模型戦士ガンプラビルダーズI・B   作:コマネチ

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ナナは初めて製作したHGエールストライクガンダムでガンプラバトルに初挑戦、
そして勝利を収める事が出来た。



第8話「見えない敵」(ビルドダガーフルパッケージ VS ハイゴッグオリジナルカラー)

朝日が部屋に差し込む中、目覚まし時計のアラームが部屋に鳴り響く。

 

「う~……」

 

部屋の主、ハジメ・ナナがベッドから寝起きの第一声をあげた。ナナはベッドから手だけを枕元に伸ばし、目覚まし時計を探る。

手で目覚まし時計を探り当てると上のスイッチを押し目覚ましを止めた。

寝ぼけ眼のまま、ナナはベッドから上半身を起こした。寝起きの為、髪型はいつものポニーテールではなく解いたセミロングだ。

そして棚の上に眼をやる。女の子の部屋らしいぬいぐるみの中に一体だけ似つかわしいプラモデルが飾ってあった。

先日初バトルにて初陣を飾ったHGエールストライクガンダム。

 

「……」

 

見てナナの顔がフッとほころぶ、先日の勝利が嬉しかったのだろう。部活や趣味に無頓着だったナナにとっては久しく感じてなかった感覚だ。

人間勝つ感覚を覚えると病みつきになるもので、その感覚はゲームだろうとスポーツだろうと変わりはない。

 

「よし!」

 

もっとガンプラがうまくなりたい。そう決意しながらナナはベッドから出た。

 

……

 

「で、色塗りに挑戦してみたいって?」

「うん、教えてくれない?」

 

所変わって学校の昼休み、いつもの様にナナ、アイ、タカコ、ムツミの四人は机をあわせて昼食をとっていた。

 

「やっぱオリジナルの色のガンプラだって多いじゃない?アイだってそうだし、アタシもそういうの挑戦してみたくなってさ、

まぁオリジナルってのはあくまで今後の目標だけど」

 

「へぇ~、随分強気じゃんナナ、これはちょっとしたスクープだよ~」

 

「本当……今までなかったからね」

 

ナナが思いのほかガンプラに食いついてくる。タカコとムツミはナナの食いつきに驚いていた。

 

「あはは、で、オリジナルカラーってどんな色に挑戦してみたいの?」

 

「青い部分を赤にしてみたいかな~なんて」

「それってストライクルージュのパーツ使えば再現できるんじゃ」

「あ、そっか。まぁおいおいどういう風にするのかは考えるとして……。そういうのどの種類選べばいいのか分かんないからさ、

選ぶの教えてほしいんだ。絵の具?……塗料っていうの?」

「OK、私のほうも切らしちゃってるのがあるから行く用事あったし、帰りに行こう」

 

「サンキュー。これからどんどん実力つけてみせるわ!目指すわアイってね!」

 

「え?!ちょっとナナちゃん!?私そんな目標になる程うまくないよ!!」

 

「今回は本当はまったって感じだよねぇ」

 

「うん……いい傾向だと思うよ……」

 

……

 

模型店『ガリア大陸』

 

「まぁとりあえず、最初は筆とか使う必要はないよ。まずはガンダムマーカーで慣れてから筆、これが鉄則かな?」

 

マーカーの棚を指さしながら教えるアイ。

 

「でもよく考えたら言ってくれれば道具貸すのに、どうして?」

「それはうれしいんだけどさ、やっぱあんまり頼り過ぎたらよくないって思ったからね、いずれはアタシも道具一式揃えるつもりだし」

「そっか、それでもわかんないとこあったら教えてあげるよ」

 

会計を済ませた袋にガンダムマーカーのセット(消しペン込)を入れるナナ、中にはそれ以外にもニッパーが入っていた。本格的に自分でも道具をそろえるつもりだろう。

友達がこういった物に興味を持ってくれるのはうれしい、アイは食いついてくれた友達に対し心の中でガッツポーズを取っていた。

自分がこういった影響を及ぼしたのは始めてだから嬉しさもひとしおだ。と、そう考えていると店の二階から歓声が聞こえてきた。

 

「二階?なんだろ?」

 

「なんか凄いバトルでもあった?行ってみようよ」

 

二階に上がる二人、二階にはガンプラバトルの機械、Gポッドが1チーム3体、2チーム分の為計6体向かい合うように置かれていた。もう今となっては見慣れた風景だ。

その間のスペースには観戦モニターが置かれ、そこそこの広さを持った空間は観客でごった返しになっていた。

 

「何か凄いバトルですか?」

 

アイが二階にいた店員のハセベに声をかける。

 

「おおアイちゃん、ミッションステージだよ」

「ミッションステージ?対戦じゃなくて?」

 

ナナが聞き慣れない言葉に首を傾げる

 

「対戦相手がいなくても出来るガンプラバトルがあるのさ、特殊な条件下の相手と戦ったり、CPUで定められた相手を倒したり、まぁアーケードゲームの一人用モードみたいなものかな」

 

「へぇ、対戦以外にも出来るんだ」

「といっても今回はビルダー操作の機体が相手なんだけどね。ある能力を付加したビルダーの機体と戦う内容だよ」

 

「へぇ~」

 

ちょっとアイの反応が興味を持った感じだ。

 

「お?ちょっと興味ある感じ?やってみたら?アイ。」

 

挑戦を促すナナ。その時だった。

 

「おや?誰かと思えば……コウヤを倒したヤタテさんって人かい?」

 

聞き慣れない声がする。Gポッドの方だ。アイとナナが声のした方を向くとパイロットスーツ姿の少年がいた。ヘルメットは外しており三白眼が特徴だった。年齢はアイと近そうだ。

 

「ハセベさん、俺の機体は絶好調だよ。もうちょっと能力制限をつけていいくらいさ」

「おお良かった。紹介するよ。ミッションステージの相手役を務めさせてもらってるカワサキ・ナガレ君だ」

「よろしく、コウヤから話は聞いてるよ。『ウルフ』のメンバーからも目を付けられてるらしいね。羨ましいよ」

 

コウヤ、以前アイと対戦した模型部の少年だ。

 

「ヤマモト・コウヤ君を知ってるんですか?」

 

「知ってるも何も同じクラス、同じ模型部だよ」

 

ニッと笑うカワサキ・ナガレ、意外そうに驚くアイ

 

「模型部の!?」

 

「そう、で、まぁ君の実力はある理解しているわけだけど、是非とも戦ってみたいもんだね。参加してみない?ミッションバトル?」

 

促がすカワサキ、いつもとは違うバトル、アイはどんなバトルになるか興味がある。

 

「望むところ!よろしくお願いします!」

 

アイは二つ返事で応じる。

「よしっ。じゃあハセベさん。次はコイツと勝負ね!」

 

「じゃあ着替えてきますね」

 

「アイ、頑張ってね!」

 

盛り上がるアイとナナ、その向かいでカワサキと呼ばれた少年は内心緊張していた。コンドウに眼をつけられた人物が相手だからだ。

 

「ちょっとトボけた感じだけど……気合いれていかなきゃな……」

 

誰にも聞かれない小さい声でカワサキは呟いた。

 

 

 

今回のフィールド名が表示される。『ジャブロー』、一見すると地上はステージの端から端までジャングルだが、

地下に巨大な基地が格納された場所でファーストガンダムの連邦の拠点だ。地上のジャングルと地下の基地とでは戦い方がまるで違ってくる。

 

「さて……能力付加の相手って言ってたけど……」

 

アイは機体を飛ばしながら敵機を探す。今回は105ダガーに『ガンダムビルドファイターズ』の主人公機、『ビルドストライクガンダム』の背面装備『ビルドブースター』

とビルドストライクの装備を取りつけたビルドダガー・フルパッケージだ。

 

 

【挿絵表示】

 

敵が確認できない以上、ひとまずジャングルの中に身を隠すべきか、とアイが思った時、コクピット内に警告音が響く。

 

「!?下から!?」

 

いきなり前方からアイのビルドダガー目掛けてミサイルが飛んできた。

 

「先制攻撃!?」

 

アイはミサイルをかわそうと急上昇、だがミサイルは追尾してくる。

 

「くっ!だけどビルドブースターの出力をなめるなっ!!」

 

アイはビルドブースターの出力を最大に上げる。可変翼が動きスピードが増す。そのまま追尾ミサイルとの距離を開けた。

 

「今だ!」

 

そのままアイはビームライフルをミサイルに向け発射、ミサイルを撃ち落とす。

 

「一体どこから?!」

 

高高度から下に目をやるが敵機は確認できない。だがミサイルが飛んできた付近に違和感を覚える場所があった。

 

「ッ?何アレ」

 

一部分で木々が不自然に葉っぱを散らし揺らしていた。その場所に何かがいる事は直観的に分かる。

奇妙な事にバーニアの噴射してる火だけが見えてるからだ。透明な何かがジャングルの木々スレスレを低空飛行してる。

あれが敵だと思い、すかさず背部のビルドブースターの下部を展開させる。ダガーの両腋からビームキャノンが突き出す。そのままアイはビームキャノンを撃った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

二本の大型ビームが透明な物体に迫る。

 

「やっぱ気づいたのか、なら出し惜しみはナシだ!」

 

それは機体を縦にし、二条のビームの間をすり抜ける様にかわした。(アイからは物体は見えないが)そのまま一気に急上昇し急接近

その際に正体を現す。長く伸びた片腕、もう片腕は円柱状のカバーに包まれ、背中に装備されたジェット・パック、

メタリックの黒にペイントされたボディ、首のないずんぐりむっくりの体系、ダガーのすぐ近くに現れたその正体は……

 

「黒いハイゴッグ!?」

 

ハイゴッグ、『機動戦士ガンダム0080ポケットの中の戦争』に登場した水陸両用モビルスーツだ。見かけによらずかなりの軽量だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「そう、こいつはミラージュコロイドステルスを装備したハイゴッグだ!」

 

腕のカバーを吹き飛ばし、中のミサイルをダガーに向ける。ハイゴッグはそのまま至近距離でミサイルを撃った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

いきなり目の前に現れたのだ。不意を突かれたアイはとっさにビルドダガーのシールドを構える。ミサイルはシールドに当たり爆発。

 

「くぁあ!!」

 

衝撃でビルドダガーはジャングルに落とされてしまう。

 

「くっ……ミラージュコロイドなんて……そんなのあり?!」

「能力付加って言ったろ?」

 

ミラージュコロイド、ガンダムSEEDに登場した技術であり、電磁的・光学的にほぼ完璧な迷彩を施すことが可能なステルスである。

見えない反面、熱紋・電磁波の秘匿が不可能、エネルギー効率が悪い。

ステルス中武器の使用は出来ない等問題も多い。作品と時代の違う技術の装備にアイは違和感を感じずにはいられなかった。

 

「うぅ、汚れちゃった」

 

すぐさま起き上がるビルドダガー。 落ちた際に顔を地面にぶつけてしまったのだろうか、葉っぱと泥で視界を汚してしまった。

ハイゴッグも背面のジェット・パックを切り離し、木々をなぎ倒しながら降り立つ。

視界の汚れをそのままに、後退しつつビームライフルで迎撃する。しかし向うもこちらを追いかけながら両腕のビームカノンを撃ってくる。

 

「くっ!!」

 

「甘いぜ!」

 

アイはビームを凌ぎながらビームライフルを撃ち続けた。しかしカワサキのハイゴッグは定期的ににステルスを発生させ移動する。

 

「これじゃ当てづらい!」

 

そして相手が予想してない方向からビームを撃ち、またすぐ姿を消し予期せぬ方向から撃つ。そうしながらハイゴッグはビルドダガーを追いつめていった。

 

 

 

「卑怯よアイツ!姿を消すなんて!」

「まぁまぁ、そういうミッションだからね」

 

ナナが憤慨しながら観客と観戦する。横で見ていたハセベがナナをなだめる。ナナの迫力に対してかちょっと弱腰で口調も弱弱しかった。

 

「しかし今アイちゃんは機体を汚した……、これがこのステージが攻略のヒントだという事に気付いてくれればいいけど……」

 

「は?何言ってんの?」

 

ハセベの独り言に一人疑問を持つナナだった。

 

 

 

ビルドダガーが後退してる内に足が水に入った。川まで逃げてきたのだ。 とその時、いきなり目の前に泥がビルドダガーの顔を掴む。

 

「!?」

 

驚くアイ、そして泥からハイゴッグのクローが浮かび上がる。泥の付着したハイゴッグの左腕だったのだ。

顔を掴まれ、宙に持ち上げられるビルドダガー。その拍子にビームライフルも落としてしまった。

 

「し!しまった!」

 

「よく持った方だよ!だけどこれでチェックメイトだ!能力に頼ったこんな勝利はしたくないんだけどな!」

 

ハイゴッグは右腕をビルドダガーの胸のすぐそばに向ける。コクピットをビームカノンで撃ち抜くつもりなのだろう。

一瞬アイは思う。姿さえ見えれば……と、とアイはある事に気付く、ステルスを発生させてても付着した泥はそのままだった。つまり……

 

 

「そうか!!」

 

アイはダガーの両手でハイゴッグの左腕を掴む。

 

「チッ!何をする気かは知らないがもう終わりだっ!!」

 

撃とうとするカワサキ、しかしビルドダガーは足を思いっきり振り、撃つ寸前だったハイゴッグの右腕を蹴り上げた。蹴り上げた右腕は真上にビームを放つ。

 

「なに!?」

 

思わぬ抵抗に気がそれるカワサキ

 

「い・ま・だぁぁ!!!」

 

すかさずアイはビルドブースターを全力で吹かす。その出力にハイゴッグはよろけ、ビルドダガーの足が地に着いた。

アイはビルドダガーの頭を掴まれたまま、ジャイアントスイングの要領でハイゴッグを振り回す。

 

「うぁああああ!!!!」

 

「う!?うぉおお!!!」

 

自分の機体の頭部が壊れてもかまわないと言わんばかりの勢いだ。そのままビルドダガーはハイゴッグを川岸に叩きつけた。

 

「うわぁぁ!!」

 

寸前でハイゴッグの腕は外れてしまってた為ビルドダガーの頭部は無事だった。

回転から衝撃とカワサキのGポッドを凄まじい振動が襲う。が、叩きつけてもハイゴッグを破壊するには衝撃が足りなかったようだ。

 

「じ・地面が柔らかかったから助かった……、一度体勢を立てなおさないと!」

 

「待ってよ!」

 

眼を回しつつカワサキはハイゴッグの姿を消す、逃がさないとばかりにアイはビルドブースターのビームキャノンを撃った。

 

「今更そんなもの……どわっ!」

 

当たるわけないとタカをくくるカワサキ、だがビームは真っ直ぐハイゴッグの左肩を撃ち抜いた。

ビルドダガーはそのまま腰のビームサーベルを抜き真正面にビルドブースターを吹かす。

 

 

【挿絵表示】

 

 

真っ直ぐ自分に向かってくるビルドダガーにカワサキは何故自分が分かるのか理解出来なかった。

 

「ど!どうして!」

 

「切り落とされた腕……みてごらん!」

「なんだと……!泥!?」

 

切り落とされた左腕に泥がこびりついてるのが見えた。さっき川岸に叩きつけられた際、ぬかるみで泥を塗られてしまったのだ。

自分で見えない部分、ハイゴッグのボディ大部分は泥でべったりになっていた。

 

「今度こそトリックは通用しない!終わりだよ!」

 

そのままハイゴッグを脳天から真っ二つにするビルドダガー

 

「こ!こんなベタな方法でやられるなんてぇぇっっ!!」

 

そのままハイゴッグは爆散した。

 

 

 

「凄いよアイ!あんな土壇場で勝ったなんて!」

「やっぱ小細工しても勝てないよなぁ、ウルフに目を付けられるハズだよ」

「しかしよく気付いたねアイちゃん、対策をかねてジャブローステージだったんだけど……」

 

「対策を兼ねて、ですか?」

 

「そう、ジャングルというあのステージでは川以外にも泥や葉っぱで汚れが付きやすい。長期戦になればなるほどハイゴッグは汚れて姿をさらしやすくなるわけだよ」

 

「げぇ~、俺知らされてなかったよハセベさん……」

 

「そんな意図あってのステージだったんですか……じゃあなおさら運が良かっただけですよ、あそこで気付かなかったらやられてました」

 

「確かにそうかもしれないけど運も実力のうちってやつだよ」

 

恥ずかしいのだろうか、感心するハセベをよそにそそくさとアイはナナの方に駆け寄った。

 

「でもあの敵もオリジナルカラーだったよね。アタシもあんな風に塗れたらなぁ……」

 

黒いハイゴッグを思い出すナナ、ちょっと羨ましそうだ

 

「大丈夫だよ。練習すればきっと出来るよ」

 

「うん、じゃあ帰ったらストライクを塗ってみるかな?」

 

「どんな色にするの?」

「オリジナルカラーもいいけど……やっぱまずは設定通りの色で行ってみるよ」

 

こっちにきて初めてのガンプラ仲間……アイは改めてうれしく感じた。




登場オリジナルガンプラ
『ビルドダガー・フルパッケージ』
使用ビルダー『ヤタテ・アイ』

【挿絵表示】


【挿絵表示】


【挿絵表示】

『ハイゴッグ(オリジナルカラー)』
使用ビルダー『カワサキ・ナガレ』

【挿絵表示】


【挿絵表示】


これにて第八話終了となります。この作品の世界観をガンプラビルダーズ基準にしたのはビルドファイターズの世界観を掴み切れてなった事
ビルドファイターズのビルドブースターやアメイジングブースターを使った改造に挑戦したかった事が理由です。
…別に川岸でなくても良かったかも…

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