リリアン女学園の場合
→ジャンヌ・ダルクがみてる
篠倉学園の場合
→ファントム・オブ・レイレナード
セント・テレジア学院の場合
→恋する乙女と守り刀
サン・ロメロ高校の場合
→ロリポップ・グラインドブレード
赤いシグナルが点灯すると同時、一斉に飛び出した。まず頭一つ前に出たのは、シンと鈴だった。シンは水月による加速で、鈴はキャノンボール・ファスト専用パッケージの性能で、といったところか。
「むっ……!」
「やっぱり、加速じゃ劣るか……!」
二人に一歩遅れて、ラウラとシャルが続く。俺と箒、セシリアはほぼ並んでいる状態だ。
このキャノンボール・ファスト用の競技場には、高性能なホログラム装置が設置されている。それにより、数百キロにもなる巨大な三次元のコースを投影できるのだ。
「思っていたより広いな……」
競技場もそうだが、コースの幅が広い。おそらく戦闘機動を十分にとれるようにだろう。
しかしその戦闘も、第一コーナーを抜けるまで攻撃は禁止されている。それまでにどれだけ離せるか、または食らいつけるかが最初の勝負だ。
そして、このコーナーを抜ければ――
――ポーン――
「行くよっ!」
攻撃許可の電子音が鳴ると同時、シャルが仕掛ける。二丁のマシンガンによる弾幕、それをシンと鈴が左右にロールしてかわす。そうして減速した隙に、前に出ようとして。
「かかったわねアホが!」
「!?」
鈴がシャルに並ばれる直前、衝撃砲が光を放つ。横へ向けて、シャルの前にバラ撒くように不可視の砲弾を乱射する。
「くぅ!」
「簡単に抜けると思わないでよね!」
その弾幕にまともに突っ込んだシャルはバランスを崩し、スピードも大きく落ちた。ダメージはそれほどでもないようだが、鈴との距離はさっきまでと同じくらい離れてしまった。それに目を向ける暇もなく、横から伸びて来たラウラのワイヤーブレードを避ける。前を見ながらハイパーセンサーで確認すると、ラウラはワイヤーブレードで俺たちを牽制しながら、レールカノンで先頭の二人を砲撃していた。
「相変わらず、器用なことを……!」
6人を同時に攻撃しているのに、恐ろしく精密。そしてそれだけのことをしながら、コーナーに差し掛かると見事な旋回で先頭との距離を詰める。やっぱりISの操縦技術についてはラウラが抜きん出ていると再認識させられる。
だが、6人を同時に攻撃できても。
6人からの同時攻撃は、かわせるか――!?
「な!?」
今の攻撃で、全員がラウラを強敵と判断したようだ。バトルロワイヤルにおいて、突出して強い奴は同盟のリーダーになるか狙われるかだ。そしてこの短期決戦では狙われるに決まってる。
部隊での行動に慣れて、それを忘れたのか。どちらにせよ、これは大きなチャンスだ。
全員が、ラウラに向けて武器を構えた。俺も雪片弐型を握り締め、シンも月光のない右拳を構えた。
そして、発砲。
「くぅ!」
不可視の砲弾、マシンガンの連射、レーザーライフルの狙撃、二刀から放たれる光弾。それらをどうにか避けつつも、ラウラは体勢を崩した。そこに一気に近づき、雪片弐型を振り上げる。
「ぜぇあ!」
「シッ!」
高速機動中じゃあ、思うように剣を振れない。そんな俺とは対照的に、ラウラは洗練された軍隊格闘術でその一撃を受け流す。それと同時に、シンがラウラに接近、正拳突きを叩き込んだ。
「疾……!」
「ぐう!」
さすがのラウラも、シンの攻撃は避けられなかったようだ。スラスターを殴られ推力の向きを強制的に変えられたラウラは、コースから大きく外れていく。
これで、しばらくは時間を稼げるだろう。
(よし、あとは――)
燃費の悪い白式としては、できるだけ攻撃も防御も避けたいところだ。理想は、激戦を繰り広げる先頭グループから少し遅れて付いて行き、最後に追い抜くというレース運びだが――それをさせてくれるほど、みんな甘くはないだろう。
なら、遅れるわけにはいかない。
そんな余裕はないと、みんなに思わせるくらいに、必死に。
俺も、先頭グループに食い込まなきゃならない。
「けど、これは……」
さっきの攻防で、順位は随分と入れ替わった。というよりも、今も入れ替わり続けている。つまりはそれだけの混戦ってことだ。
先頭は、今のところ鈴。その後ろに、というよりもほとんど並んで、シン、箒、セシリア、シャルが続いている。
鈴が放つ衝撃砲は、言うなれば見えない撒菱だ。威力は大したことないが、足止めとしては極めて効果的だ。それこそが、この混戦の中で未だに鈴がトップにいる理由でもある。
次に注意すべきはシャルだ。連射の利く武器を大量に持ち、それらを扱う技術も十分。下手をすれば足止めどころか、撃墜されかねない。
そして、優れた狙撃主であるセシリア。威力、精度共に優れた彼女のレーザーライフルは、どれだけ引き離しても脅威だ。ましてやこんな近距離じゃあ、避ける暇もありゃしない。
箒の紅椿は、白式と同じく燃費は悪いはずだが……それでも、どんな体勢からでも自在に攻撃できるという、展開装甲の恐ろしさに変わりはない。混戦で一番強いのは間違いなく紅椿だ、警戒を怠るわけにはいかない。
最後に――シン。コイツが一番怖い。何が怖いって、これまでに目立ったことをしていない。本人が望んでいるかどうかは別として、こと勝負に関してシンがやることは、強烈に印象に残ることばかりだ。その印象に残ることを、まだやっていない。それが怖い。いつ、どんなことをするのか、それがわからない。
……まあシンの場合は、何があったって最後まで油断できないんだけど。
(ここで行くのは、いやだなあ……)
ほとんど自殺行為だ、あの中に飛び込むのは。飛び交う銃弾、目まぐるしく入れ替わる攻撃と防御。遠距離攻撃の手段がない白式じゃ、まず生き残れない。
しかしだからと言って、このままみんなの後ろを飛び続けるのも、なんか嫌だ。
あの激戦に加われないのなら。なら、せめて――
(一番前に、居たいよなあ――!)
なあに、どうせ負けたって、何があるってわけじゃあないんだ。
ならちょっとばかし無茶するのも、悪くはない。
(さあ行くぜ、白式っ!!)
レースはちょうどコーナーに差し掛かったところ。
そう、コーナーだ。そして今もなお、激しい攻防が繰り広げられている。
ならお前の出番だな、雪花――!
(
――気流操作、開始します――
雪花に指令を出すと、機体にかかる空気抵抗に差が出始めた。コーナーの内側はほぼ真空、逆に外側には分厚い空気の壁が出来上がる。
外から押され、内から引っ張られる。すると俺は、特に何もせずとも、コーナーをなぞるように旋回していった。
「む!?」
「行かせん!」
みんなを尻目に前へ行こうとする俺に、箒とラウラが反応した。ロックオン、それとほぼ同時の斬撃、砲撃。無数の光弾と帯状のレーザー、貫通力に優れたレールカノンの砲弾が一度に迫る。
だが――
「な……!」
「なんだと!?」
正確に放たれた攻撃が、僅かに逸れていく。それはこの高速機動の最中では致命的なブレ、つまり命中率が絶望的に低くなるということだ。
それは全て、雪花が移動させた空気のおかげだ。超音速飛行ではまるで鉄板のように感じられる、空気という障害。それを集めて、一点に集中させる。そうすれば、ISより速くて軽い砲弾はIS以上に空気抵抗の影響を強く受けるし、レーザーは空気の密度差によって屈折率を変えられる。
その結果がこれだ。俺自身は回避行動を取るまでもなく、弾が勝手に避けていく。誰よりも短いコースを、誰よりも速く、誰にも邪魔されずに駆け抜ける。
――まさに、理想的。
「ははっ、思った以上に上手くいったな!」
思わず笑いが出てしまう。まさかこんなにも、雪花が効果的だとは。一人で訓練していた時にはわからなかった。あの時は機動の補助に役立つくらいにしか思ってなかったからな。
雪花の守護を受けた俺は、そのままさらに加速していく。見る間に追い付いてきた俺に向け、鈴が衝撃砲を放つが、単純に威力不足で雪花を破ることができない。
さて、これで俺がトッ――
「油断大敵、ですわよ?」
「!?」
声が聞こえると同時に、ハイパーセンサーがISの接近を感知した。それが誰かは明白だ、しかしだからこそわからない。
出力はほぼ互角、なのにこのコーナリングに、一体どうやって付いて来ている!?
「ふふ……なかなかに素敵な居心地ですわね」
「……! そうかっ、スリップストリーム!!」
スリップストリームとは、例えばF1レースなどで、車が通った直後に空気抵抗の小さい領域が発生する現象のことだ。また、それを利用し、前を走る車の後ろにピタリと続くことで空気抵抗を軽減し、相手を抜き去るテクニックのことでもある。雪花の能力は、このスリップストリームを応用したものだ。
……そう、そうだよ。なんで今まで気付かなかったんだ。
雪花が気流を操作して、スリップストリームに近いことをしているのなら。
俺の後ろはまさに、がら空きじゃねえか――!
「ごめんあそばせ♪」
「ぐあっ!?」
ペロリと小さく舌を出し、ウィンクまでしながら、手にしたレーザーライフルが閃光を放つ。可愛らしい仕草とは真逆の、凶悪な精密さをもつ狙撃。それは雪花の守りも空気の壁も存在しない、小さな隙間を射抜いた。
……確かに昔から、それは狙撃手にとっての基本だろう。弓の時代は鎧の継ぎ目を、銃になってからは警備の抜け穴を、つまりは弱いところを突くっていうのは。
だがそれを、こんな高速機動中にやってのけるかよ、セシリア――!
「ぐううぅぅ……!」
コーナリング中に内側から攻撃されて、大きく弾き飛ばされる。未熟者が、ちょっと予想外に上手くいったもんだから調子に乗り、結果こんな様だ。いくらでもある小話みたいな展開じゃないか。
見ればセシリアが、俺に向けて優雅に手なんか振りながらトップに出るところだった。
上手いこと利用されて、悔しさが込み上げて来る。けれどこれは俺の油断と浅慮さが招いたことだ、教訓として受け止めるしかない。もう同じミスはしない、そう心に決めながら軌道を修正し、コースに戻る。
(とにかく今は、状況の把握だ……)
順位は……セシリアがトップ、続いて鈴、シン、少し遅れて箒と俺、シャルが……!?
(ラウラは……どこだ!?)
さっき、大きく遅れたラウラの姿がない。俺たちは攻撃、防御をしながら飛んでいるんだから、距離を詰めることはあっても離れることはないはず。なのに後ろを見ても、どこにもラウラがいない。
(コーナリングに失敗して、遅れたか……? いや、あのラウラがそんなミスをするわけがない)
そう、あれ以上後ろにいることはあり得ない。
なら、後ろにいないと言うのなら、どこにいる?
……まさか――
――ガキィン――
「!?」
ハイパーセンサーが、かすかに音を捉えた。刃物を硬い物に勢い良く突き刺すような音だった。素早く視線を巡らせて、その音の発生源を探ると。
「ほう……最初に気付くとは予想外……いや、ここは「流石は私の嫁だ」と言ったところか」
「なぁっ……!?」
コーナーのたび、白式をも上回りかねない凄まじい速さで旋回し、一気に鈴まで追い付いたラウラ。その光景に度肝を抜かれた。
……そうか、そのための速度重視、それがあるから、旋回能力は必要ないのか。
まさか……地面に突き刺したワイヤーブレードを
「む……!? な、あれは!」
「どこかのマンガみたいな移動方だね……!」
自身を重りとして、振り子の要領で移動する。昔から使われてきたその方法も、ラウラが使えばより効果的だ。シュヴァルツェア・レーゲンのワイヤーブレードは6本もあるうえに、長さまで調節できるのだ。そのワイヤーブレードを自在に操ることで、旋回能力を飛躍的に高めているんだろう。
確かにシャルの言う通り、アニメ化までされた大人気マンガに、似たような方法で移動する装置が出てきた。アレは人類の敵である、巨人の弱点まで辿り着くために必要なんだっけか。
あれほど遅れていたのに、もう追いついてきやがった。予想を遥かに上回る速さ、しかも高度が低く、地面スレスレ。そのせいで、鈴はまだラウラの接近に気づいていない。
ヒュゥン。そんな音がここまで聞こえきそうなほど鋭く、ワイヤーブレードが上へと伸びる。そして鈴の足に絡みつき――
「へ? うわ!?」
そのまま一気にワイヤーを巻き取る。鈴は最初驚きバランスを崩したが、すぐに立て直した。おかげでラウラは、空中に新たな支点を得た。結果、ラウラはあっという間に上昇していき。
「ハァッ!」
「きゃあ!」
すれ違い様、プラズマ手刀の一撃を叩き込む。鈴は怯み、スピードも落ち、俺たちのところまで下がって来た。そのままラウラは、セシリアへと踊りかかる。
「ラウラさん!? ……まったく、無粋ですわね。わたくしのステップを邪魔するだなんて!」
「そんなものは教わっていないのでな、悪いが付き合えん!」
「なら、下がっていてくださいな!」
そして始まる攻防。ラウラのワイヤーブレードとレールカノンがセシリアに向かい、セシリアは後ろ手にレーザーライフルを構え連射。ラウラはともかくとして、セシリアの銃撃も精確だ。あんな撃ち方だってのに。
俺たちの中でも、特にプライドの高い二人。エネルギーの無駄にしかならないってのに、トップを譲る気はないらしい。……俺も人のこと言えないけど。
「ちぃ……随分楽しそうじゃないのよっ」
「ふん、すぐに叩き落してくれる!」
「うん、いつまでも二位グループに甘んじてるつもりは……って、あれ?」
「ん?」
セシリアとラウラを追い、コーナーを抜ける。すると今までで一番長い直線に出るのだが……その直前、シャルが何か、違和感に気づいたようだ。
「……シンは?」
「……え?」
……確かに、いない。さっきまでは、確かに並んでいたはずなのに。
前じゃない。それならラウラが見落としているはずはない。
なら、後ろだ。
見れば、二人に気を取られている一瞬の隙に、シンは僅かに減速していた。
そうして後ろに下がった姿はまるで、引き絞られた矢のようで。
つまり、次の瞬間には。
俺たちに向けて、放たれるということだ。
――――――――――
真改は、この瞬間を待っていた。
三日月に搭載されている、唯一の武装。エネルギーを大量に消費するそれは、連発出来る代物ではない。だから一度で全員を攻撃できる機会を窺っていた。
それが今。十分に速度を出せる長い直線に、全員が固まっているというこの状況。真改は、一気に加速した。
「! 来るぞっ!!」
一夏が、今は敵である少女たちに警告を発する。全員が撃墜されかねない、それほどの危険を感じ取ったからだった。
それは、正しかった。
「……いざ……!」
――ゴゥゥゥ!――
空気が焼かれ、膨張する音。それはまさに爆音であった。水月のカートリッジが起爆した音も含まれてはいたが、それがあまりに小さく聞こえるほどの轟音であった。
それは、三日月の両翼から。
競技場全体を照らすほどに、眩く輝く。
光の刃が、生み出された音であった。
――――――――――
「おい、マジかよ……!?」
それはきっと、こんな状況じゃなければ、幻想的と思えるほど美しい光景だっただろう。
けど追われる俺たちからすれば、
コース幅の半分はあろうかっていう長さの、特大のレーザーブレードが、迫って来るなんて――!
「ちょ、冗談でしょ!?」
「なんという物を作っているんだ、如月はっ!!」
「ふざけるのも大概にして欲しいね……!」
光の色は青。恐らく、月輪に仕込まれている〔月華〕と同じタイプの物だ。サイズは桁違いだけど。それにきっと、威力も。
「う、撃て!」
「言われなくても!」
「お前はこういう時役立たずだなっ!」
「言ってる場合か!!」
さすがの零落白夜も、あれは無理だ。なにせしっかり、左右でブレードが分かれてる。片方を消してる間に、もう片方にバッサリだ。
セシリアとラウラは……戦闘を中断して、早くも逃げに入ってやがる。気持ちはわかるけど、ちょっとは助けてくれてもいいんじゃないか?
というわけで、箒と鈴とシャルが一斉射撃を開始する。しかしシンに届く前に全部焼け落ちた。なんてこった。
「ダメね、逃げよう」
「賛成」
「異議なし」
「言われなくても、スタコラサッサだぜ」
迎撃は諦め、逃げることに全力を注ぐことにした。しかしシンは、俺たちを大きく上回る速度で追ってくる。どうやらあのブレードを発動している間は、推力まで上がるらしい。
「くそ、避けるしかないな……!」
左右は無理だ、上か下じゃないと――
「……っておい、それはさすがに勘弁してくれっ……!!」
シンの野郎、やっぱとんでもねえ。
ブレードを展開しながら、ロールし始めやがった!
「う、わ、うわあああああああああっ!!?」
月輪を使っているのか(あの目立つ噴射光も今は全く見えない)、ロールはとんでもない速さだ。目を回さないのかアイツ。
そしてそんな、ヘリのローターみたいになってるレーザーブレードに最初に巻き込まれたのはシャルだった。見てわかるくらいの大ダメージを受け、列から離れていく。続いて鈴、箒と同じようにやられていき。
「く、こうなったら……!」
あれを避けるのは無理だ。こうなったら覚悟を決めるしかない。
節約したかったが、零落白夜を起動する。それを振り上げ、シン目掛けて渾身の力で振り下ろす。
「チェェェストオオォォォおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!?」
……ダメでした。
――――――――――
「くそ、このままでは追いつかれるぞ!」
「わかっていますわそんなこと!」
私たちは一夏たちから少し離れていたが、それがどうしたと言わんばかりの速度だ。セシリアのレーザーライフルも私のレールカノンも、アレの前では無力と言わざるを得ない。
停止結界? マスターに当たるとは思えんな。
「どうする!?」
「……どちらかが囮になるしかありませんわね……」
……やはり、それしかないか。
しかしこの状況で、どちらが囮になるかを議論している時間はない。それはセシリアも同じ意見だろう。ではどうするか。
簡単だ。上下に分かれ、後はマスターがどちらを狙うかの運任せだ。
「私は上に行く!」
「わたくしは下へ!」
素早く散開し、コースの上ギリギリまで移動。ちらと見ればセシリアもまったく同じ行動をしていた。
……さあ、どちらへ来――!?
「ば……馬鹿なっ!?」
「そんなことが……!?」
……如月の技術力は天井知らずか。一体どうすればあんなことが出来るのか、見当も付かん。
まさかレーザーブレードの刃が、発振装置を離れ、刃だけで飛翔するなど――!
「くぅ、おおおおお!!」
「きゃああああああ!!」
あまりにも予想外に過ぎたその攻撃に、反応が遅れた。回避が間に合わない。だがスラスターに当てさせるわけにはいかん、際どいタイミングで体を捻り、左腕で受ける。
「ぐぅ、なんという威力だ……!」
一撃で、シールドエネルギーの三割を持って行かれた。直接受けた皆はそれ以上だろう、もしかすると半分は減っているかもしれん。
マスターがキャノンボール・ファストに無手で挑むとは微塵も考えていなかったが、想像を絶していた。というか誰に想像出来るというのか、こんな攻撃手段を。
「く……ふ、ふふふ……」
しかし流石に、あれほどの攻撃は何度も出来まい。エネルギーの消耗量が尋常でないのは明らかだ。
問題は、マスターがその数少ない機会を辛抱強く待ち続ける忍耐と、確実に活かす戦術眼を持っていることだ。
――だからこそ。
「面白い!」
いつ後ろから猛攻を受けるのか、見逃せば即敗北。その緊張感がたまらない。
……ふ。私も随分、染まってきたな。
「さあ、行くぞ!」
だが、悪くない。軍人としてはどうかと思うが、悪くない!
見れば皆も、先頭に出たマスターを全力で追いかけている。その最中でさえ激しい攻防を繰り広げながら。隙を見つけては、マスターへ攻撃しながら。
「ドイツ軍少佐、
まったく、大馬鹿者どもが。
お前たちも、この私も!
そして――
「ラウラ・ボーデヴィッヒをなめるなよっ!!」
――勝つのは、この私だっ!!
前書き、最後のはちょっと違ったかもしれん……けどロリポップ・サムライソードだとインパクトが弱いし……