絶対に死んではいけないACfa   作:2ndQB

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主人公装備回

外装はともかく内装見て「ガチやんけ」と思った方は握手


第9話 後編

「しかも、それだけじゃない」

 

マーシュは更に次の画面に切り替える。そこに映っていたのは【ネームレス】の肘部分だ。

 

「この肘の部分のスタビライザーはローゼンタール社最高のネクスト【ノブリス・オブリージュ】専用の物だし……さらにほぼ全身に渡ってスタビライザーが付けられている、と。まあこの機体を見てもらえば分かると思うけど。」

「……」

不必要なまでにスタビライザーが使用されているねぇ。ネームレス……〝名無し〟ちゃんのデザイナーはかなりのオシャレさんと見える。それこそ、他企業の専用パーツ、しかも特に象徴性の高いパーツをも手に入れたがる位には、ね」

 

専用パーツ―――それは各企業の最高戦力、あるいは戦果の著しい者に与えられるパーツである。当然、専用と言うからにはその企業独自の技術が使われているものも多くそれが外部に流出する事など基本的にあり得ない。あり得ないのだが……

 

どこから手に入れたのか、このネクスト機にはそれが使用されている。

 

「おいおい」

「一体どうなってる……」

「まあ、各々思うところがあるだろうけど次に行かせてもらうよ。さて、次は内装なんだけど……」

 

そこで言い淀んだ。と、同時に頭を掻くマーシュ。

 

「どうかしましたか?」

 

フィオナが尋ねる。

 

「いやいやぁ。何でも無いよ。さて、内装についてなんだけどまずはFCSから説明しようか」

 

マーシュは取り繕うようにして、説明を開始した。

 

「FCSはオーメル社の旧標準機〝JUDITH〟に使用されていたパーツ。そしてオーバードブースタ(OB)も同じくJUDITH。この2つの最大の特徴はとにかく〝軽い〟詰まるところ軽量機にはもってこいなパーツだねぇ」

「……」

「次はサイドブースタ(SB)とバックブースタ(BB)について。SBはSB128-〝SCHEDAR〟、BBはBB11-〝LATONA〟こっちは両方インテリオル社製のブースタだね。SCHEDERはインテリオルの中量標準機〝TELLUS〟に使用されてて、LATONAはインテリオルの最新鋭軽量、名称はそのまま〝LATONA〟に使用されている……こっちの2つはエネルギー(EN)効率を重視しているパーツだねぇ。サイドブースタの方は少し重いけど、EN効率が良い割に結構な高出力だ。色々と『分かってる』よ、名無しちゃんのデザイナーは」

 

専門用語が飛び交う説明に、会議室の面々も何とかついていく。

つまり、この銀のネクスト機にはインテリオル社の最新パーツも利用されていると言う事である。

 

「さて……こ色々突っ込みどころはあるけど、こまでなら100歩譲って『まだ』分かる。問題は」

 

マーシュはここで一呼吸。

 

「メインブースタ(MB)とネクストの心臓部であるジェネレータなんだよねぇ」

 

今まででも問題だらけなのに更にとんでもない事が出てくるのかと顔を引きつらせる会議室の面々。そもそも、問題ばかり起こしている様な男が驚くモノとは一体何なのか……

 

「MBは今は亡きレイレナード社製のパーツで―――S04-〝VERTUE〟」

「……〝VERTUE〟?」

 

フィオナがそのブースタの名称に反応する。何故なら

 

「そう、このパーツも〝専用パーツ〟の中の一つ。まあ、もっともこの専用パーツの持ち主はリンクス戦争時に亡くなっているけどねぇ『彼』と戦って」

 

言うなりフィオナをちらりと見やるマーシュ。

 

……このパーツを与えられていた者の名は〝アンジェ〟。リンクス戦争よりも以前、企業の支配体制を確立させるに至ったきっかけである『国家解体戦争』では最も多くのレイヴン(ノーマル乗り)を撃破し“鴉殺し”の異名を持っていた女性である。

 

リンクス戦争においては〝アナトリアの傭兵〟を廃工場に呼び出し、1対1での決闘を仕掛ける……が、激闘の末敗北。その戦闘の最中の「戦いを楽しんでる」様な発言は10年以上経った今でもフィオナの脳裏に焼き付いている。

 

「……」

 

そしてその際アナトリアの傭兵が苦しめられたのが、2つの専用パーツだ。1つは全ブレード中最高の威力を有し、使用時に紫色の巨大な刀身を発生させるレーザーブレード〝7-MOONLIGHT〟。そしてもう一つが。

 

「S04-〝VERTUE〟これは徹底的にQBの性能を強化してある。全MB中のQB出力値だけで言えばぶっちぎりの1位、相手との間合いを詰めるのにはもってこいだねぇ。まあ、簡単に言うと特徴はこんな感じ……さてさて。当然気になるのがこのパーツの出処だよねぇ」

「……」

「レイレナード社は壊滅した時に製品のいくつかは流出してしまった様子だし、今でもオーメル社ではごく少数だけどパーツの生産も行っている……けど、さすがに今更になってレイレナード時代の専用パーツまでも生産してるとはとても思えない」

 

マーシュは話を続ける。

 

「まあ、〝専用〟と言っても不慮の事態に備えて予備パーツを置いておくのは当たり前だし、それが流出したのなら考えられなくも無いけど…そう簡単に手に入れられるとは思えないねぇ。何せ10年以上前だよ?レイレナード社が壊滅したのは」

「……」

「その時流出した1つのパーツの足取りなんか分かるものかな?それこそ、旧レイレナード出身の者でさえ難しいと思うよ」

 

聞けば聞くほど不可解な事が浮かび上がってくる。

『じゃあ一体そんな機体に乗っているリンクスは何者なんだ』と、今すぐ聞きたいところだが……いかんせん、マーシュはまだ全てを説明し終わってない。

 

「よーし、次、行ってみようか!次はぁ……ジェネレータだ!」

 

ここに来てテンションを上げるマーシュ。なんだろうか、この男が楽しそうにしている姿を見るとハッキリ言ってもう嫌な予感しかしない。

 

「ちょっと話を戻すけど。あのMB、高出力な分EN消費も半端じゃ無い訳だ。そこで必要になって来るのがさっき言ったネクスト機の心臓部であるジェネレータ。こいつがそのEN消費の問題を解決してくれるんだけど……さて、この場合どんなジェネレータを積むのが良いでしょうか!フィオナちゃん分かるかな?」

「……そうですね。EN容量が多いジェネレータなどでは」

「ピンポン正解!フィオナちゃんやるねぇ。そう、EN消費が激しいならENの蓄えが多いジェネレータを用意すればいい。ただし、EN容量が多いものは重いジェネレータばっかりなんだ。この場合、軽量機である名無しちゃんにはかなりキツイ。だって重量過多になる可能性もあるし、そうでなくとも機体速度が落ちて軽量機の強みである機動力が生かせない」

 

そこで今度は別の者が答える。

 

「では……利用されてるのは軽量かつEN容量が多いジェネレータだと?」

「あはは。いやぁ、さすがにそんな都合の良いものは作れないよ。要するにENを切らさない事が大切なんだ、つまり〝EN回復力〟が高ければ良い。それならEN容量が少なくてもすぐにENが満タンになるから高出力ブースタでも飛び回れる」

 

如何に変人と言えど、曲りなりにもアーキテクトだ。中々どううして、分かりやすい説明である。

内心失礼な事をつぶやきながらも、マーシュの説明に感心する面々。だが本当に聞きたいのはそれでは無いのだ。彼らが聞きたいことは……

 

「それで、使用されているジェネレータは?」

 

そう、『どこ製』のジェネレータなのかだ。

 

「〝X-SOBRERO〟って知ってるかな?」

「……そちらで開発中の実験機ですね?」

「お、フィオナちゃん良く知ってるね。そうそう、僕の所の……〝アスピナ機関〟とオーメル社が共同開発って形で色々やってるんだけど」

「まさか」

 

フィオナが察したようにつぶやき、それに対してマーシュは観念したように答えた。

 

「そのまさか。名無しちゃんのジェネレータは……〝X-SOBRERO〟に使用されているモノだよ。ちなみにだけど、このジェネレータの特性は」

「軽量かつEN回復力が高い。ですか?」

「そう。フィオナちゃんの言う通り、EN回復力が異様に高い。それこそENの総負荷が少ない機体なら一瞬で回復する位にはね。しかもこれまたぶっちぎりで最軽量のジェネレータで、機動力を損なう必要は微塵も無い。さて、今まで色々話してきたけど、このジェネレータの使用……これが一番の不思議なんだ。何故なら」

 

そう、何故なら。

 

「存在していないんだ」

 

その言葉に、フィオナは眉をひそめた。

 

「……どういう事です」

 

存在しない。マーシュはたしかにそう言った。だが現に存在しているからこそ、このネクスト機に使用されているのでは無いか?これではさすがに意味不明である。

 

「正確には、現状〝X-SOBRERO〟のジェネレータはこの世に1つだけしか存在していないんだ。何せそのジェネレータはオーメルからアスピナに供与されている実験パーツ……〝完成型〟では無いんだ。そして完成型では無いが故に予備も存在しない」

 

実験パーツの完成毎に、予備を『丸々』準備する意味はないのだ。

どの道再度改良する訳であるし、存在すると言えばそのジェネレータの故障しやすい部位の交換用の部品と設計図位のものだ。

 

「まったく。在るものならともかく、無いはずの物までどうやって手に入れたんだろうねぇ……。その上、名無しちゃんの内部チューンはこれまたビックリ!各企業の最高クラスのネクスト機並みにチューンされているときた」

 

……なるほど、『これまたビックリ!』だ。

と、言うか会議室の面々はアブアブ・マーシュが来てからと言うもの驚きっぱなしである。

 

「それで、最後兵装の方だけど……まあ特に気になる所は無かったかな。腕部武器は左右ともにローゼンタール社の突撃ライフル〝MR-R102〟そして背部兵装はオーメルの軽量レーザーキャノン〝EC-O300〟がこれまた左右に装備されている。肩の装備は、BFF社製のフレア〝051ANAM〟だね」

「……」

「と、機体自体の全体的な確認はこんな感じで良いかな?フィオナちゃん」

「はい、有難うございました。」

 

マーシュが説明を終えた後、会議室を支配していたのは沈黙だった。

ここまで聞いた誰しもがとある事に気づいていた。そう、この機体。この機体はまるで……

 

「まるでこの機体、【自分の好きなパーツだけで作りました】みたいな機体だねぇ。それこそ本当に、〝どんなパーツでも揃えられる。〟と言わんばかりに」

 

マーシュの言う通り、この機体はネクスト機開発に関わった全ての企業の製品を揃えられると言わんばかりに様々なパーツで構成されているのだ。

 

「初めはフレーム自体は統一されている訳だし……アルゼブラ社と深く繋がりがあるのかとも思ったけど、内装や装備を見る限りそんな事は無さそうだねぇ。内装はオーメル社、インテリオル社、レイレナード社製の物だし。武装からも一貫性は見られない」

 

要するに機体を見る限り、リンクスである男の素性は分からず終いという訳である。

 

「ただ、予測できることはある。彼が居た所はかなり大規模な組織だろうと言う事と、そして彼自身もかなりの『モノ』だろうと言う事。何せこんな機体が与えられている訳だし、それに見合った強さだというのは間違いないだろうね」

「……」

「ああ、それと最初の話だけど、彼を追い出すのはやめた方が良いんじゃ無いかな?何せ各企業のパーツを簡単に揃えられる様な組織が、ラインアークに対してどうこうする為にリンクス本人を直接送り込むなんて、そんなバカげた事するとは思えない。今、彼に敵意は無いみたいだし……ラインアークに置いてく方が得策だと僕は思うよ。追い出してしまったら明確な『敵』になってしまう可能性もある訳だし」

 

確かに、彼のいう事は一理ある。少なくともラインアークの配下に置いておけば監視も可能であるし、怪しい動きを見せたのなら拘束、もしくは『排除』してしまえば良いだけの話である。

会議室はマーシュが来る前とは一変。移住を認める流れになる。確かにあからさまに怪しい者を野放しにするよりかは、手元に置いて見張っていた方があるいは正解なのかもしれない。

 

「まぁ、あくまで僕の所属はアスピナ機関だからこの先は自分たちで決定するべきだねぇ」

 

そしてこの時、フィオナは見た。見てしまった。マーシュの口がにやけるのを。

嫌な予感がフィオナの胸を過る。そう、このアブ・マーシュという男がこの表情をする時は必ずといって良いほどに、何かロクでもない事が起こ……

 

「あぁそうだ!思い出した!そういえば特別ゲストを呼んでたんだよねェ!」

 

やはりか、と額を右手で抑えるフィオナ。起こってしまった…いや、正確には今から『起こる』。こうなってしまってはもう遅い、気づいてからではもはや止める術など存在しないのだ。

 

「それでは、特別ゲストの―――リンクス、『ゼン』君!!お入り下さい!」

 

そして扉から突如現れたのは。

 

 

「……」

 

 

この問題の張本人だった。

 

 


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