主人公視点
おいおいやべーよ。とんでもねぇ名案思いついちまった。
エイリアンくっそ強いじゃん?PA硬すぎてダメージ通らないじゃん?
でもPAってマシンガン系に弱いじゃん?そう言うのいっぱい撃ったら行けそうじゃん?
でも普通は二本の腕で撃つのが限界。少々火力に不安がありまする……
どこぞの首輪付き君みたいに腕を増やしたいけど、残念ながら俺には出来ない。
俺イレギュラーじゃ無いし。ってかそもそも腕を増やせる技術者が……いや、居るんだけど。
天才アーキテクトが居るんだけど。時間とお金メッチャかかりそうだし却下。あと怖い。
はぁマジどうしよっかな~。でもな~マシンガン沢山撃ったらいけそうなんだよな~。
武器『五本』位で一斉射撃したらいけそうじゃんマジでな~。
プ ロ ト タ イ プ ネ ク ス ト
はぁぁぁぁぁ!!はっ、ハァアア嗚呼あゝ!!
おいおいーこんなんレオナルド・ダ・ヴィンチに匹敵する天才的発想力ですやん。
思いつくか?ものすごい敵ネクスト(仮)に出会った絶望的状況下の中で思いつくかこれ?
いや誰も思いつかないだろ絶対。プロトタイプネクストのこととか絶対忘れてるだろみんな。
あの五連超重ガトリングだったらほぼ100%やれるはずだ。コジマキャノンも付いてるし。
しかもプロトタイプネクストの機動力すごいから。もう凄過ぎてテレポートとか呼ばれるレベル。
つまりあの巨大ブレードとかも絶対避けれるからぁぁぁあああ!!
っつーことで。
「俺は『プロトタイプネクスト』に乗るッッ!!」
どうよ皆ぁ!?
「「「ブフッ!!!」」」
全員吹き出したぁぁ!
あのマーシュさんですらむせてるんですけど。ちょっとビックリしすぎなのでは?
全く皆さんどうし……ん?あれ。それはそうと、ここマーシュさんの部屋だよね。
フィオナちゃん呼び出して案内してもらったから合ってると思うんだけど。何でエドガーさんがこの部屋に居るのでしょうか……まぁ良いか。皆そろってる方が色々と都合が良い。
「と、いう訳なんだが」
「ゲホッ!ゲホッ……な、何がそう言う訳なんだゼン?」
「いやな。色々考えたんだが、あの『エイリアン』を相手取るには、此方もそれなりの対応を行わなければならないのでは、とな」
「ッああ……突然私を呼び出してみれば。なにを言い出すのですか貴方は!」
「ンホンッ!ああ。あ~……ちょっと落ち着こうかいゼン君」
皆むせてて苦しそう。大丈夫かなごめんね。次からはもうちょっと……って違う違う。
三人は何やら批判的な雰囲気を醸し出しているけど、俺としては結構真面目に考えた結果なんだ。
あの変なのはホント普通じゃない。正直言って攻撃の通らない相手と戦うのはマジで厳しいのね。
だから少しでも対PA効果が高い兵器は何かを考えた結果としてプロトタイプネクストを……
「ゼン君。君は自分の戦った相手についてどう思っているんだい?」
「反則級だ」
「だろうねぇ。でもあの性能はB7ありきの物であり、そのまま出てくる可能性は極低い……」
「確かに俺がパイプを破壊した後、奴の性能は幾らか落ちた。それは分かる。しかし」
しかぁし。
「最悪の事態を考慮して動きたい」
そう、これなんですわ。
今までの傾向から、相手が予測通りの動きをすることは極まれだ。
事前情報の通りに上手くことが運んだのは初戦のワンダフルボディ位だろう……もし、もし。
『本番』で、あれ以上の性能の相手が現れたらどうする?
仮に搭乗者がミラージュだったとしたら、普通の機体で戦えるのか?
……いや、さ。そんな事はほぼあり得ないとは自分でも分かってるんだよ。
マーシュさんも言っているけど、実際パイプ壊して色々弱体化したのを目の当たりにしたし。
しっかし。今回のアレはちょっとイカンでしょ。予測を裏切った場合のリスクがでか過ぎる。
「ふ~……まぁ、君は何かと厄介な敵に会いやすいからねぇ」
「此方としてもお前さんの戦場を見て来たんだ。気持ちは痛いほど良くわかるが……」
「ゼン。そもそも貴方には当てはあるので?」
最後のはフィオナちゃんからの質問。あ~やっぱ気になるよね。
普通に過ごしていたら……ってか、それなりにリンクスしててもプロトタイプネクストのある場所何て分からないだろうし。でもねぇ、『外』から来た俺は知ってるんですわ。
「ある」
俺の言葉を聞いた三人は、何とも言えない表情を見せる。
疑っている……訳じゃ無さそうだ。むしろ、やはりそう来たか、みたいな。それでいて何だろう、特にフィオナちゃんとマーシュさんの顔が曇っている。
……ふぃー。やっぱりなぁ、この二人は色々と思うところがありますよね。
批判的な雰囲気になるのも仕方が無いか。昔それ絡みで色々と良くない事があったもんな……
「……と言っても何だ、『何が何でも絶対に乗りたい』と言うほどでもないんだ。汚染の問題もあるだろうしな。もし良ければ例の―――っと。聞くのは今更になるが、例の作戦についてアブ・マーシュには色々と『説明』はなされているのか?」
「ええ、一応は。彼には幾つか手伝って頂くことがあるので」
フィオナちゃんがマーシュさんにアイコンタクトを送る。
おっけーおっけー。じゃあ普通に『ラインアーク防衛』時の話はしても大丈夫なんだね。
えーと、どこまで話したっけ。
「そうか。では続きだが……プロトタイプネクストは現行のネクスト機に比較しても、起動時におけるコジマ汚染率が高いだろう。オーメルからのラインアーク直接攻撃時、プロトタイプネクスト使用によるそれ……」
「ラインアーク側で協議し、許可が得られれば使用は認められます。が、しかし汚染については例の作戦時『そこまで気にしても仕方が無い状況』になる事が予測されるでしょう。故に一番の問題点はそこでは無く」
そこでは無く?何なんだ?
一応、フィオナちゃんの言う『そこまで汚染を気にしても仕方が無い状況』ってのは理解出来た。
ラインアーク防衛時にはそれこそ複数のネクスト機での戦闘が行われることとなるだろうから、ちょっと汚染率のやべー奴が一機混じったところで……って話だよね。
じゃあ一番の問題って一体……
「お前さんのことだよ。ゼン」
「エドガー」
「俺たちはな、お前さんの身を案じているんだ」
あ~……そっちね。
「ゼン君。君はプロトタイプネクストに乗った人間がどうなるか知っているんだろう?」
「ああ」
「如何に貴方と言え、無事では……」
……。そうだね。
良く知ってるよ。変な言い方になるけど、俺は『アナトリアの傭兵』だったから。
初代ホワイト・グリントのリンクス。あのジョシュアさんでさえ死を覚悟して乗ってた代物だ。
俺の身体がいくら強化されていると言っても、搭乗して無事で居られるとは思えない。
だけどさ。そもそも。
「俺がミラージュと戦う時点で、無事ではすまないだろう」
「それは……」
「良いか皆。そもそも、俺の事はそこまで気にする必要はないんだ。前に一度言っただろう?俺はこの世界にあと1年も存在できるかどうか分からないと。これは確定事項であり、絶対に変えられない運命と言うものだ。そんな『居なくなる人間』の事をいちいち考えていては」
いけな……
「命の恩人を、気にするなと言いたいのか?」
……エドガーさん。
「……言いたいことは色々とあるが、今は辞めておく。ただな?お前さんに命を救われた者たちが居て、お前さんに何かあると悲しむ者もいる。その事だけは忘れないでくれ」
「ふー……分かった、分かった。『自分を大切に』だな?意識しておくとしよう……しかしながら、だ。プロトタイプネクストの件、俺は前向きに検討させてもらうぞ」
エドガーさんが俺のことを常に気にかけてくれているのが分かって、涙でそう。
いや俺としてはあなた方の方こそ自分を大切にして欲しいんだけどさ。
エドガーさん達に何かあったらマジで悲しいから、だから俺は頑張れる・頑張るのよ。
この殺伐とした世界での癒しだからさ。
「全く。僕とフィオナちゃんも、アレに関わることはおススメしないんだけどねぇ。まぁ、最終的な判断は君とラインアークに任せるよ。で、実際その辺り、どうなりそうなのフィオナちゃん」
「そう、ですね……ラインアーク側の問題点として挙げられるのは『政治的配慮』でしょうか」
政治的配慮……っつーとどういう意味でだ。解説おなゃす。
「ラインアークが『プロトタイプネクスト』を防衛側に出撃させた場合、当然相手企業にもその情報が漏れることは避けられません。その時、問題となるのはその強力な兵器の出どころ……『何故ラインアークなんぞにそんな代物が?』と、彼らは躍起になってその提供元を探そうとするでしょう。ゼン。聞きますが、貴方はプロトタイプネクストをどこから持ってくるおつもりで?」
「ORCA旅団」
俺の言葉に皆がため息を吐く。なんである事知ってるんだコイツ、みたいな?
あるいはその答えが望ましいものでは無かったか。いやっはぁ~スマンな!
「……『貴方のところ』ではありませんでした、か。今回の計画はマッチポンプではあるものの、我々ラインアークが旅団と繋がっている事実は絶対に公表されたくはありません。この後彼らの行う行為はテロ行為そのものであり……公になるとイメージ低下どころの話ではないので」
「うーん。まぁフィオナちゃんの言わんとしている事は良くわかるよ。ゼン君の『組織』の情報管理の徹底さから、出自がそこならまだ安心は出来るんだけど」
「ORCA旅団から持ち寄せるとなると……情報統制に関して少々の不安がある、か」
三人とも息ぴったりだね。俺の『組織』とかこの世に存在してないからね。ごめんね。
しかしそっか~。そう言うところもちゃんと考えて動いていかないとヤバいか。
考えてみれば、俺がラインアークに居る時点で色々と企業側から目ぇ付けられてるもんな。
色々無茶言ったり迷惑かけたりして、もう土下座してぇ気分っす。
はぁ。ちょっと俺も何かそれっぽいこと言って、理解してますよ感出しておくわ。
「まぁ、三人の言うことは理解できる。単純な問題として、『プロトタイプネクストを持ってこれるほどの組織がバックにある』と認識されること自体厄介だろうしな。例の作戦後、企業のラインアークへの対応にも大きく関わって来るだろう」
こんな感じでどうよ。ちょっとお馬鹿加減を隠せ……
……
…………。
「……」
ああー……
「……?」
「え~っと」
「ゼン?どうした?」
……そうか。そうだな。ちょっとマジな閃き来たわ。
『これ』。良いやん。この案で行けば色々と問題は無くなるんじゃないか?
そう……だな。うん、そうだそうだ。これでラインアーク問題片付くわ。
でもな~、これちょっとバレたら色々アレなんだよな……繋がる携帯は基本フィオナちゃんだし。
……『爺さん』とこ行くかぁ?マジであの人っぽいんだよな。まぁ違ってたら違ってたでOKか。
それなら今まで通り過ごせば良い訳だし。OK OK。
「ん。ああ、すまんな。どうすれば全て上手くいくのかを少し考えていた」
黙んまり状態から回復した俺の言葉に苦笑する皆。何だなんだ、馬鹿にしておるのか!
でも良いよ!ゼンさんは君たちが笑ってくれるのが一番好きだからな!
おらもっと笑えや!(憤怒)
「お前さん、何か良い案が浮かんだのか?」
「ククク……どうだろうな。まぁなんだ、フィオナ・イェルネフェルト。ORCA旅団に今、連絡を取れるか」
「向こうが可能なら」
「そうか。今話しているプロトタイプネクストの件で連絡を取りたい。使用する・しない、どちらにせよ先ずは向こうの許可を取ってから話を進めた方が良いだろう」
確かに、一理あります。と頷くフィオナちゃん。
すると胸ポケットからORCA旅団専用の通話機を取り出し、部屋全員の顔に一瞥をくれた後……
「……それでは」
通話ボタンを押した。
それにしても判断はえーな。言っておいて何だけど電話かけるのに迷いなしか。
まぁラインアーク上層部との話し合いの為に、既に数回連絡取り合ってるかもしれないしな。
「……」
静まり返った部屋に響くコール音……かくして、3コール程した事を確認したその時。
《どうした。何か問題でも発生したか》
携帯端末から男性の声がこだました。機能は例に漏れずハンズフリー機能を使用しているらしい。
低く良く通るこの声。つまり主はあのお方!
「メルツェルか」
ORCA旅団副団長ぉ!相変わらずかっこよい声してらっしゃる!
《ほう。ネームレスのリンクスか》
「ああ。少しそちらに頼みたいことがある」
《手短に話そう。何だ?》
「プロトタイプ・ネクストを貸してほしい」
言われた通り手短に行きました。だって何かメチャメチャ忙しそうな雰囲気だし。
しかし俺の質問があまりにも突拍子もないものだったのか、一瞬の沈黙が訪れる。
いや分かりますよ!なんで知ってるんだってなってるんですよね!
さっきこのメンツにも似たような反応(ため息)されましたから!ほんと突然ですんません!
でも今回はその特大お願いに更に追加があるんだよなぁ!?
はいどんどん行くよ。怒るなよ!絶対怒るなよ!(振りではない)
「それと武装。アルゼブラ社製の背部兵装備、スラッグガン〝KAMAL〟二本、オーメル社製ショットガン〝SG-O700〟一本。そして旧レイレナード社製のマシンガン〝03-MOTORCOBRA〟が一本欲しい」
自分でも大分無茶言っているのは分かる。
前回の通話でメルツェルさんが、俺への『借り』として何らかの頼みを聞いてくれるって話はあったけど、さすがにこれはやり過ぎ感が否めないだろう。でも……
《先日の不明機対策か》
「さすがに記録を見たらしいな。ああ、その通りだ。今のままではアレと戦えん」
《少々注文過多だが……そうだな。ネームレスのリンクス、一つ聞きたいことがある》
何だ?
《この先の人類。どうなると考える?》
なんじゃそりゃ。ここでこの質問することに何の意味が?
聞かれたから勿論返事はしますが……そんなん答えは決まってますやん。
アーマード・コアの存在する世界なんだから。
「生き残る」
これ以外にない。どんなに劣悪な環境下に置かれたとしても、人類は生き残る。
数は減っても、絶対に全滅しない。新しい戦いに惹かれ、数を増やし、また減っていく。
それの繰り返しで、時々イレギュラーが現れて、世界を救い、破滅させる。
俺の見てきた『アーマード・コア』は、人類の絶滅した世界なんて無かった。
《言い切るか。中々興味深いな》
少し嬉しそうなメルツェルさん。この人は人類大好きだからな。
どれくらい好きなのかと言うと、活動目的が『人類存続』ってな位。
よーし、このちょっと嬉しいテンションに発破かけて、今までの要求を通させたい次第。
ゼンさんに、黄金の時代を……
「俺にはある種の確信がある。それはそうと、この要求を聞くと其方に良いことがあるぞ?」
《具体的には》
「秘密だ」
《秘密か》
ひ・み・つ(ハート
いや本当の事なんだけど。ちょっと今この場では話せないんですわぁ。
後でみんなに何の事か聞かれたら、あんなの嘘に決まってんじゃん!って嘘つかなきゃ。
っで!どうなんだ!OKなのか!ダメなのかどっち!
《……良いだろう》
ッシャおらぁ!
《私としてもミラージュ対策は万全なものにしておきたい次第だ。今回のプロトタイプネクストとネームレス兵装の輸送、情報統制を徹底する。企業に我々の関係性を知られたくは無いだろう。輸送ルートや時間等の動きは此方が指定した通りのものとなるが……フィオナ・イェルネフェルト》
「こちらに」
《輸送機が何時到着しても良い様に、受け入れ態勢を整えておくと良い。では、な……》
そしてブツッ……と言う音と共に通話終了。
やっべーなこの人。俺らが心配していることは全部お見通しってか。情報統制を徹底するとかやたら安心させる言葉を吐いてきたんですけど。
「ふ~っ。彼、やけに理解が早いみたいだねぇ」
「……まぁ、所謂参謀役だしな。と、言うか珍しく黙っていたな。アブ・マーシュ」
「いやね。少し考えていたのさ、それにしてもあっさりと要求を飲んだな、とね」
うーん確かに。
「ゼンの奴の口八丁に乗せられたのか、それともあの男なりの考えがあるのか……」
「あるいはその両方だったりしてねぇ」
「ともかく、交渉は上手くいきました。輸送に関しては追って向こうから連絡が来るでしょう。
私は……今回のプロトタイプネクストの件、上層部での話し合いを持つ機会を設けなければ……」
とりあえず一段落ついたか?
まぁネームレス用の武装も注文したし、今できる準備はこれくらいかなぁ。
ああいや、俺は少しばかり個人的に動く予定があるんだった。
急ぎたいところだけど、怪しまれるとアレだし次のバイトの時間までは大人しくしとくか。
ことがことだけに、部屋に戻ってゆっくり考えた方が良いだろうし。
「あ、そうだゼン君。話し忘れていた」
「?」
「エドガー君から依頼されて、例の『エイリアン』について分かったことが幾つかあるんだ」
おお、マジか。
「本当か。二人とも、何時もすまないな」
「フッ。と言っても、此方は特になにもしていないさ」
「エドガー君は謙遜上手だねぇ。フィオナちゃんはどうする?聞いてくかい?」
「そうですね。『彼』の助けになる可能性もありますし……聞いておきましょうか」
おっけーおっけー。
じゃ、色々解説頼むわマーシュさん!
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――――――
―――
で、翌日。やって来ました。
「おう!来たか新人!」
「ほっほっほ。ヨシ君、今日もよろしく頼むぞい」
バイトの時間だあぁぁ!
「このフロアの清掃は……新人!一旦爺さんのところを手伝ってきな」
「そちらは大丈夫なのか?」
「問題ねぇ。ご老体を労わりつつ、迅速な行動を心がけるんだぞ?この前みてぇに、タイル一枚一枚完璧にピカピカに磨こうなんて考えるんじゃあねぇぞ!?分かったな!!」
「了解」
先輩ナイス采配!爺さんと二人っきりになれるぜグへへ。
それにしても先輩のキレ具合が初っ端から半端ねぇ。血管切れるんとちゃうか。
いや俺のせいなんだけどさ。
「では行くとするかの」
爺さんの合図を機に指定の場所まで移動を開始。
到着したら、通常通り暫く業務をこなしつつ……時折周囲に目くばせを行う。
近くに人がいないことを確認し、場が整ったと判断したら。
「なぁ爺さん」
ちょっと聞いてくか。
「何じゃ」
「爺さん、ORCA旅団か?」
「そうじゃよ」
「そうか」
ふーん。そっか、旅団かー。
ん?
今旅団っつった?
「ゼン君、そこもう少し強めに擦っとくれ」
「ああ」
あゴシゴシ……あ~ここの床の汚れとりづれぇな。
洗剤多めにしとくか?いや、メッチャ汚れ落ちるスポンジに変えるか。
でもな~ワックスまで落ちると色々と問題が……
いやゼン君って言ったよね今。偽名完全にバレてるよねこれ。
「爺さん」
「何じゃ」
ほ~ん。あくまでもその態度を貫くつもりっすか。じゃあこれ。
「ORCA旅団に入りたい」
そんな俺の言葉に、それまで動かしていた手をピタッと止める。
……これは流石に効いたか。
俺がゼンだって知ってるってことはつまり、件のリンクスだと言うことも既に承知のはず。
そいつがこんな意味不明な事言い出したら、そりゃこうなるか。さてさて……
「何を考えておる」
「欲しいものがあってな」
「何じゃ」
「色々」
再び、爺さんは手を動かし始める。
「答えになっとらん」
「最近、本当に色々と欲しいものが増えた。故に一概に『これ』とは言えんのだ」
「……ではお主の欲しいものとやらは、旅団に入れば本当に手に入るのか?」
「『全て』は無理だな。だからこそ選んだ。絶対に手に入れるべきものを」
そう。ラインアークに来てからと言うもの、いつの間にか色々と欲しくなってきてさ。
でもやっぱり全部は無理だ。どう考えても何かを得るためには何かを捨てないといけない。
俺の両手がいっぱいいっぱいになっちゃって、視界が塞がったら意味がない。
あれこれ欲して、身動きが取れなくなるのは論外だ。
それに『今』を逃したくない。俺にとって最も重要なものを手に入れるチャンスを。
「……ふぅ。まぁ、ここで問答してても仕方が無い。儂に入団云々の権限なんぞ無いしのぉ」
「爺さん」
「分かっておるわ。ほれ、この端末を受け取れ」
そう言って、爺さんはさり気なくそれを手渡してくる。
形状はフィオナちゃんが持っている旅団専用の端末と酷似しているな……と、言うことは。
フィオナちゃんにすれ違った謎の清掃員Xは、やっぱり爺さんで決まりっぽいか。
「電話帳の一番下にでも掛けるが良い。儂の名を出せば……と、言うかお主なら一発じゃろうて」
「……恩に着る。それはそうと、俺はまだ爺さんの名前聞いていないぞ」
「それもそうじゃったか。儂の名は……『ラスター』とでも呼ぶがよい」
ら、ラスター?
「なぁ爺さん。ネクスト、『フェラムソリドス』を知っているか?」
「何じゃお主、倅の事を知っておるのか?」
「倅……だと?おいおい、まさか」
「そういう事になるかのぉ。もう長い間顔を合わせておらんが、彼奴め。小さい頃から何かと油断する癖を持っておるからのぉ。どこぞの戦場で乗たれ死んでおらんと良いが」
おおおおい。普通に予想外だぞ!
謎の清掃員説よりも遥かに衝撃的なんですけど!?
ちょっ、ちょっと。あの人の小さい頃の話とかメッチャ聞きたいんだけど。
『ラスター18』さんって本編だとちょい役だったし!でも俺結構好きだったよあの人!
「俺の情報だと、まだあの男は生きている可能性大だぞ」
「ほほう。しぶとく生き残っとるか……まぁ何じゃ。仲間になったら倅と仲良くしとくれ」
どことなく安心している表情の爺さん。
一回目のメルツェルさんとの通話で『感情の見える男』の生存は確認できたし。
間違いはないだろう……今のところは。あと是非とも仲良くさせて頂きます。
旅団に入れたら、だけど。
「うおおおおおおい!!サボってんじゃねぇぞぉぉおおおお!」
ちょっ、煩さ!遠くに居るくせにヤンキー先輩の声超聞こえるわ!
「煩いのもおるし、話はここまでじゃな」
「端末の返却は次に会う時で良いか」
「うむ……さて、真面目に仕事するとしようかのぉ」
「了解」
はぇ~……仕事終わったら少しだけ『ラスター18』さんの子供時代の話聞かせてもらうか。