ひぐらしのなく頃に 決 【影差し編】   作:二流侍

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■影差し編【Ⅰ-Ⅳ】

「じゃあ今日も体育はみんなで遊ぶことにするよー!」

 

 クラス委員長でもある園崎さんの一言でみんなが半円を描くように集まる。体操服は学校から指定を受けていたもの。女子は体操シャツにブルマー、そして男子は同じ白地の体操シャツにハーフパンツといったものだ。本当なら転校して間もない自分も買った新品の奴が今日着こまれているはずであったけど、引っ越す前の中学と同じ形式。そのまま流用している。だから新品の綺麗さはないのが少し残念でもあり、着心地の良さを感じている。夏場の暑さも体操服の薄さに和らいでいるような気がした。

 ハーフパンツにシャツを入れなおしていると、園崎さんが今回のゲーム内容を説明していた。

 

「今回は古くから日本に伝わりし伝統『おにごっこ』! それをあたし達は最先端の情報を網羅し、工夫させたものを利用させてもらうよ! 時は戦国! 武田と上杉の争いのごとく、長く、そして熱くさせるものである!」

「御託はいいぜ。一体何やるんだよ?」

 

 先ほどまで死人の面から立ち直っただろう前原君が園崎さんに省略を求めていた。炎天下の下で説明を受けるのは、校長の話並みに苦痛なのである。

 そんな文句を言っているのに園崎の笑顔は崩れない。その余裕は言われることを予期していたのか、それとも迫りくる未来に対して何か楽しいことでもあるのか。何はともあれ、園崎さんは腕を振り上げて、今日の部活の内容を発表した。

 

「今回は……ケイドロをするよ!!」

『おぉー!』

「何か異論はある?」

 

 みんなは盛り上がって今回行われるゲームについて闘志を煮えたぎらせていた。隣と握手をかわしているもの。内々に作戦を話しているもの。女の子を眺めながら涎を垂らしているもの。

 とにかく各自で然るべきときに向け、行動をとっていた。

 ……その中に加われない僕だけは空気の読めないクラスメートでしかない。

 どうしようもないということで、手を挙げて園崎さんに質問をする。

 

「あのー。ケイドロってなんでしょうか?」

 

 一瞬だけ静まり返る群衆。

 その言葉にまず反応してくれたのは園崎さんじゃなくて隣にいた古手さんだった。

 

「……簡単に言えば泥棒役と警察役に分かれ、鬼ごっこをするのですよ」

 

 鬼ごっこぐらいなら小学校の時にやっていたこともあって理解が出来る。

 

「警察は追いかける、泥棒が追いかけられる側になりますわ。まず泥棒が逃げる。これは鬼ごっこと同じルールですわ。そのあと警察が追いかけて、泥棒にタッチ。これで泥棒は捕まった事になりましてよ?」

「捕まった泥棒は牢屋っていうエリアに収納される。時間内まで泥棒が逃げ切る、もしくは泥棒全員が捕まってしまったらその場でゲーム終了! だけど泥棒には捕まった泥棒……つまり収納されている仲間泥棒をタッチすることで、その仲間泥棒を助けることが出来るんだよ!」

「あぁ……なるほどね」

 

 ここまで聞いていた分には理解が可能だった。本当に簡単に言えばこれは多人数の鬼が付いたようなものと考えればいいのだろう。

 

「因みに警察は泥棒を捕まえるためにはタッチを二回連続でしなければならない。それが今回の特別ルール」

「あ、うん。大体ルールは分かったよ」

「物分りがいいねぇ」

 

 基本は鬼ごっこと変わらないのでそこまで頭をひねる必要はない。もし分からないような事になれば、その時には近くの人にルールを聞けばいい。それでも分からない場合は感性のままとやらだ。何とかなるだろう。

 だからそのような反応をしたのだ。

 

「よし、じゃあ4人一組になって2人ずつのペアを作ってー」

 

 言われた通りに近くの人たちとグッパー(グーとパーで2つのグループに分けるもの)でペアを作った。因みに僕はグーだ。グーかパー、それぞれが同じメンバーを集めてグループを招集する。

 互いが互いを観察している。普通の遊びでもそうだけど、こういう場合戦力差が偏ることがあるのだ。さて、こちらは誰が仲間になるのやら……。

 

「よ! 孝介!」

「前原君! 同じなんだね!」

「おお、頑張って勝とうな!」

 

 どうやら勝ちにいく気は満々のようだ。その瞳には炎が渦巻いている。その意気込みは勝ちにより近づけることが出来るだろう。

 確かにここまで来たんだ。これ以上弱気になる必要はない。体力はなくとも、機転でカバーしていくしかない。……それよりも、他に誰か同じグループはいるのか。部活メンバーが1人でもいれば、それだけ戦力の分析が楽になってくる。

 周りを見渡してみると、こちらに近づいてくる一人の少女がいた。

 

「……みぃ。圭一と篠原と同じグループなのですよ」

「お、梨花ちゃん! 同じだな!」

「よろしくね、古手さん」

「……みんなで勝つのです。ファイト、オーなのです」

 

 にこやかに笑って古手さんは場の空気を和ませた。しかしこうなると部活メンバーの中での敵対勢力はおのずと分かってくるというもの。場は2つの勢力に分岐していた。

 敵グループは園崎さん、竜宮さん、そして北条さんという中々に恐ろしいメンバー。園崎さんは意気揚々と拳を打ち合わせているし、北条さんは指をいじっている。竜宮さんは……まだかぁいいモードから抜け切れていないのかポワポワとしている。とにかく活発的に行動する面子が向こうに行ったと言ってもいい。

 特にこの場での北条さんの罠ほど頼りになれるものはないだろう。敵となってしまった今では脅威以外の何物ではないのだが。

 

「おーや孝介さん? 私を見つめてどうしまして? それほどまでに私を警戒なさっているのですか?」

「ははは……。何があるか分からないから……ね」

「大丈夫ですわ! 痛みは一瞬にしてあげますわよ!」

「うん、罠にひっかかるのは当然の事なんだね……」

「孝介さん。私のは罠ではなく、トラップですわー」

 

 あまり変わらないような気もするのだけれど、彼女なりのこだわりという事だろうか。とにかく彼女はチームの工作員として行動するだろう。迂闊に行動しようものなら、火矢が飛んでくるかもしれない。いや……サッカーの出来事を考えれば更に脅威があるのかもしれない。

 

「…………大丈夫なのですよ。僕たちはきっと勝つのです」

「え? そうなの?」

「……ボクには秘策があるのですよ。にぱ~★」

 

 何かよく分からないけど秘策と言うもので僕たちは勝利をすることが可能のようだ。しかしそれを見過ごすメンバーなのだろうか。しかも、内容を教えてと言っても笑顔でかわしている。情報漏えいを防ぐためなのだろう。だからこそ情報の正確さが分からない。可能性がどれほど高いのかが分からないのだ。

 ……まぁ、ここは様子を見るということでいこう。

 

「はぁい! じゃあグループの中から代表者を決めて、じゃんけんで警察か泥棒決めるよー」

「誰が行く? 誰か立候補はいますか?」

「……代表者は圭一でいいのですよ」

「よっしゃ! 任せとけ!」

 

 みんなも異論はない様子。

 向こうはどうやら園崎さんが代表者のようだ。まぁここはそんなに重要ではないはず。心理戦的なものを掛ける事もなくふつうにじゃんけんを行っての結果は勝者前原君だった。

 

「……じゃあ俺たちは泥棒にするぜ」

「あたし達は警察だね。奇数だからこっちが一人多くなっちゃうけど、まぁいいよね。――――さて、決まった事だし、さっさと始めるよ! 因みに今回の罰ゲームはコスプレをしてもらうから! …………よし、始め!」

 

 さらっと罰ゲームの内容が言われたけど、さっきのコスプレではないことを祈ろう。

 僕たちは一斉に散り散りとなって警察の場から離れる。グラウンドという狭い場所と、校舎の裏も使えるからどこに隠れようか。そんな中たまたま前原君と同じ逃走ルートだったので、走りながら前原君に気になった事を尋ねる。

 

「前原君。さっき泥棒にしたけど、何か根拠はあるの?」

「ん? ああ、あれは沙都子対策だよ」

「北条さんの?」

「そうだ。あいつが泥棒になった時、困るのはトラップだ。警察は泥棒を捕まえないといけない以上、そのトラップに突っ込まないといけない。そうすれば犠牲者は多数確定だ。逆に警察だと泥棒を追いかけなければならないから罠の意味が薄くなる。だから俺はあえてトラップを仕掛けにくい警察側にさせたんだ」

 

 凄い、たった短時間でそこまで考えて結論を出していたなんて。流石部活メンバーと共に過ごしているだけの事はある。

 

「んじゃあ俺はこっちの道にするから」

「あ、じゃあ僕は近くで隠れられる場所を探すとするよ」

 

 僕は運動が苦手だ。多分走り回るよりかは隠れてその場をやり過ごす方が性に合っている。

 

「そうか、じゃあお互い生き残ろうな!」

「うん」

 

 そんな時警察側が動き始める掛け声が聞こえてきた。本格的にこのゲームの開始という事には違いない。僕は近くの草藪に身を潜めることにした。

 

「よし、しばらくここで待機だ」


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