IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜買われた少女の物語〜   作:アリヤ

21 / 24
第二十話

 ――フランス某所

 

「全軍に告げる!! この戦いは第二次世界大戦以降、裏で操っていた組織――亡国機業の壊滅が目的だ!! 相手は殺し合いに手慣れている人間ばかりであり、余裕を見ていると足をすくわれるぞ!!」

 

 ドイツ軍中将――ロッテ・ヴァルネファーの命令を聴いているドイツ軍は、全員が彼女をずっと見続け、彼女の言葉を静かに聴きていた。

 銀髪で年齢は二十歳前後という若さで中将に上り詰め、また、美少女と思われるくらい綺麗なため、ドイツ国内で彼女の存在を知らないものはいないくらいだ。ドイツ軍のアイドルと言われているくらいで、ファンクラブが存在するくらいだ。

 若さといえばドイツ軍元帥であるエルマ・ベルクこと織斑一夏もそうだが、エルマはあまり顔出しをすることはしないし、素顔もIS学園で公開してしまったくらいだ。しかし、公開した彼女がエルマ・ベルクだと知る人は一握りで、一部に知られたが世間で騒がれることは無かった。そのため、ロッテ・ヴァルネファーが一段と目立つ形になっていたのだ。

 ロッテ自身としては、階級的には下でありながらクイーンと言われているラウラ・ボーデヴィッヒや、元帥であるエルマ・ベルクの顔を知っているから、自分だけアイドルみたいな扱いをされて、騒がれていることに違和感しかなかった。

 そんなことを思っているロッテだが、ドイツ軍で中将になるまで努力し、今回のような大きな出撃に関しては、殆どロッテが任されることが多かった。

 余談だが、中将まで努力した理由は親友であったクロエ・クロニクルを探すこと。ロッテとクロエは同じ試験管ベビーとして同時期に生まれ、一番仲がよかった。そのクロエが突然行方不明となり、ロッテは即座に嫌な予感がよぎった。元々クロエは越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)の失敗作で、評価的にも平凡という結果なこともあって、ロッテはクロエが処分されたと最初は思いこんでいた。処分命令を下した人物を探すために地位を上げるために努力していたが、中将になってクロエが処分されたわけではなく、行方不明になっていたと知った。最初は隠蔽するための情報だと思ったが、これといって怪しい情報ということはなく、そもそもクロエが所属していた場所が襲撃されたという記録がかなり残っていたので、ロッテは事実だと認めて、クロエの居場所を探すことにした。

 しかし、調べることから探すことに変わったため、中将になったとしてもクロエの居場所を探す時間が掛かってしまうこともあり、現在は上からの命令に従って現状維持することにしていた。これより上を目指そうとすると、全ての命令がイリア・ヴェロフから直接の指示になってしまい、逆に行動に制約が出来てしまうからだ。

 

「今回、フランスに許可を得てフランス国内にいる!! 他国にある組織の襲撃なため、くれぐれも周囲に気をつけるように!!」

 

 ロッテ・ヴァルネファーは今回の任務について詳しく聴かされている。だからこそ疑問に思わないが、一部を除いた今回のドイツ軍は誰もが不思議と思っていたことがある――なぜ、フランス国内にあった亡国機業をドイツに任されているのかということだ。

 普通に考えれば、ドイツ軍ではなく、フランス軍に任せれば良いだけのはずなのだ。にもかかわらず、今回の任務にフランスは誰一人参加や協力する事はなく、ドイツに全て任せているように思えた。

 中には、亡国機業は武器商人をしているから、フランスが黙認しているという可能性を考える人も居て、フランスは世間的(・・・)にISの開発が遅れているから、足手まといとされてドイツが協力を要請しなかったと考える人も居た。

 しかし、これらの理由でフランスが参加していない訳ではなく、フランスはドイツと同様、イリア・ヴェロフによってIS開発がかなり進んでいて、またドイツとは秘密裏に同盟を結んでいた。フランスとドイツはイリア・ヴェロフの指示で動かせる二国であるため、イリア・ヴェロフの指示により、フランスは亡国機業襲撃に関して、あえて参加させないようにさせたのだ。その理由はいくつかあり、今回行おうとしていた作戦プランにも関係していることだった。

 

「それでは任務を開始する!! ヴェルツマルシュ!!」

 

 ロッテの言葉で、ドイツ軍全員が森林の先に微かながら見えている建物へ襲撃していった。

 建物的には自然に囲まれたログハウスだが、これが亡国機業の本部の入り口となっている。亡国機業は今まで普通の住宅や企業に紛れていながら組織として活動していたので、ドイツ軍としては驚くこともなく、ログハウスを囲むように陣形を取った。

 そして先行する軍隊をロッテは見届けようとしたときに、玄関付近を見ていてある違和感に気づいた。玄関付近に監視カメラが二つほど付いていることに最初から気づいていたが、先ほどから動いている気配がなかったのだ。ロッテは先行した部隊から報告を待って状況判断しようとした。

 

『先行部隊、地下への入り口を見つけ、侵入しました!! ですが――』

「どうした? 襲撃でもあったか!!」

『いえ、そういうわけではありません。先ほど入り口の扉を切断して中に突入したまでは良かったのですが、中は真っ暗で人の気配すら感じられないのです!!』

「……そういうことか」

 

 ロッテはようやく監視カメラが動いていない理由が理解できた。亡国機業本部の電源を亡国機業自ら切断させ、暗闇の中で戦闘をしようという考えだったと。建物の構造が詳しいからこそ出来る行動で、このまま送り込んでも不利になるのは目に見えていた。

 また、ロッテはこの時もう一つの可能性についても考えていたため、ここは先行部隊だけで様子を確認してもらうことに命令した。というより、そのもう一つの可能性が高かいと考えたため、先行部隊に任せるような命令にしていた。

 

『……ロッテ中将、どうしましょうか?』

「……いや、先行部隊を先に進ませる。それ以外はこの場で待機だ」

『それはかなり危険のような機がするのですが……』

「その通りだが、私の予測が正しければ問題ないだろう。それよりも、プランFを発令する準備をしておけ」

 

 ロッテからプランFと聴いたドイツ軍は、突然ざわめき始めた。それもそのはずで、プランFは本来任務が終了した際に発令させる予定だったからだ。今回の任務の計画としては確実に実行する事が確定していたものだが、今発令するのはさすがに早すぎだとロッテ以外の誰もが思っていた。

 そしてそれを代表するかのように、あまりにも場違いな一人の幼き少女が、ロッテに異議を唱えた――

 

「ろ、ロッテ中将!! さすがに実行が早すぎです!! どうして今発令をっ!?」

「いや、準備をしておけと言っただけだ。私だって確定してなければ命令を下さない」

「……まさか、既に亡国機業本部には誰も居ないというのですか?」

 

 ロッテと話していた幼き少女――オリヴィア・ヴァラハの予測に、ロッテは思わず笑みが出ていた。そう――ロッテは監視カメラが動いていないことや、亡国機業本部が暗闇になっていることからして、電線を全て切断、もしくは電源の心臓を破壊して、その後本部を捨てて逃げられたとロッテは思っていた。わざわざセキュリティーまで解除させて、暗闇の反撃を亡国機業が考えているとは思えず、時間稼ぎのために電線の切断か電源の心臓を破壊したのではないかと、ロッテは考えていたのだ。

 

「相変わらず察しがいいな、オリヴィア大佐。イリア様のDNAで生まれただけの頭脳はあるか」

「その言い方はやめてと言ってるでしょ。私は失敗作ではあるし、あのラウラ・ボーデヴィッヒよりも評価的には下なのよ。裏事情を知っているとはいえ……」

 

 オリヴィアはイリア・ヴェロフと試験管ベビーで使用しているDNAを合わせて生まれた存在で、肉体的には六歳だが、頭脳や精神的には成人レベルの天才だ。しかし、イリア・ヴェロフのDNAを使っているというのに、ISのコアを作成する事ができず、更に言えばISの機体すら作ることが出来ないという欠陥だった。

 しかし天才だったからなのか、オリヴィアは将来的に有望な人材になるとロッテは思っている。現に今は大佐であるのは、オリヴィアがその場で材料を集めて、生物兵器を作り上げるということが可能で、一軍人としても優秀で暗殺を得意としていた。オリヴィアが持つ部隊も暗殺と工兵を得意した部隊になっており、気づかれないうちに生物兵器を投入して一掃したなんていう話はよく聴くくらいだ。

 またロッテは、イリア・ヴェロフが科学の天才ならば、オリヴィア・ヴァラハは化学の天才と考えていた。ロッテ個人としては、一番敵に回したくないのがオリヴィアで、状況次第ではラウラが率いるシュヴァルツェ・ハーゼが全滅、もしくは相討ちに出来るだろうと思うくらいだった。

 ここまで聴いているとどうして評価がラウラよりも下とされているかと疑問に思えてしまうが、オリヴィアを近くに置くほど、裏切られたときに対処できずに生物兵器で殺されてしまう可能性が物凄く高いからだ。だからこそイリア・ヴェロフはオリヴィアの評価をあえて下げることによって、オリヴィアと直接会うことがない程度の距離に離し、命令はロッテを経由しての連絡という形をとっていた。そのため、オリヴィアはイリア・ヴェロフが居る場所について知っていなかった。

 

「……とにかく、結果によっては私たちの部隊は必要なかったということか」

「その場合、本部を任されていた私たち全員が該当するがな。正直言えば、何か起こって欲しいものだが、わざと情報を流している時点で、逃げられたという可能性は考えられたからな。そのためのプランFでもあるからな」

『ロッテ中将!! 報告がありますっ!!』

 

 ロッテとオリヴィアが会話していると、先行部隊から連絡があった。ロッテはすぐに対応して、先行部隊からの報告を聴いた。

 

『現在、管制室らしき場所に到着したのですが、やはり人の姿はありません』

「ほかの場所は?」

『地図が解らないので、正確なことは言えませんが、今の所人の気配すら感じられず――』

「電源室などは見つけているか?」

『はい。現在部隊を分散させて行動していまして、電源室のような部屋を別部隊見つけましたが、非常電源の電線から全て切断されていまして……』

「……了解した。多分逃げられているだろうし、時間稼ぎと情報漏洩しないために電線ごと切ったのでしょうけど、引き続き捜索をお願いする」

『わかりました!!』

 

 通話が切れたことを確認したあと、ロッテは想定通りだとため息を吐きながら思った。元々、今回の亡国機業襲撃は本部襲撃がメインではなく、スコールが居る支店がメインなのは知っていた。だからこそ本部に襲撃がやってくるという情報を漏らしたし、イリア・ヴェロフ率いる組織が相手となれば逃げられてしまうことも予想ついた内容だった。スコールのが居る組織さえ潰せてしまえば、亡国機業なんて簡単につぶせてしまうから――

 

「で、結局誰も居なかったと」

「確定ではないけど、おそらくそうでしょうね……」

「なら私たちの部隊帰っていい? やることないから」

「解らなくないけど、先行部隊に何かあった場合のことを考えて残って。とにかく、私は全部隊に連絡してプランFの実行命令をする」

「……まぁ、そうなるか。こうなったら仕方ないし、とりあえず了解した」

 

 正直言えば、プランFの実行だけはしたくないというオリヴィアの気持ちがあった。このプランFはイリア・ヴェロフが考えたものだが、よくこのようなことを平然と出来ると、生物兵器を扱えるオリヴィアだからこそ、イリア・ヴェロフが誰よりも恐ろしい人物だと思えた。少数を犠牲にして多額の利益を得ようとこの亡国機業襲撃作戦内でしようとしているのだから。

 

「これよりプランFを開始する。計画した通りの内容で実行しろっ!! 犠牲者は最小限に抑え、亡国機業幹部を見つけた場合は即座に殺害しろっ!!」

 

 そして、ロッテはそのプランFを本部襲撃を任されていないフランスにいるドイツの部隊に命令を下すのだった。この作戦は世界で大問題になるようなことだが、今回それが目的であるため、仕方ないことだとロッテやオリヴィアなどの幹部は思っていた。

 その数秒後、ドイツ軍によるフランス国内を閉じこめるような作戦――プランFが実行されるのだった――

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。