とある地にある、とある施設……
の、とある一室。
そこに、とある技術者然とした人間が一人、携帯端末を耳に当て立っていた。
相手からの緊急の連絡だ。電話口から聞こえるその声から、何やら向こうは少々焦っているかの様な印象を覚える。
「……もう少し様子見をすると思っていたのだけれど。早かったわね……ええ、分かったわ」
手短に話をし終えたらしい。
通話終了のボタンを押した技術者……彼女は、すぐ隣にあるベッドに横たわっている『男』を見下ろしながら話しかけた。
「ごめんなさい。一機、無駄になってしまったわ……でも安心して。本命の方は無事よ」
その問いかけに、男は何も答えない……寝ているのか。
こうしていると彼女には見分けがつかない……殆どの時間において目を瞑っているこの男が、今起きているのか、眠っているのか。
彼女は男のベッドの横に置かれたPC端末のモニター目を通す……なる程、脳波を見る限り寝ているらしい。ちなみにだが……そのPC端末から伸びる一本のケーブルは、ベッドに横たわっている男の『首筋』に繋がっている。
それに頼る事で、男はどうにか施設の者とコミュニケーションを取ることが出来ているのだ。
これは喋れない……いや、身体機能に様々な難のある男を憂いた技術者達が、有り合わせの材料で作った物の内の一つである。それでもしっかりと稼働している事から、この施設の者達の技術力の高さが伺える。
「……」
彼女は考える。恐らく、そろそろ潮時だ。もうこの男が世間の目から逃れる事は厳しいはずだ。
彼自身、その事を理解しているし……この時に備え、僅かとは言え種を巻いてある。
彼女達は、これまで彼への協力を惜しまなかった。
「ねぇ……」
彼女は、優しく男に語りかける。
「……『空』の人を、助けてあげて」
例え『本社』の、上層部の方針だとしても。それを彼女達は認めない。
クレイドルは、絶対に堕とさせない。
これまでの彼女達なら、権力と言う名の巨大な力の前に、指を咥えて見ているしかなかった。
でも今は違う。今の彼女達には、それに対抗しうるだけの圧倒的な『力』がある。
「!」
その時、ベッドに横たわっていた男が目を開いた。どうや、眠りから覚めたらしい。
するとすぐ脇のPC端末に何かしらの反応が……彼女はそれを確認する為に、モニターに目を通す。反応のあったページは……ここだ。
彼女がそのページを開くと、そこにはとある言葉が書かれていた。それは……
『―――――オモテニデル』
簡単な文字だけで構成された、無機質な言葉。それを目の当たりにした彼女は、笑顔で答えた。
「おはようございます。そうですね、では―――――」
―――――出るとしましょう。『ミラージュ』。
ここだけの話ですが、こんな続くとは思ってもみませんでした。
亀更新にもめげずに見に来て下さる方々の応援のお陰です。これからも頑張ります。