MT部隊隊長視点
《後ろのMT部隊、聞こえるか?》
目の前にいるネクスト機からの突然の通信。それにエドガーの部下達はに動揺を隠せない。
《は……え!?》
《え、こっちに喋り……》
《うわっ!な……》
《た、隊長っ》
皆が皆焦っていた。何せ彼らは、リンクスとの直接的な会話をした事が無かったから。
加え、状況も状況だ。命がかかっていれば、混乱するのも無理はない。
《聞こえている》
ともかくこの目の前に居るネクスト機の通信を無視をする事など出来ない。
エドガーが代表して返事をするが……次のこのリンクスの言葉に、彼らは驚く事となる。
《今から短時間だがPAを展開する。急いでここから離脱しろ……戦闘になる可能性もあるからな》
《ッ!……分かった。今すぐ離脱する》
エドガーが驚いたのは、このリンクスが「PAを展開する」。「戦闘になる可能性もある」。と言った事もあるのだが……それ以上に。
わざわざ、それを自分達に知らせたという事に彼は一番驚いていた。
というのも、そもそもこのリンクスはエドガー達の、ラインアークの味方では無いのだから。
わざわざこちら側にそれを宣告する義理などどこにもないのだ。
そしてこの言葉でエドガーは知った。「短時間だがPAを展開する」。つまり先程までは意図的に展開して無かったという訳である。
それに、恐らくだがあの黒いネクスト機とも戦闘を行う事を良しとしていない。勝てないと言う事も無いだろう、何せあれほどの威圧感を纏うのだ。
よほどの実力者に違いない。
となると、あの黒いネクスト機とも敵では無いのか。
とにもかくにも、今は離脱が最優先だろう。余計な事を考えてる場合では無いと、エドガーはすかさず部下たちに指示を出した。
《各機、聞こえていたな?今すぐこの場から離脱しろ。PAによるコジマ汚染、それにネクスト同士の戦闘に巻き込まれたく無かったらな》
エドガーの声を皮切りに動き出すMT部隊。そして退避中、一人の部下がエドガーに声を掛けた。
《あの……隊長》
《何だ?》
《あのネクスト機……あのリンクスは、俺達を助けてくれたんですよね?》
《今までの行動を見る限りそうだろう。だが》
《「何故助けたのかは分からない」と。そういう事ですよね?あの、その事ですが隊長。もしかしたら、大した理由などなかったのでは?》
部下のその言葉に、エドガーは眉をひそめる。
《……何?》
《いえ、ただ、「助けたいから助けた」。 偶然「目の前に困ってる人が居た」から助けたのでは無いのかと思いまして……って無いですね「リンクス」に限ってそんな事は》
その時、通信機越しに突如一人の人間の声が響いた。
《まあ、答えられる範囲なら良いだろう。何だ?》
何やら銀色のネクスト機のリンクスの声だ。エドガーは耳を澄ます。
《ああ、実際に「今」の俺はラインアーク側とは無関係だ》
これはどううやら、「向こう側」と話をしているらしいが……なるほど。
エドガー達MT部隊への回線を切り忘れたらしい。となると、この会話からあのリンクスの素性が少しは分かる可能性が出てくるだろう。エドガーは更に集中して声を集めるが……
《迷惑だろう》
何だ、この会話の流れは。何が迷惑なのか、エドガーにはさっぱり分からない。
《ラインアークに迷惑が掛かるからと言っている》
しかしリンクスのこの言葉で、エドガーは話の内容を素早く察した。
……となるとやはり、このリンクスは。
《可哀想だからな》
ほぼ確定である。
《た、隊長……!》
《ハァ……喜べ。このリンクス、お前の言う通りかなりの「お人よし」らしい》
まさか、本当にこんなリンクスが存在するとは。エドガーは夢にも思わない気持ちだ。
力を持つ者ほど、その気質はプライドが高く、弱者への嘲りの様なものも多く含まれる傾向にあるはずなのだが……このリンクスは、どうやらそれに当てはまらないらしい。
《そちらと戦闘になるだろうな》
そして
《……》
しばしの沈黙。
恐らく「向こう側」も驚いているのだろう。
リンクスというのは、独立傭兵なら「金」。企業やグループに所属しているなら、そこの「利益」の為に動く。つまり、それ以外の為にはまず動かないと言えるだろう。
だからこそ、個人の事情で動く……それも、自分に何の利益にもならない事に身を危険にさらして動いたリンクスに、エドガー達は驚きを隠せなかった。
《【ネームレス】だ》
これはまた突然である。「向こう側」が名前か、機体名を聞いたのだろう。
……が、やはり本名は答えないらしい。まあ、当然だろうが。
そしてそのやりとりの直後。
《これは……》
高熱源反応が急速に遠のいていった。どちらか……は考えなくとも分かるだろう。
そして1つの反応がレーダーから消え、1つの反応がエドガー達に近づいてくる。
……すさまじい威圧感を纏って。
《さてまずは……謝罪しよう。すまなかったな、少しの時間だがPAを展開してしまって》
《くく……いや、謝る必要はない。むしろ感謝している所だ》
エドガーは、纏っている雰囲気とは何ともミスマッチな性格らしい男に苦笑しながら答えた。
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主人公視点
隊長(仮)さんに謝りました。そしたら
《くく……いや、謝る必要はない。むしろ感謝している所だ》
だってさ。これどう考えても皮肉だよね。
いや謝ったじゃん。確かに口調は悪かったかもだけど、謝ったじゃん。
どうしよう、このままじゃいま計画中の「ラインアークに住もう!」作戦が上手く行かない!
し、仕方ない。とりあえず自己紹介から始めよう。そして警戒心を解きつつさりげなくその方面の話題に持って行こう。
《まずは軽い自己紹介だ、俺の名前は……》
あ、やべえ気づいた、俺日本人だからフルネームだと多分良くわかんない悪い感じになるな。
ここは自分の本名から1文字取って。
《そうだな、ゼン(善)とでも言おうか。機体名は【ネームレス】だ》
……良いよね?ゼンでも。多分変な名前では無いはず。
《そうか……では次はこちらの番だな。俺はこの第一MT部隊の隊長をしている、エドガー・アルベルトという者だ。先程むしろ感謝しているとは言ったが、再度礼を言う。本当に助かった》
やっぱり隊長さんだったのね……エドガーさん皮肉バリバリで超怒ってるよ。もう何?
「よくもうちのラインアークをコジマ汚染してくれやがったな?」って感じ超出ちゃってるじゃん!!俺もう謝るどころか、返事する事も出来ないんだけど。
ど、どうにかして誤解を解かないと……
《先に言っておくが、俺はやりたくて(PAの展開を)やった訳では無い》
《……》
無理?やっぱり信じる訳無いよね……
《……なるほど、分かった》
ってあれ?やけに簡単に引き下がったな。へへ!やっぱり真剣に言った言葉は伝わるもんだな!
チャンス到来!ここであの話題を出すしかない!
《ところで……ラインアークは空き室はあるか?》