絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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第14話

―――彼は、〝ドン・カーネル〟はリンクスとなる前はGA社に所属する一介のノーマル乗りに過ぎなかった。しかし、GA社がNSS(ニューサンシャイン)計画を始動した為にその運命は大きく変わる事となる。

 

NSS計画とは簡単に言うと、ネクスト機に搭乗する為の先天的な素養(AMS適性)の低い搭乗者でも、十分な戦力を発揮できるような扱いやすい機体を開発する事で、ネクスト戦力の充実を図る…という計画だ。

 

その計画を進めるにあたり、GA社では軍事関係者…主にノーマルやMT乗りに対してAMS適性があるかどうかの検査を行った。カーネルもその検査を受けるはめになったのだが…それに対し、特に期待をする訳でも無かった。何故ならAMS適性というのは本当に僅かの、極一部の人間しか持ち合わせていないのだ。もし自分に少しでも適性があったのなら、それは奇跡以外の何物でも無い。

 

そんなある日、カーネルは任務から戻った際、GA社のいわゆる「上」の人物に呼び出された。ただのノーマル乗り如きが会う事など無いであろう人物だ。

 

まさか自分は何か『しでかして』しまったのだろうか? 特に心当たりは無いが…

そう思っていたところで、ある言葉を告げられた。

 

 

『君には僅かながらだがAMS適性が見受けられる。計画に参加する気はないかね?』

 

 

奇跡が、起こった。

 

 

カーネルは歓喜した。何せ自分はただのノーマル乗り、〝リンクス〟なんて特別な存在は雲の上でしか無い。そう思っていたところに、いきなり「リンクスになれる」と知らされたのだから、無理も無い。

 

そして、長期の訓練を経て自らの搭乗する機体―――NSS計画に伴い開発された【GAN02-NEW-SUNSHINE】と初めて対面した時

 

―――何と素晴らしい機体だ

 

素直にそう思った。余談だが機体名である【ワンダフルボディ】はその様な経緯から命名される事となる。

 

 

その後、彼は実戦経験を積む事になる…が、GA社の方針から、彼が相手にして来たのはノーマル部隊が関の山であった。お世辞にも機体を「上手く」動かせているとは言えなかったが、ネクスト戦力とノーマル部隊…〝通常戦力〟との差は、それを差し引いても圧倒的にネクスト側に傾いた事は想像に難くないだろう。

 

 

加え、彼の乗機【ワンダフルボディ】はGA社の新標準機だ。フレーム自体も堅牢・高性能な上、左腕部には散弾バズーカ〝GAN02-NSS-WAS〟。右腕部にはネクスト規格のライフル中最も装弾数の多い〝GAN02-NSS-WR〟が採用されており、両背に搭載されているミサイルの一方は、同時発射数16発の最新型ミサイル〝WHEELINGO1〟であるなど、機体自体の戦闘力は高いと来たものだ。

 

…その様な理由もあり、彼は向かうところ『敵無し』であった。

 

そして次第に思う様になる。

 

 

―――自分は特別だ

 

 

と。

 

しかし、誰が彼を責める事が出来るだろうか。何せ『連戦連勝』。敵になる様な者が今まで居なかった訳であるし―――事実、彼は『特別』だった。

 

 

そして今回のネクスト戦。カーネル自身、初めての経験ではあったのだが……負ける気などは微塵も無かった。むしろ、この俺を相手にするなど運の無い奴だ、などと憐れむ気持ちですらあったのだが―――

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「っ…!」

 

本格的な戦闘が開始されてから数分。彼―――ドン・カーネルは焦りに焦っていた。彼の乗機、ワンダフルボディのAPは既に40%を切っている。だが、主な焦りはその『機体装甲値』とは別のところにあった。それが何なのかというと…

 

(チッ!ダメだ――――弾が当たらんッ!)

 

そう、先ほどからカーネルの攻撃が当たらない…正確には、〝決定打〟を与えるに至らないのだ。現状、自身の攻撃でダメージを与えているのは右腕部に搭載されているライフルのみ。しかしそれすらカスっている程度だろう。

 

相手は軽量機である強みを生かして、高速で飛び回っている訳では無い。行っているのは、こちらの前進に合わせての通常ブーストでの後退。それに時折QBを折り込んで距離を取っている…位のものだ。カーネルから見ても、なんら特別な事をしている様には見えない。

 

だが、当たらない。

 

…この時、カーネルは相手を追う事に必死になっておりある事に気が付いて居なかった。

 

QBを使うタイミング。相手―――ゼンは何も、適当にQBを使用している訳無い。ワンダフルボディとの距離が550を切った時点で使用しているのだ。ワンダフルボディに搭載されている武器の中で一番警戒すべきのは散弾バズーカである。その有効射程は『546』。つまりは、自機と相手との距離がそれ以下にならない様に保っているのだ。

 

なれば、と武装をミサイルに変更しよう物なら今度はフレアの使用だ。それらは全て無駄撃ちとなってしまう…実質、カーネルは今右腕武器のライフルのみでゼンと相対していた。

 

ネクスト戦に慣れている者なら逆にミサイルを撃ち続け『フレア切れ』を狙うという選択肢もあったのだが―――いかんせん、今回が初のネクスト戦であるカーネルにはそんな事など思いつくはずも無かった。とにかく「相手を倒す」という考えで頭が一杯なのだ。

 

まあ、もしそんな戦略を実行したとしても「意味を成す」かどうかはまた別の話だが…

 

そしてここまで戦闘を続けてきて更にもう一つ、カーネルは不可解な点を発見した。

 

(背部兵装を一度たりとも使用して来ない…何故だ?)

 

相手は戦闘開始直後からずっと、両腕に装備されているアサルトライフルしか使用していない。あの機体の背部兵装、見る限りでは、オーメル社製の軽量レーザーキャノン2門だろう。…言ってしまっては何だが、こちらの機体はEN兵器には滅法弱い。使わないでくれるのならそれに越した事はないのだが、だからと言って

 

(コチラに有利な武装を自分から封印するなど、常識では考えられん…)

 

奴は、一体何を考えているんだ? 

 

舐めているのか。それとも、もしやこの事も既に何らかの〝策〟の内に入っているのか…そんな、裏を読み取ろうとする内にも少しずつ、だが確実に自機の装甲は徐々に削り取られていく。

 

そう、じわじわと―――

 

 

そこである可能性に思い至った。 『恐ろしい』可能性に。

 

(いや、まさか)

 

その可能性を確認するべくカーネルは一つの問いを投げかける。

 

《おい、お前がライフルしか利用しないのは―――》

 

だが、その質問が終える前に、答えは返ってきた。

 

 

 

――――――簡単に死なれては、困るんでな

 

 

《クハハ…ッ!》

 

 

その残虐性を物語るかの様な、不気味な笑いと共に。

 

(―――ッ!?)

 

背筋を冷たいモノが走った。呼吸が荒くなり、視界がグラつく。あの感覚だ。リンクスになってからというもの、一切感じることが無くなっていた…『恐怖』。その答えから、カーネルは自身の予想が的中している事を確信したのだ。そう、この男は―――

 

(俺を…この俺を、なぶり殺しにする気か…!)

 

始めこそ、ライフルしか使わないのはコチラの事を舐めてかかっているからだと思っていたのだが…そう言う訳では無かったのだ。この男は単純に、『狩り』を楽しんでいるだけだ。恐らくはこちらに対して「舐めてかかる」と言う気概すら持ち合わせてはいないのだろう。

 

―――APが残り20%を切る。

 

(まずい。このままでは、このままでは俺は)

 

 

着実に近づいていた

 

 

 

 

 

                 『死』 が 

 

 

 

 

直後

 

 

(おい―――)

 

ブーストが、途切れた。

 

猛烈な『死』の恐怖が、AMSを介しての機体操作のイメージを阻害しているのだ。ここに来て皮肉にも、リンクスであると言う事が仇となった。例えば通常兵器であるノーマルやMTは、ペダルやレバー操作などである事からこちらの体を動かせば機体自体も動く。

 

だが、ネクスト機の操縦の大半は『イメージ』に依存している。…恐怖と言うものは御しがたい。どんなに頭で恐怖を取り除こうとしても、本能がそれを察知するからだ。

また機体を制御しようと躍起になればなるほど、上手く制御出来なかった時の焦りは大きくなり、機体の制御などからは更にほど遠くなる。

 

後はその悪循環が続くのだ―――

 

今のカーネルはまさに、その『ループ』の渦中に居た。

 

《どうした? 動きが悪いな、ワンダフルボディ?》

 

相手はここぞとばかりにコチラに接近、至近距離からライフルを連射する。

 

 

(だめだ、もうAPが10%を―――)

 

 

機体内にアラート音が響く。もはや神に祈る様な気持ちで、機体を制御し直そうとする…しかし

 

祈りは、届かない。

 

APは0になり、機体を強制停止させる。

こうなってしまってはネクスト機の守りの要であるPAも展開されない。如何にリンクスと言えども、この状態から出来る事など何もないに等しい。カーネルは、今やまさしく〝棺桶〟とでも言う様な機体の中で呟いた。

 

《―――死ぬってのか、俺が?》

 

嘘だ。あり得ない。俺は特別だ、選ばれたんだ。こんな所でやられるはずが―――この期に及んで、カーネルは自分の敗北を認められずに居た。尊大な自尊心が、それを邪魔していた。

 

(まだだ、まだ)

 

だが

 

 

 

 

《もう、終わりだ》

 

 

 

 

―――折れた。その一言で。

 

事実だった。コチラはもう何の行動も起こす事は出来ない、この男の言う通りもう『終わり』だったのだ。視界には銀色の機体が映っている。その機体は、ノイズ交じりの乱れた視界から見ても綺麗なままだった。どうしようもな無い差が、そこにはあった。

 

そしてカーネルは理解した。そうか…自分は

 

 

「特別などでは、無かった」

 

 

『特別』と言うのは――お前の様な奴が

 

 

図に乗っていたのは果たしてどちらだったのか…だが、気づいた所でもう遅い。銀色の機体はもはや目の前まで迫っていた。止めを刺すつもりなのだろう…

 

カーネルは目を瞑った。死への恐怖で体が震える。しかし、これはこの世界においての絶対のルールだ…力の無い者は、力有る者の選択し従うしかない。自分がリンクスとなり、今までそうして来た様に。

 

 

………

 

……………、?

 

何も起こらない。もしや、もう死んだのかと思い閉じた瞼をゆっくりと開くと…そこには、相も変わらず乱れた視界に銀色のネクスト機が映ったままだ。

 

(何だ?…何なんだ、一体何が)

 

理解出来ずに居ると、あの憎たらしい声が機体内に響いた。

 

 

《…おい、生きているか?》

 

(……、は?)

 

 

《…オイ! 返事をしろ!!》

 

 

怒声に代わる。今まで余裕の態度を崩さなかった男が、僅かに焦っているかの如き感情を見せたのだ。その変わりように少なからず驚いたカーネルは、訳も分からないまま返答を返した。

 

《あ、ああ、まだ生きてる》

 

そう、〝まだ〟

 

《…そうか》

 

そして、それだけ言うと男は機体を反転させた。

 

《…は!? お、おい、ちょっと待て!!》

 

咄嗟に呼び止める。

 

《何だ》

《と、止めは刺さないのか?》

 

《死にたいのか?》

《……》

 

死にたくは無い。しかし、何故―――

 

《俺の受けた依頼は〝ネクスト【ワンダフルボディ】の撃破〟だ。…リンクスごと始末しろ、とは言われて無いのでな》

 

《そんな―――》

 

《あくまでも俺は依頼を遂行したに過ぎない。文句があるのならコチラの依頼主にでも言う事だな。…ああ、それと》

 

 

―――お前は昔の俺と似ている。

 

 

《一体、何を》

 

《そのままの意味だ。まあ、あまり気にする必要は無い》

 

 

ブースタに火が灯る。

 

 

《ま、まて。まだ話は》

 

 

 

『生き残れ、ドン・カーネル。お前にならそれが出来るはずだ』

 

 

 

最後にそう告げると、機体はゆっくりと移動を開始した。視界から遠ざかるその機体を眺めながら、カーネルは必死に今の状況を確認する。

 

(助かったのか…いや、見逃された? だが、どうして―――)

 

 

―――『お前は昔の俺と似ている』

 

 

……なるほど。そうか。そして一つの結論に至った。

 

(恐らく奴も、俺と同じくして何らかの〝計画〟の被検体だったのだろう。そして自信過剰に陥った、とでも言ったところか…)

 

よくよく考えてみたら、最初の言葉も俺をバカにしていたのでは無く…自分の経験から、戦場での慢心がいかに命取りになるかを教えるために言ったのだろう。

 

 

「ふっ…ははは!」

 

 

自然と笑みがこぼれた。それは本来なら、ここで死んでたであろうハズの自分が『生きている』事の不自然さにか、或いはあのリンクスの心遣いに対してなのかは分からなかったが。

 

とにかく、あの男は自分に「生き残れ」と言ったのだ。ならば自分はそのルールに従うしか無い。〝力無き者〟は〝力有る者〟に従うしかないのだから。と、なれば

 

「…まずは、救助を呼ばなければ」

 

途中まで共に進行していたノーマル部隊が居たハズだ。

 

 

―――とりあえずは通信を試みてみるとしよう


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