東方Minecraft   作:珀靈雪魄

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息抜きに書いていきます。それではどうぞ。


 

 


実績1:ことのはじまり。

 地底から間欠泉と共に大量の怨霊が吹き出してきた異変。土蜘蛛や覚妖怪、火車など、幻想郷では忘れ去られて久しい存在がそこにはいた。

 瘴気を乗り越え、嫉妬心に抗い、手加減されたり心を読まれたり、怨霊を掻い潜って灼熱地獄を耐え抜いたり。

 そしてやっとの思いで異変を解決したと思いきや、いきなり妖怪の賢者である八雲紫にとある提案(強制)をされた。

 

「はぁ? 何よそれ」

 

「だから、とある世界に行ってきて欲しいのよ」

 

 紫の言葉を受けて怪訝な顔をするのは、博麗霊夢。ここ幻想郷の巫女であり、この世界を保っている博麗の巫女という存在。彼女無しでは幻想郷は破綻してしまう。

 そんな大仰な肩書きを持ちながらも、それを感じさせないフランクな態度で誰にでも平等に接する霊夢は、異変の時に立ち塞がる者は人間でも妖怪でも神でも構わず蹴散らしていく。だから力の強い妖怪には気に入られて力の弱い妖怪には恐れられている。そんな特別な人間だ。……尤も、彼女がいなくなっても次の巫女を捜せばいいだけなのだが。

 その霊夢は、八咫烏の力をその身に宿した地獄鴉──霊烏路空と弾幕で対決。見事勝利を収めて異変を解決したばかりだった。そこで、お茶を啜って疲れを癒そうとしていた矢先に胡散臭いスキマ妖怪に捕まってしまってさあ大変。

 

「そもそも……とある世界、じゃ判らないわよ!」

 

 こんな時に、よりにもよって最悪の相手に出会ってしまい苛立つ霊夢の語気は強まっていく。無駄と判っていても反発せざるを得ない。

 

「まぁまぁ、そう怒らないで頂戴な。そう思って解説役として適任である人材を呼んでいるから」

 

「解説役……?」

 

 余計に意味が解らなくなってしまったので、相槌を打って先を促す。

 

「ふふ……この子よ」

 

 笑みを一層深くした紫が、扇子を持った手で虚空を薙いだ。すると何も無い所にいきなり現れた奇妙な空間『スキマ』から誰かが落ちてきた。

 

「あたたた……あれ? 霊夢さんじゃないですか」

 

「あら。早苗じゃない」

 

 音を立てて思い切り背中から着地(墜落とも言う)したのは、霊夢もよく知る顔。緑髪の現人神、東風谷早苗であった。一年前の秋に、妖怪の山に神社ごと幻想入りしてきた一人と二柱の内の一人である。現人神だから、一柱と数えるべきなのかどうか微妙だが。

 

「それじゃあ早速説明してあげて頂戴」

 

「あ、はい。……これから私達が行く世界は『Minecraft』というゲームの世界です」

 

 早苗の口から聞いた事の無い単語が飛んできて、霊夢の頭上に疑問符が浮き始めた。それでも、霊夢から疑問の声は上がらない。紫も黙っているので説明を続ける。

 

「材料を自力で調達して建築していくだけのものなんですけど、他にも色々と楽しめる要素のあるゲームです」

 

「それだけ?」

 

「それだけです。これから行くんだから、ネタバレは控えておきたいんですよ」

 

 一つ頷くと紫の方に向き直って早く行きたいと催促する早苗。その隣で霊夢は首を傾げている。

 

「焦らない。折角行くのだから、二人だけでは味気無いでしょう? そ・こ・で」

 

 ぱち、とウィンクをすると、更に二つのスキマを展開する紫。早苗に続いて落ちてきたのは、古風な衣装の黒白魔法使いと園児服に似た服を着た覚妖怪だった。それぞれ霧雨魔理沙と古明地さとりである。

 魔理沙は、この幻想郷ではあまり見ない、種族としての魔法使いになれるかもしれない程の実力を持った職業魔法使いであり、天性の才を持ち努力を嫌う霊夢とは対照的に、こつこつと努力を重ねる人間だ。もっとも、それを表には出さないのだが。そして他人の物を盗んでいく。本人曰く「死ぬまで借りていくだけだ」「私はお前らよりも先に死ぬんだからいいだろ?」との事なのだが、それでも十分に泥棒である。

 さとりは、つい先日に起きた地底での異変の原因である霊烏路空(遠因は守矢)の主人であり、他人の心を読む事が出来るという特異な能力を持った妖怪なのだ。

 

「……まったく。いつもいつも他人の意見を聞かずに連行するなよ、紫」

 

「私が連れてこられた理由が解らないのですが…………あれ? 心が読めない?」

 

 魔理沙は帽子の位置を直しながら、さとりは心を読もうとして読めない事に驚きながら、紫に対して不満を訴える。

 

「ああ、そうそう。向こうでは妖怪としての地力も能力も無くなるから、そのつもりでお願いね?」

 

 訴えをスルーしている紫に自分の力が無くなるという事を聞かされ、すぐさま四人から文句が上がるが、そこはこの八雲紫だ。

 

「うふふ……では、行ってらっしゃいな♪」

 

 文句を聞き流して四人の足元にスキマを開く。哀れ霊夢達は八雲紫の手によって訳の解らないままに異世界へと飛ばされる事になってしまった。一部例外もいるが。

 

 

 

◇□◇

 

 

 

──スキマを抜けると、そこは箱だった。

 

 比喩表現でも何でもなく、文字通りの『箱』だ。砂と思しきクリーム色の箱に木肌がある事から樹木と推測される箱、葉までもが真四角の箱、兎に角箱が積み重なって出来ているような世界。箱と言うにはあまりにも真四角すぎる気もするが、これが適当な表現だろう。

 

「いったい何なんだ? この世界は……」

 

「凄いですよ皆さん! 本当にマイクラの世界です!」

 

 辺りを見渡して呆然としている一行を放っておいて一人で勝手に盛り上がっている風祝。解説役という仕事を受け持っているという事を忘れる程にはしゃいでおり、その所為で三人は事態に着いていけていない。

 

「……いいから説明してよ、早苗」

 

「……はっ!? すみません皆さん。あまりにも楽しくてつい……」

 

 疲れ果てた霊夢が呟くと、やっと現実に戻ってきたのかキラキラしていた目を元に戻し、咳払いの後にこの世界についての説明を始める。

 

 

少女説明中……

 

 

「……はぁ。大体は理解したわ」

 

 早苗が語る所によると、此処は常識に囚われていない世界らしい。常識に囚われていないのはお前じゃないか、とさとりを除く二人は思っていたが、何分にも右も左も判らない状態だ。余計な茶々は入れずに黙って早苗の説明を聞く。

 するとどうした事か。空中にブロックが浮いていたり一つの水源から無限に水が湧き続けたり、挙句の果てには熔岩をバケツで汲めるというのだ。法則なんぞあったものではない。

 

「……どんなバケツですか」

 

 さとりが思わず呟くと、霊夢と魔理沙も同調した。確かに、常識で考えるととんでもない事である。しかも、そのバケツとやらは鉄で出来ているという。普通なら溶けてしまうであろう。

 

「……で、そんな大層なバケツで汲んでおいて、何に使うって言うんだ?」

 

「それはもう色々とですよ。まあ、その話は実際にバケツを作ってからしましょう」

 

 乗り気ではないが、どうせあの紫の事だ。この世界で生活をしなければ迎えには来ないだろう。面倒極まりないが、マイクラ生活を体験してみるしかあるまい。それが、約一名を除いた皆の共通見解だった。

 そして、さあ始めようかという時に、元凶であるスキマ妖怪が上半身だけを出した状態で現れた。

 

「そうそう。忘れていたわ。当面の目的は……ダイヤを1スタック分集める事よ。その他の目的は適当に追加するわ」

 

 いきなり1スタックと言われても全く解らない霊夢達であったが、早苗はそうでもないようで、何やら難しい顔をして唸っている。

 

「六十四個ですか……なかなかの条件ですね」

 

 どうやらダイヤを六十四個集めろという事らしい。マインクラフトというゲームの知識がある早苗が言うからには、難しい事なのだろう。

 

「あら。ラージチェスト一個分でもいいのよ?」

 

 微妙な顔をしている早苗を見た紫は、笑みを引っ込めて極めて真剣な顔付きでそんな事を宣った。

 

「ごめんなさい赦してください死んでしまいます」

 

「ふふっ。それと、貴女達全員にこの世界で生活する為の力を授けるわ」

 

 霊夢達は、クラフターの力を手に入れた! 具体的には素手で木を壊したり1メートルぐらい跳躍したりマグマにダイブしても燃えるだけで済み死んでもリスポーンする程度の能力である。

 

「それと、此処での一日は幻想郷での一分だから、気にせずに好きなだけ堪能しなさいな」

 

 何やら時間の流れが異世界間で凄い事になっているが、そこは仕様だ。早苗は元気良く返事をして、霊夢は面倒臭そうに溜め息を吐く。

 魔理沙は霊夢と似たような態度を取ってはいるが、その底にある好奇心を隠しきれていない。さとりはさとりでどうでもよさげに曖昧に頷いていた。

 それを確認した紫は、満足そうな笑顔になると、帰り際に気になる事を言い放ってから虚空に消えた。

 

 

「その内、人数が増えるだろうから、そのつもりでお願いするわね」

 

 

──これは、幻想の少女達による奇天烈な建築物語である。


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