IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜買われた少女の物語〜   作:アリヤ

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第十五話

「ちっ、危惧していたことがやはり起こってしまったか……っ!!」

 

 VTシステムの発動を確認した一夏は、起こって欲しくないことが起こってしまい、思わず舌打ちをしてしまった。想定内のことではあるが、起こらずに済むのであれば簡単に終わらせることができた。

 一夏は周りを一度見渡した。どうやら異変に気づいた、もしくはVTシステムが発動したことに気づいた国賓席の人たちは即座に避難していて、観客席にいた生徒たちも教師たちの指示の従って避難を始めていて、最終的に一夏のみとなっていた。これも一夏としては予想していた範囲で、おかげで対処するのに邪魔が入らないで済んだ。

 

「さぁ、始めましょうか」

 

 

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「これは……まさかVTシステムだとっ!?」

 

 織斑春十は突然ラウラの機体が黒いものに覆われたのを見て、予想もしていなかった。

 先ほどまでラウラが手加減し始めたと思ったら、今度はVTシステムときた。ラウラが何かを叫ぼうとしていた事からしてラウラとしても予想外なことだったんだろう。

 

「……もしかして、あいつの機体が操作を受け付けなくなっていたのは……」

 

 VTシステムを無理やり組み込まれ、それによる障害ではないかと春十は考えた。正確な原因は機体を調べなければ解らないが、その可能性は一番考えられた。そう考えると、よくそのような状態で戦い続けようと思ったものだと春十は思わず感心してしまった。

 

「さて、さっさと止め……なっ!?」

 

 春十が鋼螺を動かして鋼閃で攻撃を与えようと考えたが、VTシステムによる機体の変化に思わず驚いてしまった。春十が驚くのもその筈で、変化した姿はかの有名なISの姿をしていたのだから――

 第一回モンド・グロッソの優勝で、ブリュンヒルデと呼ばれている、姉である織斑千冬の機体――暮桜にそっくりになっていたのだから――

 

「……てめぇ、俺の前で姉さんの機体を真似するなんて、良い度胸しているじゃねぇかっ!!」

 

 ――織斑春十は表情に出して怒ることは少ない。基本的に人に対して怒ったときは表面上に出すことはせず、他人に任して仕返しする行為を今までしてきた。

 しかし、そんな任せる人はIS学園に存在しないし、そもそもその怒り相手はVTシステムによる機体だ。VTシステムを組み込んだ人物に対して仕返しするという考え方でもあったが、そこにたどり着くまでに時間を要してしまうことは想像でき、割に合わないくらいだ。

 まぁ、それ以前に春十が仕返ししようとしていた人物たちは、既にこの世には存在しないが――

 

「……ぶっ殺す。姉さんを侮辱した貴様は絶対に――」

「それはやめて貰おうかな? これはドイツの問題なので」

「っ!? 誰だ!?」

 

 突如女性らしき人物の声が聞こえ、春十は辺りを見渡すが、何処にも声を発してきたと思われる人物は見つからなかった。

 

「ここよ、織斑春十。君が乗っている機体の右肩付近にいるよ」

「なっ!? どうやってそんなところに!?」

 

 春十から見て右上側を見ると、アルビノの髪をした同年代くらいの少女が宙に座っていた……いや、正確には少女が座っている部分に展開されているシールドエネルギーに座っていた。

 シールドエネルギーが展開されていようと、別に攻撃を受けているわけでないからダメージを受けているわけではないが、今までシールドエネルギーに乗って座るなんていう、ふざけた行為をする人間がいると、春十は思いもしなかった。

 しかしそれよりも、その座っている少女――織斑一夏が先ほど言った内容の事の方が気になった。

 

「ドイツの問題って、どういう事だ」

「私はラウラ・ボーデヴィッヒと同じで、ドイツの軍人だからよ。VTシステムは反逆者共がシュヴァルツェア・レーゲンに仕組んだことによるものでね。それで私はVTシステムを止めにきたわけ」

「……ふざけるな。あれは俺の獲物だ。邪魔するならたとえお前でも――」

「別に誰が倒すことは、私も気にしていないよ。けど、そう言っていられる時間もなくてね。一、二分の間にVTシステムを止めなければ、中にいるラウラが死ぬ」

「なっ!?」

 

 一、二分で死ぬと言われ、春十は驚いた。VTシステムは時間が経過すると操縦者を殺してしまうことは知っていたが、そこまで猶予がないとは思わなかった。

 

「一、二分で確実にVTシステムを止められるというなら別だが、そうでなければ邪魔よ」

「くっ、そこまで言うのであれば、君は確実に止められるというのか?」

「ないならそんなことは言わないわ」

 

 春十のシールドエネルギーは残り僅かで、一撃でも受けたらVTシステムを止めることすら出来なくなる。それに、一、二分の間で確実に倒せるかという点でも

それ以上の時間を要してしまう事も考えられた。

 一年前なら無視して止めにいっただろうが、天才だろうと全てが出来るわけではないということは、IS学園に来てから思い知らされたし、そのおかげで冷静に判断する事が出来た。最も、傲慢なところは性格故に抜け切れていなかったりするが――

 

「さて、そろそろ対処しないと不味い。君はさっさと安全な場所に逃げなさい」

「……一体、何するつもりなんだ」

 

 一夏は鋼螺から飛び降りて、春十に背中を向けながら言った。春十は一夏が一体何をしようとしているのか気になり、その場から逃げようとはしなかった。

 

「簡単な事よ。相手が暮桜の機体を真似ているならば、こちらも真似(・・)すれば良いわ」

「っ!? お前まさかっ!?」

 

 春十が何かに感づいたようだが、一夏は気にせずにVTシステムへ突き進んだ。その途中で、一夏は自信のISを右腕から右手にかけて部分展開させ、一つの刀を展開させた。その刀は春十にとって覚えがある刀であり、姉である千冬の専用機であった暮桜の武器と、ほぼ似ていた――

 

「――零落白夜改」

 

 一夏が言うと、持っていた刀は青白く光り始め、そのままの状態で突っ込んだ。

 しかしVTシステムも静観しているわけでもなかった。一夏が近づいていることに気づくと、一夏を倒そうと攻撃を仕掛けてきた。一夏にとっては予想通りの攻撃で、攻撃が当たるという寸前で避けるという芸当みたいなことを見せた。寸前で避ける方法は確実に攻撃を回避するために使う方法で、確実に一夏の攻撃を当てるために使った。時間の猶予があればこんな危険な方法は取りたくないが、仕方ない手段だった。

 もちろん、VTシステムがこれだけで終わるわけがない。次々に一夏へと攻撃を仕掛け、一夏はそれらを全て寸前で避ける。避けることを寸前にすることによって、多少ではあるが相手の次の攻撃を遅らせる事が出来る。たとえ相手が機械のみで操縦していようが、避けるタイミングが遅いほどその遅らせた分だけ、次の攻撃を考え始める時間も遅くなるということだ。

 

「……ラウラ、今すぐ助けるから」

 

 そして一夏は、VTシステムの目の前にたどり着くと、一閃を振るった――

 零落白夜改は千冬の専用機、暮桜の武器である零落白夜の改良版だ。零落白夜の弱点であるシールドエネルギーの消費を完全に無くし、それ以外の変更点はないが、これによってシールドエネルギーを気にする必要はなくなった。零落白夜であった頃はシールドエネルギーを消費して相手のシールドエネルギーを零にする、諸刃の剣と言われていたが、シールドエネルギーの消費が無いというだけで、相手にとってはかなりの脅威になるだろう――

 そして案の定、ラウラの包み込んだVTシステムは零落白夜改の一閃を受けただけで機能が停止し、元のシュヴァルツェア・レーゲンの形に戻っていった――

 

「…………」

 

 一夏は無言でラウラをシュヴァルツェア・レーゲンから取り出し、お姫様抱っこをする持ち方をして、アリーナを後にしようとした。

 

「おい、ちょっと待てよ」

 

 このまま誰にも声をかけられずに出られると思っていた一夏だが、まだアリーナにいた人物――春十から声をかけられた。

 正直なところ、一夏は春十に話しかけた時から、春十を殺したい衝動を抑えていたくらいだ。唯でさえ自分から話しかけるだけで虫唾が走るというのに、これ以上話していたら殺しかねない。だから何も言わずに立ち去ろうとしていたのだが、その春十から話しかけられたおかげで計画が崩れてしまった。

 このまま無視して居なくなることも考えたが、IS使って突っ込んできたら面倒なので、仕方なく振り向いた。

 

「……なに、さっさと私は離れたいのだけど」

「……なぜ零落白夜を使っている。あれは姉さんの――」

「それを私に聴かれても困る。私が作ったISでないし、私はこのISを軍から配備されて使用しているだけに過ぎない。作った本人にでも聴いてくれ」

 

 実際、一夏も零落白夜改が搭載されているのか知らない。造ったのはイリヤ・ヴェロフで、なぜ搭載したということを一夏は一度も質問したことがない。というより、質問したところでくだらない返答が返ってきそうな点と、一夏自身がどうでも良いと思っていたからという二つの理由が大きかった。これから質問しようとも思わないし、質問したところで時間の無駄をするだけだと一夏は考えていた。

 

「話はそれだけ? なら私は行きたいのだけど」

「なら一つだけ、お前は何者だ」

「……ドイツ軍の元帥をしている――ということだけを言っておきましょうか」

 

 話し終えると、一夏はラウラを連れてアリーナを後にした――

 

 

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「で、弟の次は姉ですか……」

 

 アリーナを後にして歩いていると、今度は教師をしていて、春十の姉にあたる人物――織斑千冬が待ち伏せをしていた。

 

「……ドイツ軍元帥、エルマ・ベルクだな。確認したいことがある」

「……あぁ、更織楯無から聴いたのですね」

 

 何故自分の偽名を知っているのだろうかと一夏――もとい、エルマ・ベルクは思うが、楯無から聴いたのだろうと納得した。

 楯無からVTシステムの事を聴いた千冬はVTシステムが発動後、偶然にも楯無と遭遇していた。そのときに再度情報源について問いただす……という名の権限を使って、誰から情報を知ったのか聴いていた。

 その結果、国賓として来ていたドイツ軍の元帥、エルマ・ベルクだと知った。その時にはVTシステムを止めようとしていたエルマ・ベルクの姿が見えたので、VTシステムを片づけ終えた所を、千冬が待ち伏せしていたわけだ。

 

「それで話というのは?」

「VTシステムがラウラ・ボーデヴィッヒの機体に組み込まれていたのか、詳細を聴いてもよろしいか?」

「そのことですか……ドイツにあった違法研究所が危うくなったところ、最後の足掻きとしてシュヴァルツェア・レーゲンにVTシステムを組み込んだらしいです。その情報を知ったのは昨日の夕方です」

 

 正確にはもう少し前に知っていたが、本当のことを言えば何故IS学園に伝えていなかったのかと問われてしまうからだ。昨日の夕方と言っておけば、こちらに来る準備が手続きなどで報告が遅れたことによって伝えられなかったと、多少の言い訳は出来るし、当日だとドイツの情報が他国に遅いと思われてしまう。だからこそ、前日にVTシステムが組み込まれている事を伝えておけば、一夏――エルマ・ベルクのミスという形で収められるからだ。

 

「……その事をラウラには?」

「……大会を楽しみにしていたようでしたので、水を差したくないと思いまして」

「あのラウラが?」

「あのラウラが、です」

 

 千冬はドイツで教導していた事もあって、ラウラの経歴をある程度は知っているし、ラウラの性格なども把握している。だからこそ、ラウラが試合を楽しみにしていたということが想像できず、一夏の言葉を聴いて思わず笑みを浮かべるほどだった。

 

「……これからのことですが、シュヴァルツェア・レーゲンに異常がないか確認するために、ラウラを二週間ほどドイツに帰国させてもよろしいでしょうか」

「それなら、別に機体だけでも構わないだろう。それに、IS学園の生徒である間はどの国にも属さないことは分かっているはずだ」

「その事を含めてお願いしています。どの道、シュヴァルツェア・レーゲンの異常確認が終えた際、ラウラを一度帰国させなければなりません。わざわざ私たちがIS学園に来て確認するという方法でも問題はないですが、もし他に異常が残っていたとしたら再度IS学園に来るという手間をしなければなりません」

「しかし……」

「それに、ラウラの健康状態についても確認しないと行けませんし、丁度私が日本に来ているので、このままドイツに連れて行くべきかと思いまして……」

 

 もしこれでも否定されるのであれば、最終手段を使うまでだと一夏は考えていた。正直なところ使いたくない手段で、IS学園からあまり良くないように思われてしまうからだ。しかし、IS学園の教師たちがそこまで融通が効かないと思っていなかったので、丁度千冬が居たからついでにラウラを一時帰国させる話をした。

 しかし、今考えると失敗したと一夏思っていた。元姉だからこそ解るが、融通があまり効かず、校則だからという理由で否定される可能性が考えられたからだ。過ぎたことは仕方ないと思い、とりあえず千冬の返答を待つことにした。

 

「……わかった。一度ラウラを帰国させることを許そう。学園側には私から報告しておく」

「あ、ありがとうございます。それでは私はこれで失礼します」

「……最後に一つだけいいか」

 

 一度礼をして、一夏がラウラを連れて歩き始めたところで、千冬に声をかけられたので足を止めた。まだ話すことはあるのだろうかと思いながら、一夏は千冬の言葉を待った。

 

「……ラウラは、昔より笑うようになったか? さっきの話を聴いている限り、良くなったと私は思ったが」

「……えぇ、笑うようになりましたよ。それではこれで」

 

 正直言えば嘘だ。千冬がドイツに教導していた頃より酷くなっているが、一夏は言わなかった。

 それから一夏は再度歩き始め、ラウラの意識が回復させるために、一夏が拠点にしている場所へと向かって行くのだった――

 


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