Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D 作:花極四季
気が付けば、私はベルベットルームにいた。
何の兆候もなく、それこそ拉致された感覚で。
「驚かれましたかな?」
「イゴール……貴方が私を呼んだの?」
「そうでございます。何分、あれから一度も顔を出してくれないものですから、目的を忘れられているのでは?と懸念していたのですが、どうですかな?」
「あ、あー……」
忘れていた。
と言うよりも、レイの一件もあり、そこまで気が回らなかった。
言い訳にもならないが、それぐらいの事件があったということだ。
決して、イゴールという存在を蔑ろにしていた訳ではない、筈。
「そ、それよりも!貴方、レイの中にいる存在を知ってる?黒い鎧を纏ったペルソナ!」
はぐらかすように、好都合な話題を絞り出す。
実際、イゴールならば解を持っているのでは?という期待はある。
話の腰を折るには、絶好の話題と言えた。
「ええ、知っておりますとも」
「本当?」
「嘘は言いません。ですが、私が答えられることはあまりありませぬ」
「ど、どうして?」
「ならば逆に問いますが、貴方は私から又聞きした情報を、どう受け止めるおつもりですかな?」
「え?」
「故も知らぬと言っても過言ではない程の浅い繋がりでしかない私の言葉を、素直に受け止めてそれで満足されるおつもりですか?」
「そ、れは……」
イゴールの的を射た言葉に、言葉を濁す。
本人に訪ねられないなら、他に知っていそうな相手に聞く。
なるほど、確かに合理的な対応だ。
だがそれは、信頼という代え難いものを代償に得るには、あまりにも安い回答だ。
言葉では信頼を表現していても、こういった行動のせいでそんな高尚な言葉も陳腐に成り下がる。
私は、過ちを犯すところだったのだ。
「確かに私の口から発せられた出来事もまた、ひとつの真実となりえるでしょう。ですが、それが貴方の望む真実とは限りません」
イゴールはアルカナタロットを拡げ、その内の一枚を取り出す。
それは、月の絵が象られていた。
「真実とは、無限に存在するが故に、その形は酷く曖昧で不明瞭。だからこそ、間違った真実を掴み取れば、全てが失われてしまう可能性さえあります。気を付けなされよ」
「え、ええ……」
イゴールのどこまでも真剣みの帯びた言葉に、思わず頷く。
それが嘘偽りのない言葉であることが、感覚で理解出来た。
「先が見えないが故の不安、疑念もありましょう。それはまさしく、暗闇の迷路を歩くが如し所業。ですがその試練を乗り越えた時、必ずしや貴方の求める真実に辿り着けるでしょう」
まるで見てきたかのように断定するイゴール。
根拠も何もない言葉の羅列でしかないそれを、私は何故か当たり前のように受け入れていた。
少なくとも、私以上にイゴールはレイのことを知っている。
その事実が、どうしようもない不快感を抱かせる。
同時に、それがただの八つ当たりでしかないことに気付き、自らを叱咤する。
「では、報告の方をお聞かせ願いましょうか」
言うべきことはすべて言い終えたと言わんばかりに、イゴールは話題を変える。
そこからは、レイの現状を子細に説明する時間となった。
話している間、こんなことせずともイゴールなら全て見通しているんじゃないかと思ったりもしたが、それを口にすることはなかった。
「成る程……先程の質問の意味も、理解しました」
「レイは大丈夫なの?」
「問題ないでしょう。軽く制御が離れた程度ならば、彼への負担は微々たるもの。お気になさる必要はありませぬ」
「あれで、軽く制御出来てなかったって程度なの……?」
「驚かれているようですが、貴方の手の内にある《神器》もまた、同じ性質を内包しているのですぞ?とはいえ、あれは特殊な――貴方が如何に強くなろうとも扱うことは出来ないものですから、関係ないといえばないのですが」
「どういうこと?」
「ペルソナとは、文字通り仮面という意味で構成された力です。――隠された一面、自らも知らない裏の顔、目を背けてきた汚れた感情。そんなもう一人の自分と呼ぶに相応しい概念を、神話生物などになぞらえて具現化させる行為。本来はそのような性質故、ペルソナは一人一体というのが普通です。しかし、彼のようなワイルドと呼ばれる複数のペルソナを行使できる特殊な存在、貴方のような道具を利用して同等の力を扱えるようなケースでもない限り、という条件はありますが」
「でも、このペルソナ全書って、レイのペルソナとリンクしているんでしょう?それでも使えないってどういうこと?私の力不足ってこと?」
「それもありますが、そもそも私自身、アレの全容を把握しきれてはおりませぬ。なのであまり断定は出来ませぬが、あれは貴方が使用しているような意識集合体の欠片ではなく、彼自身であるが故、と判断します」
「意識集合体の欠片……?意味が分からないわ」
話についていけない私に、イゴールは丁寧に補足を入れていく。
「先程申し上げた通り、ペルソナとは個人の持つ裏と呼べる要素が力となって具現化したもの。しかし、それならば何故ワイルドは幾つものペルソナを使用できるのか。果たしてその力の源はどこなのか?と考えられませんか?」
「確かに……」
「彼の力の源は、絆。いえ、ワイルドの力の根幹を成すものと言った方が分かり易いでしょうか」
「絆……そういえば、レイも絆が力がどうのって言ってたわね」
その言葉には、聞き覚えがあった。
彼が幾度と口にするそれは、過去から今に至るまで記憶に鮮明に刻まれている。
それ以前に、言葉にせずとも彼が絆という概念に非常に重きを置いていることは分かりきっていることだ。
「ワイルドによって召喚されるペルソナは、他者と育んだ絆――その過程によって生まれた感情を十把一絡げにしたものです。喜び、怒り、悲しみ――それが刹那的なものであっても、互いの信頼の昇華へと繋がる事象となれば、それは紛れもなく絆の欠片」
「つまり、あの鎧のペルソナと、私が使えるようなペルソナは、実質別物ってこと?」
「別物、と一概に言い切ることは出来ませぬが、そうとも言えなくないですな。貴方が言う鎧のペルソナは、世界でただひとつ、彼だけのもの。たとえ無数のペルソナを使用できるワイルドでも、決して他人には成れないのですよ」
「まぁ、言いたいことは分かったわ。なんとなくだけど。でも、そうなると鎧のペルソナのような存在は、誰しも持ち得ているってことなの?」
「ええ。擬似的に死を克服する、自らの醜い部分を肯定する。条件こそ様々ですが、共通して言えることは、どちらも人間が常に目を背けてきた、弱さを克服することに繋がっております」
「弱さを、克服――」
イゴールの言葉を、咀嚼するようにゆっくり呟く。
「弱さと言っても人それぞれ。個人の持つ最も根が深く、無意識に封じ込めようとしているものこそ、その対象と為り得るのです。更に言うならば、その弱さは本人にさえ理解の及ばぬものであったり、実は知らずの内に克服していた、なんてこともままあることなのです」
「無自覚でも弱さを克服していたら、ペルソナを使えるの?」
「ペルソナの使い方を自覚していれば、ですが」
つまり、場合によってはレイや私以外もペルソナを扱えるということに他ならない。
私はてっきり《神器》の力によって使えるものだとばかり思っていた。
……じゃあ、レイの持つあの《神器》は一体何?
頭が混乱する。現実と矛盾が交差してごちゃ混ぜになって、正常な思考を阻害する。
だけど、ひとつだけはっきりしていることがある。
私にもペルソナが、レイから間借りしたものではない、私だけのペルソナが存在するということ。
他の人もその例に漏れることはないが、力の使い方を理解しているというアドバンテージを考えれば、恐らくそう遠くない未来に扱えるようになる筈。
とはいえ、今の自分にそんな力が覚醒しているような感覚はない。
つまり、私は未だ弱さを克服していないということになる。
そんなの、こんな形で証明されずとも、分かりきったことだった。
「無理に理解する必要はございませぬ。ペルソナとは絆の力であり、もう一人の自分の具現であるということさえ理解していれば何も問題ないでしょう」
「おざなりな回答ね。あれだけ説明しておいて」
「真に知識が必要な時になれば、嫌でも理解することになるのですから、それでいいのです」
知ったとき、取り返しのつかない何かが起こってなければいいけどね。
「……待って。鎧のペルソナは明らかにレイの意思とは関係なく暴走のような状態を引き起こしていた。それって、そのペルソナを使いこなせていないと取れると思うんだけど」
レイは強い。少なくとも、私はそう思っている。
精神が強靱であることは、最早疑うべくもない。
そんな彼のペルソナは、宿主が弱った途端、いとも容易く暴走した。
「やれやれ、質問が多い方だ。ええ、その通りでございます。彼の技量では、アレの制御はおろか、自意識による召喚もままならないでしょう」
「そんな馬鹿げたものが、レイのペルソナだっていうの?」
「ペルソナは、使う者によって無限の可能性を引き出すことが出来ます。ですが、それ故に力を持て余し、暴走することもあります。本来ならば鎧のペルソナとやらも表に出ることはなかったのでしょうが、彼の命の危機に反応し、彼を守るべく無差別の破壊を行おうとした結果が、イレギュラーの真相でしょう」
「じゃあ、もしかしてまた同じようなことがあったら」
「二の舞になることは、想像に難くないでしょうな。それをさせない為にも、貴方には頑張ってもらわねばなりませぬ。彼もまた、大事なお客人。そのサポート役を買って出たからには、貴方にはもっと強くなってもらう必要があります」
「そんなの、言われなくたって」
自分の力不足は嫌と言うほど実感している。
ペルソナという強力な力を得たと言っても、それでは足りない。
「ですが、忘れてはなりませぬ。彼の持つペルソナを使ってはいますが、その力の源は、貴方自身が育んだ絆だということを」
「え――」
そうだったの?と口にするより早く、私の視界は闇に染まった。
現在、駒王学園は夏休み真っ盛りです。
リアルだなぁ、と思いながらも、やはり休みというのはいつだって最高なものであり、それを享受したいと思うのは至極当たり前の流れであって――つまり、夏休み最高!
最高、なんだけど……実はかなり暇だったりする。
理由としては、リアス達が次回の《レーティングゲーム》に向けて冥界で修行するからである。
冥界っていうのは、簡単に言えば悪魔側の領土みたいなもので、人間である自分が入るには、環境が良くないらしい。
何?常に毒の沼歩いてるような感じ?そりゃ辛い。
人間である弊害がここにも来たか……としょんぼりしつつ、それも運命だと受け入れる。
しかも、ミッテルトも修行をしたいって理由で冥界に行っちゃったもんだから、家には彼女を除いた三人だけ。
一人いなくなるだけで家の中がすっからかんになった気分だ。
それだけ彼女と居た時間が長かったということなんだろう。
まぁ、そんなこんなで暇を持て余している自分は、散歩がてらの買い出しに出ている。
ゼノヴィア達も同伴しようとしていたが、女性に荷物持ちをさせるのは流石にアレだし、お断りしておいた。
寄り道するな、とか、知らない人についていくな、とかまるでお母さんのような台詞を背中に受けながら家を出たことは、記憶に新しい。
そんなに危なっかしいかね、自分。
「見つけた」
買い物袋を手に下げ、帰り道を歩いていると、ふと背後から透き通った声が聞こえる。
思わず振り返ると、そこにはゴスロリな格好をした少女が立っていた。
周囲には誰もいない。少女の目線は真っ直ぐこちらに向けられている。
つまり、見つけたという言葉は、紛れもなく僕に向けられたもの。
「君は?」
「我、オーフィス」
「オーフィス、君の探し人は、私なのか?」
問いかけに無言で頷くオーフィス。
やだ……可愛い。
「それで、何故私を捜していた?記憶の限り、面識はない筈だが」
「協力して欲しい。静寂を取り戻したい」
「静寂……?」
抽象的で要領を得ない会話に、首をかしげる。
「我、感じた。グレートレッドを打倒する可能性、その力の奔流の正体を探して、ようやく会えた」
「それが私だというのか?――人違いだろう」
「それは有り得ない。実際に会って、確信した。我の求める力、静寂への活路が、そこにある」
そう言って、僕の胸の辺りを指さす。
わけがわからないよ。と言いたいけど、嘘を言っている、というか、謀っているようにはどうにも見えない。
力とは、ペルソナのことだろう。
確かに原作でも主人公のペルソナとかは、とんでもない存在だったりしたし、有り得ないと切り捨てるのは早計だ。
だからといって、そんな主人公よろしくとんでもない力が自分にもあるかといえば、それもまだ分からない。
オーフィスは確信してるっぽいけど、実感がない以上何とも言えない。
「だけど、今のままでは足りない。だから、連れて行く」
そう言って、オーフィスは僕の手を取る。
「どこに連れて行くつもりだ」
「我の知る、今から力を発揮できる場所」
それだけ告げると、魔法陣が足下に展開される。
有無を言わさない速さで、僕は転送された。
そうして、全く知らない場所にいたでござるの巻。
住宅街?なにそれ、美味しいのってぐらい自然――というか、一面荒野な場所に、一人寂しく立っています。
……あれ、一人?オーフィスは?
見回しても、どこにもいない。この様子だと、一方的に送られただけで、ついてきてくれた、なんてことはないらしい。
酷い、しかし、許せる!
それにしても、軽く息苦しい。胸焼けに近い不快感が地味に襲ってくる。
もしかして、ここは冥界だったりするのだろうか。
リアスの説明から推測するに、あながち的外れではない、筈だ。
冥界は人間には害悪って言ってたけど、思ってた程じゃないね。もっと、そこかしこに毒の沼とかバリアとかあるものだと思ってた。
何て言うのかな。北海道に住んでいた人が、いきなり東京に送られたらこんな気分になりそうって言う程度。
いずれ慣れるだろうし、取り敢えず先に進もう。運が良ければリアス達と会えるかもだし。
行くアテはないけど、それを嘆いていても仕方ないしね。
黙々と歩き続けて、一時間ぐらいだろうか。
ようやく建物らしきものが視界に入ってきた。しかも、めっさでけぇ。
構造自体は西洋風だけど、異世界っぽい世界観も相まって異質なものに見える。
取り敢えず、どうにかしてあっちに戻れる目処を立てないことには、ここに永住なんてことも有り得る。
みんなはこっちに自分が居ることを知らないだろうし、間違いなく心配される。
因みに、携帯は圏外です。当たり前だよなぁ……。
近づいていくに連れて、建物から出るとても騒がしい雰囲気を察知する。パーティーでもしてるのかな?
もしそうなら、そんな時に入るのは無粋だよね。
だけど、ここまで人気の無い場所で、諦めて他の場所を訪ねるなんて選択肢を取ろうものなら、間違いなく迷子になる。あ、もう迷子か。
そんなこんなで、いきなり建物の壁が爆発した。
何を言ってるか(ryな展開だけど、実際そうだから困る。
そして、爆発の煙をかいくぐるように飛来してくる何か。
当たり前のようにそれは、こっちへと狙いを定めている。
ペルソナはともかく、肉体は凡人な自分は、そんな予想外に反応出来るわけもなく、飛来した何かにぶっ飛ばされた。
痛みに耐えながらも、咄嗟に飛来物を掴んでいたことで、疑問が生まれる。
やけにデカイ。というか、柔らかい。
岩のようなものが襲ってきたものだとばかり思っていた分、その真逆の性質を前に混乱してしまう。
何メートル飛ばされただろうか。勢いありすぎワロタ。
普通なら死んでるけど、何故か死んでない。お兄さんびっくりだ。
あれか、ギャグ補正?というか、この展開ってギャグなの?
「いたた……まさか私がここまでやられるなんて、予想以上に厄介だなぁ……って、あら?」
重量のある何かから声が発せられる。
閉じていた目を開くと、そこにはネコミミ黒髪和服美女がいた。
しかしその和服もボロボロで、扇情的な情景を醸している。
ドキドキハプニングな状況の筈なのに、こうも冷静でいられるのは、恐らく姫島のせいだろう。感謝はしない。
「あ、アンタは――――あぐっ!」
人の顔を見るなり驚きを露わにしたネコミミさんだが、傷ついた身体に響いたらしく呻きながら自らの身体を抱き締める。
「ティターニア、ディアラマ」
当然その様子を見逃せる筈もなく、反射的に回復魔法を掛けてあげる。
「あ、傷が――」
「大丈夫か」
「え、ええ。ありがとう」
ふと、ネコミミさんが飛び出してきた屋敷の方向から、誰かが近づいてくる。
ネコミミさんを襲った相手かも知れない。そう考えると、ネコミミさんが何者であれ、一緒に居る自分も同類と思われるのは確実。
それ自体はどうでもいいんだけど、取り敢えず面倒事は避けたい。
ただでさえ帰る手段が見つかっていないというのに、これ以上手間取るのは流石にいただけない。
「逃げるぞ」
「えっ、でも――」
反論の声を遮るように、僕は彼女の手を取り、走り出す。
スクカジャを掛けた足ならば、例え相手が誰であろうと逃げるだけなら出来る筈。
そんなわけで、故も知らぬ相手との逃避行が始まった。
Q:ペルソナの設定(ワイルドで使える奴の見た目)公式?
A:独自解釈です。3と4を例にするなら、同じワイルドとはいえ作成できるペルソナの殆どのデザインは同一(仕様だと言われたらそれまでだけど)なのは、自分の心象風景を象らないペルソナは、人間の集合的無意識――つまり、人類が無意識にイメージする悪魔の姿を象ったに過ぎないものだと考えています。対して、通常のペルソナ使いが持つペルソナは、使用者個人のイメージが重視されるものだと思っています。直人のスクナヒコナとか、まんま格好がアレなのもそれが理由でしょう。
Q:オーフィス出た!しかし、いいのか出てきて。
A:いいんじゃね。ヴァーリとかはタイミング的に出払ってるし、他の人も上手い具合に同じ感じだったんだよ。うん、そうだよ。ていうか、オーフィスの相手の呼び方が分からない。お前、とか言ってたっけ。
Q:出逢いましたね、とうとう(真の姿的な意味で
A:朱乃さんのせいで彼女のエロスが効いていません。絶望した!