絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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第38話

MT部隊隊長→エドガー視点

 

 

《悪いね大将。こっから先は通行止めだぜ》

 

ネームレスにストレイド。

両機が追いかけて行った先、最後尾車輛の入り口で待ち構えていたのは……

 

ネクスト機『マイブリス』だった。

 

リンクス名は『ロイ・ザーランド』。

特定の企業に属さない独立傭兵のリンクスではあるが、カラード内のランクはNO.7。

独立傭兵としては最高位戦力で、どちらかと言えばインテリオル・ユニオン寄りの傭兵。

 

事実確認を終えたエドガーは、一人確信する。

 

《マイブリス……!》

 

この状況は、非常に良くないと。おそらくこの時点で、既に半分詰んでいるに近い状況である。

グレートウォールの内部自体はそれなりに広い。では何が一体問題なのか。

 

それは単純に、その広い内部に入る為の入り口が非常に狭い点にある。

マイブリスが陣取っているこの入り口だが、ネクスト機一機がちょうどすっぽり収まる程度の広さしかないのだ。加えマイブリスは重量機。ただでさえ狭い入口が更に狭く見える。

 

(それに加え……これは)

 

重量機体なだけあって積んでいるのは高火力の武装ばかりである。

特にあの右腕部武器、『デュアルハイレーザーライフル』。あれには特に注意が要る。

中・軽量機体であるこちらの両名からすれば、直撃だけは避けたいところだろう。

特にゼンの場合、軽量機の中でも特にEN防御の低い機体構成だ。

 

だからと言って、このまま静観している訳にはいかない。

今すぐにでももう一機のレイテルパラッシュを追いかけなければ……いや、下手をすればもう追いつかない可能性すらある。

何せレイテルパラッシュは軽量機であり、搭乗者はあの『ウィン・D・ファンション』。

 

内部に待ち構えているであろう防衛部隊なんぞ、障害にすらならないだろう。

 

《ストレイド!ここは任せたぞ!》

 

ここでゼンがストレイドに通信を行う。

だが、エドガーには『任せる』。の意味が良く理解出来ていなかった。

普通に考えるのならば、此方の二機でマイブリスを『どうにか』するしか無い。

 

それなのに任せるとは……?

 

するとゼンは、ここでエドガーの予想だにしない行動に出た。一体何を思ったのか、

 

《おいおいお前さん……!》

 

何と、せっかく最後尾車輌まで来たと言うのに、そこから引き返すように再び前方車輌に向けて機体を動かし始めたのだ。

しかも、OBを再展開……つい先程のOB使用によりPA膜が薄くなっていると言うのに。

言うまでも無く、PAはネクストの生命線である。つまり現状、これを『切らしても良い』と言う程に切羽詰まっていると言う訳だ。

 

《おい、名無し……!一体何のつもりだ!》

 

ストレイドのオペレーターからの最もな疑問。

グレートウォールの『中』ならともかく『外』からどうするつもりなのか。

今、エドガーの見ているスクリーンに映っているのは、ネームレスがグレートウォールに並走するように地面を駆けている映像である。その最中、時折グレートウォール本体を見るように視点を動かしている様子だが……

 

《エドガー!もうすぐ四車輛目と三車輛目の繋ぎ目辺りに到着するな!?》

《ああ……!》

 

何の事かは分からない。分からないが、このゼンと言う男には『考え』がある。

 

エドガー自身に出来る事は、それをサポートする事だけである。

やがてネームレスがその『四車輛目と三車輛目の繋ぎ目』に到着。そこから見えるのはグレートウォールの繋ぎ目、連結部特有の大きな『隙間』。だが一体、そこに何の用があると言うのか。

 

《『ここ』だろう……!》

 

するとネームレスはその隙間の内、最も三車輌に近い場所に潜り込む。

そこから見える『天井』を見据え、機体を上昇。やがて機体がその天井付近にまで接近した……

 

その時。

 

《何だ……とッ!?》

 

エドガーの顔が驚愕の色に染まる。そう、異常が発生したのだ。

まず非常に大きな『金属音』。そしてモニター越しのゼンの視界から理解出来る事実は、今、地面が大地震が発生したかの如く大きく揺れていると言う事。

 

そして……そんな中、エドガーの見るレーダーに映った一番の『異常』。それは……

 

《『切り離し』た……!?》

《名無し!一体何をしたッ!!》

 

最前車輌+第二車輌から後方の車輌。つまり第三車輌以降が全て切り離されたのだ。

 

《よし……!》

 

エドガーは知る由もない。これは原作中、つまりゲーム中における『バグ』の一種だ。

実はこのグレートウォール。わざわざ最後尾から侵入する必要などないのだ。

そのバグはゼンの行動通り、『四車輛目と三車輛目の繋ぎ目』に潜り込むことで発生する。

 

そうすることにより、どういう訳かグレートウォールは第一、第二車輌以外の後部車輌を放棄しにかかる。

 

ただ、この世界に置いてはそれは『バグ』では無く、れっきとしたシステムエラーとして存在していた。つまり『四車輛目と三車輛目の繋ぎ目』にネクスト大の大きさの物体が入り込んだ場合、それをグレートウォールの防衛システムが『内部侵入者』と勘違い。

 

後部車輌を『速攻』で切り捨てに掛かってしまったのだ。

 

ゼンからすれば、「マイブリスの相手をしていては、レイテルパラッシュに追いつけない」との判断であり、同時に大きな賭けでもあった訳ではあるが……まあ、それについても今のエドガーには与り知らぬところ。

 

《話はあとだ!『前』に向かう!》

 

ゼンは『隙間』から抜け出すと例の『二段クイックブースト』を使用。

切り離された区画へと猛スピードで突撃していく。その驚異的なスピードで瞬く間に第三車輌の一番前まで到着すると……そこからは動力部、逃げに掛かる第一車輌と第二車輌の姿が見えた。

 

レーダーを見る限り、まだ第二車輌の中へレイテルパラッシュは到着してはいない。今は……

 

《ゼン。相手はまだ『第三車輌』の中だ!》

 

正確には第三車輌の約半分を通過したところである。

 

《おぉ……!》

 

ゼンはすぐさま切り離され、入り口となった場所から第三車輌内へと入り込む。

すると、そこには―――――

 

 

《……フッ。競争は終了か》

《悪いな。ここから先は通行止めだ》

 

 

『GAの災厄』。レイテルパラッシュが佇んでいた。

 

 

 

*********************

 

ウィン・D・ファンション視点

 

 

この男……

 

《悪いな。ここから先は通行止めだ》

 

……『間に合わせた』。

 

グレートウォールにおける『車輌切り離し』機能。

それらについては特に驚く事は無い。何せ既に彼女達はその情報を得ていたから。

聞いた話によると、その切り離し機能を実行するのには幾つかの『段階的手順』を踏む必要があると言う事である。まあ、動力部以外の連結車輌もグレートウォールを構成するにあたり重要な要素だ。

 

人的ミスも含め、『即時』切り離しが行われる機構にするのは少々不安もあったのだろう。

 

そこで今回取った彼女たちの戦略。

それはつまり、その手順が完了するよりも早く、動力部に到着。速やかに破壊することであったのだが……

 

《……》

 

この男が何かをした。それらの手順を全てすっ飛ばせるような『何か』を。

そのお陰でグレートウォールは後部車輌の切り離しに成功。レイテルパラッシュの侵入を防いだ。

 

《フフ……恐ろしいな、貴方は》

《……そう見えるか?》

《ああ。例の記録から見る戦闘力。今回の様に不測の事態に対応する対応力。まるで勝ち目がないと言う風に思わせてしまう存在感……》

 

ウィン・Dはこれまで、自分が世界で一番強いと思っていた訳では無かった。

しかしながら、「絶対に勝てない」と思う様な相手を見た事も無い。

事実、彼女はこの世界のリンクス達の中でも『最強』に限りなく近い位置に立っていたから。

 

しかしながら

 

《そうか……ウィン・D・ファンション。俺が、恐ろしいか》

 

つい最近、現れた。「絶対に勝てない」と思う様な相手が。

 

……ウィンDはこの任務を受ける前に、例の『銀色』が出てくるとの話を聞いていた。

それを耳にしたとき、生まれて初めて「死んでも出撃したくない」と思ってしまった。

何せあまりにも、ウィン・Dら現リンクスと『銀色』達とでは差がありすぎたから……勝てる要素が無いに等しかったから。

 

でも、それでも……

 

《今にも逃げ出したいくらいさ》

《クク……そうは見えないがな》

 

逃げなかった。

ここで逃げてしまえば、己の中の『信念』に背を向ける事になると思った。

強い者が現れた途端に、恐怖心から、現実から逃げてしまっては、何も『護れない』。

 

彼女は震える心を抑えるかの様に、大きく息を吸い……そして吐いた。

ウィン・D・ファンションは前を見据える。あの銀のネクスト機の眼光を、真正面から見据える。

 

《……》

 

チャンスは一度……一瞬で、決める。

覚悟を決めた彼女は、自機のハンドレールレールガンとデュアルハイレーザーキャノンを構えると同時、OBを展開。

 

《――――――》

 

両武器から弾が射出され――――また、その瞬間に展開されたOBが発動する。

多少広いとはいえこの直線状の室内……相手から見れば、ハイレーザーキャノンの野太い光や、その室内における反射光で、一瞬レイテルパラッシュの姿が見えなくなっている筈だ。

 

彼女は圧倒的加速感を身に感じつつ、次の考えに入る。

 

相手……ネームレスの居た位置は室内のほぼ中央。

回避行動を取るならば、左右どちらかしかありえない……ここからは勘だ。

 

(――――左)

 

ウィン・Dは自分から見て「左」を選択。すると――――

 

 

――――出た。攻撃を回避したネームレスの方向は、正面「左」。

 

 

予想は的中した。

一瞬後にこだまする敵機のQB音を耳に流しつつ、レイテルパラッシュの装備を右腕部……

ブレード以外の全てをパージした。それはつまり機体重量が大幅に軽くなると言う事であり、結果、当然機体速度も上昇する。

 

ブレードを構えたレイテルパラッシュは、このタイミングで前方向へのQBを発動。

OB中に発動したと言う事もあり、その瞬間最高速度はVOB時以上の出力を発揮した。

 

目前に迫る敵機。ウィン・Dは、その『恐ろしい怪物』に向かい

 

《――――ハァッ!!》

 

ブレードを振るった。

 

が、

 

 

 

 

 

肉厚な青い刀身は、空を斬った。

 

 

 

 

答えはこうだ。ネームレスがほぼ間を開けない『二連続目』のQB(回避行動)を行ったから。

……これがありえない。QBは、連続して行う様なシロモノではない。

普通の人間なら、その負担に身体が、精神が悲鳴をあげる。

 

もはや勝負は決した。こんな反則的な行動は、並の人間には出来ない。そう――――

 

 

 

―――――――ドドヒャアッッ!!!

 

 

 

並の、人間には。

 

 

……………

………

 

 

……彼女は知らない。

 

ネームレスの……ゼンの居た世界の傭兵達は、ある意味で、皆がイレギュラーだった。

何度も世界を破滅させ、または救い、予想外な敵など数えきれない程撃破してきた者達ばかり。『彼ら』のこなしたミッション数は、この世界の傭兵達の誰よりも多かったはずだ。

 

まさに百戦錬磨の猛者ばかり。いや、ともすれば千か、万か。

 

……まあ、「たかがゲームだ。本当の命など懸かってはいなかっただろう」と言われれば、確かにその通りではあっただろう。

しかしそれでも、『彼ら』が己の愛機と共にミッションへと出向いた『その時』。

『その時』だけは、たががゲームの枠を超え、一傭兵としての命(プライド)が懸かっていた。

死(ミッション失敗)は全力で避けていたはずだ。

 

ゼンやミラージュの機体。そしてその機動。

 

それは、そんなイレギュラー達のプライドの結晶だった。

イレギュラー達が、イレギュラー達に勝利する為に、イレギュラー達の戦いの中で生まれてきたものだ。そもそもの話として、企業間のパーツ制限無しや、超機動が『常識』であった向こうの世界の住人に対して、ウィン・D等が勝てる可能性は限りなく低かった。

 

だが、この時。

 

(――――――ッッ!!)

 

ウィン・Dは、『全く間を開けない』2連続のQBを発動した。

……そう。たかが2連だ。『彼等』からすれば何ら驚く事は無い行動だろう。

 

しかしながら、彼女にはこの2連QBが限界だった。

 

それこそ『記録』が出回ってから、彼女は昼夜問わずシミュレーションルームで彼等の動きを真似ようと試みたが……どうしても『3連続目』に繋げる事が出来なかった。身体が拒絶していたのだ。『これは現人類に可能な動きでは無い』と。

 

だが、だがそれでも、その2連QBは

 

《おいお……》

 

ほんの一瞬。

ウィン・D・ファンションを『向こう』の世界へ……イレギュラー達の舞台へと押し上げた。

 

《―――――がっ、ハッ!》

 

実際に現実で行ったのは初めての機動。

途轍もない身体への負荷により、一瞬意識が遠のく。

 

が、今、彼女の目の前には……ネームレスの、彼女が恐れてやまない怪物の『後姿』。

 

 

 

完全に、バックを取っていた。

 

 

 

後は斬りかかるだけ、再度、斬りかかるだけ。

 

 

 

しかし、

 

 

―――――――――ゴッッ!!!

 

 

……耐えられなかった。

あまりの負荷に、機体の制御を一瞬失った。

 

それによりバランスを崩したレイテルパラッシュは、グレートウォール内への壁に激突。

 

……今度こそ、完全に決着が着いた。ネームレスはほとんど何もしていない。

結果から見れば、レイテルパラッシュの自滅に近い有様だ。しかし事実として……

 

《……途轍もない、な》

 

ネームレスは何も『出来なかった』。ウィン・Dの行動に、全く対応できていなかった。

 

《グッ、ハッ……ハァッ……残、念……だよ……。もう少し、だった……んだが、な》

《……生きているか》

《ああ……不思議な、ことに……っ》

 

ウィン・Dは再度機体の制御に取り掛かる。

激突した衝撃、何より先程の機動の代償としてか、身体の自由が利きづらい。

視界に関しては、通常の色彩が失われ、ただの白黒画像の様にしか周囲が見えないが……

 

《ハァ……》

 

何とか機体を立て直す。

 

《……ああ、そうだ。貴方は……『ゼン』……と呼んでも構わないか?》

《? ああ。そうだが》

《では、『ゼン』》

 

そして一言。

 

 

《私達の任務は終了だ》

 

 

彼女の発したその言葉の直後に、前方『外』から聞こえてきたのは耳をつんざく爆音。

これは彼女と共に依頼を遂行した者が引き起こした現象である。

この音を聞き、目の前にいる怪物は何が起こったのかを即座に察したのだろう。

 

《―――――!》

 

第三車輌から出るべく、即座に銀色の機体を『出口』へと移動させる。

そんな姿を傍目に、ウィン・Dは僚機全員に向けた通信を行う。

 

《ロイ!生きているか!》

《―――――『まだ』な!ところ、でっ!『化け物』は一人って話じゃあなかったっけか!この新人、とんでもなく強……》

《大丈夫そうだな。『音』を聞いたな!どうやら終わったらしい、とっとと帰るぞ》

《おいちょっと待》

 

まず一人目。これは共にVOBで飛来してきたマイブリスに。

そして『もう一人』。本来は『予備』だった者への通信。

 

《ご苦労だったな》

《―――――レイテルパラッシュ。ご無事な様子でなによりです》

《ああ。そちらも良くやってくれた……》

 

 

……その、リンクスの名は―――――

 

 

 




すまぬ……すまぬ……


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