模型戦士ガンプラビルダーズI・B   作:コマネチ

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トラップを駆使し、アイ達を倒そうとするチーム『グラン・ギニョール』。果たしてアイ達は勝てるのか?


第48話『トラップを越えろ(後編)』(覚醒・ガンダムAGE-3Eサラマンダー)

「ヤタテさん!!」

 

 そこへ一機の変形したアッシマーがビームライフルを撃ちこみながらアイ達に合流した。ツチヤのアッシマーだ。ウタゲとクシャトリヤは回避するもアッシマーの合流を許してしまう。

 

「このままじゃジリ貧だ!モルゲンレーテの方へ!」

 

「でもミサイルが!」

 

「ミサイルなら設置型だ!弾切れを待つか懐に飛び込んで一気に破壊すれば!」

 

「やらせるか!!」

 

 そう言ってウタゲはハンドガンでハイドボンブを撃つ。それによって起きた爆発は近場のハイドボンブを巻き込み連鎖爆発を起こす。しかしその爆発でも安心は出来ない。爆風の中にウタゲとクシャトリヤは射撃を撃ち続けた。爆風が晴れるとそこにはアイ達はいない。

 

「やったか?」

 

 直後、ウタゲとクシャトリヤの後ろから水しぶきと音がした。振り返ると分離したサラマンダーが飛んでいくのが見えた。水面すぐ近くをを潜ったのだ。向かった方向はモルゲンレーテ、すぐさま後方から撃ち落とそうとする二機、だが二機のビルダーはすぐさまハッとする。そして横に身をひるがえす。

直後、近接武器を構えたアッシマーとノヴァが突きの体勢で海中から飛び出してきた。ツボミ達を狙ったわけだ。とっさの回避で空振りとなったが。

 

「あーおしい!通りたかったら俺達を倒してからにしてもらおうか!」

 

 仕留められなかったと分かるとすぐ離れる二機、だが直後、右手を失ったアイスバーグがアッシマー達の前に躍り出る。ナエがアッシマーを追ってきたのだ。

 

「だったら私も混ぜてくれないかなぁ?ツボミ、あなたは女王を追って、ここは私達が」

 

「ナエ、結構やられたみたいだが大丈夫なのか?」

 

「大丈夫よ。でもここままじゃちょっとスッキリしないから、あのアッシマーと決着をつけたいかな。なんてね」

 

「分かった」そう言うとツボミのウタゲはアイ達の後を追いかける。そして入れ違いにナエのアイスバーグがツチヤ達に立ちはだかった。そんなツチヤにある考えが浮かぶ。

 

「……ヒロ、君は彼女の後を追ってくれ」

 

「っ!?ツチヤさん?」

 

「君の方が俺より足が速い。ヤタテさん達が何かあった時に援護してやってくれ」

 

「でも損傷したアッシマーであの二体を相手にするんじゃ!」

 

「大丈夫だ!それに、こんな所で俺達は止まれない。そうだろう?」

 

――君にはやらなきゃいけないことがある――そう言いたげな声だった。そしてヒロもそれは理解出来た。

 

「……解りました。頼みます!」

 

 そう言うとヒロのノヴァはライフルが無いにせよバードモードへ変形、すぐさまツボミの後を追った。

 

「あっ待ちなさい!私のメンツが!」

 

 アイスバーグがノヴァを追おうと飛ぶが、すぐさまアッシマーが右手のトマホークで斬りかかる。アイスバーグはビームトマホークでそれを受けた。

 

「気にするな!ここで俺を倒す方が大きいメンツだろう!?」

 

 すぐさまアッシマーはアイスバーグを払いのける。と、クシャトリヤの背部からファンネルが六つ射出、アッシマーを補足しだした。温存していたファンネルらしく形は筒状とさっきまでとは違っていた。

 

「どっちもですよ!!」

 

 

「行かせない!!」

 

 コアファイターとGドレイクを追いながらロケットランチャーで撃ち落とそうとするツボミ、しかし二機とも軽快な動きで正面からのミサイル郡を、そして後方からの射撃を回避する。全員が必死だった。

 

「後少し!」

 

「ミサイルポッドが……あれかぁ!!」

 

 モルゲンレーテの工場地帯が目視できると同時に設置されたミサイルポッド郡が見えた。目指すはあれらの中心部。あそこに合体して降り立つ。

 

「中心部の高高度で合体、降り立ったらシグマシスキャノン発射だよ!」

 

「多少のダメージは覚悟の上っス!やってやるぅ!!」

 

「させるか!撃ち落としてやる!」

 

 コアファイターの合体を阻止しようとロケットランチャーをコアファイターに向けるツボミのウタゲ、しかし……

 

「こっちのセリフだぁ!!」

 

「!?」

 

 ウイングノヴァがバードモードから変形しライダーキックをウタゲにかます。ロケットランチャーの両手持ちで集中していたツボミはノヴァの蹴りをモロに食らう。

 

「ぐほっ!くっ!貴様!!」

 

 そうこうしてる内にコアファイターとGドレイクはミサイルをかわしながら真上に飛ぶ。そして隙を見て合体。すぐさま真下、ミサイルポッドの中心部に降り立つ。全てのミサイルポッドが一斉にサラマンダーを狙う。

 

「発射OKっス!!」

 

「撃てぇぇぇっっ!!!!」

 

 直後サラマンダーのシグマシスキャノンは最大出力で発射、まず発射進路上のミサイルポッドを破壊、そのまま尻尾のバーニアを横に向けて噴射させ、ホバーのサラマンダーを回し始める。そのままサラマンダーはシグマシスキャノンを発射しながら機体を360度何度も回転させる。射程上の物体は全て破壊。

 

「なっ!!」

 

「ローリングバスターライフルの応用か!うまくいったな!」

 

 その破壊力にミサイルポッド含むモルゲンレーテ社自体が火の海と化していった。ウタゲとノヴァも巻き込まれまいとその場から離れる。しかしそんな中でも二機は剣を交えぶつかりあった。

 

「これでもう条件は五分と五分だ!観念するんだな!」

 

 鍔迫り合いのヒロとツボミ、だがツボミは余裕の態度は崩さない。

 

「まさか、ミサイルを破壊された位で何を得意げに」

 

「しらばっくれるな!」

 

「だったらあれを見てみるんだな。あの女王の周りを」

 

「何!?」

 

 鍔迫り合いをしながらもヒロはノヴァの頭をサラマンダーの方に向けた。そして愕然とした。

 

「あ!あれは!」

 

 

 さて、こちらはツチヤの方、シグマシスキャノンの光はこちらでも確認できた。ツチヤにはそれが成功の証拠と判断した。

 

「ヤタテさん、やったんだな!」

 

 しかしアッシマーの方はもうボロボロだった。アッシマーの頭部と左腕は破損。全身も亀裂が入りボロボロなのは誰が見ても分かる。残った武器も右手に持ったトマホークだけだった。

 

「余裕じゃないですか。あなたはもう瀕死だというのに」

 

「だが勝つね、俺達は。女王だかなんだか知らないが、アイツらの強さが俺が一番知っているから」

 

「思うだけなら誰だってそう思えます!」

 

 とどめとばかりにアイスバーグはアッシマーに斬りかかる。アッシマーはそれをトマホークで受け止めると最後の力でビームトマホークを払いのけた。勢い余って双方のトマホークは手をすっぽ抜け、同時に海の中へ沈む。

 

「っ!」

 

「おぉぉっ!!」

 

 武器を失ったアッシマーは残った右手で全力パンチを繰り出す。とっさにアイスバーグはそれを左手で受け止めた。強い衝撃がアイスバーグに、ナエのGポッドに襲い掛かる。

 

「ぐぅっ!!こ!この!!」

 

「まだまだぁ!もう一発!!」

 

 渾身の一撃を放つ気迫だった。予想外の展開とツチヤの気迫はナエを驚かせるほどだった。だが……その直後だった。アッシマーの全身を何条ものビームが撃ち抜いた。

クシャトリヤのファンネルだ。そのままツチヤのアッシマーは海中に沈み爆散。勝負の最後はあっけなくついた。

 

「モエ、助かったわ。ありがとう」

 

「……ごめんね、手を出して……」

 

 かすれた様な小さな声でクシャトリヤのビルダーは答えた。「気にしないで」とナエは答える。ナエの相手だからと自分は控えめにしていたのだが、ツチヤの気迫にそうはいかないと思ったらしい。

 

 

 そしてアイ達の方は、

 

「あ!あれは!」

 

 サラマンダーを取り囲む様に、三つのカプセル状の物体が地面から高速でせり上がってきた。配置はトライアングル状、アイ達もそれの存在と正体にに気づいたようだ。

 

「これって…!」

 

「っ!ヤバイ!ソウイチ君!早くここから離れなk」

 

 アイが言い終わる前にカプセルは開き、内部機構が露出、三点を結ぶかのようにプラズマ結界が走る。トライアングルの中にいたサラマンダーは高圧電流にさらされた。

 

『う!うわぁぁあああああああ!!!!!!』

 

 二人の叫びが重なる。猛烈な振動が二人のGポッドを襲った。

 

「やはりプラズマリーダーか!!」

 

「そういう事だ!こうなった時の備え位用意してある!」

 

 どうにかプラズマリーダーを破壊出来ないかとヒロは考える。プラズマリーダーは三基揃って初めて結界を発生出来る。一基でも破壊できればプラズマ結界は止められる。しかしウタゲはノヴァを離そうとしない。ノヴァもウタゲの相手で精いっぱいだった。

 

「時間の問題だ。弱り切った女王達を倒し、私達の方が価値があるとお姉さまに理解してもらう!アハハハ!!」

 

「くそぉおおお!!お姉さまお姉さまって!なんだって俺達が狙われなきゃいけないんだ!!」

 

 サラマンダーに乗っていたソウイチが叫ぶ。アイも気になっていた疑問だった。

 

「フン!……お姉さまはヤタテ・アイ、女王と呼ばれたお前を倒そうとしていたのよ。お前の肩書『女王』という二つ名を奪うべくね」

 

「何?!」

 

 ノヴァと斬り合いながらもツボミはまくし立てる。

 

「女王、女神、美しさと強さの調和、そう言った称号は全てお姉さまが独占すべき名だ。私達に倒される位ならお前らが持っていても意味なんてない。だからお姉さまにその名を献上する」

 

「くっ!そんな理由で……!」

 

「我慢ならないんだよ。敬愛する人が自分達より、ロクに顔も知らない人間に夢中になるなんて」

 

「トラップばっかり使うような方法で勝って!!それで称号奪えるって言うのかよ!」

 

「子供の理論だな。他人は結果しか見ない。過程なんて見やしない」

 

「っ!」

 

 ソウイチは口ごもる。自分も持っている持論だったからだ。

 

「お前は何の為にバトルをする?私はお姉さまの為にする。私達が強者と認められれば、私達の師匠でもあるお姉さまもまた強者と崇められる。親なんかに現をぬかすお前とは違う」

 

「……!」

 

「楽しいからだけじゃ不満ですか!?」

 

 アイの結界の中からの訴え、しかしツボミはその考えを一蹴する。

 

「ハッ!情けない!女王がそんな低俗な考えとは!そして相方は自立も出来ない子供、上昇志向の理由からしてお前達とは違うんだよ」

 

 自立できないという言葉。とモニターでほとばしる電撃。

 

――……自立出来ない。だと?!――

 

 言い返そうとした。でも出来ない。『そうかもしれない』と自身を考えてみて思ったから、それはソウイチにとって昔の記憶を一瞬思い出す。

 

――俺は昔、家で父さんの部屋が自分の部屋になった時、押入れの隅っこで父さんの遺品、ガンプラの沢山入った箱を見つけた。

父さんはガンダムやガンプラが好きな人だった。……なんで俺はガンプラとガンダムを始めた?それは、俺が病弱な父さんに遊んでもらった記憶がないから。父さんの好きな物を知りたかったからだ。……きっかけは父さんの好きな物で……父さんを越えたかったから。

……自立は出来てないかもしれない。でも!――

 

「あなたはっ!!」

 

「大人を気取る子供がっ!!」

 

 アイもヒロもその態度に怒りを表す。だがその言葉がソウイチの心にとって引き金となった。

 

――でも!!俺の!俺達の上昇志向の意思は!――

 

「好きでやってて何が悪い……!」

 

「えっ?」

 

 ボソッと呟くソウイチ、直後表情は激情の顔となり叫んだ。

 

「楽しくてやってて!!思い出の為にやって何が悪いって言うんだぁぁっっ!!!」

 

 ソウイチはサラマンダーのコントロールを自分に切りかえる。そしてテールブースターを最大出力で吹かす。進行方向は右側のプラズマリーダー発生装置。そのままサラマンダーは発生装置に激突、発生装置は破壊されプラズマ結界も消え失せる。

 

「ソ!ソウイチ君!無茶するなぁ!」

 

 むくりと満身創痍のサラマンダーは起き上がる。ゆらっとウタゲに向き直った直後、最大出力で突撃。最大出力の上乗せでサラマンダーはウタゲに全力のパンチをかました。

 

「なっ!!」

 

 とっさにシールドを構えてウタゲは防御する。が、その衝撃は強い。シールドは砕け散り、ウタゲは大きく吹っ飛ばされた。

 

「ソ・ソウイチ君……」

 

「くっガキがぁぁぁ!!」

 

 倒れこんだ状態から起き上がろうとするウタゲ、そんなウタゲの左右にアイスバーグとクシャトリヤが合流する。

 

「ツボミ、大丈夫?」

 

「二体共無事なのか?!じゃあツチヤさんは!!」ヒロは叫んだ。

 

「倒しちゃいましたよ。立派なビルダーでした」

 

「こっちの有利は変わらないというわけか。まだまだいけるな!」そう言ってツボミはヒートナタを構え再びサラマンダーに襲い掛かる。

 

「ソウイチ君!コントロールを私に!」

 

「待って!ここは俺にやらせて下さい!!」

 

「えっ!」とアイは一瞬戸惑う。

 

「絶対勝ってみせます!!俺を信じて!!」

 

 今までの印象の違う言葉だ。なんだかアイはそれが信じられる気がした。

 

「分かった。お願いね!」

 

 

 そしてヒロの方、こちらはアイスバーグと交戦しようとしていた。そこから少し離れた地点でクシャトリヤがファンネルで両方の決闘を援護しようという図式である。

 

「次は君です」クシャトリヤから予備のビームトマホークを受け取ったアイスバーグ、そのままノヴァに向き直る。

 

「……ツチヤさんを倒して僕まで倒せるって!思い上がりだな!」

 

 ノヴァもビームサーベルを構え突っ込む。ノヴァはファンネルの迎え撃つ中ジグザグに動きファンネルの射撃をかく乱。その勢いでアイスバーグに斬りかかった。火の海となったモルゲンレーテで各々の決戦が始まる!

 そしてこちらはアイの方、ウタゲとサラマンダーはぶつかり合う。両手でヒートナタを構え。援護のファンネルで牽制を行うがサラマンダーの手甲で防がれるか、かわされるかだ。ウタゲは突っ込んできたサラマンダーのビームサーベルをヒートナタで受けた。

 

「あの三兄妹を倒したからどんな凄いビルダーかと思ったら拍子抜けだよ!」

 

「なんだと!」

 

「確かに実力はあるみたいだけどね!人を親を馬鹿にする様な三流ビルダーだったとはね!」

 

「そうっスね!この分じゃあんたの言うお姉さまとやらもたかが知れてる!!」

 

「っ!!貴様ぁぁ!!」

 

 激昂するツボミ。それに合わせてウタゲのパワーが増していく。と、同時に本体が、そしてヒートナタが怪しく赤く輝きだす。アイ達もよく知ってる輝きだった。

 

「これって!」

 

「ガンプラ魂スか!!」

 

「お姉さまを悪く言うなぁぁ!!」

 

 赤く輝くヒートナタは大きさ自体は変わっていない。しかしその威力は桁外れに上がっていた。サラマンダーのビームサーベルを砕き、そのままヒートナタを受けていた右手甲を拳ごと切り裂く。

 

「なっ!」

 

 すかさずクシャトリヤのファンネルが援護の射撃を行う。回避しきれなかったサラマンダーはビームを右肩に受け小破、右腕は完全に使えなくなった。

 

「お姉さまは!私達に信じる道を行けと示してくれた人だ!!何も知らない癖に!!」

 

 そのまま決着をつけるべくウタゲは両手のヒートナタを振り上げ突撃。

 

「年増みたいっスね!ヒステリー起こしてぇぇっ!!」

 

 ソウイチも残った左腕に力を込める。激昂したソウイチの魂が、サラマンダーの左腕のビームサーベルを巨大に、そして長大にする。ソウイチのガンプラ魂もまたサラマンダーにブーストをかけていた。

 

「ソウイチ君!ガンプラ魂を!?」

 

「アンタの分も下さい!ヤタテさん!!」

 

「いわれずとも!!」

 

 アイの魂も上乗せして一層ビームサーベルは強く輝く。

 

「なっ!」

 

「アンタがお姉さまってのを大事に思ってる様に!俺達だって大切な人がいるんだ!!自分だけが!特別だと思うなよぉぉ!!」

 

 サラマンダーはその場で周囲にビームサーベルを振り下ろす。クシャトリヤの放ったファンネルはその場で叩き落とされる。そしてウタゲに迫る。ツボミはナタを交差させてそれを受ける。片腕とはいえパワーはサラマンダーの方が上だ。ヒートナタの刃にビームサーベルが食い込んでいる。溶断しているのだ。

 

「くっ!大切な人だと!!お前の場合は親だろうがぁぁっ!!」

 

 すぐさまウタゲはヒートナタを手放して横に回避、両手にリボルバーを持ち、撃ち落とそうとするが間に合わない。サラマンダーはウタゲを突き刺そうと突っ込んでくる。

 

「親が大切で何が悪いって言うんだぁぁっ!!!」

 

 やられる!そう判断するツボミ、……次の瞬間だった。誰かがウタゲを横に突き飛ばした。

 

「っ!?」

 

「モ!モエ!」

 

 突き飛ばしたのはクシャトリヤだった。クシャトリヤはコクピットに深々とビームサーベルを食らい、誰が見ても致命傷だった。

 

「……ツボミ……そんなに怒っちゃ……怖いよ……」

 

 そう言ってモエは左後方のバインダーを開いてウタゲに武器を射出する。ギラ・ズール用のビームトマホークだ。直後クシャトリヤは爆散。爆炎の中をサラマンダーがウタゲに向き直る。

 

「ごめん……!ごめん!モエ!」 

 

 

 そしてヒロ達の方も決着がつきつつあった。こちらも高機動な機体同士、黒煙の空でぶつかり合っていた。そんな中での地表の大爆発、クシャトリヤの爆発だ。それはナエ達も理解できた。

 

「やられたの?!モエが!ツボミの方は?!」

 

「他人の心配をしてる余裕はないぞ?!」

 

「!」

 

 ヒロのノヴァがビームサーベルで斬りかかる。とっさにナエもビームトマホークでビームサーベルを受け止める。

 

「くっ!でもまだ負けるもんですか!!お姉さまの!皆の為に!」

 

「……残念だったな。君はもう終わりだ!」

 

「なんですってぇ?!……あっ!」

 

 次の瞬間、ヒロの言葉が理解出来た。アイスバーグの左腕、肘から下に亀裂が入り、そして握ったビームトマホークを残し砕け散った。ナエには心当たりがあった。ツチヤのアッシマーの最後のパンチを受けた部位だった。

 

「そこに攻撃を加えた覚えはない。ツチヤさんがやったんだろうな!」

 

 そのままノヴァはアイスバーグを一刀両断、これによりアイスバーグも撃墜となった。

 

 

 そんな事は露知らず、こちらも最後の決着となる。サラマンダーがビームサーベルを、ウタゲがビームトマホークを構えて相対する。モエが身を挺して庇ってくれた為、ツボミは冷静になれた。

 

「一撃……コクピットに一撃加えれば勝てる!」

 

 そして二機とも同じタイミングで突っ込む。お互いこれで決めるつもりだ。だが近接武器の射程はサラマンダーの方が長い、サラマンダーはビームサーベルの射程に入るや否や、ウタゲめがけて左に振るう。

 

「きたっ!」

 

 が、ウタゲは身をかがめてこれを回避。一気に懐に突っ込む。最初からツボミは回避に専念、隙を見せたらトマホークをコクピットに打ち込むつもりだった。振り上げるビームトマホーク。これで終わり、ツボミは勝利を確信する。

 

「これで!!チェックメイト!!」

 

「かかった……」

 

 反面冷静なソウイチの声、直後、ウタゲの右側面から強い衝撃が襲った。

 

「っ!?!」

 

 そのまま左の方向に吹っ飛ばされるウタゲ、ただの打撃ではない。衝撃を受けた部分はビームによる溶解も受けていた。そしてそれは十分致命傷になっていた。「何が起こったの」そう思いサラマンダーを見てツボミは驚いた。

 サラマンダーは背中を見せていた。そして尻尾の部分が先端のブースターを切り離し、チャムラム状のビームが尻尾にについていた。『ビームラリアット』尻尾に利用したタイタスが元々持っていた武器だ。ビームサーベルを振るった勢いで一回転し、勢いでビームラリアットをぶつけたわけだ。

 

「裏をかかれたのは、私の方だったのか……」

 

「タイタスの腕を使った尻尾だからね。パワーのあるパーツだから攻撃にも使える様にしたってわけだよ」

 

「ナエ……モエ……ごめんなさい……お姉さま……サk」

 

 言い終わる前にウタゲは爆散。これで準決勝はアイ達の勝利となった。

 

……

 

「やったね皆!これでAブロック決勝進出だわ!」

 

 バトルが終わるや否や、ナナ達が駆け寄ってくる。

 

「今回はまた凄い相手だったね~」

 

「よくウチらの雪辱、晴らしてくれたよ……うぅ」

 

 感極まってユキの目に涙が浮かぶ。

 

「母さん……、やったよ」

 

「ソウイチ、格好よかったよあんた」

 

「それにしてもアサダ、随分と思い切った事したじゃん。皆の前で『親が大切で何が悪い』って大声で決めてさぁ」

 

 その瞬間、ソウイチの顔が一瞬で青ざめる。

 

「……もしかして……聞かれてました?」

 

「もうばっちり」とその場にいた全員がうなづいた。と、同時にソウイチの顔が真っ赤になる。

 

「……終わりだぁぁっっ!!!もうお婿にいけないぃぃっっ!!!」

 

「まぁまぁソウイチ君、人としてはおかしくもなんともない事だから」

 

「そうだよ。僕の身内なんか恥ずかしい技名大声で言ってあっけらかんとしてる奴までいるんだから」

 

「ていうかいつも大声でバトル中叫んでたり身の上話してたりするのに今更恥ずかしがるわけ?」

 

 アイ達がソウイチをなだめる中、パイロットスーツの少女がこちらに歩いてきた。泣きぼくろと首から下げた『骸骨から這い出る蛇』の形をしたネックレスが目を引く。アイ達にとっては知ってる顔だった。

 

「お取込みみたいですけど。おめでとうございます」

 

「あなたは……確かヌマヅ・ナエさん」

 

「覚えてくれていたんですね。私達のリーダーが不快になる様な事を言ってしまって、すいませんでした」

 

「……当の本人はいないんスか」

 

 ソウイチは納得いかなそうだ。言った本人がいないなんて、と表情に出てた。

 

「ちょっとツボミの方は気持ちを落ち着けてる途中なので。とりあえず『戦ってくれてありがとう』と言わせて下さい。それじゃ」

 

 そのままナエはその場を後にする。

 

「正直……最後まで嫌な感じって印象だよ……」とムツミ、どうも釈然としないといった顔だ。

 

「まぁいいじゃない~。だんまりでいなくなるよりずっといいよ~」

 

「でもソウイチ、なんかあのリーダーの娘、昔のお前になんか似てたな」

 

「はぁ?!何言ってんスか!あんな奴のどこが!!」

 

「あぁ、確かに私との初戦の時っぽかった(第9話参照)」

 

「嘘だあっっ!!」

 

 

……

 

――「なんでまた浮気なんかしたの!!」

 

「最初はそんな気はなかったんだ!!ただ同僚の娘が仕事で失敗して寂しそうだったから!仕方がなかったんだ!」

 

「自分から手を出しておいてなんなのその言いぐさ!!」

 

「困ってる人を助けてあげただけだよ!」

 

「なんで開き直ってるのよ!!ツボミの怪我だってそれで目を離すから!!」

 

 夜、電気の消した畳張りの和室。ふすま一枚越しの隣の部屋から両親の怒鳴り声が聞こえる。暗闇の部屋では敷布団の中で右目に包帯を巻いた少女が横になっていた。

 時刻は夜11時、子供なら眠ってる時間だが眠れるはずがない。自分が事故を起こした時から毎日が両親の喧嘩だ。一番頼るべき二人の仲たがいに少女は怖いという気持ちで一杯だった。布団に潜り込んで両耳を塞ぐ。

涙の止まらない目をギュッと閉じ、「早く終わって、早く終わって」と必死に祈りながら……。――

 

「……ツボミ……ツボミ……」

 

「……ぁ」

 

 ハッとツボミは気が付く。場所は女子トイレの洗面台。バトルが終わった後彼女はここへ直行していた。そして横にいたのはモエだ。後を追ってきたのだろう。

「大丈夫?」と小さな声でツボミに声をかける。言葉の量的にそっけなさそうだが、ツボミは彼女が強く心配してくれてるのがわかった。

 

「あぁ、ちょっとメイク崩れちゃったから落としに来たの。今落とすから」

 

 目元の辺りが黒くにじんでる、だいぶ泣いたのだろう。

 

「無理しないでね……」そんなモエの言葉を受けながら、ツボミはメイクを落そうと右目の眼帯を外した……。下には痛々しい火傷の跡があった。ジッと鏡に映った火傷を見る。それに伴いアイとソウイチの言葉がフラッシュバックする。

 

――人の親を馬鹿にする三流ビルダーだったとはね!――

 

――親が大切で何が悪いって言うんだぁぁっ!!!――

 

「……何が親だ」

 

 呟きながらツボミは一層けわしい表情となる。そしてアイやソウイチ達に再選を誓うのだった。

 

――このままじゃすまさない……。許さない……。許さない。許さない!見てろ!女王!クソガキ!お姉さまにあやかった服と!親衛隊の名に懸けて!!――

 

 

「エデンが負けたって?!」

 

 ヒロがもう一つのAブロック準決勝の結果に驚愕の声を上げる。

 

「相手はライオンハートか!」

 

 続くツチヤ、そんなアイ達にある人物が話しかける。

 

「その通りだよ!ヤタテ・アイさん!」

 

 少年の声だ。そしてその声にアイは聞き覚えがあった。

 

「あれ?ケン君じゃない。久しぶり、どうしたの?」

 

 第34・35話でアイに違法ビルダーから助けられた10歳の少年。エビス・ケンである。

 

「知らないの?彼は俺達のチームメイトなんだよ」

 

 続けて二人の男が現れた。天然パーマの寡黙な男、そして眼鏡の明るそうな少年。

 

「えっと、どちらさん?」

 

「ハジメさん、サイトウ・ジロウ。そしてクラタ・シンパチ……」

 

「……もしかして、この人達が」

 

「そ、予想通り、ケン君含めた僕達三人がチーム『ライオンハート』だよん」

 

「そして、ヤタテさんが引っ越して来る前の俺達の元メンバーだ」




……しまった。後編は挿絵がない。

これにて後編完となります。ギラ・ズール達は「いわゆる女性的な装飾で男性的にも格好良く見える機体」がコンセプトとなっております。タトゥーシールをPC店で売ってるインクジェッタ専用転写シール(透明)使ってはがき大で印刷して貼るという面倒極まりない作業やってました。三か月かかった理由がこれです。でも満足w
ていうかキャラデザでもこんなに難航したの初めてですw

番外編とアイ周りは百合だけど本編は真面目にやる予定です。次回はツチヤ中心で、ではまた

NEXTガンプラ

【挿絵表示】

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