絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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第29話

MT部隊隊長視点

 

 

シュープリスとの戦闘が始まり、ライフルによる『突き』を防御。ゼンが機体をビルの陰に隠し、一息入れた頃

 

「す、凄い、これがリンクスの……ゼンさんの戦い……!」

「アミアミ……」

「見たか?『0距離』からの突きをいなしたぞ……」

「この身のこなし。やはり、リンクスとしても相当優秀な部類に入ると見える」

 

室内は大いに盛り上がっていた。

 

この中には資料として、または"外"からは見たことはあっても、直にリンクスの戦闘中の『視界』を目の当たりにした者など数える程しか居ないであろう。それこそオペレータ、もしくは研究者位のものだ。

 

その上、今見ているのは上位クラスは確実の者の戦闘ときた……盛り上がるのも納得できる。

だが……エドガーは理解していた。

 

この状況、押されている。

 

今まで実際に戦闘をした相手とは違い、明らかにシュープリスは『距離を取って』戦っている。そう、ゼンはクイックブースト(機動戦)を苦手としているのか……いや、事実として苦手なのだろう。基本的には『引いて』戦闘をこなしてきた。

 

しかし、今回の相手にはそれが通用しない。『攻めなければならない』立場だ。先程、相手の仕掛けたライフルを用いた突き……虚を突かれたにも関わらず防ぐ事が出来たのは見事と言うものだろう。

 

だがその直後にグレネード……爆風に当たってしまった。機体本体は大した損失を受けてはいない。 が、減衰したPAを回復するために再び距離を取ってしまった。

 

これが問題。さて、どうするのか。再度接近しようにも被弾は確実。加え、接近しても何をされるか分かったものでは無い……

 

「ククク……まあ、そう易々とやられたりするとは思えんが」

「……隊長?」

「ああ、いや、見物だと思ってな……気にするな」

 

既に解っている事だ。『何か』あるんだろう?

 

このゼンと言う男は軽く想像を飛び越えてくる……今回も間違いなくこの場に居る者の度肝を抜かしにかかってくるに違いないのだから。

そうしてスクリーンに注目するエドガー。その耳に……果たして何人の者が気がついたか。

 

 

――――"動く"か

 

 

男の、言葉を聞いた。全身に鳥肌が立つのを感じる。これは……

 

「来るぞ……ッ!!」

「えっ?何が――――」

 

思わず反射的に叫ぶ。この男が言ったのだ。"動く"と。

 

エドガーの耳にはもう周りの言葉など入って来ない。これから起こる出来事を一挙一動見逃すまいと、目を見開く。ゼンの視界を、スクリーンを凝視する。

 

ゼンが機体を浮かし、ビルの上に立った。そして遠方にシュープリスを視認。

 

 

「――――」

 

 

次の瞬間、スクリーン越しの視界がブレた。

 

 

 

 

と、思っ

 

 

 

 

――――――――ドドドドヒャアッッ!!!!

 

 

 

 

「ば……ッ!?」

 

 

 

 

エドガーは驚愕に目を見開いた。

 

離れた位置に居たはずの相手は、一瞬の内にゼンに後ろを取られていたのだ。今視界に映っているのは、遠方に居たはずのネクスト機。シュープリスの後ろ姿。

 

「ふぁいぃ!?」

「アミァ!??!」

「おいおいおいっ……!」

「ちょっ!?えええ!?」

 

「な、何が起こっ……!マーシュさん!?」

「いやいやいや!!さすがに僕も予測出来ないよフィオナちゃん!?」

 

あり得ない。ネクスト機の瞬発力をもってしても、あの距離を一瞬で詰めるなど不可能のはずだ。

 

「何が……!」

 

だが、それを理解するよりも早く再び視界が激しくブレる。一端落ち着いたと思えばまたしてもスクリーンに映るのはシュープリスの後ろ姿。そして、ネームレスから放たれている弾丸がそれに吸い込まれているかの様に直撃している映像。

 

 

「ハッハ、ハーッハッハァ!!」

 

 

ざわつく室内にゼンの高笑いが響く……いや、"嗤い"か。

その声を聞いた室内の誰しもが、冷や汗を流していた。ここでようやく分かったのだ、今、ゼンが何をしているのか。

 

この男、ほぼ絶える事なくクイックブーストを吹かしている。シュープリスがクイックターンで振り替える度に、少なくも2、3回QBを使用、常に背後を取る様立ち回っているのだ。少しでも離れれば更に多くの回数、もしくは例の『二段』を使用し一瞬で接近。

 

 

 

張り付いて、離れない。

 

 

 

「異常だ....」

 

 

誰かが呟いた。そう、異常。エドガー等の知っているネクスト機の機動とは根本的に異なっている。聞いた話では、クイックブースト時の"圧"は人体には致命的なものらしく、どんなに熟練したリンクスでも僅かとは言え一定の間をおかなければ使用不可との話だ。

 

それに加え、QB時の機体の挙動制御自体に難があり、『場合場合で自機がどの様に動くか』を熟知していなければならないらいのだと言う。

 

今、現実のゼンの身体には何の衝撃も伝わって居ない……当然の事だ。が、しかしそれは関係無い。何故ならば『仮想空間だから出来る』訳では無く、『現実で可能。もしくは可能だと思っている常識』が仮想空間には反映されるから。

 

様はこの男の頭の中には『ネクスト機=間を置かずに連続でのQB使用が可能なモノ』と言う常識が入っている訳だ……どうかしている。

 

 

「気分が、悪いな」

 

 

ひたすら張り付き、シュープリスのAPが残り30%程になったその時、ポツリとゼンが呟いた。何?気分が、悪い……?

 

「マズイ、中止しないと」

「ど、どう言う事ですか……?」

 

同じくマーシュの突然の呟きにアイラが反応する……普段一切感じさせない焦りを顕にしつつ、説明するマーシュ。

 

「脳に負担が掛かりすぎているんだ……!」

「えっ……そ、それって……」

「ゼン君!聞こえるかい!?」

 

手持ちのヘッドセットに呼び掛けるマーシュ。しかし

 

「くっ、どうして……すまないゼン君、『切る』よ!」

 

反応無し。戦闘に集中しすぎているのか、或いは別の要因か。

 

しかし既に準備は整っていたのだろう、そう言うとマーシュは手元のPC端末を操作。即座にスクリーンの視界が暗転、ーcanceledーの文字と共にシミュレーションが終了した事を告げた。

 

「…………」

 

椅子に腰掛けたまま微動だにしないゼン。それを見てエドガーは直ぐ様隣まで駆けつける。

 

「おい、大丈夫か……!」

「…………」

「おい、ゼン!」

 

被っているヘッドギアを外す。そこには目を瞑っている姿が……一瞬、嫌な予感が脳裏を過った。しかし

 

「……ああ、大丈夫だ。問題無い」

 

ゼンはゆっくりと瞼を開き、返答を返した……不敵な笑みを浮かべながら。

そこでふーっと息を吐きつつ会話に応じる。

 

「全く、あまり心配させてくれるなよ?」

「ん……?ああ、すまないな。いくらか"集中"しすぎていたみたいだ……悪いが、少し席を外させてもらう。構わないか?アブ・マーシュ」

 

「……構わないよ」

 

どうやら本当に問題なさそうだ。室内にも安堵の溜め息を漏らす者もチラホラと ……

だが、アブ・マーシュ。そしてフィオナ・イェルネフェルトは未だに険しい表情を見せている……それを疑問に思ったエドガーだが、即座にその意味を理解する事となった。

 

AMSのプラグを外し、椅子から立ち上がったゼンに異変が起こったのだ。

 

「ぬ……!」

 

歩こうとしたのであろうその時、ゼンはバランスを崩した。

突然の出来事に、隣に居たエドガーは咄嗟にゼンの身体を支えようと肩に腕を回したのだが……

 

 

「―――――!?」

 

 

出来なかった。

 

正確には腕を回すことまでは可能だったが、身体を支える事ができずに、共にしゃがみこむ形になってしまった。何故ならばそれほどまでに、ゼンの身体は『重かった』から。明らかに見た目から推定される体重を超越している程に。

 

ゼンの超機動を見た時と同じか、またはそれ以上に内心驚きに満ちているエドガー。

……そんな、しゃがみこむ二人を覗き込む様にしてマーシュが問いかける

 

「ゼン君、今日はここまでにしようか」

「何?たかだか一戦程度しかこなしていないんだぞ?そちらの手間に比べて……」

「いや、良いんだ。今回の君の一戦は通常のデータとは比べものにならない程の価値がある。初めの約束はきちんと守るよ、だから今日はもうお休み」

「だが……」

 

 

 

――――――ダメだッ!!

 

 

 

一喝。

 

普段の雰囲気とは似ても似つかない厳粛とした声。エドガーやその他はおろか、フィオナ・イェルネフェルトでさえ目を丸くしている……唯一表情を変えて居ないのはゼン位のものか。

 

「僕が頼み込んだにも拘らず申し訳ないねぇ。でも、どうか聞き入れてはもらえないかな?」

「……了承した」

「……うん。分かればよし!ご飯は運ばせておくから、部屋で食べると良いよ....立てるかい?」

 

「ああ、少し力が抜けていただけだ。エドガー、そちらにも迷惑をかけたな」

「……気にするな。何かあったら連絡をよこしてくれ」

 

足に力を入れ、ゼンが立ち上がる。

しかし、如何にゼンと言えども今の状態では……流石に一人では心配と言うもの。

 

「アイラ!」

「はっはいぃ!」

「付き添いだ。何かあったらすぐ俺に知らせろ。良いな?」

「え!?わた、私がですか....?」

 

「アミアミ~」

「その……あー、AMIDA氏もお前と友人なんだろう。一瞬に連れていってやれ」

「り、了解です!」

 

アイラは何やらゼンに対して憧れの様なものを抱いている様子だ……話をさせる良い機会だろう。 ……それに、"この後"はあまり良い話が続くとは思えない。

 

「ほう、では部屋まで頼んだぞ?アイラ」

「ははは、はい!ゼンさんの迷惑にならないように頑張ります!」

 

そうして二人と一匹は食堂の扉から姿を消して行った……さて。と、完全に彼らの話し声が聞こえなくなった辺りで"科学者"に向かい切り出す。

 

「どう、思われましたか」

 

要領を得ない質問だ、と思う。だが事実として、その質問に今回の出来事についての全てが集約されてもいた。

 

 

……何と返ってきたものか。

 

 

 

 


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