私「とても良いことを思いついた」
友「聞いてやろう、言ってみろ」
私「擬人化・美少女化したACを集めて育てて編隊組んで出撃させて暴走した巨大生物兵器とか旧世界の遺された超兵器とかやっつけて未開の地を開拓していく、「ACこれくしょん」略して「コアこれ」ってゲーム作ったら流行るんじゃね?」
友「むしろ「あーまーど♡これくしょん」略して「AC」の方がいい」
私「タイトルが変わってねえじゃねえか」
『……受諾。ラウラ・ボーデヴィッヒだ』
夜。IS学園の生徒たちが寝静まった頃。鈴虫の声が僅かに届く以外には、数十分に一度、当直の教員が廊下を巡回する足音しか聞こえない、静かな夜。
ラウラ・ボーデヴィッヒは、ルームメイトのシャルロットを起こさないよう静かに起き上がり、自らの専用機、シュヴァルツェア・レーゲンに入った通信を受けた。
『少佐。こちら、クラリッサ・ハルフォーフです。夜分遅く申し訳ありません、お休みでしたか?』
『構わん。……それで、どうした?』
クラリッサは職業柄不規則な生活をしているが、ラウラはIS学園に来てからは規則正しく寝起きしている。まだ子供であるラウラにとって、その生活が心身に必要なことであるとクラリッサは認識しており、通信を寄越すにしても常に
『はい、それが……』
『……待て。念のため、移動する』
『はい』
そしてクラリッサの声色から、その推測を遥かに超える事態であるらしいことを悟った。故に、深く眠っているとはいえシャルロットの傍で通信を続けることは、声を出さないプライベート・チャネルでも得策ではないと判断した。
よって、ラウラは部屋を出ることにした。教員の巡回も、ラウラからすればあってないようなもの。何事もなく、寮のラウンジへと移動する。
『……大丈夫だ、こちらは問題ない。それで、用件は?』
『……はい。実は……』
話すと決めたクラリッサだが、しかしそれでも躊躇した。はたしてこれを、ラウラに伝えて良いものか。
伝えることにリスクはある。他の代表候補生とは違い、ラウラは軍属。本国で起きたことに、無関係と言うことは出来ないのだ。責任を感じて、今までのように学園で暮らせなくなるかもしれない。あの氷のようだったラウラに温もりを与えてくれた学園から、自ら離れようとするかもしれない。
だがそれ以上に、伝えないことによるリスクも大きい。IS学園が
『…………』
何度も秤にかけた。そして、話すと決めたのだ。そも、通信をした時点で、何でもありませんなどと言うことは出来ない。ある意味、クラリッサは既に後戻り出来ないのだ。
ならば、言うしかない。
伝えるしか、ない。
『……国の、極秘研究所の一つが、襲撃されました』
『生存者は?』
『いません。研究員、警備員……実験体も、皆殺しにされています』
『……そうか』
その報告には、ラウラは大きな反応を示さなかった。既に慣れてしまっているからだ。そのことに心を痛めつつも、表には出さずに続ける。
『極秘の研究所であるため人はそれほど配置されておらず、人数で言えば大した被害ではありません。しかしその分、いずれも優秀な人材です。国にとっては大きな打撃でしょう』
『そんなことを報告するために通信してきたわけではないだろう。本題は、その研究所で何を研究していたか、だろう? 話せ』
『はっ。……その研究所には……
『っ……!?』
その言葉を聞いて――その名を聞いて、ラウラは驚愕のあまり、息を呑む。
『ば……馬鹿な、リートだと……!?』
その名は、もはや聞くことはないと思っていた。それはラウラだけでなく、クラリッサも――ドイツ軍の中でも、ごく一部を除いた者たちの共通の認識であった。
それほどまでに、聞く筈のない名前だったのだ。
『そんな筈は……リートは、とうに廃棄された筈だ!』
『それが、廃棄されていなかったようです。廃棄したと見せかけて、極秘裏に研究所へ移送し……研究を、続けていたのです』
『そんな筈があるか! リートは失敗作、人間には、いや、
『確かに、リートは失敗作です。誰にも扱えない、欠陥品とも呼べない失敗作。それでも奴らは、リートの研究を続けていたのです』
『………………っ!? まさか……!?』
その意味を、ラウラは理解した。そして、その研究所が襲撃された意味も。
『奴らは、造っていたのか……「リートを扱える素体」を……!』
『その通りです。その研究所は、正確に言えば、リートを研究していたのではないのです』
『……下衆共がっ……!』
ラウラは、その全身を怒りに震わせた。
それが、状況には似つかわしくないが――クラリッサは、嬉しく感じた。
『ではその、リートを扱うための素体も奪われたのだな?』
『はい。実験体はことごとく破壊されていましたが……一つだけ、残骸が残っていない物がありました』
『……っ!?』
その言葉に、ラウラはひどく、嫌な予感がした。
背筋に悪寒が走るほどの予感が、何故か。
『データは全て破棄されていましたが……僅かに残されていた物を、どうにか復元しました。そこに記されていたモノを、送信します』
『ああ、頼む』
このデータを送れば、もう本当に後戻りできない。
ラウラがどう反応するか。この後、まだ平和に学園生活を送ることが出来るのか。なにせこれは、ラウラだけの問題ではない。ドイツだけの問題でもない。
ラウラの親友、その尊厳が、絶望的なまでに踏みにじられたのだ。
以前のラウラであれば、特に反応を示さなかったかもしれない。だが今の、人の心を手に入れつつあるラウラには、あまりにも酷な――
『……どうした? 早く送れ』
『……はい、ただいま』
だが。
だが、命には代えられない。
だから、賭けるしかない。
ラウラが背負った弱さに。
ラウラが手に入れた強さが、勝ることに――
『……こ……れは……』
『見ての通りです。その研究所で扱われていた実験体は――
――井上真改の左腕から、造られたモノです』
――――――――――
『……よく、軍がお前に開示したな、このデータを。極秘中の極秘だろうに』
『まさか、開示などされていません。少々上層部にきな臭い動きがありましたので、混乱に乗じて忍び込んだんです』
『ふ……よくやる。我々の立場は分かっているだろうに』
『ええ。ドイツ最強の……使い捨て部隊。不要になれば捨てればいい、減った分は足せばいい、足りない分は造ればいい。そんな都合の良い存在であることは……わかっていますよ。自分のことですから。ですが、私は国の、軍の駒でいるつもりはありません。私は私の意思で動きます。あなたと同じようにね、隊長』
『……そうか』
『そして、私の魂が言っています。あなたの命令に従え、と。
今はまだ、どうすればいいのかわからないでしょうが……心が決まりましたら、なんなりとご命令を。我々シュヴァルツェ・ハーゼは、隊長のための部隊です。全霊をもって応えてみせます』
『……すまんな、クラリッサ』
『いえ。……しかし、少々意外です。随分と落ち着いていますね。もっと取り乱すかと思っていましたが』
『落ち着いてなどいない。十分に、はらわたが煮えくり返っている。今すぐ国へ帰り、こんなことを仕出かした連中を吊し上げたい気分だ。……だが、それは最善の行動ではない』
『その通りです。そんなことをすれば、二度と生きて国を出ることはできないでしょう』
『だから、これでも必死に、抑えている。やるべき事を見失わないために。
……クラリッサ、リートはこの実験体と共に奪われたのだな?』
『はい。下手人も判明しています。監視カメラに映像を残していました。以前学園に潜入し織斑一夏を襲撃した、
『…………よりにもよって、奴か。マスターの左腕を奪った者が、その左腕から造られたクローンまでも奪っていくとはな』
『しっかりとカメラ目線で映っていましたから、明らかに故意に残しています。挑発のつもりなのでしょう。ふざけた連中です、織斑一夏にも、わざわざ名乗ったと聞いています』
『あの女は、マスターと二度交戦している。うつったのだろうさ、気持ちはわかる』
『……隊長がそこまで言うのなら、そうなのでしょうね』
『お前も一度、戦ってみると良い。決闘の気分が味わえるぞ』
『でしょうね。あれが日本の戦士、サムライという者でしょうか』
『……む? なんだ、会ったことがあるような言い方だな。お前はずっと国に居た筈なのに……』
『え!? あ、いやっその、隊長のお話から、勝手に人物像を推測させていただきまして……ははは……』
『そうか……だが、間違ってはいないだろう。うむ、戦うマスターの姿は、まさしくマンガで読んだサムライそのものだぞ!』
『は、ははは……いずれ会ってみたいですね、はははは……』
『うむ。マスターはな、いつも無表情なのだが、戦う時は楽しそうに――』
『そ、それよりもっ。奪われた実験体――
『問題ない』
『恐ろしい相手に…………は?』
『問題ない。そのシャッテがどれほどの施術を受けたのかも、訓練プログラムでどれほどの技術を身につけたのかも知らん。だが科学者どもがいくらあがこうと、マスターの本当の力を再現できたとは、到底思えん。
奴らは知らん。マスターの――井上真改の強さ、その本質を。だが私は知っている。そして、その強さを何度も目にし、この身で味わった。影打ではなく、真打の力をな。
遅れは取らんさ。戦いを知らん、人形にはな』
『……わかりました。では私は、隊長の言葉を信じます。
――ご武運を。ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐』
――――――――――
と、部下の前でカッコつけてみたものの。
ラウラは、内心動揺しまくっていた。
(ど、どうしよう……国が、ドイツが、マスターのクローンを造っていただと……? しかも、切り落とされた左腕から……!)
通信後、シャルロットに気づかれずに部屋に戻りベッドに入ったが、まったく寝付けなかった。どうにもならない考えがグルグルグルグル頭の中を回るばかりで、気がつけば日が昇り始めていた。
(そんなの……そんなのっ。一夏やマスターや皆に、一体どんな顔をして会えばいいんだ!?)
日課である朝の鍛錬は、寝たフリを通してサボった。その後も上手いことタイミングをずらして友人たちに会わずに朝食を済ませた。しかし授業までサボるわけにはいかない。千冬が怖すぎる。そして授業に出れば、クラスメイトたちと会わずに一日を終えるなど不可能だ。
たとえ可能だとしても、そんな逃亡生活(?)がいつまでも続けられる筈もない。観念して、寮から校舎への道をとぼとぼと歩いているが――
(どうしよう……どうしよう、どうしようっ。どうすれば……!?)
「お、ラウラ。おはよう」
「ギックゥ!?」
後ろから声を掛けられて、飛び上がった。その声の主は、顔を見なくても分かる。一夏だ。
「今朝はどうしたんだ? 風邪か? 最近ちょっと気温下がってきたからなあ、気をつけろよ。せめて、その……裸で寝るのはやめた方が」
「い、今はパジャマを着て寝ているっ!」
「お、元気そうだな。よか……って、うお!? どうしたその顔!?」
思わず振り返ったラウラを見て、一夏がちょっとビビる。なにせ目はギンギンに血走っており、ものすっごいクマが出来ている。そんな顔が激近に寄って来たらそりゃビビる。
「ちょ、ラウラ、ホントに大丈夫かよ!?」
「イ、イヤア、朝日ガ眩シイナア! 今日モイイ天気ダナア!」
「今にも雨が降り出しそうな曇り空なんですが」
「う゛……」
回避失敗。
「……どうしたんだよ、ラウラ。風邪……ってわけじゃなさそうだけど。なんか悩み事か?」
「は!? な、悩みなんてないぞ!? なーんにーもないっさぁー!!」
「マジでどうしたんだ」
咄嗟に、以前チラっと見たお笑い芸人の真似をしてみたが、あまりにも不自然過ぎた。キャラ的に。鈴か本音だったらいけたかもしれない。
「……熱、は、ないよな」
「っ!!?」
元気ではあるようだが、一夏は念のためにラウラの熱を計ることにした。
「ぬぅぅぅぅおわあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
「ぐっふぉう!!?」
ラウラの正中線五段突きが完璧に決まった。ツッコミにしても照れ隠しにしても強烈過ぎる、鍛え抜かれた一夏の体でなければ粉砕されていた可能性が極めて高い猛撃であった。ナニがとは言わないが。
だとしても、致命的なダメージであることは違いないわけで。
「な゛……な゛に゛を゛す゛る゛、ら゛う゛ら゛……」
「あ!? す、すまん一夏……!」
泡を吹いて悶絶する一夏を介抱するラウラだが、しかし一夏はピクピクするばかり。顔色もどんどん悪くなっていく。
「え……衛生兵っ! 衛生兵~!!」
かくして。
寮と校舎の短い距離の真ん中で、珍妙な光景が繰り広げられることとなった。
――――――――――
どうにか復帰した俺は、どうにか教室に辿り着いた。しかし黒い兎の牙は想像以上に鋭く、受けた傷は大きく深い。
(し、死ぬところだった……男として)
腹筋と胸筋と首の筋肉で生命的な意味での被害は最小限にとどめたが、初撃によるダメージだけはどうしようもなかった。鍛えようないもん。
(しかし……ラウラのやつ、どうしたんだ? あんなに慌てて……慌ててたって言えるのか、アレは? まあとにかく、絶対おかしいよな……)
大分楽にはなったが、まだ口にするのがはばかられる部位に違和感がある。そのせいで、歩き方が微妙に変だ。なんやかんやと言われたくないので、椅子に座ってじっとしていよう。
(う~ん……女子の悩み、か……わからん)
常々女心がわかっていないと言われる俺だが、わからないものはわからない。悩み事なら、できるだけ協力したいところではあるけれど……あの様子じゃあ、近づいた途端にまたぶっ飛ばされる気がする。次は耐えられる自信が全くないので、正直今はちょっと近づきたくない。俺だって命は惜しいのだ。
(うぅむ……どうするべきか……)
腕組みをしてうんうん唸っていると、箒が俺の席まで歩いて来た。何やら浮かない顔である。
「一夏、気づいているだろう?」
「ああ、まあな……」
箒がちらりと視線を向けた先に居るのはラウラだ。沈みに沈んだ顔でうつむき、何も置いていない机をじっと見つめている。
もともと愛想のいいやつではないが、それでもいつも胸を張って、ピンと背筋を伸ばしているのに。小さな体が、いつも以上に小さく見える。
「どうしたんだ? ラウラは。アイツらしくもない」
「俺が知るわけないだろ……今朝渾身の五連撃をぶち込まれたばかりだよ」
「そ、そうか……」
今でも微妙に目の焦点が合わない。箒が若干ブレて見える。あの体格から繰り出されたとは思えないくらいに重いパンチだ。
「心配だよね。今朝のトレーニングにも来なかったし、僕たちのこと避けてるみたいだよね」
「シャル……お前も会ってないのか」
「うん……トレーニングから戻ったら、もう部屋に居なかったんだよね」
「そうか……シャルにも相談してないなんて、かなり重大な悩みっぽいな」
「考えてみれば、ラウラさんは決して人生経験豊富とは言えません。普段はとてもしっかりしてらっしゃいますが、悩み事への対処方法を知らないのかもしれません」
「しっかり……してるのかな。どうだろうなあ」
アレははたして、しっかりしてると言えるのか。世間知らずで結構抜けてるとこあるし、突拍子のないこと言ったりやったりするからなあ。……でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要なことじゃない。
「なあ、シンは何か知ってるか?」
「…………」
後ろを振り向くと、シンは黙して首を振る。ラウラが全幅の信頼を置いているシンも知らないとは……。
「……だが……」
「「「「?」」」」
「……口出し、無用……」
シンはすぅっと目を細めて、静かにそう言った。
「……ラウラの問題……」
……なるほど。ラウラがシンを信頼しているように、シンもラウラを信頼している、ってことか。悩んでいても、その程度でへこたれたりはしない、と。
「……見守れ……」
「……そうだな。余計なことはするべきじゃないかもな」
「うん。ラウラだってもう、一人でなんでもできるって考えてないよ。本当に助けが必要なら、頼ってくれるよ」
「ふふ……鈴さんも同じことをおっしゃっていましたわ」
「私たちがラウラに頼られた時応えられるよう、精進するのみだ」
「…………」
そう言うと、シンは黙って頷いた。心なしか嬉しそうだ、相変わらずスパルタなやつめ。
「……おっと、そろそろHRの時間だ。席に着こうぜ」
というわけで、各々席に戻って行った。と同時に、千冬姉と山田先生が教室に入って来る。
「さて、全員揃っているな。HRを始めるぞ」
千冬姉が朝の伝達事項を話しているのを聞きながら、ラウラのことを考える。
アイツがあれほど悩んでいる。きっと、そう簡単には解決しない悩みだ。
けれど、悩みのない人生なんてない。たとえあったとしても、それはきっと、つまらない人生だ。悩んで悩んで、苦しんで、つまずいて、間違えて、失敗して、また悩んで……。
そういうもんだ、人生なんて。そうやって成長していくんだ、人間は。俺みたいな若造には、まだよくわからないけど。唐沢さんが言ってたことだから、きっと正しいんだと思う。
だから、見守ろう。俺たちが今してやれるのは、それだけだから。
「私のHRをぼけっと聞き流すとは、いい度胸だなボーデヴィッヒ」
ズドムッ!!
「ぐぉあっ!? きょ、教か」
ガキョオッ!!
「ひぎぃっ!!?」
「織斑先生だ」
「も、申し訳ありません、織斑先生……!」
「「「「「………………………………」」」」」
……大丈夫かなあ……。
ちなみに私、艦これはやってません。軍艦とか全然わかんなくて……