絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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Chapter2
第36話


フィオナ・イェルネフェルト視点

 

 

――――使われていない会議室。

 

いや、正確には『つい先程まで』使用されていた場所。そこに、とある人間の姿があった。

会議の終了後、メンバーが一人、また一人とその会議室を後にする中で……最後まで残ったのは、一人の女性。静寂の中、一人席に腰掛けていた彼女は……

 

フィオナ・イェルネフェルトは小さく呟いた。

 

「どうなってしまうのかしら……」

 

彼女がそう呟いた理由には様々なモノが絡み合っているのだが……

まず一つは、ここ2週間程における、ラインアークへの入居希望者数の爆発的な増加だ。

それこそ、近年の増加率から見ても異常な人数がラインアーク移住を希望している。

 

原因はゼンと漆黒の不明機……誰が呼んだか、『ミラージュ』と囁かれる者とのの戦闘記録。あれがフィオナ等、ラインアーク上層部も予想だにしない宣伝効果をもたらしたのだ。

……恐らく、記録を見た入居希望者の誰しもが思ったのだろう。あの二機が居る限り、平穏な場所など限り無く0に近いと。どんな企業にも手が出せない……出したとしても、ほぼ100%返り討ちに遭う程の存在なのだと。

 

あの二機はそれ程の次元違いな戦闘力を有していた。

かつての『彼』、アナトリアの傭兵をすぐ傍で見てきたフィオナ自身でさえそう思ったほどだ。

そうでない者からすれば、あの二機はそれこそ『恐怖の象徴』となっていても不思議ではない。

 

「……」

 

特に顕著に表れていたのが、企業からの亡命者数。あの戦闘から約2週間……この時点で、企業出身者のラインアークへの入居志望者数は、先月の1.7倍。一月が終わる頃には3倍以上にまで膨れ上がる見込みである。

これにはゼン、ミラージュの両方が反企業勢力(ミラージュの場合はAF狩りの犯人と見られている)に属していることが理由として挙げられるだろう。少なくとも現状、企業所属よりかはゼンの庇護下であるラインアークに所属した方が安全性が高いはずだ。

 

まあ、ゼンとミラージュに何らかの因縁はありそうだが……少なくとも一回。ゼンはミラージュに勝利している。『再度仕掛けられようとも、勝つのはゼン(ネームレス)』とでも考えているのだろう。

 

これら企業亡命者に加え、他の地上勢力からの入居志望者数を合計するとなると……

 

「……ハァ」

 

ため息を吐くフィオナ。

通常の場合、組織における人数と言うのは非常に重要な要素である。人が多ければ、それだけでもう『強い』とも呼べるかもしれない。しかしながら……ラインアーク内の現状からすれば、それはハッキリ言って「望ましくない」。

 

ラインアークの人口は既に数百万人に膨れ上がっており、単純な話、資源が不足しているのだ。

最近こそゼンの傭兵稼業参入で、財政面で多少マシになっているとは言え、それこそ『多少』。

ここにきての更なる人口増加に対応できるほどの金額ではない。

 

新たな人々の居住区の追加、食糧問題……何より一番の問題が

 

「電力不足。こればかりは……」

 

そう。これだ。

 

ラインアークの電力供給は循環型電源施設「メガリス」とその他小さな発電施設により賄っているのだが……最も金が掛かるのがこれらである。それはメンテナンスといった維持費に、単純に建設にかかる費用と言った理由だけではない。企業に狙われる事が大いに予測されるこれらには、防衛機構もセットで付与する必要があるのだ。

 

特にメガリス。先の企業襲撃には間に合わなかったが、今現在は敵のVOB使用も想定した対空プラズマ砲の建設最終段階である。……この建設費だけでもいくらかかった事か。まあ、完成してさえしまえばほぼ敵無しの防衛機構だ。最も重要な機関故にそれ位はしておくべきなのだろうが……

 

……それはさておき。

 

「どうしたら……」

 

この電力不足については前々から話題に上っていた。このままいけば、いずれラインアーク内の人口増加に電力供給がおいつかなくなると。居住区が追加されたとて、電気が回せなければ何の意味も無い……まあ、今回の出来事によりそれが決定的になったと言えるだろう。

しかしながら何度も言うように、発電施設には非常に金がかかる。第一、発電施設を建設したとして、その爆発的に増加する人口を賄えるほどの電源を供給できなければ意味が無い。

 

つまるところメガリス級、もしくはそれに及ばないにしろ、かなりの電力(エネルギー)が供給されるような施設が必要なのだ。例えるのなら―――――

 

 

 

「――――アルテリア施設……?」

 

 

 

フィオナは、ふと呟いた。

そして首を横に振る。いや、無理だ。自分は何を考えているんだ、と。

アレには手が出せない。アレは今現在、企業にとっても最重要施設である。何せ……空の揺りかご、一機につき約2000万もの人々が住んで居る、『クレイドル』の生命線だ。

 

企業が取引に応じるはずも無い……例えゼンをダシに使ったとしても、それは変わらない。し、どうにかして手に入れたとしても、アルテリア施設によほど詳しい者達でなければ、その電力をラインアークに回すことが出来ない可能性もある。

 

いや、しかし最近の企業からの亡命希望者の中にはアルテリア施設に詳しい者が居るやも……

 

「……ふふ。現実的ではない、か」

 

そこまで考えたフィオナだったが、途中でどうにも可笑しくなってしまい、思考を放棄した。

流石に無理がある。ラインアークがアルテリア施設をどうこうしようなど。

今の状況では、それをどうにかする程の『組織力』も何もあったものでは無いし、そんな事を考えるならばまだ『何処かの誰かが凄い発電施設をくれるかもしれない』と考えた方がまだ夢がある。

 

「現実的な線で言えば、発電施設をどうするかより『人数を絞る』方が妥当、か……」

 

フィオナは思った。そもそもこの問題は、『来る者拒まず、去る者追わず』の理念を掲げているラインアーク自体に問題があると。後先を考えない……とまでは言わないが、もう少し入居者の取り扱いについて考えるべきだったのではないかと。

 

とは言っても、フィオナと『彼』もこの理念のお陰でラインアーク内に住まわせてもらっている面もある為、声を大にしては言えないのだが。まあ、フィオナ以外の上層部の人間も、恐らくはこの結論に至っている者が多いはずだ。

 

……結論を実行に移すのかどうかは、また別の問題ではあるのだが。

 

「さて……そろそろ、私も向かいますか」

 

フィオナは席を立つ。彼女にはこの後もやらねばならない事があるのだ。

つい先程、会議での決定事項をある男に伝える為、彼女は『檻』へと向かう事を決意した……

 

 

*********************

 

 

主人公視点

 

 

働きたいぜ。

 

いや、傭兵稼業をしたいって訳じゃないんだけど。あ、でもそう言う意味でもあるんだよな……

つまりね、休養期間が2週間だったじゃん?で、そのお休みTIMEが終了して……何か依頼とか一杯きてるんじゃね、とか思うじゃん?

 

一通も来てないじゃん?

 

エドガーさんに確認とか取っても、「クク……やりすぎたな、お前さん」みたいな反応じゃん?

〝ボス・サヴェージ〟さんかよ。ACシリーズを通して最初に主人公を騙して罠にかけ、さらに最初に主人公をイレギュラー認定した重要なキャラクター。

 

〝ボス・サヴェージ〟さんかよ。

 

まあ、あの人のセリフは「やりすぎたんだ お前はな!」みたいな感じだったけど。

つまり何が言いたいのかと言うと、一日の殆どを部屋にこもりっきりなのはツライと言うこと。

スミカ・ユーティライネンでs

 

「アミダ!」

 

ぬっ!アミダさんのこの反応は……

 

「ゼン、入ってもよろしいでしょうか?」

 

来客者です。ドア越しのこの声、フィオナちゃんか……

 

「良いぞ」

 

そう言うとフィオナちゃんはドアを開け、室内へと入ってくる訳だが……んん?なんだ?

あまり顔色が優れない。でも体調が悪いと言った風ではなさそうな感じだな……どちらかと言うと、何か悪い出来事があった時の顔だ。うーん。気になる……

 

まあここに来たと言う事は、俺に話があるって事だろうし、とにかく聞いてみるしかない。

 

「どうした?」

「……ええ。先の会議で少し、貴方の対応についての話題が挙がってまして」

「ほう、俺もついにクビにでもなったか」

「ふふ……いえ、それは違います。簡単に言うと、貴方の部屋割りについての話です」

 

へ、部屋割り?なんだ、もしかして牢屋にでも入れられるのか?

働かないグータラ山猫は、檻にぶち込んで反省してもらう的な? おいおいー。ご飯とかちゃんとついてくるんだろうな。ちょっとだけでも良いから、水も用意してくれよー。あとトイレも頼むぜー。

 

頼みますね。お願いします。

 

「貴方には、よりセキュリティの高いルームへと移り替えてもらいます」

 

予想GAYです。何だと……より安全性の高い部屋!?

 

「ほー。これはまた」

「……貴方には全てお見通しでしょうし、包み隠さず話します。要するに、貴方を今このラインアーク内で暗殺される訳にはいかなくなりました」

「クック……」

 

いや何笑ってるんだよ俺は。暗殺とか怖すぎるんですけど。全然お見通しじゃ無いよ。

……そういやリンクスってどこに居るか普通は分からないようになってるって、お昼ご飯のとき皆がお話ししてたな。えっと、つまり

 

「今までは、割とどうでも良かった、と」

「はぁ……意地の悪い事を言うのはやめて下さい。……事実ではありますが」

「おっと、すまんな。ただ確認を取りたかっただけなんだ」

 

まあ、ねー? そりゃあそうかってはなるけど!

俺なんかネクストに乗っていきなりラインアーク内に現れた(主権領域を侵犯した)訳だからな。この問答無用で殺害されてもおかしくない状況で、更に「ちょっとー。ラインアークに空き部屋とか無いっすか?(笑)」何て発言する始末。

 

おいおいおいおい。自分の事ながらやべぇよ。こんなん怪しさを具現化した男だよ……そりゃあ、「暗殺でもされてろや!」って対応でも仕方がないな。

 

しかしながらそう考えると、ホワイト・グリントのリンクスについて一切の細かい情報が入って来ていないのって凄いな。このラインアーク内のどこに居るーだとか。噂ですら聞かないし。

やっぱその辺はちゃんとしてんだな……それだけホワイト・グリントが大事だってことだ。

 

「……ミラージュの存在が明らかとなった今、アレに対応できるのは貴方だけです」

 

つまり、あの黒い機体の……ミラージュさん?への対抗策としてゼンさんが居ないと困るぜ!ってことですね。

 

いやーでも、ずっとあの超機動は続かないんだなぁコレが。しかもすればする程に身体機能が奪われていく事実が発覚しましたし。つまりピンチになる度にあんなんしてたら直ぐ廃人!

 

でも普通に戦ったら上位ランカーさん達に超大苦戦なんですわ。まあそりゃそうか!

ははは!困ったわい!

 

「貴方がラインアークに訪れた理由は私達には分からない。貴方が『敵』である可能性が高いとも考えています。しかしミラージュから……ラインアークを護れるのは、貴方しか居ない。今だけは、ラインアークの盾となって欲しいのです。……貴方からすれば、何とも都合の良いと感じる話でしょうが」

 

あ、いや別に全然良いっすよ。

敵と思われてようが、適当な部屋に入れられてた事実があろうが、どんどんお手伝いします。

ただなー……

 

「そうだな……俺が安全性の高い部屋に入れられる場合、皆に会う頻度はどうなる」

「『皆』と言うのは、何時も昼食を共にしているメンバーと言う事でしょうか?」

「それ以外にも、この間知り合った清掃員の者達や、この塔内を巡回している警備員達も居るな」

「何時の間にそんな知り合いが……」

「まあ、食堂までの道中にな。人間には嫌でもすれ違うだろう?その過程で出来た顔見知り達だ」

 

おっと。当然その人達には身分を隠していますぜ。エドガーさん達の反応で、リンクスがとっても珍しい生き物だって事は把握済みですので。第一、俺は『向こう』では一般人だったし、「俺実はリンクスなんだぜ!凄いだろ!」とか恥ずかしくて言えねぇ。

 

「……オホン。その件なのですが……今回のケースは少々異なります。貴方の行動範囲は今までと同じく変わりがありません」

 

……はい? 俺はてっきり、「超制限されます」とでも言われるものと思い込んでいたんだけど。

 

「通常、暗殺が警戒されるのは企業から送り込まれた刺客によるものですが……今現在、企業にとってそのメリットは薄い。つまりゼン、貴方が暗殺される可能性は低いのです」

 

……ちょっと分からないですねぇ。俺を安全性の高い部屋に入れたがるのは暗殺されない為。

これはOK。じゃあ暗殺される可能性が低い今、何でそんな事するんだい。

ってかそもそも、どうして企業は俺を暗殺するメリットが少ないんですかね。

 

「これはマーシュさんからの情報ですが、ミラージュの所属先・目的が分かっていない今、企業からしてもネームレス……貴方の存在は一種の救済措置としてとらえられています。何せあなたは、所属先はどうあれ身分は『傭兵』。誰が相手だろうと、依頼さえあれば貴方が確実に退ける」

 

過大評価すぎてやばいんだけど。

 

言う程か?言う程確実に退けててるか?だいたい何時もピンチやぞ。

それに次ミラージュさんと戦っても負けないように出来る可能性は低い。あの人異常に強いし。何らかの策を考えないとなぁ……

 

まあ、企業の俺への暗殺意欲低下に関しては理解出来た。となると次分からないのは

 

「そうですね……にもかかわらず、貴方をより安全性の高い部屋へと移し替える理由。それは単に……」

「『念のため』」

 

とか?

 

「……はい。これからミラージュが企業側に就く可能性も考慮しての事です。その場合、貴方の安全性は一気に損なわれることになるでしょうし」

 

まさかの正解。

フィオナちゃんの話を聞く限り、多分世間的に見た一番の警戒対象はミラージュさんなんだろう。その警戒対象を企業側が取り込むことが出来たら、俺なんか用済み。邪魔なだけだし即暗殺ですわぁ……って事でしょ?

 

怖い!この世界殺伐としすぎてて怖い!

 

「……まあ、事情は分かった。俺自身、身の安全には気を配りたいところではあるしな」

「では、今までの話に納得して頂けると?」

「構わん……そうだろう、AMIDA」

「アミアミ!」

 

うっし。アミダさんにも納得して貰ったし……この件に関しては一件落着だろう。

引っ越しの準備とかしないとなー。っても運ぶものとか知恵の輪パズルとか、あとお気に入りの本数冊とかだけだけど。

 

っと、そうそう。

 

「……ああ、そうだ。イェルネフェルト。俺の行動範囲は今までと変わりないんだったな?」

「ええ、それがどうか?」

 

ちょっとねぇ。折り入ってお話があるんですよ……

 

「働かせてくれ」

「はい?」

「清掃員として雇ってはもらえないか」

「……あー。何を言っているのです?」

 

やばいぜ。フィオナちゃんが困惑しているぜ。でもこのまま行くぜ。

 

「いやな?今の俺はリンクスだが、依頼が来ない時は何もしていないに等しいただの男だろう?」

「は、はぁ」

「どう思う?世間はこんな俺を見てどう思うだろう?ゼンと言う男は傭兵稼業をしていない時、パズルを解くだけの機械になっている、と思われてしまうのではないだろうか?と、言うかだ。そもそもこんなに室内に閉じこもっていては多少なりとも精神構造に異常をきたしてしまう可能性も捨てきれない。つまり、依頼が来ない日は他のラインアークへの貢献活動をさせてもらいたいと言う訳だ。詰まる所アルバイトの様なものだ。別に構わないだろう?この前知り合った清掃員の者達ももう少し人手が欲しいと嘆いていたことだしな」

 

何言ってんだ俺は。まあ良いか。良く勢いで誤魔化せとか言うし。

 

「もう一度言うが、俺を清掃員として雇ってはくれまいか?」

「え……ええ。話、を聞いてみます」

 

よっしゃ。話をつける事は出来たな。

 

「……で、では。要件は伝え終えたので、私は一度退出します。具体的な場所については明日にでも伝えますので、それまでに準備をしておいて下さい」

「了解した」

 

そしてフィオナちゃんが部屋から出て行く直前、俺に一言。

 

「ああ、ゼン。その『眼鏡』……とてもお似合いですよ?」

 

……サンキュー!サンキューマーシュさん!フィオナちゃんに誉められたぜ!

ってか今まで突っ込まれなかったから、普通にスルーされるかと思ってたぜ!

 

「アミー」

「フフ……AMIDAよ。誉めても何も出んぞ」

 

俺はかけていた眼鏡のブリッジを指で押しやると、早速引っ越しの準備に取りかかった……

 

 

 

 




投稿ペース遅くて申し訳ない。



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