IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜買われた少女の物語〜   作:アリヤ

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ってなわけで始まってしまった亡国機業編……の前に行間的な何か。




亡国機業・襲撃編
第十七話 episode of memories ラウラ・ボ―デヴィッヒ


 ラウラの人生は生まれた時から今に致までほとんどが、救われない世の中に生きていた。

 ラウラの生まれ方は遺伝子強化試験体として産み出された試験管ベビーで、親という人物は居なかった。強いて言えば、遺伝子強化試験体の研究員が実質的な親だったのかもしれない。

 そんなラウラだが、物心ついた時から扱いは酷かった。戦うための道具として、ありとあらゆる兵器の操縦方法や戦略等を強制的に体得させられた。

 当時のラウラは何がなんでも覚える事や努力する事には惜しまなかったが、それにはある理由があった。

ラウラと同じように試験管ベビーで、成績があまりにも酷かった人間は当然のごとく廃棄されていった。そしてその廃棄される光景は、ある程度操縦方法や戦略について教えられた後に、ラウラと同じように生まれた試験管ベビーが廃棄という名の圧殺を見せられた。既に死ぬや殺されるというものが教えられているため、ラウラを含めその光景を見ていた試験管ベビーたちは絶望し、その後研究員によって出来損ないの末路だと伝えられた。そうならないためにも誰もが努力するようになっていった。

 その中でもラウラは優秀な成績を残していて、研究員からは可愛がられ、ラウラと同じ試験管ベビーはラウラを恨み、虐めを行うようになっていった。誰もが気に入られたいように努力し、努力しなければ廃棄されると知っているからこそ、気に入られているラウラへの虐めが発生したのだ。

 しかし、そんな虐めなんてラウラは気にしなかった。何故ならばそれは自分が誰よりも優秀であるが故にされることで、劣る者たちの八つ当たりに過ぎなかったからだ。そんなに気に入られたいなら限界を超えるほどまでに努力すればいいだけだとラウラは思っていた。実際、ラウラがここまで上り詰めるまでに何度も失敗し、それでも挫けずに自分の限界を超えるという意気込みで努力したからこその結果なのだ。だからこそ、そういう虐めをしている者に対しては、見下すようにラウラは見ていた。ラウラと同じように限界まで努力し続けたような人間は、ラウラ以外に存在するし、その中にはラウラと同じように虐めを受けて、泣き崩れた人もいたが、それでも努力することを続けていた。そしてラウラも努力することを続け、優秀な軍人として生きていくと心に誓っていた。

 しかし、たった一人の兵器によって、ラウラの人生は一変してしまった。

 

 そう――篠ノ之束によるISという兵器の登場だ。

 

 ISの操縦というものはIS適性というもので決まり、今までの努力だけでは誰もが使いこなせる兵器ではなかった。しかも、ISは女性しか扱えないという問題があり、試験管ベビーで男性の場合は優秀な人間だけを残し、後は全て廃棄させられる始末だった。

 また、女性しか扱えないという事もあり、逆に女性の試験管ベビーは優秀な人間を除いて誰もが喜んでいた。IS適性が高ければ、巻き返せるチャンスがあったからだ。

 そして即座に、女性の試験管ベビーは全員IS適性があるかの確認が行われ、もちろんラウラも含まれていた。

 その結果、最高位のAランクから最下位のFランクある内のDランク。Fランクは事実上、ISの使用不可能という意味なため、IS使える中でも最下位となってしまった。ラウラはもちろん落胆したが、ラウラを気に入っていた研究員たちも期待から絶望に落とされたくらいだ。しかし、ラウラを含め優秀な試験管ベビーたちをただの兵士として扱うのはさすがに勿体ないと感じたのか、IS適性を上げるためにある手段を用いられた。

 それが、現在ラウラが眼帯で隠している左目――越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)だ。

 しかし、ラウラは越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)ですら適合が失敗し、さらに言えば左目が金色に変色するということが起こった。不適合だけであれば問題なかったのだが、不適合によって能力が制御出来なくなり、その後の訓練は全て基準以下の成績になってしまったとい、出来損ないの刻印が押されてしまった。そのラウラの一軒以降、成績優秀な試験管ベビーから越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)を適合させるという手段は中止し、基準以下である試験管ベビーのみを対象とするようになった。ラウラのような成績優秀が越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)の不適合による失敗で人材を勿体ないことにさせるのは割に合わないからの判断だった。出来損ないと言われたラウラだが、廃棄させられるという事はなく、研究員たちはラウラがまた実力を取り戻してくれるのではないかという少々期待していたからだ。既にこのときのラウラは何もかも諦めていて、努力したところで無駄だと精神的に参り、存在意義を無くしていた。

 

 それから数年経過し、第2回モンド・グロッソが行われた年に、ドイツにとって吉報が回ってきた。第1回モンド・グロッソの優勝者――織斑千冬の弟である織斑春十が誘拐されたという情報を仕入れたのだ。その情報を織斑千冬本人に伝えることによって、見返りとしてドイツで教官として教えて欲しいと思ったのだ。

 そしてその思惑通り、織斑千冬はドイツで教鞭することになり、主にラウラが所属している部隊の教官をお願いした。その時にラウラが所属していた部隊は出来損ないが集められる部隊となっていて、大半の人間が努力を諦めていた部隊でもあった。千冬に教わり、少しでも使える人間を増やしたいというドイツの思惑からだった。もし千冬に教わって駄目であれば、普通に入隊した人間ならば軍を止めさせ、試験管ベビーなら廃棄するつもりで、ラウラも後者の中に含まれていた。

 しかし千冬が教官として教えた結果、ドイツとしても想像以上の結果をもたらした。たった一年で、その部隊全員を最強部隊と言われるまでに千冬は成長させたのだ。中でもラウラはその部隊の中でもって実力を上げ、千冬が日本に戻ったときには少佐まで上り詰め、自身の部隊であるシュヴァルツェ・ハーゼを持つまでに至った。千冬の教鞭によって再度努力するようになった結果だった。

 これにはドイツ軍全体でも衝撃的で、千冬が任期を終えて日本に戻ることになった際は、千冬にドイツでの教官を続けて欲しいとドイツ軍全体でお願いしたくらいだ。それほどまでに千冬が残した影響は強く、軍の上層部自らが日本風の土下座をするくらいにお願いしたくらいだ。

 しかし何度もお願いしても、結局千冬は日本に戻ることになったが、ドイツ軍の活気は以前より活気に満ちていた。

 だが、その活気も一人の人物がドイツを指揮する事によって大きく変化してしまった――

 

 そう――イリヤ・ヴェロフがドイツに来たことによって――

 

 イリヤ・ヴェロフが来て直後、ドイツはイリヤ・ヴェロフの指示の元に動くようになっていた。普通、何もせずにそこまで上り詰める事は不可能だが、彼はたった一人を除いて誰もが造れない物を造ることが出来た。

 それが、篠ノ之束しか造れないと言われたISの心臓であるISコアと、現在の常識を覆すかのようなIS兵器だ。

 イリヤ・ヴェロフはそれらを提供する変わりに、ドイツ軍の指揮権を得ようとしたのだ。もちろんそれに反対する者も表れたが、現在その反対していた人間は誰も残っていない。何故ならばイリヤ・ヴェロフのお気に入りで、F5268と呼ばれ、現在のドイツ軍の元帥で、エルマ・ベルクという偽名で通っている少女――織斑一夏に暗殺されたからだ。

 その結果、ほぼ強制的にドイツ軍はイリヤ・ヴェロフの指示の下で動くようになった。

 とはいえ、イリヤ・ヴェロフが最初の頃に行った事と言えば、越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)の適合率を百パーセントにすることを確立させ、試験管ベビーの見直しを行った程度だ。前者はそのままの意味だが、後者に関しては廃棄されることを止めさせた。一々廃棄されること自体が無駄で、廃棄する度に費用が掛かってしまうことを問題視し、その代わりの案を提案したからだ。それが、人体実験による大量の薬の投与だ。イリヤ・ヴェロフがドイツを眼につけたのは遺伝子強化試験体で、今までは孤児を人体実験として使っていたが、遺伝子強化試験体を使えば一々孤児を探す必要はないからだ。

 とはいえ、試験管ベビーの廃棄処分が完全になくなった訳ではなかった。ドイツが行っていた、恐怖心を植え付けることによって努力させるという考え方には、イリヤ・ヴェロフも賛同し、試験管ベビーが新たに作られる度に一度だけ行う形となっていた。

 

 話を聴いている限り、その時のラウラに被害がさほど無さそうに見えるだろうが、ここからがラウラをまた振り回される出来事になる話だ。

 ある日、ラウラは副隊長であるクラリッサ・ハルフォーフの二人だけである任務を受けた。任務内容はこれといって難易度が高いような任務ではなく、一日あれば終わるような内容だった。

 その任務が終えた翌日、シュヴァルツェ・ハーゼのメンバー全員を集めた定例会が行われる予定だったが、ラウラとクラリッサを除いた人間全員が何時もと違った。全員眼が死んでいるようで、中には涎が垂れているものも居た。

 それをみた、ラウラとクラリッサは直ぐに異常を感じ取り、即座に上層部に問い合わせた。問い合わせたところ、実行したイリヤ・ヴェロフ本人が答えるとなり、シュヴァルツェ・ハーゼのメンバー全員に何をしたのか怒鳴りながら問いただした。

 

『何って、簡単なことだよ。現在、成績優秀ではない試験管ベビーに投与している薬を投与させただけだ』

 

 その言葉を聴いたとき、ラウラは思わずイリヤ・ヴェロフの襟首を掴んだくらいだった。ラウラにとって、シュヴァルツェ・ハーゼという部隊の隊長に上り詰めるまで、かなり苦労していた。シュヴァルツェ・ハーゼという部隊に任命された後も、あまり部隊のメンバーと他愛もないような会話をしたことはなかったが、それでもシュヴァルツェ・ハーゼという部隊全員をラウラは密かに考えていた。それを目の前にいるイリヤ・ヴェロフはたった一つの薬を投与させただけで無茶苦茶にさせられたのだ。

 しかし、襟首を捕まれているというのに、イリヤ・ヴェロフは冷静に返した。

 

『……いいのか、あいつ等を生かすも殺すも私の命令次第で動かせるのだぞ』

 

 それを聴いて、ラウラは即座に襟首を掴んでいた手を離し、イリヤ・ヴェロフから少し離れた。それ以降はラウラとクラリッサの問いに答えるだけの会話となり、最終的にはシュヴァルツェ・ハーゼという部隊は残す形となった。とはいえ、このときのイリヤ・ヴェロフはまともに部隊として動かないだろうと予測していたが、シュヴァルツェ・ハーゼのメンバー全員がラウラとクラリッサの命令だけには従ったのだ。これにはイリヤ・ヴェロフも予想外の展開で、ラウラとクラリッサに人望が凄かったのか驚いたくらいだった。

 

 その後のラウラだが、誰よりも努力するようになった。その理由はシュヴァルツェ・ハーゼをこれ以上好き勝手にさせないためで、そのためには自分が更なる実力をあげないと駄目だと思ったからだ。特にIS操作に関しては、 経験と実力をかなりつけるようにして、場合によっては別部隊で参加して成果をかなり残した事もあった。

 しかし、なかなかうまく行かずに挫折してしまう時が一度だけあった。このままでは駄目だとラウラは理解しているのに、思うようにいかなかった時期があった。その時にラウラに声を掛けたのが聞こえ偶然通りがかった織斑一夏だった――

 このときのラウラは一夏がイリヤ・ヴェロフのお気に入りだと知っていたし、最初は貶しに来たのかと思ったが、一夏は無表情で話し始めたのだ。

 

『……ヴェロフ様に破壊されたというのに、あなたはよく頑張るわね。何があなたをそうさせるの?』

『貴様には解らないだろうな。だが、私もそうだった。教官とシュヴァルツェ・ハーゼの部隊長を任させるまで、私は貴様と同じようにただ上の指示に従っていれば良いと思っていた。だが、感情を持ってしまうと、誰かを護りたいと思う気持ちになっていた』

『誰かを護りたい気持ち……か』

『そうだ。だから貴様やイリヤ・ヴェロフなどに屈するつもりは毛頭ない!! 貴様等に見せてやる、これが私だということを!!』

 

 このときラウラは再度決意した。上から見下している奴らを絶対に蹴落とし、自分が護れるだけの力を手に入れると――

 その話を聴いた一夏は相も変わらず無表情であったが、何かを思いついたのかラウラにある提案を始めた。

 

『私にはよく解らない事だけど、なんだか気になったわ。そこで提案だけど、私があなたを強くしてあげるわ』

『……はい?』

 

 このときラウラは一夏から言われた意味が最初理解できなかったが、最終的には一夏による強化特訓を受ける事になった。その特訓の時に見た一夏の隙のない綺麗な戦い方を見て、後にラウラは一夏の事をお姉さまと呼ぶようになったが、ちなみにその呼び方を考えたのはクラリッサだったりする。なんでも、日本のサブカルチャーを知った言葉とか……

 とにかく、一夏から特訓を受けた後、ラウラはたった一人で対立組織を潰せてしまう程の実力を持つようになり、表向きには少佐だが、クイーンと呼ばれる立場まで上り詰める事ができた。そしてそれが現在へ繋がり、途中で知り合ったテュノア姉妹と仲良くするようになっていったのだ――

 




読んで気付いた人もいるでしょう。端折りすぎではないかと。



本当に申し訳ございません!!

12月の中旬ごろの活動報告で言いましたが、私としても納得いっていないです。

どうしてこのような形になってしまったのかと言いますと、
一話で話を収めるためにセリフなどをかなり省略しまして、地の文多めの内容になってしまったこと。

そして、その省略前の内容で書くとおよそ4話分まで使ってしまうこと。

この話であまり時間をかけたくなかったという事もありまして、苦肉の策としてこうなってしまいました。

完全版につきましては、タイミングがあったときに投稿しようと思います。

本当にすみませんでした。

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