模型戦士ガンプラビルダーズI・B   作:コマネチ

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違法ビルダー、フジミヤ・レムにそのデータを渡したきっかけはリーダーであるマスミであった。指摘されショックを受けるマスミ、
騙されたと思うメンバーもせめて今は、とマスミを奮い立たせ、『デュラハン・デストロイモード』に乗り換えさせるのであった。


第31話「ビルダーの意地と誇り(後編)」(デュラハン・デストロイモード登場)

マスミの乗り換えたユニコーンガンダム2号機「バンシィ」の改造機、「デュラハン・デストロイモード」が赤く輝く、それは怒りと悲しみ、両方を表している様だった。

 

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「それ、完成したんだ。選手権に向けて作ってたそれを」

 

違法データ、マステマガンダムに乗ったレムが腹部ビームキャノンを向ける。

 

「いいよ、おいで!どんな機体で来ようとわたしのマステマの敵じゃない!」

 

「いいだろう!デュラハン!行くぞ!!」

 

そう言うとデュラハンと呼ばれた機体は背中のウイング状のパーツ、マガノクイタチを拡げ飛び立つ。

凄まじい加速でデュラハンは赤い光となってマステマに突っ込む。

その後方で、Gポッドを交換したゼデルのエクシアリペアはヒロのストライクを抱えて退避していた。

 

 

「ひゃ~凄い加速、あんな隠し玉があったなんて、アイちゃんのユニコーン並だよ~」

 

「とっておきの機体だからね。マスミにとっても集大成みたいなもんよ」

 

タカコはバンシィの動きを見てただただ驚愕するしかない。

 

「でもヨウコさん、あんな凄い機体があるんだったら何で最初っから出さなかったの?」

 

「俺もそう思う。何故エクシアリペアの方を使ってたんだ」

 

タカコの疑問にコンドウも賛同する。今回の勝負は大事な一戦だ。あえてエクシアリペアを使う理由が分からない。

 

「あの機体ね、レムのアイディアが入ってるの。レム本人はあれが完成するのを楽しみにしてたからね。

変に見せたら却って神経逆撫でしかねないと思ったみたい」

 

「それはそうとあのライフルの先のビームトマホークって…」

 

デュラハンの武装に自分と共通した武器がついてるのがツチヤには気になった。HGシナンジュのビームトマホークだ。

 

「あれねツチヤさん、あれ貴方の機体ガンダムエックス魔王見て影響受けたみたい。使うかどうかは最後まで迷ったんだけどね」

 

 

 

マスミとレムが戦ってる横でアイとリンネ…パーフェクトユニコーン(以下Pユニコーン)とネフィリムガンダムの戦いも続いていた。

アイのPユニコーンは左手足を持って行かれた状態だ。

 

「随分と活気づいて来ましたね。乗り換えるとは卑怯な人」

 

「あなたが言うんですか?」

 

「…まぁいいでしょう。ここでは余計な茶々が入るかもしれません。場所を変えましょう!」

 

そう言うとネフィリムは背中のGNアーチャーのブースターの角度を水平に変える。そして一気に遠くに見える宇宙要塞アンバットに飛ぶ。

凄まじい加速だ。

 

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「ついて来なさい!」

 

「!?早い!まてぇ!」

 

リンネは宇宙要塞アンバット内部へと消える。アイもそれを追いかけた。

追いかけるアイのPユニコーンに高速移動の振動はほとんど見られない。それだけアイのガンプラの完成度が増したという事だ。

 

 

一方のデュラハンとマステマガンダムの戦いは激しいものだ。デュラハンがマステマの周りを高速で動き回り、ライフルに取り付けたビームトマホークで何度も斬りかかる、

 

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それに対応しクローで応戦するマステマガンダム、マステマのサイズデータ改ざん(100m)を逆手に取った戦法だった。

 

「どうした!?凌ぐだけで精一杯か!?」

 

「冗談言わないでよ!」

 

デュラハンの全長の倍以上あるマステマ、100m級のこれだけの大型機で素早く動き回るデュラハン相手に凌ぐのはレムが優れたガンプラビルダーである証だ。

だが切り裂いても突き刺してもマステマガンダムはすぐに損傷個所を再生する。

 

「どんなに頑張ってもジリ貧なのは明白だよ!?こっちにはifsユニットと再生能力がある!」

 

「チッ!」

 

デュラハンが一旦距離を置きハイパー・メガ・ライフルをマステマ目掛けて撃つ。

相当な出力だ。過負荷でifsユニットを貫通できないかと考えたからだ。しかしifsユニットに弾かれる。

 

「無駄だって言ってるの分からないの!?再生するのは装甲だけじゃない!エネルギーだってそうなんだから!」

 

「クッ!」

 

マスミの脳裏に焦りがよぎる。このままではレムの言った通りジリ貧になる。と

 

 

「やっぱりifsユニットは貫けないのか…」

 

「クソッ!俺らも戦えりゃ!」

 

マスミの耳にヒロとゼデルの通信が聞こえる。二人とも共に戦いたいのだろう。だがストライクは満足に腕も動かせない状態だ。

唯一残った武装は握られた対艦刀、しかしエネルギーもわずかだ。

ゼデルのエクシアに抱えられて動けるやっと動ける状態だ。抱えたエクシアも左腕とGNソードは損失、完全な丸腰状態で二人とも戦闘に参加できる状態ではなかった。

その時、会話を聞いたマスミにある作戦が思い浮かぶ。

 

「…そうだ!これなら!ゼデル!ヒロ!」

 

『!?』

 

 

 

そしてこちらはアイとリンネ、Pユニコーンは、アンバットの通路を高速で飛びながらネフィリムを追う。

 

「一体どこまで行くの!?」

 

要塞内、所々がツタの様な機械で覆われた、異形の通路を飛びながら、アイはユニコーンのビームマグナムを撃つ。

通路の幅は広く大型のユニコーンサイズでも悠々に通れる。だがスペースがあるにも関わらずネフィリムは避けずビームを背中で受け止めた。

ビームマグナムの出力でもifsユニットは貫けないからだ。

 

「まだ移動中なのにせっかちですね、なら!」

 

ネフィリムの眼が光ると同時に、Pユニコーンとネフィリムの前方と後方にガフランが二機ずつ現れる。

後方のガフランが二機アイのPユニコーン目掛けて両手のビームマシンガンを飛びながら撃ってきた。

 

「!?マズイ!ヴェイガンの要塞だからいるのは当然なのに気付けなかった!?」

 

避けながらPユニコーンは変わらずネフィリムを追い続ける。ここで見失うわけにはいかない。

だが前方のネフィリムも目の前のネフィリムを素通りし、Pユニコーンにビームサーベルで斬りかかってくる。

 

「!邪魔しないでよ!!」

 

残った右肩アーマーからビームサーベルを出し、ビームサーベルを振り上げた体勢のガフランを二機、まとめて横一文字に切り裂く。

それで起きた爆風が通路を満たすがその中をPユニコーンが突き破った。

 

「NPCまで操ったんですか!?あなたは!」

 

「驚く必要はないでしょう?AGE本編でもゼダスがファルシアを操ったんですもの」

 

「このっ!」

 

と、その時、後方にいた残りのガフランが二機テールランチャーを撃ってくる。ランチャーはPユニコーンの右のブースターに被弾。

小爆発を再現した振動がアイのGポッドを襲う。

 

「うわっ!小細工を!」

 

「兵法と言ってくださいな。ついでにもう一つ見せておきましょうか。機体だけではないんですよ?」

 

リンネがそう言った時、ネフィリムの前方で隔壁が閉まり始める。リンネが隔壁を操作したのだ。

 

「閉じる前に通れますかね?」

 

閉まりかけの隔壁をリンネが通る。閉じてしまっては通ることが出来ない。アイも急いで通らなければならないが、後方のガフランが嫌がらせと言わんばかりにランチャーを撃ち続ける。

 

「邪魔だぁっ!」

 

アイはそう言うと損傷した背部右のブースターを切り離す。後方に飛んでいくそのブースターは、すぐ後ろを飛んでいたガフランに激突し、爆発。

爆発によりもう一機のガフランも怯み攻撃が一瞬止む、その隙をついてアイのPユニコーンは最大加速で閉じる寸前の隔壁を通り抜けた。

ユニコーンが通り過ぎた直後、隔壁は完全に閉じる。追っていたガフランは閉じた隔壁に衝突したのだろう。アイの耳に後ろからの爆発音が響いた。

 

―くっ!…ありがとうコンドウさん。あなたが完成させてくれなかったら追いつけなかった…―

 

コンドウへ感謝しながら進むアイ、程なくして開けた場所に出た。

円柱状の巨大な白い部屋で、中心部には球体(その上下は台座状の機械が連結している)形の機体がゴゥンゴゥンと音を立てていた。

ユニコーンの大きさを成人男性と例えるなら部屋は球場並の広さか。

 

「ここは…アンバット動力炉?」

 

「その通り」

 

「っ!?」

 

真上から声がし、ネフィリムが右腕のクローで襲いかかってくる。アイはPユニコーンのビームサーベルで応戦する。

激突したビームとクローを包むifsユニットのビーム膜が激しい閃光を散らす。

 

「くっ!ここなら邪魔は入らないって算段でここに逃げ込んだの!?」

 

「ええ。余計な茶々を入れられたら困りますから。折角私がレム様に提案したバトルを汚されては適いませんからね?」

 

「!やっぱり今回のバトルはあなたが仕組んだ事だったの?!」

 

「ええ。彼女は実にお得意様です。勝利に飢えていた為か私の思想も理解して下さり今では良き顧客であると共にテストプレイヤーですよ」

 

「洗脳までしてぇえええええ!!!!!」

 

ミサイルポッドを撃ち出すアイ、だがリンネのネフィリムはミサイルの間を器用に突っ切ってくる。

 

「なっ!」

 

驚愕するアイだがネフィリムを迎え撃つべくビームサーベルを振るう、しかしネフィリムの姿はそこには無い。

すぐ目の前に屈んだ体勢でネフィリムはいた。

 

「ちっ!」

 

舌打ちするアイ、ユニコーンの右足で蹴りをいれようとするもこれも空振り、

 

「後ろか!」

 

「遅いよ」

 

アイは気付くも、直後に後ろに回ったネフィリムが、ユニコーンの背中にキックを入れる。

 

「がっ!」

 

ユニコーンは床に叩きつけられうめき声を出すアイ、

そのままネフィリムはユニコーンの背中に馬乗りになろうとする。そのままクローで仕留めるつもりだ。

だがネフィリムが馬乗りになろうという瞬間、アイはPユニコーンのミサイルポッドを反転させ、後方に一斉発射、

馬乗りになろうとしたのが災いしたのだろう。回避行動をとろうとしたもののネフィリムは何発かは避けきれず被弾、

Pユニコーンが体勢を立て直すには十分な隙だった。Pユニコーンはバーニアで浮かびながらもネフィリムに相対する。

 

「私とした事が…油断しましたね」

 

「意地があるんですよ!こっちにだって!」

 

フッと笑うリンネ…だが次の瞬間、彼女の笑みはいびつに歪む。

 

「では仕方ありませんね。もう少しいたぶっておきたかったのですが…本気で相手をしてあげますよ!!」

 

<pf>

 

アイとリンネの戦いがこう着する中、アンバットの外、マスミ達とレムも激しい戦いが続いていた。

 

「…をしてくれ!」

 

「わかった!マスミ!」

 

マスミはヒロとゼデルにだけプライベート通信で作戦内容を伝える。レムには何かコソコソ話しをしていた位にしか分からない、

 

「何をコソコソと!」

 

クローを振るい、ifsユニットのビームでデュラハンを薙ぎ払おうとするマステマ、

ifsユニットのビームをかわすと右肩のランサーダートをマステマの胸へ発射する。

 

「悪いな!お前が前のままだったらちゃんと話せたかもしれないんだが!」

 

「悠長にして!」

 

マステマはランサーダートをかわすとまたもデュラハンをifsユニットで薙ぎ払おうとする。

しかしマスミはあっさりかわすとデュラハンを背後に回り込ませる。マステマガンダムの背後にデュラハンはいた。

 

「後ろ!?」

 

攻撃を防ごうとifsユニットの防御フィールドを全身に発生させるレム。

 

「甘い!」

 

バンシィの背中が前面に展開する。ゴールドフレーム天から移植したマガノイクタチだ。鋏状へと変わった翼はマステマを挟みこもうとifsユニットに激突する。

 

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「無理よ!ifsユニットは貫けない!」

 

「無理じゃない!」

 

「!?」

 

そうマスミが叫んだ直後、マガノイクタチはifsユニットを貫きマステマガンダムを挟み込んだ。直後マステマからスパークが起こる。

 

「何これ!?エネルギーが吸われてる!?」

 

レムはモニターのメーターを見てエネルギーがどんどんなくなっていくのを理解した。と、同時にフィールドが消える。

 

「あっ!フィールドが!」

 

マガノイクタチには挟み込んだ相手のエネルギーを吸収する特殊武器だ。燃費の悪いifsユニットはすぐ使えなくなってしまう。

 

「そうだ!エネルギーがなくてはifsユニットも使えまい!」

 

「フフ…甘いね」

 

「!?」

 

「さっき言った事を忘れてない?なくなったってすぐ回復するのよ?それにまともに今戦えるのはあなただけ、

他は満身創痍、ポンコツのストライクとエクシア、それにいつまでもあなたがエネルギーを吸えるわけじゃない、あなたのやった事は所詮無駄…」

 

「そのポンコツをなめんなよ!」

 

「!?」

 

レムの耳に別の声が響いた。両手で対艦刀を構えたヒロのストライクがマステマガンダムに高速で突っ込んできたのだ。それも全身を赤く輝かせながら

 

「ストライクが…赤く!?」

 

「うぁああああああああああああああ!!!!!」

 

「こ!来ないで!」

 

マステマはクローを振り回しストライクを迎撃しようとする。しかしifsユニットの補助が無い為動きは鈍重だ。

 

「う!動きが!」

 

そのままストライクはコクピットに対艦刀を突き刺す。衝撃を利用した一撃は深々とコクピットに突き刺さる。

 

「なんですって!」

 

「りゃあぁぁ!!!!」

 

突き刺したまま、ヒロは下に対艦刀を振り下ろす。防御出来ないマステマガンダムの胸から下を切り裂く。

 

「な…なんで。瀕死のストライクがあんな動きを…」

 

「ストライクだけかと思ったか?」

 

「ゼデル!?」

 

ストライクの背後からゼデルの声がした。そして後ろから現れたのは同じく半壊したエクシアリペアだ。それも赤く輝くトランザム状態。

 

「俺がトランザム状態で抱えてたのさ」

 

「そんな…でも無駄よ…まだ再生コアは…」

 

「いや、もう終わりだぁぁ!!」

 

「!?」

 

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マスミの声がすると真上から再生中のマステマを脳天からビームが飲み込む。デュラハンのハイパー・メガ・ライフルだ。

マステマのエネルギーを吸った最大出力の一撃は巨大化したマステマの胴体部を飲み込む程だった。

 

「そんな…!私は勝利への…!絶対の力を手に入れたのに…!!なんで…!」

 

レムは今の状況が理解できなかった。久々に勝つ感触を得たというのにかつての仲間には勝てない。その状況が、

 

「フジミヤさん…あなたに戻ってきてほしいから…ですよ」

 

ヒロの声がレムの耳に届いた。

 

「え…ヒロ君…」

 

レムのつぶやきと同時にマステマガンダムが爆発する。再生コアも今の一撃で破壊したらしい、

モニターに『敵機を撃墜しました』の表示が出た。安堵と同時に虚しい感情が各々の胸に残った。

 

「再生コアごと破壊できたみてぇだな」

 

「うん、だけど…レムさん…」

 

「まだバトルは終わってないよ。レムはガンプラバトルのリーダーじゃなかった」

 

そう言うとマスミは要塞アンバットに機体を向ける。

 

「マスミ、行くのかい?ヤタテさんを助けに」

 

「うん、彼女も仲間だからね」

 

そう言うとデュラハンは一条の赤い光となり、アンバットへ飛び立った。

 

 

 

「くぁっ!」

 

動力室の壁にアイのユニコーンは叩きつけられる。壁にめり込んだPユニコーンはもうボロボロの状態だ。

武装も右肩のビームサーベルしか残されてない。

対するネフィリムガンダムは無傷、再生したのか、と思われるだろうが、あれから彼女のネフィリムは一発も被弾していない。

 

「こ…これほどまでの実力があったなんて…」

 

「当然ですよ。私の操縦は天才なんですから、あなたの動きは完全に見切りました」

 

「何…?!」と自信を砕かれるアイ、リンネは己の勝利を確信していた。

 

「これで解りましたか?既存のガンプラに乗ったあなたでは私には勝てないと」

 

「まだ…まだだよ…」

 

ベコッ…とへこんだ壁からアイは、Pユニコーンは出てくる。右肩からはビームサーベルを出して。

 

「随分と理解の薄い頭です。あなたの実力では勝てないとまだ解らないのですか?」

 

「解らないよ、まだ私のガンプラ魂は消えてないもん」

 

「フッ…魂?目に見えない盲信ですね。今までどうやって勝って来たのか不思議でなりませんよ」

 

「そりゃそんなデータの固まりに乗ってればそう思えるでしょ!」

 

そう言うとアイは前方のネフィリム目掛けてPユニコーンへ突進させる。ビームサーベルをストレートパンチの様に撃ち込む気だ。

 

「馬鹿な人…」

 

リンネは真っ向から防ごうとネフィリムのifsユニットを発生させる。Pユニコーンは大きく肩アーマーを突出し…

 

 

ビームサーベルを消した。

 

「はっ?!」

 

そのままPユニコーンの右肩アーマーはifsユニットを貫通、ネフィリムのクローに大きくめり込む。

そのままアイはクローをめりこませたままビームサーベルを再発生。パーツの内側からビームが貫通しネフィリムの破壊、

さすがのifsユニットも内側からの攻撃はどうしようもない。

 

ネフィリム右腕を突き出した体勢だったためにバックパック右側までビームサーベルは貫いていた。そのままアイは発生させたビームサーベルを振り上げる。

右腕と右側バックパックごとネフィリムは裂かれた。

 

「う!嘘!?」

 

「ifsユニットはIフィールドを利用したシステム。ビームには無敵だけど実体装備には無敵じゃない!」

 

ネフィリムのダメージによりリンネに隙が出来た。

そのまま再生中のネフィリムをアイはPユニコーンで背中から押し出す。目指すは動力炉。

動力炉の大きさはユニコーンやネフィリムの比ではない。その誘爆にネフィリムを巻き込めば倒せるとアイは考えたからだ。

 

「イレイ・ハル君はね!適当にビギニングガンダムを作ったわけじゃない!自分で出来る範疇で精いっぱい作り込んだんだ!

だからビギニングは答えてくれた!想いがこもってたからシャウアーと戦えたんだ!お前みたいに表面上の性能に頼ってたんじゃない!!!」

 

揺れるGポッドの中で叫ぶアイ、心の震えが表に出てきたようでもあった。

 

「そ!それでも!彼が強いシステムを使ってたのは事実よ!」

 

「彼がそれでifsユニットを使いこなせたのも事実でしょぉぉ!!!」

 

アイの叫びにリンネの顔が歪む、敗北への恐怖の表情に

 

「や!やめて!やめてぇ!!助けて!お父さぁぁんっっ!!!!」

 

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情けない声でリンネは懇願する。しかしやはりアイは聞く耳を持たなかった。Pユニコーンはネフィリムを動力炉に強引に突っ込ませる。

すぐさまPユニコーンは退避、衝撃でひしゃげた動力炉はそのまま爆発、ネフィリムも誘爆で吹き飛んだ。

 

「わ・私だけが負けるなんて…どうせ負けるなら…引き分けにしてやるわ…アイィイイイ!!!!!」

 

炎に包まれるネフィリムの中、リンネが絶叫する、直後アンバットがグラッと揺れた。

 

「な!何が起きたの!?」

 

「馬鹿ね。動力炉を破壊したのよ。それが原因で宇宙要塞アンバットは自爆する。どうせ負けるならあなたも道連れよ…」

 

「しまった!まだ倒し切れてない!」

 

ボテッと動力炉から床に落ち、ヨロヨロと瀕死のネフィリムがユニコーンめがけて歩いてくる。左腕はなく特徴的な右腕もかろうじて形を保ってる程度だった、

ボロボロになっても迫るその姿はまるでゾンビの様だ。

 

「貴方さえいなければ…貴方さえ…」

 

「くっ!」

 

アイは残ったビームサーベルを発生させる。が、その時、ネフィリムの真横から要塞の壁を突き破り大型のビームが飛んできた。

 

「っ!?」

 

ビームに飲まれたネフィリムはそのまま吹っ飛ばされる。空いた障壁から出てきたのはマスミのデュラハンだ。助けに来たのだろう。

 

「アイちゃん!無事!?」

 

「マスミさん!」

 

「脱出する!捕まってくれ!」

 

マスミはデュラハンの手をPユニコーンに差し出す。手を掴みデュラハンの開けた穴を通り脱出しようとする二機。要塞内はすでに小規模な爆発が起こってる。

動力炉の部屋に残されたのは胸と頭だけになったネフィリムだ。再生中ではあるが今は動けない。そして要塞の爆発によってネフィリムは撃墜となるだろう。

 

「もう少しで出口だ!」

 

「間に合うの…!?」

 

『アイ…ヤタテ・アイ』

 

「?!」

 

その時だった。アイの耳に取り残されたリンネの通信が入る。アイだけ送った通信だった。

 

『覚えておきなさい…アイ…私達新世代ビルダーは…望むべくして生み出された。私達は正しい…

そして…あなたの好きなイレイ・ハルを…!嫌ってる人間はいくらでもいるという事をね!!!!!!』

 

「!」

 

そうリンネが叫んだ瞬間、要塞は爆発に包まれる。後方から爆発が迫る中、

アイとマスミは発進口からギリギリで脱出する。幾つもの爆発がM字形の要塞をつつみ。宇宙要塞アンバットは崩壊した。

同時に爆発に巻き込まれたネフィリムは撃墜扱いとなったためバトルは終了するのであった。

 

「…ぅ…」

 

リンネの言った言葉がアイの胸に突き刺さる。今のガンプラバトルは実力差の社会だという事、

それを救う為の違法ビルダーだという事、

イレイ・ハルはifsユニットに頼るだけの卑怯者だという事、

そして、ハルを嫌う人間はいくらでもいるという事…、

 

「うわあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

遠くでアンバットが爆発する中、アイは叫んだ。その胸の内は言いようのない悔しさで一杯だったから…。

 

 

 

バトルが終わった後、コンドウはアイに駆け寄る。

 

「やったな!ヤタテ!」

 

「コンドウさん…、コンドウさんがユニコーンを完成させてくれたおかげですよ。有難うございます」

 

眼を合せながらも力なく応えるアイ、一方のレムは茫然と立ち尽くしていた。

 

「マステマが…わたしの切り札が負けるとはね…」

 

「経験と、仲間がいたからこその勝利だよ。ただ勝利しか見ようとしなかったやり方ではこうなって当たり前だったんだ」

 

ヒロがレムの背後から話しかける。他にもレムの周りにはアイ、マスミ、ヨウコ、ゼデルが取り囲むように立っていた。

しかしその雰囲気は彼女を責めようと言った雰囲気はない。

 

「今からでも遅くはないよ。帰ってきてくれレム」

 

「色々あったけどアンタもやっぱりあたし達に必要だったんだよ。考え直してよ!レム」

 

「湿っぽい関係なんて御免だぜレム!」

 

「ゼデル…ヨウコ、ありがとう…皆、優しいね…でも…」

 

その時だった。急に周囲が真っ暗になる。明かりが一斉に消えたのだ。

 

「な!なに!」

 

「何も見えない!?停電スか!?」

 

「ひぃぃ!俺暗いの駄目なんだ!!」

 

「ちょっとどこ触ってんのよ!」

 

「レ!レムは!?」

 

全員がどよめく中、どこからともなくレムの声がした。

 

「今更戻れるわけないよ…!もうこうなった以上、私はこの道を進み続ける!私はもう、違法ビルダーなんだから!!」

 

その時、バシャッ!と一瞬強い光が暗闇を照らした。タカコがデジカメのフラッシュをたいたのだ。

 

「いたよ皆!!階段の所!」

 

タカコの声が響く中、何人もの男たちがタカコの指定した場所に突っ走る。

 

「もう一つ、わたし達は宣伝の為、違法ビルダーとしてガンプラ選手権に出るよ。止めたいなら大会で止めて!待ってるから!」

 

そのままレムは階段を下りて行った。追いかけた男たちが階段に着くころには消えていた明かりがついた。しかしそこにレムの姿は無かった。

直後慌てて店員のハセベが二階に駆け上がってきた。

 

「だ!大丈夫だったかい皆!店を閉める準備をしていたらいきなり電気が消えちゃって!」

 

「停電だったんでしょうか?」

 

「いや、ブレーカーだったよ。他の店はまだ電気がついてたからね」

 

コンドウの言葉にハセベは何故こうなった?と首をかしげる。

 

「誰かが落としたんでしょうかね?」

 

「多分そうだと思う。気づかないうちに忍び込まれたのかも」

 

「そんな事より女の子がいませんでした!?ウェーブがかったショートの!」

 

「挑戦状を送ってきた娘だね。すまない、あいにく見なかったよ…」

 

申し訳なさそうにうなだれるハセベ

 

「逃がしたか…」

 

その場にいた全員が沈黙する。この結果に何人もの人間が無力感や嫌なモヤモヤを感じていた。

アイの耳に未だリンネの最後の言葉が、リンネを救えなかった悔しさがのしかかる。

ずっと消えない怒りがアイの胸に灯っていた。

 

―なんなの…!この気分…!勝ったのに全然嬉しくない!!―

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

商店街の入り口で膝に手を置きながらレムは息を切らしていた。ここまで走ってきたようだ。

 

「残念な結果に終わりましたね。レム様」

 

「!?リンネ…」

 

レムが顔を上げると、雨の降り続けるアーケード街の入り口を背景に、リンネが立っていた。

 

「あなたも大概ロクな目に合わなかったと思うけど?」

 

「お見苦しい所をお見せしてしまいましたね。では例の物を…」

 

「解ってるよ。これでしょ?」

 

レムはカバンの中から透明なプラスチックのケースに入ったICチップを取り出す。

箱状ではあるもののICチップを覆う程度の大きさしかなくかなり小さかった。

それをリンネに渡した。

 

「確かに、今回の戦闘データ、及びifsユニットの実戦データは今後の開発に非常に貢献することでしょう」

 

「それでアイちゃんに復讐を、って事?」

 

「小さいことですね。私達はいずれガンプラバトルに革命を起こすのですよ」

 

そう言いながらリンネの頭の中はアイを下す事で一杯だった。レムもそれに感づいているのだろう。聞いてみる。

 

「…なんでさっきのバトル、ガリア大陸にいなかったわけ?あなたはどこにいたの?」

 

「最寄りのゲームセンターですよ?違法ビルダーを憎む人達がたくさんいる場所に私自ら赴くわけにはいかないでしょう?」

 

「じゃあもう一つ、あなた…アイちゃんに何の恨みがあるの?どうしてそこまで執念を燃やすの?」

 

「さぁ?ここら辺はプライベートな問題ですので、女の過去を探ろうなど野暮というものですわ。フフ…」

 

不気味に彼女は笑って見せた。

 

【挿絵表示】

 




あけましておめでとうございます。コマネチです。
今回で違法ビルダーの話は一区切りつきます。後はこの話のエピローグを挟み
この章は終わりです。これは明日にでも投稿しますので待っていただけたら嬉しいです。
それでは今年もよろしくお願いします。

※マステマガンダムの名前が一部アレスガンダム(試作時の名前)になっていたので訂正しました。混乱する原因を作ってしまいすいません。

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