戦艦の残骸や小惑星がまばらに浮かぶ宙域、コンペイトウ、核攻撃の跡が生々しく残る宙域で二機のガンプラが激突していた。
一機はアイのパーフェクトユニコーン、そしてもう一機はマスラオの改造機、ミブウルフだ。手には実体剣が二刀流で握られていた。
「トランザム!!」
ミブウルフに乗ったコンドウの声が響く、同時にマルーンで塗装されたミブウルフのボディが真っ赤に輝く。
トランザムによるブーストで一気にパーフェクトユニコーンに斬りかかった。
アイも負けじとビームマグナムを離し両手に二本のビームサーベルを持ち、迎え撃つ。
「はぁぁっ!!」
「くぅっ!!」
ミブウルフは高速でユニコーンの周りを飛び、接近する度に刀を撃ちつける、それを必死に受け止めるユニコーン。
一見ミブウルフが押してる様に見えるがユニコーンはきちんと対処できていた。
「やるな!もう素でトランザムの反応速度についてこれるとは!!」
「サイコフレームの反応速度!舐めないでくださいよ!」
「俺にはむしろお前のレベルだと思うがなっ!!」
刀を捨てるミブウルフ。直後腰のバスターソードを取りだしユニコーンに勢いよく振り下ろした。
「!?クゥッ!」
ユニコーンに乗ったアイは両手のビームサーベルを交差させ受け止めた。
「止めたか!だが前の時は四本だが今回は二本!こんな物では止まらんぞ!」
直後、バスターソードのブースターが点火、パワーの増したバスターソードがユニコーンを押し出そうとする。
「くっ…こんのっ!!」
パワーに耐えるユニコーンの両腕、及びアイのGポッドが振動で揺れる。アイは対抗すべく背部のブースターを最大出力で吹かす。
大推力によりユニコーンの増したパワーはバスターソードを押し返す。
「でぇぇいっ!!!」
力いっぱい両手を広げバスターソードをミブウルフごと弾いた。
「ほう!また改良を加えたか!!パワーが増してるぞ!」
緑に輝くユニコーンと赤く輝くミブウルフ、お互いが勝敗をつけようと突撃する。
「はぁぁっっ!!!」
ミブウルフは剣を前に突出し勢いよく突撃。アイは両腕のビームトンファーを構え突っ込む。そのまま二機はすれ違うと同時にお互いの獲物をぶつけ合う。
そして背合せになる二機
「どっちが勝った?!」
ギャラリーのソウイチがコンドウが勝ってほしいと祈りつつ声を上げる。
ほぼ重なった二機はここからではどっちが勝ったか見えない。
「コンドウさん…」
ツチヤがモニターを見つめ呟いた。
「…やるな!!」
コンドウは満足したかの様な声を上げるとミブウルフはバスターソードを握っていた両手首、そしてその後ろの胴体部が真っ二つになる。
コンドウの方は胴体を切り裂かれていたのだ。そしてそのままミブウルフは爆散、このバトルはアイの勝利で幕を閉じた。
「いやはや、半年前からは想像できんな」
ヘルメットを外し、顔の汗を拭きながらコンドウは言った。
「そんな、サイコフレームの力でトランザムにどうにかついてこれただけですよ。パーフェクトユニコーンはコンドウさんに手伝ってもらったんですし」
アイもまたヘルメットを外し両手に持ったタオルで汗を拭う。
「使いこなしてるって事だろう?」
「そうだよアイ、前まで苦戦していたオッサンを一人で倒しちゃうんだから。」
「こうして二人のタイマンを見るのは初めてだけどやっぱりレベルが高いよ!」
ギャラリーのナナに続き、ヒロが興奮した様に言う。他にまわりにいるのはツチヤとソウイチだ。
この日、突如コンドウが対戦して欲しいとアイに言って来たのだ。先日アイがコンドウに勝って以降、アイは負け無しだ。
アイの実力は操縦、ガンプラ製作、共に飛躍的に技術が上がっていた。
「色々なビルダーから挑戦を受けて、それをステップにするとはねぇ、大したもんだよホント」
ツチヤも感心したように言う。
「…そうッスね」
反面ソウイチは面白くなさそうに答えた。リーダーのコンドウが負けたことが悔しいんだろうか。
「とにかくこれで、安心してってわけでもないが…胸のつかえが取れた。これでこの街を離れられるよ」
穏やかな表情で言うコンドウ、最後の「この街を離れる」という言葉にアイもナナも食いついた。
「え?どういう事ですか?」
「あ~まだ言ってなかったな。実は俺…、仕事の都合でこの街を離れなければいけなくなったんだ」
『え、えぇぇ!!!』
聞いてない!と驚くアイとナナ
「ちょ!オッサン!アタシ聞いてない!!」
「いや、まぁ言ってないし…。つい最近急遽上司に言われた事なんだよ。だから引っ越す前にヤタテと思う存分にバトルをしておきたかったわけさ」
「じゃあツチヤさんが次のリーダーですか?」
「らしいね、あんま責任ある立場は御免なんだけど」
「ちょ!ちょっと待ってよ?!じゃあ選手権はどうすんのよ!」
ナナの脳裏に不安がよぎる。選手権では原則三体チームになる為、最低ビルダーが三人必要になるからだ。
「それなら心配いらないさ二人とも、まだ時間はあるからもう一人位はどうにでもなるよ」
ツチヤが心配いらないとばかりに言う。
「何か力になれる事ないですかね?」
「あ…だったらヤタテさん!俺たちのチームに入って下さい!」
突然黙っていたソウイチが叫んだ。
「え?」
ガシッとソウイチがアイの肩を掴む。いつになく大胆な行動を取るソウイチに戸惑うアイ、アイの反応も気にせずソウイチはまくし立てる。
「ヤタテさんだったらコンドウさんが抜けた穴もカバー出来るッス!アンタだって俺たちの実力は知ってるでしょう?!きっと役に…」
「ソウイチ!!」
「あ…」
コンドウが止めようと叫ぶ。ソウイチはハッとしてアイの肩から手を離した。
「すまないな。気持ちだけでも嬉しいよ。ありがとう」
「オッサン、いつ頃この街出るの?」
「ああ、来週の日曜日だ。11時の電車に乗るから見送りに来てほしいな」
「そっか、…なんか寂しくなるね…」
「残念です。僕もアイちゃんのチームにも入ったからコンドウさんの戦い方を学びたかったのに…」
「そんな大層な物じゃないよハガネ君。皆俺に決して見劣りするもんじゃないさ」
「そんな…」
「見送りには…絶対行きますね…」
アイ、ナナ、ヒロの三人は突然の事に驚きながらも近いコンドウとの別れを受け入れた。
そしてその帰り、帰路についた三人は横一列に並びながら商店街を歩いていた。
いつものアイとナナの二人に加え、駅まではヒロも同じ道なので一緒だ。
「しかしびっくりしたよね。コンドウさんがこの街離れるなんて…」
「そうね、同じチームでもないのにいつも一緒にいるのが当たり前に感じてたから…オッサンいなくなるって思ってもまだピンと来ないわ」
「でも僕達はいいとしてあの二人はもっと辛い想いなのかもね…」
「そう…ですね」
ヒロはソウイチがアイに掴みかかった時の事を思い出す。一緒にいる期間の浅いヒロもソウイチがあんな行動を起こす人間じゃないのは承知している。
そのソウイチがあんな行動を取るという事はそれだけショックが大きいんだろうと考えた。アイとナナも同様の事を考えていた。
「アイさ、アサダに掴まれた時、オッサンが止めなかったらどう答えるつもりだったの?」
「…わかんない。あんな風に言ってくるとは思わなかったし、でもナナちゃん達とチーム組んだ以上簡単についていけないよ」
「チーム組む前だったらまた違ってたかもね」とナナ
「どうなるんだろうか、ウルフは…」
そして一週間後、コンドウの言っていた日曜日がやってきた。
アイとナナはお互いに合流、商店街に向かいそこを通り、駅へと向かう。梅雨明けの気温は容赦なく二人を照りつける。
「うー暑…まだ十時だってのになんなのよ今年の気温…」
「猛暑とか前にテレビでやってた気がするけど…想像もつかないよ」
「アテになんないわよそんな情報。去年だってうん十年だか百年に一度の暑さとか言ってなかったっけ?つかここんとこ毎年こんなもんでしょ?
大体大昔なんて確認しようもないじゃん」
なんか考えるのも面倒になってきた…
と二人が汗を拭いながら足を駅へと向かわせる。その時だった。アイのカバンから音楽が鳴り響いた。
「あれ?アイ、スマホなってるけど」
「?こんな時に誰だろう」
アイはディスプレイの相手を見る。相手はソウイチだ。アイはウルフのメンバーのアドレスは全員スマホに登録していた。
「ソウイチ君だ。はいもしもし?」
『ヤタテさんスか?俺です』
アイが出るとソウイチが何か決意したように話してきた。
「ソウイチ君?どうしたの?」
『コンドウさんを見送る前にどうしても相談したい事があるんス。至急ガリア大陸に来てください』
「今から?でも時間…」
『お願いします。待ってますから』
そういうとソウイチは一方的に電話を切った。その態度をアイは不審に思った。
「切れちゃった、なんだろう。ソウイチ君いつもと様子が違うような…」
「アサダの奴なんだって?」
「ガリア大陸に今すぐ来てだって」
そして二人はガリア大陸にやってきた。商店街が通り道になっている為余計な時間はかからない。
「ふぅ、クーラーが気持ちいいわね」
「のんびりしてる暇ないよナナちゃん。ソウイチ君は…」
「俺ならここにいます」
ソウイチが目の前に出てきた。それもパイロットスーツを身につけて。いつにも増して神妙な表情だ。
「ソウイチ君?なんでパイロットスーツを?」
「待ってました。ひとつ、どうしても頼みたい事があるんス」
そう言うとソウイチはアイを指さす。
「今ここでガンプラバトルで俺と戦ってください!」
「え?!」
「ちょっと!何考えてんのよアサダ!今アタシ達もアンタもオッサン見送りにいかなきゃいけない状況でしょ!?」
「解った上でいってるんス!」
「大体なんで今なのよ!見送った後ならいくらでもバトル出来るじゃん!」
「今じゃなきゃダメなんス!応じてくれないなら俺は見送りにいきません!!」
「だったらせめてコンドウさんに連絡を…」
「駄目だ!」
ソウイチの目は本気だった。何かを成し遂げようとする男の顔だ。
「いいよ。受けてあげる」
「アイ?」
「長い付き合いのソウイチ君がいなきゃコンドウさん寂しがるよ。早く終わらせて行こう」
「ありがとうございます…。全力で来てください」
恭しく、しかし真剣な顔で頭を下げるソウイチ
そして更衣室でパイロットスーツに着替えるアイ、着替え終わり個室から出てきたアイをナナがジト目で見ている。
アイがバトルに応じたのが納得できない様だ。
「なんでバトル受けたのよ」
「解ってるよ。たださ、いつもとソウイチ君違ってた。なんか初めて会った時と同じになってた感じがして…」
「?まぁ確かにあの刺々しい感じはしてたけど…」
ナナはソウイチと最初あった時を思い出す。今でこそ心を開いてくれたのか、気兼ねなく話が出来る仲だが
最初は強い警戒心を発していた。今日のソウイチはその時と同じ雰囲気だった。
「なんか無理に連れ出すよりバトルで勝手納得させた方がいいって思ったんだよ」
「そういう事、でもやるんだったらサクッとお願いね」
なし崩しでバトルが始まった。今回のバトルはトリントン基地(夜間)、
滑走路や倉庫を含めれば結構な広さだが、周りのオーストラリアの荒野から見ればポツンとたたずむ程度の大きさかもしれない。
ジオン残党の攻撃を受けたガンダム0083の始まりの場所だ。
「歩いて出撃ってのは慣れないな…」
周囲を警戒しながらアイのパーフェクトユニコーンがライトのついた格納庫から出てくる。
今回はカタパルトからの出撃はない。元ネタの本編ではこの出撃タイミングでやられた登場人物がいる為に油断できない。
攻撃を受けた基地というだけあって辺り一面は火の海、司令部のある管制塔は長距離攻撃攻撃により爆発、と周りは廃墟一歩手前な状況だった。
「きましたね?」
「ソウイチ君!?」
ソウイチの声がすると同時にビームが飛んできた。アイはすぐさまバーニアを吹かし横に回避。ビームは格納庫に当たり爆発する。
アイはすぐ横の爆発を見ないまま前方を確認、月をバックに目立つ赤い機体が見える。
「そこか!」
アイはユニコーンの背部のビームキャノンを向けすぐさま撃つ。
「おっと!!」
ビームをかわす赤い機体、大型の肩部に細長い腕、そして夜の闇によく映える赤いカラーリング。
なにより聞こえたソウイチの声、あの機体だとアイは確信する。
「バイアランカスタム!それがあなたの機体?!」
バイアランカスタム、登場作品は『機動戦士ガンダムUC』Zガンダムで登場した自力飛行の出来る試作機、バイアランを改良した機体で
異様に伸びた両腕部のクローが特徴的だ。自力飛行が出来るだけあってかなり背中のバーニア類は大きい、
ちなみにカスタムの前は目はモノアイだったがカスタム後ではゴーグル目である。
「そうッス!俺の新作!この『バイアラン・スパイダー』であんたに勝ってみせる!!」
両肩には本来バーニアがついていたが外され、代わりにシグーディープアームズのビームキャノン、更にその先にはGNソード2が装着されていた。
攻撃力を出来る限り上げる為だろう。すぐさまソウイチはバイアランの両肩、ビームキャノンをユニコーン目掛けて撃つ。
「チッ!」
アイはすかさず前のめりの体勢でバーニアを吹かす。ユニコーンのすぐ後ろをビームが通過した。そのまま右手のビームマグナムをバイアランへ向け放とうとする。
「来るか!」
だがソウイチは来るのが解ってたらしい。ソウイチはバイアランを真っ直ぐ突っ込ませ、いきなりライダーキックの体勢をとる。
「格闘戦!?」
「甘いぜ!」
アイが不審に思った直後、バイアランの足の裏から大型のビームサーベルが発生。バイアランの足の裏にアストレイのビームサーベルを仕込んであったのだ。
「何!?」
目の前に迫るビームの刃、驚きつつもとっさに横に回避するアイ、自分のいた場所をバイアランが突っ込む。
ユニコーンは丁度バイアランの側面にいる。今ならやれるとアイはユニコーン左肩アーマーのビームトンファーを発生、バイアランに斬りかかる。
「チッ!」
ソウイチは舌打ちをすると拳のない右腕からビームサーベルを発生させる。
アイはすかさず対応、ユニコーンのビームトンファーとビームがぶつかり合いスパークが起きる。
バイアランスパイダーはそのままの体勢で左腕をユニコーンに向ける。拳がない代わりに手の先についたメガ粒子砲がユニコーンに乗ったアイの目に映った。
―撃たれる!―
そうアイは判断すると右手に持ったビームマグナムの柄でバイアランの左腕を上に払いのける。左腕は払われた直後にメガ粒子砲が放たれた。
「読まれてたか!」
今度はアイがバイアランを撃ち抜こうとビームマグナムを向ける。ソウイチはすかさずバイアランの右手の横に取り付けられたクローを展開、
ガキャッ!と音を立ててビームマグナムをクローが掴む。
「しまった!!」
グシャッとビームマグナムを潰すクロー、アイはすかさずユニコーンをバックステップで下がらせる。
ソウイチが以前より強くなってる。アイはそう感じた。実力の向上なのだろうがそれだけではない何かを感じていた。
「下がらせてたまるか!!」
バイアランが両肩のビームをを撃ちながら再び突っ込んでくる。滑走路の上をアイは後退し、かわしながらミサイルを撃つ。
かまわず突っ込んでくるソウイチ、だが真っ直ぐだ。アイは背部のビームキャノンで狙い撃つ。
「甘いよっ!」
ユニコーンから放たれた巨大なビームがバイアラン目掛けて突っ込む。
「クソッ!」
ソウイチが気付いた直後、バイアランの場所をビームが襲い爆発。爆発が納まると大きなその場所にはクレーターがあいていた。
「やったの?…っ!」
違和感を感じ、突如上を向くアイ、上空からバイアランが両肩のGNソードと両腕のビームサーベル。そして足からもビームサーベルが発生、
計六本の剣を持ち襲ってきた。その姿は正に蜘蛛と言った姿だった。
「あれ位で終わるかよ!!」
「数を出してきて!ならば!」
アイはユニコーンの両腕のシールドを捨てる。持ったままでは両手のビームトンファーが干渉して使えないからだ。
アーマーのビームサーベルだけでは細かいサーベルの動きが出来ない。相手が六本ももってるとなると尚更だ。
両肩のビームサーベルと両腕のビームトンファー、ユニコーンも四本のビームサーベルでバイアランを迎え撃った。
お互いの剣が全てぶつかり合うが鍔迫り合いにはならない。ソウイチが連続で斬りかかり、アイはそれを捌きながらぶつかっては離れの連続だった。
相手、バイアランの方がサーベルの数が多い為、密着を続けるのは危険だとアイは判断した為だ。
―何!今日のソウイチ君はいつもと違う!?―
ソウイチの勢いは今までの比じゃない。敗北を恐れていない。しかしヤケになってるわけでもない勢いだった。
「なんか鬼気迫るわね、アイツ…」
観戦していたナナもソウイチの気迫を感じていた。と、ちょうどその時だった。
「なんだ?どうして今のタイミングであの二人が戦ってるんだ?」
「こんな時にガンプラバトル?」
聞き慣れた声がふたつした。
「あ、ツチヤさんとハガネさん」
呼んだわけではないがアイが遅れるかもしれないと、それぞれに連絡はしていた。場所は教えていたので気になったツチヤとヒロがこちらに来たわけだ。
「どういう事なんだ。ハジメさん」
「アサダがどうしてもバトルしてほしいって聞かなかったのよ」
「ソウイチ君が?なんだってまた…」
「それは解らないけど、少なくともアイツ本気よ」
ナナ達が何故…と疑問に思う間もバトルは進んでいた。斬り合いは続き、一度お互いは離れ火の海の中で向かい合っていた。
「…何故俺がこんな時間に試合を申し込んだか知りたいスか?」
「え?」
ソウイチ問いかけた直後、再びバイアランが六本のサーベルを持ち突っ込んでくる。
「今から二年前の事ッス、この近辺に実力ある二人のガンプラビルダーがいた…!」
「コンドウさんとツチヤさん?!」
六本のビームサーベルを、体を縦横に回す要領で斬りかかってくるバイアラン。
器用にビームトンファーでサーベルを捌きながらアイは答える。
「そう!あの二人は優れた腕を持っていた!そして徐々に実力あるビルダーとして知名度を上げていった!そんな時!あの二人に憧れるビルダーが現れた!」
「それがソウイチ君!?」
「そうっス!俺はあの二人の強さに憧れた!身近な分俺にとってはすごいガンプラマイスターより格好よく思えた!
俺が仲間に入りたいと言ったらあの二人は快く承諾してくれたんだ!でも中にはそれが気に入らない人間だっている!」
―ツチヤさんが前に言っていた話!?―
ソウイチの叫びに怒りが混じって聞こえた。
アイはソウイチがウルフに入ったばかりの頃、実力が分不相応だという理由でいじめを受けていたというツチヤの話を思い出す。
「そうさ!実力が合ってない!アサダだけに底が浅いって!結局他人は結果でしか人を認めようとしない!だから俺は楽しむ事を捨てて勝利にだけ集中した!
それなのにアンタは!あんなに強いのにあんなに楽しそうで!コンドウさんでさえ勝てなかったマスミさんにまで勝って!」
ビームサーベル越しにソウイチの感情が伝わってくる。羨望とも憎悪とも違う、それだけの激しさだった。
「クッ!私は!私は無我夢中でやってただけだよ!」
「それでもアンタはコンドウさんに認められた!」
―気に入らないことに勝利だけに固執した俺の考えまで変えて!―
そう喉元で声を押し殺すソウイチ、直後、バイアランの左手のビームサーベルがユニコーンの右肩を貫く。そのままバックパックもビームサーベルが貫通し爆発が起こる。
「くっ!これ位でぇ!!」
捌ききれなかったと心で呟くアイ。だがアイもこのままやられているわけではない。
当たったと一瞬ソウイチは安心した。そこに隙が出来た。
おかえしとばかりに左腕のビームトンファーでバイアランの両足を切り落とす。
「あっ!」
「私に見とれ過ぎたね!」
「クッ!自意識過剰っス!」
足を失った事により後方に倒れそうになるバイアラン、だが尻もちをついた瞬間でなおもユニコーンを撃ってくる。
両肩のビームキャノンだ。
「失礼な!」
アイも後方に下がりつつ回避、ミサイルポッドでひき撃ちを行う。バイアランは足を失いながらも機体の推力により後方に下がりつつミサイルを迎撃。
そのまま二機は一旦離れ身構えながら再び睨みあう。
「アサダ…」
観戦していたナナ達にもソウイチの叫びは聞こえていた。
「そんなコンドウさんもこの街を離れなきゃいけない…。だから言いますよ。コンドウさんはね。『ウルフ』をアンタに任せたかったんだ!」
「え?!」
驚くアイ、その隙を逃さずソウイチのバイアランは高く飛び上がる!
「ちょっと待て!ソウイチ!」
ソウイチのヘルメットにツチヤの声が響く、「なんで知ってるんだ」と言いたそうな叫びだった。
「ツチヤさんもいるんスか、俺にだけは言わなかったみたいだけどわかるんスよ!コンドウさん解りやすいから!」
「言わなかった!?」
「そうだよ!俺だけにはコンドウさんは言わなかった!アンタを迎える事で!俺が不満を持つ事は見抜かれてた!」
バイアランの両肩、GNソードから数百メートルにも及ぶ長大なビームサーベルが発生する。ライザーソードだ。
本編ではダブルオーライザーが太陽炉のエネルギーを使っていたが、通常のエネルギーを使用するバイアランは著しくエネルギーを消耗する。
故に使えるのはこれ一回だけだ。
「確かに俺はアンタがウルフを受け継ぐのは嫌だよ!でも俺はアンタの実力は認めてるし!アンタ以上にウルフを任せられるのはいないと思ってる!!」
「!?」
「どっちつかずは嫌だ!だから全力のアンタと戦って自分を納得させたかった!俺の実力が追いついてないなら自分を極限状態に追い込むしかなかったんだ!」
「!極限って…!だからこんなギリギリの時間に!?」
「そうさ!実力が伴わないなら!!」
長大なビームサーベルがアイのいる地点目掛けて振りかぶり、振り下ろされた。
「魂でカバーするだけだぁぁっ!!!」
ユニコーンの真上、滑走路を巨大なビームが切り裂いた。その後方の基地施設もだ。その際に大爆発が起こり辺りは大爆発に包まれる。
「やったか!?」
もうバイアランのエネルギーはわずかだ。自由落下を防ぐ為のエネルギーしかない。少しして爆発がやむとユニコーンの姿は確認出来なかった。
跡形もなく倒したかかわして身を隠したか、ソウイチが思案した時…
ソウイチのGポッドから警告が鳴った。慌てて横に回避、バイアランの横を大型のビームが襲った。真下から撃たれたものだ。
「!?まさか!」
ソウイチが真下を確認する、アイのユニコーンがビームキャノンを構えこちらを狙っていたのが見えた。
「く!駄目だったのか!ライザーソードでも!!」
「ソウイチ君!君の気持ちは解ったよ!でもね!私は受け継ぐなんて一言も言ってないよ!!」
アイは叫ぶとユニコーンがバイアラン目掛けて最大出力でビームを放った。
「くっ!うぉああ!!」
エネルギーがほとんどない為バイアランは満足に動く事も出来ない。バイアランスパイダーはほぼ無抵抗のままビームに飲み込まれ爆発。
「バカな事したっスね…」
かろうじてコクピット部が残り、火だるまで落下していくバイアラン、Gポッドの中ではソウイチの頬を悔し涙が一筋伝っていた。
「ソウイチ君…」
「その自覚はあったっス。それでも…せめてコンドウさんの気持ちをアンタに伝えたかった…。自分の気持ちの整理と一緒に片付けるにはコレしかなかったんスよ…」
ソウイチがそういうと、グシャッと音を立ててバイアランが滑走路に激突。
そしてバイアランは爆散。爆発の瞬間、少年の脳裏に今までの事が走馬灯の様に浮かんできた。
―あ!あの!コンドウ・ショウゴさんっスよね!―
―?そうだけど君は?―
―アサダ・ソウイチっていいます!俺!コンドウさんと同じチームに入りたいっス!―
―チーム?いや、俺とコンドウさんはただ集まりでやってるだけでチームって大層なもんじゃ…―
―まぁそう言うなサブ。アサダ・ソウイチ君…だったな。ならどうだい?親睦を深めるってわけで俺と一緒にガンプラバトルしてみるかい?―
―はい!―
―全然歯が立ちませんでした…―
―ははは、でもいい戦いだったぞ―
―でもこんな実力じゃ俺コンドウさんと肩を並べて戦えないッス―
―実力なんて関係ないさ俺たちは同じ釜の飯を食った仲間ならぬ同じガンプラバトルで遊んだチームなんだからな―
―そうだ。まずは自分が楽しまないとな―
―あ…ありがとうございます!―
―といってもまだ表情硬いな、笑わないし―
―そっちは遠慮しときやす―
―ケッ!コンドウの腰巾着って言うからどんな実力者かと思えばこんな弱ぇえのかよ!―
―コンドウも物好きだねぇ。こんな足手まといつれてるなんてよ!―
―…―
―おいお前ら!いい加減にしろ!これ以上言ったら承知しないぞ!―
―ソウイチ、あんな奴らのいう事なんか気にするな―
―…実力さえありゃいいんだろ…実力さえあればあいつ等を黙らせられる…勝てばいい!勝てば!―
―色々あったけど、楽しかったよ、私―
―…そりゃどうも、…俺も楽しかったよ―
―?!アサダ!アンタ今楽しいって…―
―何大げさに驚いてるんスかハジメさん。…どうせ勝つんだったら『楽しい』気持ちで勝った方がいいって思えてきただけっスよ…。
『友達』の考えをないがしろにするのは申し訳ないっスから…―
―なんて言って本当はアイちゃんに感化されてきたとか~―
―な!何言ってるんスかフジさん!あくまでそういう考えもアリだって思っただけっスから!!―
「…チッ。よりによってなんで今こんな事思い出すんだ…」
ソウイチは一人Gポッドの中で呟いた。
「無茶苦茶だよ。こんな方法で戦おうなんて」
Gポッドから出てきたソウイチをアイが呆れながら言う。後ろにいるナナとツチヤも同じ心境だった。
「悪かったッスよ。これしか思いつかなかったんスから…」
眼を閉じ頭を掻きながらソウイチは答えた。自分の行動に恥ずかしさを感じているのだろう。
「ソウイチ君、君が言ってた話だけど…」
アイは口を濁して…そして…。
そして山回駅の一番線ホーム、コンドウはもうすぐ来るであろう電車を待っていた。まだ見送りのメンバーはタカコとムツミの二人しかいない
「…遅いな皆」
「今こっちにダッシュで向かってるって連絡がありました…もうすぐです…」
「でも、間に合うの~?」
タカコは呟きながら駅の時計を見る。時計の針はもう11時間際だ。
と、その時だ。
「お~い!コンドウさ~ん!!」
「!」
ツチヤの声がする。コンドウは声の方を見るとアイ、ナナ、ヒロ、ツチヤ、ソウイチの四人が走って来るのが見えた。
「ごめんなさい!遅くなっちゃって!」
「遅いよアイちゃん!」
「間に合ってよかった!」
息を切らせるアイに安堵しながらもコンドウは叫んだ。
「すいませんコンドウさん!俺がヤタテさんにウルフを継いで欲しいってワガママ言ってたんス!」
ソウイチが申し訳なさそうに、だが潔く前に出た。
「!?ソウイチ、お前…」
「知ってましたよ。でもヤタテさんにウルフを継いで欲しいってのは…たぶん俺の意志でもあったんス」
驚くコンドウにソウイチは説明する。
「それで、ソウイチ君と…ううん、皆と話し合ったんです。結果としてせっかくのお話なんですけれども…」
アイの態度が控えめだ。ダメかもしれないという予想がコンドウの脳裏によぎった。
「!駄目…か?」
「私、今までナナちゃんと一緒にやってきましたし、これからはヒロさんも加えてやっていこうと思ってました」
「だからさ…、皆で一緒にやって行こうって決めたってワケ」
アイの言葉にナナが続く。
「それって…」
「一緒のチームになろうって事だよ。コンドウさん」
ツチヤが続いた。
「正確には僕とナナちゃんもウルフに移る、って条件で移籍したんだけどね」
ヒロが付け足す。彼本人もこの案で納得しているようだ。
「お・お前ら…」
「一本取られたって顔してるなコンドウさん。こうなるとは思わなかったか?」
「あ・あぁ」
こうなるとはコンドウ自身思ってなかった。あくまでヤタテがウルフを引き継いでくれたらいいな程度にしか考えていなかったからだ。
「ちょっとオッサン、アタシら眼中にないわけ?」
「いや、そういうわけでないが…」
「あ、もしかして嫌ですか?コンドウさんナシで話進めちゃったし…」
「いや、とんでもない!凄く嬉しいよ!」
コンドウにとって過度な期待を抱いてはいけないと思ってたが故の驚きと嬉しさだった。そうこうしてる内に電車が来る。コンドウはこの電車に乗らなければならない。
「おっともう時間か、これで当分この街ともお別れだな…」
「コンドウさん…」
「そんな悲しそうな顔をしないでくれ。もう会えないってわけじゃあない。最後は笑顔で送ってくれないか。新生ウルフとして…」
それぞれ悲しそうな顔をしてる皆にコンドウは言った。
「いえ、チームの名前は変えるッスよ。コンドウさん」
「え!?ソウイチ君?!」
アイが驚きの声を上げる。ソウイチの発言にその場にいた全員がどよめいた。
「ウルフは俺達三人の思い出のチームッス。別の人が入ったならそれは俺にとってウルフじゃない」
「おいソウイチ。そりゃ失礼な言い方だろ」
ソウイチの発言にツチヤが釘を刺す。
「そうじゃないッス。これは新しい始まりみたいなもんだって俺思うんス。俺達全員の門出の合図って事でチームの名前を変えようと俺は思ったんスよ」
「そんな事言ったって唐突でしょ?」
「いや、俺はいいと思うぞ」
「ヘ?オッサン?!」
渋るナナにコンドウは了承する。ソウイチが決して軽はずみに言ってるわけではないと解ってるのだろう。
「コンドウさんがそう言うなら俺も異論は無いよ」
「僕もだ」
「ちょっとちょっと、アンタ達簡単に賛同しすぎじゃない?」
「じゃあナナちゃんは反対?」
「え?うぅん、古参のアンタ達が言うなら別にアタシも反対はしないわよ」
「それで、名前は…?」とムツミ
「もう考えてあるッスよ。俺がコンドウさんから始まりを引き継いだ。ヤタテさんはイレイ・ハルさんから始まりを引き継いだ。
ハジメさんもヤタテさんから、俺達は始まりを引き継いだ名前ッス。相続する始まり『インハーリット・ビギニング』略してチーム『I・B』(アイビー)ッス」
「I・Bか…いい名前じゃないか」
「頭文字取るなんて随分シャレた名前つけたじゃない」
「アイって私の名前入ってる?なんか自分の名前が入ってると照れるね」
「あ、完全に偶然っス」
「…そう」
とその時駅のベルが鳴った。電車の発車を意味する。
「もう行かなくちゃ…今までありがとう皆」
「コンドウさん、向うでもガンプラ作りますよね?」
「当然だ。それに、今回の選手権もまだ俺は諦めちゃいない。向うでもチームを組んで出場するつもりだ!」
電車内に乗り込んだコンドウが笑顔で答える。選手権でまた会おうと言わんばかりの笑顔だ。実際その通りの意味なのだろう。
その直後電車のドアが閉まり電車が走りだした。
「コンドウさん!俺達勝ちます!全国大会に行って見せますから!コンドウさんも勝って下さい!待ってますから!」
「コンドウさん、向こうでも達者でな!」
「オッサン!元気でね!」
「向こうでかわいい子みつけたら紹介しt…いだだだ!!ムツミ間接技やめてぇぇ!」
「コンドウさん…!アイちゃん達に比べたら薄い繋がりでしょうけど、ボク達も友達ですよ…!また!」
「さよならコンドウさん!さようなら!」
「今度会う時にはバトルの事教えてください!また!」
全員が別れの挨拶を言いながら電車を見送る。あっという間に電車は見えなくなった。
「…もう見えなくなっちゃったね。…なんか実感わかないよ…」
「そうね…、とりあえず帰ろっか」
「…先行ってて欲しいっス」
ソウイチはアイ達に背を向けたまま、電車の走って行った方向をみつめていた。
「色々思う事があるんス」
「ソウイチ…解った。先行ってる。行こう皆」
ツチヤがアイ達を連れてその場から離れた。
―おいサブ!ソウイチ!俺達はチームを組んで長いわけだが、肝心のチーム名がまだない!そこでチーム名を考えてみたぞ―
―お、唐突だなコンドウさん。まぁチーム名無いのに疑問があるのは俺もだけど―
―どんな名前なんですかい?―
―あぁ!『新撰組』はどうだろう!俺達の名前もなんだか近藤、土方、沖田とお馴染みのメンツに似てるしな!―
―いや、似てるって…俺『ヒジカタ』じゃなくて『(土屋)ツチヤ』だぞコンドウさん、『土』しか合ってない―
―俺なんて『沖』じゃなくて『浅田』っス、第一沖田みたいな才能も顔もないし…―
―そ・そうか。マッチしてると思ったんだがなぁ。じゃあ何か二人も案ないか?―
―いや、いきなりそう言われても…―
―あの、ちょっといいスか?―
―はいソウイチ君―
―新撰組って言うのは京都じゃ『壬生の狼』って呼ばれてたらしいです。狼を取って『ウルフ』ってどうスかね…?―
―…コンドウさん、今まで有難うございました!!ー
涙を腕で拭いながら、ソウイチはコンドウの乗った電車が去って行った方向に頭を下げた。