絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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第33話

MT部隊隊長視点

 

 

《……行くぞッッ!!》

 

 

作戦を手短に確認した後、ネームレスは機体のブースターを点火。

スカートアーマーから『外』へと勢い良く飛び出す……

輸送機内、モニター越しの視界には一瞬、青空が。そして宙に静止する例の漆黒の機体が映り

 

―――同じくして、一瞬で視界から消え去る。

 

ゼンも相手のその異常な動きに食らいついているのだろう。モニターから映る景色は常にブレており、そこから理解出来るのは、『人知を超えた高速戦闘が行われている』と言う事のみ。

声を抑えてはいるが、通信機からは呻く様な声が聞こえてくる。

 

現実でこの機動を行うなど自殺行為も良いところだ。だが『死ぬ気』で相手取らないと、この不明機には勝てない。いや……先程ゼンはこう言っていた。「由々しき事態」だと。

恐らくは、死ぬ気で戦っても『勝てない』可能性の方が高い相手なのだろう。

 

 

 

この、『もう一人』は。だが……

 

 

 

エドガーは、通信機越しに合図を送る。

 

《出てきて良いぞ!ワンダフルボディ!》

 

そこでレーダーには多数のミサイル表示が表れる。これは不明機の物では無く、ワンダフルボディから放たれた物だ。狙いは当然、漆黒の機体。

放たれた多数のミサイルは不明機目掛けて一直線に飛来する……が、それが一発とて直撃する事は無い。その超機動を前にしては仕方がない事だ。

 

たが、これで良い。

 

ミサイルを気にしていると言う事は、どうしてもネームレスへの意識が遠退く。

 

《ハァ……アッッ!!》

 

そして、その隙をゼンは逃さない。ミサイル回避に徹する相手に、容赦無く弾丸を撃ち込んで行く。しかしこうなって来ると、当然相手もその『五月蝿いネクスト機』を先に排除したくなるだろう。

 

不明機は、狙いを直ぐ様ネームレスからワンダフルボディへと変更。さて、重垂直ミサイルを放ちつつ、異常な速度で接近するそれに対し、ワンダフルボディはと言うと……

 

《ほら、さっさとスカートアーマー内に隠れて下さい》

《黙……って、ろ!!》

 

狙われたと分かった瞬間、フレアを撒きつつOBを展開。

 

全速力で再度スカートアーマー内に退避を試みる……これは少々情けないと思う者も居るだろう。しかし、事前にゼンは言っていた『出来る事をやれば良い』と。ワンダフルボディがこの戦闘に直接介入するなど、誰が考えても無理な話であるし……それに、だ。

 

 

この手が最も相手の『神経に障る』。

 

《ハァ……ハッハッ!!これはっ!もし俺がされたなら……ハァッ……!『キレ』るところだぞ……ッ!!!》

 

喋るのもやっとだろうに……全く、この男は。

 

《ぬ……ぅ!!》

 

だが、そうは言ってもゼンの機体は確実にダメージを受けている。

相手のミサイルもそうだが、『機動レーザーライフル』がじわじわと装甲を削り取っているのだ……それに。

 

『リミット』がある。

 

ゼン本人から聞いたが、どうやらこの機動を行える時間は限られているらしい。

まあ、普通に考えてこんな機動を何時までも続けられるはずが無いのだが……しかし『3分』とは。この機動から考えれば長い方かもしれないが、ネクスト戦に限って言えば『微妙』な線だ。

 

 

《グッ……! ハッ……ァアッッ……!!!》

 

 

―――一分半が経過。

 

 

 

その時、例の不明機がネームレスに『交差』を試みた。

 

ここまで何度も行われてきた行動なだけに、さして気にも止めて居なかったが……何故だろうか。急激に悪寒が走った。エドガーは気がついていなかったが、その『交差』が行われた位置はネームレスの機体「上方」から。タイミングは、丁度フレアを展開・効果時間が切れた時―――

 

 

 

つまり。

 

 

 

《――――》

 

 

 

『加速撃ち』。

 

 

戦闘前、ゼンがワンダフルボディらに「注意しろ」と言っていたネクスト戦での戦術。

 

それは簡単に言うと『発射するミサイルにネクスト機の速度を上乗せする技術』らしい。

不明機にはハンドミサイルに加え大型ミサイルが搭載されていた。この二種類のミサイルは、威力・旋回性能は十分すぎる程十分だが、いかんせん巡航速度が圧倒的に足りない。

 

そこで、ゼンの『居た場所』ではこのミサイル達の運用法を研究。最も有効的なこの戦術が開発されたのだとか。実際、この方法をタイミング良く使えば『瞬間最高時速3000km/hを優に超えた、食いついて離れない超高威力のミサイル』が完成する訳らしい。

 

……こんな事を思い付くなど、やはりよほど頭のイカれた連中が揃ってたと見える。

 

 

《銀色ッ!!》

 

しかしここで、いつの間やら此方側に接近していたワンダフルボディがフォローに入る。

何と、完璧なタイミングでフレアを展開。『加速撃ち』を打ち消しにかかったのだ。

発射された大型ミサイル達は、ワンダフルボディの『垂直フレア』に導かれ、遥か上空へ……

 

 

青空に、特大の『花火』が咲き誇る。

 

 

《私の発言通り、『そろそろ』だったでしょう?》

《ハァ……ハァ……!疲れさせおって……!!》

 

 

成る程。ワンダフルボディのオペレーターの指示か。

 

 

《チィッ……エドガー!!》

 

 

そしてゼンからの『合図』……もう大丈夫だろう。さて――――

 

 

 

 

《――――『良い』ぞ!!》

 

 

 

 

そんなエドガーの掛け声とほぼ同時、砂漠地帯に異常な爆音が響き渡った。それは、ネクスト機から発せられるにしては、余りにも大きな『発射音』。では、一体その爆音の発生源は何なのか?それはズバリ……

 

 

 

 

GA社、AF輸送部隊。

 

 

 

 

そう。此方の狙いは最初から、AF輸送部隊の『援護』にあったのだ。

 

旧式とは言え、腐っても巨大兵器……その射程・威力は既存のネクスト機に対して、十分脅威足りえる。此方の二機だけを相手取り、完全に輸送AFから気を反らしていた不明機は――――

 

 

 

 

――――――ゴッッ!!

 

 

 

その内の一発を脚部に直撃。機体のバランスを大きく崩した。

 

《カーネルッ!!》

 

ワンダフルボディはバランスの崩れた不明機に対し、ここぞとばかりに散弾バズーカを放つ。しかし……

 

《チ……ッ!》

 

不明機はそれをクイックブーストで回避。直ぐ様バランスを立て直し、此方側の二機から大きく距離を取った。……あの状態から一瞬で立て直すとは。並のリンクスなら、確実にそのまま散弾バズーカの餌食となっていただろうに。

 

 

やはりこのネクスト機、『化け物』だ。

 

 

距離を取った不明機は、すかさずカブラカンの陰へと身を隠す……AF対策か。

カブラカンの『巨体』を壁とする事で、弾丸を遮る魂胆ななのだろう……しかし、何だ?

隠れた後は、その場から一切動く気配が無い。

 

《ハァッ……ハァ……エドガー。あの不明機と……回線を繋げるか?》

《ああ》

《やって……くれ》

 

ゼンの指示通り、その不明機へと回線を開くが……

 

《そこの……不明機。聞こえているな》

《……》

《ゴホッ……ハッキリ、言おう……お前は強い。一対一でなら、此方の敗北する可能性は高かったはずだ……》

《……》

《……だが今回はそうでは無い。圧倒的に此方側が有利だ……つまり何が言いたいのかと言うと、今日のところは『引け』。このままやっても、この俺を倒す事は叶わんぞ……そちらが一番良く分かっているはずだ。此方側の二機を合わせれば、フレアもたんまりあるしな?》

 

成る程、撤退勧告か。確かにこの状況では圧倒的に此方側が有利だ。不明機はAFの一撃を食らっている訳であるし……だが、そうはたして上手くいくのか。

 

そう、思っていたのだが。

 

 

 

突如砂漠地帯に響き渡る、『吸引音』。これは……

 

 

 

《オーバードブースト、か》

 

 

 

そう、不明機から発せられた物だ。ゼンの言葉を真に受けた……あるいは、こうなった時点で決めていたのだろう。その特徴的噴射音と共に、此方側から一気に距離を開け『撤退』していった……随分と冷静な判断だ。まさか、迷うこと無く撤退するとは。

 

リンクス。それも『強者』ともなれば、そのプライドも非常に高いはずなのだが……やはりゼンと同郷出身なだけあり、その辺りに関しても常識では測れないらしい。

 

 

…………

 

 

………………。

 

 

 

《……ふー、上手く行ったな》

 

 

 

静けさを取り戻した砂漠で、ゼンが一人呟く。

 

《と、言うと?》

《ハッキリ言って、これ以上は動けん》

《おいおい。まだ、リミットまでは時間があっただろう?》

《それがな、エドガー。情けない話だが、そちらに合図を出した時点でもう既に限界だったんだ。フレア弾数も残り少なくなってきていたしな……実にありそうな『ハッタリ』だっただろう?》

 

……全く。『このままやっても、この俺を倒す事は叶わん』だったか。

 

今回のネクスト戦は、ゼンの働きによるものが大きかっただけに……もしもこれ以上続けていたら、やられていたのは此方(GA側)の方だったと言う訳だ。

 

《フッ。今更言うのも何だがな。お前さん、中々やるな?》

《クック……》

 

何はともあれ、これで……

 

《何が、『この俺を倒す事は叶わん』だ!格好付けよってからに!》

《いえ、事実としてアレは格好が付いていました。仮に貴方が同じ台詞を言おうものなら、今更鉄屑にされている事でしょう。まさしく、ワンダフルボディと言った状態にな……》

《止めろ!これ以上は本気で怒るぞ!?》

 

《此方GA社AF輸送部隊。二機共、本当に良くやってくれた》

 

……何だ、途端に賑やかになっている。

 

《此方ネームレスからAF輸送部隊へ。まさか本当にあの不明機に被弾させるとはな....驚いたぞ?》

《一同、外したら『終わり』だと思って死ぬ気で狙っていたのさ……しかし、我々まで君達の戦闘に参加するハメになるとは思わなかった。正直、生きた心地がしなかったぞ……》

《クック……》

 

確かにあの作戦会議中、ゼンがAF部隊の利用を仄めかした時は少々驚いたものだ。

「してやられた」とでも言うのか。あの時は、突然の『もう一人』出現にばかり気を取られてしまい、ネクスト機以外の戦力(AF輸送部隊)の存在が思考に入る余地が無かった。ましてや、それを利用するなど……

 

AF部隊は何やらカブラカンに『追い付かれていた』為、その位置がゼン達の戦闘場所から比較的近かったのも幸いだっただろう。まあ……あのAF部隊の一撃が当たったのはその位置条件以上に、彼らの『執念』によるものだろうが。

 

 

《そしてネクスト、ワンダフルボディ》

《何だ!?》

《良い働きだった……『キャロル』もな?》

《私に関して言えば、当然の事をしたまでです。しかしながら、まあ……ドン・カーネル。確かに、この男にしては『中々の働き』をしていた事を認めましょう》

 

ワンダフルボディのオペレーターは少々辛口なコメントが多い様子だが、流石に今回のカーネルの働きぶりに関しては認めているらしい。ゼンの戦闘のアシストに加え、カブラカンを停止させたと言う事実。この一件は『ランク以上の働き』をした事は確実なはずだ。

 

《エドガー》

《クックッ。俺にも、何かしら誉めてくれるのか?》

《当然だ。AF達を『不明機が狙いやすいポイント』に誘導したのはそちらだろう?》

《フッ……感謝は有り難く受け取っておく》

 

まるで一番の功労者は自分では無く周りの者達だとでも思っているかの言い分だ。今なら、「全ては俺の実力によるもの」と発言しても許されそうな状況だろうに……実に律儀な男だ。

 

……それはそうと。

 

《しかしゼン。お前さん、動けないと言っていたが》

《言葉の通りだ。あまり言いたくは無いが、今にも『死にそう』でな。悪いがこれ以上は護衛に付き合う事は出来ん……ワンダフルボディ。後は任せたぞ》

《こっちはハナからそのつもりだ!……おい、一応聞いておいてやるがな。大丈夫なんだろうな?》

《何、本当に死にはせん。此方は気にせず、早めに任務終了を目指した方が良いぞ?》

 

ゼンのそんな言葉に、GA側も納得したのだろう。それぞれが一言二言挨拶をし、その場から移動を開始……視界の奥へ奥へと、その姿が小さくなっていく……

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

《…………。疲れた、な》

 

 

 

 

そんな彼らを眺めつつ、ポツリと呟く『怪物』。

 

 

だが、先程までの元気が全くと言って良いほど見当たらない……不味い。やはりこの男、我慢をしていたのだ。大方、GAの手前『ここまで弱っている姿』を見せるのは良くないとでも考えていたのだろう。

 

 

《今、急いでそちらに向かっている。もう少しで到着す……》

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――少しだけ、休んで良い?

 

 

 

 

 

 

 

 

男の声。

 

 

それは、まるで――――『何処にでも居る普通の青年』の様な、そんな声だった。

 

 

余りにも普段の雰囲気からかけ離れたその声色に、一瞬、聞き間違いかと思いゼンに聞き返す。

 

《…………ゼン?》

《……》

《おい……ゼンッ》

 

しかし返事が無い。気を失ったのか……いや、本当にそれだけ?

不安の波が胸中に押し寄せる。『そんな事』は有り得ないと言い聞かせては居るが、以前のシミュレーション時の出来事を嫌が応にも思い出してしまう。

 

あの時の、バランスを崩したゼンの姿が――――

 

 

《――――操縦士ッ!!緊急事態だ……もっと急いでくれ……ッ!!》

 

 

どうか杞憂であってくれ――――エドガーはそんな、祈る様な気持ちでモニターを見続けていた……

 

 

 

 




ガチ戦闘回。勘違い要素が少なくなって(ほぼ無い)しまいましたが、どうかユルシテ……



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