Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D   作:花極四季

15 / 46
話一歩も進んでねぇ。


第十四話

今、駒王学園に支取蒼那の力によって結界が張られている。

この学園が戦場になる。それはオカルト研究部で一人待機していた私に突如告げられた現実だった。

 

本当はレイの様子を伺うという意味でも、授業が終わったら即刻帰るつもりだった。

でも、レイは自分のせいで私に不自由を強いていると考え、自らを責めるかもしれないと思うと、帰宅への意気込みも自然と形を潜めていった。

取り敢えず、時間潰しという意味でもオカルト研究部に寄り道していこうと考えた私は、リアス達が木場祐斗が帰ってこないことを話題にしている中、場違いに話を聞いていた。

そんな中、エクソシストである紫藤イリナがとある場所で倒れているとの目撃情報が入る。その名を再び聞いたこともそうだが、まさか助けに行こうとする関係だとは思わなかった。

オカルト研究部員であれど、リアスの眷属ではない私は魔法陣による移動が出来ない。

誰もいなくなるのならば帰っても良いかと考えたが、リアスに紫藤イリナを襲った存在に私が襲われる可能性があると言われ、待機を命じられた。

守る義理はなにひとつとしてないし、ならばレイとて襲われる危険性がある。

でも、レイは自宅で大人しくしている筈だし、堕天使である私が外を歩く方が危ないと判断し、指示に従うことにした。

レイに心配は掛けさせたくない。こんなにも私はレイのことを気遣っているのに、彼はそれを嘲笑うかのように危険へと身を置き続ける。

理不尽だ。不条理だ。納得できない。

――でも同時に、それが彼の魅力なんだってことにも気付かされる。

 

人間に限らず、知的生命体なんて究極的に言えば自己保身しか考えていない生き物だ。

どんなに善人ぶった奴でも、自らの命が危ぶまれればヒトゴロシもするし盗みだって働く。

他人に気を掛けられるのは、自分が幸福だからだ。

自らの幸福を棚に上げて、かつその幸福が失われない程度の裁量で他者の助けとなる。

釣り合いが取れているといえば聞こえは良いが、逆に言えばその条件が失われた瞬間、天秤は簡単に傾いてしまう。

……分かっている。それこそ正しいことだってことは。

自分を犠牲にしてでも誰かを救うことは、最早偽善の域を超えている。釣り合いが取れていない。

歪で、醜悪で、矛盾している。

――でも、そんな歪さが綺麗だと思えてしまうのは、何故なんだろう。

 

その歪みは本来誰も持ち得ないものだからこそ、憧れている?

危ない雰囲気の男に惹かれる女と同じ心理が働いている?

どんなに歪んでいても、誰かを助けるということ自体に悪の概念は含まれていないから?

――分からないことだらけだけど、少なくとも私はその歪な存在――有斗零に惹かれていることは間違いない。

放っておけない、助けになりたい。彼が過去に私を地獄から引っ張り出してくれた時のように、私も彼の力になりたい。

今までの人生の全てを失う切っ掛けでもあり、そんな人生では得ることの出来なかった本当に私が欲しかったものを与えてくれた人。

私は彼に恩を返したい。でも、何をすればいいのかも分からない。

 

下級堕天使である私では、フェニックスさえ倒した彼の盾にすらなれない。

しかも今や周りには、私なんかよりも強い悪魔が仲間としていてくれている。それが機能した試しがないとはいえ、それは完全に彼の自業自得だから批判の理由にはならない。

じゃあそれ以外では?と考えてみても、彼の家で居候をしている時点でおんぶに抱っこ状態。

家事とかもするけど、何故か彼の家は大抵綺麗な状態を維持しているから滅多に掃除は必要ないし、一人暮らしのせいなのか料理だって結構彼は上手いのだ。

女として沽券に関わるから必死に練習しているけど、所詮は付け焼き刃。未だに彼の足下にも及ぶ様子もない。

 

『この世界で生きる上で、君の存在は最早なくてはならないものとなっていた』

 

彼の紛れもない本心を聞いたとき、これ以上とない幸福感で満たされた。

でも、冷静になっていくと共に、その幸福が私の胸に棘となり、ちくちくと痛みを与えるようになった。

幸福が、彼の優しさが、無力な自分の後ろめたい感情を刺激する。

それでいいのか?本当に彼と同じ歩幅で歩いて、振り切られないと思っているのか?そんな言葉が脳内に過ぎる。

一足飛びで成果が出せる訳がない。そんな才能がないことは自分が一番理解している。

それでも、彼と対等な関係になるには、ドーピングのような特殊な方法で強くならないといけない。

同じ速さで歩いていては、今までの恩を返していったとしても、絶対に彼に借りが出来てしまう。そうなればいたちごっこだ。

 

一人になることで、どんどんと膨れ上がってくる自らへの負の感情。

昔からそうだった。何かしていないと、自分がしてきたことへの後悔で潰れそうになる。

この選択は正しかったのか。自分が選んだ選択で礎となった人達は、果たして本当にそう必要な犠牲だったのか。

堕天使になって初めの頃、後悔と自責の念で押しつぶされそうになった。

自分の選択で犠牲になった人達が夢に出て、怨嗟の言葉を呟かれたことも少なくはない。

天使だった頃は、下っ端である自分が出来ることは雑務全般だったから、自分の行き方に疑問を持つことはあっても、罪悪感を覚えることはなかった。

でも、堕天使になりある程度の自由を得たと同時に、自らの行動への責任も伴うようになった。

自分で選択し、自分で未来を掴む。ごく当たり前な生きるために必要な行為でさえ、私にとっては新鮮で、同時に残酷だった。

堕天使になって初めて自分で選んだ選択が、自衛の為の殺害行為なんて、あまりにも過激すぎる。

実際には殺しはしていない。自分にそんな実力はないから、せいぜい怪我をさせて戦闘不能にするのが関の山だった。

でも、その実力があったら?間違いなく、完全に刺客を殺していただろう。

生きるために、自由を得るために。必要だから殺す。そんな生き方は、私達のような人外にとって息をするように当たり前なことなんだって、知ってしまった。

 

でも、それを許容できなかった私は、自らに嘘を吐いた。

人間界で使われるような俗っぽい言葉遣いを用いて差別化を図り、性格も調子の良い感じを演じる。

そうすることで、堕天使として他者を排斥するミッテルトは、私であって私ではない、別人の仕業だと思いこみ、現実から逃げてきた。

自由は欲しい。だけど誰も傷つけたくない。

二律背反の理を矛盾無く飲み込めるほど、私は強くなんてなかった。

だから私は、堕天使ミッテルトという偽りの仮面を被り、心を守った。

現実はこんなにも理不尽で、残酷で――でもそんな世界で自由に生きたかった。

 

そんな生き方をしていたとき、レイと出会った。

彼はどこまでも自分の心に素直で、真っ直ぐで――だから、憧れた。

中途半端な自由と、自由の代価に行われる非道な行いに疲れていた私を救ってくれた――だから、彼に尽くしたいと思った。

結局誰かに依存しているじゃないかと思うかもしれないが、これは紛れもなく自分の意思で選んだ選択だ。

レイナーレ姉さまの時は、弱者である自分にはそれしか選択肢がなかったからに過ぎない。

彼女が私のことを利用していたように、私も彼女を利用していた。

レイとはそんな虚しい関係ではなく、互いに想い合っている仲。

……自分でも恥ずかしいことを考えていると思う。

だけど、あの時の彼の言葉が嘘でなければ、私達って、その……だよね。

私はその問いに明確な返事をしていないから、彼からすれば一方通行な告白のままで完結した出来事なのだろう。

そう考えると、私はとても卑怯な立場にいる。

でも、彼も私に心配掛けさせてばかりだから、多分お相子だ。

 

オカルト研究部の面々が会話をしている間、私はレイの隣に身を寄せていた。

リアスが帰還し、レイがまたもや危険な目に遭っていたことを聞かされた時は、念を押して外出を控えるように言ったにも関わらず約束を守らなかった彼を殴ってやろうかとも思いもしたが、その後に聞かされた内容で、そんな気は吹っ飛んでしまった。

堕天使コカビエル。噂によれば、アザゼル様やシェムハザ様に及ぶ実力者で、過去の大戦でも名のある実力者を相手にして生き残った猛者であるとのこと。

そんな大物に、レイが目をつけられた。

絶望した。フェニックスを遙かに凌ぐ化け物が、人間である彼との闘争を望んだ事実に。

彼が仲間を、駒王学園が破壊されていく様を黙って見ていられる訳はない。

でも、果たして勝てるのだろうか。

姫島朱乃はリアスの兄であるサーゼクス・ルシファーに救援要請をしていたようだし、倒すまではいかずとも援軍まで持ちこたえればいい。

でも、援軍が来るのはいつ?援軍が来るまで私達が耐えられる保証はどこにある?

はっきり言って、リアスや赤龍帝である兵藤一誠であろうと、コカビエルには及ばない。格が違いすぎる。

とはいえ、相手が強者だからという理由で逃げることは出来ない。立場が、関係が、それを許さない。

仮に逃げても、戦渦がコカビエルの手によって拡がれば結局の所同じ。八方塞がりだ。

 

「大丈夫か?」

 

「……うん」

 

緊張で震える私の肩にそっと手を置くレイ。

リアスも兵藤一誠もアーシアも、私がこの場で戦うことを快く思っていなかった。

当然だ。この中で私は最も弱い。

アーシアは非戦闘要因とはいえ、優秀な回復系の《神器》を持っている。

どの場面においても足手まといにしかならないのだから、彼らの言い分は間違いなく正しいといえる。

でも、そんなこと知るものか。

私の知らないところでレイが傷つくのも、自分の弱さを理由に逃げるのも、もう沢山だ。

 

それに、みんなが私がこの戦いに赴くことを否定する中、レイだけは肯定してくれた。

彼だって私が足手まといになるであろうことは理解している筈なのに、それでも受け入れてくれた。

第三者からすればこれ以上と無く愚かな決断だろう。

でも、彼は私の意思を尊重してくれた。共に生きるという意味を、行動で示してくれた。

その結果、最悪な結果に至ろうとも、後悔はない。

 

もし、レイの命が危ぶまれることがあれば、その時は――我が身を盾にしてでも、護ってみせる。

言葉にはせず、胸の内で決意を固める。

本末転倒なんかではない。私が生きる世界で、彼は最早なくてはならない存在なのだから。

最早彼のいない世界に欠片の価値も見出せない。ならば、彼を生かすために我が身を犠牲にしようとも、それで今までの借りを返して逝けるのであれば、本望だ。

 

 

 

 

 

《聖剣計画》

 

悪魔を滅ぼすことの出来る聖剣エクスカリバー。それは誰にでも扱える代物ではなく、特別な素養――因子を持つもののみが扱える剣。

そして、その因子を人工的に作ることを目的とした計画として、それは立てられた。

僕の人生を悉く狂わせ、幾多もの罪もない犠牲者を生み出した、忌まわしき計画。

被験者となった僕以外の候補者は、実験の果てに毒ガスによる処分という形で、理不尽な死を迎えた。

僕だけは、被験者のみんな――仲間に逃がされる形で命からがら脱出することが出来た。

そして、必死の脱出劇の果てに精根尽き果てた僕の前に、リアス部長が現れた。

 

これが、僕の始まり。

教会に与する立場であった自分が悪魔となり、聖剣への復讐を誓った、最悪な人生の転機。

リアス部長の眷属として生きる日々の末、聖剣への復讐心も薄れてきていたある日、再び聖剣への復讐心が蘇る切っ掛けが起きた。

聖剣の破壊。それが生きながらえた僕が為さねばならない使命。

その為にははぐれ悪魔になるのも辞さないし、邪魔をするのであれば同じ眷属のよしみがあろうとも、容赦なく排除する気概でいた。

 

――その決意が初めて揺らいだのは、眼前で零先輩が僕を庇い、聖剣で斬られた時だった。

あの時の僕は、聖剣の破壊という使命を果たさんと気ばかり逸り、精彩を欠いていた。

自分の本来の実力の半分も出せない状況で聖剣の破壊など、今思えば嘲笑ものだ。

結果として僕は圧倒的劣勢に追い込まれ――僕の代わりに先輩が傷つく羽目になった。

その時、気が付いた。

どんなに僕が彼らを遠ざけようとも、一人で復讐に走ろうとも、今まで培ってきた人間関係がそれを許さないのだと。

 

だって僕は知っている。

僕を救ってくれた部長。

常に一歩引いた視点でみんなのサポートをしてくれる副部長。

ひたむきで真っ直ぐな意思を持つ一誠君。

悪魔になろうとも慈愛の精神をかすむことのないアーシア。

感情表現に乏しいけど、純粋な優しさを持つ小猫ちゃん。

そして、人間でありながら悪魔の問題に介入し、どんな時でも僕達を救ってくれた零先輩。

接点は殆どないけど、そんな先輩が命を賭けてまで救ったミッテルトという堕天使も、アーシアとのやり取りを見る限りでは決して悪人でないことは分かる。

そんな優しさに囲まれた僕が、今更復讐という殺伐とした世界に一人身を寄せるなんて、どだい無理な話だったのだ。

 

それを認められなかった僕は、それでも一人でいることを貫いた。いや、考えることさえしようとしなかったというのが正しい。

零先輩への罪悪感はあったが、今更どの面下げて謝ればいいのか分からなかった。

復讐を止める?ならば、何のために先輩は傷ついた?

そんなことをすれば、ますます先輩に申し訳が立たない。

僕はそんな先輩への罪悪感をダシに、より一層復讐の炎を滾らせた。謝罪は全てが終わってから必ずするという決意と共に。

 

そして、噴水広場での一誠君達との邂逅が、二度目の揺らぎ。

一誠君、小猫ちゃん、匙君の他にも、教会から派遣されたエクソシスト二人も同伴していた。

あの時の僕は、あのような惨劇を生んだ教会側に与する存在が共にいたこともあり、随分と刺々しい雰囲気を醸し出していただろう。

そんな彼らの話を聞き、自分の過去を話したことで、彼らは一緒に戦ってくれると言ってくれた。

嬉しかった。一度彼らの優しさを突っぱねた僕が、彼らの善意を享受する権利などありはしないのを分かっていても、その感情にばかりは嘘を吐けなかった。

 

それとは別に、エクソシストの二人の雰囲気が軟化していたのにも驚いた。

後に知ることになるのだが、彼女らをそうさせたのも零先輩による功績によるものだとか。

彼は人間でありながら、悪魔、天使、堕天使どの勢力問わず影響を与える。

正直、謎ばかりが多い人ではあるが、ただひとつ言えることがある。

それは、彼が僕達にとって絶対の味方であるということ。

そうでなければ、命を賭けてまで僕を庇う道理がない。

自惚れでなければ彼にとって僕は、命を賭けるに値する存在だと言うことになる。

自分ではそんな実感は微塵も感じないけど、そう有るべくして努力することは出来る。

 

駒王学園の方向から光の柱が延びるのを確認した僕は、全力でその場へと向かう。

僕は先輩に救われた。ならば、今こそ恩を返すとき。

今度は暴走なんてしない。今の僕には、一緒に戦ってくれる仲間がいるのだから。

 




Q:心理描写だけじゃねぇかオラァ!
A:思いの外ミッテルトたんの部分が長くなったから、分割した。次回には終わると思う。

Q:ミッテルトヤンデレっぽい?
A:純粋過ぎるが故の安直な思考回路って奴です。恋は盲目っていうか、好きな人の為ならなんでもしてあげたくなる心理みたいな。

Q:木場メインの話なのにようやく視点が来て扱いがコレかいな。
A:原作で嫌と言うほどやっているんだからいいじゃないか。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。