ひぐらしのなく頃に 決 【影差し編】   作:二流侍

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■影差し編【Ⅲ-Ⅲ】

 開けた瞬間に目では中身、そして耳では光り輝くSEが入り込んできたような気がした。

 それほどまでに彼女の作った弁当には今までとは一線を越えた力の入れようがあった。観客どころか僕も前原君も感嘆の声を上げて、園崎さんが作った料理を褒め称える。

 

「これは……かなりのお金がかかっているね」

「伊勢えび、鯛の焼き物に里芋などなど! 今回はおせちを料理さしてもらったよ!」

「おい、魅音! これ誰かに作ってもらっただろ……!?」

「そんな訳ないじゃ~ん」

「ま、マジか……」

 

 前原君の言いたいことは全くだ。何せ今まで作ろうとはせずに、誰かに作ってもらったシンプルな弁当という日も少なくなかったのだ。彼女は料理については興味ないと思っていてもおかしくない。

 だがそれはもう覆された。今ここにあるのは、とても料理がちょっとできますよレベルではない。

 園崎さんはかなりの実力者、それが証明された瞬間であった。

 

「あたしは園崎家の跡取りになるんだよ? 料理が出来なきゃ駄目だからねぇ。当然、私が作っているよ!」

「園崎家ってそんなに凄いの?」

 

 園崎家の事情とやらがあるのか分からず、素直に竜宮さんたちに聞いていた。

 

「うん。魅ぃちゃんのお家は雛見沢で一番大きな家なんだー。つまり雛見沢で一番偉いのかな、かな!」

「更に色んな店や企業にも関わりを持ちましてよ。鹿骨市の市長も園崎さんの一家ですわ」

「……魅ぃは凄いのですよ、にぱ~☆」

「……だがこれは予想外だぜ」

「裁縫なんかも魅ぃちゃんは出来るんだよー」

 

 そうか、そこまで凄い人ならこの量とそして素材の良さは納得が出来る。ダークホースと思っていたけどこれは違う。優勝候補の一角を担っていた。やはり彼女も口だけで勝利を願ってはいないということであろう。しかしギャップというものがあるよねー、意外や意外。

 みんなも園崎さんの自信作に嬉々として箸を伸ばして、口にしてはそれぞれが感想を言っていく。評価なんて聞かなくても分かるくらい、単純明快だった。

 

『うわぁ、伊勢えびなんて初めてだ。凄い柔らかーい!』

『これは上手いよー!』

 

 批判の要素なんてあるのだろうか。素材、そしてそれに併せ持つ技量も存在する彼女の作品はすでに一級品の料亭レベルのものだ。もし自分も同じように素材で勝負をしていたらと思うと、最悪な事態しか想像できない。

 しかし何故ここで園崎さんが一手を投じたのか、ようやく理解出来た。彼女は単に下手な前原君の後で評価の修正を加えたのではない。むしろ、それ以上の結果を望んでいる。

 普通の弁当であれば、こんな間に入れてしまうと他の味に負けてしまっていた場合に味による評価は一切望めなくなるのは必須。微妙に勝っていても、その評価は前の弁当と同等、もしくは以下に考えられがちなのだ。人は過去の作品を良く感じてしまいがちであるから。その後の味にさえ、低い基準として見られる危険性だってある。

 ――――だが間に入ったのがインパクトの大きい弁当だったら? そして納得の料理だとしたら。

 答えは明確。全作品に対する評価の塗り替えだ。

 インパクトは大切だと僕でさえ分かる。見る者を引き込ませられれば、その味に対しての評価も上昇する。すなわち、その味が忘れられないのだ。そして過去の作品がそれよりも劣っているのではと記憶の味に疑念を持ってしまう。今までの作品が薄れてしまうのは当然のことながら、後の基準が園崎さんのものへとシフトする。

 彼女はそれを狙ったのだ。

 これは意識せずとも起こってしまう心理的現象。ギャラリーの無意識を狙ってとしか思えない。

 さらにおせち料理といいながら、このメンバーで一番大きな量を誇っている。みんな今までの試食に加えて、このでかい量だ。そろそろ満腹感で至福を感じているはず。

 これからの評価は自然と下がってしまいがちになるこの状況で、この一手。頭脳、心理、技術で攻めてきたまさにトライアル。流石雛見沢を統率している園崎さんと言わざるを得ない。

 料理対決といって、手を抜くようなそんな甘いことはしない。

 

「さぁて。私の料理は終了!」

 

 あっという間に平らげられた弁当を片付けながら、僕らの方を見やる園崎さん。その表情にはしてやったりといった自信を全面に見せつけていた。

 

「相変わらず魅音には気が抜けねぇぜ」

「あ~れ圭ちゃん? 私のことを舐めてもらっちゃ困るねぇ」

「うるせーよ。ただ……ちょっと見直しただけさ。そう、ちょっとは女の子らしいところがあるなーって」

「へ?」

 

 彼女は一瞬目を丸くし、二度ほど瞬きをした後に顔を赤くさせる。

 

「な、何言ってるのさ! もう、圭ちゃんらしくない……」

「何顔赤くしてるんだ?」

「あ~! もう赤くなってないよ!」

「は? どう見ても赤いんだが、なぁレナ?」

「圭一君……そこは察してあげるべきかな、かな?」

「何を?」

「鈍感ですわね」

「……鈍感なのです」

「何で俺が責められるんだ!?」

 

 前原君がおどおどしているのを良いことに先へ進めようと手を叩く園崎さん。

 ……因みに何を察してあげるべきかは気づいてあげるべきではあると思うけど、こればかりは本人が気づくべきだろうと思う僕であった。

 

「じゃあ次はどっち行くのかい!?」

 

 そう、もう残されているのは僕と北条さんの2人だけである。どちらが先に手を挙げるか。それだけの話である。

 ギャラリーはすでにお腹に手を当てている人もいるし、このタイミングを逃すほかないだろう。

 

「僕が行く」

 

 手を上げて自ら名乗り出る。北条さんはただじっと僕を見るだけで止めようとかはしてこない。

 

「ようやく出たね、孝ちゃん。今までの戦いかたを見て、勉強できたかい?」

「うん。僕も自分なりに計画は立てているから」

「この状況……孝ちゃんも理解出来てるとは思うけどね」

「うん。だからこそのこれさ」

 

 とはいっても昨日考え付いたものだから上手く高評価を貰えるかどうかは怪しいものだけど。みんなが、僕の持ついつも使う肩かけ鞄とは別のクーラーボックスに注目をしていた。

 僕の弁当はまだ登場していない。みんなが並べて弁当の評価をさせる中、僕だけは見せずにいたのだ。みんなも何故か、そしてこれからどうなるかを注目してくれている。

 圭一君のように言葉で上手くいくとも思えないし、園崎さんみたいに計画もない。竜宮さんたちみたいに技量もない。

 だからこそ、ここは意外性で攻めさせてもらう。

 

「みんなの気持ちは分かってるよ。もうたくさん食べて、お腹いっぱいになったと思う。どうかな?」

『まぁ、多少は……だいぶ満足はしてますね』

 

 まだ食べられる。それは僕の出てくるものもまだ食べられますよという彼らなりの優しさなのだろう。だけどそれも腹八分目には達しているはず。

 だからこそ、ここは別腹というやつを利用させてもらう。

 

「メインの後には……デザートが定番だよね」

 

 園崎さんが「へー、そう来たんだ」と軽く舌を巻いてくれた。みんなも納得したように頷いている。

 その反応を僕は待っていた。

 

「ここで、僕が持ってきたのはクレープ! 本場北海道から生み出された厳選された牛乳を選び、作られた一品だよ」

 

 みんながその言葉を聞いて喜びの声を上げる。やはり先ほどまでの料理と比べ、すぐに食べやすくそして暑い今日だからこそ冷えたもの。

 子供たちはおやつといったものが好きだからこそ、このラインナップ。

 

「良かった。本当に……」

 

 みんなの盛り上がりを見て安堵のため息を出さずにはいられない。

 正直本当にどうしようか悩んだものだ。なぜなら冷蔵庫を開けてみれば、キュウリ一本に、ゼリーや加工製品が並べられて、食材がほとんど存在しなかったのだ。

 そんな中で唯一の光明を見出してくれたのは牛乳であった。

 母さんと父さんもあまり牛乳は飲まないというのに、この前安かったと買ってしまったという牛乳。それが僕にクレープなら良いんじゃないかというひらめきを与えてくれて。時間も少なかった僕にしてはクレープはすぐに出来るものとして画期的なアイデアであった。

 正直多少の不安はあった。まず弁当を用意しないし、みんなの弁当と比べ見劣りする点は否めない。

 まさに蓋を開けてみてのお楽しみという奴なのだ。

 だからこそみんながこうやっておやつ感覚で食べてくれることが嬉しく、これは上手くいったと思える。

 

「イチゴやパイナップル……色々なフルーツを入れてやがる」

「まぁ、残り物でこういうのしかなかったのも事実なんだけど」

 

 因みにパインは缶を使ってしまう事態になっていたりしているのは黙っておこう。

 

「ターゲット層が子供だからこそ評価されそうな作品だね。これは面白いなぁ」

「デザート……料理としてそれはいいのか?」

「別に評価されるなら問題ないさ。それに、ルールで弁当にしろとは言ってないからねぇ」

「そんなこと言ったら圭一さんはただの握り飯ですわよ」

「なんだと! あれは俺様が手塩にかけて作り上げた逸品なんだぞ!」

「をーほっほっほ! 確かに塩は掛けすぎましたわね。ですけど、おにぎり程度に逸品なんて表現が大げさでして?」

「そ、それは言っちゃいけないぜ……事実なんだけどよ」

 

 前原君の苦言も聞きつつ、僕は口の周りにシュークリームを付けたギャラリーに聞いてみる。

 

「どう? みんな」

『かなりおいしい!』

『いっぱい食べたからここで甘いものってありがたいよね~』

 

 みんなが口々に感想を述べてくれているのだが、これは予想の範疇。僕がこの順番だと判断したからこその評価だった。

 

「孝ちゃんもやるね。まさか他方向で攻めていくなんて」

「ははは、何とかなったってところかな」

「うん? 狙ってないの?」

「まぁ、正直に言えば……」

 

 この事情を知っているのは北条さんや前原君だけ。知らなくてもいいことはある。

 手軽さのクレープということもあって、みんなすぐに食べ終えた。観客の評価は今のところ分からない。だけど僕なりに努力したし、何より満足してくれたようなので良かったと思える。

 

「さーて。大詰めとして沙都子ちゃんが残っているわけだけど?」

「えぇ。そうですわね」

「結構な自信顔だな。かなり素晴らしいものが出来ていると、そうなんだな?」

 

 前原君がハードルを上げに掛かるのだが、北条さんが見せた表情に動揺は無い。

 

「当たり前ですわ。必ずみんなの舌をうならせてみせますわー」

 

 その言葉を聞いてギャラリーが期待の目をしているが、僕には一抹の不安がある。

 確かに最後は全ての逆転をするにはもってこいの順番である。それが上手くいけば、全ての評価をひっくりかえせる。まさに北条さんが好きな順番であると言えるだろう。

 しかしここまでに並べられた料理でみんなは食べつくした気がしているのだ。それを覆すとなると、かなりおいしいものを提供しなければならない。

 それに上手いこと説得しないと、味の肥えた舌にどう影響するか。

 

「私は今回、これで勝負致しましてよ!」

 

 そう言って見せてきたのはエビシュウマイ、春巻きなどの中国料理を基本とした作品となっていた。

 基本的に弁当箱の大きさによって、収容されている具材は少ないのだが、それにしても、配置のバランスが絶妙だった。同じ色に見える春巻きとシュウマイなのだが、そこは間に赤いチンジャオロースを加えたエビチリが、その欠点をカバー。その配色の良さを際立させている。八宝菜などを加えられたりと、栄養バランスも怠った様子は見当たらない。

 まさに先ほどの自信も頷ける弁当だった。

 

「では、皆様試食してくださいませ!」

 

 そう言ってみんなに試食するよう促すが、みんなからの反応が薄い。

 予想通りといったところだが、まだ食べ物を口にしていない北条さんはお腹の調子まで考えられなかったのか、ひどく困惑している。

 

「どういたしまして?」

「え、えっと……ここにきて……ね」

 

 北条さんは確かに料理においてミスを犯してはいない。八宝菜や、春巻き、更にはシュウマイなんて中々素人が作られるものじゃない。そう、みんなに比べると料理の腕は上かもしれない。凄いなんて事は一発で分かる。だけど……やはり順番が悪かった。

 元々中国料理には揚げ物や、ソースなど、いわゆるコッテリ系が多いのだ。それを5人もの料理(デザート付き)を食べた後に、見せられても、ちょっとしんどいものがあると言うものだ。言えばコース料理を食べつくしたのに、更にメインディッシュが来てしまったと同じ。

 それが北条さんのミスだ。出すなら2番手、もしくは最初が高評価を得られたというのに。

 

「……そ、それは」

 

 みんなから「少し油っこいものはきついかも……」と言われて、ようやく自分の勘違いを理解してしまったようだった。

 

「それでも食べてくださいませんこと? 食べればわかりますわ!」

『で、でも……』

『結構、腹に来てて……』

 

 みんなが言っていることはまさに僕が危惧していた事だ。この状況を覆せるほどの戦略を北条さんも考えつかないようで。北条さんが俯いて、己の敗北を悔しげに認めてしまっていた。流石の竜宮さんたちも声掛け出来ずにいる。

 誰も、何も言えずにいる。これは仕方ないことだ。そう思うしかない。

 残念だけどもう無理だと思っていた誰もが諦めていた時。

 

「……なんだ、どういうことだ? 俺はとってもうまそうに見えるんだけどな?」

 

 前原君だ。1人だけこの状況の理解が出来ていないのか、そのような発言をして北条さんの真横に立つ。

 

「圭ちゃん、本当に理解出来ていないの?」

「何がだ?」

 

 料理経験以前の話というのもそうだけど、今回は前原君は僕たち料理を食していない。だから食べやすい、食べにくいというものの内容も分かりにくいのだろう。

 解らないでもない感想ではある。しかし、今ここで言っても仕方ないはず。

 

「俺にはここにあるのは食べるに値する料理が並んでるぜ」

 

 みんなが手を出していないのを感じた前原君は迷う事無く北条さんの料理を食べていく。

 

「……うん。上手い! 流石、伊達に2人で暮らしていることはあるぜ! 沙都子」

「ど、同情なら受け付けませんわ……」

「いいや、これは敵としてではなく、前原圭一として感想を述べているだけだ。見ろ、この春巻き! 匂いは嗅ぐだけで、しつこくない、あっさりとした適量の油でカラッとサクッと揚げられているのが分かるぜ。食べてみれば……なんだと!? 中には柔らかくジューシーに焼かれた豚肉や今もなお、その味を失う事なく主張しているタケノコが同じ大きさに詰まっていて、味を醸し出すために醤油を適量加えたところがさらなる食欲をそそらせている! ……ああ上手い! この衣のサクサク感!」

 

 誰かが「そ、そうなんですか?」と尋ねる。それを聞いた前原君は嬉しそうな顔つきに変わり、大きくうなづいた。それが何故こんなおいしいものを食べないのかという意図にも見える。

 竜宮さんたち含め、僕らはみな唖然としていた。何故いきなりこのような話をしてきたのか、と。

 そこで思い出したのが昨日の話。

『沙都子は俺たちの仲間だ。その事実は変わらない。だから楽しい思い出をたくさん作ってやりたいんだ』

 ……もしかして前原君は北条さんの料理に手助けをしようとしている。

 

「更に見てみろ! このシュウマイを! まるで店で出されるような形が整っていやがる! 水蒸気に含まれた甘みを俺の鼻でも感じるぜ。まさにシュウマイにとって大切な要素を兼ね備えているのが傍目で見ても分かっちまう。凄ぇな、頭に乗せているグリンピース、今までなんでこんな物をと思っていたが、これって華やかさを生み出すためなのか。……ん、安定のおいしさだ! 中に味が溜まった汁が詰まっていやがる。これはもう店で売っていたら迷わず買っちまう代物だな」

『そ、そんなにおいしいんですか?』

 

 またもやギャラリーの声が聞える。

 

「あぁ、敵に塩を送る形になってしまいそうなんだが、沙都子の料理は上手い。格段に上手い! それを食べないお前たちはよほど口の中が満足しているってことかぁ……」

『そ、そうじゃなくて。ただ、もうお腹がいっぱいになっただけです』

「それがどうした!? 料理対決は満足度もそうだが、何より重要なのはなんだ!? 上手いと唸らせるための味付け、匂い、装飾、統一性……全てを合わせてこの料理対決は意味を成す」

『確かにそうですけど……』

「それをお前たちは油っこい、もう満足だからという言葉で沙都子の料理に手を付けないでいこうとしている! それは失礼なことだと、何故わからないのだ!? お前たちはたくさんの犬を飼ったら、捨てられた可愛らしい柴犬を捨てていくというのか!」

『……』

「これはガチンコ料理対決だ! ただ食してないからという理由で勝った優勝なんていらないからな! 俺は正々堂々勝負がしたいだけだ!」

 

 相変わらず的を射ているようで、何かが違うような気がする。

 なぜなら味付け、装飾など、それら全てを総合して満足度ともいえるのだ。当然満腹感を考慮しての話も存在している。だから前原君の言っていることは少しおかしいというのに。

 それでも前原君の説得には何か心を動かすような魔法があった。いつの間にかみんなが手に取って食しようと試みているのだ。それが正しいかのように、彼の言葉を信じ、食べ物を口にしてみる。

 

『これ…………おいしい。結構油っこいと思っていたけどそんなに強くない。むしろすっきりとしているくらいだ』

『これならいけそうだ』

 

 ようやく食べ始めたみんなに嬉しそうな表情をする北条さん。もしかして。そう思って僕も出場者ながらも春巻きを口にしてみた。

 やはり……薄目に味付けがほどこされている。それは一見ちゃんと作っているのかと疑いたくなるのだが、醤油を強くしすぎず、素材の味で勝負する。それをカバーするだけの技量を北条さんには持っていたようだ。正直に言えば、かなりおいしい。

 もしかして北条さんがここまで出さなかったのは、中国料理というこってり概念を消し去る自信があったのではないのだろうか。

 ……まぁ、それは北条さん自身しか分からないけど。

 

「さぁーて、これで全ての料理が出揃ったわけなんだけど! みんなー! 紙は持ってるー?」

 

 北条さんの料理も終え、ようやく園崎さんがまとめに入る。園崎さんの言葉を合図にみんなは事前にもらっている正方形に切り取った紙をポケットから取り出した。

 そこに誰のお弁当が一番おいしかったかを書く。その票の数で一位を決めるのだ。

 

「みんなー書いたらこの箱に入れてねー!」

 

 竜宮さんが机に置いたのは投票箱と書かれたアルミ製の箱。投票箱のように、ちゃんと口も存在するし、まぁ間違えることなんて滅多に起きないだろう。

 

「……それなら僕たちは退出するのですよ」

「え? どうして?」

「楽しみは最後に取っておくもんだぜ。それに、俺たちがいたら書き辛いかもしれないだろ?」

「あ、そっか」

 

 それはそうかもしれない。目の前に評価すべき相手がいると中々書きにくいものだ。

 だったらここは一旦教室を出る方がみんなのためになるのだろう。

 

「じゃあ私達は外で待っているから、終わったら報告よろしく!」

 

 園崎さんが立ち上がり、それをきっかけに部活メンバーも立ち上がる。

 そのまま後ろから聞こえる相談・雑談などのざわめきを残して、僕たちは外に出た。

 


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