Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D   作:花極四季

5 / 46
投稿ペースが速いのは、モチベが素晴らしいことになってるから。しばらくは続くと思う。


第四話

満月が世界を彩る闇の中、ウチはあの人間の《神器》を奪うため、闇夜を翔る。

あの《神器》の反応は覚えた。決して迷うことはない。迷っては、いけない。

躊躇うな。心を殺せ。罪悪感を捨てろ。さもなくば――

 

《神器》の反応が、一瞬で強くなる。

何故、と思った。そして、すぐにその理由に気付く。

下を向くと、そこには刀を手にしたあの人間がいた。

 

「こんばんわ、人間。そんな物騒なものを持って、どうしたッスか?」

 

極めて冷静に、普段の自分を演じる。

どこかおどけた感じの、本当のウチを。

 

「それはお互い様だと思うがな」

 

「それもそうッスね。実はアンタにお願いがあったんすよ」

 

「何だ?アイスでもまた欲しいのか?」

 

「いいや、アイスはもういいッス。ウチの望みはひとつ。――ウチの為に、死んで」

 

小規模な結界を展開。そして瞬時に紅の槍を創造し、間髪入れずに人間に投擲する。

着弾。コンクリートがえぐれた反動で、砂埃が舞う。

その砂埃を振り払うように、電撃がウチへ向けて放たれる。

予想外の反撃に、回避が遅れる。

それでも避けるのは容易い速度ではあったが、先程のお仕置きによるダメージがまだ色濃く残っている影響もあり、肉体がまともに動いてくれない。

 

「ああああああっ!!」

 

雷に包まれ、身体が痙攣していく。

それほどのダメージには到らなかったが、お仕置きのダメージも相まって身体はまともに動きそうにない。

砂埃の先にいた人間は傷ひとつなく立っていたのを確認する。

ハンデがあるとはいえ、人間に一撃も与えられず反撃を与えられた事実に歯噛みする。

 

「穏やかじゃないな。それは、上からの命令か?」

 

「――っ、そんなことより、さっきの電撃は《神器》の力ッスか?」

 

核心を突いた言葉を前に、無理矢理話題を変える。

 

「そうだとしたら、何だ」

 

「たかだか電撃を出せる程度で、勝算があるなんて思わないことッスよ!」

 

再度、槍を投擲しようとする。

刹那、人間の手に顕現する淡い光を放ったカード。

それを握りつぶした瞬間――白の鎧を纏った馬のような足を持つ騎士が人間を護るように現れた。

 

「ウルスラグナ!」

 

その叫びに呼応するように、騎士はこちらに向けて手をかざし、その手から電撃を放つ。

直線上の攻撃なので、理解すれば回避するのはさほど苦労はしなかった。

それにしても、あの《神器》は召喚に長けたものなのだろうか。

召喚が出来る《神器》なんて初めて聞くし、何よりあのウルスラグナとかいう騎士は何なのか。

悪魔寄りの外見をしてはいるが、その醸し出す雰囲気はどちらかといえば天使寄りと言えなくもない。

そんな歪な存在が実在するのであれば、噂にならない方がおかしい。

なら、あれは幻覚?

それを確かめる為にも、槍を再度生み出し騎士へと攻撃する。

すると、腰に携えた剣を抜き、こちらへと一閃する。

それは鎌鼬のように剣先からほとばしり、ウチを切り裂いた。

衝撃をモロに受けたことで、後方へと大きく吹き飛び、そのまま地面に墜落する。

まともに身体が動かない状況で、人間は騎士を傍に置き、歩み寄ってくる。

 

「それ、何なんすか……二対一とか反則じゃないッスか」

 

「こっちは人間なんだ、多少は勘弁してもらいたいな」

 

「はは――言うじゃないッスか。でも、こっちだって……負けられない理由があるんッスよ!」

 

不意打ちの如く飛び起き、その槍で人間を貫かんと肉薄する。

しかしそれすらも予測していたかのように、身体を軽く傾けられる形で回避される。

そして、その反動でそのまま前へ進んでいく筈の身体は、腰に乗せるように置かれた人間の腕によって阻まれる。

更にそのまま人間の胸の中に引き寄せられる。

 

「は、離せ!」

 

必死の抗議も届く様子はない。

というか、何だこの力は。

堕天使と人間の筋力差は歴然の筈だ。にも関わらず、振りほどけすらしないなんて。

 

「――もう、やめにしないか」

 

ふと、そんな優しい音色が耳朶を打つ。

 

「その様子では、無理矢理戦わされているのは聞くまでもない。君が堕天使で、堕天使が《神器》を狙っていることも知っている。だが、君は私と敵対するどころか、助けてさえくれた。最早、疑う余地もない」

 

暖かな熱が身体中に拡がっていく。

それがウチを抱いている人間の体温だということは、嫌でも理解出来る。

その暖かさが、とても心地よい。それこそ、そのまま身を委ねてしまいたくなるほどに。

でも、それは許されない。

 

「君の優しさは、決して悪意の為に利用されるべきものではない。だから――」

 

「――ッ、ざけんな!」

 

がむしゃらに身体を動かし、拘束から脱出する。

その勢いで空に飛び立ち、叫ぶ。

苦悩も、苛立ちの理由の何もかもを秘めた本音を。

 

「それが出来れば苦労しない!だけど、そうしなきゃウチの居場所がなくなるから、やりたくなくてもやらなきゃいけないの!堕天使の中でも底辺のウチは、レイナーレ姉さまの保護下でしか生きられないって、分かってるから!だから、お願いだから、死んでよぉ!!」

 

まるで子供が飛ばす癇癪のように感情だけを言葉に乗せ、ウチが持つありったけの魔力で槍を創造。

空中に固定した無数の紅の光が、心を乱す元凶を穿たんと一斉に放たれる。

地面、壁と問わず出鱈目にそこにある全てを破壊していく。

狙いは定まらずとも、その圧倒的なまでの物量が逃げ場を塞ぎ、蹂躙していく。

先程とは比較にならない程巻き上がる砂埃。

徐々に晴れていく視界。その先には――身体中に抉られた痕を残し、地面に伏す人間の姿があった。

 

「あ、あ――――」

 

終わった。何もかも。

彼から大量に流れていく血。急所にこそ当たっていないが、その事実が逆に苦しませる結果を生んだ。

一気に訪れる喪失感。止めどなく溢れる後悔。

身体からも気力が抜けていくのが分かる。

飛ぶ力さえなくなったウチは、原型の留めていない地上に降り、覚束ない足取りで人間に近づいていく。

結局、名前を知ることなく終わってしまった。

たった二日。それも合わせて半日も満たない時間で触れ合った関係でしかない。

それでも、ウチにとって彼は日だまりだった。

薄暗い世界で後ろめたさを抱えながら生きていた日陰者にとっての、太陽だった。

それが例え気の迷いが生んだちゃちな感情だったとしても、ウチは確かに彼に惹かれていたことに変わりはない。

彼を殺したという後悔を一生胸に秘めて生きていく中で、そんな手遅れな後悔さえも抱えて生きていく。

……そう、それがいい。それが私利私欲の為に殺してしまった、彼への唯一の罪滅ぼしになる。

 

まだ死んではいないだろうけど、それも時間の問題。

だから《神器》を早々に抜き取らなければいけない。

即興による作業になるから、成功率は低い。

それでも成功させなければ、彼の死が完全に無駄だったと証明することになってしまう。

 

「う、そ――――」

 

そうして作業に取りかかろうと決意した時。

手に持つ刀を杖に、既に膝をつく体勢まで身体を起き上がらせている人間の姿を目撃してしまう。

何故動ける?辛いだけなのに何故起き上がろうとする?

生きてくれていて良かった。何故死んでくれなかったの?

二律背反の感情が入り交じり、思考が混乱に陥っている間に、彼はふらつきながらも遂に両の足で立ち上がってみせた。

 

「……これだけの力を持っておきながら、自分が弱いだと?笑わせるな」

 

「――――ッ、そりゃ当然ッスよ。そもそも人間が堕天使の攻撃を喰らって立ち上がることが出来るって方がおかしいんす」

 

あくまで表面上は冷静に返す。

取り乱してはいけない。一度破堤してしまえば、感情が水のように溢れ出て止められなくなる。

折角一度は収まりがついたのに、今度刺激を与えられたら、今度こそ――

 

「それだけの力があるなら、君を縛る鳥かごなんか取っ払って、どこまでも空高く羽ばたいていける。何故それを自覚できない」

 

「アンタは何も知らないからそんなことが言えるんッス。世界には、私なんか歯牙にも掛けない強さを持つ存在が悪魔・天使・堕天使問わずわらわらいる。もしここでレイナーレ姉さまを裏切れば、《天界》だけでなく《神の子を見張る者》からも追われる身になる。そうなったらもうお終い。だから、そんな不確定要素になんか縋れない!」

 

人間の甘言を振り切ろうと、今自身が置かれている立場を改めて口にし、現実を突きつける。

自分は、何一つ間違ったことを言っていない。

集団に身を寄せないと生きていけないから、そうするしかない。

人間だって、同じ。今ある環境を捨て、ゼロから何かを為そうとしたところで、最後は捨てた環境が恋しくなる。

生活が、安全が保証されている世界が如何に恵まれているかを噛み締め、戻れない過去という高すぎる代償を払い教訓を得る。

中にはそれでも成功する者もいるだろう。しかし、それはそうあるべくしてなっただけであって、その現実を誰もがものに出来る訳ではない。

ウチは、そうじゃない、筈だ。

 

「人生なんて不確定要素しかない。未来が不確定だから、人は努力をするんだ。目先がどれだけ暗闇で包まれていようとも、一歩踏み出せば世界は鮮明になる。恐怖を我が物とし、未来を掴み取る意思さえ持てば、絶対に幸せな未来が勝ち取れる。だから、恐れるな、ミッテルト!」

 

人間は手を差し出し、ウチの名を叫ぶ。

視線が交差し、そのままその揺るがない瞳に呑まれていく。

どんなにボロボロになっても、どんなに傷つけられても、彼の意思は輝きを保ち続けている。

どうして、そこまでしてくれるの?

明確な拒絶の意思を示しているのに、どうしてアンタは……。

 

わからない。どうすればいいのか、もうわからない。

ナニモ、ナニモナニモナニモナニモ――――

 

「うああああああああああああ!!」

 

頭を抱え、誘惑を振り切らんとするように身体を暴れさせる。

最早、自分が何をしようとしているかさえ、頭の中から抜け落ちていた。

あるのは、自分を破壊しようとする何かへの反逆の精神のみ。

 

「ウチを――これ以上、まやかすなああああああぁぁっ!!」

 

持てるありったけの力を、一本の槍に込める。

それによって創造された槍の大きさは従来の倍以上は誇り、大木で出来た杭を連想させる。

そしてそれを、人間へと投げつけた。

 

「ウルスラグナァァァ!!」

 

騎士が再び眼前に現れ、先程より強力な電撃を放つ。

二つの光がぶつかり合い、エネルギーは飽和し拮抗する。

衝撃が突風を呼び、悪意すべてを吹き飛ばさんと奔流する。

拮抗した状況は、数秒の間を持って終わりを告げる。

軍配が上がったのは――人間の方だった。

紅の槍はその形を崩壊させ、紅き粒子を霧散させる。

それを吹き飛ばすように電撃がこちらへと襲いかかり、遂に直撃した。

 

「うあああああああ!!」

 

叫びと共に、身体が崩れ落ちていく。

魔力も体力も当に限界は超えている。

そんな自分を動かしていたのは、

 

「(……何だったんだろう)」

 

最早、それさえ考える力も沸かない。

自分が本当は何をしたかったのか。何のために生きているのか。

走馬燈さえも過ぎることのない、虚しい最期。

 

「(けど、これでもう――)」

 

それでも、あの人間をもう傷つけなくてもいい。そんな悲しい定めから解放されたことだけは、素直に喜びを感じていた。

崩れ行く意識が最後に感じたものは、自分を打倒したあの人間が持つ暖かさだった。

 

 

 

 

 

堕天使側に属する、アーシア・アルジェントというイッセーくんの友達を助けるべく、私達オカルト研究部は行動していた。

イッセーくん、木場くん、小猫ちゃんのチームでレイナーレ討伐およびアーシアの奪還を。

リアスと私はそれ以外を相手にするべく、外で戦闘を行っていた。

戦闘と言っても、それは一方的な蹂躙でしかなく、リアスの《滅びの力》の前では相手にさえならなかった。

 

「……ミッテルトは、いないようね」

 

リアスが呟く。

そう。それは私も気に掛けていたことだった。

 

「やはり、今彼女は、零くんの所にいるのでしょうか?」

 

「その可能性は高いわね。――悪いけど、朱乃。頼まれてくれるかしら?」

 

「ええ。最初からそのつもりでしたわ」

 

そうして私達は、逆方向の道へと飛び出す。

リアスはイッセーくん達のところへ。私は、ミッテルトおよび零くんを探しに。

 

結界の外に出た瞬間、零くんの持つ《神器》の強力な反応を捉える。

初めて垣間見た力に比べれば圧倒的に劣るが、それでも並の《神器》の比ではない力を解放していた。

その反応を頼りに全速力で飛ぶ。

そうして、小規模な結界が展開されている箇所を発見する。

地上に降り、それをくぐり抜けた瞬間、零くんの叫びが聞こえた。

 

「人生なんて不確定要素しかない。未来が不確定だから、人は努力をするんだ。目先がどれだけ暗闇で包まれていようとも、一歩踏み出せば世界は鮮明になる。恐怖を我が物とし、未来を掴み取る意思さえ持てば、絶対に幸せな未来が勝ち取れる。だから、恐れるな、ミッテルト!」

 

身体は瀕死の重傷を負っているにも関わらず、彼の意思は欠片も揺らいだ様子を見せない。

不謹慎だが――私はそんな彼の姿に、見惚れてしまっていた。

同時に、そこまで強く思われているあのミッテルトという堕天使に、淡い嫉妬心を抱きさえもした。

 

リアスから事の顛末は聞いていた。

ミッテルトという堕天使を、彼は救いたがっていたこと。その為、無謀とも言える単身での行動を取ったこと。

作戦決行前に聞かされたことであり、本来ならすぐにでも飛んでいきたかった。しかし、《女王》として、そんなことは許されないことは誰よりも理解していた。

もどかしかった。今以上に、自分の立場が鬱陶しく感じたことさえなかった程に。

 

そうして、決着はつく。

彼の《神器》で呼び出したと思われる白騎士が放った電撃が、圧倒的質量を誇る真紅の槍を破壊し、そのままミッテルトを貫いた。

崩れ落ちるミッテルトを、彼は片腕で支える。彼の表情は、安堵の笑みが浮かんでいた。

そしてまもなく、彼もその場で力尽きた。

結界が晴れ、壊れた世界が破壊の大元を残して修復されていく。

 

「……あらあら、これはどうしましょうか」

 

そこには、悪魔とはいえ女手ひとつで運ぶには困難な荷物が二つ。

柄にもなく困惑した私の問いかけは、虚しく夜の帳にかき消されていった。

 

 

 

 

 

これは、何度目の既視感だろうか。

いや、既視感っていうか昨日も経験したばかりだから、紛れもない現実なんだけどさ。

 

ミッテルトに組織でやりたくないことやらされてるなら、止めればいいんだよってことを説明し、説得する為の装備を調えようと、家捜しをしていたら模造刀とケブラーベストがあったので、装備して出陣した。

なんであるの?とかいうのはゲーム世界では無粋だ。ドラクエの勇者がツボ壊したり、他人の家のタンス覗いても犯罪にならないのかって疑問ぐらい無粋なことだ。

警官が武器横流ししてたり、謎素材から武器作れる現代人のおっさんがいたりする世界もあるんだ、多少のご都合主義はあって然るべきものだと考えている。

それはともかく、自分を改めて見つめ直したらアヴァターラじゃなくてウルスラグナってペルソナを持ってたことに気付く。

ステータスも電撃が使える物理型で、わりかし使いやすい印象を受けた。

そんで準備万端となった頃には夜になっていた。

夜とはいえ銃刀法違反(あるのか?)でお縄にされる可能性もあるけど、こっそり持っていけばバレれないだろうと抜き身で持ってたんだけど、まぁそれはいい。

 

それでまさかの路上でミッテルトに会ったんだけど、まぁ案の定戦闘になった訳ですよ。

予想はしてたよ?チームの輪を乱す行動を取った償いとして、自らが拒否した任務を持って清算させる、という行為は躾という意味合いでも強力な意味を持つ。

やりたくなくても、結局やらされるなら一緒。そう思わせることで職務に忠実にさせる。理に適ったものだ。

だけど、そんな環境が嫌だから反抗しているのであって、心から従順ならばそもそもそんな事態は起こりえない。

なんやかんやで今この場にいるわけだけど、ぶっちゃけ沢山の槍でぶっさされた辺りからどうなったのか覚えていない。

意識が朦朧としてた中、何か喋ってた気がするし、身体を動かした気もする。

けど、その過程はぼやけて思い出せない。

そもそも勝ったのか負けたのか。説得できたのか否なのか。それさえも分からないのは問題ではないだろうか。

とはいえ、あんな激戦の後のせいか、身体がだるい。気分的にね。

ベッドから起き上がろうとするも、適当に寝返りをうつ形になる。

それ自体は特別なことではないし、そういうこともあるって結論付けるだけで終わっただろう。

 

寝返りにより視線を向けた先に、同じベッドで裸で静かに寝息を立てているミッテルトがいなければ、だが。

 

「……なんだ、夢か」

 

思考をシャットアウトし、身体を反転させ視界を切り替える。

 

「……んぅ、駄目ですよ、こんな場所で……」

 

切り替わった世界には、再び全裸の女性――もういいや、姫島朱乃が寝言を呟く姿が鮮明に映し出されていた。

そして、自分は昨日と同じく上半裸。

 

シーツを動かさないようにベッドから脱出する。

適当な大きさの厚紙を探す。

軽く折り目をつけ、波のような形を作る。この時、しっかりと折るのはNG。

四つ折りほどにしたら、縦長となった厚紙の根本を持つ。

それを、姫島の頭に振りかざす。

ズパン!と良い音が響いたら成功です。

 

「……ん、んぅ?あら、おはようございま――」

 

取り敢えずもう一発叩きこんでおく。

あう、と軽く頭を揺らしながら姫島は身体を起き上がらせる。

 

「まさかハリセンで叩かれて起こされるだなんて思いませんでしたわ」

 

「私としては、昨日の今日で全く同じ景色を寝起きに見ることになるとは思わなかったがな」

 

しかもそこにミッテルトまで加わってるし。何?貴方の差し金?

 

「昨日のことは覚えていらして?」

 

「いや、あまり」

 

「そうですか……。貴方とミッテルトは相打ちという形に終わり、両者とも倒れたところに私が合流。事情があまり把握できていないということで、取り敢えず貴方の家に連れてきた次第ですわ」

 

「そうか……。それで、私の怪我はどうしたのだ?」

 

「こちらで治療させていただきました。とはいえ、私の力だけでは限界があったので、新しくリアスの眷属になったアーシアさんに助けてもらいました」

 

そのアーシアさんとやらは、回復系の能力を持っているのだろう。

端から見ても結構重傷だったからなぁ。それが治るって言ったら相当の熟練者なのだろう。

 

「それはいいとして、だ。取り敢えず服を着てくれ。あと、可能ならミッテルトのも着せてやってくれ」

 

「わかりましたわ。ハリセンでこれ以上叩かれたくありませんし」

 

姫島の奇行から何とか逃げおおせた僕は、部屋の外で着替えを待つ。

……何で我が家なのに、こんな間男みたいな行動を取らなければならんのか。

 

「あっ、悪魔!ウチに何する気ッスか!離れろ!」

 

「いけませんわ。そのように一糸纏わぬ姿で暴れては」

 

「え?……いやあああああ!何でウチ裸なのーーー!!」

 

……なんか、五月蠅い。

シチュエーションとしては、姫島が服を着せようと行動しようとした所に、ミッテルトが覚醒したって感じだろう。

本来ならここで、「何事だ!」と部屋に突入するのがお約束なんだろうけど、そんなラッキースケベは求めていないので。

僕の場合、そういったのに興奮するより先に胃が痛くなるんだよ……申し訳なさとかでさ。

だから、外からこの状況を鎮圧する絶対の合い言葉を紡ぐ。

 

「二人とも、落ち着け」

 

「――その声、アンタ、」

 

「ミッテルト、君が現状に混乱を来しているのは分かる。だが、事情を説明するにしても私がそちらに向かうに相応しい状況を用意してくれないことには始まらん」

 

それっきりミッテルトは黙り込む。納得してくれたのだろう。

少し経ち、姫島の了解の下再び部屋に入り込む。

姫島はいつもの学生服。ミッテルトは黒のゴスロリ服とは対極の白のワンピースを身に纏っていた。

見慣れない感じはあるが、似合ってないなんてことはなく、これはこれで新鮮みがあって良い。

 

「あ、あの……」

 

「ふむ、取り敢えず何から説明したものか。取り敢えず、私達がこうして五体満足でいられるのも、朱乃とアーシアという者の助力があってこそだとは言っておこう」

 

「アーシア――そうッスよ!アーシアが《神器》を使えているってことは、つまり」

 

「レイナーレは、リアスによって滅ぼされましたわ。それ以外の、貴方のお仲間も含めて」

 

「……そう。やっぱり」

 

いや、その話自体初耳なんですけど。レイナーレって誰?

だけど、姉さまと呼んでいた辺り、親しい間柄だったのかもしれない。リアル姉という可能性も微レ存。

んで、僕の知らないところでレイナーレとリアスが戦い、結果リアスが勝利したと。

悪魔と堕天使の抗争は、取り敢えず幕を下ろしたってことでいいのかな?

 

「それで、貴方はどうします?レイナーレの後を追うか、それ以外の選択肢を望むか。零くんも、それを知りたいのではないのですか?」

 

「――ああ、そうだな」

 

そもそもこんな状況になったのも、ミッテルトが堕天使側のやり方に不満を抱いている節があったからである。

昨日の戦闘中だって、彼女が今の組織から抜け出したいけど、抜け出したら酷い目に遭うって感じの事を言っていたし、少なくとも自分の勘違いだってことは無いはず。

 

「その前に、さ。アンタの名前、教えてよ。アンタばかり私の名前馴れ馴れしく呼んで、不公平よ」

 

そういえば、互いに自己紹介すらしていなかったね。

間接的に名前を知ったに過ぎないのに、結構普通に呼び捨てしてたのは流石に失礼だったよね。

 

「そうだったな。私は有斗零だ」

 

「レイ、ね。改めて、ウチはミッテルト。堕天使で、元《神の子を見張る者》に所属していた、今はただのはぐれ堕天使って所ッスか」

 

「元、ということは貴方つまり――」

 

「――もう、《神の子を見張る者》にはいられないッスよ。そもそも今回の件はレイナーレ姉さまの独断で行われたこと。こうして生きていても、戻れば堕天使の悪評を拡げる片棒を担いだウチの末路なんて、決まり切ってるッス」

 

「なら、どうするのですか?貴方も、リアスの眷属に――」

 

「それは死んでもお断りするッス。確かにウチは《神の子を見張る者》から離れると宣言したけど、だからって悪魔の眷属になる気なんて更々ないっすよ」

 

悪魔と堕天使。種族の違いで仲が悪いのは知ってたけど、組織ではなく個人としても苦手意識があるって、それって一種の洗脳だよね。怖いわぁ。

 

「しかし、それならどうするつもりだ?追われる身が嫌だったから組織を抜けるのを否定していたのに、どこの傘下にも入らないのであれば問題解決とは言えんぞ」

 

「あら、そんなの最初から決まってるッスよ」

 

ミッテルトは笑顔を浮かべながら、僕の腕に抱きついてくる。

女の子特有の甘い匂いが鼻孔を擽る。

 

「ウチ、これからレイの眷属として生きていくから」

 

「……は?」

 

それはおかしい。色々と突っ込みどころしかない。

あと、何か姫島の笑顔が怖い。

やめてよね。そんな笑顔向けられたら、僕が姫島に意見出来るわけないだろ?

 

「そもそも私は人間であり、君のことを眷属とするための能力は一切持ち合わせていない。加えて、ただの人間が君の隠れ蓑として機能する筈がなかろう?」

 

「ふ~ん。じゃあ、見捨てるんだ。ウチのこと一方的に助けようとお節介焼いて、やること終わったら捨てるんッスか」

 

こっちは必死に事情を説明しているのに、ミッテルトはどこ吹く風で、むしろこの状況を愉しんでいる節さえある。

あと、そろそろ姫島のことをさん付けしてしまいそうなプレッシャーが放たれているので、勘弁して欲しい。

 

「誤解を招く言い回しは止めろ。……重ねて言うが、私に抑止力としての力は無い。それでも、私と共に居ようとするのか?」

 

「愚問ッスよ。ウチの人生ぶち壊した責任、取ってもらうッスから」

 

……これは、テコでも動きそうにないな。

まぁ、いいか。どうせゲームの中の出来事だ。色々と不都合なことは起こるかもしれないが、そこまで深刻に考える必要はない筈。

僕がギルドマスターで、ミッテルトがメンバーって感覚で考えれば、別段おかしな関係でもないし。

 

「――まぁ、君がそれでいいと言うのであれば、これ以上言及はせんが……姫島、というか悪魔側としてはミッテルトの処遇についてはどう考えているのだ?」

 

「部長はミッテルトの件は貴方に一存すると仰ってましたわ。自分でやり遂げたことには、最後まで責任を持て、とも」

 

リアス、丸投げとか独断行動したこと確実に根に持ってるよね。

 

「ということらしいッスから、今後ともよろしくッス」

 

「ああ、よろしく」

 

挨拶を交わした瞬間、僕の頭の中に声が響く。

 

 

我は汝……汝は我……

汝、新たなる絆を見出したり……

 

汝、《運命》のペルソナを生み出せし時、

我ら、更なる力の祝福を与えん……

 

 

まさかのコミュ解放、だと……?

予想外の展開であり、予定調和な展開とも言える。

しかし、コミュがあるのが分かったのはいいけど、誰がコミュに該当するのか分かんないのは辛い。

……もしかして、リアス眷属とは全員コミュあったりするのかな?

ということは、コミュ解放およびレベルアップの為には、積極的にリアス達に関わっていかなくちゃいけないってことなのかな。

これは、身の振り方を今一度考えるべきかもしれないね。

 

そんなこんなで、ミッテルトが仲魔――じゃない、仲間になった訳だ。

仲間と言うにはちょっと違うかもしれないけど、気分の問題だ。

ともあれ、僕がこの世界で関わった騒動は、ひとまずこれでお終いってことだ。

取り敢えずは、ミッテルトがしがらみから解放されたことを喜ぼう。

 




ウルスラグナ

アルカナ:愚者

耐性:斬打貫火氷雷風光闇
        無 無弱

スキル:ジオ、ジオンガ、疾風斬、タルカジャ

白い騎士甲冑を纏ったケンタウロスのような外見をしており、腰にはロングソードを携えている。
この外見はオリジナルで、過去にも同一の名前のアクマが存在していたが、その時の外見は人の形はしているが、目はついておらず両手足は蹄のようなものがついた、似ても似つかないものとなっている。
その際のアルカナは正義だが、このウルスラグナは何故か愚者となっている。


ミッテルト

アルカナ:運命
天使として生きていた彼女は、俗世の娯楽に憧れ墜天する。ひとつの転機。
堕天使としての生き方と自らの欲望を照らし合わせ、その相違に気付く。更なる転機。
堕天使としての生き方を捨て、個人として自らを導いてくれた者の為に生きる決意をする。最後の転機。
幾つもの人生の転換期を経て、少女は初めて自らの意思で居場所を掴む。
運命に翻弄され続けた少女は、真の運命へと巡り逢う。




というわけで、メインストーリーかなぐり捨てて、勝手にレイナーレ編は完結。主人公側からすればミッテルト編だけど。
運命のアルカナを手に入れたことで、新たにペルソナが増えました。それが何かはまだ明かせませんが、コミュアルカナはオリジナルにするつもりはありません。

次からはフェニックス編だけど……ぶっちゃけ、参加させないかもしれない。他の人間のオリ主ならともかく、今の彼はレーティングゲームに参加させることが認められるほど強い訳ではないので。
その代わり、オカ研メンバーとの親交を深める場として扱いそう。ライザーカワイソス。

余談だけど、ミッテルトが主人公の拘束から抜けられなかったのは、さりげなく煙が舞っているときにタルカジャを使っていたからだったり。どうでもいいね。


Q:模造刀なんのためにあったの?
A:転ばぬ先の杖。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。