Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D   作:花極四季

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普段からこんなに長いから投稿が遅れるっていうなら、分割にした方がいいのかな。
というか、私にうまくまとめる技量がないのがいけないんだけどさ。
それを差し引いても、FF14で実装されたゴールドソーサーにはまってるのが一番の原因なんでしょうけれど。あと夜勤突入したこととか。


第三十話

「……ねぇ、それどうしたの?」

 

冥界から戻った私達は、久々に零達に会いに自宅に窺ったのだが、そこには零にべったりとくっつくミッテルトと、それを面白げに眺めるゼノヴィアの姿があった。

事前情報によれば、

 

「こうでもしないと、どっか行っちゃうから、仕方なくよ」

 

「そう言って聞かないんだ」

 

「……本当になんだっていうのよ」

 

冥界でも禍の団の一員であり、黒歌と言う名の子猫の姉からの襲撃もあって、私を含め眷属達はあまり精神的に高揚してはいなかった。

そんな状況で、この見せつけてくれる態度。イライラを顔に出さない辺り、変なところで自分の成長が実感できてしまい、余計に凹む結果になる。

私も零とイチャイチャした――じゃない!

 

「あ、あうあうあう……」

 

「あらあら」

 

ギャスパーは目の前の光景を前に混乱し、朱乃は笑顔だけど黒いオーラを出して零を見つめている。

特に朱乃、気持ちは分かるけど自重しなさい。

 

「というか、蒼那から聞いたわよ。二日ぐらい唐突に消えたんですってね。それでミッテルトがそんなくっついてるってことなんでしょうけれど、一体どうしたっていうのよ」

 

「ああ……いきなり拉致されたんだ。オーフィスという少女にな」

 

「オーフィ……!?」

 

零以外の全員が、その言葉に驚愕する。

オーフィスと言えば、最強の龍として有名な無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)であり、神が生まれる以前より存在するとされる、神さえも滅ぼすことのできないという逸話を持ち、今は禍の団の象徴として飾られているとされる龍だ。

そんな化け物が、よもや駒王町に現れただけでなく、三勢力の話題の中心である零に誰にも気付かれずに干渉していただなんて、驚くなという方が無理な話である。

 

「って、ミッテルト。貴方も聞いてなかったの?」

 

「初耳ッスね。というか、どれだけ聞いても今の今まで言い渋ってたのよ」

 

「なんでそんな重大なこと黙ってたのよ!」

 

「……誰だって、恥を語ることを渋るのは当然だと思うが」

 

珍しく影の差した表情をする零。

言いよどむあたり、よっぽど言いたくないことなのか。

 

「恥?」

 

「あのような子供にいいようにされたのだ。言いたくもなくなる」

 

視線をそらし、それ以上零は何も言わなくなった。

恥とは、何の冗談か。

二天龍でさえ太刀打ちできないかもしれないレベルの存在を子ども扱いした挙句、なすすべなく強制転移させられた事実を本気で恥だと認識している。

普通なら、仕方ないの一言で終わらせられるぐらいの相手に対して、だ。

零のことだから、まさかオーフィスを知らないなんてことあり得る訳がないし、分かってて言っているのは間違いない。

つくづく、頭が痛くなることばかり引き起こしてくれる。人の気持ちも知らないで。

 

「……まぁ、その話は追々するとして、今日は用事があって来たのよ」

 

「用事?」

 

「ええ。零達に今度行われるレーティングゲームの特別席に招待する誘いをしにね」

 

「レーティングゲーム……久しぶりに聞くな。しかし、観戦とはいえ参加していいのか?」

 

「確かに人間である貴方はレーティングゲームに参加する権利はないかもしれないけれど、そんな立場を無視できるぐらいの繋がりを持っていることに気付いているのかしら?」

 

「魔王に天使長に堕天使総督……うん、レーティングゲームのルールぐらい多少捻じ曲げるぐらい訳ないわね」

 

「正確にいえば、これはお兄様――サーゼクス・ルシファーからの正式な招待だから、何も気兼ねする必要はないのよ」

 

この報せをグレイフィアから聞いたときは、最初は何を考えているのかと思ったものだ。

お兄様は零の存在を今回の件で正式に表に出すことで、あらゆる方面からの牽制をしたいのかもしれない。

今でこそまだ噂程度に留まっているが、零の名前はこれから確実に世界に浸透していくことだろう。

言い方は悪いが、だからこそ今のうちにツバをつけておいて、逆に零への干渉を抑えようと考えているのかもしれない。

そしてあわよくば、三勢力の中で一番繋がりが深いのは冥界側であるという認識を植え付けたいのだろう。

わが兄ながら抜け目ないと思う。だけど、魔王という立場を思えばその気持ちも分からなくもない。

まぁ、お兄様のことだから、純粋に親友になりたいとも考えているのは間違いない。

 

「ふむ……せっかくの招待だ。レーティングゲームがどんなものかも見てみたいし、私は謹んで受けよう」

 

「レイが行くなら当然行くわ」

 

「面白そうだし、私も行くぞ。本音を言えば、参加する側に回りたかったが……」

 

「なら、今からでも悪魔に転生する?歓迎するわよ」

 

「それはお断りさせてもらう」

 

「それは残念」

 

期待してはいなかったが、残念なのは本音だ。

聖剣デュランダルの担い手が眷属になれば、前衛組の大幅な戦力アップが見込める。

祐斗とライバル関係にあるということから、より身近な関係になれば切磋琢磨も著しくなるだろうし、盲目な目線を捨てた彼女は親しみやすい性格をしており、ムードメーカーとしても一躍買ってくれるだろう。

まさに至れり尽くせり、言うことなし。

決して、零と同じ屋根の下で平然と暮らしていることを嫉妬していて、眷属側に引き抜けばそれもなくなるだろうとか、そんな打算的なことを考えているわけでは一切ない。

 

「因みに対戦カードはどうなってるの?」

 

「言ってなかったわね。相手は蒼那とその眷属たちよ」

 

「駒王学園の生徒会長で、確か悪魔でもあったな。勝算はあるのか?」

 

「ある。……って言いたいところだけど、五分ってところね。蒼那の作戦立案能力は、私を遥かに凌ぐわ。眷属の質では負けるつもりはないけれど、こればかりは優っているとは言えないわね」

 

「あれ、普段のお高い頭は今日は留守番ッスか?」

 

「そういう貴方は、いつも通りの毒吐きね。……彼女とは長い付き合いだからね。だからこそ、見えてくることもある。同じ時間を共有し能力を高めあって来たから、比較対象はどうしても彼女になるから、余計にね」

 

「ふうん……。まぁ、それならお互いに手の内の読みあいになるだろし、戦略を練るのに長けたソーナの方が有利ってことかしら」

 

「私がそういうのに疎いだけかもしれないが、ソーナ・シトリー本人や眷属についての情報は聞かないのが気になるがな。グレモリーは兵藤という赤龍帝がいるが、彼女からはそういう特別な噂は耳にしない。眷属の質だけで言えば、グレモリーに有利が働いている可能性はありそうだが」

 

「仮にそうでも、駒を有効に扱えなきゃ宝の持ち腐れよ。というわけで、私はソーナを推すわ」

 

「なら、私はグレモリーに賭けよう」

 

「いや、なに本人の目の前でトトカルチョまがいのこと企てようとしてるのよ」

 

「別にいいだろう?この手の催しなんてものは、裏でこういうことを当たり前にしているものだと聞くぞ?」

 

「仮にそうでも、堂々としすぎでしょう……」

 

「それに、金を賭けるつもりはない。何でも一つ言うことを聞かせるだけだ」

 

「それ、貴方がさせる側に回った瞬間金銭のやり取り以上に酷いことになりそうなんだけど……」

 

ゼノヴィアの俗物的な物言いにがっくりと項垂れる。

協会から縁を切ってからのゼノヴィアは、良くも悪くも自由すぎた。

神へのあの信仰心が、今ではこんなに落ちぶれて……。悪魔的には改心したと言うべきなんでしょうけれど。

正直、ゼノヴィアはどこに行こうとも勝手に順応して不自由なく生きられる、天性の生き上手なんだろうと思わずにいられない。

 

「零はどうだ?どちらに賭ける?」

 

ゼノヴィアは唐突に零に話を振る。

内容が内容だけに、私の身体も自然と強張る。

 

「…………」

 

しかし、零は無言を貫く。

それどころか、先程から閉じた目を開くことなく、目線を合わせようともしない。

嫌な予感がする。いや、付き合いが長いのは私達の方だし、優しい零のことだから、どちらかを贔屓にしたくないだけ、よね……?

何か言ってよ。怖くて聞けないから。

 

「レイに馬鹿な質問向けてるんじゃないわよ。リアスと姫島も、あんまり気にしなくていいッスよ」

 

「え、ええ……。じゃあ、私達はもう帰るわ。帰ってきたばかりでへとへとだし。ほら、二人とも行くわよ」

 

「零君……今度じっくりお話しましょうね」

 

「ミッテルト先輩……どうして……」

 

取り敢えず、私達も本格的に退散しないと、そろそろ真っ黒な朱乃が出てきそうでその矛先は間違いなく自分に向く。

ギャスパーも、慕っているミッテルトがソーナを支持している風なことを言ったものだから、どこか影のある表情をしている。

ああ、胃が痛い。これが《王》の定めなのかしら……。

 

 

 

 

 

筆の走る音と、外の明るい喧噪を聞きながら書類整理を済ませていく。

生徒会室には私、支取蒼那ひとりだけ。

眷属達は、来るべきリアス達とのレーティングゲームに向けての修行を行っている。

私は、夏休みの間に溜まった生徒会への案件を片付けるべく学園に足を運んでいた。

本来なら、優先すべきことではなかった内容だ。

だけど、私は逃避した。日常生活の営みに触れ、戦いから目を背けることで、あの時の光景を思い返さないようにしていたのだ。

 

冥界で次世代の新人悪魔同士の邂逅が行われた際に、お偉方の前で行った宣誓に対するあの反応。分かっていたとはいえ、辛いものがあった。

私の夢――冥界に地位や身分の低い下級悪魔達のための、レーティングゲームを学ぶ学校を建てたいという願いは、今の冥界の在り方とは真逆の考えである。

下級悪魔、転生悪魔は上級悪魔の眷属となり、仕えるのが本懐。持って生まれた上級悪魔としての地位、身分のいわばエリートの為に奉仕する。そんな一方的な理屈が、私には納得できなかった。

出生が違うだけで、夢も希望をも得る権利さえも奪われる。

悪魔が実力主義によって成り立っているとはいえ、その根底にあるのは貴族社会のそれだ。

水は高きより低きに流れ、なんて思想は幻想だ。謙虚であろうとも、努力をしようとも、下級悪魔、転生悪魔であるというだけで奇異な目で見られ、爪弾きにされる。

同じ冥界悪魔で同期であるサイラオーグ・バアルは、バアル家特有の《滅びの力》の才を持たない、世間的に見れば落ちこぼれに相当する男性だ。

だが、彼は努力で他の追随を許さないほどの力を身に着け、今では期待の星として注目されている。

それは喜ばしいことだと思う反面、その輝きも所詮、バアル家の血筋という下地がなければあり得なかったというのが、今の冥界のシステムなのだ。

 

私が笑われるのはいい。だけど、その嘲笑が下級悪魔達へ向けての総意なのかと思うと、悲しくて、辛くて――それがプレッシャーとなり、私を窒息させようとする。

自分で抱いた夢に潰されそうな感覚。ああやって直に現実を突きつけられたことで、嫌でも認識してしまう。自分の見ている夢が、如何に果て無い夢物語なのかを。

これから徐々に台頭していくにあたって、周囲の期待も膨らむことだろう。私の理想は、間違いなく世間へのPR効果の為に広まることだろうし、胸の内に留めておくなんてことでは終わらない。

勝利は更なる高みに至るための階段になれど、敗北は一転してそれらを崩壊させる。

羨望、期待から反転、侮蔑、失望の目に変わったときのことを想像するだけで、吐き気がこみ上げる。

私は、こんなに弱い女だったのか。

こうして何かに逃避しなければ、自分を保つことさえ難しい私が《王》だなんて、笑い話にもならない。

 

――ふと、零君の姿が頭に過る。

もし、彼が私と同じ立場だったら、どういう反応をするのだろうか。

考えたところで、毅然とした態度で、言葉の重みに屈することなくしっかりと大地を踏みしめる姿ばかりが脳裏に浮かぶ。

彼からは、ネガティブなイメージを想像することさえできない。

最も儚い存在である筈の彼が、身も心も悪魔である私より強いだなんて、笑い話にもならない。

思えば私達は、いつも彼に護られてばかりで恩を返すことができないままでいる。

恩を返さんと一つ借りを作る度に意気込んでも、結果はいつも負債を重ねるだけに終わる。

どうすれば、彼の力になれるのだろうか。

どうすれば、彼のような強さを得ることができるのだろうか。

私は――一体、彼に何を求めているのだろうか。

 

突然、ドアのノック音が部屋に響く。

佳境に入ったとはいえ、夏休みの最中に生徒会室を訪れるなんて、先生ですら稀だ。

 

「開いていますよ」

 

「失礼する」

 

誰だろうと思いながらもノックに応える。

部屋に入ってきたのは、思いもよらぬ人物だった。

そこにいたのは、つい先ほど考えていたばかりの有斗零その人だった。

 

「零君……どうしてここに?」

 

「君に会いに来た」

 

「何故です?」

 

「リアスから君がレーティングゲームの相手だと聞いた。だから一度話でもしておこうと思ってな」

 

「話……ですか」

 

まさか世間話の為だけにここを訪れたのだろうか。だとすれば随分と物好きだ。

経費削減の為に空調も効いていない不快極まりない空間に、私のような地味女と一対一の会話をしたいだなんて、逆に何か重要な話でもしにきたのではと疑わずにはいられない。

 

「話があるのなら、手短に済ませましょう。私も仕事がありますし、ここは空調も効いていないのでいても辛いだけですから」

 

思わず事務的な態度で接してしまうも、彼はそれを気にした様子もなく話を進める。

 

「君がそうして欲しいというなら、そうしよう。――それで、君とリアスがレーティングゲームで戦うという話を当人から聞いたのだが、君の方からもその件について聞いてみたいと思ってな」

 

「例えば?」

 

「まず、君から見たリアスチームの評価と、自分のチームと比較しての戦略などをな。別にリアスに告げ口する気はないぞ」

 

「貴方がそのような卑怯な真似をする人だとは思っていませんよ。……リアスの眷属達は少数ながらも精鋭ぞろいです。赤龍帝である兵藤一誠を初めとして、リアスの優秀な参謀であり強力な雷を扱う姫島朱乃、禁手に至り、聖と魔という対極の力を武器に戦う《騎士》木場祐斗、発展途上なれど潜在能力の高さは十分な《僧侶》アーシア・アルジェントに《戦車》塔城子猫。それに、イレギュラーにも急激に成長を見せているもう一人の《僧侶》ギャスパー・ヴラディと、優秀な眷属が揃っています。私の眷属もそれに勝るとも劣らないと自負してはいますが、爆発力だけで言えば一歩劣ることは否定出来ません」

 

単純な戦闘力だけでなく、ネームバリューや見栄えという意味でも、目を惹く要素が薄いのは問題点のひとつである。

レーティングゲームは、ただ戦うだけの場ではない。そこには、爵位や地位の向上といった出世に関わる重要な意味が含まれているのだ。

大義名分としては、実戦を経験する機会が少なくなった今の悪魔達にゲームという形で戦いの場を提供し、能力を高めあうというものがあるが、レーティングゲームを知る悪魔からすれば、参加する目的は限りなくひとつのみに絞られる。

周囲の評価が地位向上に繋がるという意味では、ただ相手を倒すのではなく、如何にして魅せるかという部分も重要になってくる。

私の場合、それを幾何学的な采配を以てして表現するつもりではあるが、逆にいえばそういう部分に理解が疎い人には評価されにくいという弱点がある。

リアス達が打ち上げ花火なら、私は線香花火。感覚的に理解を得られやすいという意味では、リアスは優遇されていると言えた。

しかし、あの命短い刹那の煌めきにしかない美しさもある。私はただ、それを証明すればいい。

 

「とはいえ、あちらも発展途上である以上、付け入るスキは幾らでもあります。手に入れたばかりの力は、逆に枷にもなりえるものです。勝算は十二分にあります」

 

「随分と頼もしいな。……だが、それにしては不安そうだな」

 

やはり、ばれていた。

顔に出やすい体質なのか、零君が聡いだけなのか。

何にせよ、言い逃れは出来そうにない。

 

「不安にもなります。私は《王》であり、眷属の将来――いえ、人生を背負う身です。敗北は私だけでなく、眷属達の命運さえも握っているのと同義なのですから」

 

「それを言うなら、リアスも同じだろう。あっちは気負っている様子はなかったぞ」

 

「それは、彼女が自分に絶対の自信を持っているからです。この学園においても、二大お姉さまと呼ばれるほどに親しまれ、慕われている彼女のカリスマ性は相当なものです。鶏が先か、卵が先か。生まれながらにカリスマ性があったのか、それとも取り巻く環境がそれを生んだのか。何にせよ、彼女は私にはない他者を惹き付ける魅力があります。生徒会長をやっておきながら、話題性の薄い私とは大違いです」

 

幼いころからの知り合いとはいえ、分からないこともある。

彼女のような魅力ある女性にどうすればなれるのか、とか。どうすればあそこまでの自信を持つことが出来るのか、とか。

参考にしようとしたことは幾度もあったが、決して実になることはなかった。

だから自然と、私にはそういうことへの才能がないんだと思うようになっていった。

 

「そうとは思えないがな」

 

「一定の支持があるのは理解しています。ですが、それ以上にリアスが凄いというだけの話です。それにその支持も所詮、生徒会長の役割を果たしたが故の一定の水準で得られる代物でしかありません」

 

言い終えるが否や、零君は深い溜息を吐いた。

 

「謙虚は美徳だが、度が過ぎればただの嫌味だな。私からすれば、君が地味なら私は凡夫以下だ」

 

……それこそ、謙虚を通り越した嫌味ではないだろうか。

確かに、彼は美形と呼ばれる部類の顔立ちでもなければ、学園内では大人びた雰囲気はあれど特別な支持があるかといえば、そんなことはない。

どこまでも一般人で、どこにでもいるような存在。

だが、それはあくまで事情を知らない人からの視点でしかない。

裏を返せば、彼ほど地味と無縁の存在はいないだろうと言い切れるほどの特異性を秘めているのだから、おかしな話である。

 

「眷属達の将来を担っていると言ったが、君はレーティングゲームの勝利によって何を成し遂げたいんだ?」

 

「私は……。今の格式高い上級悪魔ばかりが出来るレーティングゲームの流れを変えたいんです」

 

「済まない、レーティングゲームのことはさっぱりなんだ」

 

そんな零君に、レーティングゲームの歴史から分かりやすく簡潔に説明をする。

私がレーティングゲームに賭ける思い、目的。そういった部分は特に念入りに。

 

「つまり、君は一部の上流階級しか参加することのできない今のレーティングゲームの成り立ちを変えるべく、下級悪魔でもレーティングゲームを学べる校舎を作りたい、と。それで間違いないな?」

 

「そうです。身分不相応な願いだとは理解しています。それでも、私はこの夢を現実にしたい。夢も希望も、ただ生まれが違うだけで剥奪されるなんてあってはならないことです。それが例え、古来からの伝統に罅を入れる行為になろうとも」

 

「……そうか。それは、凄いことだ」

 

その時の零君の表情を見て、驚いた。

彼が、笑っている。見たこともないぐらいに優しい笑みを作っている。

良く彼と共にいるリアスからでさえ、こんな顔をしたとかそういう自慢話を聞かない。

ミッテルトさんなら或いはとも思うが、彼女ほどの距離でしか見られないレベルの笑顔ともなれば、貴重なんてものではない。

 

「凄い、ですか?」

 

「プレッシャーに耐えながらも、誰かの為になる夢を実現させようだなんて、簡単に出来ることじゃない。君の立場ではないから程度こそ分からないが、眼を見れば君が本気だということは分かる」

 

「ですが、私も所詮はそんな下級悪魔達を踏み台にしている上級悪魔です。この行為は、ただのエゴでしかないのかもしれません。罪悪感から逃げたいからとか、無意識のうちにそう考えているから、こんなことをしているんじゃないかって思うようにも――」

 

「そこまでだ」

 

ネガティブになっていく発言にぴしゃりと言葉で遮られる。

 

「君の悩みは無意味なものだ。背負う物が出来たから後戻りが出来ないという意味じゃない。君のしていることは間違いなく正統に評価されるべきものであり、後ろめたさを感じる必要なんてないんだ」

 

「そんな簡単に割り切れるなら、とっくにしていますよ」

 

「そもそも、たった一代から始まった夢に、古くから存在する歴史や伝統が埋もれてしまうようなら、そんなものは無価値なただの害悪な思想だったと言うに過ぎない。それとも、君は自分の夢がその伝統とやらを簡単に覆せると豪語出来るほどに傲慢なのか?」

 

「そんな訳、ないじゃないですか」

 

そうだったら、そもそもこんな悩みなんか抱えていない。

きっと、彼もそれを理解した上でこのような問答をしている。

 

「なら、気負う必要なんてない。後ろ指差されようが、亀の一歩だろうが、少しずつ君のペースで、確実に進んでいけばいい。ただし、後ろ髪には決して引かれないことだ。振り向くだけならいいが、そこから逃げることだけは駄目だ。それは、君を信じてくれている人達の心を裏切る行為になる」

 

真っ直ぐな視線と共に、厳しいながらも思いやる言葉が私を包み込む。

 

「そもそも、歴史や伝統は尊重するものであって、執着するものではない。存在が望まれているものなら、誰が何をしようとも何かしらの形で残り続ける。君が懸念するようなことの殆どは、徒労でしかないんだ。それに――」

 

「それに?」

 

「人の為に尽くす、という行為は人の意思があってこそ輝くものだと私は考えている。事務的に、機械的に淡々と目的を遂行するなんて、有難味がないだろう?だから私は、君のその思いやりの心に偽りがないと信じられる」

 

その言葉を前に、私は口を動かすことが出来なかった。

何故、彼はここまで他者を信用できるのだろう。

明け透けもない好意の言葉が、不気味でありながら麻薬のように魅了する。

聖職者が語りそうな教えと違って、彼自身の――それこそ極端な話日常会話レベルの内容の語りだから、逆に受け入れやすいのかもしれない。

 

「……ふふ」

 

「どうした」

 

「いえ、リアス達も苦労しているんだな、と思いまして」

 

常日頃からこんな言葉を聞かされていると思うと、彼女達の苦労も窺い知れる。

 

「ありがとうございます。少しだけ、気持ちが楽になった気がします」

 

「それはよかった」

 

「あ、その……もしよかったら、またこうして話を聞いてもらってもいいですか?立場上、あまり弱みを見せる相手がいないので」

 

「それは構わないが、リアスでは駄目なのか?或いは君の眷属とか」

 

「駄目ではありませんが、彼女とはレーティングゲームでのライバル同士。気兼ねなく、という風には行きません」

 

「難儀な性格をしている」

 

「全くです」

 

互いに小さく笑みを作る。

久しぶりに心穏やかな気分になれた気がする。

だけど、そんな時間も終わりを告げる。

 

「では、そろそろ失礼する。急に邪魔して悪かったな」

 

「あ――はい、今日は楽しかったですよ」

 

零君は何も言わず、部屋を退出した。

思い出したかのように身体に熱が戻っていく。

それだけ彼との会話に充足感を得ていたというのだろうか。

彼に言われたからと言って、簡単に変えられるような考えではないけれど、少しは頑張ってみよう。

 

 

 

 

 

あ、節制のコミュ解放された。

そんなつもりはなかったんだけど、それを目的にしているようであんまり気分のいいものじゃないなー、と最近思う。

いや、そういう認識をしてしまうから、意識が引っ張られてしまうんだ。

そもそも、さっき支取さんに言ったばかりのことを自分が体現できていないなんて、あほらしすぎる。

 

「有斗先輩」

 

突然の自分を呼ぶ声。

気が付くと、目の前に小猫ちゃんがいた。

 

「夏休みなのに、何故君がここに」

 

「先輩を探していました」

 

「はい。……私の質問に答えてもらえますか」

 

いつもより僅かに鋭い目で問いかけてくる。

 

「まず、先輩は私たちが留守にしている間、どこにいましたか?」

 

「主にこの町で活動していたが、不測の事態から一時期ここから離れていたこともあったな。調べる暇もなかったから、地名までは把握していない」

 

「……では、次。黒い猫に心当たりは?」

 

「黒猫か。前に何度か会っているが、最近は見ていないな」

 

色々あって忘れてたけど、本当にあの猫どうしたんだろ。

いや、飼い猫でもなさそうだったし、常日頃からこの場に留まり続けている訳もないから、会えるも会えないも運次第なんだけどさ。

 

「――それでは最後に、黒歌、という名前に聞き覚えは?」

 

「ないな」

 

「……そう、ですか。分かりました、失礼します」

 

一礼し、小猫ちゃんは立ち去っていく。

一体なんだったんだろう。

もしかして、あの猫の飼い主って小猫ちゃんだったりするのかな?

わざわざこんなところにいる自分を訪ねたのも、その猫を大切に思っているからだと考えれば、その愛の深さも知れるというもの。

名前も名前だし、単に猫好きというだけかもしれないが、何にせよ力になれなくて申し訳ない。

今度あの猫に会ったら、真っ先に報告しよう。




Q:展開遅スギィ!
A:ほんとにそう。コミュ解放と次へのつなぎだけで一万文字近くとか、ないわー。

Q:雑なコミュ解放に草
A:これでもハイスクールD×Dで一番に好きになったのは支取蒼那嬢だったりするんですよね。セラフォルーも好きだから、そっちをメインヒロインに絡めた作品も書きたい。書きたいものが多すぎる。時間くれ。あと速筆の才能。

Q:離さないと言っておきながら離れたミッテルトたん
A:アーシアと一緒にいるんじゃね?(キマシ

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