Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D 作:花極四季
オカルト研究部で話を聞き終えた僕は、夕日が眩しい自宅への道を歩く。
姫島に案内されたオカルト研究部で、リアス・グレモリーが自らの置かれている境遇を説明し、まんまと僕を悪魔側に引き入れようとしたこと以外は、特に大きな問題になるでもなく事は進んだ。
眷属って言ってたけど、ということはあそこのメンバーは全員悪魔側なんだろう。具体的な視覚情報がないから、そうなんですか程度の認識しかないけど、嘘を吐く理由も無いだろうし、そうなんだろう。
ということは、あの姫島の行動も悪魔的に考えると勧誘の一種だったのかもしれない。
その欲望を解放しろ!とか言わんばかりにあんな大胆な行動をしたのも、悪魔ならではということなのかな。
悪魔・天使・堕天使の勢力のどれもが史実であるような生き方を強要しているのだろうか。
ロールプレイを強要するのは良いことではないのは確かだけど、嫌ならやめてもいいんじゃよ?って感じでそういうのが嫌なら他のワールドで遊べばいいだけだし、以外とそういう部分は個々のワールド内での暗黙の了解として成立している節がある。
だから天使側が露骨な宗教的な観念を持っていても驚かない。そのどれにも属さない僕がとやかく言うことでもないしね。
「あれ?アンタ――」
そんなことを考えながら足を動かしていると、聞き覚えのある声が聞こえる。
振り向くと、そこには昨日見かけたゴスロリ少女がいた。
「昨日ぶりだな」
「え、ええ。そうね」
何故か歯切れ悪く挨拶を返してくる。
「……どうかしたのか?」
「え?」
「昨日に比べて元気がないぞ」
「そんなことはないわ。ええ、そんなことはないっすよ」
必死に弁明する姿は、如何にも何かありますって感じしかしないのだが、追求してもはぐらかされるだけだろう。
悩みは人それぞれ。昨日あっただけの浅い関係の僕へ話せるようなことなら、とっくに解決しているだろうしね。
「それで、何か用か?」
「用って、それは――」
何か言おうとして、少女は口を紡ぐ。
それにより訪れる静寂が、とても気まずい。
「アイス」
「ん?」
「アイス、食べたい」
……まさかの味を占められた事実。
「まぁ、いいが」
そして、それを断れない自分。
ヘタレ?違うね。女の子には優しくするのが男だからさ(キリッ
「じゃあ、とっとと行くわよ」
昨日の夜、《神器》の反応を確認した。
《聖母の微笑》をアーシア・アルジェントから取り出す儀式の準備がある中、多くの人員は割けないが、蔑ろにする訳にもいかず、私、ミッテルトが派遣された。
《神器》は多いに越したことはない。それに、中身は使ってみないことには分からない以上、その《神器》が《聖母の微笑》を超えるものでないという保証は出来ないのだから、この判断は適切といえるだろう。
《神器》の反応を辿っている内に、昨日見た風景だということに気付く。
そうして辿り着いた先にいたのは――昨日ぶつかった人間だった。
「あれ?アンタ――」
なんて都合の良い展開なんだ、と思った。
同時に、その喜ぶべき展開に微かな不快感を抱いている自分がいた。
「昨日ぶりだな」
「え、ええ。そうね」
こちらの思惑など知る由もなく、人間は昨日と変わらぬ調子で会話をする。
対する私は、昨日の通りに言葉を紡げない。
「……どうかしたのか?」
「え?」
「昨日に比べて元気がないぞ」
「そんなことはないわ。ええ、そんなことはないっすよ」
人間の言葉を強く否定すると、無意識に地の言葉遣いが出てしまう。
何故、こんな対応をしてしまうのだろうか。
人間の言葉なんて取るに足らないものでしかない筈なのに、何故こんなに気にする必要があるのだ。
「それで、何か用か?」
「用って、それは――」
なんて言えばいいのだろうか。
アンタの《神器》に用がある、とは言えない。
恐らくこの人間は私を堕天使だと認識していない。警戒心を欠片も感じないからだ。
だったら警戒させるような発言は駄目だ。
それに、人通りが少ないとはいえ、公共の道で行為に及ぶのはマズイ。
ただでさえ悪魔側には警戒されているというのに、下手な行動を取って事を荒立てたくはない。
やるならスマートに、だ。
「アイス」
「ん?」
「アイス、食べたい」
「まぁ、いいが」
「じゃあ、とっとと行くわよ」
自分でも、頭の悪い言葉選びだと思った。だけど、それしか彼を繋ぐものがなかったのだから、仕方ないじゃないか。
それに、二つ返事でOKするコイツもコイツだ。一体何を考えているんだか。
そうして何の変化もない、昨日の焼き回しのような流れでアイス屋へと向かう。
そんな変哲もない道程が、不思議とさっきまでの変な調子の私の心を落ち着かせていた。
「今日は何がいいんだ」
アイス屋に辿り着くか否や、人間はそう切り出す。
「えっと、今日は――イチゴだけでいいわ」
「いいのか?別に昨日のように三段重ねでも――」
「いいって言ってるじゃないっすか!しつこいっすね」
つい、声を荒げてしまったことに、内心反省する。
……何故、反省なんかしたのだろう。
人間なんて路頭の石ぐらいの存在に過ぎないのに、何故そんな相手に遠慮をしなければならないのか。
とはいえ、一度口にした言葉を引っ込めることは出来ない。
そうして差し出されたアイスは――イチゴだけではなく、バニラも乗った二段重ねのものだった。
「え?これ――」
「欲しかったんだろう?遠慮するな」
そう言って、人間はアイスをこちらに押しつける。
見透かされたようで本来なら腹が立つ場面だったのだが、私はお礼を言っていた。
「……ありがとう」
「別にいいさ。こっちが勝手にしたことだからな」
そう言いながら、今日は彼も自分用のアイスを買っていた。
チョコがひとつ、という控えめな様子を見ていると、ほんの僅かながらも罪悪感が沸く。
「今日ももう帰るのか?」
ふと、そんなことを訪ねてくる。
それは出来ない。私の目的はアイスではなく、この人間が持つ《神器》なのだから。
「今日は――折角だからベンチでアイスを食べようかと思ったんだけど、一緒にどう?」
「君さえ良いのなら、私は構わんが」
人間の意思を聞き、そのままベンチに座る。
ベンチには、一人分のスペースが真ん中に空く距離が出来る。
夕日の眩しさを噛み締めながら、アイスをちょびちょびと食べる。
遠くから聞こえる人間の子供の楽しそうな声に、鳥のさえずりが心地よい。
こんな穏やかな時間、堕天使になってからあっただろうか。
いや、天使だった頃からも、ここまで心休まる時間はなかった。
片や天使から追われ、レイナーレ姉さまを中心に組まれた神への復讐で。片や天使としての堅苦しい生き方のせいで。
ウチが堕天したのは、俗世の生き方に魅了されたからだ。
人間を見下してはいるが、その技術には関心があった。
天使として、神の教えがどうのって部分で生きにくさを経験してはいたけれど、それで神を恨んだりはしていない。
そりゃあ多少はイラッとした部分はあった。私は望んで天使になった訳でもないのに、どうして同じ種族ってだけで足並みを揃えなければいけないのか。
でも、復讐を考えるほどではない。
私は私なりに、自由を得るために行動したに過ぎない。そこに神への冒涜といった目的からの反抗心は一切無い。
しかし、天使側からすれば、そんなことはどうでもいいのだろう。
天使の汚点とも呼べる堕天使は無条件に許せないという考えも納得できるし、今更それに対して目くじらを立てたところで、私が生まれる前から存在する確執をどうこう出来るだなんて初めから思ってもいない。
最初はどうにかして追っ手を追い払えていたが、一人では限界がいずれ訪れるのは自明の理。
そこで、私はレイナーレ姉さまと会った。
姉さまに救われた私は、彼女の復讐の為に尽くすことを選んだ。
そうすることで、ウチは一人の時よりも自由でいられた。
逃げ続ける人生に比べて、テレビを見る時間も出来たしお菓子だって食べることが出来るようになったし、不満はなかった。
……でも、いつからだろう。そんな生き方に虚しさを感じるようになったのは。
レイナーレ姉さまはアザゼル様のことや復讐のことばかりで、本質的に私のことを見てはいない。
ドーナシークとはソリがあまり合わないし、フリード・セルゼンは頭おかしいし、唯一カワラーナだけがまともだとも言えた。
そんなアクの強いメンバーと行動を共にしていく内に、私は自分の望んでいた生き方を見失いかけていた。
自由を望んだから組織を離れたのに。束縛されることが嫌だから堕天したのに。しがらみが嫌だから孤独を望んだのに。
でも、独りでは何も出来ない。満足に生きることも、何かを楽しむことさえも。
……これでは、私が見下している弱い人間と同じじゃないか。
そうやって自分の存在に疑問を持つようになっていた時、コイツと出会った。
見下していた筈の人間の傍にいると、何故か落ち着く。
なら人間なら誰でも同じなのかと言えば、そうではない。
コイツはあまり言葉を話さない。必要なことだけを言い、それ以外は沈黙を貫く。
本来なら気まずい静寂の筈なのに、この静けさが私の心を癒している。
理解の及ばない感情だが、決して不快にはならない。
――そういえば、コイツの名前、聞いてなかったな。
二度目の出逢いなのに、お互いに名前すら知らない関係なんて、変な話だ。
「……どうした?いきなり笑って」
「え――?」
そっと自分の頬に触れる。
確かに私の表情は、弧を描いていた。
それ自体は何ら特別なことではない。
笑うなんてことはよくあるし、喜怒哀楽は激しい方だと自負している。
それでも――こうして誰かと接することで、心の底からおかしいと笑顔を浮かべることが出来たのは、果たしていつぶりのことだろうか。
そして、気付く。
ああ――私がここ数年さらけ出していた感情は、仮初めのものだったんだ、と。
その事実を知り、悲しむと同時に喜びを感じていた。
ずっと気付くことなく生涯を終えていたかもしれない、その事実を知ることが出来たことに。
そして――その事実を知る切っ掛けを与えてくれた、この人間に感謝をしていた。
「ねぇ、アンタの名前って――――」
「――何をしている、ミッテルト」
私の言葉を遮るように、馴染みのある老骨な声が響く。
「ドーナ、シーク……」
夕日を背にして、仲間であるドーナシークが立っていた。
「神器の摘出任務を放置するどころか、神器保有者と世間話とは、どこまで愚かなのだ貴様は」
「それ、は――」
「まぁいい。貴様が任務を遂行しないのであれば、私が手を下すまで」
宣言と共に光の槍を手にし、それを投げつけた。
私は――反射的に、人間を突き飛ばしていた。
耳元をかすめる光の槍。彼にはかすり傷ひとつない。
「……何のつもりだ」
「何のつもりも、馬鹿なんじゃないの?こんなもんぶん投げてさ、コイツが死んだら神器も手に入らないってのにさ」
「殺すつもりはない。せいぜい手足の一本や二本を破壊し、行動不能にさせるだけのつもりだったのだがな」
「人間に向ける攻撃じゃないことは確かよね」
「それぐらいの加減が出来なくてどうする」
意味のない会話を繰り広げている間に、人間が立ち上がる。
ドーナシークには聞こえない声で、彼に指示する。
「逃げて。アイツの狙いはアンタよ」
「待て、こちらは状況が掴めていな――」
「逃げろっつってんでしょ!何度も言わせんな!」
一瞬の間。
彼は頷き、その場を立ち去った。
ドーナシークが彼を追いかけようとするのを、間に入って阻止する。
「再度言うが――どういうつもりだ?」
「私はもっとスマートに事を片付けようとしたっていうのに、アンタのせいで計画丸つぶれよ。――ということで、憂さ晴らしに付き合って貰うわ」
「ふん、いいだろう。貴様の思惑は知らんが、レイナーレに突きだして真意を探らせてもらう」
再度光の槍を手に取るドーナシーク。
私もそれに応戦するように、両手に紅色の槍を手にする。
「(……ホント、何でこんなことしたのかしらね)」
彼を逃がした理由なんて、こっちが聞きたかった。
ただ、無意識にそうしていたのだ。
打算や計算さえも介入する余地のない、無意識による行動。
ドーナシークは、私よりも強い。
強いと言っても大きく実力の差がある訳ではないが、それでも勝率は高いとはいえないだろう。
恐らく、私は負ける。そして、レイナーレ姉さまに突き出される未来が見える。
それでも、私は彼を逃がしたことを後悔していなかった。
寧ろ、気分がスッとしている。
「(もう、なるようになれ、としか言えないっすよね)」
槍を強く握り締め、気持ちを落ち着かせる。
ドーナシークの投擲と私の突貫が重なり、それが戦いの合図となった。
正直、混乱しています。
あのゴスロリ少女の名前がミッテルトっていうのが分かったり、なんかドーナシークって老人が襲ってきたり、なんか二人は知り合いっぽいし、ミッテルトは僕が狙いだから逃げろとか言ってたし、何が起こっているのかさっぱりだよ。
応戦しようとも考えたんだけど、なんかペルソナでないんだよね。
しかも武器もなにもない、丸腰状態であんな光の槍を出す相手となんか戦える訳もないし、素直にミッテルトの指示に従うことにした。
必死の形相で逃がしてくれたミッテルトを見ていると、僕は邪魔にしかならなかっただろうしね。
そして、帰宅と同時に、またベルベットルームですよ。
相変わらずのイゴールと自分だけの寂しい空間で、イゴールはいつも通りの口調で語り出す。
「ようこそ、我がベルベットルームへ。こうして再び相まみえたということは、どうやら貴方はペルソナ能力に覚醒したようですな。しかし、どうやら問題があったご様子」
それさえもお見通しだ、と言わんばかりに口元を吊り上げるイゴール。
「貴方が発現したペルソナ能力は、本来はその身の丈を超えた領分のものでしたが、何かの拍子で奥底から現れたのでしょう。故に、その調子でペルソナを発動させようとした結果、不発に終わってしまったということです」
要約すると、アヴァラータはキタローにとってのタナトスみたいなものだったのか。そりゃあ使えませんわな。
「ご理解いただけたご様子。ですので、それを自覚した上で、自分自身を振り返ってみるとよろしいでしょう。今度こそ、貴方は力を扱うことが出来るようになっている筈です」
これだけの為にここに連れてこられたのか?と思ったけど、どうやら話はまだ続きそうだ。
「さて、これから貴方は選択を迫られることになるでしょう。選ぶ運命ひとつで、貴方の未来は大きく変化すると言ってよい程の、大きな分岐点です。何を選択するかは、貴方の自由です。ですが、決して後悔なさらぬよう。これが、私の差し出がましい助言であります」
イゴールはそれだけ言い終えると、再び家の前に戻された。
……取り敢えず、寝よう。
あ、ピンチの時に魔法陣使えって言われていたけど、忘れてた。
「……で、貴方は堕天使勢力とは一切関係がなく、あの堕天使とも偶然知り合っただけって意見は曲げるつもりはないのね?」
「無い」
僕は今、オカルト研究部の部室でリアスに絞られています。
理由は単純明快。どうやら僕とミッテルトが一緒だったことがリアスにはバレていたらしく、召還しなかったことについて怒っているのだ。
実際はぼっ立ちだけど、心の中では土下座を通り越して逆立ちしてます。
あと、ここで驚愕の事実。ミッテルトとドーナシーク、あの二人は堕天使らしい。
羽は?と思ったけど、悪魔であるリアスにも羽ははないし、隠せるものなんだろう。というかそうじゃなきゃ不便すぎる。
つまり、外見だけでは種族は判別しにくいということだ。勉強になるなぁ。
「……はぁ。それにしても、そのミッテルト?だったかしら。貴方を逃がしたんですってね」
「ああ」
「俄には信じられないけど……一部始終を使い魔で観察していた身としては、信じるしかないでしょうね」
「それで、ミッテルトはどうなったんだ?」
「もう一人の堕天使にやられて、連れて行かれたわ」
「……そうか」
なんていうか、申し訳ないことをしたと思う。
仲間だったんだろうけど、僕のせいで色々ややこしくなってしまったんだろう。
「貴方は知らないでしょうけれど、現在この街で堕天使は何かを為そうとしているわ。神器保有者から《神器》を奪おうとするのも、その一環。貴方は、ミッテルトに拐かされていたのよ」
「違う」
反射的に、そう返す。
「貴方がどう思おうと、堕天使がこの街で無法を敷いている事に変わりはない。だから、いずれ始末をつけるわ」
「堕天使全てを悪だと決めつけるのは早計だ」
「そういう半端な考えで時間を置いている内に、また誰か犠牲者が出るのよ。それをわかってるの?」
「わかっている。別に私だって堕天使がやってきたことを善だと評価するつもりはない。だが、ミッテルトだけは違う。二日ばかりの短い付き合いだが、彼女は本来そんなことをする奴ではない」
「それも、貴方の勝手な評価よね。そんなことで私の決定は揺るがないわ」
平行線で話が進む。
悪魔としてのリアス・グレモリーの立場は知っている。だから、その言い分も理解出来る。
だが、納得は出来ない。
僕は僕なりにミッテルトという少女と付き合い、そして彼女が悪い人間じゃないと判断した。
事実、彼女は堕天使側の目標とされている神器狩りを、僕に対して行わなかった。あまつさえ、僕を逃がしてさえくれたのだ。最早疑う余地はない。
それはつまり、その行為に嫌悪感を持っているからに他ならない。
だが、リアスからすれば、そんな事情はどうでもいいのだ。
分かり合う時間を掛ければ掛けるほど、この街で犠牲者が出る。管理者の立場として、それはあってはならない。
だから、絶対に頷けないのだ。
「……ならば、いい。私は好きにやらせてもらう」
こればかりは、仕方ない。
誰にだって事情はある。ゲームの中だからといって、適当を貫いていてはリーダーは勤まらない。
少しだけ、歯車が噛み合わなかったに過ぎない。だから、誰も悪くない。
「待ちなさい。どこに行こうっていうの?」
踵を返し、部室から出ようとする所をリアスに止められる。
「ミッテルトに会う。そして、本音を聞き出す」
「やめなさい。教会は堕天使の根城で、そんなところに単身入り込めば貴方は確実に――」
リアスの言葉を最後まで聞くことなく、僕は部室を出た。
そうしないと、罪悪感で決意が鈍りそうだったから。
そうして僕は、装備を整えるべく一度自宅へと足を向ける。
「どうして、わかってくれないの」
制止の言葉も聞かず、部室から出て行った有斗零に向けて、決して届かない嘆きを吐き出す。
私はただ、彼を危険に晒したくなかっただけなのに。
私が間違っている?いや、そんなことはない筈だ。
堕天使が残虐非道な行いをこの街で繰り広げてきた事実に偽りはなく、故に被害を抑える為にも殺さなければならない。
それが秩序を維持する為の理想型であり、悲しい定めだとも理解している。
……思えば、彼にばかりこちらの意思を突きつけていたが、こちらは依然として解決に到る行動を取っていないのに気付いた。
戦争とまではいかなくても、小競り合いから発展していく可能性を恐れ、後手に回る形でしか堕天使の行動を阻止出来なかった。
中途半端は、私の方だった。
そんな私の言葉が、彼に届く筈なんてなかったのだ。
それに比べて、彼は――
イッセーに対しても、そうだった。
アーシアは悪魔にとっての敵となる立場にいる。だから、彼女のことは諦めろと、そう命令した。
……二人は、同じだ。
種族とか、そういう垣根を越えて、誰かを救おうとしている。
理由こそ違えど、根幹を成す意思は同じ。
その思いを、私はこちらの都合だけで握りつぶそうとしていた。
それが如何に正しい選択だとしても、正しさは必ずしも救いとはならない。
ここでアーシアを見捨てれば、イッセーは一生そのことを後悔しながら生きていくことになる。
それは、有斗零とて同じ。
眷属を大事にするというグレモリー家が、その眷属の心を傷つけるような真似をして良いのか?
自己の意思を殺してででも、肉体的に生きてさえいれば良いなんて自分勝手な論を、相手に強要していい理由になるのか?
「そんなこと、あるわけないじゃない……!!」
机に置いた拳を強く握り締める。
腹は括った。やるべきことも、見えた。
そんな時、イッセーが部室に入ってくる。
「部長、俺――」
「イッセー、他のメンバーにも伝えて頂戴。今夜、貴方の大切なお友達を取り返すわ」
「部長、それって――!」
「早くしなさい!駆け足!」
「は、はい!」
イッセーは部室をUターンし、立ち去る。
もう、こんな私らしくない立ち振る舞いからはおさらばだ。
全力で、やってやろうじゃない。
「あぐっ……!!」
教会のとある部屋の中に、苦痛による呻き声が響き渡る。
それはドーナシークに敗北し、レイナーレのお仕置きを受けているミッテルトのものであった。
レイナーレは時には鞭で、時には光の槍でミッテルトの四肢を嬲る。
「神器保有者を庇った挙げ句、逃走を許すなんて、本当に役立たずね。いえ、それ以前の問題かしら」
「ぎっ――」
右足を強く踏みつけると、蛙が鳴いたような声でミッテルトは呻く。
既に何時間も、この拷問は続いていた。
「その神器保有者、男だったんですってね。まさか、色気づいたのかしら?」
「違――ま――」
「もう、声もまともに出せないの?この程度で、これだから下級の堕天使は……」
レイナーレはつまんなそうにミッテルトの腹部を蹴りつける。
噎せ返るミッテルトを一瞥し、ツインテールの片方を掴み身体を持ち上げる。
「違うというのなら、再度命令するわ。今度こそ、その《神器》を手に入れなさい。手段は問わないわ」
レイナーレの命令に、ミッテルトは反応しない。
意識がないのではなく、自らの意思で反抗を続けているからである。
「……自分の立場、理解していないのかしら?貴方を可愛がってきたのは、貴方が私に従順だったからに過ぎないのよ。それを理解した上で、身の振る舞い方を考えてみなさい。私が見捨てたら、貴方はどうなるかってことを含めてね」
それだけ言い残し、ミッテルトは一人部屋の隅に取り残される。
絶望感だけが、彼女の胸の内を占めていた。
どうしてこんなに、この世界は生き辛いのだろう。
弱者が見栄を張って、身の丈に合わない行動を取った罰だとでもいうのだろうか?
自分の選択は、間違いだったのか。
そんな疑問と感情が混ざり合って、彼女の心を穢していく。
そんな真っ黒な心の中に、僅かに残る光。
名も知らぬ、人間の男。ミッテルトがこうなった原因でもあり、こうしたいと思った理由でもある。
そんな彼を、彼女は殺す。そうしなければ、その末路を辿るのは、彼女だから。
《神器》を摘出すると、その人間は死ぬ。
それが絶対ではないにしても、彼女の能力ではそれも困難だし、何より時間がない。
だから、そういう安易な選択しか許されない。
「(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――――)」
弱者は強者に従うしかない。それは、世の摂理。悪魔でも、天使でも、堕天使でも――人間でも変わらない。
ミッテルトという強者が人間という弱者を殺し、生きる為の地盤を固める礎となる。
自分の都合で生かし、自分の都合で殺すことを、許してください。
そんな運命に抗えない弱い自分を、どうか許してください。
虚ろな意識の中、ただひたすらに彼への謝罪を心の中で唱え続けることしか出来なかった。
ミッテルトがオリキャラ化しつつあるけど、そもそも性格改変と言えるほど出番が無いって言うね。
だから気にしない方がいいと思うんだ。
Q:なんでミッテルト一人称「私」なの?
A:外面って奴ですよ。だからたまに素が出てる。
Q:主人公弱いですね
A:ペルソナが強いだけですから。
Q:主人公のペルソナどうなるの?
A:ペルソナ4のアニメみたいな感じになりそう(ペルソナ召喚のイメージがね)。とはいえ、各タロットに該当するペルソナがずっと同じなのもつまらないから、逐次強化はしていくと思うけど。
あと、このままだとテンプレの開幕は魔術師コミュ解放より先に別のコミュが出来そうなんだが、どう思う?