ひぐらしのなく頃に 決 【影差し編】   作:二流侍

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注意:この作品は『ひぐらしのなく頃に』の二次創作です。オリジナルキャラは多用しないつもりではありますが、作品の関係から主人公や両親といった主人公の関係者にオリキャラを用います。予めご了承ください。

この作品は『ひぐらしのなく頃に 決 【訳探し編】』の続編となっております。前回の話を踏まえた話もありますので、先にそちらを見ていただくことを推奨します。


Episode 『記憶の記録』 
◆プロローグ


◆始まりの追憶

 

 ……深い。

 肝を冷やされるような悪寒によって苦しめられ、次第に通常の感覚はどんなものかさえ失ってしまいそうになる。叫ぼうとしても口は縫い合わされたかのように開くことさえままならない状況。まるで見えない拘束具でも付けられたようで手足さえも満足に動かすことが出来ない。

 ……ここは地獄なのか天国なのか。それとも……奇跡を信じての現世か。現世なら水の中……が一番近いかもしれないけど。

 そして自分はその証拠をみつけることが出来ない。悪寒に動かせない手足。周りは溶け込むような黒と紫の景色。たった3つだ。それ以外の状況が見当たらない景色だった。どちらが上で下かという概念さえ怪しいもので、行ったこともないのに宇宙にいるようだと考えてしまう。

 突然胸の痛みが全身を襲い、そのせいで声に出来ない悲鳴をあげたくなる。刃物で刺されて、穴を広げようとかき回される感覚は今まで感じたこともない痛み。意識を持っていることが嫌と感じてしまうほど痛みがひどく、そしてそれ以上に気持ち悪さを感じていた。何故、何度もこの痛みを感じていることだろう。定期的に襲われてきて、すぐに止む。これではゆっくり寝ることが出来ないというもの。

 なぜこんなに痛むのか、考えなければいけない。

 記憶は断片的なものでしかない。それも蜃気楼のようにはっきりした鮮明さを失っていて、遠い昔のように思えるあの日の出来事が消えかかっていた。それでも頭の中で見える情景を1つ1つ自分の中で問いかけては、答えを導き出す。

 前原君との喧嘩も。

 園崎さんの症状も。

 古手さんの諦観も。

 竜宮さんの努力も。

 北条さんの不安も。

 ……綿流しが終わっての翌日も。

 曖昧な中身を僕は必死に思い返し、そして結果として分かるだけの概要に苦悩する。

 そのたびに拳を握りたくなる。どうして自分は何もできなかったのかと。

 全てにおいて自分は失敗していたような気がした。前原君の失踪、あれが全てだったような気がする。波紋は起きたら徐々に広がっていくように。事態は予想していたよりも大きくなっていった。

 そしてもう1つの波紋として起こった第二の失踪。園崎さんの失踪。

 2人を探そう。そう言いだしたのがきっかけで、捜索が行われることになった。でもそこで起こったのは発見ではなかった。そう、オヤシロ様とは関係ないところでの事件。竜宮さんたちの遺体を目撃してしまったことだ。そして慌てて、逃げて……何者かによって撃たれた。これが全てだった。

 なら、どういうことか。胸の痛みのおおよその理由がわかる。そして同時に淡い希望が無くなったのが分かった。天国か地獄の二択。でも部活で悪さをしたから、天国はあり得ないのかもしれない。

 未だ混乱しているにも関わらず、昔の楽しかった日々にフッと笑みがこぼれる。

 本当に、楽しくて……あっさりとした人生だった。

 約16年間の僕の人生。終わってしまったことにグダグダと文句を垂れても仕方ないのだけれど、後悔はなかったのだろうか。輪廻に導かれるままに、新たな生を受け入れられるのか。

 

「……そんな訳ないよね」

 

 気持ちよりも先に言葉が出てしまっていた。

 ……きっと、違う。人生を悔やんでいる。そうに違いない。ただそれを誰かに向けてぶつけたり、解消したりすればいいのか分からないからこのような判断になるのだ。だからこそ、分からないからこそもう一度……もう一度あの時に戻りたい。

 みんなで笑える日々を、バカ騒ぎ出来る日々を取り戻したい。

 そう願った時、見つめていた遠い視線の小さな1点が変わったことに気づいた。星のような小さな光。

 淡く輝くそれはこの落ち込んだ世界に反発するかのよう。やがてそれは真ん中から明るさを増して、広がっていった。黒から白へ。変わりゆく景色にようやく思い出される。それは昔、雛見沢に越してすぐに夢で見た光。それと同じような光だと分かったのだ。

 そして聞こえてくる――――あの声。

 

『あなたは選ばれた。さぁ、あらたな駒としてこの惨劇に挑みなさい。篠原孝介』


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