模型戦士ガンプラビルダーズI・B   作:コマネチ

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前回アイは友人フジ・タカコとの協力でユニコーンガンダムを完成させるに至った。
しかしその代償としてナナとムツミの勉強会にアイとタカコは強制参加される結果となってしまった。
だが…その日の騒動はそれだけでは終わらなかった。



第16話「我ら山回高校四人娘!」(ガンダムエックス黒王号 & シャルドールスナイパーカスタム登場)

「あんな奴らに負けた俺達って一体……」

 

前回アイとのガンプラバトルで敗北したライタ達、だがアイ達の情けない姿を見てどうにも負けた事に納得がいかなかった。

それと同時に、ムツミの怒った声が大きかった為か、なにがあったと二階にギャラリーが上がってくる。

二階にかなりの人数がムツミやアイ達の周りに集まってきた。

 

「ムツミ、ちょっと声が大きすぎたみたいね」

 

「え……?そんなつもりじゃ……」

 

こんな場所でこんな大声を出せばこうもなる。苦笑いするナナにムツミは顔を真っ赤にして縮こまった。

そんな時だった。

 

「ンーフッフッフ。テスト前の土日使って勉強もせずガンプラとはね。ミヨ、君の友達はロクな奴がいないなぁ」

 

ギャラリーの中から声がした。挑発的な言い方だ。アイ達全員が声のした方を見ると、学ランを着た少年がギャラリーの中から歩いてきた。

真ん中で分けたウェーブの髪、長身で余裕の笑みを浮かべた表情からはイヤミそうな印象がある。

 

「ヒカワ君……」

 

「あ、ミゾレ君」

 

ムツミとタカコ、両名が少年を見ながら言う。面識のないアイには二人とどんな関係なのか気になった。

 

「知り合い?」

 

「うん……、ボクとタカコの中学校の時の同級生……。学校は違うけどボクとは同じ陸上部なんだよ……」

 

「解説どうも、ミヨ・ムツミの紹介した通り、ボクはチーム『ホークアイ』のヒカワ・ミゾレ、フジ・タカコとミヨ・ムツミとは長い付き合いでねぇ」

 

「特にムツミにはつっかかっててさ~。勉強や成績で争っていたんだけど全敗してたんだよ~」

 

タカコが自分の発言をねじ込む。

 

「よ!余計な事言わんでくれたまえ!!」

 

それを真っ赤な顔で遮るミゾレ。

 

「コホン、まぁ前置きはいいんだ。ヤタテさんといったね。明日の午後5時、僕と三対三のガンプラバトルしてくれないかい?」

 

「明日ですか?あいにくですけど友達との約束がありまして……」

 

さっき勉強会を毎日開こうという事になった。怒られた以上やすやすと受けるわけにはいかない。

 

「おや?逃げるのかい?」

 

「そういうわけでは……」

 

「ウルフを倒したからどんな奴かと思ったけど、所詮ミヨ・ムツミの友達という事だねぇ」

 

「……どういう意味だいヒカワ君……」

 

その発言に、眉間に皺を寄せたムツミがミゾレに詰め寄る。

 

「ンーフッフッフ。自分で言ったじゃないか。テストも近い土日にガンプラを作るようないい加減な人間だという事だよ。

ミヨがその程度の友達を連れている辺り、ミヨもたかが知れてるねぇ」

 

余裕の態度のままミゾレは言う。友達をダシにした発言にムツミは不快だったがアイはもっとカチンと来た。

 

「そういう事ならいいですよ。受けましょう!」

 

ミゾレを指さすアイ。

 

「え……?アイちゃん……!?」

 

「ただし私が勝った場合!さっきの発言は綺麗さっぱり撤回してもらいます!」

 

「ンフッ!それでこそだよ!」

 

わざわざ挑んで来るだけあって自信があるらしい。指差すアイに余裕の態度のままだ。

 

「さぁ皆、聞いたかい?明日の午後5時だよ?僕達の決闘を見たい人達は是非来るといい」

 

ミゾレはギャラリーを見回しながら言う。そして最後に視線をムツミに映す。

 

「ミヨ・ムツミ、当然君も来るんだろう?君の友達がやられる様を見にね」

 

「……アイちゃんは君には負けないよ……。ボクは信じる……」

 

「信じる……か。まだそんな事を言ってるのかい?まぁいい、明日せいぜい僕の雄姿を目に焼き付けることだね」

 

そう言いながらミゾレはその場から帰って行った。

 

――そうさ。手の届かないコウジ・マツモトならいざしらず、あんなどこの馬の骨とも知れない女より僕の方を……――

 

誰にも聞こえない程小さい呟きを遺して……

 

 

 

「アイ……気持ち分かるけど挑発に乗り過ぎだよ」

 

「解ってるよ……でもあんな言い方ないよ!」

 

ミゾレの去った後にアイに注意をするナナ、しかしアイは悔しそうなままだ。

 

「でも……有難うアイちゃん……、嬉しかったよ……」

 

穏やかな笑顔を浮かべるムツミ、「お礼を言われる程でもないよ」と照れ隠しするアイ、

アイとタカコは怒っていた筈のムツミの笑顔に安心する。

 

「でも意外だったわね。アンタがあんな人と勉強で競っていたなんてね」

 

ナナが驚きを隠さずに言う。ムツミは人に自慢するような人間ではないからだ(アイドルグループ『SGOC』のグッズは例外的に自慢するが)。

 

「勝手に比べられただけだよ……。ヒカワ君、ボクは何もしていないのに勝手にテストの点数とか順位とか比べて自爆していただけだから……」

 

嫌そうな顔で否定するムツミ、つまりミゾレの一方通行だという事になる。

 

「全然相手してなかったからねぇムツミ、ちょっとは相手してあげても良かったんじゃない?」

 

「余計なお世話だよ……」

 

「そういえばムツミちゃんも小学生時代は男子と張り合っていたんだっけ?」

 

アイは転校2日目にムツミに言われたことを思い出していた。

彼女は小学校時代、男子に対抗意識を燃やしており頻繁にスポーツで競っていた時期がある。

ミゾレと通ずる部分があるとアイは少し思った。

 

「一緒にしないで欲しいな……。ボクはあくまで男子と一緒に遊ぶのに拘ってただけだよ…。あんな風に一方的に突っかかるやり方はしてなかったよ…」

 

一層不満を顔に出してムツミは返す。

 

「でもさ、ミゾレ君がガンプラやっていたって言うのは初耳だったな~。中学校時代そういうの聞かなかったし、もしやってたんなら新聞部一生の不覚だよ~」

 

「ガンプラはここ半年で始めたってヒカワ君言ってたよ……」

 

「え?なんで知ってるのムツミ?!」

 

ムツミの発言に驚くタカコ。

 

「先週の土日、部活の合同練習があるって言ってたでしょ……?男子と女子で別れてはいたけど向こうから言ってきたんだよ……?」

 

「半年か……短い期間だけど、それであれだけの自信持つって事はかなりの実力者って事だね。気合入れていかないと」

 

「でも勉強あるんだから余り時間とっちゃ駄目だからね……?」

 

親が子供に言いつける様な言い方だ。

 

「アハハ……解ってますって……」

 

乾いた笑いでアイは返した。

 

「それはそうと、三人目どうするのよ?」

 

ナナが口を挟む。ミゾレの挑戦には三対三という条件だった。アイとナナは出るとしてもう一人がいない。

 

「それなんだよね問題は、う~ん、模型部のコウヤ君当たってみるかな?」

 

……

 

 

翌日、アイとナナ、タカコの三人は昼休みにコウヤを誘いにいった。(ムツミは陸上部の集会と今日の部活を休むという申請の為ここにはいない)だが……

 

「いや……あいにくだけどそいつは出来ない……」

 

コウヤの教室入口、左手に英単語カードの束を持ったコウヤが断る。いつもよりテンションが低い。その上目が血走ってる。

三人はその様子でどうして出られないのかすぐにピンと来た。

 

「……そっちもテスト勉強?」

 

「そうだよ……前のテストで赤点とっちまって丁度今日から補修なんだよぉぉ……」

 

よよよ……とその場に崩れるコウキ、教室の中もなんだか騒がしい。

 

『いいじゃない!コナミにノート貸してくれたって!代わりにコナミのノート貸してあげるから!』

 

『何言ってるんですか部長!三年生なのに二年生の俺達のノート見せたってどうしようもないでしょ!大体部長のノート借りたって読めませんよ!字が汚すぎるんですから!』

 

『ケチーッ!死ねーッ!』

 

『気安く人に死ねとか言うんじゃありません!!』

 

『ひぅっ!!』

 

カワサキとコナミが騒いでいた。アイとナナはこりゃ駄目だとお互いの顔を見合わせた。

 

「まぁしょうがないよね。うちの学校、連続で赤点取ると長期休み返上で補修と追試だし」

 

「げぇ……」

 

サラッと言うナナの発言にアイは顔を青ざめる。

 

「大丈夫よ。回避する為に勉強会やるんだから。よほど成績悪くないとああはならないし」

 

「ま、とにかく俺は出られないから他当たってくれ、しばらくガンプラは出来ないから……」

 

そのままフラフラとコウヤは教室に戻っていった。アイはコウヤの丸まった背中を見つめながら呟いた。

 

「あぁは……なりたくないね……」

 

「ていうかなんであの部長、カワサキの教室にいたわけ?」

 

 

 

そして自分たちのクラスに戻ったアイ達……

 

「頼みの綱も切れちゃったなぁ。どうしよう……」

 

「2対2に変えてもらうとかしかないわね。それか現地で暇な人誘うとか……」

 

「いやナナちゃん、向こうも挑戦してきてる以上。そういう適当なのはちょっと……」

 

「う~ん……」

 

「?どうしたのよタカコ」

 

タカコの唸りにナナが疑問に思う。今日はどうもタカコの様子がおかしい。いつになく真顔だった。

 

「……いや、今日になって思ったんだけど、なんか引っ掛るんだよねぇ」

 

「何がよ?」

 

「昨日のムツミが怒ったのってさ。普段だったらああいう風に怒るのってないんだよ」

 

「そうなの?でもあの時もすぐ落ち着いてたし、たまたまじゃないの?」

 

アイが昨日の状況を思い出しながら言う。あの後ムツミは大声を出した所為で周囲から注目され、恥ずかしそうに俯き、周囲の視線を受けていた。

 

「そりゃあたしだって今までにもムツミ怒らせた事あったよ?でもなんか今までと比べてオーバー気味だったっていうか……」

 

珍しく眉間に皺をよせてタカコが考える。長い付き合い故にタカコはムツミを怒らせた事が何回もある。だからこそ引っ掛る反応だった。

 

「そういうの解るんだね。タカコちゃんって」

 

「タカコってムツミと付き合い長いからね。アタシは高校からだったけど、タカコとムツミの二人は幼稚園の時からの幼なじみなのよ」

 

「え?そうだったんだ!」

 

「ミゾレ君も変だったんだよ。今まで確かにムツミにちょっかいは出してきたけど。あんな風に友達をダシに挑発する人じゃなかったのに」

 

昨日の言いたい放題のミゾレを思い出すタカコ。後になって違和感に気付いたようだ。

 

「何か裏があるのかしらね?今日のバトル」

 

「さぁね、少なくとも戦ってみれば多少は解るかもね……」

 

 

 

放課後、ガリア大陸に4人が集まる。昨日ミゾレが宣言をした所為か、2階はいつも以上にギャラリーで賑わっていた。

 

「やぁ、逃げずによく来たね」

 

アイ達を見るや否や、ミゾレが昨日と同じテンションで話しかけてくる。

 

「バトルを約束した以上、逃げるわけにはいきませんから」

 

「フン、そういう割には3人集まったのかな?2人しかいないじゃないか」

 

「それは……」

 

その時だった。

 

「いないのなら俺をチームに加えてもらおうか!」

 

そう言って出てきたビルダーがいた。それはアイ達も良く知ってるビルダーだった。

 

「ツチヤさん!」

 

声の主はコンドウ率いるガリア大陸きってのビルダーチーム『ウルフ』。そのメンバーのツチヤ・サブロウタだ。

 

「俺もこの辺で活動してるビルダーだ。加えても不自然じゃないだろう?」

 

「あ!有難うございます!よろしくお願いします!」

 

「丁度試したい新作が出来たからね。足は引っ張らないさ」

 

眼鏡をキラリと光らせながらツチヤは言った。

アイとナナにとってはこれ以上ない助っ人だ。それを見てなおミゾレは余裕の態度を崩さない。

 

「『ウルフ』のツチヤを加えるとは……彼を入れなきゃボクに勝てる自信はないのかい?」

 

「ヒカワ君……!」

 

初対面の時と変わらないイヤミな言い方だ。ムツミは若干強くミゾレに声をかける。

 

「フ、そう怖い顔をしないでくれたまえ。それじゃあ早速バトルへと移行したいんだが……いいかな?」

 

「負ける気はありませんからね」

 

ギャラリーが対峙する2チームを見つめる。その中には昨日アイ達が戦ったセキラン・ライタの姿もあった。

昨日のアイの失態にアイの実力が納得できない為来たというわけだ。

 

――改めて見せてもらおうか。アンタの実力を……――

 

 

 

かくしてガンプラバトルが始まった。今回のステージは密林地帯だ。時刻は夕方の設定、夕日をバックに黄色い輸送機、ミデアが飛ぶ。

ミデアの下部は巨大なコンテナだ。そこからアイ達の機体が降下する。

 

「ジャングルかぁ、アイはやった事あるけどアタシは初めてだな」

 

木々に覆われたジャングルにナナの乗ったストライクガンダムI.W.S.P.が着地をし、辺りを見回す。

周りは機体の大きさに匹敵する高さの木々ばかり。遠くには岩山がいくつもそびえ立っている。

と、アイの機体が見えた。彼女の機体は前回に引き続きユニコーンガンダム・デストロイモードだ。今回は右腕にビームガトリングを二丁取り付けている。

 

 

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「出来る限りフォローはするよ」

 

「あ、アイ、前のユニコーンって奴と装備が違うね。そういえばユニコーンガンダムって通常形態と変形が出来るって聞いたけど」

 

「このサイズじゃ無理だよ。これよりもっと大きいサイズのガンプラだったら再現できるけどね」

 

前回も言ったがアイのユニコーンは装甲を開いたデストロイモードと装甲を閉じたユニコーンモードが存在する。

アイのデストロイモードはいわばパワーアップ形態の様なものだ。アニメ本編では装甲のスライドによって変形するが、

アイの使用する1/144だとサイズ的に無理がある。だから形態ごとに個別で売っているのだ。

 

「ややこしいなぁ、アンタが両形態出来る様に改造すればいいんじゃない?」

 

「いや無理無理無理!!改造難易度どれだけあると思ってんの!?と……それどころじゃなかった!」

 

慌ててアイは話を戻す。やれやれとツチヤはフッと笑った。

 

「話弾むのはいいが相手は狙撃が得意な連中だ。どこから狙ってくるか分からないから気をつけてくれよ」

 

ツチヤの通信が聞こえると共に機体も見えた。背負った大型バインダーと大きなキャノン砲。ガンダムエックス。

そのバリエーションでビルドファイターズに登場した『ガンダムX魔王』がツチヤの機体だった。

 

「ガンダム、でも黒いわ」

 

ナナが初めて見るツチヤのガンダムX魔王を見る。カラーリングは全身黒く塗装されていた。またサテライトキャノンの先端部には

シナンジュという機体のビームトマホークが取り付けられていた。

 

 

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「ある漫画版では黒いカラーで出ていたからね。それを参考にしたわけだ。分離機構は今回はナシだけど……名前は『ガンダムX国王号』とでも名付けようか」

 

――……いや、そんな自信満々でそんな名前言われても……――

 

そう心の中で呟くナナであった。

 

「しかしよりによってこのステージでスナイパー相手にするなんて、運が悪いというかなんというか……」

 

「しかたないわよ。ランダムで決めたんだから」

 

「何にしろ気をつけろ。手を抜いちゃ勝てないぞ!」

 

そう言うとアイとツチヤはバーニアを吹かしながらジャングルから飛び出した。二人ともやる気満々だ。

 

「あぁもう!待ってよ二人とも」

 

 

一方こちらはホークアイ側

 

「リーダー!来ました!向うは飛んで我々を探しています!」

 

チームの一人が叫んだ。リーダーのミゾレは岩山の物陰に潜み、アイ達三体を確認する。

 

「ンフフ。ステージ上イニシチアブをこちらが取ったのも事実……手筈通りいくぞ!」

 

「了解です!」

 

別々の場所から濃紺の機体が二機飛び出す。それを見送りながらスナイパーライフルを構えた機体が二つのカメラアイを光らせ、物陰から姿を現した……

 

 

 

ジャングルから飛び出したナナのストライク、そこへGポッドに警告音が響く、

 

「どこから!?」

 

ナナは身構える。ジャングルから飛び出てきたのは濃紺のドクロの様な頭部の機体『Gエグゼス・ジャックエッジ』だ。

 

 

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ガンダムAGEに登場した宇宙海賊の機体だ。ガンプラ独自の改造として右手にはビームサーベルが二本付いた槍の様な武器、ツインビームスピアを持っていた。

そのままナナのストライクに斬りかかる。ナナもストライクの対艦刀を抜き応戦。

 

「普通に戦おうってわけ!?上等よ!」

 

ナナの行動に狙撃の隙を見せかねないと思ったアイは止めようとする。ツチヤも一緒だ。

 

「ナナちゃん!?マズイよ!それじゃ相手に隙を見せちゃう!」

 

「大丈夫!手短にすませるから!」

 

それでも止めなきゃとアイとツチヤはナナのストライクに加勢しようとするがその時、遠くの岩山から一条の細長いビームが飛んでくる。

それはストライクに近づこうとする二機を阻んだ。

 

「超長距離射撃!?」

 

「向かわせないって魂胆か!」

 

二人の動きは止まる。

直後にもう一機のGエグゼス・ジャックエッジ(以下J)が真下からツインビームスピアを構えユニコーン達に飛び上がってきた。

 

「うわっ!」

 

アイは、下からの攻撃をかわしきれないと判断すると、ビームサーベルを抜き応戦する。

 

「!?バカッ!ヤタテ!」

 

すぐさまツチヤの黒王号がユニコーンの横腹に蹴りを入れた。

 

「わっ!」

 

ユニコーンは吹き飛び、さっきユニコーンがいた場所を狙撃ビームが襲う。目標を見失ったGエグゼスJは黒王号へと標的を変えて斬りかかる。

 

「んっ!」

 

ツチヤは国王号のビームソードを抜きツインビームスピアを受け止める。

Gエグゼスはすぐさま離れ、下の木々の中に逃げ込んだ。

 

「ツチヤさん!?助かりました……」

 

「礼はいい、それよりハジメを!」

 

同時にツチヤが促した場所。ナナのストライクと戦っていたGエグゼスJも下のジャングルに逃げ込む。

 

「それで逃げたつもり!?」

 

ナナは仕留めようとGエグゼスJが逃げ込んだ地点に背部のレールガンを撃ちまくった。上がる爆発。

 

「やった!?」

 

「ンフフ。君は馬鹿正直だねぇ……」

 

「え?ッ!?」

 

ナナが相手からの声を聞いた瞬間だった。背後から狙撃ビームがストライクを貫いた。コクピットを一撃だ。状況を理解しきれないまま落ちるナナとストライクI.W.S.P.。

 

「そんな……でも一機仕留めれたから……」

 

少しは役に立ったと思ったナナ、しかしレールガンで撃ったGエグゼスJが再びジャングルからジャンプし飛び出してきた。

わざとツインビームスピアを撃たせ爆発させたのだ。

 

「嘘……何も出来ないまま負けるなんて……」

 

悔しそうにつぶやくと目の前のGエグゼスが背中のビームサーベルでストライクを真っ二つに斬り裂いた。

モニターがブラックアウト、すぐさま『撃墜されました』の文字が表示された。

 

「ナナちゃんっっ!!」

 

こちらもGエグゼスJと交戦中、GエグゼスJと鍔迫り合いになりながらアイはユニコーンの視線を爆散したストライクへ向けた。

 

「チッ!一旦ジャングルへ隠れるぞ!ヤタテ!牽制を!」

 

「く……はい!」

 

ユニコーンから離そうとGエグゼスJにシールドライフルを撃つ黒王号。気付いたGエグゼスJは一度離れ回避。

その隙にアイはビームマグナム下部のグレネードランチャーをGエグゼスJに発射、GエグゼスJはシールドで防御、

目くらましの代わりに発射したのだろう。受けた際の爆風が収まると、もうユニコーンと黒王号はいなかった……。

 

 

 

二人は一度下のジャングルに身を隠す。二機とも身をかがめた状態で通信を入れる。上空ではGエグゼスJが一機飛びながらこちらを探していた。

 

「撃ってきたスナイパー、同じ場所にいますかね?」

 

「移動してるだろうな。狙撃した事で場所はばれてるんだから」

 

さっき撃ってきた遠くの岩山を見る。高い所は狙撃するには格好の場所だ。しかし高出力のビームを撃ってしまう以上どうしても射点で位置がばれてしまう。

すぐ場所を変えてまた撃ってくるだろう。

このままアイ達が隠れていれば見つからないかもしれない。かといってこのまま身を隠していても時間切れになるだけ、

判定に持ち込もうにもナナがやられてる以上こちらの負けになってしまうだろう。

 

「ヤタテ、常套手段だ。俺が囮になる。奴さんが撃ってきたらその射点に向って奴を仕留めてくれ」

 

「ツチヤさん!?危険です!」

 

「このまま待っても負けは変わらない、可能性がある分これが一番手っ取り早い!」

 

「……解りました!」

 

アイの了承の言葉を聞くとツチヤの黒王号は背中のリフレクターを外側に展開、飛行形態のホバーリングモードで飛び出した。

 

「頼みます!ツチヤさん!」

 

「さぁ来い!出来れば二機とも!」

 

多少離れた場所で黒王号を確認すると、こちらを探していたGエグゼスJは突っ込んできた。

程なくして狙撃用のビームが飛んでくる。さっきの場所に近い岩山の上からだった。

 

「チッ!」

 

ツチヤはGエグゼスJが二機来なかったことに舌打ちをしつつも狙撃を回避、1機だけのGエグゼスJの攻撃に対応する。

 

「ヤタテッ!!」

 

「やってますよぉぉッッ!!!」

 

その場所目掛け、アイはユニコーンを密林から飛び上がらせ、最大出力で突っ込ませた。スナイパーも気付いたのかユニコーンめがけビームを撃ってきた。

左腕の盾、アームドアーマーでそれを受ける。通常のライフルとは比較にならない出力のビームがアームドアーマーですらドロドロに溶かす。しかし貫通はしない。

 

「くっ!ぁああああああ!!!」

 

アイはビームを凌ぎきるとそのまま機体を全力で飛ばす。ビームマグナムの射程距離に入るとさっき撃ってきたであろう場所にマグナムを撃ち込んだ。

起こる爆発、仕留めてない事を考え、狙撃されない様ジグザグかつ高速でその場所に向かう。そこに先程ナナと戦ったGエグゼスJと……ナナを撃った機体の正体があった。

 

「ここまで来たか!地の利を利用した僕達に謁見するとはねぇ!」

 

「シャルドール改!?」

 

そう、狙撃した機体の正体はガンダムAGEに登場した量産機、『シャルドール改』にガンダムUCに登場した『ザク1・スナイパータイプ(UC版)』を組み合わせた改造機だった。

 

 

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ブラウンとオーカーのカラーリング、ザクスナイパーのパーツはパッと見でも全身に装備されているのが分かる。

ランドセルにスナイパーライフル、右足のニーパッドに胸の固定用フック、更に胸部装甲の黒い部分をシールドとして右腕に装着していた。

 

何より目を引くのは右肩のセンサーだ。シャルドール改のバックパックを右肩に接着、さらにその上にザクスナイパーのモノアイが取り付けてあった。

元々シャルドール改は背中に装備されたビームサーベルマウント部を回せるという特徴がある。そのギミックを活かしたことにより360度狙撃用モノアイが見回せるというわけだ。

 

「まさに両機のいいとこどり……って事ですか!?」

 

「その通り!『シャルドール・スナイパーカスタム』だ!」

 

アイはシャルドールを切り裂こうとあらかじめ左手に持っていたビームサーベルを発生させる。だがそれを阻止しようとGエグゼスが阻む。

 

「邪魔しないで!!」

 

アイはユニコーンの溶解しかけたシールドでGエグゼスを思いっきり殴り飛ばす。吹き飛ぶGエグゼス。

その隙にシャルドール・スナイパーカスタム(以下シャルドールSC)は逃げようとする。

 

――ビームサーベルじゃ届かない!――

 

アイは離れたシャルドールSCめがけ、ビームガトリングを撃ちまくる。

しかしシャルドールSCは予期したかの様に崖下のジャングルに逃げ込もうと飛んだ。

 

「逃がすかっ!」

 

まだ隠れずに飛んでる。アイも追いかけ飛びながらビームマグナムを撃った。

だがシャルドールSCは右肩のモノアイを後ろに回しかわす。こちらが見えてる所為かマグナムをひらりとかわす。

 

「クッ!あの眼でこっちを見てる!?」

 

「その通り!僕の眼に見えない物はない!この右肩の『鷹の眼』には!」

 

「ならば!」

 

なおも追いかけビームガトリングを撃ちまくる。右腰に掠めるも直撃にはいたらない、そうこうしてる内にツチヤの相手をしていたGエグゼスが戻ってきた。

シャルドールSCの危機に気付いた為だ。ツインビームスピアで斬りかかるが、アイはユニコーン右腕のビームトンファーで受け止めようとする。

だが次の瞬間、GエグゼスJが腹部から横に真っ二つになる。そして爆発した。

 

「何!?」

 

突然敵機が爆発した事に驚くアイ。

 

「ヤタテ!生きてるか!?」

 

「ツチヤさん!」

 

ツチヤの黒王号がGエグゼスJを背後から一閃したのだ。サテライトキャノンの先端にビームトマホークの刃が見えた。

 

 

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「リーダーの撃墜、ダメだったのか……」

 

「えぇ……」

 

周囲を見回すもシャルドールは姿をくらました後だった。二機とも離れた場所のジャングルに降り立つ。

 

「ンーフッフッフ。無様だねぇ。君達は」

 

通信でミゾレの声が聞こえてきた。それはフィールドや観戦していたムツミ達にも聞こえていた。

 

「どうだいミヨ?ヤタテ達を翻弄する僕の知略、やはりコウジ・マツモトより僕の方が優れていると思わないかい?」

 

「どこが……?ただ隠れて撃ってるだけじゃないか……!卑怯な行いを知略なんてごまかすな!」

 

囮と狙撃は良くある戦法だ。だがムツミ本人は気に入らないらしくバッサリと切り捨てた。

自信があった発言を批判されたミゾレには不快だった。

 

「く……!減らず口を!やはり君も君の友達も愚かだ。ミヨが信じた事も含めて間違いだという事だよ!」

 

「……ヒカワ君……?」

 

「ヤタテ・アイ!冥土の土産に教えてあげるよ!ミヨ・ムツミが怒った理由を!」

 

「怒った理由……?」

 

「あれは先週の土日の合同練習の時だった!」

 

……

 

――「ンーフッフッフ。やぁミヨ・ムツミ」

 

合同練習は運動公園の陸上競技場で行われていた。練習も終わり片付けをしている時、ミゾレはムツミに会いに行った。

 

「……君か……」

 

ムツミは彼をうっとうしそうに、学校指定のジャージを着たムツミは片付けをしていた。

 

「聞きたまえ、僕はガンプラで地区一番になった」

 

「いつの間にガンプラを始めたのさ……」

 

「わずか半年前だよ。それで地区一番までこれたんだ。君の好きなコウジ・マツモトすらも凌駕出来る才能だと思わないかい?」

 

「……思わないよ……。それにボクはガンプラをやっていない……いつもみたいに張り合おうとしたって意味がないよ……?」

 

「ンフ。でも君の友達はやっているだろう?ヤタテ・アイ……『ウルフ』だって倒したビルダーだよ……」

 

「アイちゃんの事を知ってるんだ……」

 

「僕はいずれ彼女に挑戦する。だけどさして勝つのに苦労はしないだろうけどねぇ」

 

「……何が言いたいのさ……」

 

「君の友達だからという事さ!どうせフジ・タカコの様な無能な人間に決まっている!」

 

「……」

 

直後、ムツミはミゾレを睨みつけた。かなり凄みのある表情だ。

 

「普段僕が相手をしないからって……人の友達を悪く言うなっていつも言ってるよね……!」

 

「ぅ……」

 

普段単純に突っかかってもムツミは相手をしてくれない。しかし最近はこうやって友達をダシにする態度が増えてきた。

その所為かムツミも突っかからざるを得なかった。

 

「フ・フン!君がそう思っていなくても本人の行動は僕が言った通りだろうさ。どうせ勉強も出来ずにガンプラで遊ぶしか能の無い人間に違いないさ!」

 

「君がそう思うならそれでいいよ。でもそんな事ない……ボクはそう信じる……」――

 

 

 

「そしてミヨは君達を信じた。でも君達はテスト前にガンプラで遊ぶという暴挙に出た。君達は裏切ったんだよ!ムツミをね!」

 

「……だからムツミちゃんは……」

 

ミゾレの話を聞き、アイは愕然とした。

 

「ム・ムツミ……そんな事言われてたの?」

 

「……」

 

Gポッドから出たナナがムツミに問いかける。ムツミは無言で観戦モニターを見つめていた。

 

「勉強も出来なければバトルにも勝てない!僕の知略を打ち破る事は不可能さ!さぁ大人しくやられなよ!」

 

勝利を確信したミゾレの言葉、だがそれを遮る人間がいた。

 

「……遊んでいたのは確かにあたし達の所為だよ……。でもあたしは……少なくともムツミが愚かなんて思わないし、

ムツミがアイちゃんを信じたことも間違いだなんて思わないよ?」

 

タカコだった。

 

「タカコ……?」

 

「ムツミが信じるって言ったのはアイちゃんが信じるに値する人間だったからだよ。ムツミは今までアイちゃんと一緒だったし、バトルも何度も見て来た!

アイちゃんは信じられるだけ何度も行動で示してきたんだよ!君の言う知略とかいうレベルでのピンチなんて!いくらでもアイちゃんは突破してきた!

ムツミはね!いい加減な気持ちで信じるとか言ったりはしない!そうだって解った上で信じるって言ったんだよ!」

 

「減らず口を!君達が裏切った事実は消せまい!」

 

「これから勉強して挽回すればいいでしょ!アイツが!ムツミが勉強して欲しいんだったらいくらでもやってやるわよ!

アイちゃんはそれ位できるしあたしだってやってみせるわよ!」

 

「口だけならなんとでも言える!」

 

「……ミゾレ……あいにくだよ……」

 

タカコの叫びにムツミが続く。

 

「この程度の相手でアイちゃんは負けやしない……。ボクは信じる……」

 

「また根拠のない自信かい?」

 

「根拠はあるよ……。集中したアイちゃんは無敵なんだ……!ボクは信じる……!」

 

 

「ムツミちゃん……タカコちゃん……」

 

「いい友達じゃないか……期待にそえなきゃな……で、どうする。もう一度おびきよせるか……?」

 

「……それなら私に考えがあります!ツチヤさん!私たちの切り札と一緒に!」

 

思案するツチヤにアイは自信のある声で言った。

 

 

 

「損害は一機、向こうもやりますね。リーダー」

 

さっきと別の場所の岩山にいるシャルドールSCに通信が入る、

さっきアイのユニコーンが殴り飛ばしたGエグゼスJだ。殴られた際に頭部が吹き飛んでいた。

 

――クソッ、どいつもこいつも……――

 

「リーダー?」

 

「ん?あ、あぁ、なんだ。ん?」

 

その時だった。ミゾレは一筋の光が空から降るのが見えた。光は真っ直ぐジャングルに落ちる。まるでその場所を指し示すかの様に、

 

「あれは……ガンダムエックスのマイクロウェーブ!?」

 

マイクロウェーブ、それはガンダムエックスの切り札『サテライトシステム』を使用する為の予備動作だ。

月からのレーザー回線を機体に受信し機体や装備のエネルギーに変えるシステムである。本編では月が出ているときにしか使用できなかったがガンプラバトルではその制限はない。

サテライトシステムにより使用出来る『サテライトキャノン』は設定上コロニーを破壊する程の威力を持つが

その破壊力が災いしてか準備の予備動作が非常に長い。その上、このマイクロウェーブはガンダムエックスの胸部にじかに送り込まれる。故に……

 

「ンッフッフッフ!やはり君達は無能だよ!そっちから姿を現すなんてね!これで終わりだ!」

 

ミゾレは狙撃しようとスナイパーライフルを構え、トリガーを弾いた、しかし……

 

「リーダー?どうしました?」

 

「おかしい……撃てない!?」

 

慌てて原因を調べるミゾレ、程無くして原因が分かった。

 

「な!なんだこれは!ランドセルとスナイパーライフルを繋ぐエネルギーパイプが!」

 

「!?」

 

 

 

そしてこちらはアイの方、マイクロウェーブを機体に受けながらツチヤはアイに訪ねた。

 

「本当に向こうは撃てないんだな!?」

 

「大丈夫です!追いかける時にエネルギーパイプを撃ち抜いておきましたから!」

 

 

 

「そんな!まさかさっきの右腰を掠めた時!?」

 

「来ます!リーダー!」

 

「!?」

 

黒王号のキャノンが展開し、前にせり出す。背中のリフレクターが開き展開、正に機体名称の通りX字になる。

同時に光がひときわ大きくなり背中のリフレクターが、手足の紺色の部分が、強烈な光を発し始める。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「今度こそ出てきな!このハイパーサテライトキャノンで!」

 

ツチヤはハイパーサテライトキャノンの発射させる。その砲身から放たれた光は全てを飲み込むほど大きい。

 

「ぐぅ!ぅおおおっ!!」

 

ツチヤのGポッドがガタガタと揺れる。その出力は発射している黒王号すら吹き飛びそうになる程だ。撃ちながらツチヤは発射しながら機体を徐々に横に回転。

巨大なビームの濁流が周囲の木、川、そして岩山、全てを飲み込み蒸発させる、ガンプラバトルが現実でなくバーチャルな世界だからこそ出来る作戦だった。

 

「な!なんて!無茶な事を!」

 

たまらず隠れていた地点から飛び出すシャルドールSCとGエグゼスJ

 

「完全にやってること悪役だろうがお前ら!」

 

GエグゼスJのビルダーは叫び、発射中のエックスに迫る。ハイパーサテライトキャノンの発射中は止める事が出来ない為、

全くの無防備にもなってしまう。ツインビームスピアが無い為、ビームサーベルを構えるGエグゼスJ、

だがそのGエグゼスJをユニコーンがビームサーベルで迎え撃つ。

 

「それはごもっとも!でもね!今日は一段と負けられないんですよ!私達はぁぁっ!」

 

隙を付き、GエグゼスJを両断した。

 

「味な真似をぉぉ!!」

 

断末魔を上げてGエグゼスJは爆発。そのままユニコーンはミゾレのシャルドールSCに肉薄する。

シャルドールは左腕からビームサーベルを発生させ突撃した。つばぜり合いになる二機、しかしユニコーンの方がパワーは上、

程なくして押し負けたシャルドールSCは左腕を切り落とされ、そのまま地面に墜落。黒王号も丁度サテライトキャノンの発射も終わった様だ。

ジャングルだったステージは一変し、周囲は焼け爛れた焦土と化していた。

 

「まさか……いぶりだしにサテライトキャノンを使うなんて……」

 

そのままミゾレはシャルドールSCを立ち上がらせ、ライフルを突きたてた。赤い空、赤い大地にユニコーンとエックスが相対する。

ユニコーンもまた、ビームガトリングとビームマグナムをパージさせ両腕にビームトンファーを展開させる。

 

「何故……ミヨは君達を信じる……期待を裏切ってまで……クソッ……」

 

「私にこんな事言える義理なんてないかもしれない……だけどそれは……」

 

「畜生おおおおっっ!!」

 

「お前が言うな」そう言わんばかりにミゾレは絶叫し、シャルドールSCをユニコーンに突っ込ませた。

ユニコーンも迎えうつかの様にビームトンファーを構える。

 

「友達だからっ!だからこそ負けられない!!」

 

アイは叫び、お互いの機体がすれ違いながら剣を振るう。……その後、シャルドールSCの右肩のモノアイが砕け散る。

そのままシャルドールSCは横に切断され爆発。これにより勝敗は決した。

 

 

 

「ゴメン!ムツミちゃん!」

 

Gポッドから出てすぐヘルメットを脱ぐ、そしてムツミの前に立ちアイは頭を下げた。

 

「ムツミちゃんがどんな気持ちだったかも知らないで遊びほうけちゃって……」

 

「アイちゃん……いいよ……、もう気にしてないから……」

 

ムツミはいつもの落ち着いた表情だった。

 

「でも……ムツミも凄いわね。散々あんな風に言われてまで冷静なんだもん」

 

ナナはアイが勝った事もそうだが、ミゾレの回想で、ムツミが挑発を受けてなお落ち着いていたことに感心していた。

アイ自身もまた、自分が挑発に乗りやすい事は自覚している故、ムツミの冷静さを見習いたかった。

 

「……平気なわけないよ」

 

「タカコちゃん?」

 

タカコが二人の言葉に割って入る。彼女はミゾレの回想を聞いた時、ある事に気が付いていた。

 

「悔しかったんでしょ?合同練習の時あぁ言われて」

 

「……うん……」

 

その言葉にムツミの顔が曇る。

 

「本当はね……凄く嫌だった。でも相手にするだけ向こうは味を占めるって解っていたから……だから必要以上に言い返そうとしなかった……

でもアイちゃんやタカコがユニコーンを作ったって言った時……自分勝手だけどヒカワ君の言った事が正しかった様に思えて……」

 

悔しかった気持ちを溜め込んでいたのだろう。ムツミの眼尻に涙が溜まる。

 

「それで頭に血が登っちゃって怒ったってわけね」

 

「ムツミちゃん……」

 

「えぇい!しんみりしちゃってぇ!」

 

そんな雰囲気をミゾレの大声が遮った。

 

「今回君が勝てたのは助っ人のツチヤ・サブロウタが持っていたサテライトキャノンがあったからに過ぎない!あれさえなければ僕が負ける筈が……」

 

かなり悔しそうなのが声の大きさから解る。タカコはそんなミゾレを見ていて気になる事があった。

 

「ねぇねぇミゾレ君、もしかしてムツミの事が好き?」

 

「!?」

 

「はぁ?!」

 

ツチヤの発言にビクッ!とミゾレは体を強張らせる。その向こうのムツミも大きく驚いた。

 

「な!何を言ってるんだ!突拍子も無しに!」

 

「いやだってさ、あたし達を挑発してまでムツミの気を引きたかったんでしょ?何というか。好きな人には意地悪したくなると言うか。

後その人と仲良くしてる奴に嫉妬したとか、ムツミここに呼んだのもいい所見せたかったって感じかな~って」

 

正直な話、タカコのカンだ。しかし今までの態度や行動がムツミの気を引きたいというのなら、意地悪したいというのならとりあえずの説明はつく。

そもそも彼の考えている事と行動が矛盾しているからだ。

 

「フ!フン!なんでも恋愛に結び付けようとする!やはりミヨの友達にはロクな女がいないな!」

 

顔が赤くなってる。図星な様だ。そんなミゾレの顔を見たムツミは……

 

「え?いや……無理……日頃の行い的に……」

 

心底嫌そうな顔で切り捨てた。

 

「なぁっ!!」

 

嘘だ!とでも叫びそうな顔で固まるミゾレ。

 

「いや……だって散々やっておいて好きだとか言われても……」

 

「え!えぇい不愉快だ!負けたならここにはもう用はない!帰るぞ!」

 

ムツミに指を指しながらミゾレは更衣室に入る。すぐさま着替えてその場から去ろうとした。

 

「あ!待ってください!リーダー!」

 

「ヤタテ・アイ!」

 

涙目のミゾレは去り際にアイを指さす。

 

「いいか!この次はこうはいかないぞ!」

 

そのままミゾレはチームメイトを引き連れ去って行った。そして観戦を果たしたギャラリーも帰って行った。

 

「ボクの方こそゴメンね……元はと言えばボクが勝手な理由で怒っちゃったから……」

 

ムツミは申し訳なさそうにアイ達に頭を下げた。

 

「ムツミちゃん……いいよ。私達に責任あったんだし」

 

「そだよ~。おかげで疑問が解けてスッキリしたよ~」

 

「タカコ、君も有難う……。庇ってくれた時心強かったよ……」

 

「気にする必要ないよ。付き合い長いもん。ま、今回は雨降って地固まる、だね~」

 

「アンタが言わない」

 

ナナがタカコに突っ込みを入れる中、今回の功労者にもアイは礼を言う。

 

「ありがとうございますツチヤさん。ツチヤさんのおかげで勝つ事が出来ました」

 

「いや、気にしないでくれ、君の作戦のおかげだ」

 

「でも内心は本当ヒヤヒヤもんだったんですよ。サテライトキャノンがなかったらどうなっていたか……」

 

「謙遜する必要はないよヤタテ、サテライトキャノンが無くとも君は勝利出来ただろうさ。俺はもちろん、コンドウさんもそう思うだろう」

 

ツチヤは自信を持ってそう言った。

 

――……確かに奴の実力は本物か……――

 

ギャラリーの一人だったセキラン・ライタが呟く。そして彼もアイの実力を認めた様だ。

 

――だとしてもコンドウを越えてるかどうかは別だ。奴に勝てるかな?……チーム『エデン』の『フクオウジ・マスミ』に……――

 

そのライタの言う相手とのバトルが、アイの運命の歯車を回す事になるとはアイ自身知る由も無かった……。

 

 

 

「それじゃ早速帰って勉強会しようよ」

 

「え?!待ってよアイちゃん~、その前にギャラリーで可愛い男の子にインタビュー位……」

 

「駄目だよタカコちゃん。私以上にカッコいいこと言ったんだからちゃんと実行しなきゃ」

 

「ちぇ~、ま、言っちゃった以上、今度こそ期待に添える様頑張りますか」

 

「フフ……」

 

笑うムツミ、二人のやり取りを見ながら、「この人達の友達でよかった」そう彼女は心から思っていた。




登場オリジナルガンプラ
ガンダムエックス黒王号
使用ビルダー『ツチヤ・サブロウタ』

【挿絵表示】


【挿絵表示】


シャルドールスナイパーカスタム
使用ビルダー『ヒカワ・ミゾレ』

【挿絵表示】


【挿絵表示】



※前回15話のクロノスとの戦闘描写で読み返すとどうしても気に入らない部分があったので一部修正しました。
ナナがクロノスに対艦刀で斬りかかってから、アイがクロノスの関節を切り落とす迄です。
作品を中途半端な気持ちで投稿したわけではないのですが、納得がいかずこんな事をしてしまいました。
すいませんでした…。

遅くなりました。コマネチです。前回読み返してみてムツミの行動に違和感を感じた為、
こんな話になりました。戦闘と同じく修正しようかと思ったのですが、キャラの戦闘以外での
行動を変えるという事に抵抗があった為、このまま突き進みました。
前回とも詰めが甘かったかもしれません。今後は改善していきたいです。
こんな作品でもお付き合いいただければ嬉しいです。

※なお、本編中のガンダムエックス魔王は度々チャージ無しでハイパーサテライトキャノンを撃ってましたが
ツチヤはマオと違いガンプラ心形流の心得が無い為、元ネタのエックスと同じ手順を踏まないとサテライトキャノンが使えないという設定です。

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