絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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そして反動で短め


第16話

 

企業視点

 

 

ここはGA本社のとある一室。

 

スーツを着用した壮年の者達がそこには居た。それぞれが円状のテーブルに肘を乗せ、あるいは腕を組み険しい顔をしていた。彼らはとある情報が入ってくるのを待っているのだ。

 

静かな時間が過ぎゆく。だが、それは安らぎとは正反対の「静寂」。目に見えない緊張感がそこにはあった。時計の針、そして呼吸音のみがその空間を支配していた。

 

 

―――その時、ドアが開かれる。

 

 

その静寂を切り開いた存在に注目が集まった。若い女性だ。顔には緊張の色が伺える。恐らくは、これから自らが話す事が「重要」であると理解しているのだろう。そして皆の注目が集まる中、重苦しくその口を開いた。

 

 

「…どうやら、ワンダフルボディは例のネクスト機に敗北を喫した模様です」

 

 

チッ…

 

どこかで舌打ちする音が聞こえた。いや、もしや自分か。きっとこの場に居る誰もが舌打ちをしたい気分だっただろう。何故ならば

 

「…何が、『企業の総意』だ。損な役回りをさせられたものだ」

 

そう、今回の依頼…エドガーの思惑通り『裏』があったのだ。言葉を発した一人が更に続ける。

 

「あの時、易々とインテリオルのジジイ共の挑発に乗せられてなければ今頃は―――」

「では、あのまま引いていろとでも?」

「…そうは言って無い。他のやり方もあったはずだ、と言いたいんだ」

 

『あの時』

 

そう、今回の一件は『企業連』での決定―――つまりは企業同士の敵味方は関係なく『企業の総意』という形で成された出来事だったのである。まあ、表向きには、だが。

本人が知るよしも無い事だが、ゼンがラインアークに訪れた時…各企業は非常に慌てていた。何故なら、ラインアーク内に既に忍び込ませている者から情報が入ったのだ。

 

「あのリンクスは普通では無い」

 

と。始めは、リンクス自体が普通では無いだろうに…と笑って済ませていたのだが、情報が入ってくるにつれその笑みは消える事となる。何と、乗ってきた機体のパーツが全て出処不明。しかも内部チューンは企業の最高クラスのネクスト並と来たのだ。

 

…明らかに邪魔、だった。

 

何故ならば近い内、ラインアークには本格的な攻撃を仕掛ける予定だったのだ。ホワイト・グリント一機だけでも厄介だと言うのに、新たに参入にて来た男は―――機体を見る限りではそれに匹敵する実力の持ち主の可能性が高い。との話ではないか。

 

これはマズイ。そう判断した企業連は〝それ〟をどうするかを話し合う為、急遽『企業連本部』へと各企業の重役達を招いた。

そしてその際決定されたのが、『例のリンクスの実力を測る』との事だったのだが…

 

 

「まさか、白羽の矢が我々に突き刺さるとはね」

「フン…」

 

 

その会議中、『どの企業が』、『どうするか』で揉めた。

 

リンクスの力を測るのはリンクスをぶつけるのが一番では? と誰かが言った。確かに一理ある。だが例のリンクスと戦わせるとなると…リスクが高いのは誰の目に見ても明らかだった。誰が好き好んで貴重な戦力を差し出すと言うのか。

 

待てよ? 独立傭兵をぶつける、と言う選択肢もある―――そう、言いかけた時。

 

『ふむ…そちらの、GA社は今―――〝NSS計画〟とやらを進めている様だが』

 

インテリオル側からの主張が飛んできたのだ。その男…「老人」は口元をにやけさせながらこう言った。

 

『その〝被検体〟のリンクスをぶつけてみてはどうかね』

『それは―――』

『そろそろ〝ネクスト戦〟のデータ収集も必要な頃だろう?』

『…』

 

痛い所を突かれた。そう、今まで被検体であるドン・カーネルはノーマル部隊程度しか相手にさせて無かったのだ。理由は至極単純、〝弱い〟から。だが計画を進めるに当たり『格下』相手のデータだけではどうしても足りない部分があるのも事実だった。

 

『是非とも、その〝計画〟の途中経過を拝見させて頂きたい…ここに居る『皆様方』もそう望んでおられるだろうし…な』

 

ぐるりと周りを見渡す老人。

 

『まあ、君らがその、色々と…露見してしまうのが怖いのなら無理にとは言わんが』

『…良いでしょう。我々のリンクスをぶつけてみます』

 

限界だった。さすがにコチラ…GA社側にもプライドと言うものがある。そこまで言われてしまっては引けるに引けない。ここで引く、と言うのは『怖い』と言うことを事実として認める事になってしまう。

 

かくして、会議はGA社が名乗りを上げた事により終了したのであったが…

 

 

「しかしリンクスには悪いが大方予想通り。と言った所ではある」

「まあ、な…」

「とにかく今は〝ドン・カーネル〟の戦闘データを回収する事が先決だ」

 

 

言ってしまっては何だが、敗れる事など〝想定内〟ではあった…『今』では無いにしろ、いつかはネクスト戦に出さなければならなかったのだ。そのデータが早い段階で取れた、と考えればまあ…

 

「それにだ、元々この計画は〝こういう時〟の為の計画でもある」

 

そう、この計画の目指すところは『リンクスの量産』だ。一人敗れ去ったのならまた補充すれば良い。現に、AMS適正値こそ低いもののカーネルの他にも何人か当てはあ―――

 

 

「あの」

 

 

突然、カーネルの敗北を告げた女性が言葉を発した。

 

 

「そのリンクス、〝ドン・カーネル〟が救援を要請しているとノーマル部隊から通信が」

 

 

〝想定外〟の言葉と共に

 

 

「は?」

 

 

…どう言う事だ? 予想外の事態に一瞬間の抜けた空気が漂った。

 

 

「それが、リンクス曰く『見逃された』とか」

「…」 

 

「…ほう、なるほど」

 

『見逃された』この一言で、この場に居る者は全てを理解した。…相手のリンクスは中々に頭が切れる様だ。少なくとも、コチラがラインアークと繋がっている事を把握している。その上で、ラインアークとGA社が妙な『こじれ』を起こさない様に上手く立ち回っているのだろう。

 

「…一つ『借り』が出来る形になったな」

 

恐らくはそこまで考えている。一応、代わりが居るとは言え…ここまで育ててきた〝被検体〟だ。こちらがそれなりに「無くすのは惜しい」と思慮している事も理解しての行動でもあるだろう。

 

「フン…小賢しい事だ。頭のまわる傭兵ほど面倒なモノは無い」

「しかし今回、その小賢しさが我々においてプラスに働いたのも事実」

「…ふむ」

 

「ラインアークに対し、『借り』を返す何らかの行動も取らねばな」

 

まったく、インテリオル社の問題やラインアークへの手回し。NSS計画や企業連への今回のデータ提出…面倒が多いな。まあ、面倒な事はまず目先の事から処理していくに限る。

 

「まずは、ドン・カーネルの救出だ。即座にポイントに向かう様に指示しろ」

 

「―――了解」


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