Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D   作:花極四季

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【悲報】話が進まない


第二十二話

ギャスパーきゅんの修行は、今のところ滞りなく進んでいる。

ただ、どうにも前回オカ研メンバーがギャーきゅんを追いかけたせいで、苦手意識が芽生えているらしく、リアスの眷属であるにも関わらず、心の距離感は有斗家のメンバーの方が近いという謎仕様になっている。

今日はその辺りの問題を解決するべく、ミッテルトが奔走している。

僕は今回の件にはあまり関与しないことにしている。

ギャーきゅんが一番懐いているのはミッテルトだし、吸魔を使えるのもミッテルトだしで、僕の出番はどこにもない。

適材適所。出来る人がやればいいのよ~。その間自分は二人の絡みを遠巻きから眺めていればいいのよ~。

……なんか発想が腐女子の人みたいになってるけど、気にしないでおこう。

 

そんなどうでもいい決意をした僕だけど、今とある神社への階段下で暇を潰しています。

何故に?と思ったそこの貴方。安心しろ、当人も把握してない。

姫島にイッセーと共に神社に案内されたかと思ったら、僕だけここで待ってろ宣言されたんだよ。

何なの?ハブなの?二人だけで楽しんでるの?ドSなの?

なんか神社から目つぶし目的としか思えない光量の光が出てたりしてるし。マジで何してんの。

るーるるーってBGMが聞こえそうな感じで黄昏れていると、例の黒猫が視界に入った。

 

「…………」

 

鳴くことも近づくことも遠ざかることもしない。

つかず離れずをこれまで実現した状況はそうそうお目にかかれないだろう。そんなレベル。

 

「……こっちに来ないか?」

 

一人でいることの寂しさから、思わずそう呟いてしまう。

それだけぼっちが寂しかったんだよ。悪いか、コラ。

黒猫はそんな僕の言葉に、尻尾を天へといきり立たせる。

確かこういう時って、めっちゃ警戒されてますってことなんだっけ。

……うん、猫は懐きにくいって言うからね。仕方ないね。

な、泣いてないもん!くやしくねーし!だから、諦めない!

 

「ならば、せめて話し相手になってくれないか?手持ち無沙汰で暇なんだ」

 

心だけは必死に黒猫を引き留める。

ここで君までいなくなったら、またあの寂しい時間が戻ってくると思うと、そりゃ必死にもなりますよ。

だけど、表情は能面なもんだから、伝わっている気がしない……!!

と、半ば諦め思考で接していると、おっ立てた尻尾を降ろし、その場に座ってくれた。

通じた……やったで、おとん。誠意を込めれば表情はこんなでも通じるんや……!!

なんて謎テンションで盛り上がってるけど、ぶっちゃけ黒猫の気まぐれと偶然に一致しただけだよね。

まぁ、それでもいいよ。要はぼっちにならなければいいんだから。

 

そんなこんなで、僕は黒猫へ一方的な会話を始めた。

ミッテルトやゼノヴィアとの生活、ギャスパーの修行、オカ研メンバーと過ごす日々――特にリアスや姫島とかにイジられることへの愚痴、そんなこの世界での日常を適当に語っていく。

あんまり深く考えないで思ったことを口々に告げていると、いつの間にか黒猫との距離がめっちゃ近づいてやんの。

え、どうしたの?また気まぐれなの?

気まぐれでもいい。動物なんてそんなもんだって、知ってるから。

でも、ずっとデレてくれてもいいのよ?

 

そんな邪なことを考えたせいか、黒猫はいきなりどこかへ逃げてしまった。

ご、ごめんなさい!決して擬人化を妄想なんかしてません!だから、カムバーーーック!!

 

「……先輩?」

 

石段に座り俯いていると、イッセーの声が上から響いた。

 

「兵藤か……もう用は済んだのか?」

 

「はい。それと、副部長が呼んでいます」

 

「分かった」

 

ようやく出番か……というか、本当に出番があるのかと不安になったよ。

何となく連れてこられて、それだけで終わりとか言われたら、姫島へハリセン乱舞が炸裂するところだった。

 

「先輩。――副部長を、お願いします」

 

「――?ああ」

 

イッセーの意味深な言葉に頭が混乱するも、取り敢えず頷いておく。

その応答に満足したのか、イッセーはそのまま帰っていった。

……え?もしかしなくても、帰りは姫島と二人?

ヤバイ、鬱になってきた。あの笑顔の裏で何かを画策している彼女と二人きりとか、色々ヤバイ。

長い長い神社へ続く階段が、より一層辛い。

嫌いじゃないんだけど、苦手なんだよなぁ。

何せ初めての明確な接触が、ベッドで全裸だぜ?

男性的な欲望をかなぐり捨てて、得体の知れない感情が先行するのも無理はないよ。

 

「お待ちしておりましたわ」

 

神社に辿り着くと、巫女服を着用した姫島が僕を迎えた。

……そのあまりにも堂に入った姿勢に、本物の巫女を幻視した。いや、本物知らんけど。

 

「それで、私をここに連れてきた理由はなんだ?それと、先程神社が光っていたのも気になる」

 

「その光というのは恐らく、ミカエル様が降臨したものと、イッセー君の《赤龍帝の篭手》とミカエル様から賜ったアスカロンが融合した時のものですわね」

 

「ミカエル……今度は天使か」

 

「今や神の代理人であるミカエル様の前に、あのような発言をした貴方を出すのは流石に抵抗があったので、下で待たせる形になってしまいましたが、これでようやくお話が出来ますわ」

 

「まさか話をする為に同伴させたのか?別にどこでもいいだろうに」

 

「……いえ、本来なら話をする予定はありませんでした。貴方に付き添って貰ったのは、私が単に一緒に来て欲しかっただけですわ」

 

笑顔でさらりと言ったね、この人。

買い物の付き添いとかならまだ納得出来るけど、ただついてきて欲しいとか、成立したばかりの仲の良いカップルじゃないんだから……。

こらそこ、頬を染めるな。明らかに分かってて言ってるだろ。

 

「つまり、その予定が変わるような何かがあった、ということだな」

 

「ええ。――イッセー君に訪ねられたのです。私の父のことを。私の境遇のことを」

 

そうぽつりぽつりと語り出した姫島は、普段のどこか掴み所のない雰囲気からはかけ離れており、儚げな印象を受けた。

 

「私は堕天使の幹部である父と人間との間に生まれた者です。母はとある神社の娘で、傷つき倒れていたバラキエルを助けた縁が切っ掛けで、私を宿したと言われています。――ここからはイッセー君にも教えていない秘密ですが、聞いてくれますか?」

 

「ああ」

 

「……私は父を憎んでいます。いえ、堕天使そのものを憎んでいたと言ってもいいでしょう。それもこれも、あの男が母を殺したと言っても過言ではないからです」

 

「母親を……?」

 

「ある日、堕天使と人間が契りを結んだ事実を快く思わない者達による襲撃があり、母は私を庇い亡くなり、私は父を、引いては堕天使を憎悪するようになりました。堕天使であるあの男が母と出逢いさえしなければ、母は理不尽に死ぬこともなかったのですから。そして、私はそんな父と決別し、幼い身ながらに天涯孤独となりました。あんな男と共に生きるぐらいならば、孤独に生きることも辞さないと幼心に思うぐらいに、私はあの頃は病んでいました。いえ、今も大差ないのかもしれませんね」

 

そう言って笑う姫島の笑顔が、とても痛々しくて見ていられなかった。

でも、目を逸らしてはいけない。そんなことをしてしまえば、全てが終わってしまう。そんな気がしたから。

 

「そんな中、私はリアスに拾われました。そして私は悪魔となり、堕天使と悪魔の翼を宿す歪な身体となりました。……これが、私の今までの人生です」

 

神社一帯を、自然の音だけが支配する。

……姫島にそんな過去があったなんて思わなかった。

ただの巫山戯た奴だと思ってたけど、それは誤解だったんだね。申し訳なく思うよ。

 

――まさか、姫島が極道の血を引いているなんて、思わなかったよ。

 

いや、実際は違うのかもしれない。ヤのつく自由業かもしれないし、裏であくどい商売をしている人種かもしれない。でも、概ねその線が近いと僕は思うね。

とにかく、姫島の父親がまともな職業についていないことは想像できる。

だって、母親との出逢いがボロボロになったところを介抱してもらってで、母親が死んだのも婚姻関係のもつれが原因ときた。

つまり、こうは考えられないだろうか。

父親は自分の組から抜けるか何かしようとして、争いが勃発。命からがら逃げ出した。

満身創痍なところに後の母親と出会い、結ばれる。

二人は幸せな生活を送り、姫島も生まれた。しかし、幸せは長くは続かなかった。

父親が逃げ出してきた組にアシがつき、どういう状況かを知った組の者は自宅を強襲。母親はその際に殺されてしまった。

姫島だけは何とか無事生き長らえることが出来たが、その際に一連の流れを知った姫島は、父親を強く憎むようになった。

母親の死の原因となった父親と離別し、その日暮らしをしていたところをリアルお嬢様なリアスに拾われ、一緒に暮らしている。こんなところだろう。

堕天使という言葉も、今の状況と整合させて暗喩させたのだろう。人間も、一般人と捉えれば、住む世界が違うという感覚がとても分かり易い。

 

……重い。ただひたすらに、重い。

子供が背負うにはあまりにも重い現実を、彼女は今も背負って生きている。

笑顔の裏に秘められた憎しみの炎が、今ならはっきりと見える。

 

今にして思えば、素知らぬ男の前で平然と裸になったり出来たのも、自分の命に価値を見出せていなかったからではないだろうか。

子供とは、父親と母親にとって絆そのものだ。存在するだけで、愛の象徴たらしめる。

故に、そんな自分の存在が、母親の死を後押ししたのではないか、と言う結論に至っても不思議ではない。

父親がどんな危ない職業に就いていようが、明確な血縁関係を結ぶことさえしなければ、母親は生き残れていた可能性はある。

極道のような組の人間が、どこの誰とも知らぬ女と子供を育んで困る理由なんて、だいぶ限定される。

一番の可能性は、父親が組の中でもかなり地位のある――その組の息子である可能性も高い――人物であったということ。

ああいった組織が面子や血を重んじるというのは、良く聞く話だ。

今回もその例に漏れず、何の故も無い母親とその娘共々始末し、連れ戻そうとした。そう考えると、かなり整合性が取れていないだろうか。

 

「――それを私に聞かせて、君は何を望む?」

 

「何も。ただ、聞いて欲しかっただけです」

 

「このような重い話を聞かされた方の身になって考えたか?君の独白は、一方的に他者の感情を揺さぶるだけだ」

 

「――――ッ」

 

姫島の表情が、絶望に歪む。

僕の言っていることは間違っていない。だって――

 

「……そんなことを聞かされたところで、私には何も出来ない。君の心の傷を癒すことも、痛みを共感することも、何も出来やしない。慰めの言葉も、事情を又聞きしただけの私では意味を持たない。行動で応えようとしても、解決の術は君だけが持つものだ。つくづく、私は無力だとただ思い知らされるだけだ」

 

「零、君……」

 

無意識に拳を握り締める自分がいる。

リアスの時は、現在進行形の問題であり、ゲーム内のルールに沿って結果が左右される状況だったから良かったが、今回は違う。

全ては終わってしまったことであり、どう足掻いても手の届かないところにある。

それに、姫島の笑顔の裏に隠された壮絶な過去を今更知った身分で、一体何が出来る?

後付の同情心で彼女に接したところで、そんなもの付け焼き刃にさえならない。ただ、悪戯に虚しさだけ募らせるだけだ。

 

――でも、今でも変えられるものだって、ある。

 

「……君は父親を憎いと言ったな。平凡な存在であった母を殺める原因となった男を」

 

「……はい」

 

「私は感謝している。君の母親と父親が結ばれなければ、私達はこうして出逢うことは出来なかった。私だけじゃない。リアスも、兵藤も、みんなが君が存在しない未来を想像すれば悲しむだろう。母親の件は気の毒だったと思うが、出来る限りでいい。父親のことを否定しないでほしい。事情もまともに知らぬ男の戯れ言だと思うだろうが、改めて父親と会う機会があればでいい、きちんと話をしてみてくれないか?」

 

「そんな、こと」

 

「無茶な要求だということは承知している。だが、二人の間に愛がなければ君は生まれなかっただろうし、愛の結晶故に、君の母親は君を身を挺して護ってくれたのではと私は思うんだ。これは完全に推論だが、君がリアスと出逢うまで生き長らえられたのも、父親が根回ししていたからではないだろうか?子供が一人で生きるなど、そう容易いことではない。ましてや、追われる身であったならば尚更だ」

 

「……そんな都合の良いこと」

 

「そうだな。荒唐無稽で、夢物語に等しい欲望ばかりが逸った我が儘だ。だがな、私は君に一生その怨嗟を背負って生きて欲しくはないのだよ。君は母親が死ぬ原因となった父親の存在を妄執として捉えている。子供の頃に刻まれたトラウマを払拭するには、大人になった今、その辛い現実に立ち向かうことでしか為し得ないことだ。仲直りしろと強要しているのではない。ただ、成長した姫島朱乃の視点で再び父と相対し、改めて考える機会を設けて、今度こそ真実を見極めればいい。その時、君が如何様な結論を出そうとも、私はそれを引っくるめて君を受け入れるつもりだ」

 

言いたいことは言い終わった。

子供の頃の記憶というのは、脳の発達の途中であるということもあって、まともに思い出せない人が殆どだろう。

大人の脳でも、些細な出来事は不必要な記憶だと封印されるのに、子供の脳となればそれがより顕著だ。

子供とは感情的だ。理性よりも、本能を優先する傾向にある。

だからこそ、より強い衝撃を与えた記憶は、自分の想像にねじ曲げられる。

記憶なんてものは、主観によって幾らでも改竄出来る。自分に都合の良い記憶ばかり覚えて、それ以外は忘却する。

辛い記憶ばかりがいつまでも残っていたら、人によっては精神が崩壊してしまう。だから、そのメカニズムはあって然るべき代物だ。

精神的にも未成熟だった頃の姫島が、そんな辛い出来事を体験したのだ。諸悪の根源である父親との記憶を歪んだ形で受け止め、真実から目を逸らし続けている可能性は否めない。

子供の頃の記憶を、大人の思考を得た今も同じ視点で捉えているとなれば、それは間違いだ。

姫島はもう大人なんだ。大人なら、大人の考えでトラウマと向き合わなければならない。

そうしなければ、一生彼女は苦しみ続けるのだから。

 

「難しいことを、簡単に仰いますね」

 

「考え方次第という奴だろうな。私が要求しているのは、離別した父と再び対話を試みることであり、それ以上は君の裁量に任せる心算だ。有り体に言えば、父親に会いさえすれば私の要求は通ったも同然なのだ。たった一工程の動作を難しいと捉えるか、そうでないかだ」

 

「……本当、ズルイですわね。その言い方」

 

「すまないな。だが、紛れもない事実だ」

 

僕が言わずとも、いずれリアス辺りから提起されていた問題だろう。

辛いことを言うようだけど、逃げ続ける事なんて恐らく無理だ。

父親が死んで、憎悪の対象がいなくなったとしても、トラウマが消えることはないだろう。

今現在生きている姫島の父親と、子供の頃に刻まれた父親の妄執は別物だ。

父親はいつ死ぬかも分からない職業に就いているのだから、今の内にきちんと心に区切りをつけないと、永遠に彼女は亡霊に取り憑かれて生きていかなければならなくなる。

 

「……難しいでしょうけれど、善処してみますわ」

 

善処はやらないフラグだ、と普段なら茶々を入れるところだが、流石に自重した。

 

「それと、最後に言わせてもらうが――私は例え君が何者であろうと、変わらず受け入れ続けるからな」

 

これも、紛れもない本音だった。

人には誰しも事情がある。どんなに親しき仲でも、踏み込んではならない領域というものが少なからずある。

一方的とはいえ、それに該当する苦悩を吐露してくれたという事実は、信頼の裏付けと取って差し支えないだろう。

だからこそ、嬉しくならない筈がない。

なればこそ、その信頼に応えるのも吝かではないと思える。

 

「――私は帰るぞ。じゃあな、姫島」

 

これ以上気まずい空気は吸ってられない。言いたいことも言い終わったし、立ち上がって退散の決め込もうとした。

落ちていく夕日と目があった瞬間、背中に柔らかい感覚で包まれる。

姫島が僕の背中に張り付いていたのだと気付くのに、時間は掛からなかった。

 

「私のことは、名前で呼んでくれないのですか?」

 

「……そんなことで引き留めたのか」

 

「私にとっては大事なことですわ。貴方にとっては些事でも、私にとってはそうではない。これも考え方次第、ということではありませんか?」

 

そう言われると、反論できない。

 

「……朱乃。これでいいか?」

 

「もう一回言ってくださいませ」

 

「朱乃。――別に反芻せずとも、これからも呼ぶのなら一緒だろう」

 

「そんなことありませんわ。今、この瞬間に言うことに価値があるのですわ」

 

「そういうものか……」

 

「そういうものです」

 

声色がいつもの調子に戻っている。

こんな些細なやり取りで彼女の調子が戻るのであれば、安いものだ。

 

「……折角ですし、もうちょっと進んでもいいかもしれませんわね」

 

良く聞こえない朱乃の呟きに耳を傾けていると、肩に置いてあった手をどかし、腕を首に回してきた。

必然的に互いの顔との距離は近くなり、朱乃の唇が耳元にまで達する。

 

「私も零君ではなく、零と呼んでもいいですか?」

 

「別に好きにすればいい」

 

「では――零」

 

囁くように紡がれた言葉が、息が吹き掛かるような感覚も相まってとてもこそばゆい。

下の名前で呼ばれるなんて慣れたものなのに、何故こうも別物に感じる?

 

「こうしていると、まるで私達恋人同士ですわね」

 

「そういうのには疎いからな。分からん」

 

「あらあら、ご冗談を」

 

冗談じゃねーし!朱乃の中での僕は一体何なんだっての!

 

「誰かと恋仲になった経験はない男に、そのような機微を求められても困る」

 

「では、後にも先にも想い人はいないと?」

 

「そうだ」

 

掘り下げるなよ!話振ったのは僕のようなもんだけどさ!

 

「そうですか……ふふっ」

 

笑われた。彼女いない歴=年齢が許されるのは、小学生までだよねー!とか思ってそう。

やっぱり苦手だ、コイツ。

 

「……随分仲が良さそうね」

 

ふと、正面から訝しげな声が掛かる。

そこには、夕日を背負い腕を組むリアスの姿があった。

 

「あらあら、見られてしまいましたか」

 

「何が見られてしまいましたか、よ。こんな場所であんなことしてる時点で見せつける気満々じゃない!」

 

「そんなことはありませんわよ」

 

二人とも、僕を挟んで睨み合いをしないでくれ。お願いだからさぁ。

 

「零、帰るわよ」

 

「あ、ああ」

 

リアスに無理矢理腕を引っ張られ、神社を後にする。

 

 

我は汝……汝は我……

汝、新たなる絆を見出したり……

 

汝、《女教皇》のペルソナを生み出せし時、

我ら、更なる力の祝福を与えん……

 

あ、解放された。

結構前から絡みがあったのに今更解放されたってことは、以前まではどこか距離があったんだな。

それが、今回の件でその距離が近くなり、解放に至ったと。

こうして絆が深まったと分かり易く表現されるのは、嬉しいね。

 

 

朱乃は笑顔で手を振り僕達を見送ってくれた。だが、しこりは残したままでいいのか?

なんでか分からんが、険悪な雰囲気だったろ?

 

「朱乃と何を話していたの?」

 

「……彼女の過去を、余すところなく聞いた」

 

「……そう。知ってしまったのね」

 

リアスは足を止め、夕日を見上げる。

 

「貴方のことだから、朱乃が何者でも一切気にすることはないんでしょうね。そんな貴方にだから、告げることが出来たんでしょう」

 

「それは光栄なことだな」

 

「……生い立ちの関係上、異常な境遇に対しての偏見や差別意識に彼女はとても敏感なの。自分を良く見せることで、他人が無意識に一歩引くような関係が築けるようにしているのよ」

 

あの笑顔の意味は、そういうことだったのか……。

高嶺の花を演じれば、自然と立ち位置は限定されてくる。

良く見られたいという願望と、他者と距離を取りたいという一見矛盾しているようにも思える境遇を、朱乃は両立させていたのだ。

 

「貴方は、そんな有象無象の人間とは違う考え方を持っている。姫島朱乃という、ありのままの彼女を受け入れてくれる。私の時のように。清濁余すところ無く呑み込み、それでいて全て許容するなんて、知的生命体では到底為し得られないわ。そんな貴方にだからこそ、朱乃は全てを話したくなった」

 

……リアスが言うほど高尚な考え方をしていた訳じゃないんだけどね。

子供は親も基盤となる生きる境遇も選べない訳だし、それで誰かを評価するなんて間違っていると思うだけで、そんな聖人君子みたいな感じは一切無い。

実際、リアスのお陰もあるんだろうけど、朱乃は明るく笑顔が美しい女性として成長している。

彼女のことを深く知る者ならば、その境遇を知っても間違いなく受け入れてくれる。そう確信している。僕が特別な訳じゃない。

それを理解さえすれば、朱乃ももっと開放的になれる筈だ。

 

「……いずれ、朱乃が父親の妄執から解放される日が来るだろう。それまで、私達が支えてやればいい」

 

「そうね。――って、貴方、下の名前」

 

「彼女がそう呼んで欲しいと言っていたから、そうしたまでだ」

 

「へぇ……そう」

 

細めた目から放たれる眼光が痛い。僕が何をした。

 

「どうした」

 

「何でもないわよ」

 

そう言って早足で進んでいくリアス。

訳が分からん……が、男には分からない機微というものがあるのだろう。気にしないでおこう。

それにしても、あの黒猫。また会いたいなぁ……。

 




姫島朱乃

アルカナ:女教皇

笑顔を絶やさない美女に秘められし過去は、凄惨なる一言では表せない闇で満たされていた。
実質、身内に裏切られたに等しい経験をした彼女は、無意識に他者に線引きをし、距離を取るようにしていた。
孤独であることを拒み、しかし内に入られることを良しとしない。そんな矛盾を抱え、しかし両立させてきた。
そんな上辺だけの自分を演じ続けなければならない現実に、新たな光明が差す。
不思議としか形容できないその青年と接していく内に、彼へ抱く感情が他者とは異なる風になっていくのが理解できた。
そして遂に、自らの過去を話しても良いと思うようになり、偶然の流れから決意を固める。
結果として、青年は自分の全てを受け入れてくれた。
臆病に自らを秘匿してきた彼女が、初めて自分の意思で告げた言葉は、暗闇に囚われていた自身の心を引き摺り出すという結果を示してくれた。
その瞬間、彼女にとって彼の青年は、特別となった。





Q:久しぶりの姫島の絡みですね。
A:朱乃さんって言えよ、デコスケ野郎!

Q:まさか未来のネタを先取りするとはな。
A:朱乃さんの、イッセーと主人公への好感度を差別化するにあたって、如何に彼女に心を許されているか、という部分が重要になってくると考えたので、こうなりました(マジレス

Q:うわっ……主人公の勘違い、強引すぎ……?
A:勘違いなんてそんなもんだろ(すっとぼけ

Q:黒猫の扱いはどうなるの。
A:どうして欲しい?

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