IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜買われた少女の物語〜   作:アリヤ

23 / 24
第二十二話

「……亡国機業の中でも優れた人間が勢揃いと聴いていたけど、これでは他愛もない」

 

 エルマ・ベルクこと織斑一夏は周りに居る死体を見下しながら、呟いていた。

 一夏の周りにいる十人ほどの死体は、全て一夏が殺めた亡国機業の人間だった。頸動脈を斬られていたり、仲間の銃弾や一夏の拳銃で撃たれた跡があったりなど様々で、場所によっては血の池を作っていた。そんな中、返り血を浴びていた一夏は、詰まらなそうにしていた。

 別に一夏は戦闘狂でも殺人衝動を起こしているわけではなく、いかに効率良く殺す方法を取るように行動しているだけで、少しは抵抗するかと思っていたが、期待外れ過ぎたのだ。こんな感じで次々に来られたとしても、面白みがないと思ってしまうので、誰かしら楽しめるような相手は来ないものかと思ってしまうのだ。

 というより、一夏は相手に対して過大評価することが多いことも理由である。過大評価する事によって、より緊張感と注意力が上がるので利点ではあるが、一夏の場合は過大評価したことによって、自分の思っていたより低いせいで、簡単に殺されて面白くないと感じてしまうことがあった。

 あまりにも酷いとなると、一夏はあまりにも面白くなくて、任務放棄したことが過去に数回している。もちろんこの場合は一夏が居なくても成功していたという最終結果で、一夏が任務放棄した後も、一夏なしで簡単に任務成功していた。

 とはいえ、任務放棄するようになったのはこの半年くらいの話だ。昔であればつまらないという感情ですら捨てていたことなので、これといって意識する事はなく、イリヤ・ヴェロフにただ従うだけだった。未だに感情はいらないと一夏は思っているが、つまらないなどと思っている時点で否定出来なくなっていることに、一夏は気づいていなかった――

 

「……で、確か管制室はあっちだが、先にあっちを対処しておく方が最適か」

 

 ちなみに、一夏が現在居る場所は亡国機業の内部にある通路であり、ここまで来る経緯をまず話すとしよう。

 一夏がどうやって亡国機業の内部に侵入したかといえば、ラウラ達シュヴァルツェ・ハーゼが戦闘を開始してから約十分後、一夏は普通にボートで島へ接近しただけのことだった。上陸した後、一夏は上陸するために使ったボートにピストルを放ち、穴を開けることによって利用されないようにした。本当であれば火で燃やしたかったところだが、煙によって気づかれる可能性があるので、なるべく気づかれないように穴を開け、乗ったら沈むようにするしかなかった。

 それから亡国機業のアジト内に侵入するために、入り口へ向かっていった。亡国機業内の構造は理解していて、亡国機業のアジトだと気づかれないように、島周辺には監視カメラしか設置されていないことは知っていた。

 しかし一夏が現在着ている服装と、靴底に埋め込まれている電波を発生させることにより、周囲の電子機器を一定時間停止させ、監視カメラであれば一日前の映像を映させるようにハッキングできるようになっていた。

 そのため、監視カメラなんて今の一夏からしてみれば意味をなしていなかった。また、一夏が先ほどまで殺していた亡国機業の人間が殺されている光景も、監視カメラに映ることはなく、それらのハッキングシステムを一夏が持ち歩いているために、まだ一夏の情報が亡国機業に伝わっていなかったのだ。

 その結果、ここまで亡国機業側に一夏の存在が気づかれていなかった。気づいたとしても、現在一夏の周りに散らばっている死体になってしまうので、一夏が通った後に誰かが死体を見て報告されない限りは気づかれない状態だった。

 一夏が島に上陸して、入口に向かっている話に戻すが、一夏は監視カメラに気づかれないまま、亡国機業の入り口まで近づくことができた。とはいえ、さすがに入り口付近には侵入者対策として、亡国機業の人間が二人居たが、勿論正々堂々と前からやってきたのですぐに気づかれた。しかし一夏は即座に移動して、まず片方の背後に回ってナイフで首を切り、それに対応するようにもう片方が一夏に向けて重を構えていた。けど一夏は殺した人間をもう片方の方へ投げ、視界を妨げている間にもう片方の人間を同じように首を切りつけて殺めた。

 それから一夏は亡国機業のアジト内に侵入することに成功した。途中、通路内で遭遇した、もしくは見かけた亡国機業の人間を次々に殺めていき、時には殺した人間を盾の代わりにしたり、同士討ちさせるように行動したりしていた。利用できるものは何でも利用し、誰一人逃がすことはなく、罪悪感もない無表情な顔で殺していった。

 その結果、何度も返り血を浴びることになったが、一夏は返り血すら気にせずに突き進み、現在に至る――。

 

「――ここね」

 

 一夏は目的地である管制室の前に辿り着くと、持っていたピストルを構え、扉が開いた瞬間に中にいた亡国機業の人間全員に撃ち放った。

 

「……い、一体何が」

 

 状況すら理解できてなく、突然の発砲音に亡国機業の人間は誰もが驚いたが、驚いたことによって反応が大きく遅れてしまい、何も理解できていない間に撃たれてしまった。次々に倒れていったが、そんな様子を一夏は見下しているだけだった。

 

「……うん、やはりスコールは居なかったか。回収対象も居なかったようだし、やはり非常通路で逃げようとしているか」

 

 一夏はここにスコールが居ないことを知っていたかのように言ったが、管制室に居ないという可能性は高かった。しかし、管制室にまだ居るかもしれないということを考慮して、第一に管制室を襲撃することを最優先にしていたのだ。

 また管制室を先に襲撃すれば、監視カメラなどによって、一夏が侵入していると知られない為でもあった。だからこそ可能性が薄いこの場所を襲撃するのは優先する内容でもあった。

 一夏が管制室にスコールが居ないと考えていたのは、海や上空ではシュヴァルツェ・ハーゼが一方的に殺戮しているような状態だと言うこともあり、ISの展開がしにくい管制室に留まっている可能性は少ないと一夏は思った。

 そう考えると、シュヴァルツェ・ハーゼに襲撃をするか、次のために対策を考えるために逃げるかの二択が考えられたので、一夏はスコールが管制室に居ないだろうと推測していた。

 

「さて、私も非常通路の方へ行くとしましょうか。居なかったとしても、他の退路は情報の限りないはずだからね」

 

 管制室に居た亡国機業の人間が全員殺しただろうと考えた一夏は、管制室を後にして、非常通路の道を塞ぐために急いで移動することにした。

 もちろん、歩いている間に亡国機業の人間と遭遇することがあったので、その度に一夏は殺害を繰り返していた。

 しかし一夏が管制室から十分程度歩いたとき、分かれ道があるところで一夏が来た方向以外の三方向から、亡国機業の人間が一夏の方へ歩いていく様子が見えた。よりによってまた面倒なパターンだと思ったが、幸いにも一夏が分かれ道の時に急いで前に進んで気づかれないようにしたため、亡国機業の人間に気づかれなかったので、そのまま突き進んで前にいた亡国機業の人間四人を先に始末する事にした。

 

「なっ、侵入し――」

「気づくのが遅いっ!!」

 

 一夏は声を出そうとした亡国機業の人間を先に殺めるべきと考え、頸動脈を切るようにナイフで切りつけた。

 

「なっ、血で目がっ!?」

「くそっ、近すぎて銃口が定まらない!!」

「私を近づかせた時点で、あなた達の死亡は確定しているよ」

 

 一夏は続けて二人目と三人目を一人目と同じように首をナイフで切りつけて殺害した。この場にいる人間は残り一人だが、その人物は無線で緊急事態たということを伝えようとしていた。しかし、そんな事を一夏が許すはずがなく、背後からナイフを差し込んだ。

 

「侵入者だ!! 逃がすなっ!!」

「ちっ、気づかれたか」

 

 先ほど後回しにしていた亡国機業の人間に一夏が侵入していたことに気づいたようだが、一夏が居る場所は分かれ道の所であったため、即座に視界が入らないように移動した。それからすぐに何発も銃弾を放ってきたが、一夏は気にせずに持っていたピストルを取り出し、マガジンを取り出して別のマガジンに入れ替えた後、様子を見ずに亡国機業の人間が居た方向へ数発放った。

 刹那、突然亡国機業の人間が居た方向で、一夏が放った数と同じ回数の爆発が起こった。

 一夏が先ほど入れ替えたマガジンは特殊な弾丸で、グレネードと同等の火薬を物凄く圧縮させたもので、地面や壁に触れるだけで着火して爆発する、グレネードランチャーのピストル版と言える。まだ試作品の段階で、暴発する恐れがまだ残っているし、何より銃弾を間違えて落としてしまうだけで暴発してしまう可能性が残っているので、試作である今の時点で、誰も好んで使おうと思う人は居なかった。

 しかし一夏はそうなんども使うことはないが、今まで何度かこの銃弾に頼ることがあった。とはいえ、暴発の恐れが残っていることには変わりがないので、一夏はこの銃弾を入れたマガジンは一つしか用意していなかった。

 

「……うん、全員死んでいるね」

 

 一夏は飛び散った肉片や、もはや人間の跡形もない状態であり、たとえ人間の形を残していたとしても意識がないことを確認し、全員殺したであろうことを確認した。

 先ほどの爆発音からして、他の亡国機業の人間に気づかれるだろうが、無闇に時間を伸ばして伝えられるよりは最善たったので、仕方ないと思っていた。とりあえずこの場に居るのはまずいと思い、すぐに目的地へと進んでいくことにしようと、振り返って反対方向に歩いていくが、ある程度歩いたところで立ち止まった。そして突然振り向いたかと思えば先ほど使ったグレネード並みの威力を持つマガジンを取り出して、死体がある方向へ投げた。投げたあと、一夏は全速力で死体から遠ざかっていった――

 そして、マガジンが地面についた直後、マガジンに入っていた銃弾が暴発し、飛び散った肉片から燃えている物もあった。

 一夏がマガジンごと投げ捨てたのは、情報が相手に伝わった際に、対策される可能性があり、持ち歩いていても一夏が危険しかないからだ。そしてなにより、死体の中には飛び散っていない人間の形を維持していた者もあったので、もし生き残っていた場合も考慮して、捨てることにした。

 

「さて、逃げられないうちに、さっさと逃げ道を封鎖しておきましょうか」

 

 その後、本当に死んだか確認せずに、一夏は走りながらも目的地である非常通路へ行くことにした。

 しかし、その後は先ほどの爆発音が聞こえていた亡国機業の人間によって侵入者だと気づかれ、一夏は何度も殺し合う羽目になった――

 

「侵入者を見つけたぞ!!」

「殺されたみんなの敵!!」

「相手は一人だ!! 数で言えばこちらが有利なはずだ!!」

 

 やはり面倒なことになったと一夏はため息を吐きたくなるが、逃げ道がない一本道で前には二桁を越えない程度の敵がいると考えたら、状況的に悪かった。ダクトなどの逃げ道はないかと前を向きながら視線だけを動かして探すが、あったとしても届きにくい場所しかなかった。

 仕方ないと思った一夏は、前でピストルを構えていることに動じることはなく、一言呟いた――

 

「――joker」

 

 一夏が一言呟いた刹那、ほぼ同じタイミングで亡国機業の人間たちが一斉に一夏に向けて放った。銃弾の軌道は一夏に向かっていたが、それらすべてが見覚えのあるシールドによって弾かれていた。

 そう、ISに備わっているシールドエネルギーらしきものによって――

 

「し、シールドエネルギーだとっ!?」

「バカな……ISを部分展開すらしていないのに、どうしてシールドエネルギーがっ!?」

 

 一夏を囲むようにシールドエネルギーが展開されたことに、亡国機業の人間たちは驚いていた。なぜシールドエネルギーが発動したのか理解できず、このままでは一方的に殺されてしまう落ちしか見えなかった。

 そして、亡国機業の人間たちが驚いている中、一夏は表示を変えずに、何も持ってなく、しかも一夏の届く範囲に誰も居ないにも関わらず、突然横に切るかのように振っていた。何をしているのかと疑問に思った亡国機業の人間たちだったが、お腹辺りから足までの感覚が無くなっていることに気がついた。思わず下を向くと、お腹付近で大量の出血をしていて、背中まで出血していた。何が起こったのか咄嗟に理解できなかったが、一夏が無視して先に進み始めた辺りで、何故か体が動かないことでようやく理解した。体を半分に切断されたということに――

 

「い、いやあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「足が動かないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

「動いて……お願いだから動いて」

 

 ようやく現状に気づいた亡国機業の人間たちだったが、絶望の黄色い声が響き渡った。

 そんな様子すら一夏は気にせずに、一つだけ告げて亡国機業の人間たちに更なる地獄にさせた。

 

「たとえ生きていたとしても普通の生活は出来ないでしょうね。あえて殺さないであげるから、地獄のような生活を味わいなさい」

 

 殺された方がどれだけましだったかと思わせるようなことを伝えた一夏は、背後で落ちる音が聞こえてくる中、先へと進んでいった――

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。