あくまでも、『っぽい人』ですので。ファンの方はご安心ください。
ドン・カーネル視点
この日、GA社所属のリンクス、ドン・カーネルはとある任務に従事していた。
それはズバリ、ロロ砂漠を移動中の同社AF輸送部隊の護衛だ。
事前に聞いた話によると、「砂漠を経由する際には毎回違うルートを移動する上、この広大な砂漠地帯では場所を特定される事は考えにくい」との事である。
何やらその輸送物資がよほど重要な物らしく『念には念を押して』ネクスト機を護衛として付けたと言う――――――所謂、楽な仕事になる予定だったのだが。
《……おい》
カーネルは、新しく就いた自身のオペレーターに不機嫌を隠そうともせず問いかけた。
《如何、なさいました?》
女性の声がコクピット内に響く。
それは透き通る様な美しい声であった…が、あまりにも抑揚が無い。
良く言えば冷静な、悪くいえば無機質な機械を思わせる声。『現状』を確認しても尚そんな声色を出せるオペレータに対して我慢の限界に達したのか、ついに声を荒げる。
《何が『如何、なさいました?』だ!! お前はこの妙な状況に何とも思わんのか!?》
《お静かに、ドン・カーネル。癪に障ります》
《それを言うなら『耳』だろうが!いや、それでも似たようなものだが……お前は毎回毎回、》
《お前、では無く『キャロル』と申しま……》
《そんな事は知っているッ!!だからこの現状ーーーー》
この様に彼らが言い合っている……いや、カーネルしか気にしてはいない様に見える『現状』なのだが、実は非常にマズイ状況下に陥っていた。
ロロ砂漠。
見渡す限りの砂、砂、砂。そして上を見上げればサンサンと輝く太陽に、雲一つ無い青い空。そんな代わり映えしなかったハズの景色の中に、一つ。妙な物体が現れたのだ。もう、それが現れた瞬間に『楽な仕事』は終了したも同然のモノ。それが一体何なのかと言うと……
《『カブラカン』が何故こんな場所に現れる!?》
アルゼブラ社製のAF『カブラカン』。ネクスト級の火力をもってしても容易には崩せない分厚い装甲で囲われおり、別名「走る鉄塊」の異名を持つ巨大兵器である。
前面に搭載された障害物破砕用『物理』ブレードを用いて前方の障害物をなぎ倒しながら移動すると言う……そう。まさしく「こんな砂漠に何の用があって来た」と言いたくなるのも理解出来る、そんな兵器。
《知る必要などありません。貴方の仕事は速やかに『アレ』に対応、輸送部隊の護衛を無事に完遂する事です》
簡単に言ってくれる。内心、カーネルはそう呟いた。
例の戦闘で敗北を喫した後、新たに就いたオペレーター。 キャロルとはこの短期間で様々な戦場を駆け巡ったが、毎回この調子なのである。いや、コレよりも更に酷い。
とあるノーマル部隊を相手にした時は彼女が敵全撃破までの『時間』を指定。一秒でも時間を過ぎると、やれ「期待外れ」だの「ハエが止まりそう」などと煽ってくる始末……
だが。
《どうすれば良い……》
《おや。今日は何やら素直なご様子で。コレは砂漠に雨が降るやもしれ……》
《良いから早くしろ!》
キャロルは優秀だった。この短期間でも充分に理解出来る程に。
出す指示は的確。情報は常に最新のモノを迅速に伝えてくる。彼女の指定してくる『時間』は何やら実力を出しきればギリギリで達成可能な目標タイムでもあったのだ。
中でもカーネルにとって悔しいのが、彼女のお陰で以前までとは違い、自身の『リンクスとしての位置』が良く把握出来ていると言うところ。
何と言うか……これまでの戦闘で、自身の実力が今のランク以下である事をまざまざと指摘されている様な気がしていたのだ。
いや、少なくとも一人。自身よりも低ランクだが、その『強さ』において遥か高みに位置する者を知っている。
《ふむ。カブラカンの装甲ですが、残念な事にネクスト級の火力では大したダメージは与えられません》
《……では、此方の輸送部隊のAFをぶつければ》
《不可能です。我々輸送部隊のAFは旧式な上、AFにしては小型。迎撃体勢を整えたところで、撃破が間に合わず物理ブレードで『バラバラ』になる事は明白》
《チッ……!》
思わず舌打ちをしてしまう。
カブラカンに対しての、ネクスト機での有効な対処法など今までに聞いた事が無い。
AFなど基本的にネクスト機で挑むような代物では無いのだから、それも仕方がない事なのだが。しかし、このままやられる訳には……
《では、『停止』させましょう》
《!》
《どうやらカブラカンの機動は、スカートアーマー内のキャタピラによる物。それを破壊、機動力を奪います》
《……出来るのか?》
《『やる』のです。少なくともあのスカートアーマーは構造上、他の部位の装甲に比べては脆いはず。貴方の機体は火力『だけ』は高い様子なので、一点を集中して狙えばアーマーのプレート一枚程度ならば何とかなるでしょう》
何やら気に入らない物言いだが、成る程。確かにわざわざあの堅物を撃破する必要など無い。あくまでも此方の任務は輸送部隊の護衛なのだから、相手の攻撃が届かなければ良いだけの話だ……
《スカート内……か。チッ、全く面倒な――――》
《ドン・カーネル。その卑猥極まりない発言、お止めになっ》
《黙っていろ!集中出来んだろうが!》
何時かコイツには何かしらの苦しみを与えてやる。
そう心に決めたカーネルは機体のブースターを点火、カブラカンへ向けて動き出した……
ーーーーーーーーーーー
《我々が相手をしている間、輸送部隊にはカブラカンとの距離を稼がせる為『後退』させる様に指示を出しました》
《……そうか》
さて。『カブラカンのキャタピラ破壊大作戦』が決まったのは良いが……問題はそれを防御しているスカートアーマーの『どこ』を狙えば良いのかと言うこと。
《スカートアーマーは、多数の防御プレートが一枚一枚円を描くように設けられています》
カブラカンに接近する最中、キャロルからの指示に耳を傾ける。
《掘削物理ブレードのある方を前方として……アーマー中部~後方の上部にはミサイルポットにスラックガン等が設置。その為、そちら側から攻め込には若干のリスクが伴います。つまり》
《……つまり?》
《前方。物理ブレード側にあるアーマープレートを破壊します。まあ、此方はネクスト機です。『よほど下手な動き』でもしない限りあの巨大ブレードにはまず当たらないかと》
あからさまなカーネルへの当て付けである。何か言い返そうかとも思ったが、今はそんな事をしている場合では無い。迫るカブラカンからミサイルが発射されたのだ。
カーネルはそれに対応するべく即座にフレアを展開。
更に、接近速度を上げる為に、ブースト出力を上昇させる。
《しかしながら、毎回そのフレア使いに関しては目を見張るものが有ります》
《誉めるのなら別のところにしろ……!》
《ご冗談を》
やがて、その目標であるスカートアーマーが目前へと迫る。もうここまで来れば例のミサイルポッドも『射角』の関係上ロックは出来ない。
後は物理ブレードに気をつけてひたすら一枚のプレートに向けて弾丸を放つのみ。
《よし……!おい、掘削ブレードの真横(右)の、コイツで良いな!?》
《まあ、良いでしょう。『付け根』辺りを狙い撃ちすることをお薦めします》
確認は取れた。
即座に両腕武器を構え、指示通りにプレートの付け根部分に攻撃を開始。
ライフルに、散弾バズーカの重たい発砲音が断続的に砂漠地帯に響き渡る。
《離されない様に》
攻撃の最中、キャロルからの通信が入る。そう、このカブラカン。巨体に反して中々の移動速度を誇っているのだ。その速度、時速にして約300km/h。
ワンダフルボディのその重量・バックブースターの出力では、通常ブーストの『引き撃ち』だけでは追従速度が足りない。
その為、適度に後方に向けてクイックブーストを吹かす必要があるのだが……
《……ッ!》
正直に言って辛い物がある。AMS適性の低いカーネルにはQB時の機体制御に難があったのだ。加えて機動戦の経験も浅い為に、その際の衝撃自体にも慣れていない訳であって……思わずして攻撃の手が揺るまってしまう。
《休む暇などありません。攻撃を続けて下さい》
まあ、キャロルは『そんな事は関係無い』と言わんばかりに次々と指示を出してくるのだが。だが、この程度のスパルタ(?)言動はこれまでに幾度と無く言われてきた。
カーネルは下唇を噛みしめ、再度狙いを定める。確かにキャロルの言う通り休む暇など無い。防衛対象の輸送部隊とはまだ幾らかの距離は有るが……このカブラカンの移動ペースを考えるに、それに追い付くのに時間はかからないだろう。
《ぬぅ……ッ!!》
気合いを入れ、一点を集中で攻撃を再開。出来るだけ機体速度をカブラカン以上に保ったまま、ひたすらトリガーを引き続ける。途中でやや突き放され、何度もミサイルやスラックガンにロックされる事態にも見舞われたが、もはや被弾など関係無い。
今のカーネルの視界・思考はこの一枚のアーマープレートの為だけに使われていた。
やがて狙いのプレートに、弾痕が無い部分が見当たらない程の傷が付いた、その時――――
《――――――!!!》
『落ち』た。
破壊されたプレートは、落下時に大量の砂煙を巻き上げ地面へと落下。
その際の地響きによりカーネルの視界は若干ぐらつく。やがて、その砂煙の奥に見えた物は、
《見えました。目標です》
キャタピラ。破壊対象である。この次点での機体APは約40%……途中でスラックガンにPAを剥がされた為、中々の痛手を負ってしまった。また、気にする余裕も無かったが、レーダーを見るとGA輸送部隊までの距離も迫っている。
《止ま、れ……ッ!!》
喜びに浸る間も無く、カーネルはその場でスカートアーマー内に必殺の散弾バズーカを撃ち込んだ。強烈な弾丸に貫かれたキャタピラは火花を散らしつつ、その車輪から履帯(ベルト)が外れ――――
――――――――停止。
カブラカンは、その機動力を完全に失った。
《……、ハァ……》
静かになった戦場で、溜め息を吐くカーネル。本来なら喜ぶべきなのだろうが、今現在感じているのは多大な疲労感に異ならなかった。まあ、挑んだ事の無いAF戦――――それこそ、撤退出来ない様な状況で『撃破方法すら曖昧』な相手に立ち向かったのだ。精神をすり減らさない方がどうかしている。
だが、
《これで……終わり、だな?》
キャロルに確認を取る。そう、辛い戦いもこれで終わりだ……そう、思っていたのだが
《浅はかな。何が終ったと言うのです?》
《あ?》
一体何を言って
――――――――――――ゴウンッッ!!
嫌な音を聞いた。
瞬間的にカブラカンの上部の巨大コンテナ、『ALGEBRA』のロゴが描かれている辺りを見ると、そこからは何やら煙の様な物が……この時、カーネルは半ば確信に近い予感と共に思った。
まさかこのAF―――――――
《『開きます』。その場から移動して下さい》
指示に従いカブラカンから距離を取ると、ロゴが描かれてれている部分がまるで剥がれ落ちる様に落下。更に、その巨大なコンテナ部分が『開い』た。
すると、そこから出てきた物は
《おい……》
自立兵器群。しかも数えるのが億劫になる程に大量な。
先程の静けさから一辺、途端に砂漠地帯は自立兵器達の機動音で溢れ返る。突っ立っていても仕方がないので、取り合えず適当な獲物をロックするが……ふと思った。
カブラカン自体は停止させたのだから、この自立兵器達を相手にする必要など無いのでは?と。
それにこのまま戦闘をこなせば……考えたくは無いが、ワンダフルボディのAPも底を尽きてしまう可能性が非常に高い。
直ぐ様キャロルにその確認をしようと試みたのだが。
《敵影数、一機増加》
《は?》
そうは問屋が卸さない。
《上空約300。不明ネクスト機が急速に降下中です。『可能ならば』目視で確認して下さい》
《なッ、にッ!?》
この日のカーネルは、まるで何処ぞの男の如く『出会い運』に恵まれて無かった……
長くなってしまったので、カーネルさん視点は分けます。