Infinite possibility world ~ ver Highschool D×D   作:花極四季

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みんな大好きあの人の回。短いけど気にしないでね!


第十話

僕とミッテルトがオカルト研究部の一員になった翌日。

ミッテルトはリアスに話があるとかで、部室を留守にしている。

それ以外のメンバーは集結しているけど、別段何かするということでもなく、各々が自由にしている。

唯一、イッセーが複雑な表情でソファーに座っているのが気がかりだが、それはいいだろう。

 

「……なぁ、普段はいつもこんな感じなのか?」

 

近くにいた木場に問いかける。

 

「こんな感じ、とは?」

 

「何と言うべきか、悪魔の会合にしては随分のんびりしているというかだな……」

 

「はは。零先輩って意外と前時代的な考え方するんですね」

 

爽やかに笑われた。

木場の中では、僕の頭の中は魔女狩りとか黒ミサとか、そういったイメージをしているものと思われているのだろう。

 

「特に部長から命令がないのであれば、基本こんな感じです。命令があるとしても、その内容は主に契約を取ったりとか、そういうのですね」

 

「契約?」

 

「悪魔ですからね。人間の欲望を叶えて、対価を得る。それを繰り返すことで、実績を得られます。これにより、悪魔としての階級を上げていくことに繋がるんです」

 

「……対価って、何なんだ?悪魔といえば、魂とか連想するんだが」

 

「……知りたいですか?」

 

にこやかに笑う木場。なんていうか、凄く……胡散臭いです。

そして一瞬間を開けたかと思うと、パッと表情を元に戻す。

 

「冗談ですよ。確かにあまりにもその欲望の度合いが高ければ、最悪そうなる可能性も否めませんが、基本的には物々交換みたいな感じです」

 

なんだろう、このからかわれている感じ。なんか違和感がある。

あぁ、そっか。この世界に来て、こんな安穏とした空気の中こういう会話をしたのは、男では木場が初めてなのか。

イッセーとは何度か会話しているけど、こういう他愛のない雑談とかはしたことなかったしね。

だから、こんな普通の出来事でさえも新鮮に感じる。

……というか、木場よ。お前は超能力者の小泉か。かなりデジャヴったぞ。

 

「意外と俗物的なんだな。というよりも、ここまで来ればただの営業と変わらんな」

 

「その方がいいじゃないですか。少なくとも、部長率いるオカルト研究部のメンバーは、そういった悪魔らしい契約なんて望んでいないですし、誰も損しないならいいじゃないですか」

 

「まぁ、確かに」

 

そんな感じで会話していると、いきなりイッセーが立ち上がり、

 

「――そうだ、先輩!契約のこと詳しく知りたいなら、俺今から契約者のところに行くから、ついてきません?」

 

「まぁ、ミッテルトが帰ってくるまで暇だからいいが」

 

「ありがとうございます!まじでありがとうございます!」

 

「何故感謝する?」

 

ものっそい勢いで頭を下げるイッセーに内心ドン引きしながらも、その勢いに押される形で契約に同行することになった。

もうね、イッセーの謎行動のせいで嫌な予感しかしない。でも、行くしかないよなぁ……。

 

 

 

 

 

これは、チャンスだと思った。

木場と零先輩が契約のことで話をしているのを聞き、条件反射で同行の提案を持ちかけた。

そうすることで、俺の精神的安定の礎になってもらう作戦だ。

先輩には悪いと思っているが、これも新人が通った通過儀礼だと思って諦めてもらいたい。

 

俺が今日行かなければならない契約者なんだけど、その名はミルたんという魔法少女になりたいと願う人なんだ。

それだけこの俺が拒む理由なんて欠片もないと思うだろう。

――でもさ、ソイツが筋肉モリモリマッチョマンの魔法少女服を着た変態だったらどうする?

いや、悪い奴じゃないってのは分かってるんだ。でも、そのあまりの外見のインパクトと、語尾ににょ、とつける不釣り合いさも相まって、濃いキャラクター性を遺憾なく発揮しており、そのせいで良い部分が丸ごと覆い隠されているんだよ。

つまり、善悪勘定で測る以前の問題だということだ。

 

それに、チャンスと思ったのはそれだけが理由じゃない。

普段はクールで表情を崩さない零先輩も、アレを前にすれば見たこともない反応をするかもしれない。その瞬間が見たい。

恐らく、俺以外にも同じ思いを抱いた奴はいるだろう。

写真とかは撮れないだろうから保存は出来ないが、その時の光景は忘れずにみんなに教えてあげようと心に誓った。

 

そんなこんなで、俺達はミルたんの自宅前にいる。

魔法陣で転移出来ないせいで、今日も自転車で営業に向かう羽目になったんだけど……零先輩も同じく自転車で移動、かと思いきや走って移動していた。

いや、本気で走っていないとはいえ、自転車の速度についてきて尚かつ息切れしないとか何なの?

俺悪魔だけど、基本的に人間時代と身体能力大差ないから、基礎能力で先輩に負けていても不思議ではないんだけど……やっぱり悔しい。

というか、現実的に考えると先輩ってスポーツ系の部活にも入ってないのに、どこであんな体力作りしてるんだろう。

それに、修行の最初の方で木場と戦ってたりしたけど、明らかに身体捌きが素人じゃなかったのも気になる。

……まぁ、謎は多いけど悪い人じゃないのは分かりきってるから、仮にその辺の事情を知ったところでどうこうなるなんてことはないだろうし、気にするだけ無駄か。

 

「じゃあ、チャイム鳴らしますよ」

 

「ああ」

 

震える手を必死に押さえつけ、チャイムに触れようとしたところ、

 

「悪魔さん、遅かったけどどうしたにょ?」

 

「うわああああああ!!」

 

背後から耳に残る野太い声が響き渡り、反射的に声を上げてしまう。

振り向くと、そこには筋骨隆々の異形ことミルたんが仁王立ちしていた。

ああ――そうだよな。コイツに比べたら、先輩の謎なんて可愛いもんだよな。

 

「悪魔さん?」

 

「あ、ああ。ちょっと色々立て込んでてさ。ごめん」

 

「気にしてないにょ。だけど心配だったからちょっと前に街全体を探し回ってたんだにょ」

 

「ああ、だから後ろから……」

 

やめてくれ、心臓に悪すぎる。

そうだ。先輩はどうなった?

流石の先輩も、コイツの前ではどんな反応を――

 

「貴方がミルたんですか?」

 

「お、悪魔さん以外にも人がいるにょ」

 

「初めまして、有斗零です。彼とは知人でして、今回悪魔の契約について教えてくれるということなので、同伴を許してもらった次第です」

 

「おお、そうだったのかにょ。ミルたんはミルたんだにょ」

 

……別段変化はない。というか、平然と握手さえしてるよ。

強いて言えばサーゼクス様にさえ口調を崩さなかったのに、ミルたんには敬語なのが気になるが、内心混乱しているのか、俺のために契約相手の機嫌を損ねさせないための措置なのか、判断に困る。

 

「では、上がって下さいだにょ」

 

「お、お邪魔します……」

 

そうして上がったミルたんの部屋は、相変わらず魔法少女ミルキーのグッズが所狭しと並んでいる。

先輩は珍しそうにそれらを眺めている。

 

「で、今日はどういった理由で呼んだんだ?」

 

「えっと、今日も前のようにミルキーのDVDを一緒に見ようと思ったんだけど、知らない人もいるから路線変更するにょ」

 

そう言って、ミルたんは先輩の方を向く。

 

「零たんは、魔法少女になる方法を知ってるにょ?知ってるなら教えて欲しいにょ!」

 

ああ、やっぱりそれ系の質問だよね。

ミルたんは、嘘か真か異世界にさえ行ったことがあるという謎生物だ。それも、魔法少女になる為だけに。

というか、先輩魔法少女とかって分かるのか?何て言うか、そういうのに全く興味なさそうな感じがするんだけど。

先輩はふむ、と顎に手を当てて考える素振りを見せると、そのまま質問をする。

 

「……まず、貴方の求める魔法少女の定義について聞いておきたい」

 

「ミルたんは、ファンタジーな力が使えるようになりたいんだにょ!この、『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』に出てくるミルキーのような!」

 

そう言ってDVDのパッケージを先輩に手渡す。

一般人からすれば明らかにキワモノな内容だけど、先輩は引く様子さえない。

 

「そうですね。まず、人間の集合意識によって生み出された魔法の定義は、常軌を逸した未知の力というのが殆どでしょう。つまり、理解できない事象は等しく魔法のようなものである、と解釈することも出来ます」

 

先輩は語り出すと、近くに置いてあったミルキー印のトランプを手に取る。

 

「トランプマジックでよくある、相手の取ったカードの数字を当てる、というものがあります。あれもタネが分かれば単純な数式に基づく計算だということが分かりますが、知らない人からすればまさに超能力であると言えます」

 

1から9そしてジャックを0と見立てるために抜き取り、シャッフルする。

そして、ミルたんへ向けてトランプを差し出す。

ミルたんは察したようで、二枚ほどカードを上から引いていく。

ミルたんが引いたのは、2と9のカードだ。

 

「その引いたカードを足した合計は?」

 

「11だにょ」

 

「それを11で割ると、当然1ですね。……ということは、貴方の選んだカードは2と9ですね」

 

「凄い、当たってるにょ!」

 

「説明は省きますが、このように透視ないしは読心術で看破された、と思ってもおかしくないシチュエーションでも、きちんとした種があります。逆に言えば魔法という概念にも、様々な形がある可能性があるということです」

 

「……?言いたいことがよく分からないにょ」

 

俺も良く分からない。

ただ、先輩は荒唐無稽なことは絶対に言わないだろうし、この話にも何か意味があるに違いない。

 

「貴方がこの魔法少女ミルキーが好きなのは、この部屋を見て十二分に理解出来ました。ですが、貴方は他の魔法少女について理解はありますか?」

 

「ミルたんにとっての魔法少女は、ミルキーだけだにょ!」

 

ミルたんの大声にも、先輩は怯む様子もなく話し続ける。

 

「それではいけません。ひとつを大事に思うのは良いことですが、固執すればそれだけ世界を狭める結果になります。貴方が魔法少女になりたいと望むのであれば、視野を広める必要があります」

 

先輩はおもむろに立ち上がり、部屋を後にしようとする。

 

「ついてきて下さい。貴方の世界を拡げてあげますよ」

 

……ごめん、俺ついていけない。

というか、先輩って魔法少女に詳しいんですか?

 

というわけで、とある店のDVDコーナーに足を運ぶことになった。

ミルたんは相変わらずの服装で、俺達もその隣を歩いているもんだから、周囲からのヒソヒソ声が止まない。

先輩は意に介した様子はないし……何なんだ一体。

アニメDVDコーナーに足を運んだかと思うと、先輩は慣れた手付きでパッケージを手に取る。

 

「まず、この作品だが。これは魔法少女を銘打ってはいるが、その実、科学技術の結晶だ。魔法少女お約束の杖だって科学技術で制作されているし、魔法だって魔力を運用しているとはいえ、それを魔法として変換するのは奇跡でも何でもない、人間の知恵によるものだ」

 

「でも、それはミルたんの求める魔法少女じゃ――」

 

「落ち着け。先程私は自分にとって未知のものは総じて魔法に等しいと説明したばかりだろう。この技術は、舞台となる地球の外で発明されたもので、地球人からすれば結局の所大きな差はないのだ。知ればそうではないだろうが、知らなければ同じこと」

 

「それじゃあ、ミルキーもそうだって言うのかにょ?」

 

「いや、これはあくまでこの作品だけの話だ。どれもイコールとして考えるのは愚の骨頂だし、そういった観点で魔法という概念に着手するというのは、決して間違った行為ではない。これ以外にも魔法少女の作品は沢山あるから、これを期に見てみるのもいいかもしれないぞ。そこに、ミルたんが求める、ミルたんだけの魔法少女に至るヒントが見つかるかもしれないからな」

 

「れ、零たん……!!」

 

ミルたんが、目尻に涙を浮かべている。

俺にはどこに感動する要素があったのかが分からない。俺が間違っているのか?

ていうか先輩、いつもの口調に戻ってますね。熱弁してるからか?

 

「ありがとうだにょ!零たんの言葉に感動したにょ!ミルたん間違ってたにょ!」

 

にょ、にょ、にょって言い過ぎだ。怖すぎる。

 

「何、気にすることはない。人は誰でも初めは無知なのだ。そこから学習すれば、決して恥とはならないさ」

 

そんなミルたんと平然と会話している先輩。

ああ、なんかもう、いいやどうでも――――

 

 

 

「――――ッセー、イッセー!」

 

「ハッ!」

 

部長が俺を呼ぶ声で、目を覚ます。

周りを見ると、そこはオカルト研究部の部室だった。

あれ、確か俺、先輩達と――――

 

「イッセー、どうしたの?帰って来るなりまるでゾンビのようだったけど」

 

「――あ、そうだ!零先輩は?」

 

「彼なら、ミッテルトと一緒に帰ったわよ」

 

「そう、ですか」

 

記憶が完全に飛んでいるが、それで良かったのかもしれない。

あの悪夢のような時間を過ごす必要がなくなったのだから。

 

「それにしても、凄いわね。貴方が贔屓にしている契約者の――ミルたんだっけ?彼から、零を褒め称える評価が沢山綴られているのよ。一体、彼は何をしたの?」

 

「ああ――それですか。……部長、世の中には知らない方がいいこともあるんですよ」

 

「え、ちょっと、イッセー!」

 

そう、知らない方がいいことだってある。

この記憶は、俺の中にそっとしまい込もう。そして、俺も忘れよう。いや、忘れなければ――

 

こうして、次の日には昨日の悪夢をさっぱり忘れることに成功した兵藤一誠。

しかし、悪夢は決して終わらない。

後に、有斗零を師と仰ぎ、彼を同伴させることを望むミルさんにより、幾度と悪夢は繰り返される。

その度に昨日の記憶を失うことになるのだが、その現実を彼はまだ知らない。

 

 

 

 

 

「今日はどこ行ってたの?」

 

「ちょっと兵藤の契約現場にお邪魔させてもらっていた。そのついでではあるが、これを借りてきたぞ」

 

「あっ、これ『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』だ!ありがとうレイ!」

 

DVDの入った袋を抱いて喜びを表現するミッテルト。

DVDを手に喜ぶミッテルトを見ながらほっこりとした気分になる。

いやー、まさかテレビ好きのミッテルトの影響で、この世界にも現実世界と類似のレンタルDVD屋があることを知っていたのが、こうも役に立つ日が来るとは思わなかった。

ミルたんも、あんな濃いキャラメイクする人がいるとは思わなかったから最初は驚いたけど、悪い人ではないのはすぐ分かったからね。

話題も良い感じに合うし、良いお友達になれそうだ。

ミッテルトの事があったから、上映会には参加出来なかったけど、イッセーが代わりに参加するっぽいし問題はないでしょ。

あ、そうそう。ミルたんとコミュが成立したよ。

アルカナは《塔》。まぁ、確かに彼は《塔》だよね。色んな意味で。

 

「そういえば、今日はリアスに何の用だったんだ?」

 

「んー?秘密ー」

 

ミッテルトに今日の事を聞き出そうとするも、ニシシ笑いと共にはぐらかされる。

まぁ、女の子同士の密会だし、男には話せない内容かもだから、言及するのはよそう。

取り敢えず、今度ミルたんに会う時の為に魔法少女関連の知識をもう少し詰めておこう。

 





ミルたん

アルカナ:塔

それは、未知の概念に憧れを抱いていた。
憧れは人生観を変え、あらゆる奇跡を肉体ひとつで実現してきた。
それでも、望むものはひとつとして手に入らなかった。
そんな絶望に近い想いを抱きながら過ごす日々に、突如光が灯る。
青年は自分へ新たな人生観を植え付けてくれた、救世主と呼ぶべき存在だった。
時に横道に逸れることで新たな道が開けることを教えてくれた青年を、心の中で師と仰いだ。





Q:主人公キャラ崩壊してね?
A:口調はともかく、話す内容は彼自身が選定しているので、こういう会話も普通に有り得るんだよね。ただ、そういうネタ振りがなかったから、普通の会話しかしなかった訳で。

Q:ミッテルトちゃん可愛い。
A:知ってた。

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