Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D   作:花極四季

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やはり僕に戦闘描写は無理なようだ。すまない、北斗の先人達よ……。


第二十四話

悪魔、天使、堕天使のトップが駒王学園に一同に介し、和平を結ばんとしている時、私、ギャスパー、小猫の三人は部室で留守番をしていた。

単純に会談の席に私達の存在は不要ということもあるが、どちらかといえばギャスパーを一人にしない為の措置である。

……まぁ、ギャスパーの《神器》を操る力は未だ不安定だから、誤って発動して場を混乱させない為、という意味も含めているのは明白だが。

 

小猫の提案でトランプをすることになった。

……正直、悠長が過ぎないかと思わなくもなかったが、こちらの思惑で二人を悪戯に不安にさせるのもアレなので、素直に参加することにした。

結果は散々だった。他のことに気を取られていたこともあるが、この手のゲームは私には不向きらしい。

 

「――ちょっと席を外すわね」

 

頃合いと判断した私は、おもむろに立ち上がる。

 

「どこに行くんですか?」

 

「それを女の子に聞いちゃうッスか?」

 

私は敢えて、恥ずかしそうな仕草をする。

小猫はそれ見て理解したのか、訝しげな視線をギャスパーに投げかける。

 

「……ギャー君、不潔です」

 

「えっ、えっ?」

 

「まぁ、そういうことだから。小猫、ギャスパーをよろしくね」

 

慌てふためくギャスパーの姿を尻目に、そのまま部屋を出る。

その際、薄い木の板をドアの間に挟む。

ギャスパーには悪いけど、こっちの動きを悟られないようにするには、こう言うのがベストだと判断した。

 

零が懸念していた、和平会談を阻害する者達が現れるという可能性に備え、私は一人行動を開始する。

と言っても、特別凄いことをするつもりではない。せいぜい偵察かそのぐらいだ。

襲撃者が現れたとして、私一人では勝ち目はないだろう。

確かに私は強力な力を得たが、それを用いた実戦は初である以上、十全の働きが出来るとは思っていない。

だからこそ、予防線を張って行動する。

さっきの扉への細工も、あまり考えられないとは思うけど、あの扉から堂々と敵が侵入した場合、木の板が外れるようにしておくことで事前に察知することが出来るようにする為のものだ。

些細なことだが、私のような下級堕天使では真正面から策も無しに、小猫を出し抜くような相手に勝てる訳がない。

彼女は《戦車》だ。単純な戦闘力だけなら、私ではまるで勝ち目はない。

更に言ってしまえば、彼女は簡単な小細工程度はね除ける程の地力を持ち合わせている。

もし彼女が敗北するようなことがあるとすれば、それは圧倒的なまでの力の差がある相手と相対した場合か、ギャスパーが足を引っ張るとか、そういった外的要因が大きく関わっていると考えていいだろう。

どちらにしても、どんな条件であったにしても小猫が勝てないのであれば、私では無理だろう。

 

でも、それはあくまで受けに回っているという条件が前提の話。

小猫の様子からして、襲撃の可能性を危惧している感じはしなかった。

いや、少しは考えているだろうけど、まさか三勢力のトップに加え、二天龍までいる場所に襲撃を掛けるなんて愚かな真似をする者はいない、という結論に至っていても不思議ではない。

だが、もしその愚かな者が現れたとすれば?

彼我の戦力差を図れないほどの手合いならばそれでいい。だが、理解した上で襲撃を掛けたとすれば?

それはつまり、そんな圧倒的実力を有する相手と対峙して尚、勝てる何かが相手にはあると言えないだろうか。

三勢力のトップを出し抜き、それでいて彼らを相手に勝利をもぎ取れる要因を抱えている相手に、たとえ末端の雑兵だったとしても私が勝てるのか?

有り得ない、ということはないだろう。だが、真っ正面からではまず無理だ。

だからこそ、私も相手を出し抜くことを考えなければならない。

 

もし襲撃者が現れた場合、三人が固まっていたらそれだけで一網打尽だ。

零達もすぐに駆けつけてくれるだろうけど、それを頼りに物語のヒロインを気取るつもりは毛頭無い。

足手まといにはなりたくない。だからこそ、いるかも分からない襲撃者に怯えている。

杞憂で済むならそれでいい。だけど、そうでなかった場合を考えると用心をしているに越したことはない。

別に、私如きでどうこう出来るとは自分でも期待してはいない。

小猫が動けない状況ならそれをどうにかすればいいし、最悪ギャスパーだけでも助けられれば上等ぐらいの認識で臨んでいる。

いや、零達が駆けつけるまでの時間稼ぎでも構わない。私に出来ることがあるならばするだけだ。

 

――瞬間、音は死に、世界は赤紫色に包まれた。

 

一瞬、何が起こったか分からず頭が混乱する。

胸が締め付けられる。何処かで知った感覚の筈なのに、それとは違うという矛盾した感情を抱く。

そして、思い出す。これは、ギャスパーが《停止世界の邪眼》を発動した時に出現した感覚と似ているのだと。

でも、違う。あの子の力は、こんな他者を問答無用で犯すような下卑た感じではない。

性質こそ同じだが、そこには優しさがある。誰かを傷つけたくないという意思が確かにあった。

だが、これではまるで野生の獣のようだ。他者を蹂躙することに躊躇いがない、そんなどう猛な力の指向性。

敵側にも時間停止を行う者がいるのか?とも考えた。でも、時間停止の《神器》はとても貴重だと聞く。

可能性のひとつとしては悪くはないが、それよりも私の中に最悪な可能性が浮かび上がる。

 

それは、ギャスパーが敵の手に渡ったということ。

ギャスパーの潜在能力は高い。時間停止の力も、練習するに連れてスポンジが水を吸収するように制御していった。

あの子は力を制御できないことを悔やんでいたが、はっきり言ってそれは嘘ではないのかと疑ってしまうぐらいの成長速度だった。

私としてもそれは喜ばしいことであり、あの子がその都度喜ぶ姿を見る度に、つい甘やかしてしまいたくなる感情に後押しされた。

ギャスパーも私のことを好いてくれているのは承知している。

ひな鳥の刷り込みのようなものだとは思うけど、それでも悪い気はしない。

 

だけど、こう思う時もある。

……今まで誰かに頼ることしか出来なかった自分が、頼りにされているという事実。その優越感が私がギャスパーに構う理由なのかもしれない、と。

自分でも随分と卑屈な解釈だと思う。だけど、零との関わりを断ってまでかかり切りになるのを望んでいるというのは、前までの自分からしたらそれこそおかしいことだ。

私はそれだけ、有斗零という青年に依存している。

 

……いや、今はこんなことを考えている余裕はない筈だ。

まず、ここら一帯が本当に時間停止に支配されているのなら、何故私は動ける?

魔王クラスの実力者ならば万が一にも停止していることは有り得ないだろうが、なら私が動ける理由は?

 

「やっぱり、これのお陰かしら」

 

そんな確信と共に、私の《神器》を顕現させる。

ペルソナ全書。零のペルソナ能力を間借りして力を発揮する《神器》。

零の為してきた功績を考えれば、ペルソナという力がどれだけ異常なものかが良く分かる。

そんな力だからこそ、時間停止の中でも私達を護ってくれていても別段不思議には感じない。

というか、下級堕天使の私がこうして動ける時点で、そうでなければおかしい。

まぁ、動けるというのであればその恩恵を最大限に利用するまで。

 

思考を切り替え、意識をオカルト研究部の部室へと向ける。

外ではいつの間にか、白龍皇と思わしき存在が敵と戯れている。

あれほどの圧倒的な実力者が暴れているのであれば、こちらが多少下手な行動をしたところで、悟られることはないだろう。

 

「来て、フォルネウス」

 

ヒラメを冒涜的な外見にしたようなペルソナが現れる。

あまり好きな見た目ではないのだが、今は機動力が欲しい。

フォルネウスの背に乗り、ギャスパー達の下へと向かう。

 

「アアアアアアァァァアア!!」

 

目的地に近づくに連れて聞こえてくるギャスパーの悲痛な叫び。

それによって、否応と無しにあの子の境遇が伝わってくる。

焦燥に駆られる心を全力で静める。

我を忘れてしまえば、出来ることも出来なくなる。

思考停止して立ち回って勝てるような相手だとしても、そんなもの戦ってみないと分からない。

だから、敵の戦力を冷静に分析する必要がある。

 

音を立てないように地面に着地し、ドアの横に待機する。

ドアが開いた形跡はない。ということは、転移か壁を直接破壊して侵入したかのどちらかだろう。

木の板によって生まれた隙間から、見える範囲を余すところなく見渡す。

魔術師のようなローブを纏った存在が、最低三人。そして、魔法陣のようなものが視界の端に映る。ギャスパー達の姿が見えない辺り、あの魔法陣は二人を拘束する為のものではないかと推測する。

実際、耳をつんざくほどのギャスパーの叫びも、視界の外から聞こえている。

部屋に暴れた形跡はない。それはつまり、対応出来ないほどの不意打ちで制圧されたということ。

更に言えば、敵は転移で来た線がより高くなったということ。

壁破壊によるタイムラグ、それによる衝撃の一切が伝わらなかったこと。そして先程の部屋の暴れた形跡がないという事実。

隠密性を重視したともなれば、この状況も頷ける。

だが、曲がりなりにも悪魔の支配する土地で、総本山とも言える結界も張られている場所にそう易々と転移出来るのだろうか。

用意周到に以前からバレない程度に結界の性質を変化させていたか、一瞬で結界の性質を変えられるほどの能力者が敵側に存在しているかのどちらかだろう。

どちらにしても、事が為ってしまった今、優先して気に掛ける事でもない。

問題は目の前にある。

 

「意外と呆気なかったわね」

 

「ええ。所詮現魔王派なんてこの程度という証明になったわね。それに、天使も堕天使も、ね」

 

「――それにしても、五月蠅いわねコイツ」

 

「無理矢理《禁手》に至らせたことで、精神の崩壊が進んでいるんでしょう。リアス・グレモリーもこんな危険な力を持つ奴なんて、とっとと洗脳なり何なりすれば楽でしょうに」

 

そうケラケラ笑う魔術師。

ギャスパーの存在を一蹴されたと言うのに、私の頭は嫌なほどに冷静だった。

――いや。最早沸点を通り越して、熱が逃げて言っているのかもしれない。

事実、思考は冷静でも、爪が食い込まんばかりに力の籠もった拳が物語っている。

 

「――――タス、ケテ。ミッテルト、サン」

 

蚊の鳴くような音が、耳朶を打つ。

リアス・グレモリーでもなく、その眷属仲間でもなく、確かに私の名前を呼んだ。

私に助けを求めてくれた。他の誰でもなく、いの一番に私の名前を呼んでくれた。

嬉しかった。こんな土壇場での信頼は、確かな言質となる。

嘘のない信頼。現金な話だが、こんな状況に発展して初めて、あの子の信頼が私の中で実感となって現れていた。

本当、馬鹿だと思う。

だけど、悔やんでばかりもいられない。

あの子は、私の名前を呼んだ。ならば、それに応えずして何のための力だ。

 

覚悟は決まった。

ある程度の作戦は立てた。後はなるようになれ、としか言えない。

フォルネウスの背に再び乗り、少しドアから距離を取り――そのまま突撃した。

 

「なっ――」

 

喋る余裕は与えない。

ドアを破壊した瞬間、フォルネウスをミサイルのように魔術師三体の前へ飛ばす。

一瞬で状況を確認。視界の外にいたのは魔術師二体。どちらもフォルネウスと私を交互に見やり、思考に精彩を欠いている。

両手に真紅の槍を創造し、魔術師へ向けて投擲する。

辛うじて防御には成功していたが、元々それは囮。

今度はフォルネウスと私の立ち位置を交換するように、フォルネウスを壁に三人の魔術師へと向かう。

フォルネウスの突撃により陣形を乱された魔術師達は、慌ててこちらの迎撃に移る。

だが、遅い。

フォルネウスのスキルである、スクカジャオートの恩恵もあってか、身体が羽のように軽い。

あんな細っこい直線ビームなんて、当たる気がしなかった。

 

「寝てなさい!」

 

槍の腹で魔術師を殴りつけ、吹き飛ばす。

速度の高まった私の一撃は、確実に威力をも上乗せしている。

魔術師という近接戦闘を前提としていない奴らを気絶させるぐらい、造作もなかった。

 

「この――喰らえ!」

 

「チェンジ、ニギミタマ!」

 

レーザーが肉薄するのを予知した私は、ペルソナチェンジによってフォルネウスを送還。ニギミタマを眼前に呼び寄せて、盾とする。

痛みはない。零のペルソナを間借りしているという関係から、本質的に私とペルソナの繋がりはないことを利用した使い方だ。

 

「吹き飛びなさい、ガル!」

 

ニギミタマから放たれた小規模な竜巻は、魔術師をいとも容易く吹き飛ばした。

 

「チェンジ、ヴェータラ。愚者のささやき!」

 

魔術師全員が行動不能になったのを見計らい、魔力の使用を封印するスキルを発動する。

最初から使うことも考えたが、ヴェータラ自体が私のレベルではギリギリの召喚ということもあったし、例え魔力を封じたとしても、それで気取られてしまえばギャスパー達という人質がいる以上、それを利用されて終わりとなる可能性もあった。

だからこうして安全を確保してからでないと、不確定要素によって作戦が破綻する恐れがあった。

 

「ミッテルト、その力――」

 

「今はそんなことより、貴方達を解放しないと。――チェンジ、ニギミタマ。リパトラ」

 

もう魔力もカツカツだが、これをしないと任務完了とは言えない。

淡い魔力が二人を包むと、硝子が割れるような音と共に、魔法陣は消滅した。

正直、成功するかは賭けだったが、成功してよかった。

 

「これで、ようやく――」

 

安心しきった瞬間、足がもつれる。

急激に訪れた疲労が、身体を支えることを拒否したらしい。

冷静に身体が崩れ落ちる瞬間を体感していると、小猫に支えられる。

 

「はは、無茶し過ぎたみたい……」

 

「大丈夫?」

 

「一応、ね。それよりも、ギャスパーが――」

 

二人とも意識をギャスパーに向けた瞬間、倒れていた魔術師が魔力を解放する。

愚者のささやきが効いていたと信じ切っていたミッテルトは、完全に意識を逸らしていた。

小猫に関しても、ミッテルトとギャスパーに気取られていて反応が遅れた。

魔術師の一撃は、確実にミッテルトを貫かんと肉薄していた。

 

 

 

 

 

夢を見ていた。

吸血鬼と人間のハーフとして、忌み嫌われ、迫害されていた頃の夢を。

望んでもいない力。望んでもいない生まれ。理不尽と不条理の板挟みの中で、強制的に生かされた過去。

自殺する度胸もない僕は、ただただ自らの不幸を呪い続けてその日を過ごしていた。

 

そんな時、リアス部長と出会った。

あの人は僕に対して差別意識を抱くこともなく、あるがままの僕を受け入れてくれた。

最初は、それで救われたんだと思った。

でも、違った。根本的な部分は何一つ解決していないことを、嫌でも思い知らされた。

僕が迫害されていた理由は、異端の存在だからと言うよりも、《停止世界の邪眼》の制御が出来ないことが大きな理由だった。

部長の眷属になったところで、その制御がどうにかなる訳ではない。

部長も僕の存在は手に余るらしく、僕自身もその理由に納得した。だから、封印されることを良しとした。

最初から制御できる自信なんかなかった。それどころか、その過程で世界全てが停止する悪夢も何度も見た僕は、力そのものを扱うこと自体を拒否したのだ。

 

封印された世界は、孤独であることを除けば快適だった。

時代の進歩と言うべきか、ネットによる交流や眷属としての仕事も出来る環境は、まさに理想の箱庭だった。

しかし、そんな平穏も突如終わりを告げた。

僕の知らない内に、グレモリー眷属も増えており、部長の実力も上がったという理由で封印が解けられたのだ。

眷属じゃない人もいたけど、その時は彼がどんな人なのかを知る由もなかったし、どうでも良かった。

問題は、その次にあった。

僕の弱気な心を矯正するべく、特訓という名のイジメが始まったのだ。

当然、僕は必死に逃げた。

引きこもりに体力なんかある訳がなく、ただただ逃げなければならないという強迫観念に後押しされ、何とか逃げているという状態の時、僕は運命に出逢った。

 

ミッテルト。学園では有斗・F・A・ミッテルトと呼ばれ、有斗零先輩の妹として認知されている、明るく快活なイメージが強い堕天使の女性だ。

廊下の角から現れた彼女とぶつかるという、漫画のような展開が切っ掛けだった。

その時は、女性である彼女に力負けするという恥ずかしい感じになってしまったが、それ以上に恥ずかしい感情が後に支配することになる。

まさか、初対面の女性の胸に顔を埋めることになるなんて、誰が予想出来たであろうか。

リアス部長にも似たようなことをされた記憶はあるけど、あの時はただただ恥ずかしかっただけで感覚なんてまるで覚えていない。

対して、ミッテルトさんの抱擁は、恥ずかしさよりも何故か落ち着く感覚の方が勝っていた。

恥ずかしいことに代わりはないけど、不思議とそのまま抱き締めてもらいたいという欲求の方が勝っていたのだ。

僕を追いかけてきたイッセー先輩達から庇ってくれるその姿も、とても格好良くて、気付けば僕は彼女に惹かれていた。

 

僕が《停止世界の邪眼》を制御できないということ、そしてそれによって生じた身の上話をしても、避ける素振りを一切見せず、それどころかより僕に献身的になってくれた。

リアス部長でさえ、一度は僕を見捨てた。だから、この人もどうせ――なんて思わなかった訳ではない。

でも、そんな予想を裏切るように、彼女は僕に付き添ってくれた。

《神器》の制御方法についても、それからの特訓にも、あの人は嫌な顔ひとつせずに取り組んでくれた。

逆に僕が申し訳なくなってしまうぐらい、彼女は僕に尽くしてくれた。

……ここまで来て、ようやく彼女の善意に裏がないことを知った僕は、大概愚か者だと思う。

 

僕は、彼女に恩を返したい。

でも、僕には何も出来ない。他人に依存することでしか自己を確立することが出来なかった弱い僕に、一体何が出来る?

ほら、今だって僕は敵に捕らわれて、ミッテルトさんに助けられて――

 

「――――エ?」

 

いつの間にか、夢は覚めていた。

新たに視界を支配したのは、ミッテルトさんに襲いかからんと迫る一筋の閃光。

理解や納得よりも、本能が告げていた。

このままでは、ミッテルトさんはあの光に貫かれて――死ぬ。

まるでコマ送りのように着々と延びる光をいち早く察知していたのは、僕だけ。

身体はまともに動かない。それどころか、頭の中もぐるぐるしている。

まるで、脳みそを無理矢理かき混ぜられているかのような不快感。

 

ああ――思い出した。

僕と小猫先輩は、突如現れた魔術師集団に囚われ、僕は魔術師達に無理矢理《禁手》にさせられ、その力を利用されていたのだった。

ミッテルトさんが何故動けるのか、とか。ミッテルトさんがあの魔術師集団を倒したのか、とか。

事の顛末を見ていたにも関わらず、その出来事はまるで物語を読むかのように遠くの出来事に感じていた。

こんなに必死になって、精根尽き果てるぐらい頑張ってくれた彼女の所業を、そんな目で見ていた事実が、許せなかった。

 

そう、僕はずっとミッテルトさんにおんぶに抱っこで、何一つ返していない。

失うのか?与えられてばかりで、最後の最後まで自分のせいで彼女に迷惑を掛けて、それで終わりなのか?

――失いたくない。僕の、僕にとっての大切な――好きになってしまった人を。

ならば、望め。結果を弾き出す為の力を。それ以外の全ての時間を止めてでも、彼女を護るという覚悟を。

 

「ヤ――――メロオオオオオオォォオ!!」

 

自分のものとは思えない咆吼が、一帯に響き渡る。

瞬間、僕の中で何かが弾けた。

視界が鮮明になる。歪だった世界が、確かな形を取り戻していた。

ミッテルトさんに迫っていたレーザーは空中に停滞し、彼女の肉体を貫くことはなかった。

何が起こったのか分かっていない魔術師は、そのまま小猫ちゃんの回し蹴りによって昏倒する。

でも、これで終わらせてはいけない。

徹底的にやらないと、また彼女が襲われてしまう。

再び瞳を開眼すると、僕の魔力が魔術師に絡みつき、力を根こそぎ吸収していく。

まだだ、まだ足りない。絞りかすにしてでもコイツらを止めないと――

 

「やめて、ギャスパー!」

 

ミッテルトの声に、暗く沈んでいた意識が引き戻される。

 

「もう、いいわ。これ以上は駄目」

 

「――分かりました」

 

不満がなかった訳ではない。それでも、彼女の意見を無視してまですることでもないと思い、素直に引き下がった。

 

「ありがとう。――それよりも、凄いじゃない。時間停止だけじゃなく、あんなことまで出来るようになったなんて」

 

疲労が残った笑顔で、誉めてくれる。

それだけで、僕の心は晴々としていった。

 

「あっ――」

 

ミッテルトさんの身体がふらつく。

それを僕は慌てて支える。

形振り構っていなかったせいもあるが、思わず抱き留める体勢になってしまう。

 

「あはは――情けないわね、私。この程度でバテるなんて」

 

「そんなことないですよ。凄く格好良かったです」

 

「そう言ってもらえると嬉しい、かな」

 

ミッテルトさんが安堵の息を吐き出すと、蹴破らんばかりの勢いでオカルト研究部のドアが開かれる。

そこには、リアス部長とイッセー先輩がいた。

 

「――リアス、兵藤一誠。遅いわよ」

 

音だけで察知したのか、ミッテルトさんがそう呟く。

そうだ。圧倒的に遅い。

どんな理由があったかは知らないが、そのせいで誰かが死ぬかもしれなかったと思うと、後ろ暗い感情がふつふつと沸き上がってくる。

……お門違いも甚だしい。そもそもの原因は僕が捕らえられたからじゃないか。

そうだ。僕が彼女達を危険な目に遭わせたんだ。僕の、僕のせいで――

 

「……そんな顔するんじゃないわよ」

 

「え?」

 

「大方、自分のせいで私達を危険な目に遭わせたとか考えているんでしょう?」

 

まさに図星だった。

顔に出ていたのだろう。そんな僕の様子を見て、呆れたように微笑む。

 

「そんなもの、結果論に過ぎないわ。それを言うなら、ここに貴方を置いてきた私達にだって責任はあるし、そもそも貴方を利用した敵自体が諸悪の根源なんだから、気に病む必要はどこにもないわ」

 

「で、でも。僕がもっと《神器》を上手く扱えていたら――」

 

「それを言うなら、この襲撃を予知し、対策を講じられなかったトップの方々に一番の問題があるわ。貴方なんかよりもよっぽど強い彼らがどうにも出来なかったのに、貴方一人が強かったからってどうにかなったと?自惚れないで」

 

「お、おい。ミッテルト、それは言い過ぎ――」

 

「黙ってなさい、兵藤一誠」

 

ミッテルトにぴしゃりと諫められ、それ以上口にすることはなかった。

有無を言わせない力強い語気に、隣にいたリアスさえも僅かに反応してしまう。

 

「どんなに貴方の持つ《神器》が強力でも、貴方はまだその扱い方を理解したばかりのひよっこよ。そして、それは私にも言えること。だから、身分不相応の事象にまで責任を持つ必要なんてどこにもないの」

 

「……そうね。今回の件は私の見通しの甘さが招いた結果だわ。だから貴方は何も悪くない」

 

リアス部長が慰めるようにそう答えてくれる。

だけど、その慰めもただ僕の情けない思いを増長させるだけ。

 

「納得してないって顔ね」

 

「そ、それは……」

 

「納得できないなら、強くなりましょう。護られる立場ではなく、誰かを護れるぐらい強く」

 

「あ――」

 

ミッテルトさんの言葉が、僕の中に確かに浸透していく。

過ぎたことを悔やんでも仕方がない。考えるのはこれからの事。そして、この局面をどう乗り切るかどうか。

 

「それにしても、ミッテルト。もしかして貴方一人でこれを?」

 

地に伏した魔術師集団を見て、問いかける。

 

「違うわ。ギャスパーのお陰でもあるわ」

 

「自分がやったことは否定しないのね……。どういうことか、説明してもらえるかしら?」

 

「どうせいつかバレるのは分かってたから話すのは吝かじゃないけど、そのどこか上からの物言い、止めて欲しいわね」

 

「そんなこと言われても、これは素よ」

 

「余計に質が悪いじゃないの。――そんな調子だと、レイに嫌われるかもね。彼、そういうの嫌いそうだし」

 

「なっ――」

 

リアス部長の顔が真っ赤に染まる。

ああ、そういうことなんだ。

 

「まぁ、それはいいわ。それよりも、ギャスパー。今更だけどその目、大丈夫なの?」

 

上級悪魔をからかってあしらったばかりか、何事も無かったかのように話題を変える。

何て言うか、肝っ玉が大きいって言えばいいのかな?普通なら、そんなこと出来ない。

 

「目、ですか?」

 

「ええ。何て言うか、普通じゃないわ」

 

「自分では良く分からないけど、《禁手》の影響かもしれません。おぼろげだけど、魔術師がそんなことを言ってた気がします」

 

「《禁手》って《神器》の性能が強まった状態なんでしょう?負担とか、大丈夫なの?」

 

「それが、不思議と平気なんです。寧ろ、以前よりもすっきりしています」

 

そう、それが今の今まで問いただされないと気付かなかった疑問の理由。

理由はまるで不明だけど、扱えるようになったのならそれは喜ばしいことだ。

 

「ギャスパー。これを受け取ってくれ」

 

ミッテルトさんの一喝で口を閉ざしていたイッセー先輩が、腕輪のようなものをこっちに投げてくる。

 

「これは?」

 

「《神器》の暴走を抑える腕輪らしい。アザゼルからのもらい物だ。制御出来たみたいな風で言ってるけど、一時的な可能性も十分有り得るし、付けておいた方がいい」

 

「そうですね……」

 

イッセー先輩の助言に従い、腕輪を嵌める。

感覚的に大きく差は感じないけど、確かに力が抑えられているのがわかる。

 

「と、とにかく。ギャスパーがこちらの手元に帰ってきた以上、ここにはもう用はないわ。外ではお兄様や零が奮闘しているでしょうし、早々に合流するわよ」

 

立ち直ったリアス部長が、僕達にそう指示する。

その意見に反論する者は、誰もいない。

 

「あ、でも少し待ってくれないかしら」

 

だが、ミッテルトが思い出したかのように手を挙げる。

 

「何かあるのかしら?」

 

「まぁ、ちょっとね。すぐ済ませるから、部屋から出てて」

 

良く分からないと言った風に謎を抱えたまま、部屋から閉め出される。

一分ほど経ち、ドアが開かれる。

 

「わぁ……」

 

思わず、感嘆の息を吐いていた。

ミッテルトさんの格好は、駒王学園の制服から青を基調としたゴスロリに変わっていた。

ゴスロリは基本的に黒色がベターで、そんな常識から逸脱した目が痛くなるほどの青を使用したそれは、何故か異様なまでに彼女とマッチしていた。

僕だけじゃない。部長も、イッセー先輩も、小猫ちゃんも。彼女に魅了されていた。

 

「ど、どうしたの?」

 

「あ、いや――何でもないわ」

 

ミッテルトさんの何事かと言う疑問に対して、取り繕う部長。

イッセー先輩も、どこか嫌らしい目つきでミッテルトさんを見ている。

小猫ちゃんは、見た目変わってないように見えるけど、いつもより目が開いている。

 

「じゃあ、行きましょう。こっちが待たせておいてなんだけど、急がないとね」

 

その言葉によって、思考が戦場へと再度向けられる。

今の僕の力で何が出来るかは分からない。でもミッテルトさんが言ったように、僕が出来ることを精一杯しよう。

それで後悔したなら、後に繋げればいい。

そして、その後に繋げる為にもこの戦い、決して負けるわけにはいかない。

僕達は、校舎の外へ向けて走り出した。

 




Q:ペルソナの紹介ないの?
A:恐らく二度と出ないペルソナの、しかも低レベルの奴の紹介って誰得?

Q:ミッテルトさんまじイケメン。
A:ギャー君が片言で名前を呼んだ時思い浮かべたのは、ニンジャスレイヤーとホウセイマイフレンドだった。

Q:ミッテルトさん頭良いの?
A:かなり良いです。と言うか、理詰めが得意なんです。不確定要素を可能な限り取り除いて、自分の有利になる状況を考えるのが。逆に言えば、作戦に綻びが出た場合、地力が劣るという前提での作戦が大抵なので、破綻しやすいです。つまり、アドリブに弱い。ですが、それは個人プレイや実力が似通ったチームを組んだ場合。普通に理詰めが得意な事に代わりはないので、零と組んだとしても大いに実力を発揮してくれます。

Q:ギャー君普通に制御しちゃったね。
A:愛の力です。イッセーの血なんていらなかったんや!

Q:ギャー君が少し怖い。
A:まぁ、原作知ってる人なら納得出来なくもないしょ?

Q:リアスを焚きつけるようなあの物言い。恋のライバルだって分かってて?
A:ミッテルトの零への感情は、単純ではありません。よって、あの対応も実はそこまでおかしなことではなかったり。

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