以前如月重工本社ビルを襲撃した女、アラクネのパイロットを追って、学園内を歩く。
どこか目的地があるのだろう、女の歩みに迷いはない。その歩みの速さは一定であり、先ほどわざわざ己に顔を見せたこととあわせて、己を誘っていることは明らかだ。
……何か罠でも仕掛けているのか? だがここは、奴らにとっては敵地に等しい。そんなことが出来るとは考え難いが……。
「…………」
しかし何が待ち受けていようと、向こうで戦場を用意してくれるのならば好都合だ。一般人も多くいる場所での戦闘だけは避けなければならないのだから。
「…………」
女の後に、黙々とついて行く。
――さて、鬼が出るか蛇が出るか。まあ、何であろうと構うまい。鬼が出たのなら鬼を斬り、蛇が出たのなら蛇を斬るまで。
万一、神仏の類が出ようものなら――丁度良い。己の剣がその高みに届くか否か、試させてもらおう。
「…………」
そうしてさらに、しばらく歩き。次第に、女の目的地も予想がついてきた。
(……アリーナ、か……)
確かに、この学園内で戦うのなら、これ以上の場所はあるまい。そしてその予想通り、女はアリーナのある施設へと入って行った。
学園の関係者以外がそこに入るためには、幾重にも施された厳重なセキュリティを潜り抜けなければならないはずだが、女はほとんど素通りだった。亡国機業め、如月重工にさえ尻尾を掴ませない情報戦能力を持つ奴らにとっては、この程度の守りなどないようなものか。
「…………」
そして、ついに。
アリーナの中央に、到着した。
「…………」
「…………」
女は振り返ることなく、その場に佇んでいる。一体何を考えているのか、その背中は隙だらけで、ISを展開する気配すらない。今攻撃を仕掛ければ、一撃で片が付くのではないか――そう思わせるほどに。
「…………」
己の存在に気づいていない、ということはあり得ない。そして機動力と攻撃力を併せ持つ機体、朧月の操縦者である己に無防備に背を向け続けることの危険性を、この女が理解していない筈がない。
ならば、これは――
(……罠、か……?)
やはり、何かしらの仕掛けを打っているのか。もしそうなら、頭脳戦では己に勝ち目などない。こうして考えを巡らせたところで、何か思い付くわけでもないのだ。
ならばいっそ、罠でも構わん。その罠ごと、斬り伏せるのみ。
そう決めて、一歩踏み出した、瞬間。
「――あっはぁ♪」
「……っ!?」
笑い声、なのだろう。今まで一切の言葉を発さなかった女が、突如として、 濃密な狂気を孕んだ声をあげた。
だが、その声は――
(……この女、違う……!?)
「釣れた釣れたあ、ほんとうに釣れたあ、きゃはははは!」
今までの沈黙が嘘のように、女はワラう。その声は、アラクネの女のそれとは似ても似つかない。
だが姿形は、紛れもなくあの女のもの。ならば、一体――!?
「うふふふふ、あは、あはははは! きゃはははははあははははははははあ~~!!!」
女は笑いながら、両腕を大きく広げて、くるくるとその場で回り始めた。すると次第に――
「……これは……!?」
「きゃははははは! きゃははははは! うふ、うふふふふふあはははははは、きゃは、きゃははははは!」
――女の姿が、変わっていく。緩く波打つ黒髪も、身に纏ったスーツも、まるで蜃気楼が消えていくように、空気に溶けていく。
そして。
幻が完全に消え去った、そこには。
「……あっはぁ♪」
少女だった。身の丈はラウラと同じほどか、随分と小柄だ。
その少女は、
肩で切り揃えられた髪も、整った造形の顔を包む肌も、いっそ無色と呼ぶべきほどに白い。
だが、大きく見開かれた、一切の光のない虚のような瞳が。
三日月のように開かれた口の、その奥にちらと見える舌が。
まるで花嫁が着るそれのように、華やかに飾られたドレスが。
毒々しいほどに。
禍々しいほどに。
狂おしいほどに。
鮮血で、染め上げたように。
――少女は、赫かった。
「初めましてえ、井上真改さあん。ワタシはあ、
「…………」
笑いながら、少女は名乗りを上げる。よもや連中が自らの素性を明かすなど思ってもいなかったが、しかしどう考えても、フラッドという名はコードネームだろう。
「うふふふふ、本当はあ、アナタの相手はオータムさんがしたがってたんだけどお……あの人、アナタのことになると、抑えが効かなくなっちゃうみたいでえ。男の子の方に、マワされちゃいましたあ! きゃははははは!!」
「……っ!」
……やはり、罠だったか。だが己が予想していたものとは違う、飽くまで一夏を狙うために、己を引き離し引き留めるための罠。
迂闊だった。以前一夏を狙った際は一夏そのものが目的ではなかったし、最近如月重工を襲ったことから、てっきりアイツは既に標的から外れているものと思っていた。
――だが、続いていたか。
「と、いうわけでえ、アナタの相手はあ、ワタシになりまあす! きゃははははは!!」
「…………」
まるで気が触れているかのように――否、実際に触れているのだろう、フラッドは何が楽しいのか、理解できないタイミングで狂笑を上げる。
……捕らえるつもりだったが、こうなってしまってはそうも言っていられない。一夏に回されたオータムというのは、恐らくアラクネの操縦者だろう。一夏にとっては、考えうる限り最悪の相手だ。
能力や相性がどうという話ではなく。
あの女が、三年前に己の腕を切り落としたことが問題なのだ。
「きゃはははは! きゃはは、きゃははははははははは!!」
「…………」
ならば、一刻も早く、この少女を倒さねばならない。
尚も笑い続けるフラッドに、一歩踏み出す。同時に朧月を起動、一瞬で臨戦態勢に入る。
それを見たフラッドは顔に狂笑を貼り付けたまま、ガクン、と首を――本人は首を傾げたつもりなのかも知れんが、端から見れば突然首が折れたかのような動作で、横に倒した。
「あれえ、ヤっちゃいますう? ヤっちゃうんですかあ? ……いいですよお、ワタシそういうの、大好きですからあ!! きゃははははははは!!」
また笑い、フラッドもISを展開する。
――その瞬間、アリーナ中央に顕現したのは。
「うふふふふふ、あは、きゃははは、あっは、あは、あああああははははははははあああ~~!!!」
「……!」
次々と展開されていく装甲。
その機体も、少女と同じく、赫かった。
だがその赫さは、少女のような鮮血の赫でもなければ、箒の紅椿のような真紅である筈もなく。
全身に浴びた血が、そのまま放置され、乾き、変色したような。
それが、幾層にも重なったかのような。
どす黒い、赫さだった。
だがその色合い以上に、その機体を異形たらしめているのは――
『これは……やっぱりこの機体も、彼らの仕業だったんだねえ』
「……社長……」
突然通信回線を繋げて来たのは、朧月の製作会社、如月重工の社長であった。こうして非常事態に割り込んで来るのはまさにこの人の十八番であり、いまさら驚くこともない。
『やあやあ井上君。皐月とのデートは楽しめたかな?』
「…………」
そして非常事態でも、この人は自分のペースを乱すことはそうはない。この人は面白い事、厄介事が三度の飯よりも好きであり、それはさながら霞を食って生きるという仙人の如く、「楽しさ」をカロリーに変換する器官をその身に備えているのではないかと疑うほどだ。
『さっき皐月から連絡があってねえ。「僕には何も出来ないから、兄さんの力を貸してほしい」だってさ。いやいや、可愛い
というわけで、加勢させてもらうよ』
「……ありがたい……」
だが人格はともかくとして、この人の能力は折紙つきだ。緊急時にこれほど頼りになる人物は、己が知る限りでは千冬さんくらいのものだ。
「楽しみですねえ、楽しいですねえ! 何して遊びますう? ねえ、井上さあん! きゃはははは!!」
『あの子がいきなり姿を変えたのは、〔シェイプシフター〕っていう装置の効果さ。その名のとおり、使用者の姿を思うままに変えることができる。まあ実際には、超高性能なホログラム機器みたいなものなんだけどね。
……そして本題。あの子の機体だけど――』
「おままごとがいいですかねえ! だるまさんが転んだがいいですかねえ! それともかくれんぼ? 鬼ごっこっていうのも捨てがたいですねえ!! きゃはははははは!!」
笑い続けるフラッドの姿は、完全に装甲に覆い隠されている。
ISには珍しい、
問題は、もっと単純で、遥かに分かりやすく。
『インド製第三世代型、拠点防衛用IS――〔ジャガーノート〕。おそらく現存するISの中で、最大の火力と防御力を有する機体だよ』
その赫色は――ただひたすらに、巨大だった。
――――――――――
「い~のう~えさあん! あ~そび~ましょ!!」
「……っ!」
通常のISと比べ、高さだけでも五割増し、体積では優に三倍を超えるだろうその機体の両手に、その巨躯に見合った巨大な砲が展開される。
四つの砲身が束ねられたそれは、初めはガトリングガンかと思ったが――
『井上君、気を付けたまえ。あれはガトリングガンじゃなく――』
「あっはぁ♪」
「……っ!!」
それは、銃声というより――巨大な竜巻が、街を喰いちぎって行くかのような轟音だった。
そして放たれる銃弾も、その轟音に相応しい、嵐の如き激しさを誇っていた。
「……ちぃっ……!」
咄嗟にスラスターを起動、その砲火の射線から逃れる。背丈の関係で上から下へ斜めに撃つ形になり、無数の弾丸がアリーナの土を抉る。
……否。それは抉るなどという、生易しいものではない。
まるで土自体が炸薬だったかのように、広く、深く、無残に、弾け飛んでいる。
『アレはジャガーノートの主兵装でね。オートカノン、て言ったかな。ガトリングガンみたいに砲身を回転させるんじゃなく、四つの砲身全てから同時に弾が出るんだ。中距離砲火で特に威力を発揮する、威力と連射速度に特化した兵器だよ。アレをまともに食らったら、朧月の装 甲じゃあひとたまりもない。上手くよけてね』
「楽しみましょう! 楽しみましょお! アナタもワタシもアレもコレも誰も彼も何もかも、みんなみんな、みぃ~んな!! グチャグチャになるまでえ!! きゃはははははあああははははははははは!!!」
「……っ!!」
そうは言うがな、社長。あの砲火は、いくらなんでも激しすぎる。あれを掻い潜って接近するのは相当骨が折れるぞ。
だがあれほど大きな弾丸を高速で連射しているのだ、よけ続けていればいずれ弾が尽きる筈――
『弾切れは期待しないほうがいいよ。ジャガーノートの第三世代型兵装は〔アーセナル〕と言って、あの背中に背負ってるでっかいコンテナみたいなやつなんだけど、あの中はISの量子変換機能をフル活用した空間でね。それこそ無限とも思えるほどに、武器弾薬が格納されているんだ』
「…………」
そういうことは早く言って欲しい。今こうして回避している間にも、背筋の冷える場面が何度かあったのだが。
しかしそうなると、こちらから隙を作り出し、そこを突くしかない。相手はあの巨体だ、懐まで踏み込めば小回りが効かず、一転して己が有利となる。
ならば、採るべき手段は――
「あっはぁ、すばしっこいですねえ、井上さあん! それじゃあ、これはどうですかあ!?」
「……っ!?」
ジャガーノートの背中に取り付けられたコンテナ――アーセナルががばりと開き、そこから上へ向けて八発のミサイルが放たれた。それらは上空で大きく弧を描き、オートカノンとの十字砲火となって己を追い詰める。
月輪、水月を起動、全力で回避機動を行い、その猛激から逃れる。PICでも相殺しきれない強烈な慣性に、全身の骨がギシギシと悲鳴をあげた。
「ぬうっ……!!」
「きゃははは! これもよけるだなんて、すごいですねえ、井上さあん!」
今のはなんとか凌いだが、しかし次もかわせる自信は無い。このままでは相手に流れを掴まれたままだ。一刻も早く、攻勢に転じなければ――!
(……これで……!)
月蝕を起動し、フラッドへ向けて閃光弾を連射する。全弾直撃、強烈な光がその姿を覆った。
(……どうだ……!)
「おおお~~!? 眩しい~~、きゃはははは!!」
声からはまるで効いているようには思えないが、しかし射撃の狙いは明らかに定まっていない。
効果はあった。フラッドは今、確かにその視力を奪われている。
斬り込むのなら、今――!
「きゃははは、なあんにも見えないですねえ! こういう時はあ――」
「……!?」
「――こおしましょお!」
ガコン。
アーセナルが開き、そこから真上に、四本の金属の筒が打ち上げられた。
それが、傘のように開き。
その中には、太く鋭い針が、無数にあって。
一斉に、豪雨のように降り注いだ。
「……ぐっ……!」
『ニードルランチャー……! こんなものを追加してたかっ』
複数の針が朧月の装甲に突き刺さり、それに数倍する数がジャガーノートにも当たったが、元々の装甲に差があり過ぎる。ダメージの割合では、明らかにこちらのほうが上だった。
だがその代償に、ようやく懐まで踏み込めた――!
「……ぬうぅ、オオオオオ!!」
月光を起動、右腕に取り付けられた菱形の発振器から紫色の光が放たれ、それを刃として、ジャガーノートの胴を斬り付ける。
「疾っ……!」
ヴオンッ!!
高熱に灼かれた空気が一気に膨張し、爆発音に似た独特の音が鳴る。月光はジャガーノートを捉え、その装甲を――
「――あっはぁ♪」
「……っ!?」
『井上君! 離れてっ!!』
珍しく、如月社長が焦った声を出す。こんな時、彼の言葉に間違いはない。己は格闘戦の距離をなんの未練もなく放棄し、全力で後退したが――遅すぎた。
「つ・か・ま・え・たあ♪」
ガコンガコンガコン。
重々しい音と共に、ジャガーノートが武装を変更する。
両手には、先ほどまで猛威を奮っていたオートカノンに勝るとも劣らぬ巨大さのスラッグカノン。
背部のコンテナ、アーセナルは横に開き、そこには無数のロケット弾頭が顔を覗かせている。
脚部の装甲まで展開され、内蔵された大口径徹甲弾の発射装置が、己に狙いを定めていた。
(……しまった……!)
「――これにて、お開きです♪」
『井上く――』
初めて聞く、社長の悲鳴じみた呼び掛けは。
直後の轟音に、かき消された。
――――――――――
「――あら。あらあらあらあ。意外にしぶといですねえ、嬉しいですねえ! きゃはははは!」
「がっ……ふ、ぅ……」
凄まじい衝撃にアリーナの端まで吹き飛ばされ、頑丈な壁面に叩き付けられた。数本の肋骨に罅が入ったようだが、幸いにも折れてはいないようだ。
『井上君、無事かい?』
「……応……」
とりあえず首の皮一枚繋がったことで落ち着きを取り戻したのだろう、如月社長の声はいつも通りの調子だった。
……本当に、ありがたい。このマイペースさが、己の冷静さを保ってくれる。
『いやいや、まいったねえ。あのフラッドっていう子、ジャガーノートの特性をかなり上手く活かしているよ』
「……特性……?」
『君も不思議に思っただろう? 月光の威力は、ただ分厚いだけの装甲で耐えられるほど生易しいものじゃない。あの機体が強奪された当時のままなら、さっきの一撃で倒せていたはずなんだ』
この人がこうまで自信満々に断言するのなら、それは希望でも推測でもなく、純然たる事実なのだろう。
ならば尚のこと、何故その月光の一撃を受けて平然としていられるのかが分からない。
『ジャガーノートはね、アーセナルを見ればわかると思うけど、
「……それが……?」
『あの子はその拡張領域の中に、予備の装甲を積み込んだのさ。ダメージを受けた装甲を、瞬時に無傷のものと入れ替える。そして格納した装甲は、アーセナルの中で修復する。……おそらくそのための機材一式やエネルギーなんかも積んでるんだろうねえ。ここまでくると、
「…………」
なるほど、だから月光の刃が通らなかったのか。あれほど頑強な装甲が溶断したそばから換装されては、いくら月光でも深部までは通らない。
――一撃では、倒せない。
『離れれば撃ちまくり、近づけば広範囲の攻撃で迎撃する……まるで待ちガイルだねえ』
――待ちガイル。
聞いたことがある。なんでも昔、路上格闘技界で生み出された戦術らしい。
単純な戦術でありながら完成度が極めて高く、深く根を張った大樹の如く安定したその構えを崩すには、相手を上回る圧倒的な火力でもって押し潰す以外に有効な対処法がないとのことだ。
これを応用した戦術が広く普及し、生み出されてから数十年が経った今も尚、伝説として語り継がれているという。
――如月社長が、その待ちガイルに例えたということは。
やはり、突破するのは容易ではない、か――
「お休みはもういいですかあ? ワタシ、待つのに飽きちゃいました。再開していいですかあ? いいですよねえ? うふ、うふふふふあはははははは!!」
「……っ!」
ジャガーノートの武装が、再び変わる。今度は三メートルはあろうかという長大な銃身を持つスナイパーカノン、そして先ほどのような垂直発射式ではなく、こちらに真っ直ぐ向けられた大型のミサイルだ。
「それじゃあイキますよお、イっちゃいますよお! きゃはははははは!!」
ドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンッ!!
腹に重く響く銃声が己の耳に届いたのは、かわした砲弾がアリーナの壁面を飴細工のように粉砕した後だった。
なんという貫通力、そして破砕力。あんなものを受ければ、今の消耗した朧月では一撃で墜ちる。
「う~ん、やっぱりこれだけじゃあ当たらないですねえ。それじゃあ、これも追加で~っす♪」
アーセナルのカタパルトにセットされたミサイルが火を噴き、凄まじい速度で飛翔する。だがその数は二発、十分引き付けてから反転すれば――
「――あっはぁ♪」
「……っ!?」
ガシャッ、と音を立てて、ミサイルが開く。これは――
(……多弾頭ミサイル……!!)
二発だったミサイルが、瞬く間に三十六発に増える。それらは上下左右に大きく広がり、己の逃げ場を塞ぎにかかった。
「……ちぃっ……!」
月影を起動、三連装の砲身から吐き出される大量の散弾で、ミサイルを迎撃する。落としきれなかったものは月光で斬り、作り出した隙間に機体を滑り込ませてミサイルの壁を抜けた。
「うふふふう~、やりますねえ。ワタシ、テンション上がって来ちゃいましたあ!!」
それを見て、フラッドの攻撃がさらに激しさを増す。
近距離、中距離、遠距離。あらゆる距離に対応した、高火力の武装の数々。進路上にあるもの全てを根こそぎ薙ぎ倒して突き進むその猛激は、もはや嵐と呼んでもまるで足りない。
――
(……どうする……?)
今はまだ、どうにか凌いでいる。だが月影の弾は決して多くなく、先ほどのダメージにより己の体力の消耗も激しい。
――このままでは、いずれ捉えられる。
(……どうする……!?)
一か八かの賭けに出ても、月光の威力をもってしても一撃では仕留められない。そしてその直後に、あの苛烈極まる反撃を浴びせられるだろう。
――次は、耐えられない。
(……どうすればいい……!?)
一撃で仕留められないのなら、連撃。幾度も斬り付ければ、あの装甲を貫くことが出来るかもしれない。
だがそのためには、あの猛攻を潜り抜け、あの反撃から逃れ、そして再び斬り付けるということを何度も繰り返すことになる。
何度成功すれば届くのか、それすらも分からないというのに。
保つか、それまで――?
『――相変わらず、世話の焼ける』
(……っ!?)
突然、脳裏に響く声。
如月社長からの通信ではない、だが、聞き覚えのある、この声は――
『言った筈だ。己は、お前に相応しい業物になると』
(……お前は……!)
あれ以来、ずっと黙っていたから、驚いた。
だが、聞き違える筈がない。
この声は、間違いなく――
『ならばこの身に、断てぬもの無し』
己を、相棒と認めてくれた。
己を、主と呼んでくれた。
たとえ言葉を発さずとも。
ずっと、己と共に、居てくれた――
『お前はただ無心に、ただ一心に、己を振るえば良い』
腑抜けた己に喝を入れるため、己の人格を模した。
己に付き合い、共に最強を目指すと言ってくれた。
この世界で、いくつもの戦いを、共に斬り抜けた。
『そうだろう――我が主』
――己の、愛刀。
(……そうだな……)
まったく、己は本当に愚かだ。一体何を迷う必要があったというのか。
もとより、己に出来ることは、一つだけ。
――ただ、寄って斬るのみ。
『さあ、往くぞ。お前が目指したもの、お前が望んだもの、その一つを――これより、カタチと成す』
己が目指したもの、望んだもの、その、一つ。
それは――
『刮目せよ。我が身に宿る刃を』
一刀両断。
一撃必殺。
初太刀で斬れぬのなら潔く死ね。
それは、剣士の理想。
己だけではない、かつて、「彼女」も追い求めた到達点。
――その刃が、今、この右腕に。
『「
さあ、魅せてみろ、朧月。
お前の、剣を――!
『「――
いよいよ朧月のワンオフが発動。どんな能力かは、次回をお楽しみに。
そしてまたもオリキャラ&オリIS。調子乗ってますね、我ながら。