模型戦士ガンプラビルダーズI・B   作:コマネチ

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 サツマの特訓を受けるアイ達、しかしそこへアイ達のホームグラウンド『ガリア大陸』が違法ビルダーに襲われてるとの報が入る。アイ達はすぐさまガリア大陸に引き返すのであった。


第54話「破天荒なお姉さま」(オーバーデスティニーガンダム登場)

 このままじゃ駄目だ。ガリア大陸へ戻る電車の中、ソウイチはそう思っていた。違法ビルダー達はどんどん力を付けて行ってる。それも苦労をしないで、それに比べて今の自分らは行き詰ってる感じだ。このままじゃ近い将来俺達は負ける。

 苦虫を噛み潰したような表情がずっと続いてるのが皆にはわかった。

 

「ねぇアサダ、アンタ……考えてる事当てようか」

 

 隣りの席に座っているナナが言った。

 

「……言わなくても解るでしょう?以前のアンタと同じだ」

 

 ソウイチはぶっきらぼうに答える。ナナ自身も自分の実力不足に悩まされていた事があった。

 

「耳が痛いわね。でもだからこそ焦っちゃ駄目よ。自分が周りに追い越される悔しさは、アタシも解ってるつもりよ……それに、アンタの悩み、アタシも同じなんだからさ」

 

「ハジメさん……」

 

 今実力不足で悩んでいるのはナナだって同じだ。

 

「といっても悩み共有する位しかできないけどさ」

 

「……まぁ、それでも有難いっスよ」

 

 笑った。というわけではないが、眉間の皺を取りながらソウイチは答えた。

 

「そう言えるだけでも成長したな。ソウイチの奴」

 

 反対側の席でツチヤが小声で言う。

 

「でもソウイチ君、最近はちょっと昔に戻りつつあります……」

 

 アイが心配そうに言った。ソウイチはアイと会った時は常に仏頂面で、勝利の結果以外眼中にない様な少年だった。それがアイ達との交流によって考えを改めつつある。しかしだ。最近は実力の壁に悩み、また昔の面が顔を覗かせつつあった。

 

「焦ってるんだよ。ソウイチ君は、壁を乗り越えたらもう一つ大きな壁が待ち受けていた」

 

「俺達に出来るのは、道を間違えない様に見守るだけさ」

 

「壁でしたら、ここにいる私達全員が当たってる様なものですけどね……」

 

 アイがあまり見せないネガティブなトーンで言った。実力以外にも道を違えた友達との関係等、チームI・Bの面々はそれぞれの壁に直面していた。

 

「各々どうにかするしかないよ」

 

「ところで、どうなってるんでしょうね。ガリア大陸は」

 

 同行していたサツマ達が呟く。電車の窓には午後の夏日が差し込んでいる。向こうに付くのは夕方だろう。焦る気持ちを抑えつつ。ジリジリと時間が経つのを待つしかなかった。

 

――

 

 そして山回商店街に着くころには、案の定日も落ちかけていた。といってもまだ日の高い夏の日、ガリア大陸へ一同は向かい。そして入る。

 

「おかしいな。誰もいない」

 

 一回のプラモ売り場を見渡すも、人っ子一人いない。二階のガンプラバトルのコーナーはどうだ。とい全員が二階へ上がっていった。

 

「あっ」

 

 ソウイチが声を上げる。二階に人はいた。背を向けた少女が、アイ達があった事のある人物だ。奴が違法ビルダーかと全員が身構える。

 

「アンタは確か……ツボミ!」

 

「情けない奴らだな。うかつに自分のホームグラウンドを留守にするなど」

 

 振り返ると、和ゴスと眼帯を身に着けた顔が見えた。ツボミ……地区予選でチーム『グラン・ギニョール』としてアイ達と戦い、ソウイチとの因縁を作った女だ。

 

「これは君がやったのか」

 

「あぁ、手ごたえはなかったな」と余裕の表情を浮かべるツボミ。

 

「見損なったぜ!!あれだけ誇りだの自分は高等みたいに言っときながら!自分は違法ビルダーになるなんて!」とソウイチが身構える。

 

「?私が違法ビルダー?何を言ってるんだ?」

 

 怪訝な顔をするツボミ、直後、よく知った声が響く。

 

「ソウイチ君!その人は違うよ!ボク達を、うぅん。ここにいた皆を助けてくれたんだ!」

 

 現れたのはムツミだった。当然タカコとミドリ、そして店員のハセベも一緒だ。

 

「違法ビルダー達が暴れている時に、この人達が乱入して止めてくれたんだよ~」

 

 続くタカコ。直後、奥の更衣室から大勢の人間が現れる。そして縛られた違法ビルダーらしき男が数人転がった。猿ぐつわもされておりウーウー呻っていた。

 

「なんだあの恰好?」

 

 ヒロが怪訝な顔で言う。出てきた大勢のビルダーらしき人間。その多くが、祭りの様な法被を、そしてハチマキをつけていた。まるでアイドルのファンクラブの様だ。ハチマキには『サキ(ハート)LOVE』と書かれており、法被の背中には髪の長い女性の横顔シルエットが描かれていた。

 

「あ……あれは……あ、あの恰好は……まさか……」

 

 一人、顔面蒼白になっている人物がいた。サツマだ。珍しく怯えている。

 

「どしたの?イモエ」

 

「いえ、親衛隊だけのはず、なら彼女がここにいるはずが……」

 

「だからなんだってのよ。あいつら何?」

 

「彼女達はミs「我ら!ミシマ・サキさん親衛隊!」

 

 法被を着た全員が唐突に叫ぶと、三人の少女が前に出る。一人は和ゴスのツボミ、そしてカントリーロリのナエとチャイナロリのモエ。これまたアイ達が予選で戦った三人だ。

 

「皆さん、決勝まで行けたみたいで、おめでとうございます。丁度私達が挑戦しようってタイミングで違法ビルダーが暴れてまして、タイミングが良くて良かったですよ」

 

 と、フレンドリーにナエが話す。ツボミの仏頂面、モエの無表情に対して彼女は、包容力のある自然な笑顔を浮かべている。

 

「フン。違法ビルダーとあっては、私達も放っておくわけにはいかないのでな、気は進まないが助けてやったよ」

 

「もう駄目よツボミ、場の空気を悪くしては、折角今日はお姉様も一緒なのに」

 

「お姉様?それって……」

 

 アイが言った直後、ザッと音を立ててツボミ達含めて親衛隊が部屋の左右に寄った。まるでVIPに道を作るかのようだった。

 

「控えよ。お姉様の御前だ」

 

 中央に現れたのは、長い金髪で黒いゴスロリを着た若い女性だ。年齢は二十代だろうか。気品と自信に満ち溢れた顔つきは相当な美貌を持つ。目を引くのはカラコンではあるが金色の瞳だ。人形の様に美しい。という表現が似合う姿だった。

 

「こんにちは。あなた達がチームI・Bってわけ?そして、そこの地味なあなたがアイね」

 

 と、口を開けば出てきたのは蓮っ葉な言葉使い。

 

「地味?!」

 

 固まるアイ。サツマ除いてその場にいた多くが何とも言えない気分になる。

 

「あなたが『女王』っていう二つ名持ってるって聞いてね。私が持つべきだから奪いに来たわ」

 

 しれっとした表情でアイに対してとんでもない事を言い出した。

 

「え……そんな二つ名、別に持っていても嬉しくないんであげますよ」

 

「あら、それはそれで拍子抜けね。駄目よそんな反応は、もっと『絶対渡さない!』っていう姿勢で対応しなきゃ」

 

「そんな異名があった事自体つい最近知った位ですよ」

 

「あらそうなの?でも挑戦を断る理由にはならないわ。私と戦ってもらうわよ」

 

 自分のペースでズケズケ話を進める女性に、アイはタジタジ、ナナ達はあっけにとられるばかりだった

 

「な……なんなのよあの傍若無人っぷりは」

 

「彼女は……ミシマ・サキ、チーム『SAKI』リーダーですわ」

 

 サツマが禁忌と対面したかのように口を開く。

 

「SAKI?聞いた事ないわね」

 

「いえ、その筋では恐ろしく有名ですわ。リーダーのサキの実力は完全に全国で、いえ世界で充分通用できるという実力の持ち主、加えてあのビジュアルと行動力、ファンを引き付けるカリスマの持ち主」

 

 瞬間、『あっ』と言いそうになってツチヤとヒロが青ざめる。思い出したようだ。

 

「あら言うじゃない。その通りよ」

 

「そして負けたら延々と不機嫌で初心者のバトルに乱入して憂さ晴らし。仲間使って相手の疲労を平気で狙う。仲間は全員召使い扱い、通ったらペンペン草一本生えない。破壊神、図々しさ一番、厚顔無恥、その他恐ろしい噂は絶えませんわ」

 

「ちょっとぉ!!」とサツマの評価を遮るサキ。

 

「うわ……そういう人なんだ」

 

「今回のヤタテさんの異名を奪う行為も恐らく初めてではありませんわ。以前、『美しさと強さの調和』と評されたビルダーがいましたが……それを『私への評価を盗むなんて許さない!』と逆恨みしてバトルをけしかけたとか……」

 

「げー……あれ?チームってんならあの人だけってわけじゃないでしょ?今日来てる奴に仲間はいないの?」

 

「んー…………………………思い出せませんわね」

 

 眉間に皺を寄せて、目一杯思い出す素振りをしているサツマだが、結局出てこない。

 

「チームSAKIって、リーダーはやたら濃いのに、他のチームメンバーは限りなく印象に残りづらいんですのよ」

 

「何なのそのチーム」

 

「貴様ら!お姉様に対してその態度はなんだ!」

 

 不機嫌そうなツボミに続いて「そうだそうだ!」「それがいいんだろ!」「あぁ踏んでほしい!」と親衛隊のメンバーも続く。

 

「要するに俺達に挑戦するって事だろう?だったらガンプラバトルで決着つけようじゃないスか」

 

 それをソウイチが前に歩いて言った。

 

「ガキ……。丁度いい。お姉様の手を煩わせるわけにはいかない。その前に私と戦って「あらいいわよ。あなた達全員、私一人で十分ね」

 

「へ?あの……お姉様?」

 

 珍しくツボミが抜けた声を上げた。

 

「いいじゃない。醜い違法ビルダーとさっきの悪口で不快だったもの。ここらで汗をかいてスッキリしたいわ」

 

 まるで自分が絶対に勝つと言う様な自信だ。ソウイチには舐められたようで不愉快だ。

 

「な!舐めるなよ!アンタが一人でいいって言うんなら俺達の方も一人で十ぶ「解りました。お言葉に甘えてこちらは全員で相手になります」

 

 ソウイチを遮りながらツチヤが言った。

 

「ツチヤさん!アンタは俺達が負けると……」

 

「ハッタリはよせ。彼女はそこらのビルダーとはわけが違う。秒殺されるのがオチだ」

 

「う……」

 

 ハッタリというのは正解だった。ソウイチは無理にでも自分を強く見せようとしている。

 

「それに……このバトルで得られる物があるなら全員で得るべきだ。そうだろう?」

 

 ツチヤとしてはチャンスというべき事件だった。普通だったら一生お目にかかれない相手だ。もしかしたら自分たちにとって大きなプラスになるかもしれない。という思惑があった。

 

「確かに……」

 

「あなたのご厚意に感謝します」

 

「礼儀を知っている様ね。誰が来ようと構やしないわ」

 

 ツチヤにそう言って、サキはゴスロリの上着を脱いだ。下には黒いボンデージを身に着けており、白い肌がより強調される。

 

「全員纏めてお姉さんが相手をしてあげる」

 

「変な奴……」

 

 ソウイチはその行動に顔を赤らめながら呟く。

 

――

 

 今回バトルに出るのはアイのスタービルドストライク、ナナのストライクフリーダム、ツチヤのアッシマーデコレーション、ヒロのウィングガンダムノヴァ、そしてソウイチのバイアランスパイダーだ。

 

「勝つんだ……。俺達が」

 

 ソウイチが自分に言い聞かせるように言う。土砂降りの今回のバトルフィールドは『ガンダムSEED DESTINY』に登場したジブラルタル基地、基地のある陸とそこから離れた海、対照的なフィールドが並ぶステージだ。そしてフィールドは嵐によって海は大しけだ。

 

「ソウイチ、変に気負うなよ」

 

「解ってますよ。今回の相手は並じゃないって事位、来た!」

 

「速い!もうか!」

 

 サキの乗ったらしき機体が高速で突っ込んでくる。マントを被っており姿は見えない。アイは光の翼の速度かと予想する。

 

「女を待たせるなんて失礼ね!」

 

「ほざけ!」

 

 ソウイチはサキに狙いをつけようとするが、撃とうとしていたGNソードが撃たれ爆発。

 

「なっ!」

 

「焦っちゃ駄目よ坊や。お姉さんが大人にしてあげようか」

 

 真紅のサキの瞳が猛禽類の様に相手を捕える。彼女はバトルの時は金色のカラコンを赤に変えていた。

 

「そう言える程!アンタは大人なのかよ!」

 

 ソウイチはバイアランのビームサーベルで迎撃しようとするが、サキの機体は即座に離れ左掌からなにかを撃ち出す。

 

「当然!そして私は最強よ!」

 

 高速のそれがバイアランの右肩ライフルに当たると即座にバイアランの右腕まで一気に凍結する。氷結弾だ。

 

「凍るだって?!」

 

 そのままバイアランを撃ちぬこうとするサキだが、それはナナのストフリの一斉射に阻まれる。難なくかわすサキだがそこからアイのスタービルドストライクがスタービームライフル。最大チャージで拡散ビームを放つ。これもかわし、サキの機体は両腕それぞれに射撃武器を持ち、アイとナナを撃ち抜こうとする。

 

「させるかぁ!」

 

 即座にヒロのウィングノヴァがビームサーベルで切りかかる。が、サキの機体の右手のライフルから長いビームソードが伸び、サーベルを受け止めた。そして左のライフルでノヴァを撃とうとする。が、今度はツチヤのアッシマーが邪魔をする。分離で挟み撃ちをしようというわけだ。

 

「次から次へと考えるわね!でも百万年早い!」

 

 即座にライフルを変形させ銃身を伸ばす。アッシマーに向けると同時に、ライフルと左肩から二条のビームが放たれた。

 

「何?!」

 

 肩からは完全に予想外だった。アッシマー本体はかわすも、肩部で狙われていたバックウェポンはこれで撃墜されて堕ちた。

 

「それで終わり?私を満足させるにはまだまだね」

 

 強風で敗れたマントが飛ばされ、サキの機体が露わになる。同時に稲光がその機体を照らした。その機体は……。

 

「デスティニーガンダム!」

 

【挿絵表示】

 

 アイが叫んだ。『ガンダムSEED DESTINY』の主人公機、大剣と長距離ビーム砲、なおかつ光の翼持ちの高火力勝つ高機動の機体だ。

 

「大剣はライフルと併用の出来るムラマサブラスター。おまけに肩にはノーネイムライフルか!」

 

「柔肌を見たからには責任は取ってもらうわよ。この『オーバーデスティニーガンダム』のね!!」

 

 両目、及び額のモノアイが輝くと同時に、光の翼『ヴォワチュールリュミエール』を展開、内蔵したビームソード全てを出したムラマサブラスターを両手で構え、さっき以上の速度で突っ込んでくる。

 

「くっ!高機動ならアタシのストフリだって!」

 

 二刀流でナナのストフリが迎え撃つ。しかしストフリがビームサーベルを振るった瞬間、デスティニーはストフリの真下に移動。そのままムラマサブラスターのビームソードを振るった。即座に半身を切り落とされて海に落ちるストフリ。

 

【挿絵表示】

 

「作りが雑!!バリが見えてるわよ!」

 

「よ!余計なお世話よ!」

 

 今度はツチヤのアッシマーがトマホークで切りかかる。しかしデスティニーは左掌で受け止めると即座にトマホークは凍結、本体ごと凍らされると思ったツチヤは即座にトマホークを手放しライフルで撃とうとするが、読んでいたサキはブラスターの射撃でアッシマーを撃ち抜いた。

 

「何っ!」

 

「作りは丁寧!でもなってないわね!!」

 

 直後、遠くからツインバスターライフルでこっちを狙っているとサキは判断。ヒロのウィングノヴァだ。サキは左手に長距離モードのライフルを持つと、左肩のノーネイムライフルと共鳴させる。

 ツインバスターライフルが撃つのとデスティニーのライフルが最大出力で撃たれるのは同時、ぶつかり合う両者のエネルギー、勝ったのはデスティニーの方だ。ノヴァはビームに飲まれてバスターライフルを破損。そのまま本体は海に落ちた。

 

【挿絵表示】

 

「ぐぁぁっ!」

 

「未熟!」

 

「いつまでも好きにやらせない!」

 

 プフスキーウイングを展開させたアイのストライクが二刀流でデスティニーに切りかかる。サキはムラマサブラスターで難なく受け止めた。

 

「ビームサーベルを受け止めた!?」

 

「パール塗装よ。四重に塗られた特殊塗料がビーム耐性をつける。その所為で重さはアロンダイト以上だけどね!」

 

 ストライクを弾くと両機は高速で飛び回りぶつかり合う。膠着してるかと思いきや、アイの方が押されていた。

 

「少しはいいテクニックを持ってるのね!でも私を満足させるには不足ね!」

 

「次元が違う!?そんな!」

 

 そのままデスティニーはムラマサブラスターをストライクめがけて振り下ろす。が、ストライクはそれを真剣白羽どりで受け止めた。そのままユニバースブースターのビーム砲でデスティニーを狙う。

 

「ビーム程度で終わると思ったのかしら!?」

 

 直後。ムラマサブラスターの骸骨レリーフの先、刀身部が高速で回転し出す。ビームドリルはストライクの両腕を瞬く間にズタズタにした。そして海に落ちるストライク。

 

「そんな!」

 

「私が主役よ!!」

 

 そして残ったのはソウイチのバイアランのみ。仇討の思いだ。右腕が凍ったままデスティニーに切りかかる。

 

「なんなんだアンタは!」

 

「元気ね坊や。でもそれだけ」

 

 連続で切りかかるバイアラン、しかしデスティニーはそれを余裕でいなす。

 

「右側ががら空き!!」

 

 デスティニーはバイアランの右腕に回し蹴りを見舞う。弾力の無い右腕は砕け散る。

 

「ぐっ!!まだまだぁ!!」

 

 なおも突っ込むバイアラン。

 

「……皆ダサかったけど、あなたが一番ダサいわよ。坊や」

 

 サキは呆れる。攻撃を簡単にいなし、バイアランを弾くデスティニー。体格差は問題ではない。

 

「なんだと!」

 

「余裕がないわ。ただ突っ込んでるだけ。それでは優雅さも美しさも欠片もない」

 

「美しさだって!?勝てばいいだろ!それと楽しむ事!!」

 

「あら基本は解ってるのね。でも口ではそう言ってもあなたはガムシャラなだけ、考えなしでは泣いてるわ。あなたの仲間が。ガンプラが」

 

「知ったような口をっ!!だったらあんたの考えはなんなんだ!」

 

 頭に血が上ったソウイチは同じ様に突撃を繰り返すしかできなかった。デスティニーはムラマサブラスターをあらためて構え、向かい合う。

 

「決まってるわ。おしゃれ。かっこいいファッションよ」

 

「は?何を!」

 

 予想してなかった答えにソウイチは肩すかしをする。

 

「おしゃれってのはね。自分で自分のポテンシャルを引き出す事よ。自分でコーディネイトを考えて人に見せる。伝える。そこに余裕や美しさが無くては魅力は半分も引き出せやしないもの」

 

 それがサキの信念だ。振るうムラマサブラスター。バイアランの左半身が舞った。

 

「なっ!」

 

「最近は違法ビルダーなんていう、コーディネイトもロクに出来ない、工夫も努力も考えてない癖に、デカい顔してるやつらが多くて不快よ。そいつらが執着してるヤタテ・アイって人がどんなのか気になって来たってのもあるけど、こんな半熟だらけとはね!」

 

 そう言ってデスティニーはバイアランを海に叩き落とす。

 

「見かけ倒しよ坊や。いえ、皆100万年早い」

 

 そのままバイアランは海中に沈んでいく。機体はまだ動く。だがサキの戦いぶりにソウイチは絶望しかけていた。勝てるわけがない。と。

 

「か……勝てない。適いっこない……あんな奴に……」

 

「だったら、もうやめる?」

 

 そんなソウイチの周りにアイ達が寄ってくる。全機ボロボロではあったがまだ機体は動く。

 

「ヤタテさん。皆」

 

「本当に適わないよ。あの実力。トドメ刺さない様に加減したんだろうね」

 

「俺達を舐めてるのかもしれないな。でもこのまま終わったら得るものはただの屈辱だ」

 

「まだ機体がボロボロでも、僕達には出来る事がある。そうだろう?」

 

「どうせなら最後まであがきましょうよ」

 

――そうだ……自分たちは自分を信じてここまで来た――

 

「機体が動くならまだやれる……でもどうやって」

 

――そこで会ったのは圧倒的な実力差の女――

 

「決まってるでしょ……」

 

――負けに負けても――

 

「ガンプラバトルはただの性能競争じゃない」

 

――気持ちまで愚弄されて――

 

「気持ちだけなら……」

 

――黙ってられるか!――

 

「負けるつもりはないわ!」

 

 それが全員の気持ちの一致だった。今回の相手は違法ビルダーではない。だからこそ今の自分を全て出し切りたい。ぶつけたいという気持ちもあった。機体もビルダーに呼応するように目が強く輝く。

 

 

「本当にこれで終わり?見かけ倒しで終わるつもりなの?あなた達」

 

 サキがそう言った時だった。

 

「ぅうぉおおおおっっ!!」

 

 アイのストライクが飛び蹴りの体勢で海から突っ込んできた。プラフスキーウイングだ。

 

「直線的に突っ込んでも!」

 

 かわそうとするサキ、しかし突如Gポッドの警告音にハッとする。海面からのビーム。ナナのストフリのドラグーンだ。予想できる回避場所に使えるドラグーンを配置し連射。回避が遅れたサキはアイのキックを回避しきれない。とっさにムラマサブラスターを盾にキックを、否、発頸を受ける。ブラスターはこれで一気に破壊。

 

「戦国アストレイみたいに?!」

 

「普通のビルドストライクだと思ったんですか!!」

 

「甘いわね!こっちはまだ武器が!」

 

 ライフルを構えるとデスティニーはその場から退避、追いかけるドラグーン。だが一直線に並んでいたのが不味かった。デスティニーはさっきのライフルの共鳴で再び最大出力を撃つ。ドラグーンはこれで一気に失う。またもサキのGポッドに警告音。今度はデスティニーの後方からだ。

 

「捨て身で行くぜぇ!!」

 

 ヒロのウィングノヴァ。その真後ろにアッシマーだ。両機とも変形して、アッシマーがノヴァを盾に、撃って隠れてを繰り返す。デスティニーはノヴァに氷結弾を撃ち込む。バードモードのノヴァは機首部分が凍り付く。

 

「甘い!」

 

 だがノヴァの機首部分はシールドだ。切り離して変形しながらビームサーベルで切りかかる。アッシマーも駄目押しとライフルを連射。デスティニーはビームサーベルで受けながら後退。そこへアイのストライクが再び発頸を撃ち込むべくデスティニー後方から突っ込んでくる。

 

「これでぇぇっ!!」

 

「ふぅっ……ちょっとは燃えるじゃない。お姉さんも本気だそうかしら!!」

 

 サキがそう言うと、サキの赤い瞳が、デスティニーの目が一層強く輝きだす。斬り合いをしていたノヴァを弾くと真後ろのストライクを振り向きざまに切り裂いた。

 

「なっ!!」

 

 ストライクはそのまま爆散。動きのキレが前よりも増した。そのままデスティニーはノヴァに、アッシマーに二刀流のビームサーベルで切りかかる。

 

「速い!さっきより段違いだ!!」

 

「こんな事って!」

 

 そのまま二体とも成す術も無く切り裂かれ撃墜となる。

 

「何なのよ……あの出鱈目な腕は……」

 

「ヤタテさんが……やられた?!」

 

 ソウイチとナナもその実力に絶句していた。勝てない。改めてそう思った。自分の思いつく限りの事をやったが通用しない。自分たちの負けだ……と。

 

「さっきあぁは言ったけど、自信持っていいわよ。よく頑張った方じゃない」

 

――終わり?もう……どうしようもない?――

 

「痛くしないから安心なさい」

 

 そのままデスティニーは決着をつけるべく残ったソウイチ達に突っ込もうとする。

 

――ヤタテさんがいなきゃどうしようもなかった?じゃあ俺はいる意味なんなんだよ?――

 

 目の前に迫るデスティニー、アイがやられた事に絶望を二人は感じた。そして同時に、自分はアイに無意識に頼っていたのだ。と。それに湧き出す嫌悪感。

 

――越えたい人がいた。また会おうって約束した人がいた。それも出来ずに自分の限界なんてこんなもんなのか?……嫌だ……。嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッッッッ!!!!!!!!!!――

 

「嫌だあああああぁぁぁっっっ!!!!」

 

 ソウイチのバイアランが足のビームサーベルで突撃をかける。凄まじい加速だ。デスティニーはビームサーベルを交差させキックを受け止める。

 

「くっ!痛いのが好みだったの?!!」

 

「俺にだって!!俺だってなぁ!!!勝ちたい理由はあるんだ!!ガンプラが好きだって気持ちは!!!アンタにだって負けるもんかぁぁっ!!!」

 

 その時。バイアランにソウイチのガンプラ魂が呼応する。増した勢いはデスティニーの腕を軋みさせる。

 

――何?この感覚……?!このガンプラ魂は?――

 

 ガンプラ魂はサキ自身も当然ある。だが……ソウイチのガンプラ魂はサキにとって、何故だかシンパシーを感じる物だった。次の瞬間、デスティニーの左腕が舞った。貫通するバイアラン。

 

「くっ!!」

 

「ど!どうだぁっ!」

 

 向き直るソウイチ、デスティニーは左腕を損傷。対するバイアランは負荷で限界だった。小規模な爆発を起こしていく。

 

「そ!そんな!っ?!!」

 

 バイアランが爆発する直前。真上から巨大なビームがバイアランを飲み込んだ。これによりソウイチは撃墜。直後『挑戦者が乱入しました』というアナウンスが残ったナナとサキのGポッドに、そして観戦モニターに入る。

 

「アサダ!まさかっ!」

 

「あっはっは!早速一機ゲットー!しかしまたとない大物がかかったわね!」

 

「?!あの声は!」

 

 撃墜され、観戦しているアイ達にとっては聞いた声だった。前回ルジャーナで戦った少女の違法ビルダーだ。前回出てきたブリュンヒルデが、そしてマステマガンダムとネフィリムガンダムが、何十機もバトルフィールドに乱入してくる。

 

「もうボロボロじゃん!凄い人らしいけど、今なら楽に倒せるわね!」

 

「アナタ達……違法ビルダーね」

 

 機体の外見、非常識な行為からサキが面白くない様に言う。嫌悪感が言葉からにじみ出ていた。

 

「ミシマ・サキ、なんかよく解んないけどアイ以上に有名人らしいじゃん。アイを倒せなかったのは残念だけど、アンタ倒せば充分おつりがくるわ!アタシは新世代ビルダーのカリスマになれるわね!」

 

「流石の戦略眼です姫!」「どうか功績は我々にもおこぼれを!」と彼女の取り巻きらしき違法ビルダーが続く。

 

「よく言うわよ……さっきアタシ達と戦った時と同じパターンじゃない」

 

「また人が弱ってる所を狙って!」と観戦していたヒロ達が吐き捨てる。

 

「結果さえよければいいのよ。それにしても調べたけど、サキ、アンタって大人でゴシックロリータファッションなのね……ダサッ!」

 

「……なんですって?」

 

「年を考えろって話よ。取り巻きだって踊らされちゃってまぁ、知ってる?これら新世代ビルダーはすでにファッション雑誌にも特集が組まれてるの。いずれはアタシ達はアンタ以上におしゃれでセンスがあるって認知になるでしょうね」

 

「それ……、自分を信じて出した考えかしら?」

 

「?自分の考えなんて持つ必要ないわよ。流行に乗っていればオシャレ。勝手に皆賞賛してくれるわ」

 

「……じゃあそれが間違いだって思った時は?」

 

「さっきからうるさいなぁ。しらばっくれればいいでしょ?間違いなんて認めたら舐められるわ。オバサン、センスがある様には思えないけど、まぁ折角だからその座と知名度、アタシがもらってあげるわ!」

 

「かかれ!」と号令をあげると取り巻きの違法ビルダー達が一斉にサキ達に飛びかかる。

 

「くっ!戦おうにもこんな状態じゃ!」とナナ、対照的にサキは冷静だ。

 

「アナタ達、そこで休んでなさい」

 

 デスティニーが前に出る。

 

「何を言うの!アタシだって頑張れば戦え「巻きまこまれるわよ!」

 

 サキがナナの言葉を遮るとデスティニーの体がぐぐぐ……っと強張る。

 

「さぁデスティニー…… 吼 え な さ い !!!」

 

 直後、解き放つように間接各部から青白い炎が噴き出した。

 

「ォォォォッ!!!!!」

 

 周囲を震撼させる程の咆哮を上げる様な動作と音をデスティニーが上げる。アイ達はそれを見て言葉を失った。

 

「まだ上の形態があったって言うのか?!」

 

「ナイトロシステム……!」

 

 アイが呟くと、バトル中のデスティニーは爆発的な勢いで飛び出す!そして右足に青い炎を纏わせると、それを巨大に、何キロもの長さに燃え上がらせる!そのまま勢いよく回し蹴りの動作で違法ビルダー達を薙ぎ払う。

 

「なんだこれはぁぁ!!」「ひ!姫ぇぇ!!」

 

 蹴りの勢いは嵐の雲をも薙ぎ払う。一斉に雲は晴れて月夜の明かりがデスティニーを照らした。その姿はまるで月下の悪魔。

 

「う!嘘!嘘よ!なんであんなモードが!」

 

「女には隠し事は多い物よ?」

 

 真正面から迫るデスティニー、ブリュンヒルデは頭部のビーム砲で狙い撃つが。デスティニーはそれを意にも介さず突っ込んでいく。

 

「ひとつ言っておくわ。あなたには私の様なカリスマにはなれない」

 

「何を!」

 

「踊らされてるだけだって言ってるのよ。自分で工夫もできない。努力もしない。自分で非も認めない。自分が好きだって表現も表せない!」

 

「アタシは!アタシは!!踊らせる側の人間だぁっ!」

 

「もらっただけのデータに乗ってるアナタが言う資格はないわ」

 

 そのままデスティニーはブリュンヒルデを衝撃で天高く弾き飛ばす。そのままデスティニーは飛び蹴りの体勢で、ブリュンヒルデ目掛けて飛び上がった。

 

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「だから……一億年早い!!」

 

 そのまま蹴り抜くと違法ビルダーは絶叫。そしてブリュンヒルデは爆散。その衝撃は蹴りにも関わらず本体丸ごと消し飛ばす威力だった。

 

「たった一体で……凄い……」

 

 アイの感嘆の声、それは他に観戦していた全員も同じ感想だった。

 

「流石ですお姉様。それでこそカリスマと呼ばれたお人……」

 

 見とれるツボミ。同様にツチヤ達もその戦いに衝撃を感じていた。

 

「……!」

 

 特にソウイチにとってそれはひときわ強い衝撃だ。何も言葉が出ない。言いたい事はいくらでもあるのに、

 

――すげぇ……。こいつらが惚れるわけだ……。でも俺は…………俺……このままでいいのか?――

 

 そしてソウイチの胸中にある想いが芽生える。

 

――

 

 そしてそのままバトルは終わりを迎えた。あの後ナナもあっさりやられ、勝利はサキの物となった。

 

「お姉様!お見事です!これで女王の二つ名はお姉様の物ですね!」

 

 いつも仏頂面のツボミが爛々と輝く笑顔で駆け寄った。

 

「これが私の実力よ。私が一番強いのは当然だから、気を落とさないで欲しいわ。戦ってみて思ったけど、あなた達のセンスは悪くない。もっと強くなれるでしょうね」

 

 さっきまでの態度とはかけ離れた。アイ達にとっては意外に感じた慰めの言葉だ。サキのそれは年上の大人としての表情だった。

 

「……あんなの見せられたら自信も無くすわよ」

 

「皆そうやって這い上がる物よ。まぁ最も、今のままでは全国へは通用は難しいでしょうけどね」

 

「だったら!!俺を!俺達を弟子にして下さい!!!!」

 

 一際大きな声でその言葉を発したのは……

 

「ソウイチ君?」

 

「あなたの実力!感動しました!悔しいけど俺達の実力ではあなたに適わない!学ばせてほしいんです!あなたから!!」

 

 必死すぎる表情だ。『これを逃してはいけない』その心情が伝わってくるようだ。

 

「ガキ!失礼な奴だな!お姉様にそんな図々しい口を!「あら、良いわよ」

 

 あまりにもあっさりサキは承諾した。「へ?ちょ、お姉様?」と慌てるツボミ。周りの親衛隊にもどよめきが走る。

 

「いいじゃない。丁度この街には暫く滞在する予定だったし、私のファンが増えたって事でしょう?」

 

「え?まぁ……」とツボミはどもる。

 

「それに……なんか興味あるのよね。あの子」

 

 バイアランのキックを思い出しながらサキは言う。

 

「お!お姉様?!そんな!」

 

 この世の終わりとばかりの衝撃を受けるツボミ。

 

「全然そう言う意味じゃないわよ!むしろ……なんか似てるのよね。あの血気盛んな所がツボミ、あなたに」

 

 予期せぬ言葉にツボミが固まった。

 

「!?な!何を言ってるんですか!あんなガキが私に!!」

 

「あぁ……なんかそれ解る……」とモエ。

 

「えへへ、じゃあよろしくねアサダ君」とナエが親睦を深めようと寄ってくる。

 

「お!お前らぁぁ!」予想と全く違う状況にツボミは声を荒げた。

 

「で、あなた達はどうするの?」とサキはアイ達の判断を仰ぐ。

 

 チームI・B全員がそれに関して話し合う。確かにサキは凄いと感じたアイ達だが、弟子入りの申請までは頭になかった。

 

「ちょっと!どうすんのよ!こんな展開になるとは思わなかったわよ!」

 

「確かにアサダ君の気持ちも解るけど……」

 

「あの人の技術が盗めるならそれもいいだろうけど……」

 

「あー確かにアタシも劇的に強くなれるかも」

 

「ハジメさん!あなたワタクシの指導のどこが不満だって言いますの!!」

 

「……すいません。少し考えさせて下さい」と話し合いが終わらない内にツチヤが言う。「え?ツチヤさん?!」と彼の行動にアイ達は納得がいかない。

 

「あら失礼ね。まぁ一晩位ならいいわ。早く答えは出してね」

 

――

 

 そして帰り道、アイ達は近所のガンプラバトルコーナーのあるゲームセンターに場所を移し、話し合いを続ける。

 

「どうしたんですかツチヤさん。あれは流石に失礼じゃ……」

 

 コーナーの一角、丸テーブルに座りながらアイはツチヤに問いかけた。

 

「解ってる。だけどソウイチは必死なんだ。あいつ一人で、俺達を気にしないで鍛錬出来るなら、一人で集中させた方がいいかもしれないって思って」

 

 ソウイチの悩んでる姿、バトルの時の爆発的な力を思い出しながらツチヤは言った。

 

「ちょっと部の悪い賭けじゃないですかツチヤさん?周りは彼女の親衛隊で一杯だぞ。新人いびりでもあったら逆効果になりかねないよ」

 

「まぁ、勘が混じってるな確かに。自分でもこれで良い判断したとは思いづらい」

 

「でもソウイチ君も思い切ったよね~。ヘタすりゃチームI・Bごとあのサキって人の下請けになりかねないよ~」

 

「それだけ必死って事なんでしょ……」タカコとムツミもソウイチの判断には驚いたようだ。

 

「鍛錬したいのはアタシだって同じよ。特にあのツボミって奴は姑みたいないびりしそうで心配だわ。アサダの味方も兼ねてアタシもサキって人の弟子入りに……」

 

「ちょっとハジメさん!アナタはワタクシが強くしますのよ!」とサツマがナナに食って掛かろうとする。その時だった。

 

「サキさんは、ツボミちゃんはそんな事をする人間じゃないから大丈夫だよ」

 

 聞き慣れない声がした。声のする方へ向くと一人の若い男性がいた。

 

「あなたは?」

 

「僕はアスメ・シンゴ、サキさんのチームメイトだよ」

 

 笑いかけるシンゴと名乗る青年。そこそこ美形と言っていい、整った顔立ちではあるが、どうにも特徴がない。

 

「え!?あなたが?!でもなんか地味ですね……あ」

 

 と口にした瞬間。アイは慌てて口を押える。つい思った事が出てしまった。

 

「ハハ……よく言われるよ。でも大丈夫。サキさんがあぁやって了承するっていうのは珍しいよ。蔑ろにする事はないから安心してほしいな」

 

 まぁスパルタになるだろうけどね。とシンゴは付け加える。

 

「ん?あの、お兄さんもあのサキって人のチームメイトなんですよね!」とナナが食いつく。「うん、そうだよ」と答えるシンゴ。

 

「だったらアタシ達の指導。あなたにお願い出来ません?」

 

 突然のナナの申し出に全員が「ハ?!」という表情だった。

 

「だってあの人のチームメイトだったら凄い実力だって事でしょ?アサダの奴はサキさんに任せてアタシ達は」

 

「そうはいきませんわ!!」とサツマが遮る。

 

「ハジメさんはワタクシが強くします!例えサキさんの仲間だとしても部外者は引っ込んでいて頂きたいですわ!!」

 

「えーイモエ。いいでしょ別にー」

 

「ジェラシーだねもっちゃん」

 

「言い出したら聞かないんだから」

 

「黙ってなさいまし!!」とサツマはチヨコとスグリに荒ぶる。

 

「考え直しなさいハジメさん!別にこの人に頼らなくても!」

 

「……ねぇサツマ、アンタは気楽だよね。もう全国決まってんだから……」

 

 急にナナの表情が曇りだす。我慢していたものが噴き出したようだった。

 

「え?」ナナの変化に思わず強張るサツマ。

 

「でもアタシは違う……アイやアンタみたいな実力なんてない。アタシには人に頼って教えてもらうしかない……。アタシだって、この人やサキって人に頼れるチャンスがあるなら、賭けてみたいのよ。自分に……」

 

「ハジメさん……ごめんなさい……」言い出したら聞かない。自分の悪い癖がまた出たなとサツマは思いながら頭を下げた。

 

「ですが、ハジメさんの師匠となるべき方ですわ。半端な実力では話になりません。あなたの実力、ワタクシが見定めさせてもらいます。アスメ・シンゴさんと言いましたわね!タイマンしてもらいますわよ!」

 

 そう言ってサツマはイージスを取り出す。

 

「そう。解ったよ!ビルダーとして受けて立つ!」

 

――五分後――

 

「あ……有り得ませんわ……ミシマ・サキ並の実力者が……こんな所にも……」

 

 サツマは信じられないという表情で自機のイージスを持ちながらうなだれていた。結果はサツマの惨敗だった。シンゴの機体はビギニングガンダムD。ビギニングガンダムのバリエーション機だ。紺色が主体で従来のビギニングより四角いフォルム。従来のガンダムに近いシルエットになっている。

 高速移動で圧倒しようとしたイージスは、簡単に攻撃を読まれて完封だった。

 

「く!悔しいですがあなたがハジメさんの師匠としてふさわしいという事ですわね!」

 

「わぁ!よろしくお願いします!師匠!」

 

「なんか……ぐいぐい話進めてるねナナ……」とムツミ。

 

「ナナさんにとってもチャンスだって思ったんでしょう」とミドリが続いた。

 

 しかしこのナナ達の態度は……シンゴという男がギャルゲー主人公並に無個性で影が薄いので、ナナ達が自然と話を進める形になってしまっている事は、誰も気づかなかった。

 

――うーん。師匠かぁ――

 

 そう呼ばれる事に内心嬉しくなるシンゴ、サキさんに褒めてもらえるかな。と淡い思いをはせる。

 

――師匠……か――

 

 シンゴとは別にツチヤもまた、ナナを見ながら少し考え込む。

 

「僕達も彼に教えてもらいますかツチヤさん?」とそんなツチヤにヒロが訪ねる。

 

「……いや、今思ったんだが、俺の方は昔の友達を訪ねてみようと思う」

 

「昔の友達?チーム『ライオンハート』の人達ですか?」

 

 ライオンハート……かつてのツチヤ達の仲間が立ち上げたチーム。

 

「あぁ。あそこにいた俺の友達、ジロウの奴が『凄く強い師匠に教えてもらってる』って言ってたのを思い出した。俺の方はそっちに会ってみようと思うんだ」

 

「でも確か、たまにしか会えないって言ってたじゃないですか」とアイが続く。

 

「その時はその時だな。そんなに時間はかからないだろうし」

 

「そうですか。じゃあ僕もツチヤさんについていきますよ。何せ相手はボクの仲間達『エデン』を倒した人、その師匠ですから」

 

「あぁ、構わないよ」

 

「皆バラバラになっちゃいますね。じゃあ特に決まってないけど私は……」とアイ。

 

「……部長達と合流して、ノドカに会いに行ってこようと思います。決勝の前に話がしたいです。バトルの前に話で解決できるならしたいですよ」

 

「そうか……じゃあ皆、一度分かれるな」

 

「ワ!ワタクシもハジメさんと一緒にいますわ!」

 

「もっちゃん、今日は日が暮れるから駄目だよ」とチヨコ。

 

「ぐ……でしたら明日お泊りセット持ってハジメさんの家に行きますからね!!」

 

「なんでアタシの家に泊まる事前提?!」

 

 とまぁこうして一度全員が離れてそれぞれの場所で自分を見つめなおす事となった。……後に、こういった行動を取った事は運命だったかもしれない。そうアイ達は思うことになる。何故ならこの出来事がなければ、彼女達が最強のビルダーになる事は、なかったのかもしれないのだから……

 

 

 

搭乗公式キャラクター

 

『ミシマ・サキ』

登場作品『模型戦士ガンプラビルダーズD』

 

 金髪と白い肌、黒いゴスロリとボンデージという非常に派手なファッションの持ち主。ガンプラに対して『かっこいいファッション』と捕えており、一切の妥協を許さない。

 一方で十歳近く年の離れた甥っ子と口喧嘩が絶えないという子供っぽい面も、作中ではヒロイン兼、師匠兼、ライバル兼、ラスボス兼、真の主人公(全て主観ですw)と多彩な役柄を演じていた。……他のキャラが地味すぎるからとかでは無い……きっと。

 なお後に『ガンダムビルドファイターズA』でもそっくりさんが登場。ユウキ・タツヤとバトルして負けてました。

 

『アスメ・シンゴ』

登場作品『模型戦士ガンプラビルダーズD』

 

 ビルダーズDの主人公。美形ではあるが覇気が無い為モテないとの事。向かいに住んでいたサキに「あなたとイイコトしたいな」とガンプラに誘われビルダーとなった。 ……ぶっちゃけキャラが薄い。後に『ガンダムビルドファイターズA』でもそっくりさんが登場。サキのそっくりさんの専属ビルダーとなっていた。……それでいいのか主人公。




登場オリジナルガンプラ
オーバーデスティニーガンダム
使用ビルダー『ミシマ・サキ』

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 今回からレジェンドとして公式キャラクターを出します。ウルトラマンメビウスをDVDで見返していて、思いついたネタがあるので。後『昔はこういうキャラがいたんだぞ』という紹介も兼ねてます。
 ただサキは本編公式よりかなり精神的に大人に書きました。

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