。

 

恐ろしい話である……だが。

 

「俺には、そんな技術が上手く行くとは思えん」

「ほう。理由をお聞きしても」

「知るか。機械と、人間は違う。入れ物を変えても上手くいかん」

 

ボトルの水を他の容器に移し替えても、完全に全てを、100%を取り出せない。

器を変えることで、大事な何かが欠けてしまうのではないか。カーネルはそう思ったのだ。

 

それがもし、人を人たらしめている……“魂”のような、何かだったら、と。

 

まぁ、カーネル自身がそう言ったオカルトじみたものを完全に信じているという訳でもないし……

正確な根拠など、どこにもないのだが。全く、これではまた小馬鹿にされてしまうか。

 

「なるほど。シンプルで実に貴方らしい」

「馬鹿にしているのか?」

「いえ……ふむ。しかし……貴方の様な者こそが、意外に真実に。中々に的を射ているのやも」

「意外は余計だ」

 

褒めてるのか貶めてるのか良く分からないが、少なくとも何時もよりはマシな反応である。

それにしても……丁度良い機会だ。これまで顔を合わせる時は、任務以外のことについてあまり話せるせる雰囲気ではなかった。少し気になることもあったことだし、今回で少し情報の整理をするべきだろう。

 

「おい」

「はい」

「……ラインアークは、」

「展開されるかと」

 

即答である。カーネルの意見を遮るあたり、すでに意図に気が付いているのか。

いや、むしろカーネルに聞かれるべき質問を予め予測していた可能性が高い。実によく回る頭である。……ところで、会話を振っておいて、と言うか今更ながら。

 

「……こんな場所で話をしても良いのか?」

「ラインアーク戦に関してはそれなりに情報が流れ出ているので、無闇に秘匿する必要はありません。加え、今我々の居る区画のセキュリティレベルは3。それなりの職員しか立ち入ることの許されない場所です。つまり」

「ああ分かった。大丈夫なんだな」

「それで、何を気になさっているので?」

 

それは……

 

「出るのは、誰なんだ?」

 

これである。来たるべきラインアーク戦。一体、どの機体が候補として挙げられているのか。

カーネルはここ最近、これが気になって仕方が無かったのだ。特にオーメル陣営の面子について。

まぁ、別に、決して怪物達(ラインアーク側)を心配している訳ではないのだが。

 

のだが。

 

「ステイシス、ネームレス、ホワイト・グリントは確定」

「……ミラージュは」

「恐らく。オーメルとしては『彼』を試す機会にもなるでしょうし、そもそも、何処に所属していたとしても手を出していたのでは?貴方も知っての通り、怪物達には何やら因縁がありそうです」

 

そうか……この、四機が。

 

「加え、未だ正確な情報ではありませんが」

「まだ、何かあるのか」

「ストレイド」

「……!」

 

ストレイドと言えば、そのリンクスは戦場に出て数ヶ月程度のネクスト搭乗歴でありながらも……幾つものジャイアントキリングを達成していると言う『超大型新人』。確か、有名な戦果ではBFFの『スピリット・オブ・マザーウィル』の撃破などが挙げられる。加え……

 

「先日。我社のAF『グレードウォール』が、インテリオルの計らいにより撃破されました」

「……中で、『マイブリス』とまともにやり合っていたな」

「ええ。カメラ映像を確認するに、お互い本気で潰し合ってはいませんでしたが。それでも、終始押していたのはストレイドの方。彼は所謂、『例外』です。怪物達さえいなければ、今の世でスポットが当たっていたのは彼でしょう」

「……」

 

キャロルをしてそこまで言わせるとは……間違いなくストレイドのリンクスは『本物』なのだ。

自分を卑下するわけではないが、カーネルは自分との力の差を感じずにはいられない。

何時から自分はこんなに弱気になってしまったのか。いや、まぁ、間違いなくネームレスやキャロルなど、『力』を持った人間に出会ったのが原因なのだろうが。

 

……それはそうと。そのストレイドまでオーメルに付くとなると、ラインアークはかなりの苦戦を強いられそうである。

 

「ふむ、しかしながら。彼がオーメルでは無く、ラインアークに付いた場合。これが問題です」

「!」

 

ストレイドがラインアークに付く、だと?

 

カーネルは眉を顰める。そんなことに何のメリットが……付くなら普通はオーメル側に。

いや待て。そもそも、ストレイドは依頼をしなければ動かないはずだ。と、言うことはつまり、ラインアーク側もストレイドに連絡を取っているのか?

キャロルの言い分からは、少なからずラインアークとの関係性を示唆しているかの様に感じるが。

 

「状況を整理しましょう。仮にそうなった場合……【オーメル陣営】:ステイシス、ミラージュ。【ラインアーク陣営】ホワイト・グリント、ネームレス、ストレイド。となります」

「……ああ」

「合わないでしょう」

 

合わない……と、言うと。

 

「数が、か」

「ええ。『2対3』で、オーメル側が不利です。ラインアーク側が不利ならともかく……最大手の企業がランク1を引っ張り出してまでの潰し合い。オーメル不利な状況からはミッションを開始しないでしょう」

 

カーネルは冷や汗を流す。それは、つまり……

 

 

 

「―――――そう言うことです。その場合、最低でも一つ『枠』が空きます」

 

 

 

空くのは、オーメル陣営。ネクスト戦は恐らく、『3対3』。

 

「……」

「……。ふむ。何やら、静かになりましたね」

 

カーネルだけではない。このカフェテリアが静まり返っていた。

 

時折二人に視線を送り、密かに彼らの会話に耳を傾けていた客達の声が無くなったのだ。

恐らくだが、周りの客達はこの二人組が普通とは少し事なっていることに気が付いていたのだろう。一人は今まで見た事のない程の美人。片や迷彩服を着たやたらガタイの良い中年男性だ。

加え二人の出す雰囲気がやたらと……刺々しいとでも言うのか。

 

当の本人達はそれに気がついていないのだろうが……注目を浴びるのも無理は無かった。

しかしそんな彼らをよそに、会話は続く。

 

「近しいラインアーク戦。参戦するネクストは恐らく最大で6」

「『ステイシス』、『ミラージュ』、『ホワイト・グリント』、『ネームレス』、『ストレイド』」

「+あと『1』……これはこれは。さすがの私も……」

「……」

 

何時になく気分が高揚しているのか。キャロルの顔が少しだけ赤い。

想像でもしているのだろうか。この五機が一同に会する戦場を。最後の一枠が誰なのかを。

しかし、しかし。これは……

 

「魑魅魍魎が跋扈する、とはまさにこの事。この五機の中に混ざるのは、ヒトでは少々厳しいでしょう。それこそ、何歩かそこから踏み外してでもいなければ」

「……」

「何せ、仮にこの予想が当たっていた場合……私が知る限りではネクスト史始まって以来、過去最高の面子です。リンクス戦争時、アナトリアの傭兵が出たと言われる4対4(1)の戦場ですら、これには及ばない……斃れた方々には、些か失礼でしょうが」

「……過去最悪、の間違いだろうが。こんな連中が同じ場所に集うなど。下手をすればラインアークが跡形もなく消し飛ぶぞ」

 

……こう、整理してみて改めて分かるが。何やら、とんでもない事になりつつある。

 

この戦いの後、世界はどうなってしまうのか予測が出来ない。

いや、少なくとも、今現在の様な情勢のままで居られる筈がない。どういう形でかは分からないが、この余波は間違いなくGA社にも及んでくるであろう。

 

それにあの『名無し』。

 

いつだったか、人に『生き残ってみせろ』などとのたまっていたが、自分自身はどうなんだ。

この面子。キャロルに則るわけじゃないが、控えめに言って異常なメンバーだ。

 

「ふむ。しかし、安心しました」

「何が」

「貴方が、『最後の一枠に入る』などと言ったふざけた事を言い出さなくて、です」

「……ハッ。第一、これはお前の予測だ。そもそも枠なんぞ空いていないかもしれんだろうが」

 

そうだ。これはあくまでもキャロルの予測。最悪の場合、だ。

一つの戦場に、全6機での戦闘などそうそう起こりえない。企業も大事なリンクスを―――――

 

「答えになっていません」

「あぁ?」

「貴方が心の奥底で、何を考えているのか。まぁ、言う必要などないでしょうがここは敢えて……『資格』はありません。今の、貴方には」

「チッ……お前は本当に、腹の立つ奴だ」

 

カーネル自身、出来るだけ考えないようにしていたと言うのに。

 

だが、分かっている。そんなことは分かっている。自分は、彼らとは違う。

それこそ人間の中での最底辺辺りをウロチョロしているような自分では、彼らの集う『人外魔境』には混ざるとは出来ないだろう。例え混ざったとて……十数秒持てば御の字と言ったところか。

 

それでも夢想せずにはいられない。血が騒がずにはいられないのだ。

 

この世界のリンクスとして、『戦う怪物』の姿を最も多く、最も近くで見たことのある男。

少年でも、青年でもない、ただの中年は、年甲斐もなく憧れを持ってしまっていた。

彼らほどの強さから見える景色は、今の自分とどう違うのか。戦いの最中で、何を思うのか。

 

彼らと共に、対等に、戦ってみたかった。

 

「貴方は偏屈で、弱く、そして若くもない」

 

しかし、キャロルからは追い打ちをかけられるように非常な現実を突き付けられてしまう。

 

「お前の心情なんぞ知ったことか」とばかりに毒舌攻撃を繰り広げてくる彼女に、内心苦笑いしてしまうカーネル。まぁ、認めたくはないが実際その通りではある、と。

年甲斐もなく頑張ってしまうオッサンは、周囲から見れば実に滑稽であろう。

 

……リンクスに抜擢された頃、最もなりたくなかった存在になりつつあるのが今の自分とは。

 

これなら、ノーマル乗りだった頃の方が随分とマシな活躍をしていた様に思えてしまう。

少なくともAMS適性なんぞ必要に無い世界の方が、色々と『楽』であったことは確かだ。

 

「偏屈なのはお前もだろうが」

 

まぁ、言われっぱなしと言うのも癪なので、とりあえずキャロルに何か言い返しておく。

さぁ……来るぞ。恐らく10倍の罵詈雑言となってドン・カーネルに襲い掛かって―――――

 

 

「ですが期待しています。それなりには」

 

 

――――……。

 

……。

 

「……ん゛ん゛っっ!!?!?!?」

 

今世紀最大とも言える衝撃が、カーネルを襲った。

 

それは怪物達の戦闘を間近で見たあの日の出来事より、大きかったかもしれない。

なぜなら、キャロルの口からありえない言葉が出て来たのだ。本当にありえなさすぎる言葉が。

もしかして幻聴だったのか、と思いつつ、カーネルは冷静に対処する。

 

「おっ、おお、お前!今、俺の事っ」

 

極めて冷静に。

 

「ほほう。なるほど。褒めると喜ぶ、と」

 

しかし幻聴じゃなかったらしい。

カーネルは先ほどよりも更に冷静に対処すべく、落ち着き払った様子で口を開いた。

 

「おっ……何だ、お前。当然のことだ。俺は『選ばれた』んだからな。全く、何をあたりまえを」

「声のボリュームは小さめに。先ほどより目立っています」

 

物騒な話をしていたと思ったら、突然大喜びするおっさんに、店に来てからほとんど表情を崩さないマネキン美人。遠巻きに彼らを観察していた人々は「あっ、これ間違いなくやべー奴らだ」とようやく確信でもしたのか、一人、また一人と店内を後にしていく。

 

「御覧なさい。この人数の減少。どう責任を取るおつもりで?」

「……知らん。勝手に居なくなっただけだ」

「まさかただのジョークでここまで大喜びするとは、さしもの私にも予想外でした」

「ジョー……ハッ。別に、俺は喜んでなどいないが?何を勘違いしている」

 

これまでとは打って変わって、やたら元気になったオッサンはドヤ顔でコーヒーを啜る。

そんな男の姿を見て、全く、とでも言いたげに軽くため息を吐くキャロル。

 

「……」

「……」

 

……しかし、流石に先ほどの喜び様にはカーネル自身も恥ずかしくなったのか。

小さく咳払いをすると、この空気を切り替えるように、半ば強制的に話題の路線を修正した。

 

「おい、それより話を戻すぞ。あの『名無し』どもに関する情報はもっと無いのか」

「随分とお好きなようで。彼が」

「妙な言い方をするな!俺はただ、来たるべきに時に備えてだな」

「ですから、来ないと何度言えば――――」

 

――――……二人のブレイクタイムはまだ始まったばかり。話すことはいくらでもあるだろう。

 

特に、渦中のあの男達に関しては。

 

「ところで、カフェインを摂取すると眠気が収まるらしいですが」

「俺の睡眠時間に文句付けておいてお前……」

 

……。

 

彼らのブレイクタイムは、始まったばかりだ。

 


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