模型戦士ガンプラビルダーズI・B   作:コマネチ

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アサダ・ソウイチ、アイのやり方を認めなかった少年は母への強情と和解を通し、アイのやり方を認め、不器用ながらも心を開いたのだった。


第26話「面接バトル」

その日、緑まばらなサバンナの大地を幾つもの巨大なロボットが飛び交っていた。無論現実ではなくガンプラバトルの話だ。

その大地にポツンと白い機体と蒼い機体がお互いを睨む様に向かい合っていた。

 

「いやいや!やるじゃねぇか!ワシのグフ相手にこうも持ちこたえるたぁ結構なもんだぜ!!AGE系の出来の良さは聞いてたがよ!それだけじゃあねぇな!!」

 

蒼い機体、『ガンダム08小隊』に登場したB3グフ(通称グフ・カスタム)から楽しそうな声が響く、

乗っているのは恰幅のいい50位の男性だ。白髪まじりの髪に口元に白い髭を生やしてる。その外見とは裏腹に眼は子供の様に輝いていた。

 

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「くっ!今までの相手とは全然違う!ガンプラだけじゃない!ビルダーの腕前も!もしかしたらコンドウさんやサツマさんよりも!?」

 

一方の白い機体、AGE2Eフェンリルに乗ったアイは不安を隠せなかった。

 

「ほいじゃま!勝負といこうぜぃ!!」

 

そう中年の男が言うと同時にヒートサーベルを構えたB3グフがフェンリル突っ込もうとする。アイもアンカーガンを構えた。

 

――なんで……――

 

同時にアイはこうなった経緯を思い出し、思わず心の中で叫んだ。

 

――なんでこうなったのぉぉっっ!!!!――

 

 

 

 

――話は数日前にさかのぼる。――

 

株式会社、モノトーン・マウス製作所、ライン製造の下請け会社だ。模型店『ガリア大陸』から5キロ程離れたこの会社が全ての始まりだった。

 

「ったくよー。このクソ忙しい時期になんだってバイト面接にワシまで駆り出されなきゃいけないワケ?お前ら人事部だけでいいじゃんよー」

 

面接室のミーティングテーブルに複数の男が座っていた。一番端の作業服姿の中年、先程B3グフに乗っていた男が隣のスーツ姿の男に愚痴る。

 

「申し訳ありません。ブスジマ・シンジ工場長。ですが規則ですので」

 

「ったくー、こっちゃ仕事してる時間に学生のバイト君の面接相手だぜ?これで作業効率遅れたって、社長はケチって無駄な残業すんなってんだろ?やってらんねーぜ全く」

 

「静かにして下さい」

 

文句を垂らすシンジと呼ばれた男、そして、ひとりのガチガチに緊張した学生が入ってきた。

 

「ヤ!ヤタテ・アイです!本日はよろしくお願いします!」

 

アイだった。緊張しながらもおじぎをし、履歴書を提出する。

 

「あーそんなに緊張しなくていいから、それじゃ2・3質問するよ」

 

「はい!」

 

「まずバイトの募集は現場志望の子を募集してたんだけどキミは現場志望かな?だとしたらどうして?」

 

製造業で女の子が現場志望、というのは珍しいと思った故の質問だった。

 

「あ!物作るの好きなんで!好きな事への集中力なら自信があります!」

 

「へー女の子なのに事務じゃなくて現場志望ねぇ」

 

――まー採用するとなるとムサい男より女の子の方がいいかねー――とシンジは思う。

 

「……およ?」

 

シンジはアイの履歴書に気になる部分があった。趣味の欄に模型と書いてあったからだ。

 

「趣味模型ってあるけんど、何作るのさ?」

 

「え?あの……ガンプラ」

 

アイはどもる。こういう場でガンプラと言うのはちょっと気がひけた為だ。

 

「わーお!ガンプラか!ワシも結構やってんのよ!」

 

「え?本当ですか!」

 

「いやマジよ?やっぱ何!?ガンプラバトルやんの?」

 

「はい!腕なら自信あります!コンテストの優勝経験もありますから!」

 

「うはーマジで!?お前さんみたいなおチビちゃんが!」

 

「ウォッホン!」

 

『あ……』

 

隣の人事部の人間がわざとらしく咳をし、止める。

 

「それじゃ、質問続けるから」

 

「はい……」

 

アイも声を落としてしおらしくなっていた。

そして数分経って面接は終わる。この辺は最初のやり取りでアイも緊張がほぐれた様でスムーズに質問に答える事が出来た。

 

「それじゃ結果通知は何日かしたら送るから」

 

「はい、今日はありがとうございました」

 

アイはそう言って部屋をおじぎをして出る。

 

「ガンプラバトルかぁ、最近やってねぇな~、話したら久々にバトルしたくなってきたじゃねぇかよ……」

 

履歴書を持ちながらブツブツ言うブスジマ・シンジ、ガンプラはやっていてもここ一年程バトルにはご無沙汰だった。

 

「ブスジマさん?」

 

「なんとかあの嬢ちゃんと勝負する方法はねぇもんか……」

 

「工場長!!」

 

「ぅお!」

 

呼びかけに応じないブスジマに人事の人間は怒鳴った。聞いてなかったブスジマは驚く、

 

「次の方の面接あるんですから今そういう考えはナシにして下さい」

 

「いや悪ぃ悪ぃ、都合の悪い話は全部聞き流しちまうタチで……ん?」

 

「では次の方~」

 

「そうだ!!ワシは工場長なんだ!この手があらぁね!!」

 

「!?」

 

大声を出すブスジマに今度は人事の人間がたじろいた。

 

 

 

数日後、アイとナナ、タカコとムツミは下校中、たわいもない話で盛り上がる四人。

 

「そういえば昨日のテレビ見た?。トップアイドルグループ『SGOC(スゴック)』の皆があんな芸人じみた動きするなんてビックリしたよ私」

 

「違う……あれはコウジ君じゃない……コウジ君じゃないよ……」

 

「はいはいムツミ、自分が納得出来ないからって拒絶しちゃ駄目よ。ま、そういうジャンルに足突っ込んでほしくはないってのはアタシも同意見かな?」

 

「そうだねナナ~、でもそういうイメージついちゃうともう抜け出せなくなるっていうし、もう手遅れなんじゃない?」

 

「タァカァコォォッ!!」

 

逃げるタカコを追いかけるムツミ、いつもの事と苦笑するアイとナナ、

 

「それはそうとさ、アイ」

 

「ん?」

 

「こないだバイトの面接行くとか言ってたじゃない?どうしたのよ結果」

 

「結果だったら来たよ?なんか一次試験通過したから二次試験やるからここでガンプラバトルしろって」

 

アイはそういうと鞄から一通の封筒をナナに渡した。封筒の中身は合格通知、なのだが二次試験をやる為、日曜日十時に模型店『ガリア大陸』に来い。とだけ記されていた。

 

「なにこれ?面接とガンプラバトル何の関係があんのよ?会社で作ってる物がガンプラ関係?」

 

「知らないよ。とにかく日曜日にならないと分からないよ」

 

「なんか怪しいわね……」

 

「うわー!冗談!冗談だよう!許してー!」

 

「ホンットいっつもいっつもいらん事言ってぇぇっ!!」

 

……

 

そして日曜日、ガリア大陸にアイは来た。試験絡みと思い、日曜日だというのにアイの服装は制服だった。アイが来ると店員のハセベが駆け寄ってくる。

 

「あ!アイちゃん遅いじゃないか!」

 

ちょっと慌てた様なハセベの挙動に不思議に感じるアイ。

 

「どうしたんですかハセベさん」

 

「今日ウチでサバイバルバトルやる予定だったんだけど君が出るって聞いてエントリーしたんだよ。もう始まる寸前だよ」

 

「え?!私出るって言ってませんよ!?」

 

「そうなの?でも出るって髭はやした50代位の人が言ってたよ。もう何日も前に」

 

「50代って……まさか……」

 

 

そしてバトルが始まった。今回のステージは『ガンダム0083』に登場した。キンバライド基地周辺だ。ダイヤモンド鉱山を改造したこの基地は

ステージの中心部を巨大な鉱山基地がそびえ立ち、その周りをサバンナの荒野が広がっていた。

サバンナのど真ん中のこの場所にある者はガリア大陸のGポッドから、

ある者はネット回線を通じて別の店から、十人以上のビルダー、十体以上のガンプラが飛び交っていた。

 

「とりあえず出ては見たけど……向こうが何もいってこないとなると……」

 

ストライダー形態のAGE2Eフェンリルに乗ったアイが不安げに呟く、今回はユニコーンは改造中な為この機体だ。

直後、アイのGポッドに警告音が流れる。下から始まって早々に『ガンダム0080』に登場した水陸両用機、ズゴックEが頭部ロケットランチャーを狙い撃ってくる。

 

「こんな乾燥地帯でズゴックだなんて!」

 

丸みを帯びた頭部から発射されるロケットランチャーを難なくかわしながら、フェンリルはズゴックE目掛けて突撃、

ある程度近づくとすぐさまモビルスーツへ変形、大地に降りると同時にドッズランサーでズゴックEを貫いた。すぐさま爆発するズゴックEから離れる。

 

 

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「まずは一機!ここのどこかに面接官の人がいるの!?っ!?」

 

すぐさま背後からいくつもの銃弾がフェンリル目掛けて飛んでくる。寸前に察知していたアイはフェンリルをステップさせ回避。

ターンをかけると、撃ってきた方向に向き直る。

 

「噂のヤタテ・アイさんかい!」

 

「あなたが面接官!?ううん!前の人とは声が違う!」

 

鉱山の上、太陽の逆光を浴びながら犯人はそびえたっていた。

撃ってきたのはHGUCのグフ・カスタムだ。機体から若い男の声が響く、グフは鉱山の上からガトリングシールドでこちらを狙っていた。

 

「アンタが出るとは予想外だがチャンスだ!アンタを倒して俺の名をガリア大陸にとどろかす!この俺のグフカスタムの餌食と……」

 

ズルッ

 

今言い終わるかという瞬間だった。グフカスタムが真ん中から真っ二つとなり爆発した。

 

「なっ!?」

 

「わりぃな。今日は嬢ちゃん大事な試験なのよ」

 

爆発したグフカスタムの背後からもう一機、グフカスタムが現れた。手にはヒートサーベルが握られておりこれで先程のグフカスタムを両断したのだろう。

 

「よく来たな嬢ちゃん!呼んだのはワシ!ブスジマ・シンジ様だぜ!」

 

「その声!?前の日に面接に出てた!?」

 

「その通り!二次試験はガンプラバトルってわけよ!今日はこの勝負で勝てば見事バイトとして雇ってやるぜぃ!」

 

「ちょっと待ってくださいよ!ガンプラバトルとなんの関係があるんですか!製造業だけどガンプラとは何の関係もない仕事ですよ!?」

 

「簡単にやられんなよ!つまんねぇから!!」

 

「いや!だから!!」

 

アイ自身、何故二次試験がガンプラバトルに繋がるのか全く分からなかった。問いかけるも聞いてる最中から鉱山から飛び降りると凄い勢いをかけてシンジのグフカスタムが走ってきた。

そのままフェンリル目掛けてヒートサーベルを振り上げるグフ

 

「まずは一手!!」

 

「人の話聞いてくださ!い!?」

 

アイが叫ぶと同時にヒートサーベルが振り下ろされる。左腕のシグルブレイドで受け止めるも、その衝撃はアイも後ずさりする程だ。

その一撃を何度も撃ちつけるグフカスタム、何度も受けるうちにシグルブレイドに亀裂が入ってきた。

 

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「ヒビが!なんて重い!?」

 

「当然だ!間接強化してあんのよ!これ位のパワーはお茶の子さいさいだぜ!」

 

「間接!?あ!」

 

見るとグフの間接はHGUCの旧ザクの物だ。それだけではない、腰を捻り、膝を大きく上げる挙動でヒートサーベルを振ってくる。

通常のHGUCのグフカスタムでは腰やパイプが干渉してしまう為出来ない動きだった。

 

「このグフカスタム!HGUCじゃない!?」

 

「ピンポーン!ご名答!こいつぁHGUCじゃない!旧キットのHGだよ!HGUCの旧ザクとミキシングして作ったのよ!」

 

「!?」

 

シンジが自慢げに話す。ブスジマの機体、HGグフカスタムは十年以上前に出たキットだ。当時は傑作といわれていたが現在主流のHGUCの物と比較するとさすがに苦しい部分もある。

HGUCの旧ザクを芯にHGグフカスタムのパーツ、胴のパイプをスプリングパイプと金属パーツを組み合わせる事によって柔軟性のある動きを可能にした機体だった。

 

「だからって大人しくやられる理由には!!」

 

相手のグフの完成度を理解しつつも、アイは右腕のドッズランサーをそのままグフに突き刺す。しかしグフはガトリングシールドで受け止めた。

ドッズランサーでも貫通できない。

 

「くっ!堅い!」

 

「それで終わっちゃあつまんねぇだろ?作ったのはHGUCのグフカスタムが出るよりだいぶ前だったんだがなぁ、

HGUCのグフカスタムにゃ負けた事はねーのさ!」

 

「云いたい事は解りますけど!」

 

そのままアイはドッズランサーのビームバルカンを乱射、危険を察知したブスジマは素早くバックステップをかける。

 

「うお!説明してる時にそりゃねぇだろ!!」

 

「時と場合を考えて下さい!」

 

「おいおい。今は楽しいバトルの時間だぜ?そんなガチガチじゃあ楽しめねぇだろうがよ?」

 

「普通のバトルだったらそりゃ楽しんでますよ。でも今は面接試験中でしょ!?」

 

「あ、忘れてた」

 

「え!?」

 

「あ!いやなんでもねぇ。ん?!」

 

その時だった。離れた二機目掛けて。数条のビームが飛んでくる。かわす二機。

 

「何!?」

 

「他の機体!?ワシらを狙って来たってか?!」

 

一体のガンプラが現れる。参加した機体の中でひときわ大きく目立つ機体だ。HGUCのサイコガンダム、大きさはアイ達の機体の倍以上だ。

 

「サイコガンダム!先に私達を倒そうって事!?」

 

「妙な茶々入れやがって!だが大歓迎だぜ!」

 

妙に嬉しそうに言うとB3グフは新手の機体達へと突っ込む。

 

「嬢ちゃん!俺が突っ込むから嬢ちゃんは援護してちょ!」

 

「ちょ!?いきなりそんな事言われても!」

 

アイの言葉に耳を貸さずブスジマはサイコガンダムへと突っ込んでいった。

 

「だから人の話聞いてって!!」

 

バーニアは使わず走るグフ目掛けてサイコガンダムは両手のビーム砲で迎え撃つ。しかしグフは簡単にそれをかわす。

 

「邪魔くせぇな!!」

 

左腕のガトリングシールドをサイコガンダムの左手に撃ち込む。そのまま左手は爆発。

予期せぬ事態と、爆発の衝撃にサイコガンダムは片膝をついた。それを見ていたアイは目を疑う。

 

「嘘!?ガトリング一発で!?」

 

「こいつぁ銃口周りの汚し!筋彫りはモチのロン!ピンバイスで銃口もちゃんと穴開けてんのさ!だから通常の物より威力は上だぜ!」

 

説明しながらもサイコガンダムに突っ込むグフ。サイコガンダムが膝をついた際に立てた側の膝に飛び乗り、

あっという間にサイコガンダムの頭頂部にグフカスタムは登りヒートサーベルをサイコガンダムの頭部へ突き刺した。

 

「お疲れさん!!」

 

そのまま離れようとするB3グフ。だがサイコガンダムは完全に沈黙してはおらず、残った手をグフカスタムに向ける。

 

「おっと!まだ動くんかい!」

 

「えっと!ブスジマさん!」

 

直後、その手にフェンリルがドッズランサーを突き刺す。同時にグフはもうサイコガンダムが動かない様コクピットのある頭部を真っ二つに切り裂いた。

すぐさま離れる二機、二人ともお互いが敵である事を忘れていた。

 

『やった!……あ!』

 

直後、敵である事を思い出したかのように離れ、撃ちあう二機、もう周囲にはこの二機しか残っていなかった。

 

「くっ!ベテランのビルダーの実力は理解してるつもりだけど……ここまで強いなんて!」

 

「当然だぜ!お前さんが生まれる前からこっちゃガンプラ作ってんのよ!経験値が違わぁな!それに!」

 

グフは右腕に収納されたヒートロッドを打ち出す。そのままヒートロッドはドッズランサーにくっ付く。

 

「!?」

 

「グフに乗ってるって事はエース!そういう事だわな!!」

 

ヒートロッドがついた瞬間『電撃が来る!』とアイは直観的に判断、ドッズランサーから手を離そうとするフェンリル。

しかし遅かった。離す直前に電撃はフェンリルを襲う。そのままグフはヒートロッドを戻すが、フェンリルが手を緩めていた為ドッズランサーもグフの方に引き寄せられた。

 

「いやいややるじゃねぇか!ワシのグフ相手にこうも持ちこたえるたぁ結構なもんだぜ!!AGE系の出来の良さは聞いてたがよ!それだけじゃあねぇな!!」

 

「くっ!今までの相手とは全然違う!ガンプラだけじゃない!ビルダーの腕前も!もしかしたらコンドウさんやサツマさんよりも!?」

 

「ほいじゃま!勝負といこうぜぃ!!」

 

グフがフェンリルに突っ込もうとする。

 

「ドッズランサーがなくったって!」

 

ほんの一瞬、冒頭の台詞を心の中で愚痴るアイもアンカーガンをグフ目掛けて打ち出した。

 

「来るかい!?」

 

ブスジマは左腕のガトリングシールドをシールドごとそのまま投げつけた。ブンブンと音を立てて回るシールドがフェンリルに向かう。

 

「そのまま投げつけた!?」

 

「剣はやれねぇがこっちをやるよ!!」

 

アンカーガンはシールドに当たるも弾かれる。シールドがフェンリル目掛けて飛んでくるも寸での所でよけるフェンリル。

シールドは轟音と土煙を上げてサバンナの地に突き刺さる。

 

「あ……危なかった……ハッ!」

 

一瞬目を離したグフに向き直るフェンリル、グフはジャンプしてヒートサーベルをふり降ろそうとしていた。

シールドが無くなったグフの左腕は奪ったドッズランサーを持っていた。

 

「避けきれない!?」

 

「こいつで!どうだぁぁっ!!」

 

アイはフェンリルのシグルブレイドを盾代わりに使おうと、右腕を頭上に、左腕を腹部に持っていく。防げるかとアイは不安だった。直後結果は分かった。

 

「そんな……」

 

「ワシの勝ちだな」

 

……フェンリルのコクピットを自分のドッズランサーで貫かれるという形で……グフ右腕のヒートサーベルは防ぐ事は出来たのだが、

亀裂の入った左腕のシグルブレイドでは防ぎきれなかったのである。

ドッズランサーを受けたシグルブレイドはガラスの様に砕けていた。バトルの結果はブスジマの勝利という形で終わった。

 

 

「負けました……これで試験に落ちたって事ですよね……」

 

「いやでも面白かったぜ。またやりてぇな」

 

「でも……負けた以上に今日は悔しいですよ……」

 

勝負に負けた事、試験に落ちた事、両方の悔しさの板挟みにアイは涙を抑える事が出来なかった。だがブスジマは意外な言葉を言った。

 

「合格だよ、嬢ちゃん」

 

「え?」

 

「悪かったな。本当はよ、二次試験なんざ嘘だったんだよ。封筒送った時からお前さんの合格は会社の方で決まっていた」

 

「な……!」

 

緊張が抜けたのかヘナヘナと床にへたり込むアイ

 

「そんなぁぁ!ひどすぎますよ!」

 

「すまねぇ、久々にガンプラバトルがやりたくなってお前さんの実力も見ておきたかった。今の現役のビルダーってのはどんな腕かなってな」

 

口調がさっきより真面目になっている。ブスジマなりにアイを騙したことを気にしているのだろう。

 

「負けちゃいましたけどね……」

 

「たった一回の負けだろうが、その若さであれだけやれりゃ十分だ!次はもっと強くなってりゃいいだろ」

 

「なんか釈然としませんけど……そうですね……負けませんから……次は負けませんからね!」

 

「おうよ!ようこそ新しいバイト君!」

 

Vサインと笑顔でブスジマは答えた。

 

「でもよく考えたら……」

 

「ん?」

 

「普通に誘ってくれればこんな嫌な思いしなくてもすんだのに!!なんでこんな事したんですか!」

 

「だから悪かったって!普通に誘うより試験ダシにすりゃ本気でやってくれると思ってたんだよ~!!」

 

「納得できませんよそんなの!!」

 

「マジ!?えーと、えーと!あっ!それに!それにだよ!最近は違法ビルダーとかいう変なビルダーもいるって話だからよ!

お前さんがそれだったら態度考えようって魂胆あったんだよ!」

突っ込まれて、慌てて話題を変えるブスジマ、アイは最後の部分が気になったようで掴みかかるのをやめた。

 

「違法ビルダー?なんですかそれ?」

 

「いや、よくは分からねェ、だが違法っつー事はよくねぇ事だってのはわかるぜ」

 

「あの……そりゃ皆そう思うでしょ……」

 

とりあえずアイの怒りは少しは和らいだようだ。

 

――つい最近聞いた噂話だったけど信じてくれてよかった。ワシ自体違法ビルダーなんて信じてないけど、ゴメンよアイちゃん――

 

と、心の中で謝罪してるのはアイは知りようがなかったが……

なんやかんやで二人は、上司と部下というよりも年の離れた友達の様に周りの人間からは見えた。

 

 

 

同時刻……とあるゲームセンターのガンプラバトルコーナー……

 

丸テーブルに向かい合う様にして、黒髪が腰まで伸びた少女がミディアムボブの女性に小さな箱を渡す。

 

「ではテストプレイヤーとして、あなたにこれを託します」

 

「えぇ……でもこれ、本当にタダでいいの?」

 

「こちらがテストプレイヤーと認定して以上、お代はいりませんよ。

代わりにバトルのデータを出来る限り取ってほしいと上からの通達です。まだまだ私達の商品は研究途中ですので」

 

「データね……分かったわ。といっても別に相手には不自由しないけどね。マスミやヒロ達もわたしを止めようとバトルに乱入してくるし」

 

「よろしければ個人的に戦ってほしい相手がいるのですが、チームエデン程ではないにせよ、戦績も良く、いいデータになるかと」

 

「誰かな?」

 

「模型店『ガリア大陸』のビルダー、ヤタテ・アイです」

 

「アイちゃん……いいよ。わたしに任せて」

 

違法ビルダー……それがガンプラバトル全体を巻き込む大きな運命のうねりとなる事をまだアイは気付いてなかった……。




登場ガンプラ
HGグフ・カスタム(改造)

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使用ビルダー『ブスジマ・シンジ』

【挿絵表示】

これにて26話終了となります。コマネチです。
今回初登場のブスジマ・シンジはイカしたオッサンキャラ、ベテランビルダーが出したくて
作ったキャラですね。この人もアイにとっていずれ乗り越えるべき壁となります。
そしてこの章ももうすぐ決戦となります。
ちょっと長編になりますが見て頂ければ幸いです。

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