IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜買われた少女の物語〜   作:アリヤ

9 / 24
第八話

 今日一日の授業が全て終了したあと、シャルロット・デュノアはIS学園の建物がどのようになっているか一人で調べていた。

 本当ならばシルヴェーヌ・デュノアと共にする予定だったが、先ほどヴェロフから連絡があり、してもらいたいことがあったらしいので寮の自室に戻って行った。おかげで予定にしていたIS学園内の見学をシャルロット一人ですることとなってしまった。

 

「う~ん……やっぱり建物とか見ると普通の学校と変わらないね。そりゃ、教師や関係者以外立ち入り禁止区域は解りにくいところにあるだろうし、当たり前かもしれないけど……」

 

 とりあえずIS学園の地図を見ながら進むが、これと言って怪しいところは今のところ見つからなかった。そう簡単に見つからないのは当たり前であるが、やはり収穫がないというのは余り面白みも感じず、ただ時間が過ぎていくだけにしか思えなかった。

 とはいえ、何かありそうであれば報告したいところであるし、今後のシャルロット達にいい方向へと繋がるかもしれない。そういう事もあって中断して寮に戻るという事はするつもりはなく、とりあえずIS学園から支給された校内の地図を頼りに歩き続けていた。

 

「あー、ここがISの整備室か。そういえば、僕のISってあの時の大会のままだったな……」

 

 色々と歩き回ったが、シャルロットはISの整備を行う整備室に辿り着いていた。今後利用するところになる場所ではあるだろうが、シャルロットは自分の専用機がフランスで行われたタッグ大会の状態である事を今更ながら思い出した。

 シャルロットの専用機はラファール・リヴァイヴ・カスタムIIであるが、基本装備の一部を外し、後付け装備用に拡張領域を原型機の二倍にまで追加しているのだが、対戦相手によってその装備を一々変えている。シャルロットがISを最後に使用したのがタッグ大会の決勝戦だったため、それからずっと装備を変えていないことに気付いたのだ。

 とりあえず後で整備室に戻ってきて、IS学園様に装備を変更しておこうと思ったシャルロットは、整備室を後にしようと考えたが、シャルロットの位置から水色の髪をしている一人の女の子が専用機を弄っている姿を見かけた。基本的誰かが整備してもさほど気にしない筈だが、IS学園には専用機を所持している人数は少ないはずであるし、それを整備しているという事は同じ専用機を持っている生徒なのだろうと思い、誰なのかと考えていた。

 一応、IS学園に通っている生徒の名簿や経歴などは全て調べられているのであるが、その資料は現在寮の自室に置いてある。一旦寮に戻ってくるのも面倒であるが為、シャルロットは彼女に話しかけてみようかと考え、彼女に近付いて行った。

 

「ねぇ、ちょっといいかな?」

「っ!? 突然後ろから話しかけないでっ!?」

「ごめんごめん。別に脅かすつもりはなかったのだけどさ――」

 

 突然声を掛けられたことに彼女は驚いてしまったが、シャルロットが謝ることによってすぐに落ち着きを取り戻していた。

 シャルロットは彼女の顔を見て、どこかで見たような記憶があるような気がした。最初、ヴェロフが要注意するべき人物に挙げられていたかと思ったが、それならシャルロットは記憶しているし、忘れるはずがない。そう考えればそこまで要注意するべき人物ではないと解るが、見覚えのあるという感じが気になって仕方がなかった。

 とりあえず、彼女と関わりを持つことによって名前や経歴を調べておこうと思った。彼女の事が今現在でわかる事と言えば、専用機持ちの生徒だという事くらいだ。彼女が整備していた機体が専用機である事は機体を見るだけですぐに解るほどだが、どのみち模擬戦や大会などで戦う事になる可能性が高いこともあり、専用機持ちの生徒くらい覚えておけば良かったなとシャルロットは思ってしまった。

 

「……それで、何の用?」

「いや、別にこれと言った用があるわけではないんだけどさ……」

「なら話しかけないで。今忙しいから」

「ならごめん……って、君ってまさか自分で機体を改造しているの?」

「……? そうだけど?」

 

 彼女はそれのどこがおかしいのという顔をして、首をかしげていた。

 彼女の専用機の周りにはその専用機の物だろうと思われる部品が幾つか落ちていた。全てを接続しなおせばISとしての機能が使えると思われるが、折角できている機体を一部解体して改良を行おうとしているなんていうことが驚きだった。そんなことが出来る人物は専用機持ちでも少ないだろうし、シャルロットもできる様になったのは最近の事だ。

 

「……ちょっと見せてもらってもいいかな?」

「別にいいけど……」

 

 シャルロットは彼女がどのような専用機を作ろうとしているのか少し気になり、なぜだか興味を持った。まさか自分と姉のシルヴェーヌ――そして生徒会長以外にも専用機を作ることが出来る人間がいるとは思いもしなかった。シャルロットも今に至るまでかなり苦労し、シルヴェーヌとどれだけ比較されたくらいだ。

 シルヴェーヌも専用機を作ることが出来たおかげで、シャルロットはいつも国内から出来損ないと言われ続けてきた。シルヴェーヌは生まれながらの天才と言われたおかげで昔から比較され続け、さらに言えばシャルロットは愛人との娘であるがために、何もできない愛人の娘というレッテルをフランス国内で付けられたこともあった。

 しかしそれを改善してくれたのが、姉であるシルヴェーヌだった。元々シルヴェーヌはシャルロットのイメージを払拭しようと努力していたくらいで、その結果を出したのがタッグ戦での優勝だった。そのおかげでシャルロットの見るイメージが変化を始め、今でもシルヴェーヌがコンビを組もうと言ってくれたことには感謝していた。

 

「そういえば名前言ってなかったね。僕はシャルロット・デュノア。一応フランスの代表候補生でもあるんだけど、君の名前は?」

「……更識簪」

「更識――なるほどね……ってこれはっ!?」

 

 シャルロットはようやく彼女が誰に似ているのかようやく理解できたが、それよりも彼女――更識簪(さらしきかんざし)が考えている設計書を見て、簪の名前よりも驚かされた。

 基本的な事はしっかりできているのだが、細かな部分が全くできていないし、このまま作成してしまえば絶対にエラーが発生するか、バグが起きて上手く機体が動かない可能性だって考えられた。このまま彼女一人に任せるのは危険すぎる――そう思ったシャルロットは手伝ってあげるかどうか考え始めた。

 正直な事を言えば、こんなことで手伝うのは余りよろしくない。本来の目的とはかけ離れていることであるし、シャルロットにとって利益を得るようなものは何一つない。しかし、簪がここまでして努力する理由はシャルロットも何となく想像できた。更識というのだから姉はあの生徒会長である更識楯無だろうし、自分と同じように比較され続けたのだろうとなんとなく推測できた。楯無が出来たのだから妹である簪にもできないはずがない――そう思い込んで努力をしているのかもしれないが、それだとしてもシャルロットにとっては共感できる事だった。

 

「……突然こんなことを言うのはどうかと思うけど、この専用機を完成させるの手伝っていいかな?」

 

 悩んだ末に出した結論は、簪の専用機の設計を手伝うことにした。このまま見逃して知らないふりをすることをシャルロットにはできず、どのみち時間に余裕はあるから良いだろうと思った。

 

「別に頼んでないのだけど……」

「はっきり言うけど、このままいけばバグやエラーを起こしまくって上手く動いてくれないよ。さっき名前聞いてようやく分かったけど、そんなに姉に勝ちたいわけ?」

「っ!? あなたに何が解るの!?」

 

 まるで解るような言い方をされて、簪は思わず声を出して起こってしまったが、シャルロットは気にせずに話を続ける。

 

「詳しいことは解らないけど、多分これだけは言えると思う。君は僕と同じように姉と比較され続けてきて生きてきたという事だけは――」

「えっ!? でもあなたとあなたの姉との仲は別に問題なさそうだけど……」

 

 さっきから怒ったり驚いたりして表情が大きく変わるな……とシャルロットは思うが、そうさせているのは自分だという事は理解しているし、予想通りの反応ではあった。しかしそこまで表情が変化すると、簪からしてみれば怒られるかもしれないが、シャルロットはそう思わずにはいられなかった。

 

「確かに仲は良いよ。だけどフランス国民からは比較され続け、フランスの学校でも虐められることもあった」

「なら、姉を恨んだことだってあるはず……」

「ない……と言ったら嘘になるね。というより、僕はある時までシルヴェーヌを恨み続けていた事だってあったくらい。だけどシルヴェーヌは僕の事をずっと考えていてくれて、何とかしようとしていたらしい。まぁ、そのおかげでフランス国民から比較されたりすることは無くなったけど」

「……そうなんだ」

 

 詳しいことを省いてシャルロットは話したが、正確にいえばシルヴェーヌが自分を救おうとして居る事に対してシャルロットは怒りを覚えた。シルヴェーヌの母親――クラリス・デュノアは夫の愛人の娘であるシャルロットを恨んでいることもあり、いい子気取りで自分の株を上げようとしているようにしか見えなかった。それに、そう簡単に今の状況が変わるとは思えなかったし、もしシルヴェーヌが本気で救おうとしたとしても、クラリスによって邪魔をされていたに違いないとも思っていた。

 しかし、その状況を覆す結果となった人物がいる。それがヴェロフと一夏だった。ヴェロフが現れた瞬間フランスのISは大きく変わる事となり、もちろんクラリスはそれを許さず、ヴェロフを暗殺しようと企てた。しかしそれを全て阻止したのが一夏であり、想うようにはいかなかった。

 その間にも、フランスではヴェロフによるIS改革が行われていた。そのおかげで第二世代までしかISを作れなかったフランスは、他国に劣らないようになり、クラリスの立場が危うくなり始めた。そこでクラリスは夫のラザール・デュノアを使い、シャルロットをヴェロフの元に置くこととなった。だが、それがクラリスの失敗で、シャルロットにとっては人生にとって一変することとなった。

 シャルロットはヴェロフによって、フランス内の事情を全て知ることとなり、シルヴェーヌが本当に自分を救おうとしていたことも知った。それからのシャルロットはシルヴェーヌに協力的となり、シルヴェーヌから頼まれたことは基本的手伝うように始めた。そしてその結果、シルヴェーヌが考えていた通りにフランスがシャルロットを見る視線が変化し、今ではシルヴェーヌと同じで人気があり、ファンができるほどだった。

 

「とにかく、姉を気にし続けると自分の力を発揮できないのは確かだよ。たとえ姉妹だろうと得意不得意は違うし、自分が得意な部分で姉に勝つ方が簡単だよ。姉も成長していくのだから、姉に追いつくことなんて不可能に近いんだよ」

「だけど!! 私が姉に勝るものなんて……」

「絶対に何かあるはずだよ。僕はここまでしか言えないけど、アドバイスくらいならばいつでも歓迎するよ。それじゃあ、エラーやバグのところは抽出しておいてあげたから、あとはそこを治せば問題なく完成するから――」

 

 その一言を伝えて、シャルロットは整備室を後にした。

 正直の事を言えば自分らしくなかった。人間をあまり信用していないシャルロットが、誰かに対してアドバイスや手伝いなどを行うなんて今まで一度もなかった。評価が良くなった途端に視線を変えて接してきた人間を、シャルロットは何度も見てきた。だからこそシャルロットは一部の人間を除いて信用してなく、もちろんそれは先ほど話していた簪相手でも同じことだった。

 だが簪を見ていると、昔の自分に似ているようにシャルロットは思えた。姉と比較され、劣られていることを気にしている。周りから何かを言われたかどうかは分からないが、姉を気にして周りが見えていなかったのは昔の自分を思わせるところがあった。何時もなら話しかけても詳しいことまで聞こうとは思わないのだが、簪の事をシャルロットは気にしないで接することが出来なかった。

 

「……なにやっているんだろうね、僕は」

 

 そんな一言を苦笑いしながら呟いた。結局自分のISの調整を行う事をせずに整備室を後にしてしまったが、また今度行けばいいかと思いながらも、そろそろヴェロフとの連絡が終えたであろうと思い、寮の部屋に戻ろうとした。

 

 

--------------------------------------------

 

 

 シルヴェーヌがヴェロフ連絡が終えてから1時間くらいした頃、一夏はヴェロフと連絡をしていた。

 

「……え、あいつがこっちに来るのですか?」

『あぁ、ってなわけであとはそっちに任せる』

 

 それから電話を切り、一夏はこれから待ち受けているだろう不安を考え、ため息を吐くしかなかった――




感想は読んでいますが、時間があまりないので修正は後日行います

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。